in side

 まぁ、色々とあったものの、あの後は何事も無くノーディスに到着した俺達。
うん、車とかって楽だよねぇ。歩きで2・3時間の道のりが、数十分で着くんだもん。
改めて、そのありがたさを知った気がしたよ。で、現在はタカハシさんとフィオさん他数名と一緒にノーディスを歩いている。
ちなみにレッドスプライト号は町から離れた場所に止めることになった。
町の近くに止めると騒ぎになるとスカアハが言ったからだけど。
まぁ、それに関してはタカハシさん達も納得している。タカハシさん達も余計な問題を起こしたく無かったみたいだしな。
 で、そのタカハシさん達はといえば、町をキョロキョロと見ている。なんか、驚いているようにも見えるけど。
「あの、ここでは悪魔もいるのですか?」
「ん? ああ、ここで生活してる悪魔もいますしね」
「悪魔が……かい?」
 フィオさんに聞かれたんで答えたら、タカハシさんが戸惑っていたけど……
ま、初めて見れば、普通は驚くか。ていうか、俺も驚いたしな。
 それはそれとして、リョカさんのお店で食事をすることにした。
そこでリョカさんの事などを知って、タカハシさん達はまた驚いてたけど。
「ここは……不思議な世界だな」
「ええ……シュバルツバースでは大半の悪魔が人間を虐げ、支配しようとしていましたから……
それから考えると、この世界は確かに不思議です……ですが、シュバルツバースでも少なかったとはいえ、私達を助けてくれた悪魔もいます。
それを考えれば、これもある意味当たり前だったのかもしれません」
 タカハシさんのつぶやきにフィオさんがうなずいてるけど……どうやら、シュバルツバースではかなり大変だったようだ。
しっかし、どんなことがあったんだろ? レッドスプライト号の中じゃ、簡単にしか聞けてなかったしな。
ていうか、聞いていいんだろうか? 詳しく聞くのはまずそうな気がするんだけど……
「あ、ええと……これからどうするんですか?」
「そうだな……しばらく、この町を含めて、ボルテクス界を調べて見たいが……君達が言う異世界のことも見ておきたいんだ。
なので、協力をしてもらえると助かるのだが――」
「あ〜、ええと……いいのかな?」
「さてな……今後をどうするかもまだ決まってはいないが……かといって、気軽にあちこち行けるというわけでもない。
しばらくは私達の探索に付き合ってもらうことになりそうだが……構わないかな?」
「ええ、あなた方の目的を考えるなら、その方が良いでしょう」
 思わず聞いてしまうとスカアハは腕を組みつつ答えていた。それを聞いたフィオさんがうなずいていたけど――
いいんだろうか、それで? ちょっと位ならネギや士郎達の世界に行ってもいいような気がするけど。
そんなことを考えてるとリョカさんが料理を運んできてくれて、その料理の味にタカハシさん達はまたもや驚いていたりした。


 out side

「アーサー、ちょっといいかな?」
「あ、ハヤトでしたか……ええ、構いません」
 真夜中……フィオが返事をすると、ノックをして問い掛けたタカハシが部屋へと入ってきた。
食事の後に明日もボルテクス界を案内してもらうことを翔太達と約束し、別れたタカハシ達はレッドスプライト号に戻っていた。
その自室でフィオは自分達の世界にある国連への報告書を作成していたのだが――
「翔太君のこと、どう思う?」
「悪い子では無いですね。それとたぶんですが……かなり思い悩んでいると思います。ですが、それも致し方ないでしょう」
 フィオの返事に、問い掛けたタカハシはうなずいていた。
まだ、あって間もないために、翔太がどういった人物かはわからないが……少なくとも悪人では無いと2人とも考えている。
その一方でメムアレフと戦うことになっていることに、2人は心を痛めていた。
聞く限りでは翔太は明らかに被害者だ。偶然ボルテクス界に来てしまったのはしょうがないにしても、それ以外は相手の勘違い。
それでも翔太が関わらなければ、問題は無かったのかもしれない。
しかし、翔太達が話すゴスロリの少女のせいで関わらなければならなくなり――
結果として、深い所まで関わってしまうこととなってしまった。すでに無関係でいることが出来ない位に……
 このことに関して、タカハシとフィオは心を痛めていた。自分達が付けなければいけなかった、メムアレフとの決着。
それが何の関係も無い青年がしなければならなくなってしまった。彼に掛けられた呪いのせいで……
翔太に掛けられた呪いは、メムアレフが起こした事件を鍵として掛けられている。
その為、翔太自身がメムアレフが起こした事件を解決せねば、その呪いが解けることは無い。
だから、タカハシ達がメムアレフを倒して……ということが出来なくなってしまった。
そうしなければ、翔太は一生呪いにさいなまれることとなるのだから……
 そういったこともあるのだろう……だが、翔太はそれ以外にも思い悩んでいると2人は見ていた。
その推察は当っている。リィナの犠牲に目の辺りにしてしまった多くの人間の死……特にリィナのことで、翔太は思い悩んでいた。
結果的に助かったように見えるリィナだが、別の見方をすれば人では無くなってしまったとも言える。
そのことで翔太は自分がどうにかしていればと思ってしまうのだ。
むろん、考えすぎなのだが、翔太としてはそうとしか思えなかったのである。
 それにメムアレフに関する様々な事実を突きつけられたというのも大きい。
ただのラスボス的な者だと思っていたら、世界すらも創ってしまう存在……そのことに戸惑い、軽いながらも怯えてしまったのである。
まぁ、メムアレフに関してはそう思う方が普通だろう。むしろ、まだ軽い方と言える。
だが、リィナの事や多くの人の死のことも重なったことで、翔太は大きく悩むこととなってしまった。
 これは今まで上手く行きすぎた弊害とも言えるが……
元々一般人である翔太にそういった事実を突きつけることは、彼の何かを壊すことになりかねなかった。
それを危惧したシンジが、徐々に慣れさせるという意味で助力をしていたのだが……
予想外のことがあったとはいえ、今回は弊害という悪い形で出しまったのだ。
「それになんとかした方がいいでしょう……彼の立場はあまりにも危うすぎる」
 フィオの漏らした言葉に、タカハシはうなずいていた。
翔太はかなり深い所まで関わっているが、それ以上に持っている物が厄介であった。
世界の羅針盤と宇宙の卵は今はこちらで預かっているとはいえ、彼の仲魔達はほぼ一級品の力を持つ者ばかり。
それに異世界を渡り歩き、数々の強敵と戦ってきたという経験や知識……
自分達の国連が翔太のことを知れば、国連へ招こうと考えるかもしれない。
それだけならばいいが、下手をすれば拘束されて……などという、あって欲しく無い事態にもなりかねなかった。
それを防ぐ為に、フィオは翔太をボルテクス界で出会った案内人として報告することにしたが……
「私達はこういうことを起こさないためにも、今まで色々とやってきたはずなのにな」
 どこか遠くを見るような顔を見せながら、タカハシはそんなことを漏らす。
シュバルツバースでは意見の違いがあったとはいえ、結果的には仲間だった者達と戦い……その命を奪ってしまった。
タカハシ達はそういった犠牲を出さないために今までいろんなことをしてきたのだが……
「ええ……だからこそ、彼がそうならないためにも、私達がなんとかしなければなりません」
「そう……だな」
 真剣な眼差しでフィオはそう言い聞かせる。翔太を助けるのは、まだ間に合うはず。
そのはずなのだというフィオの心にタカハシは勇気付けられ、微笑みを浮かべながらうなずくのだった。


 in side

 タカハシさん達と別れた俺達は家に戻って、軽い夕食を済ませて――
「お〜い、用ってなんだ?」
 で、俺はというと家のガレージに来ていたりする。
というのも、スカアハが2人きりで話したいことがあるって言われて、ここに来いって言われたからなんだよね。
なので行ってみると、そこには背中を向けるスカアハの姿があったんだが……どうしたんだろ?
今日はなにやら様子がおかしかったみたいだし――
「来たか……ちょっと待て……これでいい」
 スカアハが振り向くと何かをした……って、あれ? なんか、ガレージが変な雰囲気に――
「何かしたのか?」
「ちょっとした結界だ。他の者には聞かれるとマズイこともあるのでな」
 聞いてみると、なんか自嘲気味な笑みを浮かべながら、そんなことを言われました。
いや、聞かれるとマズイって……どんなこと話すつもりさ?
「まずは……昨日は色々とあって聞けなかったが……昨日のことで悩んでいるな?」
 スカアハの話を聞いて、思わず体が強張った。確かに気にしちゃいる。
だって、リィナはヴァルキュリアと合体しなけりゃ助からなかったとはいえ、あんなことになったのは俺に責任があるしな。
あの時は色々と考えてしまって気付かなかったけど……なんで、俺を助けてくれたのかもわからなかったし……
それに捕まっていた人達もそうだが、融合させられた人達も完全にとは行かないだろうけど、助けられたはずなんだ。
そう……そのはずだったんだ……
「気にするなとは言わんさ。だが、そういうこともあるというのは心に留めておけ。
どうにかしたくても、どうしようも無いことがあるということはな」
 スカアハに言われて、俺は拳を握りしめていた。
そうなのかもしれない。漫画とかでも、そういう場面があったのは事実だしな。
けど、それで納得出来るかと言われれば……出来ないと言った方がいい……だって――
「それにお前にはもっと残酷な事実が起きようとしているのだからな」
「へ?」
 そこまで考えた時、スカアハがそんなことを言い出すけど……残酷な事実?
おいおい、勘弁してくれよ。これ以上は流石に……
「何があるってんだ……」
「私はもう……長くは無い」
「……は?」
 嫌な予感しかしなかったが、一応聞いてみて……スカアハの返事に呆然と……はい?
長く……無い? 誰が? スカアハが? どういうことだよ!?
「おい、それってどういう……おおい!?」
 訳がわからず、それでも聞こうとして……スカアハがコートを脱ぎ、水着のような服まで脱ぎだしたことに驚く。
ていうか、なんで脱ぐの!? そっちもわけわかんないんだけど!?
「な、何を……って、はい!?」
 混乱してると、スカアハの髪が燃えるような紅からエメラルドグリーンへと変わる。
そして、表情もどことなく優しくなったようにも見えた。
「これが私の本来の姿……いや、私には元々姿など、あって無いようなものだがな。そして、ヴォルフィードが、私の本当の名だ」
「あ、え、あ……いや、なんで裸? ていうか、ヴォルフィード?」
「視線が下に行ってるぞ……ま、いいがな」
 いきなりのことに、もう混乱が止まりません。ていうか、毛が生えて無いんですね。
うん、ごめん……ていうか、女性の裸をまじまじと見るのは初めてでして……そっちに意識が行っちゃうんです。
というか、なんで脱いだんだろうか? で、スカアハさん……ヴォルフィードと呼んだ方がいいのだろうか?
で、ヴォルフィードはといえば、見られてるはずなのに自嘲気味な笑みを浮かべるばかりである。
「私は……ある世界を守る神だった。終わりが見えない戦いを魔王としながらな。
だが、ある時……魔王の策に嵌ってな……このままでやられると思った私は……差し違える覚悟で突っ込んでいった。
結果は……魔王ごと世界を滅ぼしてしまったよ……守るはずだった世界を……な」
 どこか悲しい目をしながら、ヴォルフィードは話していたが……そのことになんと言えばいいか、わからなくなる。
いや、だって……どんな戦いだったのかはわからないし……魔王と戦ってたっていうから、相当凄そうだとは思うけど。
けど、守るべき物を自分で壊してしまったというのは……凄く悲しいことだと思うから……だから、何を言ったらいいのかわからない。
「私は……完全に絶望していたよ。自分の手で守るべき物を滅ぼしてしまったのだからな。
それに私もそれによって命が消えかけ……後はただ消えていくのを待つだけだった……あいつが現れるまでは……」
「あいつ?」
「シンジだよ……」
 話を聞いて首を傾げるが、スカアハは自嘲気味な笑みで答えてくれたが……なんでそこで、そいつが現れる?
「あいつは私にお前の師となり、手助けするようにと言ってきたが……最初は断った。
守るべき世界を滅ぼしてしまった私には、そのような資格など無かったからな。だが――」

「だからですよ。あなたは運命の呪いに滅ぼされようとしている者を見捨てるおつもりなので?」

「そう言われると……私はお前を見捨てることが出来なかった。
自分がそうしてしまったことで、私は滅びという物を嫌悪していたんだと思う。
だから……だから、見ず知らずのお前を見捨てることが出来なかったのだ。例え、自分が知らぬ所にいたとしてもな」
 先程とは代わり、悲しそうな顔をするヴォルフィードだったが……
シンジ……それはある意味、脅迫じゃないのか? しかも、人の心の傷を抉るような……
今更だが、シンジがまともじゃないことに気付かされたよ。
「しかし、なんとかしたくても……私は死にかけた身……すぐにでも消える存在だった。
そこでシンジはある者に私を憑依させ、更には力を与えることにより、私をスカアハとして存在させたのだ」
「ちょ、ちょいと待った……ある者って……それって――」
 ヴォルフィードの話に右手を向けつつ、思わず考えてしまう。
というのも、今の話で思いついたのはリィナと同じような――
「リィナのことを考えているのなら、違うと言っておこう。私が離れれば、その者は解放されるようになっているからな」
 なんてことを言うヴォルフィードだが……なぜか、安心出来ない。
ていうか、ヴォルフィードをこんなにしたのが、あのシンジだからな。何か起きてもおかしくないと思うんだけど。
「しかし、それでも……私の命が消え続けるのは止められない……それにあのアスラとの戦いで使った魔法が決定的だったようだ。
まだ大丈夫だと思っていたが……今日になって、その影響が出始めたよ」
 遠くを見るような目をどこかに向けながら、ヴォルフィードはそんなことを言い出した。て、待てよ?
「あ、いや……シンジに頼めば、なんとかしてもらえるんじゃないのか?」
 そんなことを思いついて、話してみる。あのシンジなら、それくらい出来そうな気がしたからだ。
しかし、ヴォルフィードは首を横に振っていた。
「あの時……私が自分が消えていなくなるまでに、お前を独り立ち出来るようにするつもりだった。
守るべき世界を滅ぼしてしまった私が……のうのうと生きているわけにはいかないと思ってもいたからな。
それに私のような存在は契約は絶対的な物だ……覆すことは出来ない。それも……今となっては後悔しているがな」
 今にも泣きそうな顔をしながら、ヴォルフィードは答えていたけど……後悔? 後悔って……え?
この時、何が起きたのか……一瞬、理解出来なかった。ヴォルフィードに抱きつかれたことなんて――
「お前は……お前はいつまでもお前であり続けようとした……私にはそれが眩しくて……羨ましかった……
だから、惹かれてしまったのかもしれない……でも……でも……もう、私は……」
 気が付けば、ヴォルフィードは泣いていた。スカアハの……ヴォルフィードの気持ちは気付いていたつもりだった。
けど……ここまでとは思ってもいなくて……だから、どうしていいのかがわからなくなる。
助けたいとは思っている。だけど、俺にそれが――
「ん――」
 気が付けば、ヴォルフィードの唇が、俺の唇に触れていた。
突然のことに俺は動けず……その口付けを受けるしか出来ずにいた。
「すまない……だが、消える前に……お前との思い出を少しでも作っておきたかったから……」
 しばらくして、ヴォルフィードは顔を赤くしながら離れてくれたが……
俺はというと、ただ呆然とうなずくしか出来なかった。というのもね……あれ、俺のファーストキスだったりするんですけど?
「と、ともかく……色々と思うことはあるだろう……でも……それでも、お前はお前であって欲しい。
それと……お前に頼みたいことがある」
「た、頼み?」
 ヴォルフィードの話になんとか正気に戻れたが……頼みって、なんだよ?
「私が消えた後……この体の持ち主を助けてやって欲しい。この体の持ち主も……罪に苦しむ者だから……もっとも、それは罪では無いのだがな」
 両手を胸に当てながら、ヴォルフィードは答えた。どこか、自嘲気味な笑みも交えて……
けど、罪って……いったい……それに罪では無いってのは何さ?
「私は……最後までお前を見守ることが出来ない……でも……お前はお前であって欲しい。それが……私の最後の願いだ」
「あ……」
 髪の色が紅に戻り、服を着直したヴォルフィード……スカアハは、その言葉と共に再びキスをしてきた。
しかも、今度は舌まで入ってきて……俺はただ、されるがままにそれを受け入れる。
というか、もう頭が真っ白なんですけど……
「ふ……本当なら、お前に全てを捧げたかったのだがな……だから、せめて……これくらいは許してくれ……」
 その言葉を残して、スカアハは部屋へと戻っていく。それと共にガレージが何かから解き放たれたような気配を感じたが……
俺はしばらく動けなかった。キスのこともあったが……スカアハがいなくなる……そのことにどうすればいいのか、考えてしまった為に……


 次の日、俺達は約束もあって、タカハシさん達の元へ向かっていた。
スカアハとの話のことは……誰にも話していない。今は……話しちゃいけないような気がしたから……
もっとも、寝る時に理華と美希、ミュウに睨まれてたけど……まさか、気付いてないよね?
 それはそれとして、レッドスプライト号に乗り込んで――
「や、待っておりましたよ」
「何してんだ、てめぇはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 そこで我が物顔でイスに座るシンジを発見して、思わず詰め寄ってしまった。
この野郎、優雅にコーヒーなんて飲んでるんじゃねぇよ!?
 ちなみにこの時は気付かなかったが、タカハシさんとフィオさんは戸惑っていたらしい。
なんでも、俺達が来るまでシンジのことにまったく気付いていなかったそうなのだ。
まぁ、こいつが神出鬼没なのは、今に始まったことじゃないけどな。
「あ、あの……彼は……」
「あいつがシンジだ……で、何の用だ?」
「彼が……あの?」
 戸惑うタカハシさんに、腕を組んで答えるスカアハ。
フィオさんは少し驚いたような顔をシンジに向けてたけどな。
「おい、まさか厄介ごとじゃないだろうな? こっちは一杯一杯なんだぞ!?
リィナのこととか、ヴォルフィードのこととか!?」
「ヴォルフィード?」
「話は聞いておりますが……翔太さんは私がチートの類だと思われてるようですけど、私もなんでも出来るというわけではないんですよ?
それに、タカハシさん達をあなた方と問題無く合流させるために、まったく動けない状態でもあったんですから。
まぁ、後の話はいずれするとしまして……緊急事態です。今すぐ、新たに現れた世界の穴に向かってもらいます」
 思わず叫んでしまったが、首を傾げる理華をよそに、シンジはそんなことを言い出した。
いや、待て。文句はまだあるんだけど? ていうか、緊急事態!? やっぱり、厄介ごとじゃねぇか!?
「どういうことだ?」
「実を言いますと……新しく世界の穴が出来るのは想定外でしてね。なぜ、そのようなことが起きたのかを調べる必要が出来たんです。
しかしながら、今の状況は時間的にも余裕はありません。なので、今回は私も同行いたします」
 首を傾げるスカアハに、シンジは珍しく真面目な顔付きで話していたが……いや、それってどういうことよ?
「あの……どういうことなのだ?」
「メムアレフの目的を考えるなら、これ以上別の世界への穴を開ける必要は無いはずなのです。
なので、今回の事は私も考えておりませんでしたので、正直驚いているのですよ」
 右手を挙げる美希にシンジは真剣な顔付きで答えるが……本気で待てよ?
「あのさ……なんでこれ以上、別の世界の穴を開ける必要が無いって言えるんだよ?」
「そうですね……もう、お話してもいいでしょう。
メムアレフは世界の崩壊で得られるエネルギーと共に、3つの世界の力を欲していたのです。
幻想郷の信仰の力。麻帆良の世界樹の魔力。そして、聖杯……これらを使って、新たな世界を創ろうとしていたようです。
別な言い方をすれば……その3つがあれば、その3つの世界以外に行く必要が無いとも言えます。
しかし、メムアレフは新たな世界へと穴を開けてしまった……
これは推測なのですが……幻想郷が崩壊の運命から解き放たれた為に、その代用となる世界に侵攻しようしているのかもしれません。
もし、そうなら……今までの苦労が水の泡になる可能性がありますからね。急ぐためにも、今回は私が同行することにしたのですよ」
 思わず聞いてしまったのだが……シンジの話に頭を抱えてしまいそうになる。
なんでこう、次から次へと問題が起きるんだよ。
でも、シンジが一緒に来るっていうのなら……大丈夫……なわけないか?
「そういうわけですので、急ぎ向かって欲しいのですが?」
「あ、いや……しかし……」
「ああ、国連の方には話を付けておりますので、ご心配なさらずに」
 戸惑うタカハシさんに、そんなことを言い出したシンジはにこやかにそんなことを言ってるけど……
お前、国連に何をしたんだ? なにか、嫌な予感がするんだけど?
「あ、あの……シンジさんって……」
「ああいう奴だよ……」
 戸惑っているフィオさんに、呆れながらそう答えておく。
それでもフィオさんは戸惑ってたけど……まったく、本気でどうなるんだか……


 で、ノーディスの近くに揚陸艇を調査兼通信用に1台残し、2台でその穴へと向かうことになった。
だって、タカハシさん達の世界から文章のみの通信で、シンジに従うように書かれていたしな。
タカハシさん達は戸惑ってたけど……シンジ、お前絶対にチートだろ?
 そんなこともあったが、無事穴の近くにたどり着く事が出来た。
ちなみに場所的には士郎達の世界の穴から、少し離れた場所にあったりする。
「さてと……まずは私が行ってみます。安全が確認出来ましたら合図をしますので、それまでここでお待ちください」
「あ、あの……大丈夫……なのですか?」
「いや、絶対に大丈夫だと思う」
「そうだよなぁ……」
 にこやかに話すシンジにタカハシさんは戸惑ってるが……それを見ていた俺の意見にクー・フーリンうなずいてくれる。
うん、絶対に大丈夫だって。こいつが簡単に死ぬ……ていうか、死ぬのかあいつ?
「彼は……何者なのですか?」
「チートだな」
 フィオさんが戸惑いながら聞いてきたので答えておく。更に困らせる結果になったけど……
その後、シンジは同行すると言い出したタカハシさん達を言葉巧みに留まらせ、穴へと入っていった。
さて、次の世界は……また、アニメや漫画の類じゃ無いよな?


 out side

 林と思われる場所に1人の女の子がいた。その女の子の肩には、フェレットと思われる小動物がいる。
そして、その少女の前には……1匹の猫がいた。こう聞けば、微笑ましい雰囲気にも思える。
しかし、少女の顔は引きつっている。というのも……
「お、おっきい……」
 そう、大きいのだ……猫が……そう、猫がありえないほどの大きさだったのだ。
なのはよりも……というか、なのはを簡単に踏みつぶせそうなくらいに大きかった。
「なのは、早く!」
「あ、うん! セットアーップ!」
 フェレットが人の言葉で声を掛けたことでなのはと呼ばれた少女は正気を取り戻すと、
ポケットからビー玉くらいの大きさの赤い宝玉を出し、掛け声を上げながらその宝玉を掲げ――
『セットアップ!』
 宝玉から機械的な声が聞こえると、なのはは光に包まれ――
光が消えると、そこにはどこか制服を思わせるような衣装を纏ったなのはがいた。
そして、どこに持っていたのか、杖を巨大な猫に向けて――
「な、なによこれ!? それになのは!? あんたのそれも何!?」
「え? あ、アリサちゃん!? それにすずかちゃんも!?」
 いきなり声が聞こえた為になのはは顔を向けると、そこには彼女の親友である2人の少女がいた。
それと共に見られたと気付いたなのはは、思わず混乱しかけるが――
「おやおや、これはまた騒がしい時に来ちゃいましたかね?」
「にゃ!?」
 その巨大な猫の足下に青年が現れたことに更に驚いてしまった。
「ダメです!? そこから逃げてぇ!?」
「ユーノ君が……しゃべった?」
 そのことになのはの肩にいる、ユーノと呼ばれたフェレットが叫ぶ。
そのことに思わずその名を漏らしながら、鮮やかな紫に輝く長い髪の少女であるすずかが驚いているが――
「あ――」
 巨大な猫が青年を踏み潰さんばかりに前足を降ろそうとしていた。
なのはが手を伸ばそうとするが、すでに間に合わない――
「へ?」
 のだが、その光景にブロンドの長い髪の少女、アリサは呆然としてしまう。それはなのは達も同じであった。
なぜなら、巨大な猫の前足は見えない何かに阻まれ、青年を踏み潰すことが無かったのだから――
「やれやれ」
 で、青年がため息を漏らしながら指を鳴らすと、ポンという軽い音と共に巨大な猫が消え――
代わりに子猫と四角錐を上下に2つ合わせたような形の青い宝石が落ちてきて、青年はその2つを受け止めていた。
「ダメですよ、おいたをしては。それにしても、これがメムアレフさんの目的なんですかね?」
 子猫を撫でながら、そんなことを言い聞かせ……その後に宝石を眺めながら、青年はそんなことを漏らし――
「それで、なんのご用ですか?」
 そんなことを言いながら、空へと顔を向ける。
なのは達も釣られて顔を向けると、そこには2つの人影があった。
1人はブロンドの髪をツインテールにし、なぜかレオタードのような衣装にマントを纏った少女。
その手には斧のようにも見える杖を持っていた。
もう1人は桃色に近い長い髪を持ち、なぜか獣の耳としっぽを持つ、若い女性。
着ている服も胸を覆っているのと短パン。他はマントのような物に指空きのグローブに靴くらいである。
「魔導師!?」
「ジュエルシードを……渡してください」
 ユーノが驚く中、ツインテールの少女がそんなことを言い出すのだが――
「ジュエルシードとは、これのことですか? ん〜……なるほど、これなら――」
「ごちゃごちゃ言わずにさっさと渡しな!?」
 青年は猫を抱えながら、ジュエルシードと呼ばれた宝石を眺めていたが……その間に間合いを詰めていた桃色の髪の女性が殴り掛かり――
「へ?」
 空振りしたことに、思わず目を見開いてしまう。
避けられたのではない。いないのだ……そこにいたはずの青年が……
そのことに女性は思わず辺りを見回してしまう。見逃すはずがなかった。目の前にいたはずの者を見逃すはずなんて――
「まったく、言うこと聞かないなら力尽くなんて、どこのヤンキーですか?」
「え、な!?」
 しかし、背後から声が聞こえ、女性が慌てて振り向くと、そこには先程の青年がいた。
そのことに女性は驚きを隠せない。いつの間にそこにいたというのか……だけど――
その青年の背後から、ツインテールの少女が先端から鎌のように黄色い光の刃が伸びる斧のような杖を構えながら突っ込んできていた。
少女は見えなかった青年の動きを警戒し、早く倒した方がいいと判断したのだ。
それを見た女性も青年が逃げられないように魔法を使おうとし――
「え?」
「は?」
 少女と見つめ合う形となったことに間抜けな顔をさらすはめとなってしまった。
というのも、少女の鎌は何も無い空間を薙いでいた。そう、何も無い空間を……
またしても青年が消えたことに、女性は使おうとした魔法を取りやめて辺りを見回し――
「ふむ、これなら時間を大幅に短縮出来そうですね。申し訳ありませんが、これはあなた達の物でしょうか?」
「く!」
 少し離れた場所でジュエルシードを眺めていた青年がそんなことを問い掛けてくる。
それを見た少女は再び襲いかかろうとするが――
「あう!?」
「ふぇ、フェイト!?」
 なぜか、地面に倒れ込んでしまう。そのことに女性は驚くが……この時、少女が持っていた杖の刃も消えていた。
「な、なんで?」
「なるほど……純粋な魔力の運用ですか……だから、干渉しやすいのですね」
 戸惑う少女に答えるかのように、青年はそんなことを漏らしていた。
このことに女性は青年を睨む。なんだかわからないが、青年はヤバイと感じたのだ。
「あんた、何者なんだい!?」
「ああ、これは私としたことが……失礼いたしました」
 女性の叫びに青年は猫を降ろしてから、謝りながら優雅に頭を下げ――
「私の名はアオイ シンジ……今は通りすがりのお節介好きな小悪党……と、お答えしておきましょう」
 頭を上げながら名乗る青年ことシンジ。その直後、シンジの背後でレッドスプライト号が姿を現していた。
「な、なにあれ……」
 その事態に呆然としてしまうなのはや少女達。
しかし、思わず呟いてしまったアリサやすずかは、なぜか嬉しそうにも見えていたのだった。
 一方、レッドスプライト号の中では――
「またか……またなのかよ……」
「あ、あの……彼はどうしたんだい?」
「いつものことですから、気にしないでください」
 モニターごしになのは達の姿を見て、両手と両膝を床に付けて落ち込む翔太。
その姿にタカハシは戸惑うが、理華は呆れた様子でため息を吐くのだった。


 悲しくも優しい物語が起るはずだった『海鳴市』――
しかし、それは『黒き勇者』が関わったことで変化が訪れる。
その変化は何をもたらすのか――



 あとがき
翔太達と出会ったタカハシ達は、翔太達の状況に心を痛め――
翔太もまたスカアハのことで新たに思い悩むこととなりました。
そんな中で新たな世界……果たして、この世界ではどうなってしまうのか?

というわけで、お待たせしました。なのはの世界にようやく到着です。
ちなみに当初はStrikerSの予定でしたが、一期の方にいたしました。
理由は……まぁ、思い付きだったりするのですがね。
ちなみにこの世界での主人公は実はシンジだったりします。
彼はこの世界で何をするのか? そして、ジュエルシードをどうするのか?
そこら辺をお楽しみに〜……と、行きたい所ですが、次回は久々に幕間編です。

平和を取り戻した幻想郷と、未だ悪魔の魔の手が伸びる麻帆良。
その2つの世界では何があったのか……そんなお話です。
次回もお色気シーンがあるかも(おい)というわけで、お楽しみに〜



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