out side

 その頃、レッドスプライト号の外で刹那は1人立っていた。といっても、不安そうな顔でうつむかせてではあったが。
見ようによっては思い詰めているようにも見える。実際、刹那はあることで思い詰めていた。
「せっちゃん……あの、どうしたん?」
 そこにネギと明日菜と共にやってきた木乃香が刹那を見つけて声を掛けた。
最初は刹那の様子に声を掛けるべきか悩んだのだが、気になってしまって思わず声を掛けてしまう。
それに気付いた刹那は不安そうな表情のままで顔を向けていた。
「このちゃん……あ、なんて言えばいいんやろ……」
「もしかして、翔太さんのこと?」
 何か言いにくそうにしている刹那に木乃香は思わず問い掛けてしまう。
実を言えば木乃香も不安であった。刹那が翔太に対して想いを抱いているのは気付いている。
そのことで刹那は自分から離れてしまうのではないかと考えてしまい、もしそうなってしまったらと考えると怖くもなっていた。
それに対し、刹那は京都弁混じりの言葉を返しつつも再びうつむいてしまう。
「それも……確かにあるんやけど……今はこのちゃんを守りきれるか不安なんよ」
「え?」
「それって、どういうこと?」
 不安混じりの声で答える刹那。しかし、その答えが意外だったのか木乃香は驚きの表情を見せた。
それはネギや明日菜も同じであり、明日菜にいたっては思わず聞き返してしまうほどだった。
「あっと……実は今日の話で気付いたんです。もしかしたら、この麻帆良が戦場になってしまうかもしれないと」
「ええぇ!? どうしてですか!?」
「アシェラトさんが話していたでしょう? 世界樹の魔力を狙っていたと。
だとすれば、まだ狙われていると思っていいでしょう。世界樹の魔力が麻帆良祭の最終日に一番高まりますから。
もし、そうなら……その時は相手は本腰を入れるかもしれません。それこそ多くの悪魔が麻帆良に来るかもしれません。
失礼なのは承知で言ってしまうとネギ先生達だけでなく、麻帆良にいる魔法使い達はボルテクス界の悪魔との戦闘をあまりしておりません。
それにみなさんも感じたでしょう? アシェラトさんの力を? もしかしたら、それ以上の者がくるかもしれないんです。
こんな状況でそんなことになったらと考えたら――」
 戸惑うネギの疑問に京都弁混じりで話していたのに気付いた刹那が口調を戻しつつも答えた。
一方で木乃香達は戸惑いの色を浮かべていたが、それと共に気付いてしまったのである。刹那の言ったことがありえることに。
確かにアスラがアシェラトになった時に感じた力は以前とは比べものにならない程であった。それこそ、ネギ達が恐怖を感じて動けなくなる程に。
そのアシェラトを従えている者はそれ以上の力を持っていると考えてもいい。また、アシェラト以上の力を持つ者が他にもいる可能性もある。
その辺りは後で確認しなければならないが、それも考えられるとなるとどうするかが問題になってくる。
理由としてはボルテクス界の悪魔にまともに戦えるのが真名、刹那のみ。次点でエヴァ、楓、さよ、高畑くらいだからだ。
なぜそうなるかといえば、この世界とボルテクス界の悪魔の性質の違いによるものだ。
ボルテクス界の悪魔は種族にもよるが持っている耐性や魔法、スキルがこの世界の魔法使い達には厄介になりえる。
下手をすれば一撃で死亡すらありえるのだ。この世界の悪魔も強いことは強いが、その強さとは違った力だけに対処に困る。
一応、少数ずつに分けて刹那や真名、エヴァらを交えてボルテクス界の悪魔との戦闘を経験させたりしているが――
学園長もこのことで色々と対策は考えてはいるものの、それがどこまで有効かは微妙な所だった。
 というのも次の問題がボルテクス界の悪魔がどれ程の数でやってくるかであるからだ。
強力な悪魔――それこそ神か魔王クラスが1体だけでも厳しいのだ。それは前回のアシェラト戦でのネギ達の反応を見ればわかると思う。
それだけでも厳しいのにボルテクス界の悪魔が群れとなって来る可能性もある。そうなれば麻帆良側は苦しい状況になるだろう。
むろん、その時は翔太達も戦うだろうが、だからといって頼り切るわけにもいかない。そのことが刹那にとっては不安だったのである。
 そんな刹那の不安を聞いたネギ達はうつむき、何も言えなくなってしまった。
実際の所、ネギ達は弱いというわけではない。エヴァなどの指導により着実に実力は付けていっている。
問題なのはまだ未熟だということだろう。実力もそうだがボルテクス界の悪魔も含めて戦闘の経験が圧倒的に不足している。
先日、ヘルマン襲撃を学園長やエヴァらが見逃したのも、ネギに可能な限り戦闘の経験を積ませる為だった。
なので、勝ち負けは二の次だったとも言える。もし、危うくなったのなら助けに入るのも考慮していたのだから。
それに関してはわからなくないのだが、やり方に問題が無いかと聞かれれば首を傾げることになるだろう。
まず、不確定要素に対する対策があまりにも甘すぎたのがある。ヘルマンはその昔、ネギの生まれ故郷である村を襲撃していた。
それを目の当たりにしていたネギはトラウマを刺激され、あわや自爆する可能性もあったのだ。
この時はアシェラトの登場などでうやむやになったが、もしそうならなかったらそれがどのような影響を及ぼすか――
学園長やエヴァらはなぜこのような対応をするのか? それはネギの心境をある意味無視しているからだろう。
学園長やエヴァらは無意識に英雄の息子としてネギを見ていた。英雄の息子なのだから、それにふさわしいようになれるようにと。
それがこのような対応となって現れたのかもしれない。
 話が逸れてしまったが、これはネギ達だけでなく麻帆良全体の問題でもあった。
当然だろう。まさか、ネギ達だけに戦わせるわけにもいかない。なまじ、麻帆良の防衛ということを考えるのなら。
しかし、麻帆良にいる魔法使い達もボルテクス界の悪魔との戦闘経験は無いに等しい。一部には1度も戦ったことが無い魔法使いもいる。
それを考えると刹那の言うこともあながち的外れでは無いのだ。
「あ〜……なんか、余計に疲れた――って、あれ? なにしてんの?」
「あ、翔太さん。あ、あの……実は――」
 そこへ翔太が疲れた顔をしながらエヴァ達と共に戻ってくる。ちなみにエヴァは元の幼い姿に戻っているが。
そのことに刹那は嫌な予感――なにか、遅れを取ってしまったような物を感じながら、先程のことを話した。
その話にエヴァや真名、楓に千鶴達は難しい顔をしてしまう。千鶴、アキラ、裕奈らは自分達の未熟さを感じてのことだった。
エヴァによって訓練こそ受けてはいるが、本格的な戦闘の経験はまだ無いのだ。
エヴァ、真名、楓らはボルテクス界の悪魔にもそれなりにではあるが戦える。が、それで安心していい訳でもない。
むしろ、守る物が近くにある分だけ自分達が不利になることもありえるだけに悩んでしまうのだ。
そんな中で翔太はといえば――
「いや、やるだけやってみるしかないんじゃないの?」
 あっさりとした様子で返していたりする。
「は、え、あ? あ、あの、いいんですか、そんなので?」
「そう言ってもね。何がどうなるかなんて、その時になってみないとわからないしな。
それに良く考えると俺も流されっぱだし。特にシンジとかに――」
 戸惑う刹那に翔太は頭を掻きつつそう返した。実際の所、翔太も行き当たりばったりな行動が目立つ。
元から人が対処出来るようなものではない出来事ばかりというのもあるが、翔太が元々一般人であることが大きいだろう。
本来なら翔太はこのようなことをする人間では無い。我々が知る普通の高校生のような生活を送っていたはずなのだ。
それがある偶然からいくつもの世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれた。翔太としては逃げ出したい事態に放り込まれたのだ。
実際、翔太は逃げれるなら逃げていただろう。そうしなかったのは逃げ出せない状況にされてしまったにすぎない。
 少し話が逸れたが、元々一般人である翔太がこのような事態の対処法を持つわけが無かった。
故に基本的に行き当たりばったりな行動に走ってしまうのである。
もし、シンジの助力が無ければ、翔太は窮地に追い込まれるだけでは済まなかっただろう。
翔太としてはそれはわかるのだが、いいように使われてるような感じもして腹正しい面もあるが。
で、話を聞いた刹那は思わず納得した。確かに良く思い出せば翔太の行動は流されるままのような気がする。
それに詳しくは聞いてはいないが、自分達と別れて行動している間にも苦しい出来事があったらしい。
それでも折れずに翔太はこうしていることに刹那は安堵していた。
翔太が経験したことは自分なら折れていたかもしれない。でも、翔太なら乗り越えられる。
数週間とはいえ一緒にいた刹那はそんな気がしてならなかったのだ。
そう、刹那の安堵はその気持ちから。だからこそ、自分は翔太に――
「そういえば、なぜエヴァさんや真名達と戻ってきたのですか?」
「え? あ〜、そこで一緒になって――」
「なに、一緒に風呂に入っただけさ」
「……翔太さん?」
 ふと、あることに気付いて問い掛ける刹那だが、翔太はそれを誤魔化そうとして真名が真実を語ってしまった。
そのことに睨んでくる刹那。翔太は顔を引きつらせているが、内心真名に馬鹿野郎と叫びたい気持ちに駆られていたが。
ちなみにそれ以外の者達はといえば、真名の発言に目を丸くしていた。
しかも、いけない考えがよぎっていたりするのだが、そちらは一部を除いてほぼその通りのことが行われていたりする。
「なんというか、気付いたら入ってきてだね。どうしたもんかと、はい?」
 でも、何か言わねばと半ば言い訳に近いことを話そうとした所で翔太はあることに気付いた。
自分の右足に何かがくっついて来たのだ。なんだろうと顔を向け――
「あれ? 確かココネ、だよな?」
 自分の右足に褐色の肌の少女であるココネが抱きついていることに気付いた。また、その後ろには苦笑いの美空もいる。
そのことに翔太は首を傾げた。ココネに会ったのは一度きり。その時はこれといったことはしてない。
が、ココネはそう思っていなかった。翔太との出会いにより、幻想郷にいるフランドールと仲良くなった。
今では美空と共に時折幻想郷に行き、フランドールと遊んでいる。また、そこでたまに来るチルノや大妖精、リグルやミスチーとも仲良くなっていた。
リグルやミスチーは誰かというのは機会があったら紹介するが、一応2人とも妖怪であるということだけは伝えておく。
ちなみに一緒に行くことになる美空は最初こそ吸血鬼や妖怪に恐れていた。
が、対応を間違えなければ大丈夫だとわかった今では一緒になって遊ぶようになっている。
 ともかく、それらの出会いによってココネの中で変化が現れていた。
普段は感情を見せない彼女がわずかずつではあるが感情を見せるようになったのだ。
そのことに保護者でもあるシスターシャークティは吸血鬼や妖怪らと遊ぶことに若干困った顔をするが、内心は喜んでいたりする。
ココネもまた本心から楽しんでおり、その機会を与えてくれた翔太に感謝していたのだ。
それでいつかはお礼をと考えていて、翔太が来ていることを知って駆け付けたのである。
そんなココネの心境を知らない翔太は困った様子を見せていたが、一方で刹那や真名、エヴァに千鶴、アキラに裕奈は危機感を抱いていた。
なんかこう、フラグ的なものを感じたのである。ちなみにアシェラトとケルベロスは楽しそうに見ていたのだが。
ともかく、このままではとマズイと思い、エヴァが2人を離させようとして――
「翔太君! 大変だ!」
「はい?」
 慌てた様子で駆け寄ってくるタカハシに翔太は首を傾げるはめとなった。
しかし、次に出たタカハシの言葉に慌ててレッドスプライト号に乗り込むはめとなるのだが。


 in site

 さて、レッドスプライト号に乗り込んだ俺達は中にいた理華達と合流してブリッジにやってきた。
で、その中にあるデッカイモニターにはある街並が映し出されていた。といっても、ボルテクス界にあるノーディスなんだけど。
まぁ、そのノーディス自体に何かが変わったようには見えない。でも、明らかにおかしな点があった。
何があったのか? 実は映像はノーディスを全体的に見渡せるような感じで映し出されてるんだけど――
映像から見て左側に俺が知る限りでは無いはずの物が映し出されてたんだよ。いや、物つっていいのかわからないんだが。
どういうことかって? 実は――
「ねぇ……あれって、村……かな?」
 理華が疑問の声を漏らすけど、俺にもそうとしか見えなかった。
寂れた……というのは言い方が悪いかもしれないけど、そんな感じの村があるんだよ。
うん、ノーディスの周りにあんなのは無かったはずだし。じゃあ、あれってなんだろ?
「これはノーディス付近で待機している揚陸艦からの映像なんだが、数分前に現れたらしい。これがその時の映像だ」
 タカハシさんがそう言うと別のモニターにノーディスの街並が映った。
さっきと違うのは横にあの村が無かったんだが……映像が出て少しすると村が現れる様子が映し出される。
なんかこう、にじみ出るような感じ? と、言えばいいのかわからないけど、そんな風に出てきてるんだよ。
「今、あの村に関してノーディスのサマナー協会と協力して調査をしているんだが――」
「あ、あれは……」
 タカハシさんがそのことを説明しようとした時、なにやら驚いたって声が聞こえてくる。
振り向いてみるとキャナルが信じられないって顔でモニターを見ていた。
「ど、どうかしたの?」
「あの村は……間違い、ありません……私が罪に問われるまで、神の教えを説いていた村です」
 聞いてみたらキャナルからとんでもない話が出てきました。
どゆこと? キャナルがいた世界の村がノーディスの横に現れたってこと? なんで、そんなこと起きてるわけ?
キャナルの話を聞いてから、俺は再びモニターを見ることになったんだが――この時、本気で嫌な予感しかしなかった。
だって、キャナルが受けた仕打ちを考えるとな。いいことに思えないんだけど?
この時、俺は本気で願ってしまった。厄介ごとにならないようにと。うん、無理だろうけどね。




 あとがき
そんなわけで新たな問題発生。ノーディスのそばに現れた村はキャナルが以前世話をしていた所だった。
なぜ、そんな村がノーディスのそばに現れたのか? それは次回にて。

さて、今回は拍手へのお返事を。他作品はまだですか? というご質問。
え〜正直言いますと……しばらくの間、デビルサマナーを中心に進めていこうかと考えております。
理由としてはここ最近、書く為のテンション維持が難しくなったことでしょうか。
完全に愚痴になりますが、雪かきの他にも色々とありまして――
会社潰れて再就職したけど収入が激減したとか、自業自得の面が強いですがPC買い換えに貯めといた資金が無くなったりとか……
他にもありますがちょっと精神的にきてます。うん、本当にがんばらなきゃね、私。
なので、今はテンション的にまだ高い状態のデビルサマナーを中心に書き進めていくつもりです。
といっても、他作品の方も少しずつですが書き進めてますので、そちらはしばらくお待ち頂ければと思います。

後、質問なのですが、みなさんは私が書いた18禁は見てみたいですか?
実はある方に私が書いた18禁を久々に見てみたいというので、翔太×エヴァモノ書いてたりするんですけど。
もし、見てみたいという声が多数上がったら、掲載考えるかもしれません。
なぜ、考えるかといえば、書いたのが掲載意識せずに書いたものなので、手直しが必要になるからです。
なので掲載するとなると時間掛かるので……もしかしたら出来ないかもしれません(おい)
ちなみに内容としては拍手で指摘されたヘタレっぷりが嘘みたいな感じになってます(え?)

次回ですが到着した翔太達は突如現れた村の人達の話から嫌な事態を想像してしまいます。
そんな中、襲撃してくる者達の姿が――なんてお話です。
てなわけで、次回またお会いしましょう〜



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