さて、一夜明けたこの日、当麻達は朝食を買うために外に出ていた。
昨夜の夕食で当麻が買い置きしていた材料のほとんどを使ってしまった為だ。
しかし、この時の当麻達はそのことをあまり問題にしてなかった。
今のようにコンビニなどに買いに行けばいいと考えていたからだ。
それと昨夜のことがあって、気分転換の為にというのもある。
なので、スッカリと忘れていた。士に自分達が迎えに行くまで出歩くなと言われてたことを。
「しかし、寮監にはどう誤魔化したものでしょうか」
「そうよ……ねぇ……」
 その道中、ため息を漏らす黒子の言葉に美琴は思わず顔を引きつらせていた。
美琴と黒子が通う常盤台中学は学園都市の中でも有数の名門校にしてお嬢様学校でもある。
その上で全寮制であるのだが、そこの寮監が2人にとっては怖い存在だった。
なにしろ、『超能力者(レベル5)』と『大能力者(レベル4)』の2人をいともたやすく倒せてしまうのだから。
といっても、美琴の方は大して能力を使っていない状態での話だが、それでも凄い話なのは間違い無い。
まぁ、そのせいでその寮監は色々と噂されていたりするが――
ともかく、無理矢理だったとはいえ、無断外泊をすることになった美琴と黒子。
このままでは寮監からお叱りという名の折檻を受けることになる。
黒子は『風紀委員(ジャッジメント)』の仕事の関係ということで誤魔化すことが出来るかもしれない。
あの寮監のことだから、一瞬でその嘘を見破りそうな気がしてきたが……
しかし、美琴は何かをしてるわけでもないので、上手い誤魔化し方が思いつかない。
黒子の手伝いでという手は前にも何度か使っているので、同じ手が使えない可能性もある。
そのことでどうしたものかと悩み、ため息を吐く美琴と黒子。その2人の様子に当麻は首を傾げていた。
「にしても、思ったより遠いわね。まだなの?」
「ああ、もうちょっとで着くって」
 思ったよりもコンビニまでの距離があったことに訝しげになる美琴に、当麻は苦笑しながら答える。
当麻の家は家賃が安い分、立地条件はどうしても悪くなる。コンビニから離れてるのも、ある意味仕方がなかったのだ。
でも、あと少しで到着……と、思われた時であった。
「「「「「「「ぐるるるるるる……」」」」」」」
「え?」「な、こんな時に!?」
 うなり声が聞こえてきたかと思うと、建物の陰から7体の怪人が姿を見せる。
前回とは違い、昆虫のような姿の怪人やライオンやサイといった獣のような姿の怪人。
そんな中で1体だけ異様な雰囲気を放つ怪人がいた。
全身を青い甲冑のような物に包まれているが、その顔はどことなく人の顔にも見えた。
そして、右手には杖にも槍にも見える武器を持っている。
その怪人達が現れたことに当麻は驚き、黒子は自分達の迂闊さに気付いて顔を歪めた。
「くぅ!?」
 美琴もとっさに電撃を放とうとするが、やはり頭痛がして能力が使えない。
そのことに悔しく思う中、黒子はスカートを翻し――
「く、効かな、あ!?」「あ……」
 両太ももに巻いてあるベルトに仕込んだ長さ数cmの金属矢数本を瞬間移動で飛ばすものの、怪人の体に弾かれるだけであった。
そのことに悔しく思うが、同時に怪人の1人が水の塊を撃ち出してきた。美琴はまだ頭痛が抜けない為、黒子は突然のことで動けない。
やられる。そう思いながら呆然と水の塊を見てしまう2人だったが――
「ちぃ!」
 すかさず当麻が前に出て、右手を突き出すことでその水の塊を消し去った。
「あ、ありがとう……ですの……」
「礼はいいから、お前はビリビリを連れて逃げろ!」
「な!?」
 呆然としながらも礼を述べる黒子だが、助けられたことを自覚するとなぜか顔が赤くなってきた。
が、当麻は振り向かずにそんなことを言いだした為に、美琴は驚かずにはいられなかったが。
「な、何言ってのよ!?」
「そうですわよ!? 私の能力ならお2人とも連れていくのは可能ですわ!」
 当麻の言葉が信じられず怒鳴る美琴。黒子も怒鳴りながらも逃げるように言い聞かせようとした。
黒子の瞬間移動での長距離移動は無理だが、連続で使えば少なくとも怪人達から逃げ切れる。
黒子はそう思っていたのだ。だが――
「ダメなんだ……俺の右手は……」
 振り返らず……それでも悔しそうな声で当麻は答えた。
当麻の右手は異能ならば無力化してしまうのは前にも話したが、困ったことにそれは直接触れなかったとしても作用することがある。
あえて詳しい説明は割愛するが、黒子の瞬間移動は異能という力を全身で包むことで初めて発動が可能になると思われる。
それは他人と共に瞬間移動を行う場合でも同じ事だろう。そうなると当麻は瞬間移動が出来ないことになる。
瞬間移動をする為の異能の力が全身を包む際、彼の右手に触れた瞬間に無力化されてしまうのだから。
そのことに気付いた黒子は思わず舌打ちしそうになる。戦うのはほぼ無理だ。
黒子の金属矢は怪人達に通用しなかったし、美琴は未だに能力が使えない。
当麻は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』以外は大した力があるわけでなく、ケンカが少し強い程度でしかない。
そうなると逃げるしかないのだが、走って逃げ切れるか怪しい。
怪人達にどのような力があるかわからないが、人よりも速く走れる可能性もあるからだ。
方法があるとすれば当麻を見捨て、美琴と共に逃げるしかないのだが――
「そ、そんなの……出来るわけが……」
 涙を浮かべる黒子が悔しそうな顔をする。
命が掛かっていなければ、黒子は迷い無く当麻の言うことを実行しただろう。
しかし、今の状況はそうでは無く、その上黒子は優しすぎた。
美琴と仲が良い(黒子視点で)当麻のことは嫌ってはいるが、見捨てる程ではない。
むしろ、今回の事で見直したと言ってもいい。だからこそ、黒子は当麻を見捨てることが出来ない。
それは美琴とて同じだった。最初の方こそ、当麻を目の敵にしていた。でも、今日のことで自分の勘違いに気付かされた。
どんな所にも不幸な人はいる。美琴はそれを知っているつもりだった。けど、それはある意味勘違いでもあった。
確かにそれは間違いじゃない。でも、どんなに不幸な目にあっても、それでもくじけない者はいる。
今、目の前にいる当麻のように――当麻だって、本当は逃げたいはずだ。
でも、彼の右手がそれをさせてくれない。だから、自分はここに残って美琴達を逃そうとしていた。
この時、美琴は当麻の右手が恨めしいと思ってしまう。
あの右手がなければ、こんな事にならなかったのにと……だから、認められない。
こんな事で当麻を犠牲にするなんて――
「ふざ、ける、なあぁぁぁぁぁぁ!!?」
「きゃ!?」「ビリビリ!?」
「「「ぐがあぁぁぁぁぁ!!?」」」
 その考えから来た怒りで、美琴は思わず電撃を放ってしまう。
そのことに黒子と当麻は驚くが、電撃は彼らをすり抜けて3体の怪人を襲った。
「お姉様、能力が――」
「え? あ……ここは私と当麻でなんとかするから、あなたは士達を呼んで! 早く!」
「で、ですが――」
「あんた1人なら、遠くに飛べるんでしょ? いいから早く!」
 能力が突然使えたことに驚きながらも美琴は戸惑う黒子に指示を飛ばす。
当麻が逃げることが無理ならばここで自分と一緒に時間を稼ぎ、その間に黒子に士達を連れてきてもらおうと考えたのだ。
それに黒子の能力は制御の関係上、1人の方が遠くへと瞬間移動出来るので、その方が早いと考えたのもある。
「当麻があいつらの攻撃を防いで私が攻撃! それで時間を稼ぐから、早く呼んできて!」
 焦るように美琴が叫ぶ。先程の電撃は無自覚ではあったものの、全力に近い威力で放った。
しかし、電撃を受けた怪人達は多少よろめきながらも立ち上がっている。
何発も喰らわせれば倒せるかもしれないが、それまで自分の体力が保つかはわからない。
だから、助けを呼んで――と、考えていた。
「その必要は無いぞ」
『アタックライド――ブラスト!!』
「「「ぐごごごごごごごっ!?」」」
 そんな時、声と電子音が聞こえたかと思うと、別の3体の怪人が銃撃を受けて倒れてしまう。
そのことに呆然となる当麻達だが、何かに気付いて慌てて顔を向けた。
その顔を向けた先にはすでに変身した士、雄介、麗華に望がいた。
「さて、俺は家で待ってろって言わなかったか?」
「そ、それは――」
「士!」
 銃に組み替えたケースを肩に掲げつつ、睨むように顔を向ける士。
そのことに当麻は顔を引きつらせるが、美琴は叫びながら前に出て――
「これが正しいことなのか、私にはわかんない! でも、こんな事で誰かが傷付くのなんて絶対に嫌!
だから……だから、私はそんなことをさせないために、能力()を使うわ!」
 決意を秘めた瞳で叫ぶ美琴。その時、士が持つケースが勝手に開いたかと思うと、1枚のカードが飛び出してきた。
士がそのカードを手に取ると、カードに美琴や黒子が通う常盤台中学の校章が描かれる。
「いいんじゃないのか? ただ、言うことがあるとしたら――
前にも他の奴に言ったんだが、自分のしたことはどんな形であれ自分に返ってくる。それをどう受け取るかは、自分次第だ」
「うん!」
 そのカードをケースに戻しながら話す士に、美琴は力強くうなずく。
その美琴に顔には迷いは無く、逆に強い意志を秘めた瞳を見せていた。
「んじゃ、とっとと終わらせるぞ。こいつらに長々と付き合ってやる必要も無いからな」
「ああ!」「そうだな」
 ケースを剣に組み替えながら、士は怪人達へと体を向ける。
そのことに雄介と麗華も同意し、怪人達を見据えながら構え始めた。
それを待っていたかのように槍を持つ怪人が右手を突き出すと、怪人達が一斉に襲いかかる。
「は!」
「ぐお!?」
「たぁ!」
「がぁ!?」
 それを士や麗華が剣で切り裂き――
「おりゃ!」
「がふ!?」
 雄介が殴り飛ばし――
「てえい!!」
「「ぐばぁ!?」」
 美琴が電撃を放って怪人達の動きを止め――
「おわっと!?」
 光弾などの攻撃を当麻が右手で防ぎ――
「お姉様には近付けさせませんわよ!」
「ぐ!?」
 すぐ側まで来て襲いかかろうとする怪人に黒子が触れ、瞬間移動で吹き飛ばす。
「がぁ!?」「ぐおぉ!?」
「さてと、さっさと終わらせてもらうぞ」
「そうだな」
『ファイナルアタックライド――ディ・ディ・ディ・ディケイド!!』
『キック――サンダー――マッハ――ライトニングソニック』
 2体の怪人を突き飛ばした士と麗華はそれぞれカードをセットし――
「ふっ!」
「ぐお!?」
 1体の怪人に向かって士からエネルギーフィールドが何枚もの並んでいく。
それと同時に麗華は刹那の速さで駆け抜けてもう1体の怪人をはね飛ばし――
「おお!」「はぁ!」
 士が剣となったケースを構えて走り出すと、麗華は立ち止まって天高く跳び上がる。
「でりゃあぁぁぁ!!」「はあぁぁぁぁ!!」
「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」「がはあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 走り出した士はエネルギーフィールドを突き破りながら加速し、麗華は右足を突き出して突っ込んでいき――
士は通り過ぎるようにして怪人を切り裂き、麗華は突き出した右足を怪人の胸板を打ち抜く。
切り裂かれた怪人はそのまま崩れるように倒れ、蹴り飛ばされた怪人は突き飛ばされて地面に倒れ――
その2体の頭の上に光の輪が現れると共に爆発の中へと消えていった。
「ふん! はぁ!」
 一方、雄介も両手を広げるように構えてから、右足に炎を宿しながら駆け出し――
「はぁ!」
 助走してから天高く跳び上がり、頂点で宙返りをし――
「おっりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐばあぁぁぁぁぁぁ!!?」
 そのまま、炎を宿した右足を突き出して突っ込み、怪人を蹴り飛ばして同じように爆発させていた。
「ええい!」
「ぐおぉぉぉ!?」「があぁぁぁ!?」「ぎぃぃぃぃぃ!?」
 一方、美琴は電撃を放ち、怪人達を感電させるのだが――
「もう、本当に効いてるの!?」
 その光景に美琴は思わず叫んでしまう。
というのも、電撃を受けたはずの怪人達が一度は膝を付くものの、すぐに立ち上がってしまうからだ。
膝を付くのを見る限り、まったくダメージが無いわけではないようだが――
ともかく、電撃に耐性があるのか全力の電撃が足止め程度にしかなっていなかった。
これは美琴が弱いからではなく、怪人達の肉体がそれだけ強固だったというのが大きい。
もっと威力がある攻撃が出来ればいいのだが、士達が前に出て戦っている以上、巻き込んでしまう可能性が高い。
威力が高い攻撃方法はもう1つあるが、アスファルトで舗装されたこの場所ではその攻撃方法が出来ない。
八方塞がりな状況に美琴は表情を歪ませていたが――
「ぐが!?」「ぐぼぉ!?」
「すまん、遅くなった」「てりゃあ!」
「があ!?」
 そこに士と麗華が斬り込んで怪人達突き飛ばしてくれた。
「士! 私が合図したらそこから離れて!」
「わかった」
『アタックライド――スラッシュ!!』
 それを見た美琴がポケットに手を突っ込みながら叫んだ事に、士はベルトにカードをセットしながら答え――
「はぁ!」
「ぐ! がぁ!?」
「はぁぁぁ!」
「ぐご!?」「がは!?」
 赤い残像を残す剣の振りで怪人を連続で斬り、麗華も激しい動きで怪人達を斬っていく。
その間に美琴はポケットから取り出した物を指で弾いて、宙に舞い上がらせる。
それは1枚のメダル。ゲームセンターなどで使われているような物。
そのメダルが回転しながら、弾くような形で構える美琴の右手の親指に向かって落ちていき――
それと共に美琴の体が右手を中心に電撃を発していた。
「今よ!」
「麗華!」
「ああ!」
 美琴の叫びで士は声を掛けてから麗華と共に別々の方向に跳び去った。
それとほぼ同時に美琴は落ちてきたメダルを指で弾くのだが、それによって起きたのは閃光だった。
まばゆいまでの閃光。それが一瞬起きたかと思うと、何かが怪人に向かって目にも止まらぬ速さで飛んでいく。
それは先程のメダルだ。そのメダルが音速を超える速度で飛ばしたのだ。
簡単に説明すると、美琴は電撃を起爆剤にしてメダルを撃ち出したのである。
それは一種の『超電磁砲(レールガン)』。美琴のあだ名ともなっている力が、ここで解放されたのだ。
「ぐが!?」「ぐお!?」
「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 そのようにして撃ち出されたメダルは2体の怪人を衝撃で吹き飛ばした挙句、もう1体の怪人の額を撃ち抜き――
吹き飛ばして地面に倒れる間も無く、爆発の中へと消し去っていった。
「やれやれ、とんでもない威力、くぅ!」
 その光景に呆れる士だが、何かに気付いて慌てて跳び退こうとした。
しかし間に合わず、飛んできた青い光の濁流に弾き飛ばされてしまう。
「士! あ――」
 美琴が思わず声を掛けてしまうが、その直後に気付いてしまった。
あの光を放ったであろう槍を持つ怪人が、自分に向けて右手を向けていることに。
しかも、その右手には青く大きな光球があり、すでに攻撃出来るのだとも――
そして、それに気付いた時には槍を持つ怪人が青い光の濁流を放った後だった。
「お姉様!?」
「ビリビリ!?」
 防ぐことも逃げることも出来ず、動けない美琴。
その彼女を助けようと黒子が駆け寄ろうとするが、その前に当麻が美琴の前に立ち――
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
 右手で青い光の濁流を受け止める。だが――
「く、処理しきれねぇ!?」
 青い光の濁流の威力が強すぎるためか、もしくは撃ち続けられているためか、当麻の右手に触れても消える気配が無い。
それどころか、じりじりと当麻が押され始めていた。
当麻も歯を食いしばって耐えてはいるものの、それが精一杯の状態。
「当麻!?」
「当麻、もうちょっとだけ我慢しろ。美琴、黒子。手伝ってくれ」
 それを見て正気に戻った美琴が助けようとした時、よろめきながらも戻ってきた士がそんなことを言い出す。
何を?と思った美琴と黒子が顔を向けると、士は1枚のカードをケースから取り出していた。
それは先程飛び出た、常盤台中学の校章が描かれたカード。
そのカードを見た瞬間、美琴と黒子の脳裏にある知識が流れ込んでくる。
「ええ!」「わかりましたわ」
「いいから、早くしてくれぇ!?」
 それは士が今持っているカードの効果。その知識を理解した美琴と黒子はうなずく。
一方で青い光の濁流を防いでいる当麻は悲鳴を上げていたが。
「じゃ、とっとと終わらせるか」
『ファイナルアタックライド――ミ・ミ・ミ・美琴!!』
 2人の返事を聞いた士はすぐさま持っていたカードをベルトにセットした。
それと共に美琴と黒子が士に駆け寄り――
「行きますわよ!」
 そう言って美琴と士に触れた黒子は2人と共に瞬間移動で上空へと飛んだ。
「ぬぐ!?」
 それと共に士達と槍を持つ怪人達の間にいくつものエネルギーフィールドが並ぶ。
いつもと違うのはエネルギーフィールドはリング上になっており、なおかつ数がいつもよりも明らかに多かったことだ。
「でええええええええええええええい!!」
 そのエネルギーフィールドが現れると美琴は士の肩をつかんだかと思うと、一気に撃ち出した。
そう、撃ち出したのだ。先程放った『超電磁砲(レールガン)』と同じ方法で。
轟音と共に撃ち出された士は慌てることなく両足を突き出し、音速を超える速度でエネルギーフィールドを次々と突き破り――
「おおおおおおお!!!」
「ぐ、ぐがあああああああああああああ!!?」
 槍を持つ怪人はエネルギーフィールドが来た時点で青い光の濁流を撃つのをやめ、槍を盾にして防ごうとした。
しかし、音速を超える速度で飛んできた士の両足によって槍を砕かれた挙句、胸を打ち抜かれて大きく吹き飛んでいく。
そして、地面に倒れる前に爆発の中へと消えていったのだった。
その光景を背にしながら着地する士。
「た、助かった……」
「ぐがあぁぁぁぁ!!?」「ぐおおぉぉぉぉぉ!!?」
 助かったことに安堵し、へたり込む当麻。
その間に雄介と麗華が残った怪人達を倒し、美琴は黒子の瞬間移動によって共に地面に降り立っていた。
「っと、大丈夫、当麻?」
「ん? ああ、なんとかな……そういうビリビリこそ、大丈夫なのか?」
 駆け寄って心配そうな顔をする美琴に、当麻は苦笑しながら後頭部を掻きつつ答えた。
しかし、そのことに気付いた美琴はため息を吐き――
「美琴よ」
「はい?」
「今度から私のことは名前で呼んでよね。私も当麻って呼ぶからさ」
「え? は?」
 顔を赤く染めつつ背ける美琴。どう見ても恥ずかしがっている乙女にしか見えなかった。
しかし、当麻は鈍感らしく、言われた意味を理解出来ずに戸惑っていたが。なお、黒子はなぜか羨ましそうに2人を見つめていた。
「まぁ、仲がいいことはいいんだがな」
 と、そこに変身を解いた士がやってくる。なぜか、指の関節を鳴らしながら――
「ともかく、お前らは反省しろよ?」
「え? なんのことでしょうか?」
 どこか顔を引きつらせているように見える士の言葉に、当麻は首を傾げる。
どういう事かわからない為で、同じ心境らしい美琴や黒子も首を傾げていたが――
「俺は言わなかったか? 俺達が来るまで家を出るなって」
「「「あ……」」」
 士の返事でそのことに気付いた当麻達。
そのことに気付けば、士の顔は引きつってるのではなく、怒っているのだと理解出来――
「「「あいた〜!!?」」」
 士に手痛いげんこつを受けるはめになり、その光景を望や雄介、麗華が苦笑しながら見ているのだった。
なお、麗葉はこの時の士がちょっと怖かったらしく、少し怯えていたが。


「帰る……んですか?」
「一応、終わったみたいだしな」
 あの後、当麻達の朝食を買ってから、士達はフォトショップに戻っていた。
この世界でやることを終え、自分達の世界に戻るために。
しかし、問い掛けた当麻は美琴と黒子と共に士達が帰るという意味がわからずに首を傾げていたが。
「本当に大丈夫なんでしょうね? あなた達がいなくなった後にまた来るなんて事にならないでしょうね?」
「そうだったら、俺達が帰ることは出来ないがな」
 ジト目の美琴に士はため息を吐きながら答えた。
帰れると言っても、士達にとってはこれで終わりというわけではない。
例え自分達の世界に帰っても、時が経てばまた別の世界に行かねばならないのだから――
それでため息が漏れてしまったのだ。
「それじゃあ、俺達はそろそろ行くが……お前達はがんばれよ。色々と、特にその2人はな」
「はい?」
 意味ありげな視線を向けつつ話す士だが、その言葉の意味が理解出来ない当麻は首を傾げていた。
しかし、視線を向けられた美琴と黒子は目に見えて顔を赤くする。
「ち、違う!? わ、私は当麻のことは――」
「そ、そうですわよ!? わたくしはお姉様一筋で――」
「さて、なんのことかな?」
 慌てた様子で何かを否定する美琴と黒子。その様子を話していた士はくすりと笑いつつ、軽く流していたが。
一方、慌てる2人を見た望達は苦笑し、麗葉は意味がわからずに首を傾げていた。
「当麻はその方がいいのかもな。じゃあな」
「はい?」
「それじゃあ、さようなら」
 苦笑しつつもそんなことを言ってから振り返る士。
当麻はその言葉の意味が理解出来ず、再び首を傾げるはめになってしまったが。
そんな当麻を見た望は苦笑しながらも手を振り、雄介達と共にフォトショップの中へと入る。
そして、士達が入るとフォトショップは光に包まれ、光が消えるとそこにフォトショップは無く、ただの空き地が広がっていた。
「え? え? ええ!? も、もしかして、本当に異世界から来たの!?」
 突然のことに理解出来なかった美琴だが、少しして起きた現象に驚いてしまう。
当麻と黒子も目を丸くしている所を見ると、美琴と同じ心境のようだが。
「はぁ……休日だってのにどっと疲れちゃったわね……今日は帰って休みたい……」
「俺もだ……」
「わたくしも……って、なんでしょうか?」
 なんとか落ち着きを取り戻した美琴だがそれと共に疲れも感じてしまい、ため息混じりにそんな言葉が漏れた。
まぁ、朝早くからあのような激闘をすれば疲れもするだろうが。
当麻も同じ心境であり、今日は休日なので寝てしまおうかと考えていたりする。
黒子もそれに賛同しようとしたが、着信音が聞こえて慌てて携帯を取り出して操作をし――
「え?」
「何かあったの?」
「あ、その……ある研究所から、つい最近発見されて解析中だった鉱石が盗まれたそうですの。
警備カメラの映像を送るので、映っている犯人を見かけたら連絡して欲しいとのことなのですが……」
「どうかしたの?」
 戸惑いながら携帯を操作する黒子の返事に、問い掛けた美琴は怪訝な顔をする。
なんでそんな物を盗んだのかと疑問に思うが、それ以上に黒子の様子が疑問だった。
その疑問に答えるかのように黒子は携帯の画面を見せるのだが――
「え?」
「なんだ……これ?」
 携帯の画面にはどこかを映したと思われる映像が一時停止の状態で映されていた。
そして、その映像を見た美琴と当麻は顔を強ばらせる。
その映像には青い人影が映し出されていたのだが、その姿がどことなく士が変身したディケイドに似ていたのだ。
「これって、士……なのかな?」
「いや、違うと思うぞ。青いのもそうだけど、ヘルメットとか肩とかの形が違うしな」
 美琴は思わずそう考えてしまうが、当麻はきっぱりと否定した。
当麻の指摘通り、雰囲気としてはディケイドに似ているものの、指摘したパーツや色がまったく違っていたからだ。
「どういうことでしょうか?」
「さぁな? もし、また会えたら、聞いてみるしかないと思うけど……俺は士さんが犯人とは思えないな」
 携帯をしまいながら問い掛ける黒子に、当麻はため息混じりにそう答えるしかなかった。
それと共に鉱石を盗んだのは士では無いのではとも思えてしまう。
助けられたというのもあるが、士がそのようなことをするようには思えなかったから――
もっとも、その思いは美琴と黒子も同じであった。
 結局、考えても答えがわかるわけでもなく、当麻達はその日は別れることにした。
疲れて休みたかったからだが……寮に戻った美琴と黒子が休めたのはそれから数時間後のことだった。
無断外泊のことで寮監にキツイお灸を据えられたからだが――


 その後、当麻はことあるごとに美琴と黒子に付き合わされるはめになる。
当麻としては断りたかったが、2人のあられもない姿を見たことをクラスメートにばらすと脅されて涙を呑むはめになった。
そのたびに「不幸だぁ〜!?」と漏らすが、美琴と黒子はなぜか楽しそうにしている。
ただ、そんな自分達にしばらくしてもう1人が加わることになろうとは――この時の3人は思いもしなかった。


 一方、元の世界に戻った士達は――
「帰ってきたのはいいが……良く考えると、異世界でゆっくり出来たこと無いな」
「まぁ、それ以前に怪人達のことがあるから、難しいだろうがな」
 そのことに気付いた士に、麗華はため息混じりに答えていた。
今まで3つの世界を渡り歩いてきた士達だが、そのどれもが滞在期間が1日程度でしかない。
どんな世界なのかしっかりと確かめるには短すぎる時間だ。
反面、世界の破壊を企む怪人達の対処も必要なので、そういったことをする余裕が無いのも事実だが。
「へぇ。まさか、お店ごと異世界に来るとは思わなかったよ」
「え?」
 と、聞き覚えのない声に思わず振り返る雄介。
士達も同じように振り返ると、そこにはカウンター席に座るラフな格好をした青年の姿があった。
士達は知らないのだが、あの青いディケイドを思わせるカードを持っていた青年である。
「え? ええ!? もしかして、私達あの世界から人を連れてきちゃったの!?」
「ああ、大丈夫。ボクも異世界を渡り歩いてるから。
それに助かったよ。ほとぼりが冷めるまで、お茶でもしてようと思ったからさ」
「どういうことだ?」
 もしかして、当麻達の世界から人を連れてきてしまったのではと思い、慌てる望。
それを見てか、青年は右手を軽く振りつつ気にした様子も無く答えるのだが、麗華は訝しげな顔で問い掛けていた。
というのも、聞き捨てならないことを言っていたからだ。
「言ったとおりだよ。ボクは異世界を渡り歩き、その世界のお宝をゲットするトレジャーハンターさ」
「トレジャーハンター……ね。そいつがなんでここでお茶なんてしてるんだ?
というか、さっきほとぼりが冷めるまでとか言ってなかったか?」
「ああ、あの世界でお宝を手に入れたのはいいんだけど、ちょっとした騒ぎになってね。少し、落ち着いてから帰ろうと思ってたのさ」
 ジト目で問い掛ける士に、話していた青年はキザな様子で答える。
しかし、それを聞いてか、士は嫌な予感が強まっていた。なんかこう、ろくでもないことをしてそうな気がしてならないのだ。
実際、その通りだというのを後に知ることになるが――
「コーヒーごちそうさま。美味しかったよ」
「はい、ありがとうございます」
 コーヒーの代金を起き、叶に見送られながら立ち去ろうとする青年。
士達の横を通り過ぎ、ドアを開けようとして――
「ああ、ボクの名前は海東 大樹(かいとう たいき)。縁があったら、また会おうね」
 笑顔と共に自己紹介をする青年――海東。その後、右手を軽く振ってから去ってしまう。
「なんだったんだ?」
「さてな。だが、近い内にまた会いそうな気がしてならないが」
 呆然と見送る雄介に士はなぜか真剣な眼差しで答える。そう、なぜか海東とはまた会いそうな気がしてならないのだ。
そんな様子の士に、雄介だけでなく麗華や望も戸惑いを見せるのだった。


 それから一週間。小学校に通いだした麗葉は慣れてきたのか、友達が出来ていた。
このことに麗華は喜ぶ。元の世界ではこのような形で友達など出来なかっただろうから――
そんなこんなで時が経ち、再び異世界へ行く日が来た。
淡い光を放ちながら下りる垂れ幕。それに描かれる絵を見た瞬間、士はジト目になっていた。
「またか……」
「あははははは……」
 呆れたようにぼやく士。望は苦笑するしかなかった。良く見ると雄介や麗華も呆れたような顔になっている。
士達をそんな風にさせた垂れ幕には、先端に赤い宝玉がある杖と斧にも見える杖とが交差している絵が描かれていた。
杖は2本ともどこか機械的な物を感じるが、それと共に絵から連想出来ること。
それはこの世界に魔法が存在するということであった。


 その頃――
どこかの林と思われる場所で2人の少女が見つめ合っていた。いや、その表現は少し語弊があるかもしれない。
一方は肩にフェレットと思われる小動物を載せており、どこかの制服にも見える白い服を着た栗色の髪を左右の上辺りでおさげにしている幼き少女。
可愛らしく整った顔立ちをしているが、その表情は真剣な眼差しでもう一方の少女を見つめている。
もう一方の幼き少女は長いブロンドの髪をツインテールにしており、黒いレオタードにも水着にも見える衣服を身に纏い、その上にマントを羽織っている。
一応、手袋やブーツ、スカートのような物も身に付けてはいるが、幼い少女にしては少々過激な衣装と言えた。
その少女も同じく可愛らしく整った顔立ちなのだが、おさげの少女を睨んでいるように見える。
そして、2人の少女の手には士達が垂れ幕で見た杖が握られていた。
おさげの少女は赤い宝玉が先端にある杖を。ツインテールの少女は斧にも見える杖を。
そして、ツインテールの少女の後には別の少女の姿があった。高い背に淡いオレンジ色の腰まで伸びる髪に凛々しく整った顔立ち。
しかし、服装はツインテールの少女よりも過激だった。なにしろ、着ているのはブラのような上着と短パンのみという格好なのだから。
一応、肩と腰にケープのような物があるが、その過激さを隠し切れていない。更にはその少女の頭と腰から、髪と同色の獣の耳としっぽが出ている。
その獣耳を持つ少女はなぜかおさげの少女を睨んでいたが――
どこか一触即発の雰囲気がある今の状況。そんな少女達から少し離れた所である物が浮かんでいた。
四角錐を2つ、上下にくっつけたような水色の宝石。その宝石が強い輝きを放ちながら浮かんでいたのだ。
明らかに普通では無いのだが、少女達は気にした様子が無い。
いや、時折宝石を見ているところを見ると、まったく気にしていないというわけでもなさそうだが――
「そこまでだ」
 そんな時、少年の声が聞こえてくる。
少女達が顔を向けると、光り輝く魔方陣の上に立つどこか物々しい黒い制服のような物を着た少年がいた。
明らかに若いながらも凛々しい顔立ちで少女達を見据え、持っていた杖を向け――
「時空管理局――」
「ああ、ちょっと待ってくれないかな?」
 何かを言おうとした時、それを遮る形で別の声が聞こえてくる。
誰もがそこに顔を向けると、そこには不敵な笑みを浮かべた海東がいた。
「なんだ、お前は?」
「ボク? ボクは海東 大樹。それ、ジュエルシードだよね? ボクはそれを手に入れるために来た、トレジャーハンターだよ」
「ふざけんじゃないよ! それはフェイトの物だ!」
 少年の問い掛けに海東は気軽な様子で自己紹介するのだが、聞き捨てならないことを聞いた獣耳の少女が叫ぶ。
ジュエルシード……それが輝きながら浮かんでいる宝石の名なのだが――
「まだ、誰も手に入れてないのに自分の物だと主張するなんて、滑稽だよ?」
 しかし、海東は不敵な笑みを浮かべながらジャケットの内側からある物を取り出す。
それは奇妙な形をした銃と1枚のカード。カードはあの青いディケイドにどこか似た姿が描かれた物だ。
そのカードを銃の側面にセットし、スライドさせて銃身を伸ばし――
「変身」
『仮面ライド――ディ・エンド!!』
「な、なに!?」
 機械音の唸りを響かせる銃を真上に向けてトリガーを引くと、海東の周りにいくつもの残像が不規則に動き回った。
おさげの少女や他の少女達がそのことに驚いていると残像が海東の元へと集まり、1つとなってある姿へと変わっていく。
カードに描かれていた、どこかディケイドを思わせる姿へと――
「え? あ、え? バリア、ジャケット?」
「な、なんだ、お前は!?」
「名乗ったと思ったけどね? ボクは海東 大樹。通りすがりのトレジャーハンターだよ」
 その光景に少女達が驚く中、フェレットがなぜか人の言葉を発しながら同じく驚き、少年も戸惑いながらも杖を向けて威嚇する。
それに対し、海東は不敵な笑みを浮かべるような様子で、銃を向けながら答えるのだった。


 この時、士達はまだ気付いてもいなかった。
自分達が新たな段階へと進んだことに――




 そんなわけでとある魔術の禁書目録編はこれにて終了。
しかしながら、気になる終わり方をしましたが、これは後ほどわかります。
そして、次なる世界は『魔法少女リリカルなのは』の世界。
そこで待つ物はなんなのか? そして、海東の登場はどのようなことになるのか?
次回はそんなお話です。ではでは、次回またお会いしましょう。



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