捨て身というものは時に勝機を生み出す

賭けという物ではあるが

命を賭ける時というものは生きていく上で何度かあるだろう

危ない橋を渡るのが嫌ならば話し合うこと

敵というものは自分の行いが作る

それを理解して頂かないと




僕たちの独立戦争  第八十七話
著 EFF


月臣は失った戦力に頭を痛めていた。五分の状況に持ち込むはずが先の読めない人物のおかげで持ち込めなくなった。

「くっ、それでも正義を示さねばならん。

 戦力を結集して一気にれいげつを陥落させるのが良策だな」

草壁が凶弾に倒れたと思っている月臣は動揺しているはずの和平派を更に混乱させる手段が望ましいと考えた。

「問題は戦線が伸びる事なんだが」

れいげつとしんげつの距離が問題だった。伸びきった戦線をどう維持するかが焦点だと感じていた。

「短期決戦だから気にしなくても良いのだろうか」

途中で分断されても本拠地を押さえれば何とかなると月臣は考える。

だが、それは非常に甘い考えだった。

草壁春樹という男はその様な隙を見逃さない男であると月臣は知っているのに倒れているという欺瞞情報に惑わされていた。


同じように草壁が凶弾によって動けないと思う人物がいた。

「今が好機なのだが……どうしたものか?」

草壁が倒れている状況を上手く活用しなければならないと東郷は考える。

今の状況ならば一つにまとまる事もなく、各個撃破できる可能性もあるだろうと思う。

(海藤一人が頑張ってもどうにもならん……だが、ここの防衛をどうするべきだろうか)

身の安全を優先する東郷は全戦力を投入するのを躊躇している。

賭けに出るほど自分達が追い詰められてはいないと思う判断の甘さが唯一の勝機を見逃すと考えない。

海藤率いる第二艦隊はまだ草壁が率いる本隊と合流していない。各個撃破できる可能性はあるのだ。

主力の第二艦隊を消失させれば戦力の天秤も五分以上になる……勝機がある事に気付かない。

自分達にはもう後がないと考えていないから命を懸けた賭けに出られない。

ここで敗れても草壁が自分達を無碍にしないという甘い幻想を抱いている……人、それを愚かという。


和平派は各市民船の状況を分析している。強硬派に同調する市民がどの程度いるのか知りたかったのだ。

「困ったものだ、閣下がそういう状況にしたのは事実だがもう少し理性的な判断をしないと」

村上は内閣府で送られてきた情報に顔を顰めている。

半数までとはいかないが実に三割以上の市民が強硬派の意見に賛同している。

移住先を求めての決戦だというのに戦勝気分に浮かれて状況を見失っていると考える。

「この分では市民の意識改革をきっちりとしないと火星に移住できても揉め事は尽きないぞ」

「困ったものです」

村上のため息混じりの台詞にその場にいる者は肩を落としている。

揉め事ばかり起こすような市民を火星が受け入れてくれるとは思えない……自分達の肩に木連の未来が懸かってきたのだ。

責任の重さに潰れそうな気持ちを奮い立たせているというのが実状だろうと村上は思う。

「まあ、焦る事はないさ。火星だって今日明日にでも移民を始めると言った訳じゃない。

 今から一年、ニ年か先の話になると思うから準備だけはしておけば良いさ」

時間はあると村上は全員に聞かせるように話す。その言葉に官僚達は勇気付けられる。

まだ……何も始まっていない事を不安に感じてはいけないと誰もが思っていた。

内閣府は確実に次の時代に対応できるように成長している。


―――火星宇宙軍 司令所―――


「また鬱陶しい状況になりそうだ」

ニ正面作戦は勘弁してくれとレオンは開口一番に話す。

地球に対する回答期限が迫った状況で木連の動向も注意しなければならないのは困るとこの場に居るものは誰もが考える。

「戦力に関しては回復するが面倒な事だ」

戦力――《マーズ・ファング》の帰還が間近になっていたのでゲイルはそれほど不安には考えていない。

寧ろ、実戦を経験した部隊となって帰ってくるのだ。回復するというより増強という嬉しい事態だろう。

ただ問題はジャンパー教育のスケジュールが少し急ぐ事になるのがネックだと思っていた。

訓練期間がハードスケジュールになると思うと色々面倒だと感じている……特に事務仕事が急がされるのは困るのだ。

新型のIFSに変更して事務仕事の負担は減っている。それでも煩わしい事には変わりない。

「対処療法で動くしかない……か」

「介入するのは不味いからな」

「そうだな。ところでこの後、時間あるんだろ?

 いい店見つけたんだがどうだ?」

「いいねえ」

ゲイルの誘いにレオンが乗る。戦闘待機に入る前に息抜きをしておきたいと二人は思っている。

「何人か、誘って行くか?」

仲間と酒を飲むのはとても楽しい事だとレオンは思っている。ゲイルも同じように考えて何人かの名前を出していた。

「こうして酒を飲む機会はそう何度もある訳じゃない。

 飲める時に飲むのは間違いじゃないさ」

戦場に立つという事を二人は理解しているが、これが最期になるとは考えてはいない。

そういう点でもこの二人はタフな男達であった。


「内乱が早く終息する方向に進めばいいんじゃが」

強硬派の艦隊が敗北した事を知ってコウセイが良い方向に進んでくれと言う。

軍人同士が戦うのはしょうがないと思う部分はあるが、巻き込まれる市民の事を考えると彼は複雑な気持ちだった。

木連の市民と言えど、人が死ぬのを見るのは嫌なものだから。

側で聞いている若手の議員達もコウセイの考えを耳にして甘いと思う反面、人としては間違っていないと考えている。

コウセイが優しいだけの人物ではない事は誰もが知っている。

この場に居る者の中では最も政治に係わってきた……火星では最古参の政治家なのだ。

必要とあらば危険な作戦でも採用するだけの覚悟を持っている……甘いだけの人間に過酷な状況を生き抜く事はできない。

「見ているだけというのも辛いですね」

エドワードがコウセイの元にお茶を運んでくる。エドワードも介入出来ないもどかしさを感じていた。

「すまんな……初戦は上手くヒメが頑張ってくれた。

 だが、何度も同じ方法が上手く行くとは限らん。薄氷の上を歩くというのは厳しいものだよ。

 戦力は整い始めているが出来るなら使わずに済むのが一番良いと思う。

 兵士達に死ねという事態は避けたいと願うのは間違いじゃないだろう」

「ええ、そうならない為に私達、政治家の出番があるのです。

 何でもかんでも力で解決できるほど世の中は甘くはないのに理解していない者が多いのは困りますが」

お茶を受け取り話すコウセイにエドワードが困った顔で話す。

「先の地球の件も困りますよ」

「全くじゃな、あれは正直、正気なのかと問いたいくらいの言い分だった」

「ええ、さすがにあれは頭にきます。

 自分達が何を言っているのか……理解していない。

 クロノが地球の軍人や政治家達を嫌うのが分かりました」

自分達の責任を放棄しているような連中が政府の中枢に居座っていると誰もが感じていた。

一年以上、火星に軍を動かさずにいたのにその問題を無視して、自分達の要求だけを告げる。

その事を問い質しても自分達に問題はなく、たらい回しの様に責任を軍に押し付けようとする。

「ああいう連中が政治家だと思われるのは嘆かわしい限りじゃ。

 自己の責任と義務を果たしてこそ政治家と呼ばれるに相応しいとわしは思う。

 お前さんの親父さんは今、必死で行動している……責任と義務を果たすために」

「ええ、いつも口癖みたいに言ってました。

 「政治家には多大な権限が与えられるからその責務はきちんと果たさねばならない」と。

 「出来ない者が政治家と名乗る事は許されない」とも言っていました。

 今もその為に奔走しているんでしょうね」

地球にいる義理の父を思いエドワードは地球の状況が改善される事を願う。

「なにぶん……高齢ですから無理はしないと良いんですが」

「大丈夫じゃよ。責任を果たすまでは倒れるような事はしない御仁じゃ。

 寧ろ、余計なお世話だと言われるかもしれんぞ」

「そうかもしれませんが、せっかく娘と会ってもらえたんです。

 もっと家族として一緒にいたいと思う時がありますから」

「なに、案外孫の為に頑張っているかもしれないぞ」

楽しそうにコウセイが話す。エドワードはそれを聞いて苦笑いしている。

「なんじゃ、問題でもあるのか?」

「いえ、娘の結婚相手は自分が認めた男にするなんて言われそうで」

「そうか……それは色々困った事になるかもな」

「そうでもないです。あの子も妻と同じようにここ一番では絶対に譲らない頑固さがありますから。

 いざとなれば駆け落ちでもするんじゃないですか」

「お前さんの時のようにか?」

「ええ、でも同じ事を繰り返されるとダメージが大きいような気がするんです」

孫にも同じ事をされては立つ瀬がないかもしれないとエドワードは考えている。

プライベートの話題に脱線しているが、先の話をするのは悪い事じゃないと二人は思っている。

楽しい未来があるからこそ、辛い今を頑張れると考えるのだ。

「早く平和になるといいですね」

「平和が一番じゃよ。ただし……それを維持する為の努力を惜しんではいかんが」

コウセイの言葉に誰もが頷いている。

明るい未来の為にも今を頑張らないと考える火星の政治家達であった。


―――月 木連司令所―――


司令所に大作が入ってくる。だが、その顔は非常に険しいものだった。

「……始まったのか?」

その表情で高木は強硬派が暴発したと悟り、同じように険しい顔で確認の言葉を口にする。

「はい、やはり月臣が反乱軍の首魁になりました。多分……傀儡ですけど」

予測していたとはいえ、三羽烏と言われた男が反乱軍の指揮を執るのはいささか問題があるように感じている。

「一歩間違えば俺がそうなっていたんだろうな」

苦々しい顔で高木が判断している。こうして木連の外に出て、木連を見つめると歪さに気付く。

正義という言葉を都合の良い様に使っていると高木は思う時がある。

木連の軍人の大半は正義を口にすれば、何をしても正当化されると考えているのだ。

先の戦いで死亡した連合軍の兵士の遺体を見た時、自分の甘さを痛感してしまった。

覚悟はしていた……戦場で自分が敗れ、死ぬ事は。だが自分の命令によって人を死なせた事に対する覚悟は足りなかった。

自分達と同じ人間なのだ。家族や友人もいただろう……彼らに恨まれるだろうと思う。

(これが自分の業か……今更ながら危ない橋を渡っている。

 だが、敗北は許されない。ここで負ければ、木連の未来は絶たれてしまうからな)

遺跡が消耗さえしなければ……という考えが頭に浮かぶが、頭を振ってその考えを振り払う。

木連は遺跡の恩恵のおかげで生き残る事が出来たのだ。苛酷な環境でも遺跡が自分達を救ってくれた。

要は自分達が遺跡に頼りすぎたのだと考えなければならないと高木は思う。

(遺跡が順調に稼動している間に遺跡を使わない方法で自給自足出来る方法を確立すれば良かっただけだ。

 それを怠った自分達が悪いと思わんとな)

戦う環境を整える事が出来た……その力を自給自足への方向に発展させればよかったのだ。

(今頃になってそんな簡単な事に気付く俺も……馬鹿だ)

「とりあえず基地内の動揺を抑えるようにしませんと」

思考の海に沈んでいた高木に大作が告げる。

「ああ。一応、事前に話しているから大丈夫だと思うが……」

拠点防衛という大事な仕事を放棄する訳には行かない。部下達もその事を承知している。

だから大丈夫だと分かっているが家族の居る場所が戦場に変わったのだ……不安に思う者も居るだろう。

「年寄りどもは碌な事をしないな」

「全くです。こっちは現有戦力で戦うという危ない橋を歩くのに」

大作の意見に指令所の作業員達も苛立っている。こういう時こそ責任を果たせと言いたいようだ。

「周囲の警戒を厳重にします。相手の動きに合わせて動くというのは頂けませんが」

「三原達の方にも気をつけるように言ってくれ」

敵陣のど真ん中で待機している二人を高木は心配する。

「万が一の時はすぐに動かせるように準備を」

「出来てます」

あっさりと高木の指示に答える大作。

「地球に嫌がらせの無限砲改の試射をしようかと思ってたんですが中止ですね」

「……艦隊が宇宙に出てくるようならそこに撃ち込んでやれ」

「了解」

「お前の方が指揮官に向いてんじゃねえか?」

高木が呆れた言い方で大作に疑問を投げかける。

先を見越して幾つもの準備をきちんと行っているのだ。

自分より指揮官に向いていると時々思う瞬間が……ある。

「指揮官なんて柄じゃないです。補佐役の方が気楽なんです……軍人になりたかった訳じゃないですし」

大作自身は軍人になりたかった訳ではない。武門の家に生まれたから軍人になる事を義務付けられたようなものだった。

「そうだったな」


高木と大作の付き合いは結構長いものだ。大作が仕方なく軍に居る事はとうに知っている。

『なら、さっさと戦争を終わらせて、やりたい事が出来るようになると良いな。

 俺が天下を取って平和にしてやるから、後は好きな事しろよ』

昔、高木が大作に話した言葉だった。

『じゃあ、あんたを御輿にしましょう。

 あんたが道を間違えない限り協力するぜ』

そう大作は答えて高木の副官として補佐役をしている。


「俺は道を踏み外していないよな?」

「ここに自分が居る事が証明してますよ……随分、懐かしい事を言いますね」

高木の問いに大作が苦笑して答える。

「まあな」

「まあ、あの言葉のおかげで力を抜いて気楽に生きていますよ」

「そうなのか?」

「ええ、何が悲しくて軍人にならなきゃいかんのだと捻くれていましたから」

よく周囲の士官候補生達と喧嘩をしていた大作。高木とも拳を交えての付き合いから始まった。

高木とコンビを組み始めてから喧嘩も減少した……但し、やる時は高木も加わって派手になったが。

「そういえば、喧嘩してから本を読むようになったな」

時間があればいつも回顧録や歴史書に目を通していた事を高木は思い出す。

「ええ、過去を見直す事で未来をより良く出来る……教わる事が山ほどありますよ」

「平和になったら政治家になった方がいいんじゃねえか?

 これからは政治で状況を動かすようにしないと」

「それも未来を残せる状況を作り上げてからです……今を生き残らないと」

「生き残るさ……その為に此処まで来たんだ」

「それもそうですね」

二人はそう言ってしばらく笑い合うと真面目な顔つきになって指示を出していく。

……自分達の望む未来を築き上げる為に。


―――ピースランド王宮―――


「初めまして、アクア・ルージュメイアンもしくはアクア・クリムゾンと申せばいいのでしょうか。

 こうしてお二人とお会いできて、とても光栄に思います」

赤いドレスを身に纏い、恭しく頭を下げて礼を重んじるアクア。その後ろにはスーツ姿のクロノが立っている。

社交界での武勇は響き渡っている。戦々恐々と言った顔で彼女を遠巻きで見ている人物が大半である。

特に以前、痺れ薬の入った飲み物を口にした人物は警戒しているのか……飲み物を真剣な顔で見ている。

(大丈夫ですよね……まさか、ピースランド主催の歓迎式典で一服盛るなどという事態はないだろうな)

クリムゾン主催だったから……したのだと思いたい。それだけ衝撃的な事件だったのだ。

(あの男が監視しているのだろう……お目付け役といったところか?)

国王夫妻との会話は彼らには聞こえていない……それだけ距離を取って様子を慎重に見ている。

「こちらこそ……娘の事ではお世話になった。本当に感謝している」

「ええ、私からも礼を言わせて貰います。

 ただ残念なのはおしゃれに関心が薄い事ですね……着せ替え甲斐がないのは誠に残念です」

「何を言っているのですか……あれだけ着たじゃないですか?

 まだ着ろというのですか、お母様?」

私怒ってますと言った雰囲気でルリが両親とアクアの会話に入ってくる。

「もう……怒っちゃダメよ、ルリ。

 お母様にすれば大事な一人娘を綺麗に、そして可愛く見せたいと言うのは当然のことなの。

 特にルリは可愛いから着せ替えをしてみたくなるのは当たり前の事よ」

困った顔でアクアがルリに注意する。私も同じように着せ替えさせたいのだというように。

「そんな……勘弁して」

ますます困惑する表情でアクアと母親を見つめるルリ。

「綺麗な自分を大切な人に見て欲しくない?、こんなに綺麗な自分が居るのだから、もう少し見て欲しいと思わない?」

「うっ…………それは……その…良いかも」

その言葉にジュールが自分を見て綺麗だと微笑んでくれる光景を思って……ちょっと複雑な顔で答える。

アセリアは微笑んで見ているが国王は、

(くっ! む、娘は渡さんぞ……まだ恋人など必要ない)

過保護というか、親馬鹿の感が前面に出ているのか……少々不快気に眉を顰めていた。

(ジュールも大変だな……まあ、フォローだけはしておくか)

「ま、まあ、ルリちゃんのボーイフレンドに関してはこの際、置いておくとして綺麗だと思うよ。

 可憐なお姫様だというイメージが上手く出てますね」

「可憐な妖精……といったところですね。

 似合っています……見事です、王妃様」

アクアがルリを見ながら感想を述べる。

ルリはパールホワイトのドレスを身に纏い、この式典に参加している。

透き通るような白い肌に、蒼銀の髪をいつものツインテールで纏められている。

その姿は可憐なお姫様と呼ぶに相応しい容姿であった。

「やっぱり女の子はこうして綺麗に見せるようにしないと……子供達にも着せようかな」

「そうですね、着せ替え甲斐がありました。

 ルリに着せようと思って用意したドレスが無駄にならずに済みました」

ちょっと目を潤ませてアセリア王妃が言う。聞いていた国王も同じ思いなのか……少し沈んだ様子だった。

「これからは幾らでも用意する事も……着せる事も出来ます。

 まだまだ綺麗に可憐になっていきます……恋する乙女ですから」

「なっ、何を言っているんです……恥ずかしいじゃないですか」

「照れない、照れない。ただ……問題はジュールが気付くかどうかね」

「……意外と鈍感ですから」

アクアの意見に肩を落とすルリ。

(むっ、可憐な娘に気づかんというのか……不敬罪かもしれんな)

二律背反する思考で国王は娘が気になる男――ジュール・ホルストを思い出している。

(悪い男ではないだろう……だが、娘は渡さんぞ)


「ジュール、顔色悪いけど、どうかした?」

「嫌な予感をヒシヒシと感じるだけです」

シャロンの問いにジュールが簡潔に話す。その顔色は少々青かった。

「何それ?」

シャロンが呆れた様子で話している。予感なんてナンセンスだと言わんばかりの様子だ。

「確かに大事な娘を奪われる父から見れば……お前は敵だな」

「やめろよ、爺さん。子供に手を出すような真似はしないさ」

うんざりした様子でロバートの言葉に反発するジュール。シャロンはそれで意味を悟っていた。

「言っとくけど、あの子を泣かしたら承知しないわよ。

 私にとっても大事な妹なんだから」

シャロンはルリの事が嫌いではない、結構気に入っている。

「自分の事に対しては不器用なとこあるけど、仕事はきっちりするし自分の意見を話す強さがあるのは気に入ってるわ。

 人に甘えるのが苦手な子だから傷つける事はしないでよ」

「しませんよ。ただ……俺とあの子をくっつけようとするのは困ります。

 こんな捻くれた男よりもいい奴がいると思うんですけど」

シャロンの注意にジュールが苦笑して話す。

「今までは人と触れ合う事が少なかったから、人を知らないだけです。

 火星に帰れば、学校にも通うでしょう。そうなれば兄貴として見てくれると思ってますけどね」

「そうかしら?

 あの子は人を見る目があると思うけど……冷静に観察できる目を持っていると思うわ。

 あの子があなたを大事に思っているのは近くいるだけじゃないわ。

 あなたは信頼と信用を勝ち取ったのよ……そう卑下するような言い方はしなくてもいいのよ」

「だと良いですけど」

シャロンの意見にジュールは皮肉気に答える。

「そうやって捻くれた言い方ばかりするのはどうかと思うわよ。

 見た目だけなら好青年に見えるんだから」

「見た目に騙されて近付くような甘い人は痛い目を見ればいいんです。

 俺に必要なのは強かに近付き、油断しない人間を味方に付ける事ですから」

「ふむ……そういう人間を味方にするのは難しいぞ」

ロバートが自身の経験を思い返して告げる。シャロンも同じように考えているので頷いて賛成している。

「利には利を、求める物があればそれを渡せばいい……ここはそういう世界でしょう?」

皮肉をタップリと加えた意見で二人の心配に答えるようにジュールは話す。

「そういう生き方をすれば……先はわしのように冷たい玉座になるぞ」

「大丈夫、仕事とプライベートは分けるから。

 慕ってくれる人を無碍に扱うような事はしない……大事にするし、守るさ」

「なら良いが、そう考えていても人は忘れる事がある……気を付けるのだぞ」

「ああ……悲しませる事はしない」

そこで二人の会話は終わる。

(やっぱりこの二人って似た者同士かも……仕事が半身にさせないようにしないと。

 そういう意味では強引にでも側にいようとするルリは必要かもしれないわね。

 可愛い子に頼りにされているんだから泣かせちゃダメなんだからね)

二人の会話を聞いていたシャロンはジュールがロバートのように冷たい玉座に座らないように気を付けないと考えている。

(ふむ、どうやらロバート様に似ているようですね。

 これは幸運といっても過言ではありません。リチャード様に似なくて……良かった)

側で控えるミハイルも会話を聞いて一安心していた。

リチャードのようにトラブルメイカーだと非常に困るのだ。そういう意味ではジュールの考えを聞いて満足している。

(やはり、ここは一つルリ様のサポートを考えましょうか。

 ルリ様のような可愛い彼女がいれば……頑張ってくれるでしょう)

余計なお世話だとジュールに言われそうな事をミハイルは考えている。

どうやらジュールの外堀はアクア以外の者も埋めようとしているようだった。

(なんか……嫌な予感がする。まるで包囲されたような気がするんだが……まさかな)

(ほう……これは、曾孫は意外な形で出来るかもしれんな)

ジュールは何故か、嫌な予感が更に強くなった気がして冷や汗が止まらない様子だった。

一方、ミハイルとシャロンの考えを先読みしたロバートは楽しそうに思っていた。


そんな様子には気付かずにアクアと国王夫妻の会話は無事に進んでいた。

「可愛い娘を着飾りたいと思うのは親としては当然なのよ。

 私もラピス達に可愛い服を着せたいといつも思っているから。

 まあ、親の見栄っていう理由もあるけど」

「見栄ですか?」

「そう、ないよりはあったほうが良いんだけど、あり過ぎてはいけないものかしら」

「確かにそういうものですね。ありすぎると良い結果は出ません。

 ルリにはまだ親の見栄というのは早いですが憶えておいて損はありませんよ」

アクアの言いたい事が理解出来るアセリア王妃はその意見に賛成している。

「私達も同じように着飾っているのにも訳があります。

 例えば王が薄汚れた服を着ていては威厳というものを民に感じさせる事は出来ません。

 指導者がそんな格好で他国の者に会えば、国そのものが舐められるのです。

 贅沢だと思う時がありますが国家としての威信も背負わねばならない立場ですからね」

「威厳と威信ですか」

困惑した様子でルリは聞いている。国同士の対応など正直なところ理解できない部分が多い。

「極論だけど、ずっと昔は格下だと思われた国を併呑しようと考える国もあったのよ。

 そういう時代はどうしても自国を守る為に軍備を増強しないと不味いでしょう?」

昔の話を用いてアクアはルリに説明する。

「襲い掛かられないようにそれなりの力があると思わせないといけないの。

 そこに住む人々を守る為に様々な形で攻められないようにしないと、国も傷付くけどそこに住む人々が一番傷付くのよ」

「なんだか火星と似てますね。地球の勝手な都合で苦しんでいます」

「そうね、火星は植民地だと勝手に勘違いして何をしてもいいと考える人が多いわ。

 実際に火星は国家としても形はなかったから」

自治権はあったが独自の武力を与えるのは危険だと地球は言って艦隊を駐留させていた。

予算は火星から搾取したもので賄っていたが第一次火星会戦で逃げ帰る不始末を見せていた。

「お金は火星に出させていたのに自分達の責務は守っていない。

 格下だからってしてはいけない事も平気でするのよ……困った大人なんだから」

「バカばっか」

アクアの説明に呆れた様子でルリが言う。国王夫妻も火星の状況を知っているだけに今の状況を快く思っていない。

「格下と思われるのは悪い事なんですか?」

「微妙なところね、格下だからと思わせて油断を誘うのも策の一つだから」

相手を油断させるのは卑怯ではない。隙を見せる方が甘いとアクアは言っている。

「態とそういう振りをして手痛い一撃を与えるのも有りだから。

 尤も一番良いのは無敵になる事ね」

「無敵ですか?」

「そうだけど、ルリの考えている無敵とはちょっと意味が違うわ。

 無敵というのはね、敵が無いと書くでしょう。つまり敵を作らないようにして、味方を増やすのよ」

「それって難しくないですか?」

敵を作らないなんて絶対に無理だとルリは思っている。

「そんなの当たり前の事よ。要は政治的な努力を行って相手に拳を振り上げさせないようにするのが一番ベターなの」

「難しくて大変な仕事ですね」

「そうよ、だけど人には知恵があるわ。力だけで解決しない問題を知恵を使って解決する。

 だから人は歴史を作り上げて今を生きているのよ」

アクアが微笑んでルリに人の営みを話している。

国王夫妻はアクアがルリにとても大事な事を教えているのを見て微笑んでいる。

きちんと娘に考えさせながら教えるのはありがたいと考えている。人は自分で考え、行動して一人前だと知っている。

失敗する事もあるだろう、だがそれも経験なのだ。同じ失敗をしないものが誰よりも生き残れると思っている。

そんな大人にルリがなって欲しいと思う。

二人にとってアクアはルリの姉としていいお手本になって欲しいと願っている。

アクアと国王夫妻の関係は良好な関係を構築しようとしていた。










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EFFです。

前半が木連、後半がピースランドという形になりました。
もう少しピースランドでの裏工作を入れようかなと考えています。
和平というものは裏工作も時には必要だと思っています。
交渉のテーブルに座らせる存在がどうしても大事だと言いたいですね。
主義主張だけを一方的に言うのは間違いだと感じています。
相手の言い分も聞き、納得できる所は譲歩しないと。
どこぞの国みたいに自分の都合のいい主張ばかりではダメですね。

では次回でお会いしましょう。





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