ありふれた日常を目にする
それを目にする事で平和の尊さを知る
この社会を築いて先人に続き
自分達が守るのだと思うと頑張れる
誰かが泣く姿は見たくない
やっぱり笑顔が一番だな
僕たちの独立戦争 第百二十六話
著 EFF
レオンは久しぶりの火星の空気に触れてホッと安堵していた。
ボソンジャンプターミナルポート――ジャンパーが跳躍する際に思い浮かべるようにしてあるポイントが火星には幾つかある。
ジャンパー教育の際に緊急時にその場所を常に思い浮かべるようにすれば安全に避難できるように方向性を与えたのだ。
ターミナルポート内には医療施設もあり、即座に医療行為が出来るように手配されてもいた。
レオンはサツキミドリからアクエリアコロニーに設置してあるポイントを経由して帰還した。
艦隊戦が終了し、一段落ついてレオンは次の任務の為に一時帰国を果たしていた。
火星コロニー連合政府と木連との戦争終結と国交樹立の為の調印式に軍から出向する。
いきなり木連本国に行くわけではない。
木連も内乱が終結したばかりで国内での調印式は強硬派残党の妨害があるかもしれないと懸念している。
火星としても使節団を攻撃されれば、再び戦火に発展する可能性を考慮して回避したい。
お互いの思惑の結果、両国の制宙圏から外れた場所で行う予定だった。
燻りかけている火種を勢いよく燃え上がらせるわけには行かない……それが両陣営の譲歩した妥協点だった。
「お帰り、レオン」
「ただいま……大きくなってきたな」
レオンは迎えに来てくれたシャロンのお腹を感慨深げに見つめている。
「……男の子だって」
「そいつはいい。一緒に遊んでやれそうだな」
「変な遊びを教えないでよ」
注意しながらもシャロンは微笑んでいる。
張り詰めた雰囲気はなく、落ち着いた雰囲気のシャロンを見て笑みを浮かべる。
レオンはシャロンのお腹の中にいる息子を思うと更に頬が緩む。
「俺も親父になるのか……いつまでもガキのままじゃいられねえか?」
かつて自分が尊敬し、今も大切に想う父親と同じ立場に自分がなるんだと思えば、親の苦労がようやく理解出来る気がする。
「そうね。責任を自覚してね、お父さん」
シャロンの言い方に苦笑して抱き寄せている。
「あん」
「守ってみせるさ……一家の大黒柱としてな」
「……うん」
落ち着いた声にシャロンは力を抜いてレオンに持たれかかる。
「あ〜〜俺もいるんだけど……聞いてます?」
恐る恐る声を掛ける人物に、
「……無粋な奴だな」
「もう少し空気読みなさいよ……そんなんだからルリの尻に敷かれるのよ」
二人は声を掛けてきた人物――ジュールに非難の声を掛けていた。
「もしかして怒られたわけ……理不尽だな。
これがバカップルってやつぅ〜〜」
冷ややかに皮肉をツッコむジュールに、
「……上官侮辱罪で営倉に叩き込むぞ」
「ルリにある事ない事吹き込んで暴走させるわよ」
「ひどっ!!」
容赦のない言葉のナイフを叩きつけていた。
「嫌味いう暇があったら、さっさと報告書を出して姫っちの所に行って来い」
「そうよ。ルリを心配させてんだからちゃんとフォローしなさいよね」
「任務で文句を言われても」
困惑した顔でジュールは二人に話す。
仕事で出張してるのだから仕方ないとジュールは思っているが二人はルリの味方をしている。
(別に良いけど……なんか理不尽?)
「はぁ……俺は毎日とは言わないが近況報告をしていたぞ」
「嘘ぉ!?」
レオンの意外な几帳面さを知って、ジュールは驚きを隠せなかった。
「当たり前だろ。身重のカミさんを心配されるバカじゃねえよ」
「実のところはマリーさんか、アクア姉さん経由でクロノ兄さんに言われたからでしょう?」
ジト目でレオンを睨みながらジュールは問う。
「ナ、ナンノコトデセウ」
「……図星だったか」
自分の予想に冷や汗を浮かべているレオンに呆れた視線を向ける。
「それでも……私は嬉しかったわ。
心配だったのよ……あなたが還って来ないんじゃないかと……」
小さな声だがシャロンの呟きはレオンの耳のは届いていた。
「心配掛けたな……もう少しの辛抱だ。
平和まで後一歩だからな。平和になってら爺様に子供の顔を見せに行こうぜ」
「……うん」
「お熱い事で……」
やれやれと肩を竦めたジュールは新婚丸出しの桃色空間を発生させた二人から離れて報告の為に政府に向かう。
ただ、不器用な姉が幸せになれると思うと頬を緩ませずにはいられなかったが。
ジュールは先ず軍司令部に向かい、サツキミドリとその周辺の状況を調査した報告書を提出する。
その上で、グレッグ司令官に同行して連合議会議事堂に出頭する。
艦隊戦の結果報告及び現在の状況を口頭で求められていたのだ。
「―――以上が損害と現在の我が軍の置かれている状況です」
「うむ、当面は戦端を開かれる可能性は少ないな」
ジュールの口頭での報告を聞き終えた議員の一人が自分なりの予測を話す。
「クロノ、ゲイル両提督も同じ結論に達していますが、
L2コロニーに停泊中のネルガルの新型艦の動向次第と考えておられます」
「……シャクヤクか」
「勝った事に違いはないが……不安要素が一つ残ったわけか」
内心忸怩たる思いでいるのだろうとジュールは議員達を見ている。
ジュール個人はルリの一件とラピス達の事件を知っているのでネルガルに対して好意的ではない。
議員達もネルガルに対して含む所があるが……立場ゆえに感情論に走るわけには行かない。
(権力を悪用せず、立場を弁えて自己を律する……大人なんだろうな)
公人としての立場と私人としての立場というものを制御する事をジュールは彼らから学び取っていた。
「時に……地球の選挙戦はどうなっておる?」
コウセイ・サカキの質問にジュールは姿勢を正して報告する。
「はっ! 忌憚ない意見を申しますと……」
ジュールはそう前置きして議員達の視線が集まるのを確認して意地の悪い笑みを浮かべて告げる。
「現政権に所属している議員連中が右往左往していました。
次から次へと連中にとって不都合な事実がスクープされているので……お終いだと思われます」
ジュールの報告の意味を理解している議員達はニヤニヤと笑っている。
彼らにすれば、ようやく溜飲が下がったのだ。
散々火星の救援をせずに自分達の都合の良い事ばかりしていた連中の痛い所を表に出して……破滅へと誘導した。
「因果応報、自業自得というのがピッタリの表現でした。
彼らが表舞台に立つ事はもはや……ありえませんね」
ジュールの私見だが、議員達も同じ見解に達している。
人の不幸を喜ぶのは不謹慎だが……自分達の苦労を考えると少々意地が悪いがどうしても頬が緩んでしまうのだ。
「連合宇宙軍も今回の艦隊戦で多大な損害を出しております。
次の政権が連合の経済に負担を強いる覚悟があれば再び戦闘に及びますが……次の政権はそのような暴挙はしないでしょう」
グレッグが自分なりの今後の推移を告げる。
それを聞いた議員達も納得し、今後の推移について意見交換を活発に始めている。
ジュールもグレッグも自分達に与えられた席に座って静かに聴いていた。
「お二人も本日はご苦労さまでした。
クロノ、ゲイル両提督に言うのも今更なんですが、"警戒を怠らずに、職務に励んでください"とお伝え下さい」
最後にエドワードが二人に労いの言葉を告げ、この場にいない二人へのメッセージを伝える。
「「はっ!」」
二人は敬礼で応えて議事堂を後にした。
議事堂から表に出た二人はエレカーに乗り、軍本部へと向かう。
「ご苦労だった。本部に戻ったら……今回の君の任務は終わりだ。
後は三日後の移動まで休暇を楽しんでくれれば良い」
「ありがとうございます」
宇宙軍トップのグレッグから労いと休暇の旨を告げられて、ジュールは礼を述べる。
「火星は平和になった」
「そうですね」
窓の外に目を向けてグレッグはようやく此処まで来たと感慨深げにアクエリアコロニーの街並みを見つめている。
ジュールも街を歩く人々が安心している様子を見て平和の大切さを実感している。
「願わくば、こんな時間がずっと続けば良い」
「それを維持するのが僕達の世代の役目なんでしょうね」
「そうだな。我々が築いた社会の不具合を修正して、より良い社会を構築する……それが次の世代の役目なんだろう。
そういう意味ではクロノ、レオン、ゲイルに続くのが君達若手の役目だな」
「残念ですが、僕は多分……軍には残れないと思います」
申し訳なさそうに話すジュールに、グレッグは気にした様子もなく穏やかに話す。
「軍にいるだけが平和を維持するわけではないさ。
平和になれば自ずと軍に役割は小さくなり、社会に出ている者が重要になる」
ジュールを諭すようにグレッグは持論を述べる。
「軍をいう物は諸刃の剣だ。無ければ良いのが一番だが……世の中そう甘くはない。
面倒な話だが必要不可欠というか、必要悪かもしれん」
「大胆な説ですね」
「軍の力を自分の力と勘違いして厄介事を起こす連中がいるからな」
「……この戦争でもそんなバカがいました」
「だから、そういう社会を作らないようにするのが社会人の役目なんだよ。
軍内部から浄化というのが一番だが、外から警告を発するのも大切なんだ」
力という物を過信していないグレッグならでは意見だった。
「貴方を軍の重鎮にしたのは間違いではありませんね」
「さっさと後進に譲って……楽隠居したいんだがな」
ツイてないのか、火星にとって必要不可欠ゆえか、なかなか退役できないグレッグの状況を思い苦笑するジュールであった。
(兄さん達は現場に出たがるからな)
まだまだ俺達は第一線の現場が良いんだよと態度で示す三人にグレッグの大変な苦労をジュールは感じていた。
ルリ・エレンティア・ルージュメイアンの想い人を知るのは非常に難しいと周囲のクラスメイトは考えている。
余程厳しい口止めを施したのか……妹さん達から聞くのは不可能との見解に達していた。
「からかわれるのが嫌なのか……」
「すっごい格好良いのか……かな?」
「それとも……その逆かな?」
概ねこの意見でまとまり、調査が難航しているので結論が出ていないのが現状だった。
ルリの本音を聞きだしたいが、
「ルリちゃんって妙に迫力あるのよね」
「うん、将来大物になれそうだね」
気迫というか、物凄い重圧を掛ける事が出来る隠されたスキルをルリは持っていたので……ちょっと男子もビビっている。
「意外と女王様系?」
「ツンデレ系?」
などと男子からは新たな境地を見せるルリに一部は更に熱狂しているが……、
(はぁ〜〜ジュールさん……元気でしょうか?
兄さん達がいるから大丈夫とは思いますが……意外とドジですから心配です)
そんな思いなど知らずに離れた場所にいるジュールの身を案じていた。
本日の授業も終わり、生徒達はそれぞれに放課後の予定に従って行動を開始する。
ルリもまた帰宅する為に携帯端末を片付けている。
(この時代ならパソコンによるネットワークの授業もごく普通かなと思うのでノートとか筆記用具もあまり重要じゃない設定で)
「ル〜リ〜ちゃん♪ 地球産の材料使ったケーキのお店が出来たけど行かない?」
クラスメイトのアリシアが帰宅準備をしていたルリに声を掛ける。
「……珍しいお店が出来たんですね」
「そうなのよ♪ その分、ちょっと高いけどね」
火星の農業事情は確かに改善されているが、まだ地球の品質には及ばない。
今現在はクリムゾンによる交易で輸入しているので、地球産の材料は希少価値が高く嗜好品として愛好家が買うのが主流だ。
いずれ火星の市場に参入をするアスカ、マーベリックからも輸入があるので値は下がると思うが今はまだ高価だった。
「儲けは出るんでしょうか?」
「……いや、そういう話じゃなくて」
的外れなルリの意見にアリシアはちび○子風味の縦線を顔に浮かべていた。
言われたルリも採算の話に飛ばした事に気付いて……失敗したと思い、苦笑していた。
「そうですね……」
ルリは考え込みながら、ふと……窓の外に目を向けて、
「申し訳ありません。今日はダメです」
「予定あったの?」
「いえ、今出来ました」
慌てて、自分の服装におかしな所がないか確認しながら返事をしていた。
「ゴメンなさい。急ぎますので、また明日にでも」
一応の断りを入れながら、ルリはいつもと違うパターンで足早に教室を出て行った。
「ど、どうしたんだろ?」
「珍しいね、ルリちゃんが急ぐなんて?」
二人の会話を聞いていた女子が不思議そうに出て行くルリの後姿を見ていた。
「あ、サフィーちゃん、ネリーちゃんにガーネちゃんに……誰?」
アリシアが窓の外に目を向けるとルリの妹達ともう一人知らない青年が校門の前で待っている。
「銀髪でバイザー掛けてる人って居たかな……護衛の人?」
クラスメイトの指摘の通り、その青年はバイザーを着けている。カジュアルな服装だが落ち着いた色合いで纏められている。
「お兄さんのクロノさんは真っ黒けだけど……!ゴメン今日の予定は変更するわ!!」
アリシアは慌ててルリの後を追う様に駆け出す。
「噂のジュールさんに会うチャンスよ!」
その一言でクラスが騒然となったのは言うまでもなかった。
クラス男子の強敵出現による警戒の視線と女子の好奇心が混じった視線が窓の外に向けられていた。
一気に乱入すると後でルリの妙な迫力に押し潰されるとクラスの全員が学習しているので、ポジション的に最も近しいアリシアなら大丈夫と判断して、後日アリ
シアから聞き出す事にしていた。
「ルリお姉ちゃん……遅いね」
「早く来すぎたかな?」
サフィー(サファイア)、ネリー(カーネリアン)の二人がちょっと心配そうに待っている。
「まだ終わったばかりだから、もうすぐ来るよ」
ガーネ(ガーネット)が二人を宥めるように話すのを見て、
(それぞれ個性が出てきてるな。初めて会った時はいつも三人一組で居たけど……)
などと俺は感慨深げに見ている。
小学校から帰ってきた三人に、散歩に行こうと言われてルリちゃんを迎えに行く破目になるとは思わなかった。
「ルリちゃん来たら、どっか寄り道しようか?」
他愛ない一言だったが、三人には非常に意味があったみたいで、
「えっとね〜、ケーキ屋さんがいいな」
「ええ〜、クレープにしようよ」
「両方じゃダメ?」
思わず、失敗したかなと後悔していた。
(やっぱり女の子なんだな。甘い物には目がないらしい)
「じゃあ、クレープ屋さんに行って、お土産にケーキを買っていこうな」
譲歩案を出した俺に三人は嬉しそうに頷いていた。
「夕飯の事もあるから一人一品だぞ。
ケーキは夕飯のデザートでみんなの分も買うからな」
「「「ええ〜〜」」」
「……虫歯が出来て、太っても知らないぞ」
……困った顔で告げる俺の言い分は絶対に間違っていないと信じていた。
急ぎ足で校門に向かう。
(どうしてあの人は!?)
一言連絡が欲しかったという苛立ちとこうして自分の逢いに来てくれて嬉しいという気持ちがごちゃ混ぜになる。
「ルリちゃん!」
「ア、アリシアさん!?」
背後から声を掛けられて、内心ではちょっと驚きつつ……振り向いて返事をする。
「今日の予定は変更するから途中まで一緒に帰らない?」
ダッシュしてきたのか……少々息を乱しながらアリシアさんは聞いてくる。
「え、えっと……「じゃあ、先に校門まで行ってるから」」
私に有無言わさずにアリシアさんは告げると急ぎ足で校門に向かう。
「ま、待って!?」
その場の勢いに途惑った私が慌てて答える時には既にアリシアさんは校門へと向かっていた。
私はアリシアさんの後を追うべく、慌てて駆けて行った。
「サフィーちゃ〜ん」
「あ、アリシアお姉ちゃん」
サフィーの名を呼ばれてそちらに目を向けると、
「こんにちわ。ルリちゃんのお兄さんですか?」
「まあ、義理だけどな……ジュール・ホルストだ」
「私はアリシア・ヴィレッタと言います」
一応の自己紹介を終えた後にルリが五人の前に歩いて来る。
「ルリお姉ちゃん♪」
サフィーが楽しそうにルリの側に駆け寄ってくるが……ルリの視線はジュールとアリシアに向けられている。
「……何をやっているんですか?」
妹達と仲良くするのは我慢できるが……自分を差し置いて、アリシアと会話するのは何事かと言った視線でルリはジュールを睨んでいる。
「よぉ、ルリちゃん。明日なんだけど時間取れたから、放課後でよければデートしようか?」
嫉妬混じりの視線を物ともせずにジュールは明日の予定をルリに尋ねる。
私、怒っていますという雰囲気のルリはちょっと吃驚しながらもデートのお誘いを聞いて、
「ま、まあ、構いませんよ」
そんな事では誤魔化されませんという表情を出しながらも……醸し出す雰囲気は浮かれていた。
「素直じゃないんだから」
「あれはあれで可愛いもんだよ」
苦笑しながら話すアリシアにジュールが大人の余裕といった感じのコメントを話していた。
「さて、これからみんなとクレープ屋に行く事になったんでルリちゃん達も行くかい?」
「良いんですか?」
「奢るよ」
「ゴチになりま〜す♪」
ラッキーと思いながら、すぐ近くでルリの想い人の観察が出来る幸運にアリシアは感謝している。
アリシアは噂の人物ジュールはどうやら優しい頼りがいのある大人かなという第一印象を感じていた。
ただ……隣にいるルリの燃え盛る嫉妬の視線だけは勘弁して欲しいと切に願っていた。
「さて、どの店が美味しいんだろうな?」
「う〜んとね、いつも行ってるお店でいい?」
「そうだな。そこにするか」
ガーネちゃんがちょっと考え込むようにして尋ねると優しく笑って決定する。
「じゃあ、こっちだよ」
ネリーちゃんが楽しそうにジュールさんの腕を引っ張りながら歩き始める。
「ま、待ちなさい!?」
慌ててジュールさんの腕に自分の腕を絡めるという大胆な事をするルリちゃんに驚きながらも私は一緒に歩いて行く。
……明日の報告を期待するというクラスメイトの視線を一身に浴びながら。
「……ルリお姉ちゃんも大人気ない」
私は意外と大人な発言をするガーネちゃんにちょっと驚いていた。
「ジュールお兄ちゃんはルリお姉ちゃんにベタ惚れなのに」
「そ、そうなのかな?」
「プッシュ、プッシュじゃダメだってマリーが呆れていたもん」
ルリちゃん家の最高実力者と認識しているマリーさんの呆れ顔を想像しながら返事をする。
「……さいですか」
ルリちゃんの色恋沙汰の不器用さに涙したのは秘密にしておこうと思う。
「「だって、その方が楽しい(もん)から♪」」
しっかり者の妹さんとピッタリ意見を統一させたから♪
ジュールさんの右手を握って引っ張るように連れて行くネリーちゃんに、左手に自分の腕を絡めるのが当然という雰囲気のルリちゃんに、ルリちゃんにベッタリ
のサフィーちゃんの四人の後姿を見ながら私達は歩く。
「……一言で言うと混沌?」
ルリちゃんはジュールさんに構って欲しいし、サフィーちゃんはルリちゃんに構って欲しい。
ネリーちゃんはこの後食べるお菓子の事で頭が一杯だから……この微妙な雰囲気に気付いていない。
「まあサフィーはルリお姉ちゃんと手を繋げて満足しているから大丈夫だよ。
問題はルリお姉ちゃんが焼き餅妬いて暴走……かな?」
ガーネちゃんが現状に基く未来予想を述べている。
「まあ、被害はジュール兄ぃが一身に受け止めるから良いけどね♪」
「ジュールさんってどういう人?」
「ルリお姉ちゃんの婚約者候補で、パパには負けるけど、ママより美味しいご飯を作れる。
ここ一番でイマイチ決める事が出来ない……ん〜他には」
ルリちゃんの婚約者候補?という言葉にはちょっと吃驚する。
「ルナお姉ちゃんが言うには、皮肉屋で捻くれ者で一言多くて……シバきたくなるだって。
シンお兄ちゃんが言うには、苦労人で多分胃薬を常備するんじゃないかなだった」
「…………(全然、分かんないわね)
つまり、一言多い皮肉の所為で殴られて、ルリちゃんに振り回されて心理的なダメージを被る?」
「でも、ルリお姉ちゃんにベタ惚れだから逃げられない……幸せと不幸が同居している大切なお兄ちゃん♪」
見ている分には楽しいと言わんばかりに話すガーネちゃんに一抹の不安を感じたのは絶対に間違いじゃないと思う。
(もしかして……ラピス、セレスちゃん達より……ブラック?)
アクアさんの薫陶よろしくの二人より……実は裏から手を回しそうな策士?で、地味でおとなしい子だと思っていたけど……アクアさんを超える存在かもしれな
いと脅威を感じていた。
今日に限って、クレープ屋さんが臨時休業だったのでクラスの皆と行く筈だった噂のケーキ屋さんに変更する。
店内の六人掛けのテーブルに座って、セットメニューを注文する。
「……かつかつの儲けになりそうだな」
「良心的なお店ですね」
メニューの料金部分を見てジュールさんとルリちゃんが店の評価を行っている。
「まあ、地球との流通が本格的に始まれば……材料費は下がるからそれまでに顧客を獲得するかだな」
「リピーターを多く作れば勝ちですね」
食い気も色気もない会話に内心でため息を吐いている。
「ジュールお兄ちゃん……あ〜ん?」
ガーネちゃんが邪気を微塵も感じさせない笑顔でジュールさんの前に切り取ったケーキをフォークに刺して差し出す。
(……やるわね)
引き攣った顔をしながらもジュールさんはガーネちゃんの好意を無にする訳にも行かずに……食べる。
「今度はジュールお兄ちゃんのケーキ一口頂戴♪」
「……あ、ああ」
雛鳥みたいに口を開けたガーネちゃんに青い顔でジュールさんがケーキを食べさせる。
ジュールさんの隣に座っているルリちゃんの視線は絶対零度だった。
これは私の勘だけど……ジュールさんはケーキの美味しさを感じる余裕はないと思っていた。
「ん〜〜美味しいね♪」
「そ、そうか」
「ジュールお兄ちゃん、今度はルリお姉ちゃんにあげて♪」
「は、はい?」
ルリちゃんが噴火する前に、鎮火させるという手段を講じる手際の良さに感心するし……ジュールさんの逃げ場を無くすのもグッドだ。
「え、ええと……ルリちゃん食べる?」
「……是非、頂きます」
色気のない状況から一変して、緊張感溢れる状況に持ち込むのはグッジョブかもしれない。
「……お、美味しいかな?」
「お、美味しいです」
「じゃあ、今度はルリお姉ちゃんの番で、その次はサフィーね♪」
砂糖を吐きそうな甘々な状況を演出するガーネちゃんに感謝。
サフィーちゃんが嬉しそうな笑顔で準備する以上……二人は逃げられない。
我関せずの雰囲気を出して、ネリーちゃんに構っている私の前で嬉し恥ずかしのシチュエーションをルリちゃんは行う。
「……ジュ、ジュールさん、ア〜ンです」
「あ、ああ」
デジカメを用意しなかった自分の不手際を深く後悔していた。
とりあえず、この日分かったのはジュールさんがルリちゃんの大本命でいい人だけど……不遇な人というだけだろう。
後はガーネちゃんを絶対に敵に回してはいけないと知った事だった。
(ガーネちゃん……怖ろしい子!?)
……ドッと疲れた。邪気がないだけに、始末が負えないから困る。
「ま、まあルリちゃんの機嫌が良ければオッケーだ」
最優先なのは、その点だと無理矢理決め付けておく。
「……お疲れ、兄貴」
モルガが俺の様子を見て、労う言葉を告げるのが嬉しかった。
同病相憐れむというか……クオーツ達の苦労を今日一日で実感する。
前から感じていたが、この家は女性陣の方が強いとはっきりと理解した。
「お疲れだな」
「ほっといて下さい」
レオン兄さんの意地の悪い労いの言葉を切って捨てる。
散歩の内容をネリーから聞いたレオン兄さんは爆笑してくれました。
ええ、それはもう大口開けて、馬鹿みたいに笑ってくれましたよ。
シャロン姉さんはしっかりしなさいよと呆れた声で言うし、ラピスとセレスは自分達にも奢れと怒ったので理不尽だと思う。
モルガはラピス達に「せこいし……太るぞ」と言って撲殺寸前まで殴られていた。
あいつのツッコミは誰に似たのか……姉さんも不思議そうに見ていた。
止めなかったのは太る発言に怒ってたからだろう。
その後、異様な速さで回復していたのは驚くしかなかった。
イネスさん曰く、超回復のナノマシンがあるかもしれないそうで……虎視眈々と次の健康診断を狙っているみたいだった。
マッドではあるが、あくまで健康診断の際に微量のナノマシンを検出する訳だから大丈夫だと思う(多分)
もしナノマシンじゃなかったら……面白いわねと笑っていたのはこの際忘れる事にする。
だが、弟モルガの明日に涙したのは……言うまでもなかった。
「ルリちゃん……明日だけどどうする?」
「えっと……待ち合わせですか?」
「ここから一緒に行くのも良いけど……ルリちゃんはどうしたい?」
雰囲気作りは大事だとガーネに何故か……言われた。
どうもガーネはおしゃまな気がするし、マリーさんも注意深く見ている。
「予定では映画でも見て……夕飯は外で食べようかと考えているけど」
「……一緒に行きましょう」
何か思う所があったのか、一拍間が開いてからルリちゃんは答えた。
「その方が邪魔者は少ないしね♪」
ガーネの楽しそうな呟きは聞かなかった事にしようと決めた。
何か違和感を感じる。まるでガーネにアクア姉さんが乗り移った気がしてならない。
俺はガーネの無邪気さを勘違いしている気になって仕方がない。
まさかと思いつつ、この直感が外れる事を祈る事にした。
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どうもEFFです。
……思いっきり脱線しました。
政治的な話だったのに書き終わってみるとラブコメ調……何故?
まあ、次の話は真面目に書くという事で(核爆)
それでは次回でお会いしましょう。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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