「あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――ッ!!」
超 鈴音は自身の研究室で頭を抱えて、床をゴロゴロと転がって……悶えていた。
「ミ、
ミドリと、キンの悪魔メ…………これが弟子に対する仕打ちだたか!?」
原因はこの場に居ない未来の師にあった。
超は修学旅行以後……ある人物に封じられていた記憶を徐々に取り戻していた。
自分では記憶に齟齬はないと思っていたが、実際にはその人物に未来情報を封じられていたとようやく気付かされた。
自身が覚えていた歴史の記憶の改竄など絶対にしないだろうと思っていたが、師はあっさりとその前提条件を覆していた。
今頃、その人物は絶対に自分のこの混乱する姿を思い浮かべて楽しんでいると思うと腹が立っていた。
「コ、
コノ記憶は必要ダロウ……ココで修正を加えれば……スベテ解決するのに!!」
何度もこの場に居ない師を罵り、修正不可の現状を超は呪う。
「だから……フェイト先生は…………憐れんでいたんダナ」
出立の際に憐れむ視線を向けていたとても頼りになる先生を思い出して、何故そんな目を向けていたのかを……理解した。
しかし、それはもはや後の祭りでどうにもならない現実しかなかった。
「超さん……仕事してください」
何をしているのか理解出来ない葉加瀬 聡美が仕事をしない超に抗議する。
聡美の抗議に超はビクッと身体を震わせて動きを止める。
「スマナイ……あまりにも衝撃的な事実を前に現実逃避したいのダヨ」
黄昏て……枯れ切ったような疲れた顔を見せる超に聡美は若干引いてしまう。
今の超には麻帆良最強頭脳という異名が当てはまらないほどに大胆不敵さが見えない。
「そ、そうですか(超さんをココまで追い込む人物がいるとは意外ですね)」
「アア、まさか……思い出したくない御先祖様の黒歴史の
数々の原因を自分が生み出したとは想像できなかたネ」
「く、黒歴史ですか?」
黒歴史――それは本人が隠しておきたい失敗談や恥ずかしい話だと聡美は思い、その原因を作ったのが超だと聞いて……冷や汗を浮かべて戦慄していた。
「クゥゥ……自分達が恥を掻いた
から、子孫も恥を掻き続けろと言うノカ!?」
悲壮感溢れる超の慟哭に聡美は今日ぐらいは休ませてあげても良いかなと同情的な視線を向ける。
本日、超 鈴音は既に修正不可能な問題を思い出してしまってテンパっていた。
麻帆良に降り立った夜天の騎士 七十二時間目
By EFF
「ネギ……リィンちゃん、回復したわよ」
「ホ、ホントですか!?」
夕飯の席でどこか素っ気ない様子で話すアスナにネギは激しく反応した。
現在、ネギは別荘のあるエヴァンジェリン邸へ足を運んでいない。
自身が抱えている闇をエヴァンジェリンに気付かされたネギは理想と現実のギャップから未だに抜け出せていない。
気持ちは多少は持ち直していたが、答えを求められた時、答え様がないという矛盾があったのだ。
(答えなんて……六年も誤魔化していたものが、今になってあっさりに出るわけないじゃない)
復讐という感情がアスナには今一つ分からないが、ネギの中では復讐イコール悪い事と繋がっているんだと思えば、答えなんて最初から出ているんじゃないかと
ネギにツッコミたいアスナ。
もっともそれを行ったら、ネギがまたマイナス方向へとどっぷり落ち込むと分かっていたので黙っているが。
「だから明日ね、学校で顔合わしても……変に気を遣わないでって」
「そ、そんなわけにはいきませんよ!」
ネギの様子にアスナはやっぱりという表情でため息を漏らす。
顔を合わしたリィンフォースが非常に面倒そうに話していたのと同じ展開になると想像して……嫌そうに顔を顰めた。
「あのさ、学校はね……基本魔法を知らない人ばかりなの」
「え、ええ、そうですね」
急に話を変えられてネギは困惑気味になるが、アスナはそんなネギの様子など気にせずに告げる。
「アンタさ、一般人の前で魔法云々の話する気?」
「あ、ああっ!!」
魔法の秘匿を持ち出されて、ネギはアスナが何を言いたいのか分かってしまう。
「そうやって、抜けた事ばかりしているから……無関係な人を巻き込んじゃうのよ」
痛恨の一撃とも言えるアスナの注意にネギは動揺した。
そして、自分の迂闊な行動の積み重ねが周囲の人を巻き込んでいくんだと思い……ネギの心はまた落ち込み始めていた。
「ちゃんと謝罪するんなら放課後にでもエヴァちゃん家に行けば、問題ないじゃない?」
「そ、そうです。僕、明日の放課後にでも行きますね!」
「ちなみにこれから行きますなんて言ってたらぶっ飛ばしていたけどね」
「え、ええっ!?」
「っん
なの当たり前でしょうが!! 少しは相手のことも配慮しなさいよ!!」
「そやな、夕飯時にお邪魔する言うのは……マナー違反やと思うえ」
「ネギってさ、一応常識はきちんと知っているみたいだけど……自分の都合を優先して相手の事を考えないでしょ?」
「そ、そんな事はありませんよ」
用意を終えた木乃香がキッチンから出てきて、三人は食事に入る。
しかし、ネギは過去の自分の行動を振り返って、アスナの話を聞かずに失敗した時の事を思い浮かべて落ち込んでいた。
「食事時に乱入するなんて暴挙をリィンちゃんが許すと思うの?」
「…………」
アスナの言葉にネギは苦しげな表情で黙り込む。
「そんなんやったら、ネギ君……死ぬえ」
ネギとアスナのご飯をお茶碗に盛りながら木乃香が呆れた顔で話す。
「全くよ(だいたい謝ったって……どうにもならないんだから、ただの自己満足じゃないの?)」
木乃香からお茶碗を受け取りながら、アスナは後ばかり向いているネギの心情に内心でため息を吐いている。
流石に口に出すとネギが絶対にショックを受けると分かっているので絶対に言う気はなかったが。
「そもそもネギだけが悪いんじゃないし……」
「そやな、どっちかと言うたら……うちのお爺ちゃんのミスやしな」
「…………」
そんな事はないとアスナと木乃香に言いたくなるネギ。
ネギ本人にしてみれば、自分が麻帆良に来た所為で起きたと思っているので、その意見は受け入れにくいのだ。
「はぁ……(責任感じてんのなら荷物まとめて出てけって、リィンちゃんが冗談みたいに話してたけど……無理よね)」
今更の話と前置きしてリィンフォースが言ってた内容にアスナは手遅れという言葉の重さを感じていた。
既に自分もリィンフォースも誰かに目を付けられている以上、ネギが帰ったところで意味はない。
どうにもならない現実にアスナは面倒だと嘆息していた。
同時刻、エヴァンジェリンは明日の事で、面倒が起きなければ良いなと思っていた。
(ぼーやが教室で迂闊な事を言わなければ良いんだが……)
一応、アスナに注意するように言い含めたが、微妙に自分本位なネギだから馬鹿みたいに口走る可能性がある。
(自覚がないだけに……困ったぼーやだ)
機転が利かないわけではないが、経験不足で常識が欠如し、まだまだ空気が読めない言動が多いだけに心配の種がある。
うっかり謝罪の言葉でも出してしまえば、クラスの視線が否応なく集まってしまう。
(……答えはまだ見出していないくせに)
今後の課題とも言うべき問題に対する覚悟はいまだ定まらず、ウジウジ悩んでいるらしい。
(綺麗に生きようとしたところで……こっちの世界にどっぷりと浸かってしまえば、意味はないんだがな)
清廉潔白などという言葉など何の意味も持たないルールがあってないような世界の裏側。
まあ相手に合わせて、汚い手段を使うというような機転を利かせる器用さはないとしか思えない程の頑固さ。
(今は綺麗事をほざくだけの余裕があるが、それもいつまで続くやら)
どんなに上手く立ち回ったとしても人の恨みを買わないという現実などありはしない。
勝つという事は敗者を生み出す事であり、その人物の願いも思いも主義主張を踏み躙るのが当たり前の話のだ。
その辺りの覚悟が出来ているとは思えないし、自身が起こした行動の結果を今一つ顧みない部分もある。
「茶々丸……」
「分かっております」
主の言いたい事を理解している従者は頷き、警戒しますと目で応じる。
「……任せたぞ」
「はい、マスター」
エヴァンジェリンは学園祭が自分達にとって一つの区切りになると考えている。
学園祭が終われば……自身を拘束する登校地獄の呪いはリィンフォースによって解呪されて、十五年も続いた不自由な時間から抜け出せるのだ。
「…………あのジジィともおさらばだ」
「マスターをいい様に使ってましたね」
「全くだ! まさか、単位に小細工をして留年扱いにするとはな!!」
ナギが話した三年という区切りにはきちんとした意味があった。
中学生として三年間、きちんと学業をこなせば……卒業という形で解呪できたのだ。
元々登校地獄とは登校拒否の人間を呪いで縛って強引に登校させるもので、卒業という結果で頚木は外れる筈なのだ。
では何故、登校地獄が解けなかったというのかは、
「人の単位を偽装して、単位不履修で……留年だと!!」
出席日数も単位も最初の三年間はきちんと確保していた。
しかし、現実は卒業はしたが……呪いは解けなかった。
原因はナギが適当に呪文を唱え、魔力を過剰に込めた所為ではないかと思っていたが、何の事はない……人手不足を嘆いている老人と悪の魔法使いを自由にさせ
るのを許さなかった連中が嵌めただけだった。
リィンフォースが登校地獄の本質を聞いて不審に思い、茶々丸に学園都市のデータベースにクラッキングさせて判明した。
エヴァンジェリンに渡した成績表にはきちんとした成績を書いたものを渡し、その裏では偽装していた。
魔法を使わずに生徒には触れる事が出来ない資料として学園側に残し、偽装する事で呪いの精霊を誤魔化していたのだ。
その裏側の事情を知った時、エヴァンジェリンの胸の内は怒りで満たされていた。
慌ててリィンフォースと茶々丸が押さえなければ、学園長室に殴りこんでいただろう。
「フン! 素直に今しばらく残ってくれと頼めば良いものを!
そうやって嘘を嘘で固めて真実を覆い隠そうとしても……結局逃れられんというのに!」
別に此処での生活が嫌かと聞かれれば、素直に話す気はないが悪くはなかったと言えるだけのものがあった。
魔法使いとの険悪な関係は今更なのでどうこう言う気はない。
登校地獄を使って自分の魔力を封じているので、呪いが解ければ全盛期の半分程度でも使える筈で不自由さもなくなる。
その為、相互不干渉であれば、問題をこちらから起こす気はなかった。
結局のところ、信頼関係が出来なかったのが悪いのかもしれないが、互い歩み寄る事をしなかった以上はどうしようもない。
「どちらにしても学園祭が終われば、マスターは自由になれます。
その時に彼らがどう動くかで……結論を出せばよろしいではありませんか?」
「それは認めてもいいが、私は状況に流されるのが嫌いなんだ。
自ら動く事で状況を作り出す……結果はどうあれ、その行為こそが後悔のない生き方だと私は思っている」
「流されて生きていく事は良くない事なのですね?」
エヴァンジェリンの経験を積んだ果てに得た生き方。
まだ経験の少ない茶々丸には反論するだけの言葉の重さがない。
「そうだ、流される生き方はロクなものにならん。
後悔に後悔を積み重ねて……苦い思いを味わうだけだ」
「では、ネギ・スプリングフィールドという人物はどうなりますか?」
話を変えるというか、茶々丸は参考例として聞いてみたくなって口に出した。
「フム、今のままだと大成せんだろうな。
アレはまだ自分の価値観があやふやで押し付けられた周囲の価値観で染まっている。
まぁ、あのバカの背中を追いかけるにしても……その生き方を教えてもらってないくせに分かった口振りだ。
ククク、何も知らんくせに正義がどうの、悪がどうのと言う限りは他者に利用されて……お終いだ」
ネギの行き着く先をエヴァンジェリンは意地の悪い嘲笑で茶々丸の話す。
茶々丸はエヴァンジェリンの告げた内容を吟味して尋ねる。
「つまり主体性のないネギ先生は誰の操り人形になりやすいと?」
「流される生き方をしている以上はそうなるだろうな。
本人は操られていると思っていなくとも、状況を上手く作り出せる者ならコントロールできるさ」
「なるほど、今も学園長の掌の上で踊ってますね」
茶々丸にしては辛辣気味な発言ではあるが、間違ってはいないとエヴァンジェリンは思っている。
「そういう事だ。神楽坂にしても、近衛 木乃香にしても半分くらいはジジィの思惑通りになったからな」
魔法の隠匿という点に於いてネギ・スプリングフィールドという人物はダメダメだとエヴァンジェリンは判断していた。
そもそも数えで十歳の見習い魔法使いの少年を何も知らない人物と同居させる事自体が間違っている。
才能豊かな人物だとしても、自由に魔法を使える閉鎖された環境で育った以上は注意しても難しい話なのだ。
(魔法が当たり前に使える環境とは違うと頭では分かっていても……いや、あれは全然頭に入っていなかったか)
赴任初日の出来事を思い出してエヴァンジェリンは不機嫌な顔に変わった。
自分は魔法を使えない状況で不自由しているというのに、ネギはいきなり魔法を垂れ流すような無駄遣いをしていた。
正直、あんな未熟な制御しか出来ない見習いを送り込んだウェールズの魔法学校のレベルの低下に呆れていた。
そしてレベルの低下だけではなく、色眼鏡で目が曇っていたか、腐っていたんだろうと今では思っていた。
「ま、なんにせよ。私はぼーやをある程度まで引き上げたら放り出す。
茶々丸、お前もそのつもりで対応しろ」
「承知しました、マスター」
「ぼーやを鍛えるより、いずれリィンが連れてくるアリシアを育てるほうを優先するぞ」
事前に聞いた情報では魔力量はネギ以上だと聞き及んでいる。
記憶転写という技術で魔力運用の基礎的なものは履修済みらしいので後はどうとでも育てる事が出来る原石状態。
魔法使いと魔導師のハイブリットを育てるのも面白いかもしれないと楽しい未来図を浮かべる。
茶々丸は茶々丸でネギに対して特に思うところもないのでエヴァンジェリンの意向に異を唱える気もない。
何よりも子育ての経験を積む事で将来リィンフォースの子供を預かる際に役立つと思えば、問題なしと判断する。
方向性は若干ずれているが二人は今後の事を楽しい事態を思い浮かべて笑みを浮かべていた。
翌日の3−Aの教室は異様なプレッシャーに満ちていた。
ここ数日、担任であるネギの様子がおかしかったので生徒達は一様に心配していた。
若干持ち直しかけてほんの少し安堵していたのだが、
(…………どういうこと?)
体調を崩していて休んでいたリィンフォースにチラチラと視線を向け……気にしている。
事情を知らないクラスメイトは絶対に二人の間に何かあったのだと確信していた。
(やっぱり人の話を聞いてないんだから!)
昨日わざわざ注意したのに、結局ネギの頭の中に入っていないとアスナは落胆して……苛立つ。
アスナは視線をエヴァンジェリンと茶々丸に向けると二人は冷笑と無表情でネギを見つめている。
表情の変化がない茶々丸が絶対に好意的に見ていないとアスナにも判断できるし、エヴァンジェリンに至っては絶対にまた評価を下げているんだと確信してし
まった。
そんな二人の様子にアスナは、ネギは本当に優秀な成績を収めて魔法学校を卒業したんだろうかと疑ってしまう。
「成績は優秀でも、それが人格まで優れているとは限らないという事です」
「ゆ、ゆえちゃん?」
「ったく、あれで給料貰ってんだからイイ御身分だよな」
「は、長谷川さんも?」
アスナの背後の席に座っていた綾瀬 夕映と長谷川 千雨が漏らした言葉を偶然にも耳に入れて動揺する。
関係者であり、ネギに対して不満を持っている夕映だけならば、アスナは動揺しなかったが、流石に一般人の千雨の不機嫌そうな声にはフォローのしようがな
い。
事実、ここ数日のネギの授業は心、此処に在らずとしか言えないような気の抜けたものだった。
真面目に授業を受けている生徒にとっては教師がそんな有様では納得できないだろう。
(い、意外だけど……長谷川さんも怒ってるんだ。
そういえば、春休みだったかな……長谷川さんもネギに脱がされたっけ?)
事情は良く分からないが、ネギに強引に連れ出されて魔法の暴走で服を剥ぎ取られた事が千雨にはあったと思い出す。
(……もう知らないんだから!)
善意で動いたんだが、結果的に見ると千雨にとっては余計なお世話と言いたくなっていたのかもしれないとアスナは思う。
(長谷川さん、周囲とちょっと距離を置いていたもんね……)
理由は判らないが千雨がクラスメイトと若干の距離を置いて付き合っていたんだと今のアスナには考えが及ぶ。
ところがネギは個人個人における人との距離に取り方を顧みる事なく、強引に入り込んだのかもしれないと思ってしまう。
(ネギと少し距離を取った途端に色々見えてくるなんて……不思議なものよね)
はぁと一つため息を吐いて、アスナは自分がどっぷりと魔法という名の非日常の世界に入り込んでしまい……周りが見えていなかったんだと感じさせられる。
(……自分本位な人間よね。これで優秀な成績を修めた魔法使いだって言うんだから……呆れるわ)
ネギがチラチラとこちらに意味ありげな視線を向ける所為でクラスの大半の視線が自分に向かっているが鬱陶しい。
アスナを通じて忠告したのに頭の中に入っていない。
リィンフォースは一般常識を覚えずに攻撃魔法を中心に戦う事ばかり学習してきた歪な少年の視線を無視し続ける。
『私も子供だけど……あれよりはマシよね?』
『比較対象がおかしいだろう。少なくともお前は常識知らずではないぞ』
デバイス経由での通信は同じデバイス持ちしか聞こえない。
その点を利用してリィンフォースはエヴァンジェリンとこっそりとマルチタスクを使って念話を行う。
『……超のドジっぽいところって、アレ譲り?』
『失礼ヨ! 私はあそこまで常識知らずではないネ。
ダイタイ、私のうっかりは師匠譲りダヨ』
『なんだと!? 貴様、それはどういう意味だ?』
リィンフォースから始まった会話のキャッチボール。
超の放った一言に未来で師匠らしい?エヴァンジェリンが頬を引き攣らせる。
自身の矜持というか、まさか超のうっかりが自分譲りのものだとは断じて認めたくないらしい。
『私は知てるヨ……師匠の黒歴史を』
『ほう、それは是非聞いてみたいな』
『私もぜひとも聞きたいです』
『聞かんでいいわ!!』
更にデバイスを使って会話に入って来た龍宮 真名と綾瀬 夕映にエヴァンジェリンが吼えて、止めようとする。
『未来の茶々丸に聞いたんダガ……師父の結婚式で大泣『ちょっと待て! リィンの結婚
式だと?』』
聞き捨てならないキーワードにエヴァンジェリンが即座に反応する。
『なに、私……結婚式挙げるの?』
『待て! 待て! 待てェェェェッ!!
リィンは誰にもやらんぞォォォォッ!!』
リィンフォースが結婚するという未来情報にエヴァンジェリンが猛反対の意思を見せるも、
『…………もう手遅れネ。既に因果は紡がれるのダヨ』
『謀ったなァァァァッ!! 超ォォォォッ!!』
『イヤ、そんな事言われても……困るネ。
師父が結婚しないと私も……『それは超さんのいい人がリィンさんの子孫だからですか?』ッ!?』
ニタリとからかうような意味合いを含ませた夕映の発言に超の頬が朱に染まる。
『……マジですか?』
『ほう、超も隅に置けんな』
『チ、違うネッ!!
アイツはただの幼馴染ダヨ!!』
超の反応から夕映がピンポイントで急所を突いたと理解して驚いている。
まさか、冗談で言った事が大当たりするとは思わなかっただけに吃驚してしまう。
そんな夕映の動揺とは別に真名が楽しげにからかうような声音で話す。
『しかし、幼馴染とは意外というか……今頃、他の女に狙われてる可能性もあるんじゃないか?』
『それはあり得ないネ』
『おや? まさか、それは自分にベタ惚れという惚気かい?』
『師匠の教育は言葉通り……命懸けダヨ。他の女に目を向ける余裕なんて……無いネ』
からかう気満々だった真名だが、超の口から出た言葉に……二の句が出てこなかった。
『私がいなくなた後、死んでないか……心配ダヨ』
『それほどまでに好意ではなく、恋
心を抱いているのですね?』
『ちゃ、
茶々丸? な、何を言てるのカナ!?』
茶々丸の一言に超の心の動揺が一気に加速していく。
『やはり……そうなのですか、ちょっと意外ですね。まさか超さんにそこまで思われる人がいるですか?』
『フフ、素直じゃないな』
『チ、
違う! 違うネ!! ルディンは私が居ないとダ―――ッて!!??』
やはり年頃の少女達だけに恋の話には喰い付きが良かったが、
『リィンが結婚…………ダメだ! ダメだ!! 私は断じて認めんぞ!!
家に連れて来たら、断罪の剣で斬り捨ててくれるわ!!』
『マスター、そんな我が侭を仰るのはどうかと』
『何を言う! リィンは私の娘でもあるんだぞ!!
どこぞの馬の骨如きになど絶対にやるものかっ!!』
エヴァンジェリンとその従者には効果がなかった。
『しかし、リィンさんのお子様をマスター自ら一人前の魔導師として育て上げるという楽しみを放棄なさいますか?』
『む……いや、しかしだな』
『ナハトさんの事もあります。ここはそっと微笑ましく見守るという大人の対応がベストだと判断しますが?』
『グッ! そ、それでもだな……』
『あまり大人げない発言ばかりでは……嫌われますよ?』
『む、むぐぐ……と、とにかくだ! 私が認めたヤツ以外は断じて認めんからな!!』
嫌われるという言葉にエヴァンジェリンは非常に不本意そうに多少の譲歩の形を取る。
しかし、言葉の端々に納得してはいないという含みを持たせていた。
そんな主人と従者の家族会議が行われている間にも年頃の少女達の恋の話は続く。
『私の子孫ね……想像できないな』
『超さんが、ツンデレ系というのは意外です』
『フ、将来は何でも出来る姉さん女房だな』
『…………モウ、好きに言たらイイヨ』
半ば投げ遣り気味に話す超はかなり精神面でダメージを受けていた。
『しかし、なんで今になってバラしたの?
まさかとは思うけど、記憶操作でもされてた?』
『…………その通りダヨ。キンの悪魔じきじきにした可能性が高いネ』
今になって、ボロを出す事を疑問に思ったリィンフォースの意見に超が机に突っ伏して答える。
『キンの悪魔だと……それは誰のことだ?』
『ドSな人じゃないですか?』
『……綾瀬、後で少し話をしようじゃないか』
夕映と呼ばずに綾瀬という事自体にエヴァンジェリンの怒り具合が分かる。
『エヴァさんって……ドSなんですか?』
『な!? そう来るか? 流石、器の小さい女だな』
ちくりと皮肉と入れた夕映にエヴァンジェリンも返す刀でザクリと切る。
『……言っておくです。魔力が足りなくて負けたなんて言い訳はなしです』
『フ、フフフ、今なら魔力無しでもお前の薄い胸に一撃くらいは当てられるぞ』
増量した胸を反らせる事で煽るエヴァンジェリンに夕映の米神に青筋が浮かび出す。
二人の間に一触即発の空気が巻き上がり、互いの交差した視線の中間で火花が飛び出たような幻が見えた。
「視線だけでケンカするなんて器用やわ」
「……アイコンタクト?」
ようやくクラスメイト達も教室の空気が変化した事に気付いて原因である二人に目を向ける。
登校した時点では二人の間に此処まで険悪な空気は流れておらず、ごく普通の挨拶を交わす程度の友人の雰囲気だった。
しかし、この時間に突然、二人の放つ空気が急激に変化した事はおかしいだろうと思う。
ただ原因が分からずに、二人の間に何が起こったのかは分からずに疑問符ばかりを頭の上に並べるばかりであった。
ちなみにさよが念話に参加しなかったのは地味幽霊ではなく、単に真面目に授業を受けていただけの話である。
「…………? え、ええと……何があったんでしょうか?」
今頃になって、ようやく教室の空気がおかしくなっている事に気付いたネギ。
その様子にクラス全員の行動がため息を漏らす事で統一されたのは偶然ではなかった。
(兄貴よー、空気読もうぜ)
教室なので口には出さなかったが、オコジョ妖精のカモはネギのKYな発言にどうしたものかと頭を悩ませていた。
チャイムがなると同時に無言でエヴァンジェリンと夕映は立ち上がって廊下へと出て行く。
「あ、あのー、まだ号令が…………」
日直の号令など知らんと二人の背が語っており、ネギの制止を促す声すら届いていない。
「え、ええっと……号令をお願いします」
ドアを開けて出て行く二人がもはや止まらないと悟り、ネギは諦めて日直に号令を促した。
残った生徒達は日直の号令にあわせて礼を行い、ネギは自身の無力感に肩を落としながら職員室へと戻る。
リィンフォースに声を掛けなかったのは、昨日アスナに言われたのが効いていたのかも知れなかった。
「さて、どっちが勝つと思う?」
「どっちも頭に血が昇っているから最後は駄々っ子ファイトで終わりよ」
「そうダナ。地面に寝転んで、なんでケンカしたのか思い出せずに"なかなかやるじゃないか"で終わりネ」
真名の問いに二人の性格をそれとなく把握しているリィンフォースと超が答える。
事実、封鎖領域を張った戦闘は泥仕合の様相へと変わり、終わる頃にはケンカの理由は完全に頭の中から抜け落ちていた。
「理由などどうでも良いのかもしれません。
ただイライラが積もっていたので……発散したかったのではないかと」
茶々丸の意見に三人は、それもありかと納得して頷いていた。
実際にストレスを溜め込んでいたのは否定できない。
いつもならエヴァンジェリンはネギの修行で解消する事も出来るが、今回は流石にそれをやるとうっかりすれば……殺しかねないかもと思い、自重していた。
夕映にしても、いつもならば好奇心を満たす為の次元世界観察に出掛ける事も出来ない。
近頃は図書館島に潜るよりも次元世界に移動して、その世界ごとの生態系を観察するのを楽しむ方が良いと思い始めている。
勿論危険は多々あるが、それでもその危険に見合う以上の自分の好奇心を満たす世界が其処に確かにある。
学園で役に立つのか不明で、学んでも意味が無いような授業に時間を取られるのは正直片手でポイッと捨てたい気持ちになる時も増えていた。
このまま行くと、綾瀬 夕映の学歴は中学校中退の可能性が徐々に増していた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。
超、自爆するの巻ですな。
原作の超とココの超は若干違います。
ちなみに原作ではどうなるか不明ですが、ここではフェイト・アーウェルンクスは最後まで生存するフラッグが立っています。
良識派、一般常識の最後の砦みたいな扱いになりそうです。
それほどにリィンフォースの子孫はぶっ飛んだのかもしれませんが(核爆)
では次回でお会いしましょう。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
<<前話 目次 次話>>