この戦争を引き起こした愚か者達に裁きの時がきた

彼らは自分達の行為を理解しているのだろうか

おそらく理解していないだろう

何故ならそんな人間だから戦争が始まったのだ



僕たちの独立戦争  第三十六話
著 EFF


「全艦に告げる、我が艦隊はこれより月を木連より取り戻して、地球の制宙権を確保する。

 諸君らの奮闘に期待する……以上だ」

司令の宣言に艦隊は次々とデルフィニウムを発進させるが兵士達には不安だけしかなかった。

能力の劣るデルフィニウムを使う事自体が間違っていると感じていたが、

司令達には兵士達の心が理解できなかったようだ。

「奴らの艦隊の倍以上の数が揃わなかったが、これなら勝てるだろう。

 木連など地球の敵ではないのだよ、いずれ火星もそれを感じてもらうぞ」

都合のいい事だけを話す司令にブリッジのクルーは呆れていたが、

「司令、お気持ちは分かりますがまだ先の事を話すのはいけませんな」

「そうだな、だが火星の連中など恐れる事はないな。所詮地球の付属品にすぎないさ」

「全くですな、火星など地球のいう事だけを聞いていれば良かったものを」

「逆らうなど無礼だな、いっそ我々が滅ぼしてやろうか」

「そんな事を言ってはいけませんよ、我々の慈悲で生きているのですから感謝してもらわないと」

参謀の意見に気をよくして高笑いする司令にブリッジはこんな男が司令にいるのが信じられなかった。

この戦いはダメかもしれないと兵士達は思っていた。


「奴らが出撃したぞ、クロノ君」

「そうですね、では私も例の件と監視の為に戦場に向かいますよ」

「まあ君の事だから大丈夫だと思うが気をつけるんだぞ、君には帰る場所があるからな」

「そうですね、きちんと次の世代にバトンタッチするまでは死にませんよ、ロバートさん」

そう答えるとクロノはジャンプして戦場へ向かった。

「いい青年ですな、クリムゾンに居てくれれば楽になれたんですが残念ですね、会長」

側に控えていた秘書の声にロバートも、

「全くだな、エドワードが羨ましいな………火星は優秀な人材が豊富だからな」

「しかも戦争によって鍛えられていますからな、苛酷な環境で生きる者達ですからタフで打たれ強いですよ」

「その通りだな、諦める事を知らん連中だな。しかも火星の中枢にいるから土台が頑丈にできてるよ」

「移民が始まって人が揃うと火星が中心になるかもしれませんよ」

「それでもいいさ、何時までも地球が中心と考えるのは危険だよ…………そうは思わんか」

「確かにそうですね、そういう時代になってきましたね」

秘書はそう話すと楽しそうにロバートを見て話を続けた。

「未来に希望が出てきましたよ、後はその希望を育てる事ですな」

「そういう事だな、テンカワファイルを読んだ時は最悪の事態が浮かんだが火星の努力で未来は変わりそうだな」

「二度は読みたくはないですね、正直反吐が出そうな内容でしたから」

「………木連がそれを行い、クリムゾンが協力する未来になったそうだよ」

ロバートの言葉に秘書は、

「もうそんな未来ではありませんよ、絶望しかない世界ではありませんよ。

 この世界はまだ小さいですが希望がありますからね、大きく育てて未来を守りましょう」

「そうだな、我々が諦めたらそこで終わりだな。あの子達の未来を守ってやらんとな」

秘書は頷きロバートも子供達の未来を守るべく次の仕事に取り掛かった。

………………未来に希望の光を灯す為に。


―――木連作戦会議室―――


「どうやら地球は勝つのを放棄したのかな、数だけは揃えたみたいだが戦力になるかな」

画面に映る艦隊を見て草壁はそう結論を出したが白鳥が草壁に一言を告げた。

「閣下と同じですね、火星に数で対抗しようと考えていますからその実験みたいですね」

その声に草壁は反応して白鳥に反論する。

「そうかな、私の考えが間違っていると言うのかね」

「間違いかどうかは分かりませんが、火星とは休戦できる機会はありましたよ。

 地球と火星の二つを相手にしてはいくらプラントがあっても勝つのは厳しいですよ。

 その後の秩序を取り戻すのに時間が掛かりますね…………まさか殲滅するつもりですか、閣下。

 それならば問題はありませんが、閣下はどうお考えなのですか」

草壁の反論に白鳥は現在の状況を話した上で草壁に木連の未来を聞いたが草壁は何も言わなかった。

(やはり自分が支配する積もりなのか、木連は都合のいい道具にすぎないのか)

静かになった会議室で白鳥は草壁に再度木連の今後の行動を質問すると、

「我々の正義を奴らに見せるのだ、それが間違いだと君は言うのかね」

「いえ、私が聞きたいのは未来への展望ですよ。閣下が作る世界を聞きたいのですよ」

白鳥が草壁に訊ねると草壁は、

「正義がある平和な世界だよ、我々の正義が正しい世界に変えるのだよ」

「そうですか、閣下の世界が見たいですな。さぞ素晴らしい世界になるのでしょうな」

そう言って白鳥は席に着いて考え込んでいた。

(何が正義だ、自分の都合のいい世界を作る気だな。木連は貴様の道具ではないぞ、そんな事はさせんぞ)

(危険だな、木連は閣下の道具になってしまうぞ。その先は全滅の可能性もあるな……なんとかしないと)

白鳥と草壁の話しを聞いていた士官達は草壁の狂気に危機感を抱き始めていた。

一部の士官は草壁の正義を鵜呑みにして口々に正義を叫ぶがその言葉は草壁以外には虚しく響いていた。

「閣下、では勝利の為に作戦を始めましょうか」

秋山が画面を見ながら告げると草壁は作戦の開始を宣言した。

ここに第一次月攻略戦が開始した。


「くっ木連も悪あがきをするものだな、数で我々が勝っているのに良く持ち堪えているな」

司令がそう話すと参謀は楽観的な事を告げた。

「まあ少しは苦戦しないと我々の勝利は輝きませんよ、この勝利で我々の発言力を取り戻すのですから」

「それもそうだな、ワンサイドゲームでは困るか」

都合のいい事ばかり話す二人にブリッジのクルーは憤りを感じていた。

彼らのせいで兵士達が死んでいるのに自分達の事しか考えない二人に我慢の限界を感じていた。

その時レーダーを見ていたクルーが叫んだ。

「後方にチューリップを確認しました!現在戦艦を放出しています、艦隊は包囲されました」

その声に司令と参謀は慌て始めた。

「馬鹿をいうな!そこには何もなかったぞ、チューリップがある訳ないだろう!」

「そうだぞ、いい加減な事を話すと諮問会議にかけるぞ!」

叫ぶ二人に対してオペレーターはスクリーンに映像を映し出した。

そこにはチューリップから放出される敵艦の姿が映っていた。

状況は急展開を見せて艦隊の危機を教えていたが二人は責任のなすりつけを始めて指揮を放棄していたが、

艦に同乗していた士官が慌てて命令を出した。

「全艦を集結させろ!戦力を一点に集中して包囲網を突破するぞ。

 先頭は装甲の硬い戦艦にしてそれを盾にして駆逐艦などで攻撃しながら進ませろ、

 この艦は最後まで友軍の支援を行ってから脱出するぞ、いいな!」

その声にクルーは作業を始めたが二人は慌てて士官に文句を叫ぼうとしたが銃を突きつけられて黙り込んだ。

「縛って口を塞いでおいてくれ、邪魔だからな」

そう話すとクルーも従って二人を縛ってブリッジの隅に放置した。

「映像と音声は流すな、指示だけを伝えてくれ。まず助ける事を優先するぞ」

士官の命令にクルーは従い、艦隊は秩序を取り戻して脱出を始めた。

一点に集中した攻撃に包囲網の一角が崩れると艦隊はそこから脱出を始めた。

「よし脱出した艦は抜け出す艦の援護をさせながら陣形を再編させろ。

 いいか!慌てずに行動しろと伝えてくれ、全艦が集結したら艦隊を後退するぞ。

 この戦いは地球の負けだよ、無様な人間が勝手にやった戦いだよ。兵士達には悪い事をしたな」

ブリッジに縛られて放置された二人を見て士官はそう話したがブリッジのクルーは、

「全滅してないから大丈夫ですよ、まだ地球は大丈夫ですよ」

「そうですよ、切り札の艦隊は無事ですからね」

そう口々に話して地球の危機はないと話していた。

「よし我々も行くぞ、まだ戦いが終わった訳じゃないからな。少しでも多くの兵士を地球に戻さないとな」

そういって動き出した戦艦に敵艦の砲撃が当たった。

「艦のダメージはどうだ!深刻なら退艦を始めるんだ、、急げよ!」

そう叫ぶ士官にクルーは次々と退艦を始めると、

クルーは二人をどうするか迷い猿轡を取ると、二人は士官達を激しく罵った。

そんな無責任な二人を見てクルーの一人が叫んだ。

「見捨てましょう!こいつらのせいで犠牲者が増えたんです。

 これ以上生きられると犠牲になる市民が増えるだけです、ここで責任を取ってもらいましょう!」

「そうですよ、市民を死なせておいて偉そうな口をほざく奴など軍には必要ありませんよ」

「そうだな、ここで捨てておくか。未来の為に必要ないかな」

そう士官が呟いた時に敵艦の主砲が艦に当たりブリッジが炎上した。

「まあ仕方ないな、だがこれで軍の汚点を消去出来るな。みんなには貧乏くじを引かせたな……スマンな」

謝る士官に生き残ったクルーは苦笑しながら気にするなと話していた。

こうして旗艦は撃沈されたが地球の艦隊の半数以上は無事に地球へと帰還した。


「ダッシュ、地球の艦隊で奴らは生き残ったか」

『いえ、旗艦は撃沈されました。奴らの死亡を確認しました』

「そうか俺の出番はなかったか、おかしいな………てっきり逃げ出すものと思ったんだが少しは責任を感じたか」

『そうではありません。これをご覧ください』

ダッシュは旗艦の様子をスクリーンに映した、それを見たクロノは、

「なるほどな、道理で艦隊の動きが変わった訳だな。彼らは救いたかったな、ダッシュ」

『そうですね、まだ地球も捨てたものではありませんね。彼らのような人達もいたんですね』

「そうだな、これで火星の懸案事項の一つが解消されたな。草壁に同調して甘い汁を吸う人物もいなくなったな」

『奴らの死亡により軍の改革も順調に進む事でしょう、

 政府の連中には匿名でマスコミに裏金の流れを教えて市民に吊るしあげをさせましたので大丈夫でしょう』

「…………長かったな、ようやく此処まで辿り着けたな。あと少しでマシな未来になるな、ダッシュ」

感慨深げに話すクロノにダッシュも答える。

『これで火星も助かりそうですね、マスター。後は草壁の問題を片付けるだけですね』

「ああ、ロバートさんに報告をしないとな。それからこの宙域より離脱するぞ、ダッシュ」

『既にメールで送っていますよ、後は離脱するだけですよ、マスター』

「じゃあ帰ろうか、みんなが待つ火星にな」

『はい♪帰還しましょう、マスター』

月の攻略戦を監視していたユーチャリスUは火星へと帰還した。

また一つ火星の未来を明るいものになった事を報告する為に。


クロノから送られてきた報告書を読んだロバートは、

「ふむ、クロノ君の出番はなかったが計画通りに運んだな」

「はい、これで軍の改革も順調に進みますね。政府の方も予定通り無責任な方は切り捨てる事ができましたね」

「クロノ君から聞いた未来は回避できそうだな、あんな未来など認める気はないな」

ロバートの意見に秘書も頷いて話した。

「その通りですよ、泥沼の未来など不要ですよ。後に残った問題は木連ですね」

「これは彼らに期待するしかないな、我々は変わる事を期待するだけだな。………もどかしい事だが」

二人は次の問題を考えたがこの件だけは自分達の力が及ばない事に気付いて彼らを信じる事にした。

地球と火星の未来は変わり残すは木連だけとなった。

彼らの動きが未来の全てを決める事になるとは彼らはまだ知らない。

火星と地球はその時を待っていた。


「我々の勝利だな、白鳥君の考えは杞憂に終わりそうだな」

画面を見て木連の勝利に喜ぶ草壁に秋山は反論した。

「そうですか、まだ地球の新造戦艦は出てきてないのに木連の勝利などとは言えませんよ。

 次の戦いが本番ですね、これに勝てるなら木連の未来は閣下の思い通りになりますな」

「そうかね、まあ火星がそれまで生き残ればいいがな。私が指揮する艦隊に勝つ事など不可能だからな」

「本気ですか、閣下。火星の攻撃をどう防ぐのですか、火星まで辿り着けますか」

草壁に白鳥が質問すると草壁はなんでもないように答えた。

「簡単じゃないか、無人戦艦を外周に配置して盾にするのだよ。前回は不意打ちだったが次は警戒しながらだよ。

 これなら半数以上は大丈夫だろう、後は火星を攻撃するだけだが問題はあるかな」

「確かにそれならば艦隊の半数は無事かもしれませんが、火星の住民はどうするつもりですか」

「私の正義には不要な存在だよ、正義の力を思い知らせてやろうじゃないか」

草壁の宣言に一部の士官は続いたが、他の者達は火星の住民を殲滅させる意味を見出せなかった。

白鳥が草壁に発言しようと立ち上がろうとすると秋山がそれを制した。

そこで会議は終了したが士官達は残って木連の未来について話し合った。

最後に秋山が全員に告げた。

「このままでは木連は崩壊する、我々の手で未来を修正する………準備が出来次第決行するぞ」

その言葉に士官達は木連の未来がこの計画に成否に懸かっている事を知り、真剣に作戦を考えていた。

後に歴史に名を残した熱血クーデターの始まりだった。

木連の命運を賭けた計画は此処に成立し、後は決行を待つだけだった。

…………木連もまた未来を変えるべく行動を開始した。


―――火星宇宙港―――


「では月攻略戦は失敗したのですか、クロノさん」

「ああ、ユーチャリスUでの監視を終えて帰還したところですよ。

 被害は大きいな、半数以上は無事地球に帰還したが残りは………ダメだったよ」

クロノはプロスの質問に答えて、状況を説明していた。

「なあ……クロノ、司令たちは無事なのか。奴らが無事なら問題が出るような気がするんだが、

 その辺りは分からないかな、地球に帰還した後にすぐに月の攻略戦をする事になるのは避けたいんだが」

アルベルトの質問にクロノは、

「奴らの死亡を確認したよ……だが問題はこれからだな。彼らの戦死をどう扱うかで火星の対応も変わるだろうな。

 火星は奴らのせいで被害を被ったからな、英雄扱いなど認められんよ。そうは思わないか、二人は」

「そうですな、うちも無責任でしたが彼らも無責任な事ばかりしていますな。

 今回は地球も彼らの行為を許す事はないでしょうな、汚職の責任も取ってもらわないと」

「責任の追及はするだろうな、市民の吊るし上げをこれ以上されるのは軍も避けたいからな。

 俺に言わせれば甘いとしか言いようがないな、今になって地球はそんな事をしているのだからな」

プロスとアルベルトの意見にクロノも頷いていた。

「では次に会うのは第二次月攻略戦ですな、スケジュールが変更されましたので二ヶ月は先になりますかな」

「そうなるかな、火星には世話になりっぱなしだな、協力に感謝するよ」

二人はそう考えたがクロノは別の考えを話した。

「状況によっては木連は月から撤退する可能性もあるな、クーデターが起きる可能性が出てきたんだよ。

 これが成功すれば状況は和平に向けて大きく進展する可能性もあるな。

 問題は戦力を持って草壁が逃げ延びて火星に侵攻する可能性もある事だな、まあその時は火星が戦場になるな」

「大丈夫なのか、クロノ。火星は今回の会戦で疲弊しているだろう、そんな状態で戦えるのか」

アルベルトの心配にクロノは平然と答えた。

「大丈夫だよ、奥の手を使うさ。草壁に対しては躊躇う理由がないからな、手加減などしないさ」

「そうですか、いよいよ奥の手を使いますか…………一方的な戦いになりますな。

 彼らは生き残る事ができますか、クロノさん」

「無理でしょうね、生かして帰す気はないですよ。まあ帰る場所のない連中ですから逃げ延びても大変ですよ、

 反乱者として逃げ続ける事になりますね、何処にも行き場はありませんから」

「まあ火星にした事を考えれば、負ければ極刑は免れんからな。

 和平にする場合は自分達が火星にした事を市民に説明しないと出来ないからな、

 どちらを選択しても立場を追われる事になるな、勝って火星の住民の口を口封じしかないか」

アルベルトの考えにクロノは、

「そんな事はさせんよ、自分の正義を実現させる為に平気で人を殺すような人間が生きていられるほど、

 この世界は甘くはないさ。アルベルト達は以前話した戦後の事も考えておいてくれよ。

 ここできちんとしておかないと何度でも反乱事件が起きて被害が拡大するかもしれないからな」

「分かったよ、クロノも無事でいろよ。次に会う時は平和になっているといいな」

「そうですな、うちも復興事業を計画していますから計画が潰れない事を祈りますよ」

「その件ですがきちんとした謝罪が絶対の条件になると議会が話していました。

 アカツキ会長が火星に来て謝罪するかが焦点になると思います、そう伝えておいてください」

「分かりました、会長に伝えておきますよ。ではクロノさん、失礼します」

「じゃあな、クロノ。次に会う時は和平が実現した時がいいな、ではまたな」

「ああ、二人とも気をつけて帰るんだぞ。まだ航路は危険が多いからな」

クロノはそう注意すると二人は頷いて席を立ち、それぞれの艦に戻っていった。

ナデシコとミストルテインを含む計四隻の艦隊は火星から地球へと帰還する事になった。

当初、ボソンジャンプで帰還する予定だったが火星と地球の航路の調査と確保の為に艦隊で移動する事になった。

その為の準備を終えて今出発する時を迎えていた。

ゲートから離れていく四隻をクロノは何も言わず静かにその光景を見つめていた。

そんなクロノに近づいたアクアはクロノの腕に手を絡めて話した。

「もう少しで未来は完全に変わりますね、火星の人達もあの子達も幸せになれますね」

「そうだな、最悪の未来にはならないな。後は木連がどう動くかだな」

「最悪の事態にならないといいですね………………その時は私達が全ての罪を背負いましょうか」

「それは俺の役目だな、未来を変えた責任は取らないとな。アクアには悪いが俺一人でするよ、

 これだけは譲れないし、アクアにはあの子達を守ってもらわないとな」

静かに告げるクロノにアクアは、

「ずっと側にいると決めたんですよ、だから最後まで側にいますよ。あの子達にはお姉さまもお爺様もいます。

 何処までも付いて行きますよ、クロノ」

アクアの決意を聞いた、クロノはため息を吐いて話す。

「馬鹿だな、俺に付いて行くなんて………アクアも俺に毒されたかな。

 もっと楽な生き方もできたのに、こんな大馬鹿野郎の側にいたいなんてな」

「ふふ、クロノの側がいいんですよ。クロノは温かいですからね、この場所は誰にも渡したくはないですよ」

クロノに微笑みながら話すアクアにクロノも微笑んだ。

「まあそんな事態にならない事を祈ろうな、彼らのクーデターが成功する事を信じるさ」

「クロノの師匠ですからね、きっと成功しますわ。草壁がどう動くかが鍵になりますね」

「そうだな、あいつのくだらん正義が全ての元凶なんだよな。

 自分の正義を人に強要しようとしても無理があると気付けば良かったんだがな。

 結局草壁も子供と同じなんだよな、正義が一つだと信じている事が悲劇だったんだな」

「そうかもしれませんね、狭い社会に生きてきたのが悲劇かもしれませんね。

 あの子達には広くて大きな世界に生きて欲しいですね。

 たくさんの友人たちと手を携えて生きる事を楽しんで欲しいですわ、人は一人では生きてはいけませんから」

アクアの話す子供達の未来にクロノは賛成していた。

人は多くの人と出会いと別れを経験して成長していくのだと感じていた。

あの子達の未来に二人は幸多かれと願っていた。


―――木連 戦艦かぐらづき―――


「くっおのれ、私の正義を否定する愚か者達が!」

戦艦かぐらづきの艦橋で草壁は苛立ちを隠さずに叫んだ。

現在、木連は若手士官達による反乱が始まり各市民船、各都市で小規模な戦闘が繰り広げられていた。

草壁は拘束を逃れ戦艦かぐらづきで脱出して草壁派の士官達を集めて抵抗していたが戦況は最悪だった。

若手士官達はまず市民に現在の木連の状況を説明すると何も知らされていなかった市民は驚きを隠せなかった。

この戦争は木連の正義を示す聖戦と言われ勝利で終わるものだと聞かされていたが、

実は草壁が自分が支配者になる為に行った戦争だと知り、自分達が騙されていた事に動揺していた。

更に火星に向かった艦隊が全滅した事を知り、火星の報復が始まろうとしていると聞かされて、

自分たちの命が危険に晒されている事を初めて聞かされた。

ただ与えられた情報を信じられずに戸惑う市民に市民船、都市の通信施設を掌握した火星からの通信が入った。

『木連に告げる我々火星宇宙軍は今回の木連の艦隊の攻撃に対して報復を行う事を決定した。

 本日より一ヶ月の間に木連からの正式な謝罪がない場合は木連に対して宣戦布告する。

 木連が火星に対して行った数々の行為を我々は許しはしない。

 人道にも反した殲滅戦を行った以上、我々は木連を危険な存在として認識している。

 今までは市民船、都市への攻撃は控えてきたが、これからは攻撃対象として扱う事を宣言する。

 火星の住民を無差別に殺した以上、自分達も同じ目に遭っても文句を言う事は許さない。

 家族を友人を奪われた火星の怒りを知るがいい、卑怯な殺人者達よ』

このバイザーをつけた赤銀の髪の青年の言葉に木連は二つに分裂した。

現在の木連の置かれている事態の深刻さを知り若手士官達に協力する和平派と、

その言葉に過剰に反発する現実を理解しないで草壁に従う者達の武闘派の二つの陣営が戦闘を始めていた。


「時間がないんだ、このままでは木連は崩壊する事が理解できないのか」

戦艦ゆめみづきの艦橋で白鳥九十九は焦っていた。

火星の通信のおかげでクーデターは確実に成功する状況に向かい始めたが、

このままでは火星が宣言した期限までの時間に間に合わないと判断していた。

草壁を擁する武闘派は戦力では劣るがその士気の高さによって戦況を維持していた。

また市民たちも現実が理解できずに草壁に従う者達が都市や市民船で暴動を起こすので、

その鎮圧に戦力を向けねばならない為に全ての戦力を投入できずに戦線は膠着状態であった。

「艦長、秋山さんから通信が来ました」

その言葉に九十九は画面を見て秋山に報告した。

「源八郎、すまん!このままでは時間までに終わる事は無理だ、まさか市民がここまで抵抗するなんて…………」

最後まで言えずに声をなくす白鳥に秋山は、

『仕方がないな、木連は草壁にそういう国に作り変えられたからな。それより戦力を引き上げる準備も考えてくれ、

 このまま行くと火星の報復が始まるだろう、俺達を信じてくれた市民だけは助けないと不味いからな』

「分かったよ、最悪の事態になりそうだな。どれだけの犠牲者が出るか」

『だが火星は俺達にチャンスをくれたんだよ、木連が崩壊する可能性を回避させようとな。

 その行為がなければ、どれだけの犠牲が出るのか考えただけでもぞっとするな』

「そうだな、火星は戦争を回避しようとしたが木連はそれを拒否した。こうなる事は仕方がないか」

『そういう事だ、木連はまだ戦争の怖さを知らないんだよ。知らない者達に理解を求めるのは難しいんだよ。

 だが正義が勝つなどという甘い考えなど、これからは言えなくなるがな』

「どの程度の犠牲が出ると思うんだ、源八郎」

『おそらく市民船の一つは完全に崩壊させるだろうな、問題はその方法だが…………』

言葉を濁す秋山に白鳥は、

「以前話した無人機による無差別攻撃か、そんな事が可能だと思っているのか」

『火星が俺達を監視しているのは間違いじゃないんだよ、この反乱を起こした時俺達の状況は五分だったが、

 あの通信で一気に戦況は傾いた。そして火星の監視システムは航路上には何もなかった。

 ではどうやって監視しているのか、そう考えると答えは一つだろう九十九』

「無人機からの情報の奪取か………それしかないか。だとすると危険なのは…………向こうか」

『そうなるな、だが万が一の事もあるからな。俺達も防御しないと』

「準備を始めるよ、一応警告を出していいか、火星の報復攻撃に気をつけろと」

『ああ構わないぞ、今は敵味方に分裂したが同じ木連の住民だからな』

苦笑する秋山に白鳥も苦笑いしていた。

運命の時は刻一刻と近づいていった。

何も知らない木連の市民は戦争の恐ろしさを理解しようとしていた。











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EFFです。

ここからは木連が中心に進むと思います………多分(汗)
ナデシコの出番はないかも。
何か変な話だと思っています、ナデシコなのにナデシコの活躍がないから。
まあ気にしないで最後まで勢いだけで書き上げます(爆)

では次回でお会いしましょう。




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