片倉小十郎が曹孟徳の客将として迎え入れられてから、既に数日が経過していた。
宛がわれた私室、用意される三食、将軍級の地位――客将としては破格の待遇である。
先の時代の知識、小十郎の武と言う評価があるとは言え、少しやり過ぎではなかろうか。
無論、客将と言ってもノンビリ日々を過ごす訳ではない。働かざる者食うべからず、だ。
曹操――華琳からもまた、何でも良いから、自分のやるべき仕事を見つけろと言われた。
言われるまでもないと、小十郎は伊達軍で行っていた兵の調練を進んで引き受けたりした。

そして今、小十郎はもう1つの、自分が伊達軍でやっていた事を実行していた。

「良い土だ。魏の土地は肥えていて、良い野菜が育つ」

そう、野菜の栽培――畑仕事を行っているのである。
華琳に頼み、自分専用の菜園を作ってもらったのだ。
これでも彼の作った野菜は、奥州伊達軍の名物になっていたりする。
特に彼の人参は絶品だと、お裾分けした農民達からも評判だった。

「はっ……今の俺に出来る事と言えば、これぐらいだからな」

出陣前なのだが、小十郎の野菜栽培への情熱は半端な物ではない。
限界の時まで、限りない愛情を捧げる。それが育てるコツなのだ。
水を丁度良い具合に撒き、立派に育つよう祈る。

「片倉ぁ! 片倉ぁ……っと、ここに居たか」

小十郎が背後に視線をやると、秋蘭がこちらに向けて歩いてきていた。
水撒きをキリの良い所で中断し、秋蘭の方へと向く。

「何か用か?」
「華琳様からの伝言だ。監督官から糧食の帳簿を貰って来てほしいそうだ」
「糧食の帳簿か……分かった。水を撒き終わったら、すぐ受け取りに行く」
「なるべく急ぐようにな。監督官は今、馬具の確認をしている筈だ。そちらに行くと良い」

秋蘭が背を向け、立ち去ろうした時、小十郎が彼女を呼び止めた。
受け取りに行くのは構わないが、肝心な事を訊くのを忘れていた。
馬具の確認をしている、その監督官の名前である。

「名は何と言うんだ。その監督官ってのは」
「新入りの者で名は確か荀ケだったな。背丈が小さい少女だから、すぐに分かる」

またも三国志の中で、多少は聞き覚えのある名前が出てきた。
知っている名前が出てくる度に、自分が来てしまった世界の事に溜め息を吐く。
小十郎は「分かった」と呟き、立ち去る秋蘭を見送った後、水撒きを再開した。

 

 

 

 

「確か馬具が置いてあるのは、この辺りだったな」

記憶を頼りに小十郎がその場を訪れてみると、兵達がバタバタと出陣の準備をしていた。
ピリピリとした雰囲気が伝わる。出陣が控えているせいで兵達も緊張しているのだろう。

「チンタラやってんじゃねえッ! 馬に蹴られてえのかッ!!」
「は、はいッ! すいません……ッ!!」

兵達の怒声もあちこちから聞こえてくる。
これは伊達軍に勝るとも劣らない程のガラの悪さだ。

(さっさと監督官とやらを探して、ここを立ち去るとするか……)

小十郎がバタバタしている兵達の中を通り、目的の人物を捜索する。
何せ秋蘭の言葉通りなら、監督官と言うのは背丈の低い少女らしい。
辺りには背丈の高い兵達が歩きまわっているし、かなり見つけ難いと思った。
だが予想とは裏腹に、目的の監督官をすぐに見つける事が出来たのである。

「…………あいつか?」

小十郎の視線の先には、不機嫌そうな顔で兵達の動きを見守る1人の少女。
動物の耳のような頭巾を頭に被っている姿は、とても監督官には見えない。
だが彼女は秋蘭の言っていた情報と全て一致していた。小十郎が首を傾げる。
とりあえず確かめてみようと、小十郎は彼女に近づきながら声を掛けた。

「おいッ!」

小十郎の呼び掛けに、少女は答えない。
それどころか、振り向こうともしない。

「おいッ! 荀ケってのは、お前か?」
「…………」
「おいッ! 聞こえてねえのか?」

少女は又も返事をしない。
挙句の果てには――こちらにプイッと背を向けた。
明らかにワザとらしい動きである事が見て取れた。

「はぁ……」

小十郎が軽く溜め息を吐き、鋭い眼付きで彼女の背を睨み付けた後――

「おいッ!! 返事ぐらいしろ、クソガキッ!!」

小十郎の怒声がこの場に響き、バタバタしていた兵達の動きが止まる。
彼等の視線が一斉に小十郎に集まる中、小十郎は少女の動きを見守った。
自分の声が響いた時、確かに少女の身体は驚いたように震えた。
これでも反応が無ければ、無理矢理にでも振り向かせるしかないが――。
小十郎がそう考えた瞬間、少女が涙眼でこちらへと振り向いた。

「く、く、クソガキとは何よぉぉぉ! 訂正しなさい、野蛮人ッ!!」

どうやら効果はあったようだ。クソガキと言う言葉に過剰反応している。
だがそちらが無視したのが切っ掛けで、こう言う事態になったのである。
そうやって責められる覚えは毛頭無かった。

「テメェが変に無視するのが悪いんだろ? 耳が付いてんなら返事をしろ」
「私はアンタなんかに用は無いもの。で、私を呼び付けてどうしたい訳?」

少女はそう不機嫌に言いつつも、動きが止まっている兵達に指示を送る。
唐突に指示を出され、兵達は慌てた様子で準備を再開していった。

「お前が監督官の荀ケなんだな?」
「…………そうよ。何か悪いの?」
「どうしていちいちそう突っ掛かる? …………糧食の帳簿を受け取りに来たんだ」
「ハァ? 何でアンタみたいな野蛮人に、それを渡さなきゃいけないのよ……!」

目上の者に対する態度はちゃんと学んでいるのだろうか――。
小十郎は呆れたように溜め息を吐いた後、言葉を続けた。

「華琳から帳簿を持って来いと言われたんだ。早くそれを渡してもらいてえんだが?」
「なっ……! 何でアンタが曹操様の真名を……って、曹操様が持って来いって?」
「ああ、そうだ」
「くっ……それを早く言いなさいよッ!」

先程から言っていた気がするが――小十郎はあえて言わない事にした。

「帳簿はその辺に置いてあるから、勝手に持って行きなさい。草色の表紙が当ててあるわ」
「…………分かった」

小十郎は辺りを探すと、彼女の言った通り、草色の表紙が当ててある帳簿を見つけた。
目的の物は手に入れたが、荀ケ――自分とは全くソリが合わなさそうな人物であった。
小十郎は忌々しげに舌打ちをした後、その場をゆっくりと立ち去った。

 

 

 

 

「遅くなった。これが糧食の帳簿だ」
「待ちくたびれたわ。手際が悪いわね」
「何かと厄介な監督官殿だったんでな」

城壁の上にある通り道で待っていた華琳達を見つけ、小十郎は彼女に帳簿を渡した。
草色の表紙が当てられている紙束を受け取った華琳は、真剣な表情で確認していく。
その内容を確認していくに連れ、華琳の表情が不機嫌な物に変わっていった。

「……秋蘭」

帳簿を閉じた華琳が、隣に控える秋蘭に声を掛けた。

「はっ」
「この監督官と言うのは、一体何者なのかしら?」

その問い掛けに秋蘭は素直に答える。

「先日、我が軍に志願してきた新人です。仕事の手際が良かったので、今回の食糧調達を任せてみたのですが……何か問題でも?」

刹那、華琳の表情が怒りの色に染まった。

「今すぐ呼んで来なさいッ! 大至急よッ!!」
「は、はっ……!」

華琳にそう言われ、秋蘭は脱兎の如く駆け出し、監督官の荀ケを呼びに行った。
何か大きな不手際があったのだろうか、小十郎と春蘭は思わず顔を見合わせる。
こうして秋蘭が戻るまで、華琳のピリピリとした雰囲気に2人は晒される事となった。

 

 

「華琳様、連れて参りました」

一刻程経った頃、秋蘭が荀ケを連れ、この場に戻ってきていた。
秋蘭は荀ケの隣に立ち、跪くよう促す。彼女は素直に従った。

「……お前が食料の調達を?」
「はい。必要十分な量は用意したつもりですが……何か問題がありましたでしょうか?」

荀ケがそう言うと、華琳は静かな怒り表わしながら言った。

「……どう言うつもりかしら? 指定した量の半分しか準備出来ていないじゃない!」
「へっ……?」
「むっ……!」

華琳の言葉を聞き、春蘭と小十郎の疑問の声が重なる。
秋蘭も言葉には出していないものの、浮かべている表情が、今の己の心境を物語っていた。
それはそうである。予定していた糧食が半分しかないのでは、誰でも怒りを露わにする。

「このまま出撃したら、糧食不足で生き倒れになる所だったわ。そうなったら、貴方はどう責任を取るつもりなのかしら?」

華琳の言葉に対し、荀ケは即答する。

「いえ、そうはならない筈です」
「何? ……どう言う事かしら」

彼女の答えが速かった事が意外だったのか、華琳が少々驚いた様子を見せる。
荀ケは彼女の様子を少し見つめた後、徐に口を開いた。

「理由は3つあります。御聞き頂けますでしょうか?」
「……説明なさい。納得のいく理由なら、許してあげましょう」
「はっ。御納得頂けなければ、それは私の不能の致す所。この場で我が首、刎ねて頂いても結構にございます」

生意気な態度の小娘であるが、なかなかの精神の持ち主だ――。
小十郎、春蘭が腕を組みながら見守る中、華琳が静かに呟いた。

「……二言は無いぞ?」
「それは覚悟の上。では、説明させて頂きます……」

荀ケの3つある説明は、次のような物だった。

・曹操は慎重な性格故、糧食の最終確認は必ず自身で行う筈。そこで問題があれば責任者を呼ぶ筈だから、絶対に生き倒れにはならない。

・糧食が少なければ身軽になり、輸送部隊の行軍速度も上がる(食糧は荷車に積んでおり、その数が減れば、確かに移動速度は上がる)。よって討伐行全体に掛かる時間は、大幅に短縮する事が出来る。

・自身の提案する作戦を採れば、戦闘時間を大幅に短くする事が出来る。よって、最初に自分が用意した糧食で十分だと判断した。

荀ケの説明中、何度か春蘭が怒声を上げそうになったり、華琳のこめかみがヒクついたりしたが、無事に説明を終える事が出来た。
そして緊張感を解すように、1度だけ深く息を吐いた後、荀ケは口を開いた。

「曹操様ッ! どうかこの荀ケめを、曹操様を勝利に導く軍師として、配下に御加え下さいませ!!」

荀ケの強い自己主張に、春蘭と秋蘭は思わず絶句する。
小十郎は腕を組んで黙ったまま、事の成り行きを見守った。
荀ケの悲願の声がこの場に響く中、華琳は静かに口を開く。

「……荀ケ。貴方の真名は?」
「――――ッ! け、桂花にございます」
「桂花。貴方……この曹操を試したわね?」

そう微笑を浮かべながら問い掛ける華琳に対し、荀ケは――

「はい」

強く頷き、そう答えた。
彼女のそんな様子に腹を立てたらしい春蘭が、怒声を上げた。

「なっ……! 貴様、何をいけしゃあしゃあと……ッ!! その首、私が刎ねて――」
「貴方は黙っててッ! 私のこれからの運命を決めるのは、曹操様だけなのよッ!!」
「ぐっ……! 貴様ぁ……!!」

怒るだけで場を乱す春蘭を、小十郎と秋蘭が静かに押さえた。
華琳と荀ケが見つめ合う中、再び華琳がゆっくりと口を開く。

「桂花。軍師としての経験は?」
「はっ。ここに来るまでに、南皮で軍師をしておりました」
「……そう。袁紹のところで、ねえ……」

袁紹と言う言葉を呟いた瞬間、華琳が複雑な表情を浮かべたのを、小十郎は見逃さなかった。

「……秋蘭」
「何だ……?」
「華琳と袁紹は、何か因縁があるのか?」

小十郎の問い掛けに、秋蘭は軽く頷いた。

「ああ、お前の言う通りだ。華琳様と袁紹は、幼き頃からの腐れ縁でな……」
「成る程な。だから袁紹の名を呟いた時、複雑な様子だった訳か……」

2人の会話を尻目に、華琳と桂花の話は続く。

「どうせあれの事だから、軍師の言葉などに耳を貸さなかったでしょう。それに嫌気が差して、この辺りまで流れてきたのかしら?」
「……まさか。聞かぬ相手に説く事は、軍師の腕の見せ所。まして仕える主が天を取る器であるならば、その為に己が力を振るう事、何を惜しみ、躊躇いましょうや」
「……ならばその力、私の為に振るう事は惜しまないと?」
「一目見た瞬間、私の全てを捧げる御方と確信致しました。もし御不用とあらば、この荀ケ、生きてこの場を去る気はありませぬ。遠慮無くこの場で御斬り捨て下さいませ!!」

彼女の言葉を受け、華琳は荀ケをジッと見つめる。
その瞳の奥底にある、覚悟の程を見極めるかのように。
そして暫く経った後、華琳は春蘭を呼び付けた。

「はっ!」

華琳の呼び掛けに答え、春蘭は見事な装飾が施された大鎌を彼女に手渡した。
これが華琳の扱う得物――その重さは、見た目以上にありそうである。
それを軽々と持ち、己の手足のように操る華琳の姿は、後の覇王を連想させた。
華琳は大鎌の刃をゆっくりと荀ケの首に向け、突き付けた。

「か、華琳様……ッ!」

秋蘭の言葉にも、華琳は耳を貸さない。

「桂花。私がこの世で尤も腹立たしく思う事……それは他人に試されると言う事よ。分かっているかしら?」
「はっ。そこをあえて、試させて頂きました」
「そう……ならば、こうする事も貴方の掌の上と言う事よね……」

華琳がそう言った瞬間、振り上げた大鎌の刃を一気に荀ケの首へ目掛け、振り下ろした。
静寂――荀ケはその場に跪いたまま、首は落とされていなかった。当然、血も出ていない。

「「…………」」
「ふん……お前も試したのか」

呆然とする春蘭と秋蘭、そしてポツリと呟く小十郎。
小十郎の言葉に答えるように、華琳は言った。

「当然でしょう。……けれど桂花。もし私が本当にこの刃を振り下ろしていたら、どうするつもりだったの?」
「それが天命と受け入れておりました。天を取る器に看取られるなら、誇りこそすれ、恨む事はございませぬ」

曹操は軽く溜め息を吐く。

「……嘘は嫌いよ。本当の事を言いなさい」
「……はっ。曹操様の御気性からして、試されたなら、必ず試し返すに違いないと思いましたので。避ける気など毛頭にありませんでした。……それに私は軍師であって、武官ではありませぬ。あの状態から曹操様の一撃を防ぐ術は、そもそもありませんでした」

華琳は「そう」と呟いた。
そして荀ケに突き付けていた大鎌をゆっくりと下ろす。
その後、華琳は腹を抱えんばかりに笑い声を上げた。
春蘭と秋蘭が呆気に取られる中、笑いが収まった華琳は徐に口を開いた。

「ふふ……最高よ、桂花。私を2度も試す度胸とその知謀、気に入ったわ」

華琳のその言葉を聞いた途端、荀ケの表情に笑顔が浮かんだ。

「で、ではッ!」
「貴方の才、私が天下を取る為に存分に使わせてもらう事にする。良いわね?」
「はっ! 御任せ下さい!! 必ずや曹操様に勝利をもたらしてみせますッ!」

こうして出陣前に起きた波乱の出来事は幕を閉じた。
その中で、華琳の元に天才軍師が加わった事は、とても大きい出来事だった。

 

 

 

 

出陣の準備を終えた曹操軍は、賊徒討伐の為に出撃した。
騎馬隊の大行列が歩く中、小十郎と秋蘭は並びながら進んでいる。
2人はつい先程の出来事を思い返しながら、馬に跨っていた。
彼女達の遣り取りは、思わず肝を冷やしてしまう程の出来事である。
あんな物はなかなか御目に掛かれる物ではない。

「それにしても片倉……面倒な事になったものだな」
「ふん……近頃のガキの考える事はよく分からねえ」

そう小十郎が呟くと、背後から聞き覚えのある怒声が聞こえてきた。

「またガキって言ったわねッ! 訂正しなさい、片倉小十郎ッ!!」
「ちっ……噂をすれば、ギャーギャー五月蠅いのが来やがった」

少々不慣れな手付きながらも、馬に跨っている桂花の姿はかなりサマになっている。
どうやら彼女は自慢の軍略の他にも、馬の乗り方等も一通り学んでいるらしかった。

「桂花、乗りながら暴れるな。馬から落ちてしまうぞ?」
「だ、大丈夫よ。それより片倉小十郎、ガキと言うのを訂正しなさいッ!!」

わざわざ小十郎の隣に並び、文句を付けてくる事は評価に値する姿だ。
しかし小十郎は馬鹿正直に桂花の相手をする事も無く、軽く言い払う。

「ガキって言葉で怒るって事は、ガキって自分で認めてるようなもんだ。クソガキ」
「なっ……なっ……キィーッ!! たかが客将のくせに、客将のくせにぃぃぃ!!」
「どうした? ガキってのは御望み通り訂正して、クソガキにしてやったんだぞ?」
「ムキィーッ!! ガキも、クソガキも、意味合いは同じでしょぉぉぉぉ!!」

ヒートアップする2人(厳密には桂花のみだが)を、秋蘭は呆れた様子で見つめた。

「もう止せ2人とも。片倉、せめて桂花の事は、私のように真名で呼んでやれ」
「なっ! 冗談じゃないわ! こんな奴に私の神聖な真名を呼ばれたくない!」
「ふん……目上の者に対する礼儀も知らない野郎には、クソガキで十分だ」
「ぬわんですってぇぇぇ!! 礼儀ぐらい、私だって小さい頃から知ってるわよッ!」
「今でも十分小せえだろうが。それにテメェの礼儀は華琳のみで、役には立たねえよ」
「私はまだ十分に育ち盛りよッ! それにまた、あの御方の神聖な真名を……ッ!!」

自分の助言が更なる波紋を呼び、途方に暮れる秋蘭。
ここまでこの2人の相性が悪いとは思わなかった。
今はこの場に居ぬ姉に助けを求めようとした時、その声は聞こえてきた。

「おお、お前達。こんな所に居たのか。華琳様が先の天幕で御呼びだぞ」
「あ、姉者ッ!」

春蘭の乗った馬が、こちらに向けて歩いて来る。
どうやら自分達を迎えに来たらしい。
かなり嬉しそうな秋蘭の様子に、春蘭は少々戸惑った。

「ど、どうしたのだ秋蘭。心なしか、ヤツれているように見えるぞ?」
「ああ……こんな時ほど、姉者が来てくれて嬉しいと思った事はない」
「ん……? 一体何が――」

秋蘭がゆっくりと指を指す方向を向くと、そこに原因はあった。

「野蛮人ッ! 野蛮人ッ!! 野蛮人ッ!!!」
「ガキ……」
「客将ッ! 客将ッ!! 客将ッ!!!」
「クソガキ……」

互いに馬に跨りながら、器用に言葉の戦いを繰り広げる桂花と小十郎。
後ろ、そして傍を行進する騎馬隊の面々の顔は、冷や汗で濡れていた。

「…………よく頑張ったな、秋蘭」
「正直、私ではもう止められん……」

優しい笑みを浮かべながら、秋蘭の苦労を称える春蘭。
小十郎と桂花の不毛な喧嘩は、春蘭が強引に割って入る事によって収まったのだった。

 

 

 

 

「……遅くなりました」
「随分遅かったわね……」

既に天幕を張り、待機していた華琳の元へ、春蘭達がようやく到着する。
4人がヤケに消耗している様子に首を傾げた華琳だったが、あえて訊かない事にした。

「でも良いわ、丁度偵察が帰ってきた所だから。報告を」
「はっ!」

先の偵察を終えた兵が、跪きながら報告していく。
前方に数十人ほどの行軍中の集団が居るらしく、旗が無い為に所属は一切不明。
彼等の格好がまちまちな所から、何処かの野盗か山賊である可能性が濃厚らしい。

「……様子を見るべきかしら? どう思う、桂花」
「もう1度、偵察隊を出しましょう。夏候惇、片倉、貴方達が指揮を執って」

桂花に言われ、春蘭と小十郎が姿勢を正す。

「おう、任せておけ」
「仕方ねえな……」
「頼んだわよ、春蘭、小十郎。準備が出来たら、すぐに出撃なさい」

華琳の激を受け、春蘭と小十郎は偵察部隊を引き連れて本陣より出発した。
この先に何が待ち受けているのか――2人はまだ知らない。

 

 


後書き
第3章、お送りしました。ツンツン軍師、桂花の登場です。
今後も小十郎とはソリが合わなさそうので、喧嘩させていきます。
無論、原作と同じで不毛な争いばかりですが(笑)
では、また次回。


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