夜の公園で、レン、リサ、シュティルの三人は合流した。

「宣戦布告?」

 ベンチに寝転がって鼾を掻いてるレンを冷ややかに見ながらリサが聞き返す。

「ああ。連合がプラントに出した要求を呑まなければ、プラントに対し敵性国家と見なし、武力行使に出るそうだ」

 そう言いシュティルは、数枚の用紙を見せる。それには、連合がプラントに出した要求が書かれていた。テログループの逮捕・引き渡し、賠償金、現政権の解 体、連合理事国の最高評議会監視員派遣という、余りにも一方的で理不尽な要求だった。

 これは即ち、独立し、自治権を持ったプラントが再び地球の属国になるというものである。

「こんなものプラントが受ける筈ありません」

 プラントの人間も、少なからず自分達が優れた人類で、地球こそが従うべきだという者もいる。第一、テロは最後の一人までもが死んだのだ。引渡しなど不可 能である。こんなもの、プラントが受ける筈ないと分かり、戦争を起こしたいだけの口実作りなのが目に見えた。

「デュランダル議長は、あくまでも対話による解決を望んでいるようだがな」

「無理でしょ、これ」

「ああ。現に既に地球軍の艦隊が侵攻してる……」

 がばっ!!

「「!?」」

 その時、急にレンが起き上がったのでリサとシュティルは目を見開く。

「ど、どうしたんです、兄さん? 昔、手を出して自殺した幼女に追われる夢でも見ました?」

「……………」

 リサの言葉など耳に届いておらず、目を細めてジッと空を見上げるレン。リサとシュティルも、レンの真剣な表情に眉を顰め、空を見上げた。

「終わる」

「え?」

 次の瞬間、空にピンク色の光が弾けた。リサとシュティルも目を見開いて驚愕する。

「あ、あの光は……」

「核……か」

 シュティルが苦々しげに、その光の正体を呟く。核……人類の生み出した史上最悪の大量虐殺兵器。たった一発でコロニー一個を落とす事だって可能な、その 兵器は、あの血のバレンタインの惨劇を生み出した。

 ザフトのNジャマーにより核の使用は全くの不可能になったが、Nジャマーキャンセラーの登場により、核の封印は解かれてしまった。

 ユニウス条約により、Nジャマーキャンセラー、核兵器類の使用は一切、禁止されていた。

「一度、ドラゴネスに戻ろう」

 レンの言葉にリサとシュティルはコクッと頷いた。




機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜

PHASE−08  開戦




 プラントの評議会ビルの一室に、アスランはいた。デュランダルに面会を求めていたが、どうやら戦闘が始まったらしかったが情報は入って来ない。同行して くれてる大使館員は、落ち着かない様子で部屋の様子をウロウロしている。

 恐らく今、デュランダル議長は多忙だろう。一応、アポは取ってあるが、このままでは会えない可能性もある。アスランは、ふと立ち上がり大使館員に言っ た。

「ちょっと顔を洗ってきます」

 外の事も気になるが、アスランは洗面所で顔を洗って気持ちを落ち着かせる。そして、廊下に出ると、透き通るような声が聞こえた。

「ええ、大丈夫。ちゃんと分かってますわ。時間は後どれくらい?」

 その声に物凄く聞き覚えがあり、アスランは不審に思い待合室を通り過ぎて廊下を曲がる。すると階段の上で、ピンク色の髪が揺れ、アスランは愕然と立ち尽 くす。
 
「ならもう一回確認できますわね」

「ラクス!?」

 そこにいたのは間違いなく、彼の良く知る人物、ラクスそのものであった。足元には赤いハロが飛び跳ねている。マネージャーと思しき2人の男性と話してい た彼女は、ゆっくりと振り返り表情を輝かせた。

「アスラン!」

 そして軽やかな足取りで階段を駆け下り、アスランに抱きつく。反射的に抱きとめたアスランだったが驚きを隠せなかった。

「嬉しい! やっと来て下さいましたのね」
 
「あ……え? あ……君がどうして此処に?」

 キラとオーブにいる筈の彼女が何で此処にいるのか分からず、眉を顰めるアスラン。
 
「ずっと待ってたのよ、アタシ。貴方が来てくれるのを……うふ」
 
 その態度にアスランを目を細める。どうも自分の知る彼女とは明らかに態度が違っていた。

「ラクス様」
 
「ああ、はい分かりました」

 呼ばれる彼女は小走りでマネージャー達の元へ向かう。

「ではまた。でも良かったわ。ほんとに嬉しい、アスラン」

 そう言い、微笑むと彼女は去って行った。

「ん? やぁアレックス君」

 その時、背後から声をかけられてアスランはハッとなって振り返った。そこには、デュランダルと付き添いの一団がいた。デュランダルは笑顔でアスランに言 う。

「ああ、君とは面会の約束があったね。いや、たいぶお待たせしてしまったようで申し訳ない」

「あ……いえ……」

 先程のラクスの事が頭から離れず、アスランは挙動不審になるとデュランダルが不思議そうな顔で尋ねて来た。
 
「ん? どうしたね?」

「いえ……何でもありません」

 その場では、アスランはそう答えた。




「ニュートロンスタンピーダー?」

「うむ」

 ドラゴネスに戻ったレン、リサ、シュティルの3人。ブリッジでは、ドクター・ロンが地球軍の核攻撃の際、プラントが使用した兵器を説明した。早い話が、 核分裂を抑えるNジャマーに対し、ニュートロンスタンピーダーは、強制的に核分裂を起こさせ、核ミサイルを爆発させる兵器である。

 それで、プラントは連合の核ミサイル攻撃を未然に防いだようだ。もっとも、連合側の受けた被害は甚大であるが……。

 しかし、その際に消費するエネルギー量は半端ではなく、搭載した戦艦は機能停止し、一発限りの使い捨て兵器である。

「どっかのアホたれが残した設計図から、そのまま作り出したようじゃの」

「あはははは……あんな燃費の悪いの使うとはね〜」

 冷めた目でレンを見るドクター・ロン。苦笑いを浮かべるレンに、皆が「まさか……」という表情になる。

「しかし、これでレンのシナリオ通りになっちまったな〜」

「そうなるとオーブは、大西洋連邦と同盟組むだろうね。これ見てよ」

 そう言い、レンは写真の入った紙袋を出した。皆、その写真を見ると、それにはセイラン家とロゴスの関わりを示す書類だった。

「に、兄さん!? こんなの一体、いつ……!?」

「昨日の夜、セイラン家の屋敷に忍び込んで金庫から抜き取って写真撮ったの。私だって実は仕事ちゃんとしてるんだよ?」

 ハッハッハ、と笑うレンに、こいつ海賊というよりコソ泥じゃないかという視線を向ける。

 この資料を見る限り、セイラン家は相当、ロゴスと深い繋がりを持っているようで、これじゃあ大西洋連邦との同盟を強く推し進めるのは当然だった。

「でも、そうなるとちょっと気になる事が……」

「どうしたんです?」

「いやね、オーブにラクス・クラインがいたのよ」

「「「「「………は?」」」」」

「お〜、すげ〜」

「ラクス・クライン?」

 レンの発言に、ラディック、シュティル、アルフレッド、ロビン、ドクター・ロンが唖然となり、キャナルが素直に感嘆の声を上げ、リサは首を傾げた。

 記憶のないリサは、ラクスの事を知らないのでキャナルから教えて貰う。

「お、おい! ラクス・クラインって……何でプラントの歌姫がいるんだよ!?」

「さぁ? でも彼女がいるとなるとオーブが大西洋連邦と同盟結んだら色々と面倒な事になるね〜」

 プラントの歌姫という国民から絶対的なカリスマと影響力を持ち、また、その歌で軍人の士気が上がる彼女を人質にでも取れば、その利益は計り知れない。

「何より私は“ラクス様ファンクラブ”の一桁台なんだよ!」

 そう言ってポケットから007の金色の会員証を見せるレン。

「兄さん……」

 一同の頭の中に、コンサート会場の最前列の席で、鉢巻きに団扇、そしてハッピを着て「L・O・V・E! ラ・ク・ス!」と応援するレンの姿が思い浮か ぶ。

「そんな彼女を危険な目に晒すなんて……私には出来ない! と、いう訳でオーブに戻って彼女のストーカーになろうと思います」

「堂々とストーカー発言したッスよ、この外道……」

「しかもビデオカメラ片手に……」

 何処から出したのかビデオカメラを出して意気揚々とするレン。

「じゃ、今度は私一人で行くよ」

「駄目です、兄さん一人野放しにすると、どんな犯罪を犯すか……」

「失敬な! 私だって、ちゃんと考えが……」

 その時、モニターに映っていたプラントのニュースが切り替わり、ピンクの髪の少女が映った。リサ以外は、それを見て驚く。

「ラクス・クライン!?」

「どういう事だ!? オーブにいるんじゃなかったのか!?」

 驚く一同を他所に、レンはニヤッと笑みを浮かべた。




「核攻撃を!?」

 議長執務室へと招かれたアスランは、デュランダルから地球軍が核攻撃を行った事を聞かされ、驚きを隠せないでいた。

「ああ」

「そんな……まさか……!?」
 
「と言いたいところだがね、私も。だが事実は事実だ」

 そう言い、デュランダルは手元のスイッチを操作し、壁面のモニターを映すと、プラントのニュースがやっていた。

<繰り返しお伝え致します。昨日午後、大西洋連邦を始めとする地球連合各国は我等プラントに対し、宣戦を布告し、戦闘開始から約一時間後、ミサイルによる 核攻撃を行いました>

 ニュースキャスターの顔から、戦闘の映像に切り替わる。そして、今度は核ミサイルを搭載したMSが映った。

<しかし防衛にあたったザフト軍はデュランダル最高評議会議長指揮の下、最終防衛ラインで此を撃破。現在地球軍は月基地へと撤退し攻撃は停止しています が、情勢は未だ緊迫した空気を孕んでいます>

 アスランは地球連合の愚かしさに愕然となる。条約破りの核攻撃など、今までプラントと地球が築き上げて来た関係を一瞬で水泡に帰してしまう。いや、もう そうなってるだろう。プラントの市民は、これを知り地球への憎悪を向けるだろう。

「君もかけたまえ、アレックス君。ひとまずは終わったことだ。落ち着いて」

 デュランダルに促され、彼は向かいのソファに座った。

「しかし……想定していなかったわけではないが、やはりショックなものだよ。こうまで強引に開戦されいきなり核まで撃たれるとはね」

 アスランは、静かに目を閉じる。プラントへ行く前、カガリに言った“憎しみに憎しみで返す事の虚しさ”……それが今、こうして目の前で繰り広げられてい るのは、やるせないのだろう。

「この状況で開戦するということ自体、常軌を逸しているというのに。その上これでは……これはもうまともな戦争ですらない」
 
「ええ……」
 
「連合は一旦軍を引きをしたが、これで終わりにするとは思えんし。逆に今度はこちらが大騒ぎだ。防げたとはいえ、またいきなり核を撃たれたのだからね…… 問題はこれからだ」

 プラント市民は、戦争意欲が高まり、地球への報復を望んでいる。アスランは、鋭い視線をデュランダルに向け、尋ねた。

「それで……これからプラントはどうするおつもりですか?」

 その質問にデュランダルは笑みを崩さずに答えた。

「我々がこれに報復で応じれば、世界はまた泥沼の戦場となりかねない………無論、私だってそんな事にはしたくない。だが、事態を隠しておけるはずもなく、 知れば市民は皆怒りに燃えて叫ぶだろう。許せない、と」

「…………」

「それをどうしろと言う? 今また先の大戦のように進もうとする針を、どうすれば止められるというんだね? 既に再び我々は撃たれてしまったんだぞ、核 を」

 止めようとしたい、とデュランダルはそう思っているだろうが、アスランはどうも腑に落ちなかった。デュランダルの言い振りだと、止めたいとは思っている が、何が何でも止めるべきだという風には聞こえなかった。

「憎しみで憎しみを返して……そんな悲しみの続く連鎖、もう俺はゴメンです」

「アレックス君……」

「俺はアスラン・ザラです」

 自嘲的な笑みを浮かべて、そう言うアスランに、デュランダルは眉を顰める。

「2年前、どうしようもないまでに戦争を拡大させ、愚かとしか言いようのない憎悪を世界中に撒き散らした、あのパトリックの息子です……父の言葉が正しい と信じ、戦場を駈け、敵の命を奪い、友と殺し合い、間違いと気付いても何一つ止められず、全てを失って……なのに父の言葉がまたこんな……」

 アスランの脳裏に2年前の思い出が溢れ返る。友を殺され、キラを殺したと思った時、カガリは言った。“それで最後は平和になるのか?”と。なりはしな い。だから父を止めようとした。しかし、父の暴走は止まらず、何も変わる事は出来なかった。

「だから、もう絶対に繰り返してはいけない……あんな事……」

「……ユニウスセブンの犯人達のことは聞いている。シンの方からね」

 少し自虐気味のアスランに、デュランダルは温かい声をかける。

「君もまた、辛い目に遭ってしまったな」

「いえ違います。俺は寧ろ知って良かった。でなければ俺はまた、何も知らないまま……」

「いや、そうじゃない、アスラン。君が彼等のことを気に病む必要はない。君が父親であるザラ議長のことをどうしても否定的に考えてしまうのは、仕方のない ことなのかもしれない」

 そう言って立ち上がり、スクリーンを見るデュランダルをアスランは睨む。穏健派として政治を進めてきた彼が、父の事を肯定するのはおかしい。しかし、 デュランダルは更に続けた。

「だが、ザラ議長とてはじめからああいう方だったわけではないだろう? 彼は確かに少しやり方を間違えてしまったかもしれないが、だがそれも皆、元はとい えばプラントを、我々を守り、より良い世界を創ろうとしての事だろう」

 確かにパトリック・ザラは、ナチュラル全てを滅ぼそうとした。もし少し前までの自分が、デュランダルの言葉を聞けば、父親に対しての考え方は少し違った かもしれない。しかし、今のアスランは違った。

 少なくとも、父がコーディネイターを守ろうとしたとは考えられない。彼はコーディネイターを守るのではなく、ナチュラルを滅ぼす事が何よりも優先してい た。

 そうでなければ、政敵とはいえ親友だった筈のラクスの父、シーゲル・クラインを抹殺したり、優秀な人物であったアスランの仕官学校時代の教官であったレ イ・ユウキを進言しただけで殺害したりしない。

 何よりも、味方を巻き添えにしてまでジェネシスを放とうとしたのだ。

「思いがあっても結果として間違ってしまう人は沢山いる。またその発せられた言葉がそれを聞く人にそのまま届くとも限らない。受け取る側もまた自分なりに 勝手に受け取るものだからね」

「議長……」
 
「ユニウスセブンの犯人達は行き場のない自分達の想いを正当化する為にザラ議長の言葉を利用しただけだ」

 その言葉にアスランは僅かに目を見開く。

「自分達は間違っていない。何故ならザラ議長もそう言っていただろ、とね。だから君までそんなものに振り回されてしまってはいけない。彼等は彼等、ザラ議 長はザラ議長……そして君は君だ。例え誰の息子であったとしても、そんなことを負い目に思ってはいけない。君自身にそんなものは何もないんだ」

 アスランは一瞬、デュランダルとレンの言葉が重なったように思えた。しかし、何故か心の何処かで違うようにも思えた。その違和感が分からないまま、アス ランはデュランダルの言葉を聞く。
 
「今こうして、再び起きかねない戦火を止めたいと、此処に来てくれたのが君だ。ならばそれだけで良い。一人で背負い込むのはやめなさい」

 そう言い、デュランダルはアスランに向かって微笑みかける。

「だが、嬉しい事だよ、アスラン。 こうして君が来てくれた、というのがね。一人一人のそういう気持ちが必ずや世界を救う。夢想家と思われるかもしれないが私はそう信じているよ。だからその 為にも我々は今を踏み堪えなければな」

 何だろう? 確かにデュランダルの言っている事はレンと同じようなものだった。しかし、アスランは、どうしても彼の言葉を素直に受け入れる事が出来な かった。

 “裏の無い政治家は穴がある、穴の無い政治家は裏がある”

 かつてレンに教えられた事が、自分を支配しているのかと思った。デュランダルは余りにも完璧過ぎた。言葉、態度、全てが……。

 もしレンの教えに支配されているなら、デュランダルは信に足る人物だ。しかし、アスランは胸の中にある“しこり”のようなものが何なのか拭えなかった。

<皆さん!>

 その時、ニュースだった映像が突然、変わりピンクの髪の少女が映る。
 
「!?」

<わたくしはラクス・クラインです>

 アスランは思わず立ち上がり、モニターに映る少女に見入る。デュランダルは、アスランを見て笑みを浮かべていた。
 
<皆さん、どうかお気持ちを静めて、わたくしの話しを聞いて下さい。この度のユニウスセブンのこと、またそこから派生した昨日の地球連合からの宣戦布告、 攻撃……実に悲しい出来事です>

 そこに映るラクスを見て、アスランは奇妙な違和感を感じた。

<再び突然に核を撃たれ、驚き憤る気持ちはわたくしも皆さんと同じです! ですが、どうか皆さん! 今はお気持ちを沈めて下さい。怒りに駆られ想いを叫べ ばそれはまた新たなる戦いを呼ぶものとなります>

 それを聞いて、アスランは直感した。これに映っているのはラクスではない、と。そして、デュランダルを見ると彼は苦笑した。
 
<最高評議会は最悪の事態を避けるべく、今も懸命な努力を続けています。ですからどうか皆さん、常に平和を愛し、今またより良き道を模索しようとしている 皆さんの代表、最高評議会デュランダル議長をどうか信じて、今は落ち着いて下さい>

 そう訴え、歌い始める少女。デュランダルは自嘲的な笑みを浮かべて言った。

「笑ってくれて構わんよ」




「ぎゃははははははは!!!!!!!」

 ドラゴネスのブリッジでは、レンが腹を抱えて笑い転げていた。モニターでは、ラクスの綺麗な歌が流れているが、何故か涙を浮かべて笑っているレンを皆が 不思議そうに見ている。

「博士……こりゃあ面白いものを用意してくれたね〜。ひぃ〜、腹イテ〜」

「どういう事ッスか?」

「ありゃ偽者だよ」

「え!?」

「マニアの目ぇナメんなよ! 第一、本物はあんな胸でかくないわ! 本物は掌に収まるぐらいの小振りでキュートな胸だ! そもそも本物と違って歌い方の癖 が違う!」

 拳を強く握って力説するレンに、クルーは冷ややかな視線を送る。

「………そうなのか?」

「少なくとも兄さんは一度見た女性の身体的特徴は全て覚えています。場合によっては、指紋も記憶し兼ねませんから……信憑性はあるかと」

 レンを指差して尋ねるラディックに、リサは額に指を当てて呆れ果てた口調で答える。レンは、フッと笑みを浮かべ、手をワキワキさせる。

「コンサートで何度、あの胸を揉んでやろうとシミュレートした事か……」

「もはや最低を通り越して鬼畜だな、この野郎……」

「仲間として情けないッス」

「レンちゃん、人の道外れ過ぎ〜」

 クルーから次々と罵声を浴びせられるレンだったが、彼は何処吹く風であった。そして、ニヤッと笑い、モニターに映るラクス・クラインを睨みつける。

「すこ〜し甘かったね、博士。どうやら本物を見守る必要がマジで出来たみたいだよ」




「君には無論判るだろう」

 そう言って問いかけるデュランダルに、アスランはやはりモニターに映っているラクスが偽者だと悟った。

「我ながら小賢しいことだと情けなくもなるな。だが仕方ない。彼女の力は大きいのだ。私のなどより、遥かにね」

 戦犯として扱われたパトリック・ザラに対抗したラクスの人気は未だに根強いものがある。確かに彼女の言葉なら、他の誰が言うよりも効果を発揮するだろ う。そして、アスランは気付いた。

「(これが裏か……!)」

 レンの言っていた裏。プラント市民を騙しているデュランダル。その時、アスランの中で彼の不信感が高まった。

「馬鹿な事をと思うがね……だが今、私には彼女の力が必要なのだよ。また、君の力も必要としているのと同じにね」
 
「私の?」

「一緒に来てくれるかね」



「……これは……」
 
 アスランが連れて来られたのは、軍事施設だった。他国の人間である彼が本来なら入る事を許されない場所だ。そして、ある格納庫で彼が見たのは、巨大な人 型兵器だった。ディアクティブモードの灰色状態だが、それはインパルスや強奪された三機と同系統の機体だった。

 角のような突起を持ち、巨大なブースターを持っている。また両肩にはビームサーベルらしきものがあり、両肩から後方にはビーム砲が伸びている。

「ZGMF−X23Sセイバーだ。性能は異なるが例のカオス、ガイア、アビスとほぼ同時期に開発された機体だよ。この機体を君に託したい、と言ったら君は どうするね?」

 機体の説明をして、アスランにそう言うデュランダル。アスランは、警戒を高めてデュランダルに向き合う。
 
「どういうことですか? また私にザフトに戻れと?」

 無茶な話だった。一応、アスランは脱走兵だ。デュランダルの口添えがあったとしても、一度抜けた軍に戻るのは心境的に複雑だった。しかし、ふとアスラン の中である考えが生まれた。

「(いや……これから議長がどうするのか確かめるには……)」
 
「う〜ん……そういう事ではないな。ただ言葉の通りだよ。君に託したい。まぁ手続き上の立場ではそういう事になるのかもしれないが」

 セイバーを見上げ、デュランダルは言葉を続ける。

「今度の事に対する私の思いは、先ほど私のラクス・クラインが言っていた通りだ。だが相手は様々な人間、組織。そんなものの思惑が複雑に絡み合う中では、 願う通りに事を運ぶのも容易ではない。だから思いを同じくする人には共に立ってもらいたいのだ。出来ることなら戦争は避けたい。だがだからといって銃も取 らずに一方的に滅ぼされるわけにもいかない」

「…………」

「そんな時の為に君にも力のある存在でいて欲しいのだよ、私は。先の戦争を体験し、父上の事で悩み苦しんだ君なら、どんな状況になっても道を誤ることはな いだろう。我等が誤った道を行こうとしたら君もそれを正してくれ。だが、そうするにも力が必要だろ……残念ながら」

 それを聞いて、アスランはフッと笑みを浮かべる。その態度にデュランダルは少し驚きながらも、アスランを見つめる。

「議長、一つお尋ねして良いですか?」

「ん? 何かね?」

「もし、本物のラクスが現れたら、貴方はどうしますか?」

「…………と、言うと?」

「そのままの意味です」

 そう言いデュランダルを真正面から見据えるアスラン。そして、アスランは手で銃の形を作ると、トンとデュランダルの胸に当てた。

「もし、貴方が道を誤れば貴方に銃を向けても構わない……と?」

「……ああ、頼むよ」

 笑みを浮かべ頷くデュランダル。アスランは手を離すと、セイバーを見上げた。



 宿泊先のホテルに送られ、アスランはホールに足を踏み入れる。ぶっちゃけ彼は内心ドキドキしていた。あの時、デュランダル相手に啖呵を切ったのは、正 直、恐ろしかった。

「(偽者のラクスを使うなんて、議長にしては余りにも危ない橋を渡り過ぎだ……)」

 バレたらプラント市民の反感を一斉に買うような政策を取るデュランダル。完璧過ぎる彼には、それはおかしいとアスランは考えていた。

「あ! アスラン!」

 すると甲高い声に呼ばれて顔を上げると、ラクス、いやラクスを演じていた少女が駆け寄って来た。

「お帰りなさい。ずっと待ってましたのよ」

 そう言って胸に飛び込んで来る少女に、アスランは困惑した。

「え……あ……君……あの……」

 すると、少女が小声でアスランに話しかける。
 
「ミーアよ。ミーア・キャンベル。でも、他の誰かがいる時はラクスって呼んでね」

 そう言いウインクするミーアと名乗る少女。しかし、アスランはそんな茶番劇に乗るなど嫌なので不満顔になるが、ミーアがいきなり自分の腕を絡めて来た。

「ね、ご飯まだでしょ? まだよね? 一緒に食べましょ!」

「え……いや……あの……」

 余りにも一方的な彼女に、アスランは戸惑う。
 
「アスランはラクスの婚約者でしょう?」

「あ……いや、それはもう……」

 とっくに解消され、今はそれぞれ別に大切な人を見つけたので良き友人という間柄なのだが、プラント全体には知れ渡っていない。だから、彼女は『婚約者』 という役を演じているのだろう。

 やがてアスランは済し崩し的に最上階のVIPルームへと連れて来られた。ミーアは、アスランに対し積極的に話しかけて来る。

「ええと、アスランが好きなのはお肉? それともお魚? ん〜と……あ! そうだ! 今日のアタシの演説見てくれました?」
 
「え? あ、ああ……」

「どうでした? ちゃんと似てましたか?」

 答えないアスランに、ミーアは不安げに尋ねてきた。
 
「駄目……でしたか……?」
 
「いや……」

 そう答えられるとミーアはパァッと表情を明るくし、身を乗り出した。

「ええ!? ほんとに!?」
 
「ああ、良く似ていたよ……まぁほとんど本物と変わらないくらいに」
 
「や〜ん! うれし〜! 良かった……アスランにそう言ってもらえたら、アタシほんとに!」

 嬉々としてメニューを抱き締める彼女に、アスランは何だか結局、茶番劇に付き合ってしまってるような気がして溜息を吐いた。

「アタシね、ほんとは、ず〜とラクスさんのファンだったんだです。彼女の歌も良く好きで歌ってて、その頃から声は似てるって言われてたんだけど。そしたら ある日急に議長に呼ばれて……」

「顔は?」

「え?」

 ふとアスランが言うと、ミーアはキョトンとなった。

「声は似てても……顔は? 姉妹でも何でもない君が、声も顔も似てたのか?」

 そう質問し、ジッとミーアを見つめるアスラン。すると彼女は渋面を浮かべて、視線を逸らした。その反応で、アスランには充分だった。

「(整形……か。何か言い回しが先輩に似てきたな……)」

 自嘲し、アスランはスッと席を立つ。

「あ、アスラン?」

「君は確かにラクスに似ていたよ……そう、似ていたんだ」
 
 そうして、その場から去って行くアスラン。ミーアは、呆然と彼の背中を見詰め続けていた。




「ええい!」

 ジブリールは憤慨し、デスクにあった計画表を払い除けた。
 
<冗談ではないよジブリール。一体なんだねこの醜態は?>

<しかしまあ…ものの見事にやられたもんじゃの>

 口々に言う男達にジブリールは表情を歪ませる。
 
<ザフトのあの兵器はいったい何だったのだ>

<意気揚々と宣戦布告して出かけていって、鼻っ面に一発喰らってすごすごと退却か。君の書いたシナリオはコメディなのかね?>

 強烈な皮肉にジブリールはギリギリと椅子の肘掛を握り締める。ジブリールは、計画の破綻にかなり憤慨していた。当初は、プラントに核を撃ち込み、その 後、地球上のジブラルタルやカーペンタリアなどといったザフトの基地を侵攻する筈だった。

 ユニウスセブンの落下で疲弊した地球軍において、今回の戦争は短期決戦が鍵だったのだ。しかし、プラントは、その計画を出鼻から挫いてくれたのだ。正体 不明の兵器によって。

<これでは大西洋連邦の小僧も大弱りじゃろうて>

<地球上のザフト軍の拠点攻撃へ向かった隊は未だに待機命令のままなのだろ?>

<勢い良く振り上げた拳、このまま下ろして逃げたりしたら世界中の物笑いだわ>

<さて、どうしたものかの。我等は誰にどういう手を打つべきかな。ジブリール、君にかね?>

 その言葉にジブリールは内心驚く。その意味は、ブルーコスモスの盟主から引き摺り下ろし、彼を始末するという事だった。彼らには、それだけの権力があ る。

 世界を裏で支配してきた存在“ロゴス”……そのトップが彼らなのだ。彼らの前ではジブリールも下僕の一人でしかない。失った所で代用は幾らでも利くの だ。

「く……ふざけた事を仰いますな! この戦争、ますます勝たねばならなくなったというのに!」

 ジブリールの力の篭った、その言葉に男達は黙る。

「我等の核を一瞬にして消滅させたあの兵器! あんなものを持つ化け物が宇宙(そら)にいて、一体どうして安心していられるというのです!?」

 正体不明の核を爆発させた兵器。もし、ザフトが、その兵器を地球に向けて放てば、地球上に存在する全ての核が爆発する。そうなったら自分達がどうなる か、少し考えれば分かるだろうに、ちっとも危機感を感じていない男達にジブリールは苛立ちを感じた。

「戦いは続けますよ! 以前のプランに戻し……いや! それよりもっと強化してね! 今度こそ奴等を叩きのめしその力を完全に奪い去るまで!」

 そう力説するジブリールに、男達は何も言わず通信を切った。

「くそっ!!」

 ドカッと怒り任せにデスクを蹴るジブリール。その時、シュンと部屋の扉が開いた。

「誰だ!?」

「おやおや。随分と荒れているな……ジブリール」

「キースか……」

 部屋に入って来たのは宇宙より帰還したキースだった。その手にはワインと二つのグラスを持っている。彼は静かにジブリールの下へ歩み寄り、デスクにグラ スを置くと、ワインを注ぐ。

「老人達もご立腹のようだな」

「聞いていたのか……」

「ああ、スマンね。君の慌てふためく姿など滅多に見れるものじゃないのでね」

「悪趣味な……」

 フンと鼻で笑い、ジブリールはキースからワインの入ったグラスを受け取る。

「だから言っただろう? デュランダルには気を付けろと……」

「うるさい! お前に心配されなくとも次の手はある!」

「ほう?」

 興味深そうにジブリールを見るキース。

「見ていろ、コーディネイターどもめ……青き清浄なる世界の為、貴様ら全て葬り去ってやる……」

「(それは愚かな考えだよ、ジブリール)」

 燃えるジブリールにキースはフッと笑ってワインを飲む。種を絶滅させるなど膨大な年月を要する。それこそ、今、世界中に生きている人間が生きている間に 達成させるのは不可能だ。

 生命というものは、それほどに強く、しぶといのだ。たった一時で全てを滅ぼすなど愚か以外何ものでもない。

「(次の手というのは、力による恐怖支配か……デュランダルはそれを逆手に取って地球人民を味方にする気だな……)」

 やはりジブリールよりデュランダルの方が役者が上だと思わざるを得ないキースだったが、その事は言わず……。

「そうか、ジブリール。では、友として君に私も協力は惜しまんよ」

「何?」

 そう言うと、キースはデスクのコンピューターにあるディスクを入れた。そして、ディスプレイを見てジブリールは目を見開く。それは、とあるMSの設計図 だった。

「こ、これは!?」

「GAFS−X1デストロイ……少々、お遊びで設計したのが役に立つかもしれん。君の望みの為、存分に使ってくれたまえ」

 ジブリールに笑いかけるキース。ジブリールは体を震わせながら、恍惚に満ちた表情でキースを見ると、グッと彼の両肩を掴んだ。

「素晴らしい……素晴らしいぞ、キース! お前の厚意! 決して無駄にはしないぞ!」

「ふふ……喜んで貰えて嬉しいよ。では、乾杯といこうか」

「うむ!」

 そうして2人は互いのグラスを弾き合い、ワインを飲む。

「ふははははは! 美味い! こんなに美味い酒は久し振りだ!! ははははははは!!!」

「(さて、レン……お前はデュランダルの動きを読んでいるかな? 私にとって何よりの脅威はジブリールでもデュランダルでも……キラ・ヤマトでもない。お 前なのだからな、ふふふ……)」

 高笑いするジブリールの横で、彼のペットの黒猫を抱きかかえながら冷笑を浮かべてワインを飲むのだった。
感想

ふむ、レンとキースが世界の根幹に係るキャラとして登場していますね。

今回は深読みの回というか伏線が多いですね〜

どのように開示されていくのか楽しみにしています♪

まぁ、レンはギャグ調を崩さず行って欲しいところですが(爆)

種運命の二次創作を作る時に大変なのは、キャラの整合性が上手く行きにくい事だと思います。

実質、濃いキャラや、深いキャラ、また世界背景としての深さが不足しがちです。


なぜなら、コーディネイターというのは基本的に一般人十人位の働きをする筈なのに、実質はナチュラルと戦って勝てないって事ですし。

いや、地球のMSに乗った一般兵とザフトの一般兵、潰しあってるところだけ見ると、それ程被害の出方が変わらない(汗)

戦力的にMSというアドバンテージを失ったザフトは今一コーディネイターとしての強さを見せられないですし、フラガは一般のコーディネイターよりはるかに 強いですしね。

種割れする人には敵いませんが。

つまり、一つ目としてコーディネイターはそれ程超人ではないという事です。

遺伝子操作までして生まれてくる割にはたいした事がないとも思えます。


超人ではないコーディネイターと言う時点で世界背景が薄くなってきていますが、更にコーディネイターとナチュラルという構図。

正直言ってコーディネイターと言う存在がナチュラルに嫌われているにしても、ブルーコスモスの行動は不明です。

ロゴスが武器商人の集まりなら、ブルーコスモスはその支援に乗っかってコーディネイターを排斥する運動をしている団体でしょう。

しかし、そんな団体が直接軍を指揮するという事は無い筈なんですが(汗)

どうしてアズラエルもジブリールも自分で出撃するのか…

派閥色を政治的に深めて地球の権力を思うように動かすのが彼らの仕事ならはっきり言って失敗しています。

彼らのやるべきは、政治的に相手を追い込んで、その後で軍を送り込む事であって、自分で出撃する事では決してありません。

そんな事をやるから負けるんです。

基本的にガンダムができる事は戦術的勝利だけですから、政治的に追い込んでいくというのが普通です。


それに何より、どこにも属さない組織が一番強いという方程式はかなり問題があります。

政治も軍事も関係なくただ友情とか正義とかで結ばれた組織は、長く続きません。

そもそも、補給をやったり、援助してくれる組織が無ければ動けないですし、

その援助してくれる組織は、何かの望みがあるから援助してくれるんです。

普通は勝利する事によって何かが得られるという事ですが、情報や株が動くのはあまり関係がありません。

確実と言う訳にはいきませんからね。

では何を求めるのかというと、先の安心できる生活であったり、武器等をこれからも買い付けてくれる事であったりします。

そして、武器を買い続けるにも、安心できる世界を作り出すにも、必要なのは巨大な政府です。

彼らはオーブと言う国を持っていますが、そもそもアレも実質管理している人間から言われないと意味が無いですしね。

つまり、武器の安定供給も、未来の安心も彼らには作り出す事ができないのに支援してもらっていた訳です。

正直、世界観は悲しいと思います。


デュランダルも途中まではそれなりにいい悪であったと思いますが、最後に唯のヤラレと化してしまったのは悲しい所ですね。

キャラたちも背景が今一薄いのでもう個性で勝負する部分がメインになってしまってますからね。

葛藤もあるにはあるけど…回想シーンで埋め尽くされた話はとても良い話とも思えなかったですし。

何が言いたいのかといいますと、背景世界やキャラ設定はある程度再構築しなければ薄くなる可能性がありますので、

その辺りも気をつけるべきかなといった感じです。


今後も頑張ってくださいね〜


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