ドラゴネスのブリッジで、リサはキャナルの席に座り、端末を弄っていた。すると、キラとラクスとカガリが入って来て、一人しかいない彼女を見て不思議そ うに尋ねた。

「あれ? リサちゃん。フブキさんや皆は?」

「艦長はマリューさんとバルドフェルドさんと一緒に隆生氏と話し合いの最中です。アルフレッドさんとロビンさんは、休憩中。兄さんは……シュティルさんと キャナルさんと一緒にディオキアに行きました」

「…………は?」

 ディオキア……黒海に面した都市で、現在、彼らのいる日本からは大分、離れている。何で行くのか理由が良く分からなかったが、リサが嘆息してとある映像 を出す。それには、“ラクス・クライン 地球ツアー決定!”という見出しの映像だった。

「何でも地球のザフト軍基地を回る慰問コンサートだそうですよ。それで兄さん……最初のディオキアに行っちゃって……」

「行っちゃってって……お前の兄はラクスのファンクラブじゃないのか?」

「ラクス様には、キラさんがいるから、こうなったら偽者でも良いと見境の無い台詞を言ってグッズ持って行きました。念の為、シュティルさんとキャナルさん も一緒なので多分、恐らく、きっと、大丈夫だと思います」

 そう言われ、キラ達は苦笑いを浮かべた。が、ふと何故かリサが不機嫌そうにキーを叩いているのに気付き、ラクスが尋ねた。

「リサさん、どうかされましたか? 何か怒ってらっしゃるようですが……」

「別に……気晴らしに食堂で、ケーキ作ってたら、生クリームを鼻の頭に付ける事を強要してくる兄に腹など立ててませんよ」

「「(相当、怒ってるな)」」

 そんな事を強要するレンもレンだが、どうコメントして良いのか分からない双子の姉弟。リサはブツブツと愚痴りながらキーを叩くと、ラクスが言う。

「そういえばリサさんは、レン様に付いて行かれなかったのですか?」

「…………多分、兄さんは……何か思い当たる事があって行ったのだと思います」

 普段のレンを見ていると、そうは思えないキラ達は顔を見合わせると、リサはモニターを消して3人に向き直る。そして真剣な表情で言った。

「あなた方は、兄さんを良く知らないから無理もありません。っていうか、私も兄さんの本質を知りません。ですが……兄さんのあの性格は、本性を隠す為だと 思います」

「本性?」

「…………私、一度、自殺しようとした事がありました」

 そう言い、リサが袖を捲ると手首には生々しい傷跡があった。それを見て驚くキラ達。リサは、眼帯に触れて語った。

「2年前の戦争で大怪我を負っていた私を兄さんは治療してくれました。目を覚ました私には記憶がありませんでした。ただ、鏡を見て……写っていたのは老人 みたいに真っ白い髪に眼帯、先の無い右腕でした。それを見た時、酷く兄さんを憎みました。自分が誰だか分からなくて……こんな醜い姿になってまで生かした 兄さんを……だから私は……」

 そう言い、リサは手首の傷跡を見つめる。確かに、自分の元の姿も、記憶も分からず目を覚ましたら、自分の異様な姿を知った彼女の心境などキラ達には知る 由も無い。

「せめてもの復讐のつもりで、兄さんの目の前で手首を切ったんですけど…………兄さん、顔色一つ変えずに治療をしてくれました。まるで私が、そうする事を 見透かしていたように……その時から思うようになったんです……」

 彼は、優しい。けれど、“死”というものに対しての恐怖や戸惑いが無い。自分が死ぬ事も、誰かが目の前で死ぬ事も、命を奪う事も……まるで全て受け入れ ているかのようだった。

 リサは話を終えると、袖を戻し、ブリッジの外のドックを見つめる。

「兄さんは……私達が思っている以上に底の知れない人だと思います……」




機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜

PHASE−15 会談




「ディオキアかぁ……良い街ですねぇ。何だか随分と久し振りですよ、こういう所は」

 ミネルバから出ると、アーサーが高揚とした気分で白い建物と黒海に面した都市――ディオキアの街並みを見て言うと、隣で歩くタリアも頷いた。

「海だの、基地だの、山の中だのばかり来たものね。少しゆっくり出来たら、皆も喜ぶわね」

 殆どが都会育ちのミネルバのクルーにとって、プラントの街ほどではないが、こういう都会の方が過ごし易い事だろう。そんな会話をしながら基地司令部に向 かう2人だったが、周囲を見回して呟く。

「でもこれは……」

「はぁ……何なんでしょうねぇ」

 兵士達が騒ぎ合い、あちこちでひしめき合っている光景は異様だった。しかも皆、妙に浮き足立っている。そして、フェンスの向こうにも民間人達が集まって いた。すると突然、歓声が巻き起こり、キィィンという機械音がした。

 空を見上げると、ピンク色のザクが、ディンとオレンジの機体に支えられて降下して来た。そして、着地すると、ピンク色のザクの掌から、ピンクの髪の少女 ――プラントのアイドル、ラクス・クラインが姿を現した。

「みなさ〜ん! ラクス・クラインで〜す!」

 明るく手を振るラクスに、ザフト兵士やフェンスの外の民間人達が大歓声を上げた。やがてミュージックが流れて踊りながら歌い出す彼女に、アーサーまでも がリズムを取る。タリアは、それよりもオレンジの機体に視線をやる。

 コックピットからは、機体と同じオレンジの髪をした赤服を着た青年が降りて来た。旨にはフェイスを示す徽章がある。当初は飛行ユニットを装備したザクと 思われた機体だったが、頭部の形状や肩のアーマー、その他の装備などを見て、ザクとは別の新型だと思った。

 すると、続いてヘリが一機、降りて来た。その中からは、プラント最高評議会の議長、ギルバート・デュランダルが出て来て、タリアは目を見開いた。

「(ぎ、議長!?)」

 何で彼がこんな所にいるのか分からず、驚愕するタリアに気付き、デュランダルはフッと笑った。



「(ミーア?)」

 同じくコンサートを見たアスランは、アレがラクスではなく替え玉のミーアである事を即座に見抜いた。眉を顰める彼にルナマリアが尋ねて来た。

「御存知なかったんですか?」

「ん? まぁ……な」

 曖昧なアスランの返答にルナマリアは一人で納得する。

「はぁ……ま、ちゃんと連絡取り合える状況じゃなかったですしね、お二人とも」

 どうやら、まだプラントではアスランはラクスの婚約者らしい。婚約など親同士が勝手に決め、今では破棄されたも同然なのだが、プラントの大多数がそう 思っているようだ。ミーアもそれに合わせている。

 しかし、とアスランは眉を顰めた。ヨウランやヴィーノなど『歌の感じが変わった』と言っているように、本物のラクスとミーアとでは歌い方などがまるで違 う。もし偽者だとバレたら、どうするのか? 議長の考えが分からないアスラン。

 その時、ルナマリアとは反対側に立っていたメイリンが、走って来た兵士にぶつかった。

「あぁ!」

 そして、アスランの方に倒れ掛かり、腕にしがみつく。その際に胸が当たってしまい、アスランは慌てて身を引いた。

「す、すみません。誰かにぶつかられて……」

 そう言って頬を赤らめるメイリン。アスランは、確かに道の真ん中に突っ立ってたら危ないという事で、此処から移動しようとメイリンを避難させた。その 際、何故かルナマリアは、ムッとした表情になった。

 とりあえず人気の少ない所でコンサートを鑑賞するアスラン達。が、やはり偽者の歌では、本物のように心には響かなかった。アスランは、その場を立ち去ろ うとすると、シンが尋ねて来た。

「良いんですか? 見なくて」

「ああ」

 婚約者なのに、偉くアッサリしているアスランに眉を顰めるシン。エリシエルは、壁にもたれながら、ジッとザクの掌の上で踊るラクスを見つめる。

「うおおおおおおおお!!!!! ラクス様〜!!!!!!!!!」

 その時、フェンスの外から一際、大きな声が聞こえたので見ると、そこには同一のピンクのハッピを着て、ハチマキを締め、団扇を片手にした男達の集団がい た。

 何処にでもいるファンクラブだと即座に察するアスラン。こういうコンサートには何処であろうと付いて来る連中で、その熱気に軍人でありながら気圧されそ うになる。シンも呆然とし、エリシエルも苦笑いを浮かべている。

「(ん?)」

 ふとアスランは、その集団の中で物凄く見慣れた銀髪の青年がいた。幻覚か何かと思い、目をゴシゴシと擦るアスラン。もう一度、見ると一緒になって声援を 上げていた。ギギギとエリシエルの方を振り返ると、彼女も気付いていたのか、コクコクと呆然となったまま頷く。

 2人は一目散に走り出した。シン達は、急に走り去っていったアスランとエリシエルに首を傾げた。




「物凄い熱狂振りだな……」

「ある意味、ブルーコスモスも真っ青〜」

 ラクス様ファンクラブの声援を離れた所で見ているシュティルとキャナルは、一緒になって声援を上げているレンを見て呟く。マジで、偽ラクスのコンサート に来たレンだった。

「次! L・O・V・E! ラブリーラブリーラクス様! 行くざんすよ!」

 細身で長身の男が、そう指示を飛ばす。

「ふ、副会長! もう自分は駄目ッス! こ、声がもう……」

「お馬鹿!! お前は、それでも栄えあるラクス様ファンクラブのゴールドナンバーズざんすか!?」

 今回、此処に来ているのはラクス様ファンクラブのbO02〜009の通称ゴールドナンバーズである。ファンクラブの運営は、彼らによって取り決められ、 またプラントに潜伏しているクライン派と呼ばれる人達にも支援をしている、重要なのか重要でないのか、かなり微妙な組織だったりする。

「バカものぉ!!!」

 が、その時、彼らの後ろから怒声が響いた。ピタッと彼らの声援が止まる。振り返ると、でっぷりとした体格に、黒い縁の眼鏡、そして汗を流す荒い息遣いの 男性がやって来た。

「め、名誉会長殿!?」

 副会長と呼ばれた男がそう言うと、会員達は整列し深く頭を下げる。名誉会長はハンカチで汗を拭きながら、怒鳴った。

「お、お前達は何をやってるんだな!? ラ、ラクス様ファンクラブゴールドナンバーズともあろう者達が、あの事実に気付いていない訳ないんだな!」

「で、ですが名誉会長殿! bO07のフブキ参謀の話では、ラクス様には……」

 男が、と副会長が言いかけると名誉会長が遮った。

「その先は言うななんだな! わ、我々はラクス様のお幸せを第一に考える栄誉ある組織なんだな! 私情に流され、イロモノに走るなんて、もってのほかなん だな!」

「め、名誉会長……!」

「す、すんません! 俺達が間違ってましたぁ!」

「じ、自分が恥ずかしいです!!」

 名誉会長のありがたい言葉に涙を流して項垂れる会員達。レンに至っては、ガクッと膝を突いている。名誉会長はクイッと眼鏡を押し上げると、腰の後ろに手 を組んで踵を返した。背中には、ラクスの直筆サインが書いてあったりする。

「bO07、フブキ参謀。ゴールドナンバーズを暴走させる情報を流した罪は重いんだな。罰として二週間、ラクス様チャットの参加を禁ずるなんだな」

「は、はい……私が間違っていました。申し訳ありません!!」

「精進しろよ」

 フッと笑ってメンバーを引き連れ、去って行く名誉会長。

「なんて…………なんて器の大きい方なんだ。あの方には、脱帽だ……」

「何なんだ、今の寸劇は?」

「理解不能〜」

 余りにも暑苦しくてアホらしい遣り取りを見てシュティルとキャナルが呟く。

「フブキ先輩!」

「レン!」

「ん?」

 ふと“先輩”と呼ばれて振り返ると、レンは目をパチクリさせた。何故かエリシエルとザフトの赤服を着たアスランが駆け寄って来たのだ。

「アスラン?」

「先輩、こんな所で何してるんですか!?」

「見りゃ分かるだろう。私は、これでもラクス様ファンクラブbVだよ。コンサートがあれば追っかける」

 自慢げにハッピを見せるレンに、アスランとエリシエルはガクッと項垂れる。そして、居た堪れないながらも、アスランはレンの手を引っ張って、小声で言っ た。

「先輩、あのラクスは……」

「分かってるよ。偽者でしょ? でも、本物は既に男がいるから、もう偽者でも良いかな〜って思ってたんだけど、名誉会長殿に一喝されて目から鱗が落ちた よ」

「敢えて、そのファンクラブの存在にはツッコみません。それより、俺が聞きたいのはアークエンジェルの事です。一体、何があったんですか?」

「ん? まぁ話せば長くなるんだけど、実は本物が殺されかけてね」

「え!?」

「あ、でも私やバルドフェルドさんやマリューさんで守ったし、キラ君もフリーダムに乗ったんだよ」

「はぁ……」

「で、その後、カガリちゃんが結婚するって聞いてね」

 今、カガリを結婚させたら、オーブは完全に大西洋連邦に与し、カガリは本当に飾りだけの国家元首になってしまうという事で、キラ達が助け出そうとした が、それでは国際的な犯罪者となってしまうので、海賊に脅されアークエンジェルとフリーダムを奪われてしまった、という筋書きを作ったと説明した。

「なるほど……事情は分かりました。ところで、ラクスを襲ったのは、やっぱり……」

「議長だよ。私が自白させた」

「…………」

「ま、君がザフトの内側から探るのも良いとして、気を付けろよ。深入りし過ぎると足元すくわれるから。キラ君達の事に関しては私に任しときなよ」

「…………はい」

「な〜るほど。アスランが復隊した理由は、議長を探る為だったんですか」

「「!?」」

 その時、背後から声がしたので2人は驚いて振り返ると、エリシエルがニコニコと笑って立っていた。すっかり彼女の事を忘れて、とんでもない内容の会話を していたレンとアスラン。

 シュティルとキャナルも別に止めようとしなかったのか、事の成り行きを見守っている。

「あ、あの……エリィさん……」

「安心して下さい。私は議長やプラントよりもレンを信じてますから…………まぁ、勝手に軍を辞めて、血の繋がらない妹と何処かへ行っちゃうような薄情者に 義理立てする必要も無いんですが」

 最初の方は優しく微笑んでいたのに、最後の方でニヤリと笑うエリシエル。レンはサーッと血の気が引いていくのを感じた。彼の反応を見て、エリシエルは フゥと息を吐く。

「冗談ですよ。ちょっと仕返ししたかっただけです……まぁ私も、あのラクス様は怪しいと思っていましたが、案の定ですか……」

 そう言って、コンサートを続けるミーアを見つめるエリシエル。

「あ、あのフォールディア先輩。危険ですから、無理に付き合わなくても……」

「言ったでしょ、アスラン。私は、議長やプラントよりレンを信じる、と。胡散臭い政治家より、私達の命を預けて来たレンの方が、よっぽど信頼出来るわよ」

「お前、最低な部類の人間のクセに人望はあるんだな……」

「シュティル、それは褒めてるのかな?」

「98%は貶している」

 そう言ってフッと笑うシュティル。レンは、苦笑いを浮かべるとハッと目を見開いて勢い良く振り返った。彼の視線の先には、同じくミーアのコンサートを見 つめている男女の四人組がいた。

 その中で一際、年齢の低い女の子は、コンサートを見ずにレンを見てニヤッと笑った。その少女をレンは険しい表情で見つめる。その四人組は車に乗り込む と、何処かへ走り去って行った。

「レン、どうしました?」

 エリシエルに話しかけられ、レンは正気に戻る。

「あ、ああ。私のセンサーに可愛い女の子がいると反応したので、見てみると何とも愛くるしいパツキンの少女が……」

「アスラン、戻りましょ」

「…………はい」

 サラッと無視され、戻って行くアスランとエリシエル。レンはフゥと息を吐くと、真剣な表情になり、車の走り去って行った方向を見つめる。

「(あの子……私達と同じか。ルシーア……かな)」




「まったく、呆れたものですわね。こんな所に御出とは」

 夕陽に染まるテラスにて。デュランダルの元へやって来たタリアとレイ。タリアが皮肉気に言うと、デュランダルは笑って返した。
 
「はっはっはっ、驚いたかね?」
 
「ええ、驚きましたとも。が、今に始まったことじゃありませんけど」

 そう言い、タリアが肩を竦めるとデュランダルはレイの方を見て優しく微笑む。
 
「元気そうだね。活躍は聞いている……嬉しいよ」
 
「ギル………」

 その言葉に、レイは普段見せない子供っぽい笑顔を浮かべ、目を潤ませる。
 
「こうしてゆっくり会えるのも、久し振りだな」

 すると、レイは駆け出し、勢い良くデュランダルに抱きついた。デュランダルもレイを受け止めると、優しく背中に腕を回す。その時の彼の顔は、子供を温か く迎える父親のようだった。タリアは、眉を顰めてその光景を見つめていた。

 やがて、3人は備え付けられていたテーブルに座る。

「でも何ですの?」
 
「ん?」

「大西洋連邦に何か動きでも? でなければ貴方がわざわざ御出になったりはしないでしょ?」

 その問いに笑みを浮かべるデュランダルだったが、答える前に声がかかった。

「失礼します」

 入って来たのは、あのオレンジの機体に乗るフェイスの青年だった。

「お呼びになったミネルバのパイロット達です」

 彼の後ろには、アスラン、エリシエル、シン、ルナマリアがいる。デュランダルは席を立つと、敬礼する彼の元へと歩み寄る。

「やぁ、久し振りだね、アスラン」
 
「ええ……お久し振りです」

「それから……」

 デュランダルがチラッとアスラン以外の面子に視線を移すと、それぞれ自己紹介した。

「エリシエル・フォールディアです」

「ルナマリア・ホークであります」
 
「シ、シン・アスカです!」

 それぞれ姿勢を正して挨拶すると、デュランダルはシンを見て声を上げた。

「ああ、君の事は良く覚えているよ」

 それを聞いてシンは目を見開く。議長が赤服とはいえ、一軍人である自分を覚えている事に戸惑いを隠せないシン。

「この所は大活躍だそうじゃないか。叙勲の申請もきていたね。結果は早晩手元に届くだろう」

「あ……ありがとうございます!」

 シンは、余りの感動に身を震わせた。ルナマリアも、自分の事のように喜んでくれている。やがて、彼らも席に就くが、デュランダルはシンをまだ褒め称え る。

「例のローエングリンゲートでも素晴らしい活躍だったそうだね、君は」

「いえ、そんな……」

 此処に来る途中、ガルナハンという地域では地球連合軍のローエングリーンの砲台を破壊する任務があった。そこで彼らは地元の少女のコニールという少女の 協力を得、裏道をコアスプレンダーで潜り抜け、砲台を破壊した。

 その事で、ザフト軍は地元の住民達に酷く感謝された。

「アーモリーワンでの発進が初陣だったというのに、大したものだ」

「あ、あれは、ザラ隊長の作戦が凄かったんです。俺……いえ自分はただそれに従っただけで」

「この街が解放されたのも、君達があそこを落としてくれたおかげだ。いやぁ、本当によくやってくれた」

「ありがとうございます!」

 シンとルナマリアは、デュランダルの賞賛に素直に喜ぶが、アスランとエリシエルは神妙な顔をして彼を見ている。その際、エリシエルはチラッと入り口で佇 む、オレンジの髪の青年を見る。彼も視線に気づいて、フッと笑った。

「ともかく今は、世界中が実に複雑な状態でね」

「宇宙(そら)の方は今どうなってますの? 月の地球軍などは……」
 
「相変わらずだよ。時折、小規模な戦闘はあるが……まぁそれだけだ。そして地上は地上で何がどうなっているのかさっぱり判らん。この辺りの都市のように連 合に抵抗し我々に助けを求めてくる地域もあるし………一体何をやっているのかね、我々は?」

 皮肉を言いながらも笑みを浮かべるデュランダルに、クルー達の表情が曇る。ディオキアはナチュラルの街で、大西洋やユーラシアからの独立を望んでいる。 それを、連合側は力尽くで抑え込んでいる。

 ナチュラルがナチュラルと争い、コーディネイターに助けを求めている今の現状は、明らかに矛盾していた。

「停戦、終戦に向けての動きはありませんの?」

「残念ながらね。連合側は何一つ譲歩しようとしない。戦争などしていたくはないが、それではこちらとしてもどうにもできんさ。いや、軍人の君達にする話で はないかもしれんがね。戦いを終わらせる、戦わない道を選ぶということは、戦うと決めるより遙かに難しいものさ、やはり」

「でも……」

 その時、ふとシンが口を開いた。
 
「ん?」

「あ……すみません」

 やはり自分のような一軍人が議長や艦長の間に口を挟むのはお門違いだと思い、口を閉ざすがデュランダルは気にした様子も無く促した。
 
「いや構わんよ。思う事があったのなら遠慮なく言ってくれたまえ。実際、前線で戦う君達の意見は貴重だ。私もそれを聞きたくて君達に来てもらったようなも のだし……」

 そう言われ、シンは思い切った様子で口を開いた。

「確かに戦わないようにすることは大切だと思います。でも敵の脅威がある時は仕方ありません。戦うべき時には戦わないと。何一つ自分たちすら守れません」

 戦争に何の関係も無い家族を失った時、無力だった自分をシンは思い出す。

「普通に、平和に暮らしている人達は守られるべきです!」

 インド洋で強制労働を強いられていた人々、ガルナハンで連合の弾圧に苦しんでいた人々。彼らのような無力な人間は守られるべきだと熱弁するシンだった が、エリシエルが言った。

「力……か。憎しみを憎しみで返そうと、それを求めようとするから争いが無くならない……いえ、彼らが増長しているのも事実ね」

「彼ら?」

「ああ、君はフブキ隊に所属してたのだったね。彼から聞いたのか?」

 エリシエルの発言に意味が分からなかったが、デュランダルは分かったのか問い返すと彼女は頷いた。

「力を以って力を制す……彼らが戦争の一因と言えば、そうですね。親が殺されれば子が恨む。その子が殺せば親が恨む……憎しみの連鎖は止まらない。彼ら は、そこに付け込む」
 
「そう、問題はそこだ」

 彼女の言葉にデュランダルは頷くと、席から立ってテラスから夕陽を見つめる。

「何故我々はこうまで戦い続けるのか? 何故戦争はこうまでなくならないのか? 戦争は嫌だといつの時代も人は叫び続けているのにね……君は何故だと思 う? シン」
 
「え!?」

 唐突に問われてシンは驚きながらも、しどろもどろに答える。

「それはやっぱり……いつの時代も身勝手で馬鹿な連中がいて、ブルーコスモスや大西洋連邦みたいに……違いますか?」

 デュランダルは、その答えに七割ぐらい正解といった様子で頷いた。

「いや……まぁそうだね。それもある。誰かの持ち物が欲しい。自分達と違う。憎い。怖い。間違っている。そんな理由で戦い続けているのも確かだ、人は。だ が、もっとどうしようもない、救いようのない一面もあるのだよ、戦争には」

 その言葉にキョトンとなるシンとルナマリア。デュランダルは、夕陽と同じ色に輝くオレンジ色の機体を見つめる。

「たとえばあの機体、ZGMF−X2000グフイグナイテッド。つい先頃、軍事工廠からロールアウトしたばかりの機体だが、今は戦争中だからね。こうして 新しい機体が次々と作られる。戦場ではミサイルが撃たれ、MSが撃たれ、様々なものが破壊されていく。故に工場では次々と新しい機体を造り、ミサイルを作 り戦場へ送る。両軍ともね。生産ラインは要求に負われ追いつかないほどだ」

 チラッとエリシエルは再びオレンジの髪の青年を見る。彼も真剣な顔で彼女を見返していた。その間にもデュランダルの話は続く。
 
「その一機、一体の価格を考えてみてくれたまえ。これをただ産業として捉えるのなら、これほど回転が良く、また利益の上がるものは他にないだろう」

 シンとルナマリアは驚愕で目を見開く。軍人である彼らには、戦争を産業と考えるなど無いだろう。それに、MS一体の価格など考えた事も無い筈だ。あくま でも自分達は兵器を使い、戦争をする軍人なのだから。

「議長そんなお話……」

 とても彼らにするような内容ではないとタリアが窘める。

「でも、それは……」

 困惑して言うシンにデュランダルは頷いた。
 
「そう、戦争である以上それは当たり前。仕方のない事だ。しかし人というものは、それで儲かると解ると逆も考えるものさ。これも仕方のない事でね」

 どういう意味かアスランは気付いたのか、表情を強張らせる。エリシエルは静かに目を閉じ、シンは分からない様子で聞き返した。

「逆……ですか?」
 
「戦争が終われば兵器は要らない。それでは儲からない。だが戦争になれば自分たちは儲かるのだ」

 そこまで言われて、シンはようやく気が付いた。デュランダルは、目を細めて話を続ける。

「ならば戦争はそんな彼等にとっては是非ともやって欲しい事となるのではないのかね?」

「そんな!」

 声を上げるシン。

「あれは敵だ。危険だ。戦おう。撃たれた。許せない。戦おう。人類の歴史にはずっとそう人々に叫び、常に産業として戦争を考え作ってきた者達がいるのだ よ。自分達に利益の為にね」

 シンは呆然となった。戦争を市場として考え、商売をして利益を得る者達の存在など考えもしなかった。何千何万という命によって利益を得るなど人として間 違っている。

「今度のこの戦争の裏にも間違いなく彼等ロゴスがいるだろう。彼等こそがあのブルーコスモスの母体でもあるのだからね」

「そんな……」

 思想団体であるブルーコスモスが軍部に大きく入り込んでいる理由がソレだった。ロゴスという後ろ盾が存在しているが為に、軍部に深く入り込み、人心を掌 握しているのだ。
 
「だから難しいのはそこなのだ。彼等に踊らされている限り、プラントと地球はこれからも戦い続けていくだろう。出来る事ならそれを何とかしたいのだがね。 私も。だがそれこそ、何より本当に難しいのだよ」

 夕陽を見つめながら言うデュランダル。アスランとエリシエルは、目を細めて彼を見つめ、シンはロゴスという存在にギリッと唇を噛み締めた。戦争の犠牲と なった家族……彼らも利益の為だけに殺されたという考えが彼の中に生まれたのだ。




「ほんとに、よろしいんですか?」

「ええ、休暇なんだし。議長のせっかくの御厚意ですもの。お言葉に甘えて今日はこちらでゆっくりさせて頂きなさい」

 会談を終えると、デュランダルが今日はこのホテルに泊まるよう勧めて来た。それを聞いたルナマリアがタリアに尋ねると、彼女も快く了承した。

「確かにそれくらいの働きはしてるわよ、あなた方は」

 彼女に続いてアスランも泊まるよう促す。

「そうさせて頂け。シンもルナマリアも。艦には俺が……」

「艦には私が戻ります。隊長もどうぞこちらで」

 すると珍しくレイが微笑を浮かべて言って来た。

「いや、それは……」
 
「褒賞を受け取るべきミネルバのエースは隊長とシンです。そしてルナマリアとエリシエルさんは女性ですので……私の言っていることは順当です」

 そう言われてはアスランも断る事が出来ず、お言葉に甘える事にした。すると、廊下の前方から甲高い声がした。
 
「アスラン!」

 顔を向けると、ミーアが駆け足でこちらに向かって来た。彼女はデュランダルの前で一度、立ち止まると彼は軽く会釈する。

「これはラクス・クライン。お疲れ様でした」
 
「ありがとうございます」

 礼を返すと、彼女はドンとルナマリアに肩をぶつけながらアスランの下へと駆け寄って来た。

「ホテルに御出と聞いて急いで戻って参りましたのよ」

「はぁ……そうですか」

「今日のステージは? 見てくださいました?」
 
「まぁ……一応は」
 
「本当に!? どうでしたでしょうか?」

 彼女のテンションに困惑するアスランを見て、エリシエルはクスッと笑う。どうやら彼女がラクスの偽者だとしても、彼女がアスランに好意を抱いているのは 間違いないようだった。ムッとしているルナマリアを見て、女難の絶えなさそうにアスランに苦笑した。

「彼等にも今日はここに泊まってゆっくりするよう言ったところです。どうぞ久しぶりに二人で食事でもなさってください」

「ま〜! ほんとですの! それは嬉しいですわ! アスラン、では早速席を」

 嬉々としてアスランに腕を絡めるミーア。が、デュランダルが申し訳なそうに言って来た。

「ああ、その前にちょっといいかな? アスラン」

「??」



 アスランとデュランダルは、噴水広場に移動した。ベンチにはミーアがハロと遊んでいる。

「実はアークエンジェルの事なのだがね」

 ピクッとアスランが反応する。レンから、ラクスの命が狙われ、そして、それを指示したのがデュランダルだと聞いた。つい警戒してしまう。

「君も聞いてはいるだろう?」

「はい」

「あの艦がオーブを出たその後、何処へ行ったのか。もしかしたら君なら知っているのではないかと思ってね……」

「………知って、どうなさるおつもりですか?」

「ん?」

「今、アークエンジェルの所在を知っても何かする必要は無いと思われますが? 彼らは海賊ワイヴァーンによって脅迫され、オーブの国家元首を連れ去っ た……今のプラントにはさしたる問題は無いと思います」

 そうアスランが言うと、デュランダルはフッと笑みを浮かべた。


「確かに、そうだな。いや、アークエンジェルとフリーダムがオーブを出たというのなら、彼女も……本物のラクス・クラインももしや一緒ではないかと思って ね」

 その言葉が確信だった。彼が気にしているのはアークエンジェルではなく、ラクスの存在だ。かつて彼は言った。

『我ながら小賢しいことだと情けなくもなるな。だが仕方ない。彼女の力は大きいのだ。私のなどより、遥かにね』

 それは、つまり自分よりも大きい力を恐れている。味方に付ければ頼もしい事は無いが、敵に回すと恐ろしい。現に偽者を使って、プラント市民を騙している デュランダル議長に本物が味方するとも思えない。

 第一、デュランダルが暗殺しようとしたなら、味方になどなる筈も無い。故に、アスランは一つ嘘をついた。

「…………いえ……それは分かりません。開戦前、彼女は父親の墓参りと言ってオーブから出ています。プラントにはクライン派が多数いるから、恐らく、彼ら と一緒に……」

 こんな嘘、すぐにバレるだろう。だが、それを嘘だと認めたら、ラクスがオーブにいる事を知ってるという事になる。ミーアが偽ラクスとして現れた事から、 彼女がオーブにいる事を知っているのは、自分を含め極少数だ。評議会員でも知らないのだ。

 自分達以外で知っているのだとすれば、ラクスを暗殺しようとした者達か、或いはその者達に指示を出した人物ぐらいだ。デュランダルは「そうか……」と呟 き、言った。

「こんな情勢の時だ。本当に彼女がプラントに戻ってくれればと私もずっと探しているのだがね。こんな事ばかり繰り返す我々に、彼女はもう呆れてしまったの だろうか」

 アスランは、呆れさせたのはデュランダル自身だと視線を送る。

「いやすまなかった。だが今後、もしもあの艦から君に連絡が入るようなことがあったら、その時は私にも知らせてくれないか?」
 
「ええ……一応は」

「頼む」

 そう言い立ち去るデュランダルの背中を鋭い視線で見つめるアスラン。すると、話を終えたと思いミーアが駆け寄って来たが、アスランの耳に彼女の声は届い ていなかった。




 夜の浜辺にレンは一人、佇んでいた。シュティルとキャナルには先に日本へ戻って貰っている。すると、足音が聞こえたので振り向くと、そこには彼にとって 因縁の相手がいた。

「こうして顔を合わせるのは久し振りだな……レン」

「キース……」

 昼間、見た女の子と手を繋いでやって来たキースをレンは睨み付ける。

「やはり、その子が……」

「ああ、そうだ。ルシーアだ」

「ねぇパパ……この人、パパの敵?」

 レンを指差して尋ねるルシーア。キースはフッと笑みを浮かべて答えた。

「そうだな……最大の宿敵、最高の理解者……だな」

「ふ〜ん……パパとルーシーと同じ……ねぇ、お兄ちゃんはルーシーを殺してくれるの?」

「………………」

 彼女の質問にレンは目を細め、銃を向けた。

「それが……亡き友との約束だ」

 10歳の少女に銃を向けるレン。しかし、ルシーアは、銃を向けられておびえるどころか愉悦に表情を歪ませた。

「きゃは……あはははははははは!!!!!!! やった! やったよ、パパ! このお兄ちゃん、ルーシーを殺してくれるって!! やったよ!!」

「ふふ……」

「でもね! ただじゃ殺されてあげない! ルーシーより強くないと駄目だからね! お兄ちゃんでも殺せなかったら、ルーシーはパパに殺される!!」

 パン!!

「!?」

 その時、彼女の足元に弾丸が飛んで来て砂浜を貫いた。目を見開いて固まるルシーア。レンはギリッと唇を噛み締め、冷たい声で言った。

「黙れ。私は、あくまで友人の約束を守るだけだ……お前の都合など知るか」

 彼の異様に冷たい目を見て、ルシーアはビクッと身を竦ませるが、やがて怒りの表情を浮かべて言い返した。

「何よ……ルーシーは死ななきゃいけないって教えた男の約束なんか知らない! 勝手にルーシーを創った男の事なんか知らないんだから!」

「………………」

「殺してやる……あんな奴との約束を大事にしてる奴なんかに殺されてやるもんか……ルーシーが殺してやる!! お兄ちゃんだって、ルーシーと同じ死ぬべき 人間なんだから!!」

「落ち着きなさい、ルシーア」

「パパ……」

 激昂するルシーアの頭にポンと手を置いて宥めるキース。ルシーアが大人しくなると、キースはレンに向かって、とあるディスクを投げ渡した。レンは、それ を受け取ると眉を顰める。

「これは?」

「ロドニアの研究所にあるコンピューターでしか起動できないようにしてある。暇があれば行ってみると良い」

 その言葉にレンは、昼間、ルシーアと一緒にいた少年や少女達を思い出し、ギロッとキースを睨み付ける。

「まだ、ロクでもない研究を続けているのか……」

「さて……な。私達は、そろそろ帰らせて貰う……」

 そう言い、キースはルシーアの手を引いて背中を向ける。

「レン、忘れるな。デュランダル如きに遅れを取るようなら、私を止める事など出来ないと」

 言い残し、去って行くキース。レンは、ディスクを見つめながら、彼らの背中に視線をやった。

「(ロドニアの研究所……か)」







 〜あとがき談話室〜

リサ「ちょびっとシリアスな兄さんでした」

シン「…………」

リサ「と、いう訳であとがき談話室は終わりです」

シン「おい! まだ何も喋ってないぞ!」

リサ「うっさいですねぇ〜。私、貴方のこと嫌いですからパパッと終わらせましょう」

シン「俺だって嫌いだよ! この屁理屈女!」

リサ「最後の最後までラスボスの掌で踊らされてた主人公に言われたくないですね。あ、主人公じゃなくて脇役ですか?」

シン「うるさい!!」

リサ「アスランさんの言葉に“何を!”とか“だけど!”としか言えず、種割れしていない方に撃墜されて……もう散々でしたもんね〜」

シン「黙れっつってんだろ!」

リサ「アスランさんは救いたがってましたが、いるんですよね〜。救いようの無い馬鹿って。いつまでも妹の携帯にしがみ付いて、視野が狭い所為で体良く利用 される……最低ですね」

シン「うぐ……ちきしょおおおおおおお!!!!!」(ダッ!)

リサ「今回は殴られませんでしたか。少しは成長したんでしょうかね〜」

レン「毒舌が最高潮だな、妹よ」
感想

今回はシリアスな部分で引きましたが、個人的にはファン倶楽部会長に注目ですね!

何者!?

いや、ああいうのって以外に大物だったりするんですよね〜

つうか、名誉会長ですしね〜(爆)

彼の一声で、ラクスファンん十万(位?)が集うんでしょう。

これからも登場を期待します♪

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