「一体どうなっているのです!?」

 ジブリールは、モニターに映る大西洋連邦大統領のコープランドに向かって怒鳴っていた。が、コープランドは彼に嫌味ったらしく言い返す。

<それは君だって知っているだろう。プランの準備がまだ完全に整っていなかった所へもってきて、あの被害。それでも君の言う通り強引に開戦してみれば、こ ちらの攻撃は全てかわされ、あっという間に手詰まりだ。これではあちこちで民衆が跳ねっ返り、ゴリ押しで結んだ同盟が綻び始めるのも無理はないさ>

 自身の無能を棚に上げ、責任転嫁ばかりするコープランドにジブリールは苛立ち、ドンとウイスキーの入ったグラスを叩き付けた。

「私はそんな話が聞きたいのではない! 私はそんな現状に対して、あなた方がどんな手を打ってらっしゃるのかを聞いているのです!」
 
 その言葉にはコープランドも苦い顔になった。

「コーディネイターを倒せ滅ぼせやっつけろと、あれだけ盛り上げて差し上げたのにその火を消してしまうおつもりですか!?」

<ジブリール………>

 何も言い返せないコープランドに、ジブリールは更に憤りの言葉をぶつける。

「弱い者はどうせ最後には力の強い方に付くんです。勝つ者が正義なんですよ! ユーラシア西側のような現状をいつまでも許しておくから、あちこちで跳ねっ 返りが出るんです!」

<だが我等とて手一杯なのだ。だいたい君のファントムペインだって大した成果は挙げられていないじゃないか>

 その言葉にジブリールは一瞬、言葉を詰まらせる。そして、頭の中に常に仮面を付けたネオの顔を思い浮かべる。キースがいながらも戦艦一隻落とせないか ら、コープランドなどにも弱みを作らせてしまう事に歯軋りした。

 するとその時、別のモニターにたった今、噂していた人物が映った。

<中々、おっしゃってくれますな大統領>

「キース!?」

<レヴィナス中将……>

 突然、口を挟んで来たキースに二人は驚きを隠せない。

<確かに私達は未だに戦艦一隻も落とせない無能と呼ばれても仕方ありませんが、それでジブリールを責めるのは筋違いでしょう。彼は、あくまで我々の支援者 であり、無能なのは現場なのですから>

<あ、いや、それは……>

 コープランドは口籠る。自分を無能と言うキースだが、コープランドも彼の事は良く知っていた。“未来の見える死神”と呼ばれ、常に人より何歩先も読み、 歩く人物であり、強化人間の提唱者及び開発者で、またロゴスにも深く食い込んでいる。彼の言葉通りにすれば全て間違いは無い、というぐらいだ。

 そんな彼が自分を無能と言えば、彼の機嫌を取りたいコープランドとしても都合が悪かった。

「キース。私も親友である君の能力を疑いたくない。だが、何でミネルバなどという、たかが戦艦一隻も落とせんのかね?」

<何……久し振りに狩り甲斐のある獲物だから、少し楽しもうと思っていたのだがね……だが、君がそこまで言うなら、私も本気を出そうか?>

 フッと笑みを浮かべて言うキースに、ジブリールはニヤッと笑みを浮かべる。彼が本気を出せば、ミネルバなどあっという間に沈むであろう。

<そういうわけで大統領、オーブに増援を頼めますかな?>

<オーブに?>

 急に話を振られ、現在、同盟国のオーブの名前が出て来てコープランドは戸惑う。

<ええ。流石に今の戦力では、私も少々、厳しいのでね。使える手駒が欲しいのですよ………チェスでもポーンガなくては勝てません>

 それに、とキースは楽しそうな笑みを浮かべて付け加える。

<先日、天使が竜に捕らえられて姫を奪って行くという面白い事件があったじゃないですか>

 そう言われ、二人はアークエンジェルが海賊ワイヴァーンに拿捕され、国家元首の少女を連れ去った事件を思い出す。

<彼女は、あくまでも同盟反対者、そして平和主義者だ。それがいない今、あそこは大西洋連邦の言い成りになるしかないでしょう>

 その言葉に眉を顰めるコープランドだったが、ジブリールは妙案だとばかりに好機嫌に頷くのであった。




機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜

PHASE−17 乱戦




「オーブ軍が!?」

 ドラゴネスのブリッジで、隆盛が通信でオーブに大西洋連邦からの出動要請が下ったという連絡を受けカガリが驚嘆の声を上げた。

「だが仕方なかろう? 同盟を結ぶということはそういう事だ」

 バルドフェルドが厳しい口調でそう言うと、カガリも顔を俯かせた。彼女も、それはずっと首長会に訴えて来た。オーブが焼かれなくても、他の国を焼いて良 いのか、と。しかし、首長会は聞く耳を持たなかった。

「そしてそれを認めちゃったのはカガリでしょ?」

 キラの言葉にカガリはグッと拳を握る。ラクスが声をかけるがキラは手で彼女を制す。その時、突然、ブリッジのドアが開いた。

「ねぇ! 皆、見て見て〜! やっとルービックキューブ出来たよ〜!」

 子供みたいに分かれた色の揃ったルービックキューブを持って入って来るレンに、そこにいた全員がズルゥッと腰が砕けてしまう。折角の緊張感を全て台無し にしやがった。

「兄さん……この非常事態に……」

「非常事態? 何が?」

「オーブがスエズに向けて軍を動かしたんです。恐らく狙いは黒海かと……」

 そうリサが説明すると、レンは不思議そうに言った。

「で? 何処が非常事態なの?」

「だから! オーブが……」

「同盟結んだから別に非常事態じゃないじゃん」

 それはカガリ達の心境であって、世界の情勢から見れば非常事態でも何でも無い。ごく普通の事なのだ。レンの言葉にカガリは言葉を詰まらせる。

「で? カガリちゃんはどうしたいの?」

「え?」

「オーブが出て、どうにかしたくないの?」

「私は……今更、馬鹿げた感傷かもしれないが、この戦闘、出来ることなら私は止めたい!オーブは、こんな戦いに参加してはいけない。いや、オーブだけでは ない。本当はもうどこも……誰も、こうして戦うばかりの世界にいてはいけないんだ!」

 そう訴えるカガリをレンは目を細めて見る。そして、周りを一瞥するとどうやらカガリの戦闘を止めたいという意見には賛成のようだった。レンはハァと溜息 を吐く。

「戦闘を止める……ねぇ。もし君がストライクルージュに乗って停戦を訴えるとしよう。でも、私は絶対に止まらないと断言できるね」

「な、何故!?」

 その言葉にカガリだけでなく、皆が驚く。

「どうせ“パイロットは偽者だ!”とか言うんじゃない? カガリちゃん、オーブ軍に攻撃されても平気なの?」

「う……」

 祖国の軍に攻撃される事ほど辛いものはない。カガリは表情を顰めた。

「第一、それじゃあ戦場を混乱させるだけだよ。私達はザフトにも地球軍にも与してないんだから………」

 正論を言われてカガリは黙りこくる。戦闘は止めたいが、訴えかけてもダメだと言われ、どうしたら良いのか分からなかった。レンは言葉を続ける。

「今、カガリちゃんの選択肢は二つ。此処でジッとしてるか、無理と分かりつつ止めに入るか。もっとも、後者の場合は後々、テロとしてザフト・地球軍の両陣 営から狙われる可能性大だけど?」

 折角、アークエンジェルにオーブの国家元首強奪という罪を背負わせないようにしたのに、どちらにしろ手配される可能性があり、意味が無くなってしまう。 カガリはキラ達を見回すと、皆、彼女の意志を尊重するかのように頷いた。

 顔を俯かせ、考えるカガリ。レンは、ポケットから知恵の輪を取り出して弄り始める。

「行こう、レン」

「?」

 が、急に顔を上げて言うカガリにレンはキョトンとなる。

「確かに止められない、両軍から狙われるかもしれない。だが、此処で何もしなければ何も変わりはしない。ほんの僅かな希望かもしれないが、止められる可能 性があるなら私は止めたいんだ」

「ふむ……」

 彼女の言葉を聞くと、レンは一瞬で知恵の輪を解いて笑みを浮かべた。

「ラディック、ドラゴネスとアークエンジェルを発進させよう」

「良いのか?」

「少しだけど戦闘を止められる可能性を上げる事が出来る」

 その言葉に皆が驚愕して目を見開くと、カガリが突っかかって来た。

「お、お前、戦闘を止めるのは無理だって……」

「だから少しだけ上げる事が出来るって。まぁオーブ軍を引かせるのは無理だとしても、その場で戦わせない事は出来るかもね」

「だ、だったら最初から……」

「君が、少しでも可能性に縋ろうとしなかったら言わなかったよ。いやいや。若い子は、たまには無茶をやらなきゃいかんよ」

 わっはっはと笑いながらブリッジから出て行くレンを、皆は呆然と見つめる中、リサが呟いた。

「きっと……カガリさんを試していたんでしょうね」

 本当に何が何でもオーブを止めたいのか、その為に可能性が限りなく低くてもそれに賭けるだけの勇気が彼女にあるのか………普段、ダメ人間のお手本のよう な人物なのに、妙に達観しているレンだった。



「イヤ! ダメ! これはダメ!」

 メンテナンスルームでは、円形ベッドの上でステラが研究員を言い合っていた。

「あっち行って! 触んないで!」

 別の円形ベッドではスティングとアウルが不思議そうに彼女を見ている。

「あー分かった分かった。もう触らないから」

「ごめんごめん、取ったりはしないよ」

 余りの剣幕に研究員達も引き下がる。と、そこへネオとルシーアがやって来た。

「どうした?」

「ネオ!」

 大好きなネオを見て、パァッと表情を輝かせるステラ。

「あーいえ。寝かせる前に足の傷を診ておこうと思って、あのハンカチを取った途端怒り出しまして」

 それを聞いて、ネオはステラに優しい言葉を投げかける。
 
「なんだ、ごめんよステラ。大丈夫。誰も取りゃしないよ」

「……ほんとに?」

「ああ。ステラの大事なものを誰が取ったりするものか。だから安心してお休み」

 そう言い、優しくステラの髪を撫でるネオ。ステラはホッとし、ベッドに横たわる。そして傷の処置を受けると、蓋が閉じられた。

「我ながらなかなか悪いおじさんになった気がするよ。何が大事なものを取ったりはしないだか」

 あどけない寝顔をしているステラを見て、ネオは彼女らから記憶という何よりも大事なものを奪おうとしている事を皮肉めいて言う。

「毎度毎度お見事ですよ」

 が、研究員はネオの悪いおじさん振りを賞賛した。ネオは仮面の奥で表情を顰める。

「記憶ってのは、あった方が幸せなのか、ない方が幸せなのか……時々考えてしまうな。あれだけ騒ぐってことはよっぽど何かあったって事だろ?」

 何事にも無関心だったステラが、ブロックワード以外にあんな風に反応するなど見た事が無い。彼女の心に強く残る大きな出来事があったとネオは考えた。そ の話を聞いていたルシーアは、シンの事を思い出す。

 彼と別れてからもステラの心はシンで一杯だった。戦う事しか知らない彼女にとって、初めて持った感情。大切な人とシンを認識したのだ。ルシーアは、頭の 中でキースの事を思い浮かべる。

「そうですね。ちょっと強く印象づけられてるようですが、ま、なんとか消えるでしょう」

「彼等には記憶はない方が幸せだと思いますよ? 指示された敵をただ倒すだけの戦闘マシーンに余計な感情は邪魔なだけです。効率も悪くなる」

 まるで道具のように言う研究員達。事実そうなのだが、ルシーアは強い嫌悪感を催した。

「ああ、分かっている。何を知っても思っても、どうせ何にもならん……あの子達には」
 
「情を移されると辛いですよ」

「街になんぞ出しちまったからなぁ。色々なんだろうが、メンテナンスは入念に頼むな」

 そう言って出て行くネオは、一瞬、ステラの方を振り返って呟いた。

「あれほど死ぬのを怖がるあの子が死なずに済むには、敵を倒し続けていくしかないんだ」

 ネオが出て行くとルシーアは、記憶を操作されていくステラを見つめる。そして、静かに目を閉じた。

「(大切な人……)」

 すると彼女は、ポンと研究員の肩を叩いた。

「ん? どうしたんだい?」

「ルーシーがやるから休んでて」

「え? おいおい、これは子供の使えるような……」

「この装置ならパパ……レヴィナス中将から全部教わった。あなた達のやり方じゃ、何かのショックで思い出す可能性がある。ルーシーが完全に消してあげる」

 ジロッと睨まれ、研究員達はビクッと身を竦ませた。

「あなた達の事は悪くしない……だから、どけ」

 10歳とは思えぬ凄みを帯びた言葉に研究員達はコクッと頷き、早足でメンテナンスルームから出て行った。ルシーアは、席に座ると彼らとは比べ物にならな い速さでキーを叩き始める。脳波の細かい動きも見逃さず、ルシーアは普段の彼女とは違う、優しい微笑を浮かべてステラを見つめる。

「大切な人の記憶は忘れちゃいけない……ルーシーもパパしかいないから……ステラ、貴女はルーシーと違うから……ルーシーは死ななくちゃいけない人間だか ら……出来る事ならシンと一緒に生きて……」

 そう言ったルシーアの表情は、まるで妹を見守る姉の様だった。




「レイ・ザ・バレルであります」

 アスランがハイネに艦内を案内していると、レクリエーションルームに入りレイが敬礼してきた。それに習い、シンとルナマリアも敬礼する。

「ああ、ブレイズザクファントムね。ハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしく」

 ハイネは軽く挨拶すると、物珍しそうに部屋を見回す。

「しっかしさすがに最新鋭だなぁミネルバは。な? ナスカ級とは大違いだぜ」
 
「ええ、まぁ……そうですね」

 独特なペースの会話をするハイネにアスランは戸惑いながら同意する。

「ヴェステンフルス隊長は今まではナスカ級に?」

 ルナマリアが尋ねると、ハイネは意外そうな顔をして言った。

「ハイネで良いよ。そんな堅っ苦しい……ザフトのパイロットはそれが基本だろ? 君はルナマリアだったね?」

「あ、はい」

 ザフトには階級性は無い。その代わり、隊長が存在し、隊長の名前が部隊名になる。ミネルバの場合は、艦長と隊長をタリアが兼任し、MS戦時にはアスラン が隊長という事で指揮を執っている。

 が、此処に来てフェイスであるハイネが入って来た。シン達は、この場合はどうするのかと思った。

「俺は今まで軍本部だよ。この間の開戦時の防衛戦にも出たぜ」

「隊長……あの俺達は……」

 ルナマリアの質問に答えるハイネを見ながら、シンはアスランに小声で尋ねる。するとアスランはフッと笑って言った。

「ヴェステンフルス隊長の方が先任だ、シン」

 つまりハイネの方が先輩だから、彼が隊長と言う意味だ。と、そこへハイネが眉を顰めてアスランに言った。

「ハイネ」

「あ……」

 “隊長”とつい言ってしまったアスランにムッとなるハイネ。戸惑う彼を見て、ハイネはプッと笑った。
 
「あ、でも何? お前、隊長って呼ばれてんの?」

「いえまぁ……はい」

「戦闘指揮を執られますので我々がそう」

 曖昧なアスランに代わり、レイがそう言って来た。その言葉にハイネは考え込む。

「え? う〜ん、いやでもさぁ……そうやって壁作って仲間外れにすんのは、あんま良くないんじゃないの?」

 “仲間外れ”と言われ、皆が驚いた顔になる。

「俺達ザフトのMSパイロットは戦場へ出ればみんな同じだろ? フェイスだろうが、赤服だろうが、緑だろうが……命令通りにワーワー群れなきゃ戦えない地 球軍のアホ共とは違うだろ?」

 徽章なんて飾り。戦場に出れば、MSパイロットは誰だって等しく命を賭ける者達だ。迅速な命令ばかり気にしてたら、隙が出来て命を落としかねない。だか らこそ、時には自身で考え、行動しなくてはいけない。そうハイネが言うと、エリシエルがジト目でツッコミを入れた。

「またレンの受け売りですか」

「うぐ……い、良いだろ、いい言葉なんだし!」

「まぁ、そうですが……」

「第一アレよ! 戦場で大事なのはチームプレイなんだから、普段から名前で呼び合う方が良いじゃない! 女の子なら、私生活でも親密に……」

「え?」

 とっても素敵な微笑でゴキッと指を鳴らすエリシエルにハイネはダラダラと冷や汗を垂らした。シン、アスラン、ルナマリアも表情を引き攣らせている。

「い、いや、特に深い意味は無いよ! だから、アレ! 皆、仲良く頑張りましょうって感じ!」

「夜はベッドの上でですか?」

「そうそう…………はっ!」

 つい頷いてしまいハイネはハッとなって振り返ると、ニコニコと笑っているエリシエルが唐突に頭を鷲?みにして来て、ズリズリと引き摺って行った。

「ちょ、ちょっと待てエリシエル! 俺、一応フェイス!」

「で?」

「で? って、アンタ…………ゴメン! マジ俺が悪かった! 反省してるから許して!!」

「その言い訳はレンで聞き飽きました。まさか、貴方にも同じ事をしてしまうなんて……」

「た、頼む! 勘弁し……」

 言い切る前にエリシエルはハイネを引き摺って部屋から出て行った。扉が閉まると、廊下からゴキッ、ボキッ、メキョッという何やら鈍い音がした。アスラン 達は表情を引き攣らせて扉を見つめると、やがて顔に赤い液体の付着したエリシエルが入って来た。

「エ、エリィ先輩……あの……」

「ハイネは?」

 ルナマリアとアスランが恐る恐る尋ねてくると、エリシエルはニコッと笑った。

「廊下で寝てるわ」

「あ、はぁ……」

「まったく……問題児の扱いは大変だわ」

 そう言い、袖で赤い液体を拭うエリシエルにアスラン達は恐怖した。エリシエルは、そんな彼らを見て、クスっと笑った。



 メンテナンスを終えたステラは、ゆっくりと目を覚ました。スティングとアウルは既に目覚めたのか、その姿は無く、代わりにルシーアが立っていた。

「ルーシー?」

「おはよう、ステラ」

 ニコッと笑うルシーアに、ステラは「おはよう」と返す。すると彼女はハッとなって、傍に置いてあったハンカチを拾うと、ギュッと握り締めた。

「そのハンカチ……誰がくれたか覚えてる?」

「うん………あれ? ………思い出せない……でも……とってもとっても大事なモノ……」

「そう……」

 脳波を操作し、記憶を消さないと体に大きな負担が掛かってしまう彼女達エクステンデット。今回、ルシーアは、シンという印象強い記憶を消さないよう操作 しようとしたが、それは無理で、何かの切っ掛けで思い出すようにした。

 ハンカチを大切なものだという記憶は残っているが、誰が、何でくれたのかという事は覚えていなかった。

「ステラ……そのハンカチは、隠しといた方が良いよ。誰かに取られるかもしれないから」

 それを聞いてステラはビクッと身を竦ませると、コクコクとハンカチを抱き締めて頷いた。




「ジブラルタルを狙うつもりかこちらへ来るかはまだ判らないわ。でもこの時期の増援なら巻き返しと見るのが常道でしょう。スエズへの陸路は立て直したいで しょうし。司令部も同意見よ。もう本当に鬩ぎ合いね。ま、いつもの事だけど」

 ある艦隊が喜望峰周りでスエズに進行しているいう情報を聞き、ミネルバのブリッジではタリア、アーサー、アスラン、ハイネが地図を見ながら会議を行って いた。
 
「その増援以外のスエズの戦力は? つまりはどのくらいの規模になるんです? 奴等の部隊は……」
 
「数はともかく、アレがいるのよ。インド洋にいた地球軍空母」

 それを聞いてアスランは驚き、アーサーが声を上げた。
 
「あ、あの例の強奪機体を使っている!?」

「そう。だからちょっと面倒なの。おそらく彼等も来るわ」

 溜息を吐くタリアを見て、ハイネはアスランに小声で尋ねた。

「強奪機体ってアーモリーワンのか?」

「はい、そうです」

 色々と面倒な事になりそうだと、タリアとアスランは予想した。例の三機もそうだが、他にも重武装でビームを逸らすMS、そして宇宙で出会ったドラグーン 搭載の白いMSと、かなりの戦力だ。

「ともかく本艦は出撃よ。最前衛マルマラ海の入り口、ダーダネルス海峡へ向かい守備に就きます。発進は○六○○」

 アスランとアーサーは「はい!」と敬礼して了承すると、タリアはハイネに目をやる。

「貴方も、よろしい?」

「ええ、それはもう」

 問題なさそうに頷くハイネにアスランは安心した。フェイスが三人いて、指揮系統が乱れるかと思ったが、ハイネの性格上、特に問題なさそうだった。

「では、ただちに発進準備に掛かります」
 
「ええ、お願い。それとアスラン」

 アーサーと同じく出て行こうとしたアスランをタリアが呼び止めた。

「はい?」

「今度の地球軍の増援部隊として来たのは……オーブ軍ということなの」

「え!?」

 その事にアスランは驚愕し、アーサーも目を見開いている。

「何とも言いがたいけど……今はあの国も連合の一国ですものね」

「オーブが……そんな……」

 動揺を隠せないアスランだったが、タリアは彼を割り切らせるような言葉を投げ付ける。

「でもこの黒海への地球軍侵攻阻止は周辺のザフト全軍に下った命令よ。避けられないわ。避けようもないしね。今はあれも地球軍なの。いいわね? 大丈 夫?」

 その問いかけにアスランは沈痛な表情を浮かべ、「はい」と頷いた。ハイネは、そんなアスランを見て、眉を顰めた。




「オーブにいたのか、大戦の後ずっと」

 甲板で海を見ていたアスランに、突然、ハイネが声をかけて来た。ハイネも景色を見ながらアスランの隣にやって来る。

「いい国らしいよなぁ、あそこは」

「ええ、そうですね」

「この辺も綺麗だけどなぁ」

「はい」

 他愛のない話を続ける二人だったが、ハイネはチラッとアスランを見て尋ねた。

「戦いたくないか? オーブとは」

 唐突な質問にアスランは度肝を抜かれながらも頷いた。

「………はい」
 
「じゃあお前、何処となら戦いたい?」

「え? いや、何処とならって……そんな事は……」

 戦わないで済むならそれで良い。アスラン自身、本来なら何処とも戦いたくはないのだ。そんな彼の心情を悟ってか、ハイネはフッと笑みを浮かべる。

「じゃあ、何で人は戦うんだと思う?」

「え?」

「戦争はダメだ、やめるべきだと言っておきながら何で人間は戦うんだと思う?」

 そう問われ、アスランは答えを詰まらせる。前のデュランダルとの会談のように、戦争を産業として考えるロゴスがいるからだとは答えられない。彼らは確か に戦争の一端を担っている。が、それだけが全てではない。

 戦争が起こる根本的な問題がアスランには分からなかった。ハイネは答えられない彼を見て、言った。

「“戦争が起こる問題”じゃない。何で戦うか、を尋ねてんだよ」

「何で……戦うか?」

「そうだ。それが分からないと、戦っても、ただ虚しいだけだぜ」

 ハイネの言葉に、アスランはただ沈黙した。




「な〜るほどね。黒海そしてマルマラ海………」

 オーブ軍空母、タケミカズチではオーブ軍最高司令官ユウナ・ロマ・セイランと、ネオが地図を囲んで作戦会議を行っていた。そこにはトダカと彼の副官であ るアマギ一尉もいる。

 ユウナはまるで実戦経験が豊富な歴戦の司令官のような振る舞いで、指揮棒を地図に指す。

「ふん、私ならこの辺りで迎え撃つことにするかな。海峡を出てきた艦を叩いていけば良いんだから。そう考えるのが最良かと」

「ふむ」

 ネオは特に異論せず頷く。

「ザフトにはあのミネルバがいるという事だけれど、ま、作戦次第でしょう。あれが要というのなら逆にあれを落としてしまえば奴等は総崩れでしょうし」

 トダカとアマギは呆れた。確かにそれはそうだし、海峡で迎え撃つのも悪くはない。が、具体的にどうやって落とすのか……その案が全く出されていない。戦 略ゲームなどで鍛えているようだが、大まかな戦略は立てれても細部までは無理だった。

 が、ネオは分かっているであろうにユウナを絶賛した。

「流石オーブの最高司令官殿ですなぁ。頼もしいお話です。では先陣はオーブの方々に。左右どちらかに誘っていただき、こちらはその側面からという事で」
 
「ああ、そうですね。それが美しい」

 おだてられ、最も危険な前線を任された事に気付いていないユウナに、トダカとアマギは言葉を失う。今回、オーブは増援部隊なので前線は地球軍に任せ、後 方支援するべきなのだが、ネオのおだてに乗ってしまった。

「海峡を抜ければすぐに会敵すると思いますが、よろしくお願いしますよ?」
 
「ええ、お任せください。我が軍の力とくとご覧に入れましょう」

 本来、国の防衛の為の力を、積極的に行使するなどオーブの理念に反している。が、彼ら軍人は上の命令通りに動くしかなかった。それがたとえ、どんな無能 であろうとも。


 
 


 パイロットスーツに着替えたシンは、力一杯、ロッカーの扉を叩き付けた。アスランは眉を顰めて出て行ったシンを追いかけた。

「おいシン! どうしたんだ?」
 
「別にどうもしませんよ。オーブっていったって今はもう地球軍なんでしょ……」

 どうやらオーブが攻めて来ている事に相当、腹を立てているようだ。アスランは、フゥと溜息を吐くと、後ろからエリシエルが声をかけてきた。

「オーブが軍を向けて来たのが、そんなに気に入らないのかしら?」

 その言葉にシンは、ピクッと反応して振り返った。

「当たり前ですよ! あんな自分勝手な国……俺がぶっ潰してやる!」

「う〜ん……それは勘弁して欲しいかな」

「は?」

「だってオーブは私の両親が住んでた国だから」

 その言葉にシンとアスランは驚愕する。

「先輩、オーブの人間だったんですか!?」

「ん〜……私は15の時にプラントへ留学してザフトに入隊してるから、顔を合わせなかったけど……両親はヘリオポリスに住んでてね……二年前、コロニー崩 壊の時に死んじゃったのよ」

 ヘリオポリスと聞いて、アスランの目が見開かれる。シンも彼の方を見た。当時、クルーゼ隊がオーブのコロニーであるヘリオポリスを襲撃し、密かに建造さ れていた連合のMSを奪取した事は有名だった。

 そして、ヘリオポリスが崩壊してしまった事も。エリシエルの両親がそこに住み、あの事件によって死んだ。アスランは、彼女の両親を殺したのは自分だと思 うと身を震わせた。が、エリシエルはポンと彼の肩に手を置いて笑顔を浮かべた。

「気にしないで、とは言わないわ。貴方は、何を言っても気にする人間だもの。罪悪感を感じるなら、その分、この戦争を早く終わらせる事を考えましょ」

「先輩……」

「ほら、出撃よ」

 そう言ってエレベーターに向かうエリシエル。すると、シンが彼女に向かって怒鳴った。

「何でだ……何で、そんな風に平然としていられるんですか!?」

「?」

「シン!」

「こうやって自分の家族を殺した人間を目の前にして、何でそうやって平然としていられるなんて、おかしいですよ!」

 彼女は、中立であるオーブが連合のMSを開発していた為、両親を亡くした。それは、オーブに裏切られた事と、更にヘリオポリス崩壊を引き起こした人物に 何で、そんな風になれるのかシンには理解できなかった。

 が、エリシエルはクスッと笑って答えた。

「じゃあ、此処でオーブを滅ぼして、アスランを殺せば私は幸せになれるのかしら?」

「!?」

「私は憎んで、殺して大切なものが返って来るなんて思った事ないわ」

 凛として言うエリシエルにシンは言葉を失う。

「そりゃ一時はアスランやオーブが憎いとは思ったけど…………結局、私も戦場で憎まれる事をしてるんだもの。そう思うと、何だか自分が酷く矮小な人間に思 えちゃってね……マイナスな事ばかり考えてたら結局、自分をより不幸にするだけだって分かったの」

 その言葉にシンは、自分が間違っている、というように思えて来た。が、即座に心の中で否定する。

 彼女の言っているのは詭弁だ。自分はオーブの理念を守る為に犠牲になった家族の亡骸を目の当たりにした。そんな経験をしていない彼女は奇麗事だ。そう自 分に言い聞かせた。

「俺は……俺は自分の考えを曲げませんよ! オーブもアスハも……自分勝手で、いい加減な奴らなんだ!」

「別に私は貴方に意見を押し付けるつもりも無いし、資格も無いわ。貴方が、そうやって思う事でしか生きていけないって言うなら、貴方の中でそれが真実なん だもの」

 フッと笑みを浮かべ、特に反論もせず、逆にシンの言葉を理解しているエリシエルに2人は驚いた。

「それに……裏切ったって言っても、それまで私や家族を守ってくれたのは、他ならぬオーブとその理念だったのは間違いないしね」

 そう言い、ウインクしてエレベーターに乗り込むエリシエル。

「乗らないの?」

 その言葉にアスランとシンは、ハッとなり慌てて乗り込んだ。その間、シンはエリシエルの顔をまともに見れなかった。

 オーブとその理念に守られていた……その言葉が彼の胸に深く突き刺さった。確かにコーディネイターである自分が、ナチュラルの家族と平和に暮らせていた のは、オーブと理念である事は否定しようの無い事実であった。




「よーし始めようか。ダルダノスの暁作戦開始!」

 司令官席に座るユウナが唐突に訳の分からない作戦名を言い放つ。トダカとアマギは揃って「は?」という顔になる。するとユウナは呆れた口調で説明した。

「何だ知らないの? ゼウスとエレクトラの子でこの海峡の名前の由来の。ギリシャ神話だよ。ちょっと格好いい作戦名だろ? ん?」

 命懸けの今回の派兵に対し、格好いいなどとお遊び感覚で言うユウナに、トダカとアマギは苛立ちを感じざるを得なかった。今日、此処でどれだけの部下の命 が散っていくか分からない。皆、こんな戦いは望んでいない。彼らが軍に入ったのは、オーブを守る為だ。

 それなのにゲーム感覚で見ているユウナに、アマギは憎悪さえ感じた。

「MS隊発進開始!」

 トダカは無視して指示を飛ばすと、アマギも復唱する。

「MS隊発進開始! 第一第二第四小隊、発進せよ!」

「イーゲルシュテルン起動、オールウェポンズ・フリー」

 戦闘指示を飛ばしながら、アマギは何も出来ず部下に理不尽な戦闘を行わせる事に苛立った。



「熱紋確認! 一時の方向、数20!」

 ダーダネルス海峡に出て、バートの報告が飛ぶ。タリアは、やはり此処を戦場に選んだかと表情を厳しくした。

「MSです! 機種特定、オーブ軍ムラサメ、アストレイ!」
 
 いきなり増援のオーブが出て来る事に驚いたが、彼女は迅速に指示を飛ばす。

「セイバー、インパルス、バビ発進! 離水上昇取り舵10!」

<シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!>

<アスラン・ザラ、セイバー、発進する!>

<エリシエル・フォールディア、バビ、発進します!>

 それぞれ三機のMSが発進した。




「さて、やってみますか」

 ディオキアにて、通常カラーの紫から青へとパーソナルカラーを変え、追加装備としてビームウィップを持ったエリシエル専用バビ。迫り来るムラサメをビー ムウィップで次々と薙ぎ倒していく。

「…………私、別に女王様って訳じゃないんですけどね」

 苦笑いを浮かべていると、シンが先走って突っ込んで行くのが見えた。

「シン、出過ぎよ! 下がって!」

<倒せば良いんでしょ、倒せば!>

<シン! 無闇に先走った行動をするな!>

 アスランが言っても聞こうとせず、ムラサメ部隊を打ち倒していくシンのインパルス。どうやら、先程のエリシエルとの遣り取りで、腹を立てているのでウサ を晴らしているのだろう。

「やれやれ……若い子って、どうしてこう…………って、私もまだ21だったわ」

 他のパイロットが皆、若いのでつい老け込んでしまうエリシエルだった。




「取り舵30! タンホイザーの射線軸を取る」
 
「えぇ!?」

 突然のタリアの決断に、アーサーは驚いて振り返るが彼女は冷静に説明する。
 
「海峡を塞がない位置に来たら薙ぎ払う。まだ後ろにあの空母がいるはずよ」

 物量的には、まだ相手が圧倒的に勝っている。インパルス、セイバーはデュートリオンビームですぐにエネルギー回復出来るが、バビは小まめにしなくてはい けない。

 故に、此処で一気に押し切る事が心理的にも優位に立て、効果的だった。アーサーは頷くと起動準備に取り掛かる。

「タンホイザー、軸線よろし」
 
「よし! 起動! 照準、敵護衛艦群!」
 
「は!」
 
「タンホイザー起動。照準、敵護衛艦群。プライマリ兵装バンクコンタクト。出力定格。セーフティ解除」

 チェンが発進シークエンスを開始すると、ミネルバの艦首が開き、砲身が出て来た。
 


「何をしている!? 敵のMSはたったの三機だ!」

 タケミカズチのブリッジでは、自分の想像通りの展開にならず三機のMSに苦戦しているユウナが腹立たしげに怒鳴っていた。

 トダカは、ユウナは恐らく今まで自分の思い通りにならない事は無いような生活を送って来たのだと考える。自分は全て正しい。それにそぐわなければ全て間 違っている。そして一度、自分の意にそぐわない状況になったら癇癪を起こす。

 早い話が、我が侭なお坊ちゃまだった。

「どんどん追い込め! MS隊全機発進!」

 そして、しまいにはとんでもない命令を下すユウナ。思わずトダカも止めに入る。
 
「いやそれは……」

「一機ずつ取り囲んで落とすんだよ! そうすればいくらアレだって落ちる! これは命令だぞ!」

 確かに、そうすれば落とせるだろう。が、それでは、どれだけ多くの命が失われるか分からない。此処は、敵を最小限の戦力で引き付け、後方の地球軍と追い 詰めるべきだとトダカは思っていた。

「敵艦、陽電子砲発射態勢!」

 その時、オペレーターが叫ぶ。トダカ達はハッとなるとミネルバの艦首砲が出ていた事に気づく。
 
「回避! 面舵20!」

 回避命令を下すが、空母の巨体で陽電子砲を避けるのは無理であった。




「…………来たか」

 J.P.ジョーンズのブリッジでキースはフッと笑みを浮かべる。それと同時に、バーストに乗っていたルシーアも彼の到来を感じていた。




 ミネルバ最大の兵器タンホイザーがタケミカズチに向けて放たれる。が、その途中で巨大なエネルギー波が迫り、タンホイザーの閃光に直撃した。海に向かっ て真上から放たれたエネルギー波が、陽電子砲の閃光を飲み込み、爆発が巻き起こり、海が大きく揺れた。

「な、何だ?」

 アスランは、セイバーに大量の水飛沫を浴びながらも呆然と空を見上げる。オーブ軍のMSも停止している。すると、太陽の光の中から、銀のボディに漆黒の 翼を広げたMSが舞い降りて来た。

「あれは!?」

 そのMSは、彼が最も尊敬する先輩のものであった。そして、それに続いて彼には見慣れたMSが三機、やって来た。

「フリーダム……ジャスティス……それにストライクルージュ!?」

 銀のMSの横で止まるフリーダムと、ジャスティスに手を引かれているストライクルージュ。そして、その後ろからはドラゴネスとアークエンジェルが、やっ て来た。

「(な、何で彼らが……!?)」

<あ〜……オーブ全軍に告げる!!>

「(先輩!?)」

 すると突然、全回線が開きレンの声が響く。

<我々は海賊ワイヴァーン!! 今すぐ戦闘を停止しないとオーブ首長連合国代表首長、カガリ・ユラ・アスハの命は無いと思え!!>

 そう言うと、ジャスティスがビームサーベルをストライクルージュのコックピットに突き付けた。

「な!?」

<オーブ軍! 私の事は構うな!! だが、私を信じてくれるなら、今すぐ戦闘を停止してくれ!!>

 続いて聞こえたカガリの声にアスランは、益々、混乱した。




<もし従わなかったら、アスハ代表の命は元より、今の一撃を無差別に乱射しちゃうぞ!! この辺の地形変わっても知らないぞ! うわははははははは は!!!!>

 ドラゴネスのブリッジでは、SSキャノンをオーブ軍に向けてエネルギーをチャージするラストをモニターで見ながら呆れ果てていた。

「兄さん……すっごく楽しそうですね」

「ああ。ありゃ素で楽しんでるな」

「きっと根が悪党なんスよ」

 副長のシュティルがジャスティスで出ているので代わりに副長席に座っているリサが呟くと、アルフレッドとロビンも頷いた。

<あの……やはり自国の民を騙すのは気が引けるのだが……>

 おずおずと通信でカガリが訴えかけると、キャナルが「我慢しろ〜」と答える。

 レンの作戦……カガリが訴えるだけでは恐らく無理なので、彼女を人質にし、オーブ軍を停止、もしくは戸惑わせる事にした。少なくとも、代表を人質に取ら れては、オーブも手が出せないだろう。

<さぁ! さぁさぁさぁさぁさぁ!! オーブは、とっとと帰って、タヌキジジィの頭に育毛剤でも振ってろ! それとも、まだ18歳の代表を見殺しにする か!? 私はどっちでも構わんぞ〜!!>

「本っ当に楽しんでますね、兄さん……」

 あんなのの妹として良いのだろうかと真剣に考えるリサだった。




「ふ……ははははははは!!!!!」

「閣下?」

 突如、現れた海賊ワイヴァーン。それにはJ.P.ジョーンズのブリッジでも混乱していたが、キースが突然、笑い出した。

「ああ、すまん。ネオ君、カオス、ガイア、アビス、バーストを発進させてくれ」

「は? ですが……」

「オーブには下がらせるよう伝え、ウィンダムを発進させろ。私もクライストで出る。そろそろジブリールに良い報告をしたいだろ?」

「は、はっ!」

 キースが出ると、恐らくミネルバも終わるだろうと考え指示に従うネオ。そして彼はタケミカズチのユウナと連絡を取った。




<ユウナ・ロマ・セイラン>

 タケミカズチは何処よりも混乱していた。突如、やって来てミネルバの陽電子砲から守ってくれた謎の銀色の機体。その後にやって来たフリーダムとジャス ティス。そして、オーブの軍人ならば知らぬものもいない。肩に獅子と薔薇の紋章を持ったカガリ専用機のストライクルージュ。

 彼らは海賊であり、カガリを人質にして撤退を要求して来た。余りにも突拍子過ぎる事に対応できない内に、ネオからの通信が入った。ユウナはビクッと身を 竦ませた。

<これはどういう事です?>

「あ……ぁ……いやこれは……」

<あれは何です? 本当に貴国の代表ですか?>

 答えられないユウナに、ネオは突っ込んでいく。

<ならば、それが何故今頃、あんなものに乗って現れて、軍を退けと言うんですかね?>

「ぐ……」

 作戦前とは打って変わって威圧的なネオにユウナは何も言い返せない。
 
<キース・レヴィナス中将閣下よりの命令です。オーブ軍はただちに撤退。後は我々でやるので、との事です>

 オーブでも知られている大物中の大物の名前が出て来てユウナは愕然となる。オーブの戦力を地球軍にしらしめようとして司令官として乗り込んだ今回の戦 闘。それが、逆に小娘と薄汚い海賊によって全てがお釈迦になってしまった。

 ユウナは、通信機を落としてドサッと席に座り込み、放心する。そんな彼を見て、トダカはワイヴァーンの真意を悟った。彼らは戦闘を止める為、正確にはカ ガリの意を汲んで、このような芝居を打ったのだ、と。

 もし、単純にカガリが停戦を訴えればユウナが、どんな風に暴走したのか分からない。が、カガリを人質にし、脅迫する。多少、無茶なやり方だったが、結果 としてオーブ軍は撤退する事になった。無駄な血を流さずに済んだのだ。

 トダカは、ストライクルージュに剣を突き付けているジャスティスに乗る友人に対し、敬礼したかったがこの場では出来ず、安堵の微笑を浮かべ、礼を言うの だった。




「オーブ軍が……艦長!」

 撤退するオーブ軍を見て、アーサーがタリアの方を振り返る。タリアは、モニターに映るレンのラストとドラゴネスを見つめる。宇宙では協力してくれたが、 今はどうか分からない。

 少なくとも陽電子砲を止め、敵を助けたという事は味方では無い。しかし、タリアは、これらの行為が芝居であり、全てはオーブ軍を撤退させるというカガリ の意を汲んでのものだという事に薄々、気づいていた。

<艦長>

 その時、モニターに既にスタンバイしているハイネが映った。

<オーブは撤退しても、地球軍が残っています。ワイヴァーンとアークエンジェルの事もありますし、何かあったらすぐに出ますよ>

「ええ、お願い」

 彼の言葉にタリアは、断る理由も無く頷いた。




<オーブ軍、撤退していきます>

「あ……」

 ラクスの声を聞き、撤退するオーブ軍を見てカガリは目を潤ませた。カガリは最悪の場合、本当にシュティルにコックピットを貫いて貰おうかと考えていた。

 そして彼女は理解した。ただ、訴えるのも駄目、だと。彼らは命を賭して戦場に赴いている。その戦闘を止めるのなら、自分も命を賭けねばいけないのだと。

 その時、コックピット内にアラートが鳴り響いた。

「! な、何だ!?」

 振り返ると、インパルスが物凄い勢いでこちらに迫って来た。

「インパルス……シンか!」

<アスハ代表! 貴女の役目は終わりだ! 艦へ戻れ!>

 するとジャスティスに乗るシュティルがそう言って来て、インパルスのビームサーベルをシールドで受け止める。そして、更に地球軍のウィンダムとカオス、 ガイア、アビス、そして宇宙で見たクライストと謎のMSも迫って来た。

<カガリ! 君は下がって!>

<う〜む……まさか本当に上手くいくとは。オーブって単純なのかな?>

 キラとレンも、それぞれ地球軍に突っ込んで行った。カガリは、表情を顰めながらも艦に戻って行った。



「シン、やめろ! 俺はお前と戦うつもりはない!」

 シンのインパルスと激突するシュティルのジャスティス。互いにビームサーベルを振り下ろし、盾で防ぐ。

<五月蝿い! どういうつもりだ!? 戦場を混乱させて!!>

「オーブを退かせる為だ!!」

<何で、そんな事するんだよ!>

「何?」

 シンの言葉に目を見開くシュティル。その隙を突き、インパルスがジャスティスに蹴りを入れて吹っ飛ばす。

「くっ!」

<オーブは……オーブは俺が討つんだ!!!>

 海に激突しかけるジャスティスに向かってビームサーベルを突き刺そうと突っ込んで来るインパルス。シュティルは、ファトゥム00のバーニアを噴射させ、 両肩に収容されたビームブーメランを投げる。

<ちぃっ!>

 シュティルは即座に二本のビームサーベルの柄を連結させ、インパルスに迫る。

<どうして……どうして、どいつもこいつもぉ!!>

「シン!」

 インパルスの振り下ろして来たビームサーベルを避け、相手の腕を切り落とすと、シュティルは苦い表情を浮かべ、ウィンダム撃墜へと向かった。




「キースか!」

 ラストのビームサーベルとクライストのビームランスが激突する。宇宙以来の戦闘を行う2人。

<中々の余興だったよ、レン!>

 やっぱり、バレてたか、とレンは苦笑いを浮かべながらもビームライフルで牽制する。クライストは両手にビームライフルを持ち、ラストを撃ち落そうとする が、一発も当たらない。

<レン!!>

「? エリィ?」

 その時、後ろから二機のMSが迫って来ていたのでレンは眉を顰めた。

<よぉ、隊長殿。久し振り>

「もしかして、ハイネ?」

<おう>

「そっか……ミネルバに乗ってたのか」

<どういうつもりだ、オーブの代表を人質に取って軍を撤退させるなんて……>

「色々あったんだよ。それより私を捕らえに来たのかい?」

<まさか……私は、アレと決着をつけたいだけです>

 そうエリシエルが言うと、クライストの隣にバーストがやって来る。その時、レンの頭にピキィンと電流のようなものが走る。

「(あのMS……まさか、ルシーア? アレに乗ってるのか)」

<なら、俺はアイツだ!>

 ハイネは陸地を移動しているガイアを見て、それに向かって突っ込んで行く。グフイグナイテッドのスレイヤーウィップが、ガイアの足に巻きついて電撃を流 す。

<ザクとは違うんだよ! ザクとは!>

「ノリノリだな、ハイネ……エリィ、あのMSのパイロット気を付けなよ」

<はい!>

 エリシエルは頷くとバビをMA形態にチェンジし、上昇した。バーストは、それに向かって機関砲を撃ちまくる。チラッとレンは戦況を見る。アスランが乗っ ていると思われる赤いMSはカオスと、フリーダムはウィンダムとアビスを空中から狙っている、バルドフェルド専用の黄色いムラサメも、ウィンダムを相手に している。

「さ〜て……やるか!」

<来い!>

 二機のMSは再び激突し合った。




「ファング2番、ってぇー!!」

 ラディックが叫ぶと、ドラゴネスの両脇に設置された砲身からビームが発射され、迫り来るウィンダムを撃墜した。

<ロジャー艦長!>

 するとモニターにマリューが映った。

「おう、ラミアス艦長」

<オーブ軍は撤退しました。後は、地球軍の戦力を削いで下がるべきだと……>

「ああ。分かってる。おい、キャナル! 全員に地球軍の戦力を削いで撤退って伝えろ!」




「(ほぼ予定通りかな)」

 クライストと激突しながらもレンは、状況を分析していた。フリーダムと、ムラサメによってウィンダム部隊は、ほぼ全滅。そして、カオス、アビスはフリー ダムによって機関部を破壊され、撤退を余儀なくされた。

 シンのインパルスは、シュティルのジャスティスによって腕を切り飛ばされて戦闘不能。残るは、自分とシュティル、エリシエルとルシーア、そしてハイネと ガイアのパイロットだった。

 レンは、チラッとエリシエルのバビと戦っているルシーアのバーストを見て、キースに問うた。

「キース、どういうつもりだ? 何でルシーアをMSに……」

<あの子も私達と同じノヴァ計画の犠牲者。これは、あの子自身が望んだ事だ>

「…………ノヴァ計画……キース、まさか……」

<いらぬ詮索だよ、レン!>

 キースは叫び、ビームランスを突き付けて来た。

<レン!>

「!」

 が、その時、ガイアと戦っていたハイネのグフイグナイテッドが間に入って来た。

「(まず……!)」

 目を見開くレン。そして、次の瞬間、グフイグナイテッドが爆発した。







 後書き談話室

リサ「今回は、原作の展開どおりに進みましたがオリジナルの比率が多いかもです」
カガリ「ああ。オーブ軍が撤退してくれた。これは何よりも嬉しい」
リサ「まぁ兄さんのあくどい罠に、見事、引っ掛かってくれたんですけど」
カガリ「だが、キースという男は芝居に気づいて、わざとオーブ軍を退いてくれたのではないか?」
リサ「さぁ?」
カガリ「そして今回、重要単語が出て来たな」
リサ「ノヴァ計画……ですね」
カガリ「恐らくレンとキースの関係を示すものだろう」
リサ「…………デスティニー・プランより酷いものでしょうか?」
カガリ「さて……な。これからの物語で分かっていく筈だ」
リサ「ところでハイネさん、これで出番終わりでしょうか?」
カガリ「…………分からん。作者の気まぐれだ」
リサ「何だか私達の生死が作者さんの気まぐれで決まるなんて、物凄く腹立たしいですね」
感想

う〜ん、ちょっと厳しい事言ってもいいかな〜

私は思うんですが、

一度原作を離れた作品を無理やりに原作に近い展開に戻すと歪になる傾向があるんですよ。

例えば、今回の場合ワイヴァーンがいて、更に日本政府が咬んでいる訳ですから、

直接戦闘を止めるよりもいい方法が幾つか存在します。

水際で止めるなら、戦闘が起こる距離に行く前に捕捉するという方法。

南洋にあるオーブから船で出て来て戦うんです。

正直言って戦場に行くまでに何日かかかっているわけです。

情報網のない状況なら兎も角、レンにはありますからね〜

更にもっと早い段階で止める方法もあります。

オーブのメディアを乗っ取り、情報合戦をやってやればそれだけで出撃どころではなくなるでしょう。

キャラが強くなり、また頭がよければ良いほど、オリジナル部分が重要になります。

話が外れていくと同じ様にしようとした部分だけ歪に見えますので気をつけたほうがいいと思います。



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