愛、哀、藍……“アイ”が一杯〜。

 一応、最新の戦艦、ナデシコとしては、緊急事態の時以外は全自動な訳で、ハッキリ言って暇です。

 そこそこ必要なのは通信士のメグミさんとオペレーターの私、舵取りしてる操舵士のミナトさんなんて朝寝坊。メグミさんも何か雑誌読んでるし……ま、良い けど。

「ふわ〜……暇だね〜」

 あぁ、後、艦長もいたんだっけ。

 と、その時、警報が鳴った。

「敵、攻撃」

「え!? 何処何処!? 迎撃……」

「いりません」

「へ?」

「ディストーションフィールド、順調に作動中」

 敵の攻撃はディストーションフィールドによって、見事に跳ね返した。

「隕石コロニーでの戦い以来、木星蜥蜴が本格的な攻撃を仕掛けて来ないのは、恐らくこの艦の能力を把握する為、少なくとも制空権を確立した火星までは挨拶 程度だと思いますが……艦長はどうお考えですか?」

 いつの間にか横に来ていた艦長に質問します。

「あなた、鋭いわね…子供なのに」

「私、少女です」

 少女と子供には大きな壁がありますので、自己主張は忘れません。

「攻撃第二波、出力安定」

「そっか……火星まで私、暇なんだぁ」

 目の前に座られて前が見えません。

「艦長、邪魔です。自分の席についててください」

「は〜い」

 つまらなそうに艦長席に戻る途中、艦長は振り返ってメグミさんの方を振り返りました。

「艦長、どうしたんですか?」

「え!? あ、べ、別に何でも……な、何か嬉しそうだな〜って」

「え〜! 分かります〜?」

 何故か上機嫌なメグミさん。と、そこへ喪服を着たプロスさんから通信が入った。

<艦長、まだそんな所に……艦長がいないと始まらないんですから早く来てください>

「あっ、そっかぁ」

<ちゃ〜んと着替えてきてくださいね>

「はぁ〜い!」

 駆け足で艦長はブリッジから出て行きました。

 その日から二週間、敵が姿を見せない合間を狙って、ナデシコ艦内では先日の戦いの犠牲者のお葬式が行われた。



機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜 IN ナデシコ

PHASE−06  二週間



 遺骨が見つからず、サツキミドリ二号の遺影を飾ったある部屋では、皆、喪服に着替えてユリカが木魚を叩きながらお経を上げていた。

 民間企業であるネルガルは、社員の宗教、思想の自由を認めており、戦闘で最も多い葬式は、個人の望む形で取り行うという契約を交わしている。

「うぅ……お母さんより先に逝っちゃうなんて、何て親不孝な息子なんだい!」

 頭を団子にして涙を流して泣いているエリスに、喪服を着たシンとルナマリアが小声でツッコミを入れる。

「エリスさん、何、犠牲者の母親に成り切ってるんですか?」

「これなら安心して成仏出来ずに自縛霊として……自縛レイって、ちょっとレイが危ない趣味に目覚めたみたいよね〜」

「「ぶっ!!」」



 その頃、某病院では……。

「へっくし! …………風邪か? ふ、それとも俺の命も後僅かな証なのかもな」

 一人、青年が黄昏ていた。



「それは分かったけど、何で私がこんな事するの?」

「色んな式を取り仕切るのが艦長の役目なんだからさぁ」

 現在行われているお葬式を取り仕切っているユリカが愚痴を垂れると、傍に控えていた副長のジュンが答えた。艦長が取り仕切るのは“指揮”であって、 “式”は別問題ではないだろうか? というツッコミは不許可である。

「は〜い……一枚だ〜二枚だ〜三枚だ〜、ハァ、おしまいだぁ……」

「おしまいじゃないよ」

 やっと終わったと思ったユリカだったが、ジュンの容赦ない一言。

「へ?」



「さぁ急いで急いで!」

 シスターの服を着たジュンが、牧師の格好をしたユリカを急かす。

「え〜と、天にまします我らが父よ……」

「ほら、早く!」

 次々と色んな衣装を着させられ、様々な葬式を執り行うユリカとジュン。

「地球は狭いようで広い。様々な宗教、様々な風習、様々な葬式があるからね……」

「だからって何で私がこんな事するの?」

 半泣きで疑問を口にすると、ジュンは、さも当然のように答える。

「何でって……コロニーが全滅したんだから葬式をするのはナデシコの仕事だろ? それにお坊さんや神主さんを揃えてたらたまんないから艦長が代行すると」

「いうわけですなぁ、何しろ結婚式とお葬式だけはなかなか値切れないですから」

 またも計算しながら言うプロスペクター。

「はぁ……でも、最近アキトに会ってないし、お話もしていないしきゃあ!」

 ボヤくユリカの手を引っ張って、ジュンは次の葬式へと向かう。

「さぁ、今日はあと五つはこなすからね!」

「えぇ〜!?」

 巫女姿で、走るジュンとユリカ。その後をゴートとプロスペクターも同じ格好で追いかける。中々にシュールな光景だった。




「ふやぁ〜……やっと終わったぁ」

「艦長……頭」

 今日の分のお葬式を終えた艦長は大きな帽子らしき物体を被ったまま項垂れています。私が声を掛けた拍子に帽子っぽいものは落っこちました。

「はぁ……これが艦長……」

「まだまだお葬式の希望はあるそうですよ?」

「データ、ウインドウ表示」

 私はお葬式希望者のリストを表示しました。すると、艦長の周りに大量のリストのウインドウが出た。

「うぇ!? こんなに!?」

「はい、こんなに」

「こんなに一杯、お葬式!?」

「これでも、まだほんの一部。それだけ一杯亡くなったんですね、この前の戦い。一杯亡くなったから一杯お葬式」

 流石に艦長も目を潤ませて、お葬式希望者を見渡します。

「一杯亡くなったから、一杯……私が出来る事って……お葬式……お弔い……」

 表示されたリストを艦長は呆然と眺めながら何か呟いてます。あ、今にも泣きそう。すると、今まで雑誌を読んでいたメグミさんが呟く。

「あ、冠婚葬祭って事は……やっぱり結婚式もかな?」

「うあああああああああああああん!!!!」

 何故かそれで大泣きしてブリッジから出て行く艦長。

「メグミさんって、ちょっと意地悪ですよね」

「そうかな?」

「そうですよ」

「そうかな?」

「そうですよ」

「そうかな〜?」

「そうですよ」

「そっかぁ……意地悪か」

 艦長に何か恨みでもあるんですか? メグミさん。




「さぁ〜! 今日も張り切っていきますよ〜!」

「「「はぁ〜い!!」」」

 次の日も、何処の国だか分からない衣装を着させられて葬式を奔走するユリカ、ジュン、プロスペクター、ゴート。

「アキト〜」

「どけどけぇ!!」

 泣き言を零すユリカに答えるかのように、彼女の思い人の声が前方から迫る。ユリカは、パァッと顔を輝かせて顔を上げると、台車に大量の料理を載せたアキ トがこちらに向かって走って来ていた。

「葬式料理だ〜!! どけどけぇ〜!」

「アキト〜!」

 が、ユリカ達が壁に寄って道を空けると、そのままアキト&ホウメイガールズが通り過ぎて料理を運んで行った。

「アキト!」

「ユリカ!」

 アキトを呼ぶユリカだったが、ジュンが制した。

「君は艦長なんだ。死んでいった人の為にも今は自分の責務を果たさなくちゃ」

 そう言ってるが、ユリカは悲しそうな表情で先程のアキトの「どけどけぇ!」という言葉を思い出す。

「アキト……酷いよ、アキト」

 その目には涙すら浮かんでいる。が、そこでハッとなる。

「(そうか! アレは激励だわ! 『しっかりしろ! お前は艦長なんだ!』という、あの人の! そうね! 頑張らなくちゃ! 終わらせて、晴れてアキトと お話しなくちゃ!)」

 物凄いポジティブな思考でユリカは、一気にヤル気を出した。



「ふやぁ〜……」

「艦長……あたま」

 艦長が昨日とは違う帽子を被ったまま項垂れています。私が声を掛けると、また落っこちちゃいました。

「でも、やっぱ疲れたよぉ……ルリちゃん…艦長ってなんだろうね?」

「知りたいですか?」

 まぁ、艦長って言う割には、やってる事と言えばお葬式だけですしね。

「うん、知りたい」

「教えることは出来なくてもデータなら……」

「え?」

「オモイカネ、データ転送。ライブラリより検索、艦長の傾向と分析」

「ルリちゃん凄い…」

 褒めても何も出ません。艦長が感心してる間に、ウインドウが開きます。

「来ました。年代はいつ頃の艦長にしますか?」

「じゃあ、此処100年で」

 検索中の画面が出て、やがて終了する。

「出ました。最近の艦長の傾向と分析」

【最近の艦長の傾向と分析……第二次大戦以降、名艦長と呼ばれる艦長は出現していない。現在のように戦闘がメカニックでシステム化した時代は、僅か一艦の 長の決断に、戦闘の優劣を決めるほどの力は無い。艦長は、戦艦のシンボルになるような象徴、ないしは戦闘員の不平不満を気持ち良く吸収させる役目が取れれ ば良い。旧年は頼りになりそうな冷静沈着な老人タイプが多かったが、若者にヤル気を持たす為、少年タイプ、美少女タイプの艦長も多い。要するに現代は、作 戦能力や決断力のある本質的な意味での艦長は、必要としないのである】

「つまりはアレね」

 と、そこへブリッジの扉が開き、エリスさん、シンさん、ルナマリアさんが入って来た。

「『左舷、弾幕薄いぞ!』とか『何やってんの!?』とか言う厳格な艦長より、乳さえ揺れてれば良い傾向になって来てる訳ね!!」(一応、前者の厳格な艦長 は、登場時は19歳なので、少年の部類に入る)

 訳の分からないエリスさんの力説。私、少女ですから。けれど、艦長は表情を引き攣らせ……。

「それって……それって……」

「それって早い話が、誰でもいいって事ですよね」

 昨日と同じく雑誌を読んでいたメグミさんのミもフタもないお言葉。

「うあああああああああああああああああん!!!!!!!!!」

 そして、艦長も昨日と同じく大泣きしてブリッジから出て行った。

「メグミさん……」

「そうよね……意地悪よね、私って」

「はい」

「はぁ……だって、しょうがないじゃない」

 何がですか?




「ずえりゃああああああああ!!!」

 リョーコの着合いの篭った突進をシンは、ヒョイっと避けると、足を引っ掛けて倒す。

「どわぁ!」

 胴着を着て、訓練室で何故か戦っているシンとリョーコ。シミュレーションでは、シン相手にコテンパンにやられ、今度は何故か生身で勝負する事になった が、アカデミーで訓練を受け、尚且つコーディネイターで、普通の人より身体能力が高い、ましてや男と女。圧倒的にシンが有利だった。

「なぁ、もうやめないか? いい加減、眠くなって来た……」

 既に時刻は夜の十一時を回っている。艦内も消灯し、皆、寝ている時間だ。なのに、何でこうトレーニングを続けなければいけないのか、シンは疑問だ。

「うっせー!! ほら! もう一本!」

「あのさ〜……そこまで、デスティニーが欲しい訳?」

「そんな事、どうでも良いんだよ! 此処までコテンパンにやられたら俺のプライドの問題だ!」

 パイロットとして優秀だと自負して来た。が、それはシンとルナマリアの二人によって木っ端微塵に砕かれてしまった。特に、シンとはシミュレーションで対 戦――無論、デスティニーの性能はエステバリスに合わせている――では、攻撃が掠りもしなかった。彼女が培って来たプライドは、一瞬で崩れ落ちてしまっ た。

「うおりゃああああああああああ!!!!!!」

 叫び、胴着の襟を掴んで来るリョーコ。少し油断したシンは、つい本気になって彼女の胴着の襟を掴み返し、足を掛けて、そのまま倒した。

「っ!」

「あ、ヤベ……」

 思いっ切りリョーコは、床に頭を打ち付けてしまい彼女は気を失ってしまった。




「ふんふんふ〜ん、と」

 鼻唄を歌いながらコンピューターと向かい合っているエリス。モニターには、何かの設計図らしきものが映っている。

「ん〜……やっぱりデスティニーもグリードも、下手に相転移を積んでパワーアップしたら機体が悲鳴上げてるわね……」

 両機とも元々が、自分達の世界での最新技術を詰め込んで造られた機体で、特にグリードに関しては、設計に関して改良の余地がない。それが、相転移エンジ ンを積んで、無理やりパワーを引き上げた所為で耐久性が付いて行けていなかった。以前のサツキミドリ二号での戦闘で、デスティニーの長距離ビーム砲がS2 キャノン並の破壊力を持った、グラビティブラストもどきを撃ったが、それに耐え切れず砲身が壊れたのは、その兆候だったのだろう。

「何らかの手を打つ必要があるわね〜……かと言って、アレだけのエネルギーを制御するには〜……あふぅ、自分の才能が怖い」

「エリスさん!」

「きゃ!? シンのエッチ! お隣同士だからって女の子の部屋に入るなら、ノックぐらいしなさいよね! もう!」

「…………何、言ってんですか?」

「ツンデレな、幼馴染を演じてみました。尚、ヘアスタイルはツインテールで」

 まぁいきなり入ったのは悪かったが、一瞬で、そんな設定を考えて実行に移すエリスに、呆れを通り越して感心した。が、ふとエリスはシンが胴着を着た リョーコを背負っているのが目に留まった。

「…………胴着プレイか。新しい世界が見えてきそうね」

「何言ってんですか!? それより、組手中にスバルが気ぃ失って……」

「医務室行きなさいよ、医務室」

「医務室には24時間、常時、ゲキガンガーが放映されてるんですよ!?」




 その頃、医務室……。

<ナナコさん、すまねぇ……海には行けそうにない……ぜ……>

<ジョーーーーーッ!!!!>

「くぅ〜!! やっぱ、漢の死に様はこうだよな〜!!」

 フェイスガードして涙を流しまくる熱血漢だった。



「しょうがないわねぇ〜……誰よ? あんな奴、助けて医務室送りにしたの。私じゃん」

 自分で言って、自分でツッコみつつ、エリスはリョーコをベッドに寝かせるようシンに言う。

「さて、まずはロケットパンチから」

 ニヤッと笑い、引き出しからメスを取り出すエリス。

「って、頭打っただけなのに何でメス持つんスか!? っていうか、ロケットパンチ!?」

「いや、いっそのことパワーアップでも……」

「しなくていい!!」

 つまらなそうにエリスは舌打ちすると、リョーコの頭に包帯を巻いてやる。

「ふわ……じゃあ俺、部屋戻ります。眠くて眠くて……」

「ん、お休み〜。リョーちんは私の部屋置いとくわ」

「…………改造とか人体実験しないで下さいよ」

「大丈夫♪していい奴以外にはしないから♪」

 それもどうかと思ったシンだが、眠気が勝っていたので、部屋を出ようとすると、リョーコが声を上げた。

「ん……此処は?」

「目、覚めたか?」

「…………シン?」

「エリスちゃんもいるわよ〜」

 シンの声がしたと思ったら、エリスが目の前に笑顔で現れ、リョーコは一瞬、絶句する。が、頭に包帯を巻かれているのに気付き、どうやら手当てしてくれた のだと察する。

「俺、気ぃ失ってたのか……」

「悪い。つい……」

「気にすんなって。上手く受身取れなかった俺も悪いんだからよ」

 そう言い、リョーコはベッドから起き上がろうとするが、エリスが制する。

「余り動かない方が良いわよ。軽い脳震盪起こしてるみたいだから。ベッド使って良いから泊まれば?」

「良いよ。お前、科学者だろ? だったら一人の方が集中出来んだろ」

「別に気ぃ使わなくても良いのに……しょうがない、シン。リョーちんを部屋まで送ってあげなさい」

「え? 別に良いですけど……」

「い!? イイ! 一人で帰れ……」

「私、科学者だけど本職は医者なの。医者の言う事に逆らうなら、改造人間にしてあげても良いわよ?」

 笑顔で、メスを取り出して迫るエリスにリョーコは顔を真っ青にしてコクコクと頷いた。シンは、苦笑し、リョーコを背負うと、部屋から出て行く。

「おい、こんな姿、誰にも見られたくないんだ。絶対に見つかるなよ!」

「別に俺とスバル、喧嘩してる方が多いのに、どんな勘違いするんだよ……」

「だぁ〜! スバルってやめろ、気色悪い! リョーコで良い、リョーコで!」

「リョーちん?」

「ぶっ殺すぞ?」

「エリスさんだってリョーちんって呼んでるじゃんか」

「何故か、アイツには逆らえねぇんだよ」

 そんな遣り取りをしながら去って行く二人を見送り、エリスはフッと笑う。と、その時、背後から声をかけられた。

「エリスさん」

「ん? ルナマリア?」

 そこにはピンクのパジャマを着たルナマリアがいた。

「すいません、ちょっと寝辛くて睡眠薬とかあります?」

「ええ、あるわ。ちょっと待ってなさい……」

 そう言って睡眠薬を取ろうと部屋に入るエリスは、ピタッと止まり、フワァと欠伸を掻いているルナマリアの肩にポンと手を置いた。

「? 何です?」

「ルナマリア、違う世界だからって油断しちゃ駄目よ」

「は?」




「ルリちゃん、ルリちゃん」

 相変わらず暇なのでゲームをしていると、ふとメグミさんが話しかけて来ました。

「最近、艦長見かけないけど、どうしたのかな?」

「苛めすぎたんじゃないですか? 心配だから見てみましょう」

 まぁ、あの人の事だから自殺なんてしていないと思いますけど、一応、それなりに心配なのでオモイカネに調べてもらう事にしました。そこで、艦長の所在を 見つける。

「瞑想ルーム? 座禅中?」

「何、考えてんだか?」

「どうしたの?」

「艦長、お篭りです」

 引き篭もった艦長に代わり、この後、ジュンさんがお葬式の続きをする事になりました。お疲れ様です。




 そんなこんなで二週間が経ち、火星は目前という所まで来た。にも関わらず、ユリカは未だに瞑想ルームで座禅中だったりする。

「(煩悩は捨てる煩悩は捨てる煩悩は捨てる……)」

「俺は本当は戦いたくない戦いたくない戦いたくない……」

「きゃ! アキト〜!!」

「どわぁ!?」

 いつの間にかアキトまで座禅を組んでいたので声を張り上げるユリカ。当然、アキトは驚く。

「これは本物!?」

「な、何故此処に!?」

「私は悟りを得ようと煩悩と戦ってたの! そしたらアキトが!」

 正座しながらジリジリと寄って来るユリカから離れようとするアキト。が、彼も正座してハッキリと言い返した。

「俺は煩悩じゃない! 俺は悩み事があって、此処に来てだな……」

「分かっているわ! アキトは私が好き!」

「な、何言ってんだお前!?」

「分かるわ! アキトは私が好き!」

「………此処でそんなこと考えてたのか……」

 煩悩もクソも無いユリカに呆れ果てるアキト。

「私、悟ったわ。アキトが私を好きなのは、煩悩なんかじゃない! 優れて正しい愛の姿だわ〜!!」

 そう言って抱き付こうとするユリカだったが、アキトとユリカの頭を座禅ロボットが竹刀で叩いて来て喝を入れる。

<<煩悩! 煩悩! 煩悩!>>

 その時、ユリカの目の前でウインドウが開き、メグミから通信が入る。

「あ、煩悩」

<艦長! 反乱です!>

「へ?」

<乗員の一部が反乱を起こしました!>

<責任者、出て来〜い!!>

 すると血走った目をしたウリバタケがドアップで現れた。




「メグちゃん、ゴメンね」

 ブリッジでは、ウリバタケを筆頭にリョーコ、ヒカル、イズミ、そしてその他何名かが銃を持ってメグミとルリを拘束していた。ヒカルに謝られるメグミだっ たがこの状況では苦笑いを浮かべるしかなかった。すると、ブリッジの扉が開き、ユリカ、アキト、ジュン、ミナト、シン、ルナマリアが入って来る。

「ど、どうしたんですか、皆さん!?」

「色々な葬式をやってくれるのは分かった。でも俺達はそんなこと知らなかった」

 ウリバタケが反乱の理由を文句を言いながら説明する。

「だから契約書に書いて……」

「今時契約書を良く読んでサインする奴いるか!? どうだ!」

 そう言ってウリバタケが出したのは、細かい文字でビッシリと書かれた契約書だった。リョーコも不機嫌そうに言った。

「うわ、細かい……」

「そこの一番小さい字を読んでみな」

「え〜……社員間の男女交際は禁止いたしませんが風紀維持の為、お互いの接触は手を繋ぐ以上のことは禁止……何これ?」

「読んでの通り……」

「っていうか、リョーコ。お前、恋愛したいの?」

「う……」

 シンに尋ねられ、パッと見、恋愛とは程遠そうなリョーコは頬を赤くして怯む。

「(リョーコ?)」

 が、ルナマリアはそれよりもシンが彼女を呼び捨てしている事に眉を顰める。

「な、分かったろ? お手て繋いでって、此処はナデシコ保育園か? いい若いもんがお手て繋いでで済む、わ、きゃ、なかろ、うが……俺、は、まだ、若い」

 ウリバタケは両脇にいたリョーコとヒカルの手を握って説明するが、二人に肘鉄を喰らい、床に膝をついた。

「若いか?」

「若いの! 若い2人が見つめ合い……見つめ合ったら―――」

「唇が」

「若い2人の純情は純なるがゆえに不純―――」

「せめて抱きたい抱かれたい」

 ウリバタケに合わせて、所々でコメントするヒカル。と、その時、一瞬、ブリッジが真っ暗になると、スポットライトが点灯し、艦長席にプロスペクターと ゴートが現れた。

「そのエスカレートが困るんですなぁ」

「貴様ーーーーっ!!!」

「やがて2人が結婚すればお金掛かりますよね? 更に子供でも産まれたら大変です、ナデシコは保育園ではありませんので……はい」

「黙れ黙れー! いいか!? 宇宙は広い! 恋愛も自由だ! それがお手て繋いでだと? それじゃ女房の尻の下の方がマシだー!!」

 女房から逃げられると思ってナデシコに来たウリバタケだったが、この契約では意味が無かった。

「とは言えサインした以上……」

「うるせー! これが見えねぇか!」

「この契約書も見てください」

 そう言い、ウリバタケやリョーコ達がプロスペクターに銃口を向けるが、プロスペクターも契約書を盾にする。

「あ〜ん〜た〜ら〜……」

 その時、地獄の底から響くような低い声がして、扉が開く。すると、鬼のような形相でエリスが、ズダボロの整備班を引き摺って入って来た。

「エ、エリス様!?」

 ガシャン、と銃を落とし、ウリバタケは怯えた表情でエリスを見上げる。

「人が不眠不休で機体整備とかしてたってのに……こんな所でサボって何してんのかしら〜?」

「あ、い、いや、それは……に、人間の尊厳の主張を!」

「あ〜? 何ですって?」

「で、ですから艦内の恋愛の自由を……」

「仕事は〜? 私、睡眠不足ですんごい情緒不安定なんだけど〜……」

 鬼も裸足で逃げ出しかねないエリスの放つプレッシャーに、ブリッジ全員が何も言えなくなってしまう。

「ちょ、ちょっとシン! 何とかしないよ!」

 小声でルナマリアがシンの腕を掴んで言うが、シンは一年前、彼女の弟を怒らしてボコボコにされた時の事を思い出し、足が竦んでしまった。

「無理……下手に刺激したら殺される」

 多分、ゴリラがメリケンサック使っても勝てない、と思ってしまうシン。

「ウリバタケ……」

「ひゃい!!」

「私が早く眠れるのと、艦内の恋愛改革……どっちが大事?」

「エリス様の睡眠です!!」

「じゃあ、仕事しろや!!!」

 ちなみに整備班の殆どはエリスがボコボコにした為、作業はもっと遅れる事になる。

 と、その時、今まで微々たるものだった敵の攻撃から一転し、強烈なビームが放たれ、艦全体が激しく揺れた。

「きゃあ!?」

「な、何だぁ!?」

 尻餅を突きながら叫ぶウリバタケ。

「効いています。この攻撃……今までと違う、迎撃が必要です」

 モニターを見ると、火星の前に大量の木星蜥蜴の戦艦が集まっており、先程と同じ威力の攻撃を一斉に撃って来て、再び艦が揺れた。

「むき〜〜!! 人の睡眠を邪魔するのは誰じゃ〜〜!!!?」

「エ、エリスさん、暴れないで!」

「どうどう!」

 モニターに向かって突っ込もうとするエリスをシンとルナマリアの二人がかりで押さえ込む。

「皆さん、聞いてください! 契約書に付いてのご不満は分かります、けれど今はその時じゃありません。戦いに勝たなきゃ、戦いに勝たなきゃまたお葬式ばっ かり……私、嫌です! どうせなら葬式より結婚式やりた〜い!!!」

 ユリカの叫びで、とりあえずその場は終了し、エステバリス隊が発進されるのだった。







 〜後書き談話室〜

ルリ「リョーコさん、もしかしてシンさんに……」

エリス「ふ、ルナマリアもウカウカしてらんないわね」

ルリ「リョーコさんもルナマリアさんも素直じゃない、という点では共通してますね」

エリス「確かに。そしてシンはお子様というか鈍感というか……」

ルリ「そういえばエリスさん、デスティニーとグリード、どうなるんです? パワーアップでもするんですか?」

エリス「そうね〜……考え中。でも、今のままじゃ機体が耐え切れずボン、ね。だから日夜、機体の耐久度上げてシミュレートしてみたり、新型の設計図考えた りで寝不足なのよ」

ルリ「意外と仕事してるんですね」

エリス「当然よ! あ、ちなみにウリちゃん達へのお仕置きは忘れないよ」

ルリ「程々に……」

エリス「ふふふ……乙女のお肌を荒らした罪は重いのよ! の〜っほっほっほ!!」

ルリ「バカばっか……」

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