第四次月攻略戦。

 月の傍で地球と木星の艦隊の放つ閃光が飛び交う。今まで劣勢だった地球側ではあったが、現在、戦況は五分五分にまでなっていた。その時、旗艦グラジオラ スのオペレーターが艦長に報告する。

「チューリップに重力波反応確認!」

「何っ!?」

 サングラスをかけたグラジオラス艦長は、その奥の目を細める。戦力が五分の今、彼らが最も恐れるのはチューリップからの増援だ。モニターに映るチュー リップの花弁がゆっくりと開き始める。

「ヤンマサイズ以上の戦艦、来ます!」

「来るなら来い……いざとなればグラジオラスをぶつけるまでだ!」

 背水の陣でチューリップを睨み付ける艦長。

「重力波、更に増大!」

 するとチューリップは完全に開き、その中から巨大な影が現れる。誰もが固唾を呑んでモニターを凝視するが、途端、唖然となる。チューリップから出て来た のは、誰もが知っている白亜の巨艦だった。

「まさか、あれは……」

 戦艦はチューリップから出ると同時に、背後の木星艦隊を破壊していった。グラジオラスのクルーは、思わずその戦艦の名を叫んだ。

「「「「ナデシコぉ!?」」」」



機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜 IN ナデシコ

PHASE−11 コスモスから来た男





「ふむ……」

 エリスはコキコキと肩を鳴らすと、重苦しい扉を開ける。

「寒〜……何で、よりにもよって冷凍庫なのよ……」

 薄暗い食堂では、ホウメイを始め、ホウメイガールズが眠っている。体が冷え切っているので、ポットからお湯を注いで飲みながら、席につく。

「(ふ〜む……私らがこの世界に来た理由は何となく分かったけど……つまり帰ろうと思えば、いつでも帰れる訳ね。冷凍庫にいたのは……まぁコールドスリー プが長かったからかな。と、なるとイメージも重要になる訳だし……でも、何でこの世界、イメージしちゃったかな〜?)」

 天井を見上げながら物思いに耽るエリス。恐らく火星で見たアレだろうと考えていると、突然、ピピッという電子音が鳴った。ポケットから、コンパクトサイ ズの通信機を取り出し、パカッと蓋を開くと、マリューの顔が映った。

<エリスさん! 良かった、繋がった!>

「ラミアス艦長。どうしたの?」

<どうしの、じゃないわ! 八ヶ月も音信不通だなんて……>

「はぁ?」

 火星へ行くのに二ヶ月ぐらいかかったが、八ヶ月と聞いてエリスは眉を顰める。

<火星でナデシコが行方不明になって、もう八ヶ月も経ってるのよ!>

「ん〜……まぁ、その事は後で説明するわ。それより、今、どういう状況?」




 とある公園でマリューは、通信機でエリスと会話している。

「私とミリアリアさんはネルガルの社員になる事は成功したわ。戸籍とかは、エリスさんに教えて貰った方法で偽造……何だか自分が、悪人になっていくようで 良心が痛いわ」

 自分で言っていて悲しくなったマリューは、ズキズキと痛む胸を押さえる。基本的に人のいいマリューは、エリスの悪事に対して酷く葛藤していたりする。

<世の中、真っ当な人間ほど損するのよ。騙して蹴落とせば、良い思いできるけど、落ちる時は何処までも落ちる。正にハイリスク、ハイリターンね>

 とても小説の主人公の台詞じゃないと思えるような事を言い放つエリスに、マリューは笑顔を引き攣らせる。けど、事実っぽくて言い返せない。

<で? ネルガルについて何か分かったの?>

「そうね……どうやらネルガルは地球軍と手を結んだの>

<仲直りしたっての?>

「ええ。それと、ナデシコ級二番艦“コスモス”が建造されて、今も月ドックで同四番艦“シャクヤク”が建造中よ」

<ふむ……どうやら八ヶ月の間に、ネルガルは地球軍に対して随分と気前良いみたいね>

「そうね……それと、もう一つ。気になる事があるの」

<気になる事?>

「ええ……一応、調べてるんだけど、どうやらネルガルでは遺伝子を操作して、優秀な人材を人工的に生み出してる機関があるようなの」

<はぁ? 何それ? ネルガル版コーディネイター?>

 こっちの世界って技術が進んでいるのか遅れているのか、と、エリスは眉を寄せた。

「もっとも、何処でどんな風にしているのか私達じゃ調べれなかったわ」

<ん〜……分かったわ。じゃあ、そのまま調べてみて。ただし、無理して危険な目に遭わないように>

「分かってるわ。あ、そういえばシン君とルナマリアさんは?」

 あの二人の事だし、エリスも付いているから無事だと思うが、やはり艦長として気になるマリュー。エリスは、その質問に対し、フッと乾いた笑みを浮かべる と、通信を切った。

「え? ちょ、エリスさん!? あの二人、どうしたの!? ねぇ! ちょっと〜!!」





「まさか、修羅場真っ只中、なんて言えないわよね〜」

 通信機をポケットに入れると、エリスは食堂から出て行く。

<エリスさん>

「わきゃ!?」

 すると、いきなりウインドウにルリの顔が現れて、思わず飛び跳ねるエリス。

「わ、私を驚かすなんて……やるわね」

<エリスさん、起きてたんですね。皆さん、グッスリスヤスヤぴ〜ひょろろ〜なのに……>

「ふ……私をそこらの常人と一緒にしないでくれる?」

<はい。エリスさんの思考は、艦長以上に分析不能で、常人には理解できない、何かもうイッちゃってる領域に達してます>

「おほほ。誉め言葉として受け取っておくわ」

 とても、素敵な笑顔だが、随分と怒っている様子のエリス。

<それにしても外じゃ大変ですよ。戦闘が始まってて>

「戦闘? ちょっと見せてくれる?」

 そう言われ、ルリはコミュニケで外の戦いの様子を映している。それから発せられるエリスの一言。

「うん。後ろに木星の艦隊がベッタリついてるわね」

<とりあえず皆さん、起こしちゃいます?>

「それも良いけど、私が出てバッタとか片付けるわ」

<え? エリスさんが戦うんですか?>

 意外そうな表情を浮かべるルリに、エリスはムフフ、と笑う。

「良いでしょう。私の戦闘技術を見せちゃります。とっとと、皆を起こして私の“華麗”な戦いを“カレー”でも食べながら見ていなさい」

<エリスさん……イズミさんレベルです>

 プツン。

 強烈な捨て台詞を残して一旦、通信を切るルリ。エリスは、何故か艦内で寒い風を感じた。きっと動力を極力、落としているからだろうと思いつつ、格納庫へ 向かう。

「最近の若い子には受けないのかしらね……」




<起きてください、皆さ〜ん。お〜い、やっほ〜。皆さ〜ん>

 暢気な声が聞こえるが、意識がまだ重い。ユリカは瞼を動かすも、未だに覚醒しない。

<気が付いたら、ただちに自分の持ち場に非常警戒態勢。艦長〜。艦長、艦長〜>

「ん……」

 そこで、ユリカはゆっくりと目を覚ます。

<(ベ〜)>

「わきゃあ!?」

 思わずユリカは飛び跳ねた。目の前には、幾つものウインドウで、あきれ果てた様子のルリが頬と目を引っ張り、アッカンベーしていたのだ。ユリカが完全に 目を覚ましたので、ルリは、ウインドウを一つに戻すと、状況を説明する。

<通常空間に戻りました。艦長、何でそこにいるんです?」

「え……あぁ」

 ふと自分がいる場所に気が付く。緑の芝生に青い空。ナデシコで、そんな空間は一つしかない。展望室だ。と、そこでユリカは自分以外に展望室にいる事に気 付いた。

「えぇ!?」

 自分の隣では、何故かアキトとイネスが寄り添いあい、手を握り合って熟睡していた。

「駄目ぇ!」

「んあ?」

 思わずアキトの体を引っ張って、イネスから離すユリカ。アキトも、少しばかり目を覚ました。

<艦長>

「え、あはは。外の様子見せて」

 ルリに呼ばれ、恥ずかしそうに顔を赤くし、頬を押さえながら、ユリカが指示を出す。

<はい。展望室のスクリーンに状況を投影>

「えぇ!?」

 青空が消えると、真っ暗な宇宙空間の映像が映る。そこでは、あちこちで火花が飛び散り、バッタの群れが縦横無尽に飛び回っていた。

<現在月付近。蜥蜴の真っ只中>

「グラビティブラスト広域放射! 直後にフィールド張って後退!」

<必要ないと思いますけど……>

「ふぇ?」

 そうルリが言うと、ユリカは再びスクリーンを見る。すると、あちこちでバッタが殲滅されていってるので目を凝らすと、エメラルドグリーンの機体――グ リードが、次々とバッタをビームランスで切り刻んでいっていた。

「えぇ!? だ、誰が出てるの!?」

<エリスさんです>

「(強……)」

 陽電子フィールドで敵の攻撃を防ぎ、ビームランスで撃墜する。が、何よりも凄いのは、その反応速度であった。シンも凄いと思ったが、エリスはそれ以上 に、相手が背後につくと瞬時に倒している。まるで、何処に何が来るのか分かっているかのような戦い方だった。

<現在、敵の戦力の二割までが殲滅されて……あ、三割に上がりました>

「フィールド最大にして戦線を離脱して。私もすぐブリッジへ行くから!」

<了解>




 見るのではなく、感じるのではなく、ただ理解する。それで十分だった。相手の動きを全て理解し、行動を先読みする。有人兵器であれば感じて戦う事が出来 るが、無人兵器の場合は相手を感じる事が出来ない。故に理解する。全ての動きを把握すれば、相手がどう攻撃するのか分かる。今までの戦闘で、自分がどう動 けば、敵がどう動くか全て理解していた。プログラムによって制御された敵は、正確すぎる故に先読みし易い。

「(伊達に無人兵器制御してた訳じゃないわよ)」

 コロニーの動力源と接続し、プログラムによって制御された兵器を操っていた彼女には、無人兵器など玩具にも等しい。

「にしても……ビームが使えないってのは面倒ね〜」

 いちいち一つずつ接近戦で戦うのは、かなり面倒で、手間がかかる。

「(機体にかかる負荷も結構なもんだし……やっぱり、大幅に改良するしかないか)」

 最高の技術で造られたデスティニーやグリードを改良するのは、かなり難しいが、エリスは敵を倒しながらも、設計図を頭の中で描いていった。




「……反則的な強さだな」

 ナデシコのブリッジでは、皆が目を覚まして、それぞれの持ち場についていた。そして現在、モニターで戦うエリスの姿を見て、ゴートの一言。皆、彼と同じ 気持ちだった。ルリに次いで、この艦では年少の少女が、数多のバッタに対して、鬼神のような強さを見せていた。

「敵戦力五割までが消滅」

「あ、戦艦も落としてる……」

 ルリが敵の戦力を報告し、ミナトが閃光に消える敵の戦艦を見て呟いた。

「(本当……レンさんもだけど滅茶苦茶な強さね)」

 彼女らの前では、コーディネイターですら霞んでしまう。コーディネイター以上の能力を持ち、ナチュラルと同じ生殖能力があり、そして、人間の感覚を超え ている。本当、自分達と違う種族なんだとルナマリアは思ってしまう。

「それにしてもユリカ、何で展望室になんていたんだい?」

「う〜ん……それが分かんないの。ねぇ、アキト知ってる?」

 ジュンに尋ねられ、ユリカは首を傾げると、現在、エステバリスで待機しているアキトに問いかける。

<え!?>

<知りたいな知りたいな〜>

 ヒカルまで現れ、アキトを茶化し始める。

<お、おぉい!?>

「私も知りたいです!」

 更にメグミも不機嫌そうな様子で加わる。

<ちょ、メグミちゃん!?>

「非常事態に展望室……不謹慎です! まぁイネスさんがいたから、過ちは無いにしても……」

「「過ち?」」

 ルリとミナトに声を揃えて問い返され、メグミはハッとなって口を押さえる。

<そ、そーだよ! イネスさんだよ! こういう時こそ、あの説明好きが現れてくれても良い筈だろ〜! イネスさ〜ん!>

 ちなみにイネスは現在、展望室で睡眠中である。『しばらくお待ちください』というウインドウが出て、アキトはうろたえる。

<え? あ、あの、ちょっと……>

「「<じろ〜?>」」

 侮蔑するようにアキトを見る三人の女性。

<おい、シン。止めないのか?>

<自業自得だよ、こんなの>

 シンとリョーコは、止める気など更々無かった。

「敵、第二陣来ますけど……皆さん、出撃します?」

<な〜んか、エリスちゃんが全部、片付けそうな勢いだもんね〜>




「やれやれ……面倒ね、マジで」

 エリスはニヤッと笑みを浮かべると、突然、顔を俯かせてブツブツと何かを呟き始める。

「あれは敵……敵、そう敵……私達を殺そうとする敵は排除……良いわ、幾らも来なさい……殺して上げるから」

 ククク、と低い笑い声をコックピットに響かせ、顔を上げると彼女は冷笑を浮かべて、敵の群れへと突っ込んで行った。




「本艦はフィールドを維持しつつそのままで。グラビティブラストのチャージも忘れずに!」

「「了解」」

 ユリカの声にルリとミナトが同時に応える。モニターには、エリスの援護に向かわせたエステバリス隊とデスティニーがある。

「(それにしても、私……何であんな所にいたんだろう? 確かに、ちゃんとブリッジにいた筈なのに……)」

 ナデシコがチューリップに進入してからというもの、自分は確かに此処を離れなかった筈なのに、目覚めたら展望室にいる。ユリカにはチンプンカンプンだっ たが、唐突に彼女は瞳を潤ませて、

「でも……どうせならアキトと二人っきりで……」

<あの〜艦長? ちょっとお話しが……>

「ひゃ!? な、何でもありません!!」

 戦闘中に下らない妄想をしていると、途端にプロスペクターの顔が真横に現れ、思わず怒鳴る。唖然となるプロスペクターに、ユリカはハッとなって顔を赤く した。それに苦笑しながら、プロスペクターは用件を伝える。

<はは……本社がお話したいと>

「へ?」

<ですから、本社が艦長とお話したいと申しておりまして……>

「しゃ……?」




「貰ったぁ!」

 バッタの群れに突撃をかますヒカル。

「え〜っ!? 10機中3機だけぇ!?」

 が、思った以上に倒せなかったので声を上げる。

<バッタ君もフィールドが強化されているみたいね……>

「進化するメカぁ? 他にも再生とかしたら面白いのに。あと増殖も」

 ライフルを連射しながら、そうイズミが言うと、バッタを拳でぶっ倒していくリョーコが意気揚々と言った。

<上等じゃねえか……ど突き合いだったらこっちのもんだ!!>

<俺は余り関係ないけど……>

 どうせビームは効かないから、アロンダイトビームソードとパルマ・フィオキーナでバッタを撃墜していくシン。

<そういえばテンカワの野郎は?>

<さぁ……姿見えないな>




「さぁさぁさぁ! 害虫は駆除されちゃいましょうね〜!!」

 瞳孔開き気味で笑みを浮かべ、バッタを一瞬で五機破壊するエリス。その時、彼女の頭にキィンと何かが流れ込んで来たので、ピタッと動きを止めた。

「何、コレ? 恐怖? …………アキトか」

 チラッとその感じが流れて来た方を見ると、アキトのワインレッドのエステバリスがあった。アキトのエステバリスは、フィールドが強化されたバッタに対 し、ライフルで無駄弾を撃つばかりだった。

「お〜い、そんな事しても無駄よ〜?」

<はぁはぁはぁ!!>

 通信を繋いで注意すると、アキトは息を荒げていた。

「…………発情期?」

<んな訳ないでしょうが!!>

 思わずシンがツッコミを入れる。

<おい、テンカワ! どうしたんだ!?>

「駄目ね。恐怖で体が硬直してるわ……どうやら、提督の死を目の当たりにして、今まで感じなかった死の恐怖がリアルに感じるようになったんでしょ」

 パイロットになる者では、ごく当たり前に起こる現象である。死に最も近い位置にいて、死という文字が背後に大きく現れた時、酷く心情が不安定になり、体 が動かなくなる。

「ま、早い話が足手まといで早死にする訳ね」

 バッタに囲まれ、体当たりを喰らい続けるアキトのエステバリスを見て、エリスはかなり辛辣な言葉をぶつける。

「やれやれ……世話のかかる坊やなんだから」

 ハァと溜息を零すと、エリスはグリードの背中に搭載されてるアマノイワトを射出し、アキトのエステバリスの周りを取り囲ませ、陽電子リフレクターを張っ てガードさせる。

 その間に、彼を取り囲んでいたバッタ達に突っ込み、ビームランスで次々と薙ぎ払っていった。

「お〜い、大丈夫〜?」

 陽電子リフレクターを離し、アキトのエステバリスの傍へ行くと、突如、彼女らの前に別の機体が現れた。

<下がりたまえ>

「あん?」

 それは、今まで見たことの無いタイプの青いエステバリスで、アキトのエステバリスを抱えている。

<此処は危ない。全員、下がりたまえ>

「誰、あんた?」

 そうエリスが尋ねると、突如、目の前をグラビティブラストの雨が吹き荒れた。

<な……!?>




「敵、更に二割方消滅」

「うっそ〜!?」

 目の前の光景にミナトが声を上げ、ゴートが思わず立ち上がった。

「第二波感知」

 更に飛んで来るグラビティブラストの雨は、木星の艦隊を次々と消滅させていく。

「凄い……」

「多連装のグラビティブラスト……」

「えぇ!? それじゃあ……」

 するとモニターに“NERGAL ND−002 COSMOS”と刻印の刻まれたナデシコよりも遥かに巨大な戦艦が映り、先端からグラビティブラストを 一斉掃射した。




「ぷはぁ!」

「「「「「お疲れ様です!! エリス様!!!」」」」

 ナデシコの格納庫に戻り、エリスがメットを取ると、ウリバタケを初めとする整備班一同が整列して敬礼する。ちなみにアキトのエステバリスは、謎の青いエ ステバリスに連れられて収容された。

「ありがと。私の活躍、見てくれた?」

「はい!!」

「サイコーっす!!」

「エリス様、何処までもお供します!!!」

「ジーク、エリス!!」

「…………何処の宗教団体だ、アレ?」

 何かもう整備班の心を掴んだというか、洗脳完了しちゃってるエリスに、リョーコが表情を引き攣らせながら呟くと、シンも苦笑いを浮かべている。

 その時、青いエステバリスのコックピットが開き、中から長髪の男性が現れる。

「俺はアカツキ・ナガレ。コスモスから来た男さ」

「敢えて言うわ……カス、であると」

「「「「ジーク、エリス! ジーク、エリス! ジーク、エリス!」」」」

「なぁシン。何でエリスってあんな強いのに自分で戦わねぇんだ?」

「面倒くさいからじゃないか?」

「リョーコったらシン君と話してばっかり。ルナちゃん、怒るよ〜?」

「フフ……アプローチは積極的に……ブローチは胸に……ぷっ」

「テ、テメーらぁぁぁ!!!」

「(あの三人、いつも仲良いな……)」

「…………俺はアカツキ・ナガレ。コスモスから来た男さ……ねぇ、聞いてる? 聞いてないよね? 聞けよ、おい」

 歯まで光らせたのに、誰も聞いていない格納庫に、男性――アカツキ・ナガレは一抹の寂しさを感じたのであった。




 その後、ナデシコは“ナデシコ級二番艦コスモス”に収容され、修理・補給を受ける事になった。その間、ブリッジでは、ようやく目を覚ましたイネスによる 説明が行われていた。

「チューリップを通りぬけると瞬間移動する、とは限らないようね。少なくとも火星での戦いから地球時間で8ヶ月が経過しているのは事実。ちなみにその間に ネルガルと連合軍は和解し、新しい戦艦を作って月面を奪還。で、私の見解では……」

「まぁまぁ、それはまたの話で」

 長くなりそうなので、プロスペクターはそこでイネスの説明を終わらせる。

「でネルガル本社としましては連合軍との共同戦線をとる、という事になってまして……ねぇ、艦長?」

 どうやら本社からの話というのは、その事のようで拒否すれば、連合艦隊がナデシコを襲うという脅迫であった。ユリカは言いにくそうに、ネルガルからの辞 令を伝える。

「あ、はい……それにともないナデシコは地球連合海軍、極東方面に編入されます」

「「「「えぇ!!?」」」」

 当然、今まで一般人だったクルーは驚愕の声を上げる。

「私達に軍人になれ、って言うの?」

 ミナトが代表して皆の総意を尋ねると、いつの間にかクルーの中に混じっていたアカツキが答えた。

「そうじゃないよ、ただ一時的に協力するだけ」

「誰、アンタ?」

「アカツキ・ナガレ、助っ人さ。まぁ、さしずめ、自由の旗に集った宇宙をさすらう海賊、のようなものかな」

「「ぶっ!!」」

「あはははははは!!!!!」

 その言葉に思わずシンとルナマリアは噴き出し、エリスが大笑いし出した。

「ど、どうしたの、三人とも?」

「い、いえ……何でもありません」

「海賊……あんなに連中を批判した俺が海賊……」

「シ、シン、落ち着いて! 例えよ例え! 何も本当に海賊になる訳じゃないんだから!」

 膝を抱えてブツブツと言い始めるシンをルナマリアが慌てて宥めた。

「あぁ〜……お腹がよじれる〜」






「はっくしゅん!!」

 火星へと向かうカムイのブリッジで、唐突にリサがクシャミをした。

「艦長、風邪?」

 艦長席の斜め後ろの通信席に座るメイリンが尋ねると、リサは首を横に振った。

「いえ……何だか誰かが海賊を馬鹿にしたような気がしただけです」

「何? その具体的な感じ方?」

「さぁ……? それにしても月まではすぐなのに、火星までは結構、時間かかるんですね……」

「そうだね……あ、でもレンさんは不眠不休で改良したMSの点検とかしてるわよ」

「あの兄さんも頑張ってるようですし……艦長として私もしっかりしないといけませんねっ」

 グッと拳に力を込めて決意を新たにするリサ。

「お〜い、交代の時間だぞ〜」

 と、その時、キラ、アスラン、ムウが入って来て言うと、ズルッとエリスは艦長席から滑り落ちるのだった。




「ま、君のような人には無骨な軍隊は似合わないんだけどねぇ」

 図々しくもミナトの手を握りながら、アカツキは気障ったらしく言うが、彼女はその手を払いのけて尋ねる。

「火星は?」

「そ、そうだよ……火星は……火星は諦めるんスか?」

 随分と弱気な声でアキトが尋ねると、プロスペクターは現実的に言った。

「もう一度乗りこんで勝てます?」

 何かを言いかけようとしたアキトを遮り、プロスペクターは言い切った。

「勝てなくても、何度でもぶつかるなどという事に何の価値もありませんし、当社としても、そのような損害は負いかねます」

「う〜ん……やっぱ商人は現実的で良いわね〜。感情論を否定するつもりは無いけど、戦争において感情論は邪魔なだけだものね」

 もっとも、それで割り切れないのが人間であり、人間たる所以でもある。エリスはウンウンと頷きつつ、プロスペクターに同意する。

「戦略的に見れば、連合軍と手を組むのは妥当かもしれない……でも!!」

「俺たちゃ戦争屋、ってか?」

 軍と手を結ぶ事に抵抗のあるジュンとウリバタケにアカツキはあっけらかんと言った。

「それが嫌なら降りれば良いんじゃないの? 給料貰ってさ」

「ふ〜ん……」

「何かな?」

 ジ〜っとエリスに見つめられ、アカツキは人を食った笑みを浮かべながら返す。

「別に軍に入る事に反対するつもりは無いけど〜……何でこのメンバーなのかな?」

「ん?」

「だって、このクルーって能力は一流だけど人格に若干の問題ありじゃない? それじゃあ軍として機能するとは到底、思えない。なら、ナデシコに正規の軍人 を乗せるべきじゃないかしら?」

「…………何が言いたいのかな、バーサーカーのお嬢さん?」

 僅かに声を低くしてアカツキが問うと、エリスは逆にニコッと輝かんばかりの微笑を浮かべた。

「ネルガルには軍人には知られたくない目的がある。で、それを達成するには、木星蜥蜴が邪魔、かしら?」

「君が知る必要は無いと思うよ。過ぎた好奇心は身を滅ぼすと知っているかい?」

「ええ、勿論。どうやって私を滅ぼせるのか楽しみだけど〜」

 互いに笑顔だが、かなり腹の探り合いをしているエリスとアカツキ。が、シンとルナマリアからすれば、エリスの掌でアカツキが踊っているようにしか見えな い。ぶっちゃけ彼女と駆け引きするなんて無駄としか言いようが無い。

「あ、それと私は自分で自分をコントロール出来るから。バーサーカーは、違うかな……そうね、どっちかって言うと“魔性の女”かしら?」

 普通、そういう事は自分で言わないと思うが、その名に相応しいような冷たい笑みを浮かべ、ブリッジから出て行った。




「ちきしょ〜〜〜!!!」

 彼――ダイゴウジ・ガイ(本名:ヤマダ・ジロウ)はミイラみたいに体中を包帯で巻かれながら医務室で叫んだ。

「新しいパイロットだと〜!? このダイゴウジ・ガイ様を差し置いて〜!!!」

「何、騒いでんの? 此処、医務室よ?」

「おぉ! お嬢ちゃん、見舞いに来てくれたのか!?」

 と、そこへエリスがやって来て、ガイは自分を心配してくれてると思った彼女にパァッと表情を輝かせる。

「は? 何で私がそんな非効率的な事をしなくちゃならないのよ?」

「ふ、隠さなくても良いぜ、ナナコちゃん。俺には全て分かってる」

「誰がナナコ?」

「だが、すまねぇ……俺にはアクアマリンがぐぼぉっ!!」

 勝手な事をほざいて一人の世界に飛び立つガイの鳩尾に、思いっ切り拳を叩き込むエリス。ガイの大柄な体が、一瞬、くの字に曲がる。

「お、お前……怪我人に対して、それはねぇだろ……」

「ねぇガイ……アンタ、正義のヒーローに憧れてるのよね?」

「違う! 俺はこの世に生まれてきた時から正義のヒーローだ!」

「なるほど……確かに、そう思っていれば戦う事に関しては楽よね」

「あん?」

 妙に悟ったような笑みを浮かべながら話すエリスに、ガイは眉を顰める。

「アンタ、暇でしょ? だったら、これでも見てなさい」

 そう言って、エリスはある資料をガイに渡す。

「あんだ、こりゃ?」

「デスティニーとグリードの改良を考えてる間に出来た、新型のエステバリス。パイロットは、アンタよ」

「何!? こ、これは、まさか幻のドラゴンガンガーか!?」

「違うわよ。けど、パイロットいないからアンタにあげるわ。後、ヒーローや英雄なんて言うのは、自分がなろうと思ってなるもんじゃないわよ。自分のした事 を後の人が称えるものよ。もし、ヒーローになりたかったら、行動で示しなさい」

 そう言って出て行こうとするエリスをガイは慌てて引き止めた。

「ちょ、ちょっと待て! 嬢ちゃんは、何でコイツを俺に……?」

「アンタみたいに単純熱血馬鹿は死に易いからね。そんなんなったら、あの坊や、もっと落ち込むし……これ以上、面倒ごと増やさないで欲しいのよ。退院する までには完成させるから……じゃあね」

 そう言い、手を振って出て行くとガイはパラパラと資料を捲る。

「俺の……ドラゴンガンガー! よっしゃあ! 早く怪我治して甘ちゃんな奴らと戦ってやるぜぇ!!」

 叫んで思わず立ち上がると、足を滑らせベッドから落ちた。

 ゴキッ!

「ぎゃああああああああ!!!!!!」

 そのまま治りかけの足が曲がってしまい、更に入院期日の延びたガイであった。




「で? 何で俺までコレ見てるんですか?」

「別に……一人で見るより二人の方が良いだろ」

 ゲキガンガーのビデオを見ながらお茶を啜るシンがアキトに尋ねると、アキトは膝に顔を埋めながら答える。その時、部屋の入り口の方からククク、と小さな 笑い声が聞こえたので、振り返ると、そこにはアカツキが立っていた。

「あぁ!?」

「やぁ、失敬。ドアが開いてたんでね〜」

「アンタ!」

「しっかし大の男二人が、揃ってこんなアニメを見てるとはね〜」

「別に俺は見たくて見てた訳じゃありませんよ。テンカワさんに連れて来られたんです」

 不機嫌そうにお茶を飲みながら答えるシン。

「クックック……」

「笑うぐらいなら見るなよ」

「分からないな〜……」

「分かんないだろうさ、アンタには」

 ゲキガンガーの面白さが、と不貞腐れながら言うアキトに対し、アカツキは冷ややかな口調で言った。

「そういうアニメが好きなら、尚更、ナデシコが軍に入る事は歓迎すべきじゃないかな?」

 軍に入れば、木星蜥蜴と戦い、そして人々からヒーローと賞賛されるだろう。が、アキトは不服そうだ。その問いかけにアキトは激昂して言い返した。

「アンタはどうなんだ!?」

「僕は、ただ戦うのが好きなだけさ。君は感じているんじゃないか? IFSの影響で闘争本能に火がつく事を?」

「戦争だからって……戦争だからって、戦争をするのが嫌なんだ! 戦い以外に生き甲斐や仕事があっちゃいけないんスか!?」

 アカツキを睨み付けるアキト。シンは、冷ややかに二人の成り行きを見守っている。

「…………怖いんだろ。正直に言えよ」

「喧嘩売ってんスか?」

「はぁ……」

 部屋を覗いているユリカとメグミにも気付かず、興奮するアキトに、シンは溜息を零した。

「何もかも救うなんて人間には無理なんですよ」

「「??」」

 ゲキガンガーを見ながらシンが呟くと、アキトとアカツキの視線が彼に向けられる。

「何かを得る為に、何かが犠牲になる……平和だって戦争で死んだ人間の犠牲の上に成り立ってるんですから」

「ほう……君は若いのに、随分と達観しているじゃないか」

「少なくともアンタ達より、戦争の虚しさ知ってますよ」

 そうシンが言った時、警報が鳴り響いた。




「で? 勢い良く出て行った坊やは遭難、と」

 エリスの冷たい声がブリッジに響く。木星蜥蜴の襲撃に、エステバリス隊が発進されたが、アキトのエステバリスがバッタに掴まり、ナデシコの重力波ビーム の範囲から外れて月の裏側にまで飛んで行ってしまった。

「テンカワ機、月の影に入ります。重力波ビーム切断」

「テンカワ機応答して下さい! テンカワ機!」

 メグミがさっきから必死に呼びかけているが、一向に返事は無い。

「だから足手まといって言ったのに」

「やっぱり俺達が出れば良かったかも……」

 現在、デスティニーとグリードは大幅な改良計画が進められており、シンとルナマリアは待機中である。

「遭難か……」

「遭難?」

「そうなんです」

 ユリカが呆然と呟くが、エリスの余りにも下らな過ぎる駄洒落に皆、ズルッとこけてしまった。

<…………やるわね>

「ふ……私を甘く見ないでね」



 ブリッジでは、アキト救出について皆で話し合っていた。

「何とか、自力で戻ってくる事は出来るのか?」

「無理です」

 ゴートの問いにルリが言い放ち、ウリバタケが説明する。

「ナデシコからの重力波ビームが切れるって事は補助バッテリーで飛ぶしかないわけで……5分も飛んで終わりだ」

「遭難した時は一ヶ所で助けを待った方がいいって言うし。彼だってそうしてるよ、きっと」

「うん」

 ミナトが心配そうに顔を俯かせているメグミを慰めるようにして言う。

「こっちから少しでも近づければ、それだけ帰還の可能性大ね」

「しかしナデシコは修理中でして……この状態で出ては格好の的です」

「MS二機も現在、私の指示で改良を始めた所だし、まともに動かせないわよ」

 と、そこでユリカが顔を上げて、アカツキに尋ねた。

「アカツキさん。コスモスにノーマル戦闘機ありますか?」



 コスモスの重力カタパルトの小型シャトルに乗るユリカ。

<燃料は四時間分。危なくなったら、すぐ戻っておいて>

「ありがとう」

<しかし、お迎えとは恐れ入ったな。もう少し頭の切れる人だと思ってたんだがね〜>

 恋する乙女の執念に素直に感服するアカツキ。

「ふふ……今時の艦長ですから。それよりメグちゃん、貴女、戦闘訓練受けてないのに……」

 と、そこでユリカは隣のシャトルに乗っているメグミに言うと、彼女は平然と返した。

<養成所に入る前にパイロット資格取ってます。それに……私だって理由あるし>

「そう……じゃあ、ジュン君。後はよろしく」

<うん……友達だからね>

 友達、と強調して答えるジュン。どうやら彼の中では、色々と踏ん切りが付いているのかも知れない。

 そして、ユリカとメグミのシャトルはアキト救出へと向かった。




「で? 今度は三人仲良く遭難、と」

「そうなんです……ぷっ」

 木星蜥蜴の襲撃に合い、ユリカとメグミの戦闘機からの反応も途絶え、エリスが冷ややかに呟く。それに対し、イズミの一言。二人は、しばし見詰め合うと、 ガシッと手を握り合った。

「おぉ、下らない駄洒落で美しい友情が!」

「バカばっか……」




「「良かった〜」」

 アキトのエステバリスを何とか見つけたユリカとメグミは、使いものにならないシャトルから、彼のエステバリスのコックピットに乗り込んだ。

「合流したのは良いけど、どうやって帰るんだよ? エネルギーは持って八時間だし、その前に酸素が……」

「あ、それなら来る前にエリスちゃんから伝言預かって来たよ」

「え?」

「もし、シャトルが駄目になったら、パーツ切り離して反作用を利用して帰って来いって」

「「あぁ!」」

 そう言われ、アキトとメグミは声を上げ、早速、脚部からのパーツを切り離した。その際に生じた勢いがエステバリスを押していく。

「しかし、これじゃあ酸素は三十分しか持たないな……」

 三人も乗っているから、その分、酸素の減りも早い。

「今の速度でナデシコまでの到達時間は、二時間以上」

「二時間も経ったら、三人とも凍っちゃってますね……」

「よ〜し!」

 アキトは次々とエステバリスのパーツを切り離していく。

「これに非常用のソーラーセイルを広げれば更に加速できるけど………」

 極限まで軽量化し、太陽風を利用すれば、と計算するアキト。

「四十分か……」

「一番下の数字は?」

 計算結果の現在状況では四十分、そして仮定1では三十分、仮定2では二十分と出ていた。

「どうすれば二十分に?」

「一人で乗ってた場合。三十分は二人」

「じゃあ、誰か降りれば早くナデシコに着けるって事ですね」

「それでエネルギー補給をして早く戻れば……」

「アキトさんはパイロットだから残らないと……」

「じゃあ……」

 ジッとユリカとメグミの視線がアキトに集中する。

「え? お、俺が決めるの……じゃあ、ユリカ」

「へ? それって私が重いって事?」

 女として、それは非常に許せない事であるので、ユリカは言葉に僅かに怒気を込める。

「ああ、そうだよ。俺には重いんだよ……だからこそ……」

「私が降ります!!」

 が、そこで唐突にメグミが言い出した。

「駄目、メグちゃん! 確かに私、最近、ご飯が美味しいから重いのよ!!」

「そういう問題じゃないですよ!」

「へ? じゃあ何?」

「それは……」

 目の前で二つの胸が揺れ、男のアキトは自然と顔が赤くなってしまう。その時、アキトはハッとなってシンの言葉を思い出す。

『何かを得る為に、何かが犠牲になる……平和だって戦争で死んだ人間の犠牲の上に成り立ってるんですから』

 すると彼は笑みを浮かべ、ソーラセイルを広げた。

「駄目よ、アキト! 私、まだ降りてない!」

「良いんだよ。三人で行こう。何かを守る為に何かを捨てるなんて軍と同じだ……何とかやってみるさ、根性で」

 やがて宇宙を漂うエステバリスのエネルギーが切れた。

「エネルギー、切れちゃったね」

「ゴメン! コース、ズレてたかも! それとも加速不足……」

 アレだけ意気込んだのに、こんな風になってしまい、アキトは二人に謝る。

「そんな事ない!」

「ないですよ」

「アキトは、ずっと私をピンチから救ってくれた白馬の王子様。今度は私が……」

「ユリカさんにとっては、あくまでも憧れの存在なんですね」

「え?」

 唐突にメグミが辛辣な言葉を投げつけ来た。

「私、アキトさん好きです」

「………何となく分かってた。でも、私にとってもアキトは大事なの」

 目の前で恋敵宣言をされたというのに、ユリカは堂々と言った。

「それはメグミさんと同じ意味かどうか分からないけど……」

 ボーっとユリカを見つめていたアキトにメグミが問い詰める。

「教えて、アキトさんの気持ち! 何故、展望室にいたの!?」

「え?」

「アキト、メグちゃんにキスしたでしょ? アレは?」

「え?」

<私も知りた〜い!!>

<私も>

<じゃあ、私も>

<それなりに〜>

 と、その時、ヒカル、イズミ、ミナト、ルナマリアと通信が開いた。アキト達は驚いて前方を見る。

「コミュニケが届くって事は……」

 目の前には、ナデシコが来ていた。




「まさか、君が助けに行くと言い出すとはね」

 艦長代理のジュンに、扉に背を預けていたアカツキが言うと、彼は笑顔で答えた。

「つまらないんですよ……彼がいないと」

 恋敵はいない方が良いと思ったアカツキだったが、意外に友情を感じているようだった。

<アカツキさん! シン君!>

 と、その時、アキトが通信を開いて来た。

<俺、ナデシコに残ります!>

「や〜っと分かったかい? 君の中に沸々と燃える……」

<何かを得る為に、何かを犠牲にしなくちゃいけないなんて俺は信じない! 俺は地球もナデシコも何もかも守れる男になる!>

「あら〜……」

 何があったのか知らないが、随分と熱血キャラになっているアキトに、アカツキとシンは肩の力が抜けた。

「やれやれ……本当に、そんなのが出来るなら俺が見てみたいですよ」

 シンは苦笑いを浮かべ、そう呟くのだった。












「な〜んて終わって貰ったら困るのよね♪」

「あぁん?」

「ひっ!?」

 今回、ナデシコに配属される事になった新提督、ムネタケ・サダアキの登場にエリスが睨み付けると、彼は思いっ切り怯んだ。

「えぇ〜、今日から我が艦に配属される事になった新しい提督さんです」

「よ、よろしく…………お願いします」

「迷惑かけないように」

「は、はい……」

 何故かエリスに対して卑屈になっているムネタケに、皆、二人の間に何があったのか彼が乗艦する以上に驚いた。

「エリナ・キンジョウ・ウォン……副操舵士として、新たに配属されることになります」

 と、そこへムネタケの隣にいた女性が名乗り出た。

「です……はい」

 が、こちらの女性に対してはプロスペクターは些か歯切れが悪かった。

「ったく……何で会長秘書が乗ってくるの?」








 〜後書き〜

ルリ「エリスさん、良く考えたら初戦闘?」

エリス「ま、私にかかれば木星蜥蜴なんてイチコロよ」

ルリ「ひょっとして最初から戦ってれば、今まで苦労する事も無かったのでは?」

エリス「ジョーカーはなるべく使わないようにするのが定石よ」

ルリ「けど、アカツキさん相手にあんな風に駆け引きしますか、普通?」

エリス「でも彼の心の中、“ボソンジャンプ”って言葉で一杯だったわ〜。あのエリナ女史も分かり易いし〜」

ルリ「本当……ノヴァズヒューマンって迷惑ですね」

エリス「うふ」
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