無限航路−InfiniteSpace−
星海の飛蹟
作者:出之
第11話
ブリーフィングルームは抑制された、適度な戦意と熱気で満たされていた。
招集されたバードはざっと見渡して十数。二十名いるかいないか。
なんだこのガキは、という視線がばしばし突き刺さるのを身体で感じながら、今更、気後れこそないにせよ、その気持ちは判る、場違いではあるよなとユーリは、トスカと二人空いた後席に腰掛ける。
少ししてウェル中佐が兵を一人伴って入場し、壇上に上がる。
「諸君。此の度、我が軍は当星域でのスカーバレル根拠地の確定に成功した。我々はこれを、全力で以て撃滅する」
情報表示面がオン。
「従来より、何れかのベルトがその潜伏拠点ではないかと推定されていたが、見ての通り、ラッツィオ・ヘクトルの後背にあることが今回、判明した。これを両端から迂回し、
“アンブレラ”
“ベクター”
の二手に分かれ侵攻する。挟撃作戦である。
各員の配属、作戦詳細については既に各艦に伝送済みである。6時間後に開封、確認願う。現刻より12時間を以て作戦発動とする。各員の健闘を期待する。以上。解散」
がたがたと椅子が鳴る。
私語も殆ど無く、集められた男女は退室していく。
中佐とは眼が合わなかった。
スカイフックに設営された港湾は軍民半々。
ユーリの乗艦も民港に係留されている。
その民港のカフェで。
子供の使いと思っていたらもう軍に編入されていた。
「けっこう集めたもんだね」
言い置き、トスカは少年艦長を見遣る。
「一抜け、しても誰も咎めないよ」
珍しく、労るようなやわらかい笑みを浮かべ。
「あれだけいれば。あれプラス中央軍なんだから」
「……そんな不安そうな顔、してますか」
ユーリは顔をつねってみる。
「怒らないね」
「怒りませんよ」
ふう。息をつく。
「正直、軍となにか連携出来るのかな、とかは期待もしてましたけど」
ごろんとカウンターに伏せ。
「まさか正規の作戦行動に組み込まれるなんて、思ってませんでしたよ」
「なかったけど?」
面白そうに、トスカ。
びくり。
ユーリは跳ね起きた。
周りをゆっくり見回す。
そしていきなり駆けだした。
「ちょ、何、ユーリ?!」
そらみみ、じゃない。
確かに聞こえた、二度。
「君!」
少女の背中、肩を掴む。
きゃ。
驚いて振り返る、顔。
「なんや、ワレ」
怒気と逡巡を浮かべた青年。
「チェルシーに何の用や!」
チェルシー。
そうだ、この姿を、どこかで見掛けた気がしたんだ。
「チェルシー!!」
云われてみれば、幼少の残影。
それほど希有な名でもない。
彼女は戸惑いと、怯えを交え。
「誰、ですか」
「ユーリだよ。ユリウス・クーラッドだ。覚えはない……ですか」
違った、のか。
当惑、過去の記憶。
その眼が見開かれる。
驚愕、歓喜。
「ユーリ……兄さん?」
「チェルシー、だよね」
「兄さん?!」
「おおっとそこまで」
青年の声が割って入る。
「感動の再会!なるほど、事情は良く判ったわ。でもすまん、今急いでるんや、かんにんや、また後にしてくれんか」
その顔に見覚えがあった。
「貴方、先ほど私の隣に」
おや、という顔つき。
「ああ、ジブンもさっきおったなあ」
とき折り、青年の言葉には妙な訛りが出る。
急ぐ?。
「作戦開始にはまだ余裕があるはずですが」
声を潜めユーリは質す。恐らく軍側の艦艇等、調整時間なのだろう。
青年は額に手をやる。
「あかんわ」
何がだ。
ユーリも焦れてきた。流石に小馬鹿にされているのは判る。何を根拠に。
青年はぽん、と手を叩き。
「判った!連れてったるからジブンも付いて来い!」
……何でそうなる。
「ギリアス・アルデハイムや」
「……ユリウス・クーラッドです」
それでも型通り握手など交わす二人だった。
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