無限航路−InfiniteSpace−
星海の飛蹟
作者:出之



第16話


 大小40以上の銀河により形成される局部銀河群。
 銀河系並びにこれを軸として約20万光年の位置に小マゼラン雲が、16万光年の位置に大マゼラン雲が位置している。
 その、大マゼランでも最大規模を誇るのがロンディバルト連邦国である。
 ENRはロンディバルト大統領直轄の情報機関であり、大統領からの特命及びその周辺活動を任務としている。公的な機関でありその成果もまた国民の財産であるので、所定の手続きを踏みさえすれば誰でもアクセス可能である建前ではあるのだが、活動内容そのものは極秘であり、現職大統領の専管事項となっている。
 必要な情報というものは、軍事力の行使などと同様、その運用並びに発動は即時的なものだが、事前の入念な準備を要する。特段命を受けずとも日頃日常的に諜報、そして防諜と機関が精進していることは言うまでも無い。予備、或いは基本の活動である。
 二部三課は星系外、大マゼラン外部での基礎的な諜報活動に従事している。
 外部。具体的には小マゼランの事だが。
 中でも一係は花形とも言える、対海賊対策を職務としている。しばしば広域宇宙警察とも管轄争議が発生するが、殊、星系外では彼等も弱体であり、主導権は概ねENRにあるのが実情であったりする。
 係長のバイロン・レネースは自室で、その最新レポートに眼を通していた。

「スカーバレルなる海賊増進顕著なるもリソース不明……」

 レネースは軽く額を押さえた。

 リソース不明、ね。

 勢力が拡大するからには何等かの要因が存在する。

 指導者が有能。弱敵。リソースが豊富。

 そして、リソースが豊富であれば、そのままに勢力は増大する。当然の事だ。

 これはどう評価すべきか。

 最悪想定からいこうか。
 小マゼランが我が方への侵攻を企図し、欺瞞されている。

 有り得ない。
 今の小に我々を喰う意思も能力も無い。その様な情報は皆無だ。

 つまり。これは字義通り『リソース不明』
 我が方が現在評価、解析し把握している以上の何かがそのスカーバレルには存在している、即ち、小マゼに「外部」から何等かの干渉がなされている。
 素直にこう読むべきか。

 拙速に過ぎるか。レネースは自嘲する。

 「外部」とは何か。

 無論、大小マゼラン以外からの干渉だ。
 これは典型的な間接アプローチだ。
 まず小を弱らせ喰い、余力を以て我々に襲いかかる。

「……我ながら習い性だな」
 敵を規定し常に防衛を心掛ける。場合によっては。
 喰われる前に、喰う。
 小を喰った上で「外部」に当たる。

 これは我々の既定事項の再確認に過ぎない。
 もし害敵が存在するなら、防衛に最善を尽くす。
 小がもし滅亡するなら、それは自己責任に過ぎない。

 侵入を赦したこと。
 それを殲滅出来ずにいること。

 レネースはレポを纏め終えた。



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