Fate/stay nitro 第弐話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

「って、本当なのそれ!?」

 

イリアはキャルの手を握ったまま訊き返す。

その表情は、信じられないというイリアの内心を雄弁に物語っていた。

 

「―――簡単に言うと冬木の町だっけか?

 あそこでの第六回『聖杯戦争』が開始されることになってる。

 まあ、経緯が経緯だけに、真っ当なものじゃないけどね。

 じゃ無きゃ、あたしがこうして一人で呼ばれるはずがないしね」

 

イリアの質問にその視線を外さず答えるキャル。

キャルからの答えにイリアはその細い眉を寄せた。

 

「ところで、イリア、このアインツベルンの家は好きかい?」


「え?―――正直あんまり好きじゃない。今しがただって……」

 

唐突なキャルの言葉に戸惑いながらも答えるイリア。

あの衛宮の家の暖かさを知ってしまったイリアにとって、

アインツベルン一族は好意的には捉えられていない。

 

「OK、利害は一致したね。じゃあ消しちまおう」


「え?それって」

 

イリアの言葉は最後まで続けられなかった。

不意に引かれたキャルの手にバランスを崩し、前のめりになるイリア。

その首筋にたたき込まれたキャルの手刀が、イリアの意識を刈り取ったからだ。

崩れるイリアの身体を片腕で支えるキャル。

そしてイリアの身体を軽々と肩に担ぎ上げたキャルは、

アインツベルンの城のある一室を目指し歩きはじめた。


 

 

 

 

 

 


ドォオオオン!!


キャルが部屋に投げ込んだ手榴弾が爆発し、

部屋の中に居た五人の魔術師たちは、その爆炎と衝撃に巻き込まれあっさりと死んだ。

 

気絶したイリアをお付のメイドの二人に預け、

身軽になったキャルはその足で武器庫を襲撃した。

魔術的な武器や防具などには目もくれず、

キャルが手に取ったのは物色中にかけつけた警備員の兵装だった。

次にキャルが襲ったのは警備員の詰め所。

キャルの予想通り、そこには予備の弾丸と爆発物がそれなりに備蓄してあった。

それらを手にしたキャルはアインツベルンの城の中を徘徊し始めた。

―――城に住まうアインツベルン一族を根絶やしにする為に。

イリアの頭から読み取った記憶を元にキャルは歩く。

扉の向こうの気配を探りながら歩き、

気配を感じた部屋の扉は蹴り破り、

構えたアサルトライフルの弾丸を気配の主へとたたき込む。

その一連の動作よりも早く防御の為の術を発動させた魔術師はほとんど居なかった。

極わずか、防御の魔術を発動させた彼らも、

即座に駆け寄ったキャルが振るったアサルトライフルのストックに、

その脳漿を撒き散らし、動かぬ肉塊となった。

何時しか城の中は怒号と警報が鳴り響く戦場となった。

魔術師達が頼る、侵入者の排除をすべき警備員達は真っ先に抹殺されていた。

魔術師達にとって侵入者にあがらう残された方法は、自分たち自身で戦うことだけとなっていた。

部屋の中に徒党を組んで篭り迎撃しようとした者は、

キャルが投げ込んだ手榴弾でいとも簡単に焼き死んだ。

防御用に張った結界も室内で破裂した手榴弾の威力を、半分も打ち消せなかったのだ。

大広間での多人数による待ち伏せは全く意味が無かった。

その場に居た魔術師達のどの攻撃魔術も、

キャルの身体の髪の毛一本すら焦がす事が出来なかったからだ。

大広間を縦横無尽に駆け抜けつつキャルの両手の銃が吼える。

その姿を目で追うだけしか出来ずに一人また一人と倒れて行く魔術師達。

城に居た一人の少女を除く魔術師は、全てキャルによって始末された。

こうしてキャルはアインツベルンの城をたった30分で陥落させた。

それはアインツベルン一族が、1000年の悲願を達成する事無く実質上滅んだ瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次にイリアが妙な熱さで目を覚ました時、

目の前にあったのは炎に包まれるアインツベルンの城だった。

 

「―――うそ…」

 

そう呟くイリアもこれが現実のものだとは理解していた。

かなりの距離を持ってしても時折燃える城から届く熱波はなによりもその証拠だった。

その燃える城を背景に一人の人影が歩いてきていた。

大きな何かを引きずりイリア達の方へと真直ぐ向ってくる。

良く見ると人物はキャルという女性で、が引きずるそれは棺だった。

自重だけでもかなりの重量を持っていそうな棺を、キャルは苦にした風でもなく歩いてくる。

その力強さにイリアも彼女がサーヴァントである事をようやく思い出した。


ドサッ


棺とは別に、肩に担いでいた大きな袋を地面に下ろすキャル。

背を預けていたメイドから起き上がり、キャルをキっと睨みつけるイリア。

 

「よう、お目覚めかい、イリア」

 

キャルはイリヤに陽気な態度で声をかける。

睨みつけるイリアの視線など全く気にした風ではなかった。

 

「―――色々、聞きたい事が在るんだけれど?」


「知ってる事なら答えられるけど、それよりも場所変えない?」

 

半眼で睨みつけるイリア。

アインツベルンの城で確保した一台の車を親指で指し示しつつ、

キャルはにやりと笑って答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、貴方は私のサーヴァント、バーサーカーなのよね?」


「イリアも意外としつこいね。

 あんたの言うとおり、あたしはあんたのサーヴァント。

 クラスはバーサーカー。

 名前はキャル=ディヴェンス。OK?」

 

助手席で訊ねるイリアに、運転席のキャルはハンドルを握りながら答える。

お付のメイドは後部座席だった。

イリアは自分の左手の甲を見ながら、とりあえず納得した。

そこに浮ぶシンプルな文字は令呪以外の何物でも無い。

そして一応キャルとの間にパスみたいなものも感じるからだ。

 

「じゃあ次の質問。

 バーサーカーなのに何で普通に喋れるの?」


「イリア、何時の時代のバーサーカーの話をしてるんだい?

 バーサーカーだから、狂って理性を飛ばすなんて、最近の流行じゃないね。

 最近のバーサーカーは理性的に狂うのさ。

 だから普段はこうして会話もできるし、横断歩道だって青で渡る。

 まあ、あたしの場合一旦ブチ切れたら、

 マスターなんて知ったこっちゃ無いって状態になるけどね」

 

運転しながらのキャルの答えにイリアは沈黙する。

キャルは在る意味、あのヘラクレスのバーサーカーより制御不能だと言っているからだ。

狂化したヘラクレスですらマスターであるイリアの身は守ろうとした。

が、いったん切れたキャルはそれすらやらない、そう言っているからだ。

 

「ねえ、何でアインツベルンの城を燃やしたの?」


「あたしがあいつ等を気に入らなかったから。

 あんたの帰る家は日本あるんだろ?

 じゃあ、別にあたしの気晴らしのひとつとして、

 あの城ぐらい消してしまっても構わないだろ?

 それに鏖にしたのはあそこに居た連中だけだし、

 アインツベルンの一族が全部死んだ訳じゃない。

 そのうちに復興するだろ。

 まあ元のレベルには戻れ無いだろうけどね」

 

クククと笑いながら話すキャルにイリアは彼女がバーサーカーであるとようやく認識した。

キャルは気に入らないという理由だけで人を殺す事に、全く禁忌を感じていない。

そして理性的に狂うとはそういう事なんだとイリアは理解した。

 

「つ、次の質問。

 きちんとした召喚陣も無しにキャルは現界したけど、

 何でそんな事が起こったの?」


「んー、そこはあたしも詳しい事はわかんないんだよね。

 何せ生前は魔術とかは関係無い世界に生きてたからね。

 まあ業の深さは同じくらいだったかもしれないけどね。

 多分だけれど『聖杯』が原因だろうね。

 アレさ、真っ当に機能して無いって知ってた?」

 

在る意味衝撃的なキャルの言葉だったが、イリアには思い当たる節が在った。

第三回目の『聖杯戦争』でアインツベルンが呼び出した規格外の英霊。

それが『聖杯』を汚染していることに、イリアは気が付いていたから。

 

「その顔は何か知ってるって顔だね。

 まあそんな訳で、今までの『聖杯戦争』と、

 今回の『聖杯戦争』は全くの別物だと考えた方が良いね」


「そうなの?」

 

キャルの言葉に当然の様に訊き返すイリア。

 

「そうさ、何せ今回のは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カシャン!


箸を落とす音が衛宮の家の朝食風景に響く。

この家の主人である衛宮士郎が左手に走る痛みに顔をしかめた瞬間、

二人の少女が同時に同時に箸を落としたのだ。

遠坂凛と間桐桜。

同じ穂波学園の制服に身を包んだ少女達は、衛宮士郎と共に朝食を取ることが良くあった。

その二人が同時に箸を落とし、右腕を押さえていた。

左手で押さえる白い制服の袖には徐々に赤い染みが広がって行く。

この事態に対し誰よりも先に口を開いたのは凛だった。

 

「桜、やっぱりあなたも…」

 

凛の言葉に桜は顔を伏せたまま無言で立ち上がり、部屋の外へと駆け出した。

その様子を呆然と見送ってしまった士郎と凛。

 

「士郎、追って!!」


「お、おう」

 

自分の過ちに気が付いた凛は士郎にそう指示を飛ばす。

即座に立ちあがり、桜を追おうとする士郎。

だが出遅れたのは確かな事で、士郎が門をくぐって外へ出たとき、

すでに桜の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「くそッ」

 

士郎はそう一言漏らし、桜の家である間桐の家を目指し走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?士郎たち、どうしたの?」

 

『待て』の状態から『良し』の号令を受けた虎こと藤村大河は、

一心不乱にその胃袋を満たそうとしていた。

が、自分の回りの気配が2つ無くなった事に少し遅れて気が付き、隣に座る凛にそう訊ねたのだ。

 

「ええ、ちょっとありまして…

 って、先生、その左手をどうかしたのですか?」

 

逆に凛に聞き返され、大河は自分の茶碗をしっかりと持っている左手を見る。

 

「あれ?何時の間に…。

 ―――そういえば、何だか痛い気もする」

 

血の雫が垂れる左手の甲を見た大河は、ようやく痛みにも気が付いたようだった。

茶碗を置き、左手をくるくる動かして様子を探る。

大河がテーブルに置いてあったティッシュで手の甲を拭うとそこには一筋の傷跡のようなものが…。

 

「まさか、先生まで…。」

 

その大河の左手に浮んだ傷跡のようなものを見て、凛は愕然としつつそう漏らした。

 

「まあ、そんなに痛むわけでも無いし、朝ご飯が先だよね?」

 

呟く凛を他所に、大河はそう一人で結論を出すと、朝の食事を再開したのだった。

 

 

 

続く


あとがき

とういわけで第弐話でした。

これで五人のマスターが明らかになりました。

まあ、虎の参戦は皆さんの予想の範疇だったかもしれませんが…。

よろしければ、次話もお読みいただければと思います。

ではまた。


感想

くまさんご投稿ありがとうございました。

ぬぅ…アインツベルン崩壊…

フェイトの中では重鎮のくせにキャラがいないという不思議陣営だったのですが…

イリヤのおじいさんも死んだのでしょうね…

でも、イリヤの中には初代が息づいていますしね♪

キャルの狂気見せていただきました♪

さて、マスターも四人出現!(五人目もほぼ決定)

ルートは確かセイバーですよね…

だとすれば桜はこれからですね♪

もしかすると、「弓対正義の味方」もありうるかもしれませんね…

もっとも、枠の内幾つが元のサーバントなのかにもよりますが…

そんな訳で、次回も期待しております♪

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