Fate/stay nitro 第五話
作者 くま
「と言う状況よ。解ったかしら、サクラ?」
「じゃ、じゃあ先輩や遠坂先輩と争わなくても良いんですね?」
エレンの言葉に歓びの色を露にしながら訊き返す桜。
前回の聖杯戦争からの変更点に驚きつつも、喜んでいるのは確かだった。
「とりあえずはそうなるわね。
でも殺し合いになる可能性は否定出来ない。
他の召喚主次第といったところでしょう。
他人を殺してでも、
勝利者の権利を得たい召喚主がいれば、
桜の心構えはどうあれ争いは必然となってしまう。
そして争いになれば、サーヴァントという強力な手札がある以上、
誰も彼も無事というわけには行かない…」
続けられるエレンの言葉に明るかった桜の表情に陰りが混じる。
「それよりも、サクラ、貴方の身辺整理から始めましょう」
そんな桜に対し、エレンは更に言葉を重ねる。
厳しい視線を桜の部屋の扉に向け、何かを決意した様に。
「それってどういう…」
「サクラは何も心配しないでいいわ。
その手の事は私が全て片付けるから。
私がサクラに呼ばれた意義は、そこにあると思うから。
貴方は、この部屋で大人しく待ってなさい」
そう告げたエレンは腰掛けていたベットから立ちあがり、桜の頬を軽く撫でると部屋を出ていった。
桜はエレンの淀みない行動に、声をかけることも出来ずに取り残されてしまう。
ガチャリ
そして、ここ数年は使われていなかった桜の部屋の鍵が外側からかけられる。
驚いた桜は扉に駆け寄りドアノブを回すが、鍵でロックされた扉が開くはずはなかった。
こうして桜はエレンが戻るまでの一時間ほど、自室に閉じ込められる事となったのだった。
大河side
「おう、大河。ガッコーはどうした?」
私が家、えっと衛宮でなく藤村の方に帰ると、
居間でさっきの博士を吊るしているお爺ちゃんからそう聞かれた。
「学校って、『せんそー』でしょ?
相手は何処の組か知らないけれど…。
私を巻き込まないで欲しいって、言っても無駄だから早引けしてきたんだけど?」
私は腰に手をあてて逆にお爺ちゃんに訊き返す。
けどお爺ちゃんは訝しげな顔をするだけだった。
「え、だってその人達、お爺ちゃんが私に付けたボディガードかなんかでしょ?」
「はあ?こいつ等はおめーの客だって聞いたぜ。
あんまり訳のわからねえ事をぬかしやがるんで、ちと礼儀ってヤツを教えてやったが」
ああ、それで博士の方は口から泡を吹いて気絶してるのか。
納得、納得。
じゃなくて、一体どう言うことなんだろう?
そう思った私の視線は自然と残ったもう一人の方へと向けられる。
お爺ちゃんも同じ事を考えたのだろう、居間に正座してるエルザちゃんへ視線を向けた。
「「で、どう言うことか、説明してくれる(みい)」」
と二人して同じ様にエルザちゃんを問い詰める。
「わ、解ったロボよ。でもエルザもあんまり知らないロボよ」
一瞬腰が引けたエルザちゃんだったけど、そう言いながら説明を始めた。
間桐家の地下室にいる一人の老人。
現間桐家の当主、間桐臓硯、その人だった。
再び始まることとなった聖杯戦争に対し思考をまとめていた臓硯は、
己の視界が傾いで行くのを感じていた。
そして己の視線の高さが床とほぼ同じになったところで、
ようやくその身に何が起きたのか理解した。
何者かによって自分は首を落とされたのだと。
意志を失い床に倒れる身体。
切断された首から吹き出る血しぶきにつられ、倒れた身体に群がる蟲。
臓硯の認識する光景だった。
カツン
何か金属製のものが床をたたく音。
その次に見えたのは床一面に走る炎だった。
炎は這いずり回る蟲達と床に倒れた臓硯を燃やし尽くす。
その感覚を最後に臓硯は一端末であるその体から意識を切り離した。
地下室の床一面を舐めていた炎は燃え広がり地下室そのものを焼き尽くした。
残されたのは蟲が燃えて出来た灰と燃えきらなかった蟲の死骸。
そして、地下室の全ての死を確認したエレンは踵を返し、間桐家の一階へと戻って行く。
階上への階段を昇り切り、背後の地下室への扉を閉めたエレン。
その前に立ち塞がったのは小柄な老人の姿だった。
周りには己の眷属の蟲達を従えエレンを取り囲む。
「カカカ、ワシを殺そうなどと」
ズガン!
だが臓硯の言葉は最後まで続かなかった。
エレンが手にしたショットガンのスパスが火を吹き、
数十発の鋼鉄のベアリング弾を臓硯の身体に打ち込んだからだ。
床に倒れた臓硯を庇う様に眷属の蟲達が動き、エレンと臓硯の間に壁を作る。
ズガガガガガガ!!
その壁を突き破って叩き込まれる更なる銃弾。
エレンが吊り下げる様に両手で構えた軽機関銃FNミニミによるものだった。
数百の弾丸は臓硯の身体をその身を覆った蟲ごとミンチに替えて行く。
身体を細切れにされる感覚を最後に、臓硯は再び意識を切り離した。
大河side
エルザちゃんの説明によると私が『ますたー』だかなんだかで、
『せいはいせんそー』ってヤツに参加する事になってるらしい。
そしてエルザちゃん達は『ますたー』のしもべの『さーばんと』ってやつらしい。
いつもは『ますたー』と『さーばんと』で組んで、
他の『ますたー』達と殺し合いをして、
『せいはい』を目指すものだった。
けど、なぜだか今回は方向が違うらしい。
でも何をすれば良いのか、エルザちゃんは知らなかった。
だから、エルザちゃんが博士と呼ぶ人が起きるのを待つ事なった。
でも色々在って(主に私の呼び方についてのオハナシアイ)、
結局、その日は話を聞くことが出来なかったんだけど。
キィィィィィイン
キャノピー越しに伝わってくるのは、
推力変更式のジェットエンジンであるペガサスエンジンが上げる甲高い音。
複座型のコックピットの前側の操縦席では、
パチパチとスイッチのオンオフをしている金髪の女性の姿。
その様子を、不安げに後の操縦席から覗いているのは銀髪の少女。
二人ともパイロットスーツなどは身に付けておらず、
正規のパイロットではないことが見て取れた。
アイツベルンの城を後にした彼女達は一路日本へ向うべく行動を開始した。
二人のメイドに先行する形で日本へと向かう事となった、
マスターのイリアとバーサーカーのキャル。
最も速い足を確保する為、二人はドイツ空軍基地に侵入した。
訓練生とその教官達をイリアの魔眼で操った二人は、
ちょうど用意されていた訓練機であるハリアーに乗り込んだ。
エンジンを始動させた後、前に乗り込んだキャルが
「こっちかな?」とか
「ああ、そういうことか」とか
言いながらスイッチを弄るので、イリアは心底不安を感じていたのだ。
「よし、大体解ったし、そろそろ出発といきますか」
そう告げてくるキャルに、イリアの心中の不安はますます大きくなる。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
不安に耐えきれず疑問を口にするイリア。
キャルは何も言わずエンジンの出力を上げ、機体を上昇させる。
そして一旦ホバリング状態に機体を保ったところでイリアの疑問に答えた。
「大丈夫だよ、イリア」
その確かな機体の機動に伴うキャルの答えに、ホッと胸をなでおろすイリア。
その様子にキャルはハリアーを進行方向へと加速させ始める。
その後続けられた言葉は、イリアの安堵を打ち砕いた。
「トップガンなら、50回は見たからね♪」
「全然大丈夫じゃな――い!!」
コックピットに響くイリアの悲鳴をよそに、
ハリアーは9000キロ強の距離を消化すべく、限界速度で日本へ向け飛び去った。
「はあ、無いものは無いよな」
土蔵の探索終えた士郎は、何の成果も得られなかった事にため息交じりで呟きた。
前回の聖杯戦争の折りに一度は探索した土蔵。
今更ながら新たな発見がある訳ではなかった。
床に封印された鉄扉があり、
そこから繋がる地下室には槍で縫い留められた妖怪がいた。
なんてはずはなく、床には前回彼女を召喚んだと思われる魔方陣が描かれているだけ。
士郎が半日かけて解ったのは、
切嗣が残した魔術的なものが、その床に描かれた魔方陣のみだと言うことだけだった。
「――――」
自然とその魔方陣を見入ってしまっていた士郎は頭を振る。
思い浮かべていた彼女のことをその頭から追い出さんとばかりに。
「士郎、いるー?」
中庭の方から響いて来た最近の馴染みとなった声に、
よっこいしょと腰をあげ土蔵を後にする士郎。
母屋の縁側にはその声の主、遠坂凛が立って居た。
近くまで寄ってきた士郎に凛が口を開く。
「どう?何か解った?」
「あの土蔵には、床に描かれた魔方陣以外何も無い事が解った。
―――そっちは?」
士郎に聞き返された凛は首を横に振るだけだった。
なんとも言えない沈黙が二人の間に生じる。
「ま、無いものは仕方が無いさ。
それよりも、晩御飯、ウチで食べてくだろう?
藤ねえも桜も今日は来れないって留守電がはいっていたから、二人きりになっちまうけど」
「――――――」
その士郎の台詞に、何かを考え込んでしまう凛。
士郎は眉を寄せ、再び凛に声をかける。
「遠坂、晩御飯、どうするんだ?」
「え、あ、ごめん。食べてくわ。
当然、士郎が作ってくれるのよね」
にっこりと笑みを作り凛は士郎に答える。
おう任せとけとばかりに肯く士郎。
そして士郎はよしと気合を入れて勝手口の方に向って行く。
その顔が少し緩んで居たのは、晩御飯を一人で食べ無くて済む事に少し安堵したからだ。
前回の聖杯戦争以来、士郎にとっては賑やかな夕食が常なるものとなっていた。
一人で食べるのなら店屋物でも頼もうかな。
そんな考えもあったので、自分の料理を食べてくれる存在が嬉しかったのだ。
そんな士郎の背を見送った凛は、縁側から中庭に降りる為に置いてあるサンダルを履いた。
そして士郎が先ほどまで篭っていた土蔵へとその足を向けたのだった。
「召喚?!本気か、遠坂」
「本気というか、出てこれば儲けものって感じかしら?
幸い、土蔵の魔方陣はちゃんとしたものだったしね。
良いじゃない、試しにやってみれば。
やり方は、私が教えてあげるから」
夕食後、お茶をすすりながらの士郎と凛の会話は、そんな方向へと発展していた。
「儲けものって、遠坂、お前なあ」
あきれた様に続ける士郎。
「あら?
そんな事をおっしゃるのですね、衛宮君は。
つまり、私なんかに教わらなくても、英霊の召喚方法を十二分に理解してるって事ですね?」
と笑みを見せるアカイアクマ。
―――士郎はお願いしますと土下座をするのだった。
「なんでさ」
土蔵の床に描かれた魔方陣は凛の手によって補修され、
あるべき機能を発揮出来る様にはなっていた。
だが、召喚の魔力供給の為、魔方陣の横に座り込んだ士郎は、
召喚の触媒として自分の目の前に置かれたそれらを見てそう呟いていた。
そこに置かれていたのは、どんぶりと一膳の箸。
「このウチにあるもので、英雄縁の品でしょ?」
と士郎に答えるのはアカイアクマ。
ニシシ、とか言う笑い声が聞こえそうな笑顔だった。
そのどんぶりと箸は、衛宮家の食卓でとセイバーと呼ばれた人物が使っていたものだった。
「良いじゃない、士郎。
ひょっとしたらあの娘をまた呼び出せるかもよ。
セイバーご飯よー、
なんて呼べ」
轟!!
凛のふざけたような言葉は最後まで続かなかった。
魔方陣が突如光を灯し、その中心から溢れ出る魔力の渦が凛の声を掻き消したからだ。
立っていた凛はその風圧に押しつけられ、土蔵の壁まで追いやられる。
だが士郎は魔方陣の側にいたにも関わらず、
そう圧力を受けた様子でも無く、ただ驚いた顔でその渦の中心を見極め様としていた。
不意に嵐が止む。
そして魔方陣の中央に立つ一人の人物。
ゆらり、その人物が傾いだかと思うと、士郎の方に倒れ込んでくる。
重なり合う様に床に倒れ込む二人。
押し倒される形となった士郎は、先程よりも大きく目を見開いて驚いていた。
彼の視界に写るのは倒れ込んできた人物の金髪の頭頂部。
その人物がゆっくりと顔を上げ士郎と視線を合わせる。
「シ――ロウ?」
「セイ……バー」
床に倒れ込んだ二人は、確認する様に互いの名を呼ぶ。
もう、二度と逢うことは無いと思っていた二人。
そんな二人の再会の瞬間だった。
「シロウ」
「セイバー」
セイバーと士郎は視線を絡め合わせ、もう一度お互いの名を呼ぶ。
やけに大きく二人の耳に響くのは、轟々という自分の血流の音。
「うっ!」
不意にセイバーが口を押さえ顔を伏せる。
普通で無いその様子に士郎口を開く。
「セイバー、どう」
エロエロエロエロ…
士郎の言葉を遮り、突如、吐瀉物を吐き出すセイバー。
無論、押し倒した士郎の上に。
すっぱいような、なんとも言えないニオイが漂い始める土蔵。
―――――――何もかも、
そう、全てがぶち壊しだった。
続く
あとがき
とうとう、やってしまった…。
というわけで、セイバーファンに刺される前に逃亡します。
ではまた。