Fate/stay nitro 第六話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

警告音がコックピットに響く。

後方についた敵戦闘機からロックオンされた所為だった。

 

「ちっ、しつこいね。ちょっと燃料分けてもらっただけじゃないか」

 

そう舌打ちするのは、前のシートに座る金髪の女性だった。

 

「分けてもらったというより、盗んだって言うんじゃないの?」

 

と後のシートに座る少女が訊き返す。

 

「……最近は、そうとも言うかもね」


「きっと、古今東西そう言うと思うわ」

 

更に続く女性の言葉にツッコミを入れる少女。

そしてコックピット内には新たな警告音が響く。

ミサイル接近中!!

コックピットのデスプレイにはそんな表示がされていた。

 

「イリヤ、そろそろ、ブーストかけてくれ無いかな?」


「…ふう、解ったわ。撃墜はされたくないものね」

 

女性の声に答え、少女がその身の魔力回路を発動させる。

と同時に、機体が突如加速状態に入る。

そのまま、接近するミサイルを速度差で振りきる機体。

敵戦闘機のパイロットは、本来の機体スペックには有り得ないその加速の前に、

ターゲットである機体を見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロウ、申し訳ありませんでした」

 

衛宮家の居間で、畳に額を擦りつける様に土下座をする小柄な金髪の少女。

彼女はかつてブリテンと呼ばれた地を治めていた王でもあった。

元王様に土下座をされているのは衛宮家の現主でもある青年、衛宮士郎だった。

 

「せ、セイバー、俺はもう気にして無いから。

 そんな風にするのは、止めてくれ」

 

彼女に汚された服から着替え終えた士郎。

そんな彼は居間に入るなり、突然土下座で自分を出迎えた彼女に驚き、そう返すのが精一杯だった。

 

「ですが!」


「過ぎた事だし、気にして欲しく無いんだよ。

 ―――お互い、忘れた方が良い」

 

顔を上げたセイバーに視線を反らし、影を落とした表情で答える士郎。

思い出したくもない。

とばかりの態度にセイバーはショックを受け、言葉を続ける事が出来なかった。

 

「それよりも、セイバーの体調の方はどうなんだ?

 具合、悪かったんだろう?」

 

士郎は再びセイバーの方に視線を戻すと、心配そうな表情でそう訊ねる。

 

「もう大丈夫です。

 乗り物酔いの方が酷かったみたいですので」

 

セイバーは胸を軽く押さえ、士郎の問いかけに笑顔で答える。

 

「乗り物酔い?」


「はい、恥ずかしい話なのですが…」

 

こうしてセイバーは士郎の問いかけに答えるべく語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝承に在る通り、湖の貴婦人に聖剣を返した私は妖精郷へと誘われました。

そこでの私は、ただ盃を重ねる日々を過ごしていました。

何故そのようなことをしていたかと言う理由は、あの、その出来れば訊かないで頂きたいのです。

とある日、マーリンが外界の者を私の呑み相手として連れてきました。

銀色で凛と同じ髪型、ついんてーるというのですか?

その娘と私は1日中語り合い、盃を重ねたのでした。

そして銀色のついんてーるの娘に続き、マーリンが連れてきたのは奇妙な一行でした。

亡国の王女と王子だという姉弟と従者の少年と子供。

そして元王子が産んだという『ぽよ』と鳴く奇妙な生き物。

それにウマのしるばーでした。

どうやら王国復興の旅の途中でマーリンに連れてこられた様でした。

たかが数人という人数で王国復興などとは、私にはとても信じ難かったのです。

が、少なくとも元王子の決意は本物でした。

それに彼らは個々に特別な力を持っていたのです。

何故か上半身裸の元王子は不死身でした。

彼の言葉が信じられなかった私は剣を取り王子と戦ったのですが、

その不死性には本当に驚嘆させられました。

私が剣を振るう度に、彼は幾度と無く死にました。

が、簡単な治療をするだけで幾度と無く生返ってきたのです。

前回の聖杯戦争時のシロウをも上回る回復力ですね、あれは。

もっとも、私に殺された段階で完全に生命活動は止まっているので、

実戦で役に立つかは甚だ疑問ですが…。

王子が不死身なら、王女は魔女とでも言えるでしょう。

彼女の魔眼は、未来すら見通すそうです。

残念ながら私はその力を確かめる事が出来ませんでした。

元王女が「ヅカー!ヅカー!」と叫ぶ中、

王子に続き、私に剣で挑んできた従者の少年がいたからです。

挑んできたのは私と同じくらいの背格好の少年でした。

剣撃の威力こそ無いものの、剣の狙いは鋭く、そして華麗でした。

何故か彼の背景には薔薇の花や月や星が見えました…。

従者の少年と私は剣を通して何かを感じ合いました。

私達が戦う中、ハンカチを噛み締めた元王女のさらに高らかに叫んだ

『ヅカー!!』

の意味は結局解りませんでしたが。

そうして親睦を深めた私達が酒宴へと流れて行くのは自然なことでした。

酒宴の中、一つの誤解に私は気が付かされました。

私はこの従者を少年とばかりに思っていたのですが、実は少女だったのです。

まるで私と同じに、男性としか思えぬ格好をしていましたが、確かに女性だったのです。

その理由を聞いたところ、国が滅びて両親を亡くし、生きて行く為に男性の振りをという事でした。

国が滅びる。

私は己の所業を思いだし、少し落ち込みました。

そんな私を慰めてくれたのがウマのしるばーです。

え?ウマがどうやって慰めるのか、ですか?

彼は紙の板『ふぃりっぷ』というものですが、それで自分の言葉を伝えてきました。

彼はいい白毛のウマでした。

白いウマでシルバーとは安直だと?

いえ、彼の名前は『シルバー』ではありません、『汁婆』です。

汁を吹くお婆さん(ニューヨーク在住)という意味だそうです。

そして落ち込む私を慰める為に、汁婆が私をその背に乗せてくれることになったのです。

その汁婆の背で、不覚ながら私は乗り物酔いになってしまったんです。

え?私には騎乗スキルがあったはずだ、って?

そうですね。

確かに私には騎乗スキルがありますから、馬なら乗りこなせますよ。

ああ、ひょっとして勘違いをしてますね。

汁婆はウマにして馬にあらず。

正確にはUMA。

Unidentified
Mysterious
Animal!!
(未確認怪生物!!)

通称UMA(ウマ)の汁婆(しるばー)。

つまり彼は幻想種の方だったのです。

彼が普通の馬と同じく四足走法をしていた時は良かったのですが、

本気の走りに、そう二足走法に切替えてからは酔いが酷くなってしまって…。

ああ、そんなに不審げな顔をしないでください。

本当のことです。

彼らは私達とは違う世界から来たらしいので、そういう事もあるのでしょう。

ともかく、その酔って吐き気をもよおしたタイミングで、私は再びシロウに召喚ばれたのです。

そして、その後は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずずずー

一通り語り終えたセイバーは湯呑みを傾けお茶を飲む。

セイバーと同じテーブルに着いていた士郎は、彼女の話の有り得なさに二の句が次げなかった。

馬が2足走法?

いや馬じゃなくUMAだから良いのか。

そもそも直ぐ死ぬのは不死身なのか?

いや、生き返るならやはり不死身と言えるか。

というか元王子が何で半裸?

色々と疑問の尽き無い士郎だったが、ふと気が付き思考を切りかえる。

その彼等がどんな生物だとしても、とりあえず今は関係が無い。

そのことに気が付いたのだ。

そして士郎は同じテーブルに着いているもう一人に意識を向け声をかける。

彼女は同じテーブルに着きながらも、

ぶつぶつと独り言を言っていたので随分と遠慮がちにだが。

 

「あー、なんだ、その、遠坂?

 そろそろ帰らなくて良いのか?」


ギロ!


士郎の言葉に凛は先ず視線で答えた。

うわっ、と士郎がのけぞる中、凛はその視線をセイバーの方を向け、確認する様に問いかける。

 

「ねえ、セイバー、本当に士郎がマスターなのよね?」


「くどいですよ、凛。

 私は士郎のサーヴァントです。

 その証拠に士郎の左手には令呪が浮かんでいます。

 そして何より、士郎と私との間には確かにラインが、

 そう前回よりもしっかりとしたラインが存在しますから」

 

念を押す凛に対し、諭すように答えるセイバー。

どこか勝ち誇ったかのようにも見える笑みを見せ、えっへんと小さく胸を張る。

そして再び、湯呑みを傾けお茶を飲んだ。

そのセイバーの様子に何故だかムカッと来た凛。

先ほどまでいろいろと溜まっていたこともあり、軽るーくプチっと切れた。


「だー!!なんでなのよ!

 前回と同じセイバーを引き当てたのは良いけれど、どうして士郎なのよ!

 呼んだのは私じゃない!

 そりゃあ、確かに普通じゃない召喚方法だったわ。

 けど、それでもなんで私がセイバーのマスターじゃないのよ!!」

 

あーもう、と両腕を振り騒ぎ立てる凛。

その凛の様子を、セイバーと士郎の二人は生暖かい笑みを浮かべながら見ていた。

二人には凛がまるで駄々をこねている子供の様に見えたのだ。

 

「な、何よ、二人とも」

 

その二人の表情に凛は途惑う。

 

「いや、遠坂の意外な一面が見えたなと」


「そうですね。

 シロウの言うとおり、凛にもそんな一面が在ったとは、少し驚きです。

 先ほどの凛はまるで駄々をこねる子供の様でした。

 凛にもまだ幼い一面があったのですね」

 

おーよしよし、と凛の頭を撫でようとするセイバー。

当然、凛はそれを断固拒否したが。

 

「と、ともかく、今夜はここで帰らせてもらうわ」

 

自分のやった行為を思いだし、照れ怒りながら一方的に話題を打ち切る凛。

そして凛はすっと立ち上がり居間を後にしようとする。

 

「じゃあ家まで送っていくよ。

 俺、ちょっと行って来るから。

 セイバーは留守番しててくれ」

 

と言いながら士郎も凛を自宅まで送り届けようと立ちあがる。

 

「「アホ(です)か!!」」

 

そこへ炸裂したのは見事なシンクロを見せる凛とセイバーのツッコミ。

おわっ、と身を引きながらも士郎は『なんでさ?』と心で思っていた。

口にしなかったのはこの後に続くであろう二人の言葉を待つ事にしたからだ。

もし口にしていたら余計に説教時間が増えるとした予測した結果だ。

 

「シロウ、まだ全てのサーヴァントが揃っていないとはいえ、今は聖杯戦争中なんですよ。

 凛と一緒とは言え、私に留守番をしろとは、何を考えているんですか!

 シロウはもう少しマスターとしての自覚を持ってもらわねば困ります」


「セイバーの言う通りね。

 衛宮君が私のことを心配してくれるのはありがたいけれど、今はもう非常時なのよ。

 もう少し気を引き締めた方が良いんじゃないかしら」

 

セイバーと凛にそれぞれ注意され、むぅと唸る士郎。

しばし考えたのちに口を開く。

 

「じゃあさ、セイバーも一緒に連れて遠坂を送るよ。

 それでいいんだろ?」

 

士郎の言葉にうんうんと頷くセイバーと対照的に、凛は渋い顔をしていた。

玄関先まで移動したところで凛が再び口を開く。

 

「悪いけど、ここまで良いわ衛宮君。

 他のマスターにセイバーを連れた衛宮君と居るところを見られたら困るもの。

 衛宮君と別れて一人になった時、そのマスターのサーヴァントに襲われるかもしれない。

 だから、今日の所は気持ちだけ頂いておくわ」

 

士郎たちを押し留める様に手の平を向け、そう告げる凛。

なるほどと頷くセイバーと、やはり、むうと唸る士郎。

そんな士郎の様子にため息をつきつつ凛は続ける。

 

「私も今晩中に何とかするつもりなのよ。

 悪いけど、考えをまとめながら帰りたいの。

 解ってくれるわよね、士郎?」

 

その言葉に士郎もしぶしぶ凛を送って行くことを諦めた様子だった。

 

「じゃあ、また明日」

 

そんな言葉を残して凛は衛宮の家を後にしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、お爺様を!」

 

間桐家の居間。

テーブルを叩き目の前に座ったアーチャーのサーヴァント、エレンに激しい口調で詰め寄る桜。

 

「私が気に入らなかったからと言うのが三割。

 あとの七割はサクラの為に」

 

表情を殺したまま、桜の問い掛けに答えるエレン。

その口調は桜と対照的に平坦なものであった。

 

「私の……為に?」

 

自分の為だと言われ、途惑いの表情を浮かべながらも更に訊き返す桜。

 

「そう、貴方が望む結末に少しでも近づける為。

 サクラ、貴方は今回の聖杯戦争で誰にも傷ついて欲しく無いのでしょう?

 でも私が把握した限り、今朝の状況では、残念ながらそれは不可能に近いわ。

 蚊帳の外に置かれた、500年も生きる魔術師が側に居たのでは尚更に。

 少なくとも、彼をしばらく排除することで死傷者が出る確率を下げることが出来る。

 サクラ、貴方の願いを叶えるのには、先ず身内である彼を切るしか無い。

 その辺を解ってもらいたいわ。

 貴方も魔術師なら知ってるでしょう?

 『等価交換』と言う言葉を。

 彼は貴方が切り捨てるべき身内であり、そして排除すべき脅威でもあったのよ」

 

エレンはただ真直ぐとサクラを見つめそう続ける。

その視線が何故か自分の胸元に向けられている事には気が付かない桜だった。

 

「―――サクラ、今はまだ時間があるわ。

 でも全てが始まってしまってからでは、悩んでる事も出来ないはずよ。

 通常のもので無いとはいえ、今回の聖杯戦争。

 その戦争の中、何処まで貴方はやるつもりなの?

 出来れば今晩中にでも、結論を出して欲しい」

 

更に続けられるエレンの言葉に、そのまま考え込んでしまう桜。

その様子をエレンはただじっと見守っている。

銃弾に晒されずに生き残った時計がカチコチと時を刻む。

胸の前で組んだ己の手をじっと見つめていた桜が視線を上げた。

 

「私は…」

 

その晩、桜は一つの結論を出したのだった。

 

 

続く


あとがき

というわけで、前回セイバーが何故ああなったかの解説の話でした。

その過程で有り得ないクロスが発生してますが、スルーしてください。

というか、元ネタわかる人が何人いることやら…。

よろしければ次も読んでやってください。

ではまた。


感想

はっはっは! 流石くまさん! 余の名はズシ○で来るとは思いませんでしたよ! あのコワレギャグをクロスできる人はそうはいますまい!

とは言えあの変態王子本気で帝国を復興させる気があるのかは微妙な気もしますが(汗)

それ に違和感の無いセイバーさんもどうかと思いますけどね…

それはまあ、英霊も人ではないですし…でも彼等はある意味無敵ですな…(汗)

まあ、オオライオンがどうなろうと知ったことではないですが…

でも、あの漫画家さんの作品では瀬戸の○嫁も好きですね♪ やっぱ、コワレもいいですけど、普通と比較対照できるとなおいいと思いますので。

まあ、趣味の問題は良いとして、桜 さんご出陣といった感じですね、黒桜さんになるのかその辺りも気になる所です。

あれは怖いよね…力技で倒す訳にも行かない所がね…でも私は、個人的に桜グッドエンドが好きです。

トゥルーの方が幸せだとは思いますが、結局イリヤの犠牲の元に助かっているみたいで好きになれないという部分もあります。

それに、自分が壊れていく中ただ一つの目的を達成するというのはかなりクルものがありますしね。

ハリウッド映画の定番の一つです ね、でも残された人間にとってはカッコいいじゃ済まされないんですよ。

アキトさんも死に切れなかった事を悔やんでいる気もしなくは無いですけど、そんなの許せません!!

私は…

あ〜う、トラウマに触れたみたいですね、申し訳ない。

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