Fate/stay nitro 第壱拾壱話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

「ククク、よもやこんな上物がかかるとは…」

 

それぞれに動き回る小さな蟲の塊の中央に、上半身だけ生やした老人の言葉。

間桐臓硯。自らに課したマキリの魔術で五百年は生きている魔術師。

それがその老人の正体だった。

 

「ひっ!」

 

そしてあまりに人間離れした姿の彼の前には、腰が抜けたようにへたり込んでいる女性が一人。

この辺りで一番近くに在る学園、穂群原学園の制服を着ている女生徒、三枝由紀香だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三枝由紀香は、ここの所2日ばかり、自分がついていないと自覚していた。

昨日の朝食の時、突如左手に走った痛みの所為で、

お気に入りのお茶碗を落として割ってしまったし、

それを見ていた弟達にどんくさいとまた言われてしまった。

むーと膨れた顔で弟達を睨みつつ、割れた茶碗を片付けて、

気を取りなおして学園に向った由紀香だったが、彼女の憧れの女生徒である遠坂凛は欠席だったのだ。

そしてそれに合わせた様に、

2年の終わり頃からその凛と共に行動することが多くなっていた衛宮士郎も又休みだった。

由紀香は凛や士郎達の周りに集まる人達、

時には喧騒すら生み出す彼らを眺めているのが好きだったのだ。

その二人が休みで、更には担任である藤村大河までが早退してしまったのには、由紀香も驚いた。

そんな大河の代わりの教師はあまり由紀香の得意な教師では無く、

1日中、あまりというか全然授業に身が入らなかったのだ。

そして放課後、何時もの二人と一緒に帰る由紀香だったが、

どうにも街の空気がおかしく感じられたのだ。

それは今朝も感じた事ではあったのだが、

だんだんとその変な感じが強くなっていると由紀香は感じていた。

そんな時、由紀香は何時もおまじないをしていた。

それは由紀香が随分と小さい頃、白い髭をたくわえた見知らぬお爺さんに教えてもらったもの。

もはや癖ともなっているそのおまじないをすると、何時も少しだけ気分が落ち着くのだ。

そんな風におまじないを始めた由紀香を、

一緒に帰路についた二人は何時ものことと笑い合い、

3人で仲良く帰宅したのだった。

翌朝、今や日課となっている白髭の老人に教えてもらった幸せになるおまじないをしていた由紀香は、

自分の右手に傷痕のようなものが在ることに気が付いた。

昨日の朝に痛みが走ったのと同じ所に出来たそれに、

その傷痕が消えなかったらどうしよう、と朝からブルーが入る由紀香だった。

そんなブルーを引きずったまま登校した由紀香は、

自分の教室で始業時間を迎える時更にブルーになった。

凛と士郎、それに大河までもが休みだったからだ。そのままあまり好きで無い、

どちらかといえば苦手な教師が大河の代わりを努める1日に、由紀香はずっと沈んだままだった。

それでも仲の良い2人以外には解らないほど、ほにゃっとしていたが。

そして再び放課後。

夕食の材料の買出しの為、二人と別れた由紀香はいつもの様に商店街への近道を通っていた。

照明はきちんと設置されているのも関わらず、何処か薄暗い印象を受けるその道は、

人や車のあまり通らない道だったが、由紀香の家から商店街へ向うには丁度良い近道でもあった。

その近道の途中、ふと何かに引かれる様に横道に入ってしまった由紀香。

そのまま進んで突き当り、由紀香は袋小路だったことに気が付いて、

何で自分がこっちに来たのかと首を傾げる。

まいっかと気を取りなおした彼女は、元来た道を戻ろうと振り返った。

が、向けたその視線の先にあるものに、由紀香は悲鳴を漏らすことも忘れ固まった。

そこにあったのはざわざわと蠢く蟲が集まった中にそそり立つ上半身だけの老人の姿。

その醜悪な姿にを認識した由紀香の心には逃げなければならないという危機感だけが募っていった。

振り向くことも出来ず後退り、転んで尻餅を突く由紀香。

 

「ククク、よもやこんな上物がかかるとは…」

 

蠢く蟲の中心に立つ上半身のみの老人の口からは、そんな言葉が紡がれる。

 

「ひっ!」

 

由紀香はそのしゃがれ声に恐怖し、へたり込んだまま後へと逃げようとする。

 

「カカカ、何とも僥倖なことよ。

 こやつ、マスターでもあったか!」

 

由紀香の左手に浮かぶ傷痕の様なものに気が付いた老人、間桐臓硯の声に歓びの色が混じる。

そして、それに応える様に老人の周りの蟲達もギチギチと牙を打ち鳴らした。

ぞわぞわと蠢きながら牙を打ち鳴らす蟲の塊。

その中央に隆起しカカカと哄笑を漏らす半身の老人。

目の前に繰り広げられる異様な光景に、

由紀香は現実を直視できず、目を瞑り必死に祈り始めた。

 

(助けて、衛宮君。助けて、正義の味方)

 

だがその祈りが士郎に届くはずも無く、

現実には蟲と老人が徐々に由紀香に迫ってくる。

 

「さて、そろそろその身を戴くとするかの?」


「あー、あんまり楽しそうなんで言い難いんだが、それは無理ってヤツだ」

 

臓硯の言葉にそう返しながら、由紀香と臓硯の間に二人の人物が立ち塞がった。

黒髪に黒い瞳で白い上着と黒っぽいパンツを着た一人の青年。

そしてその側に居るのは、銀色の髪と翡翠色の瞳を持ち、

フリルの沢山あしらわれた白いワンピースを着ている一人の少女だった。

 

「な!?貴様等一体何処から現われた!?

 それにワシの邪魔だてする気か!」

 

自分の行為を制止する為、突如現われた青年達に、臓硯は怨嗟の言葉をぶつける。

その声に驚きが混じっている原因は、

臓硯が狩りを邪魔だてされぬ様、この辺りに結界を張っていたにも関わらず、

青年達がこの場に現れたからだ。

 

「俺達が何処から来たかはどうでも良いことだが、

 確実に言えるのは、この状況で邪魔しないほうがオカシイってことだ」


「それにヌシからは人食いに墜ちた魔術師と同じニオイがする。

 かつて我等と対峙し滅び去った『妖蛆の秘密』を持っておったあやつとな。

 尤もヌシは書を持っておらぬ様だし、あやつとの違いはあろう。

 さりとて人食いをこのまま見逃す訳にもいかぬのでな。

 ヌシにも色々言分は在ろうが、そういった輩を赦さぬのが我らの性分なのだ。

 大人しく、まあ足掻いても同じだが、我らと出会った以上、滅するが定めと心得よ。

 さあ、やってしまうが良い、九朗よ!」

 

青年の言葉にそう続けるのは、腕を組み仁王立ちをしていた少女だった。

言葉の最後には臓硯の方をびしりと指差し、彼女は某ドロンジョ様のごとく声高らかにそう言い放ったのだ。

 

「―――って俺だけかよ!

 つーか、アル!

 お前が手伝う気は、全くのナッシングで居やがりますか!?」

 

少女に九朗と呼ばれた青年は、臓硯を指差すだけで自分から全く動こうとしない少女にくってかかる。

 

「妾はそこな娘の保護に忙しいのでな。

 ふむ、3分。

 そう、3分やるから、サクサクっと、片を付けるが良いぞ、九朗。

 いや、決して服が汚れそうだとか、

 何かバッチイとか、

 臭そうでイヤとか、

 そう言ったことでは無いぞ。

 うん、たぶん」

 

明後日の方を向きつつも、しれっとそう返すのはアルと呼ばれた少女。

娘の保護とか言ってるわりに何かをしている風でもない。

 

「あーもーいい。

 つーか、お前のその怠惰さを忘れた俺が馬鹿だったと、

 よーく理解させていただきやがりましたよ、コンチキショウ!」


「ふむ、解れば良いのだ」

 

頭をガシガシとかきむしりつつそう喚く九朗に、アルはしたり顔でそう頷くのだった。

まるで映画の中の出来事のような恐怖に追い詰められていたはずの由紀香は、

突如現われてそんなやり取りをする二人の姿に、極度の緊張から解放されていった。

そしてもう一人の臓硯は自分の行動を邪魔した上に、

まるで自分を意に解さずやり取りをする二人に当然のごとく激怒した。

 

「舐めるな!小僧ども!!」

 

咆哮とも取れる臓硯の言葉と共に、その身体の周囲に集まっていた蟲達が躍動した。

幾多の蟲はまるでそれが一つの生き物であるかの様に九朗達に襲い掛かかる。


ザザザザァシュ!!


だが、蟲達の牙が肉を食いちぎる音では無く、刃が甲殻を断ち、肉を切り裂く音が響いた。

臓硯の蟲達はその目的を果たすことなく、振るわれた刃に全て断ち切られたのだ。

 

「悪かったよ、魔術師の爺さん。

 真面目に、相手をしようじゃないか。

 再生する間も与えず、ぶった切ってやるよ」

 

何時の間にか両手に奇妙な形の剣をぶら下げた九朗は、

剣呑な光りを宿した視線で臓硯を睨み、静かに宣言する。

そして臓硯へ向け、その両手に持った奇妙な形の剣を構えて見せた。

 

「き、貴様、何者だ!」

 

残り少ないながらも、常人に如何こうできるはずのない量の蟲をけしかけ、そして一瞬で失った臓硯。

一部とは言え垣間見る事になった九朗の力に、臓硯は怯えながら、

そして、その怯えを振り払う為に疑問を口にする。

 

「名乗るほどのものじゃない、ただの『セイギノミカタ』だ」

 

九朗はそう答えるのと同時に、臓硯に向け大きく一歩を踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は移って衛宮邸。

各人あての手紙にあった通りに、説明会が開催されようとしていた。

手紙によって居間に集まってきたのは六人の聖杯戦争のマスター達。

結局、学園を休むことになった士郎達四人。

藤村の家に帰らずに衛宮の家に居たイリア。

そして大河とは違い、学園の仕事を終えてからここを尋ねて来た葛木。

その内の幾組かはサーバントと共にこの場に居た。

各々の視線(中には明らかに敵意を持ったものもあった)の先には一人の少年。

葛木と共に衛宮の家を訪ねて来た彼。

年の頃はローティーンと推測されるその少年は、

この国の一般的なものとは違う銀色の髪と紅い瞳を持って居た。

コホン。

一つ咳払いをした少年がやや緊張した面持ちで口を開く。

 

「えーと、皆さんお忙しい中、お集まりいただき、まことにありがとうございます。

 先ずは改めて自己紹介からいたします。

 僕の名は、聖=ノーウッド。

 一応、この地のというか、第6回の聖杯戦争の『聖杯』ってやつをやってます。

 どのくらいのお付き合いになるのかは不明ですが、どうぞよろしくお願いします」

 

そう言って深々と頭を下げる少年。

 

「あ、どうも、こちらこそよろしく」

 

少年のお辞儀に返すように、そう言いながら頭を下げる士郎。

何気に士郎の隣をキープしていた桜も、士郎に合わせぺこりと頭を下げる。

そんな二人とは対照的に、少年を睨みつけるのは凛とイリア。

不審げな表情を隠しもせずに、少年の一挙一動を見逃すまいと厳しい視線を向けて居た。

 

「あらら、可愛くて礼儀正しい子ね。

 お姉ちゃん連れて帰りたくなっちゃたわ。

 そうは思いません、葛木先生?」


「礼儀正しくはあると思いますが、連れて帰ろうとまでは思いません」

 

嬉々とした声で葛木に訊ねる大河。

彼女に対してきっぱりと冷静に対処する葛木。

穂群原学園の教師でもあるこの二人。

先の4人とは魔術師ではないという立場の違いもあるのだが、

それなりに真剣な眼差しを少年こと聖に向けていた。

 

「では早速ですが、本題の第6聖杯戦争の説明を始めさせていただきます」

 

緊張という表情すら消した聖の声が、衛宮家の居間に響く。

その突然雰囲気の変わった聖に気圧されたのか、

誰もが口をつぐみ、その後に続くであろう言葉を待った。

ゆっくりと、だが確実に、聖の口からは次なる言葉が紡がれて行く。

 

「これから皆さんにちょっと殺し合いをやってもらいます」

 

 

 

 

続く


あとがき

というわけで11話でした。

最後のマスターとサーヴァントが登場しました。

割とバレバレだったかも。

そして物語的にも新たな場面に!

えー、引いてはみたけど、今後の展開は読まれまくりかも。

ではまた。


感想

今回は大河さんは見ていた! と 正義の味方増殖します! 二本立てでお届けしました♪

っとまあ、掴みはこれくらいにしまして、くまさんまたも新機軸。

聖杯戦争はお茶の間で?(爆)

いや〜なかなか思いつけるネタではありません!

しかし、今回の聖杯戦争かなりぶっ飛んだ設定のようですね〜

まあ そうですね、今回までに見てきた中でもマスターに絶対服従という部分や、

魔力の供給という基本システム等が変わっていると考えた方がいいでしょう。

仮にもサーヴァントは魔力の消費量が馬鹿にならないほど強大な存在ですし。

宝具への魔力供給なども術者負担だった訳ですが、その辺りは今回の聖杯戦争には当てはまらない様子ですね。


そうだね〜

でも、大十字・九朗とアル・アジフってのは強力だよ〜

なんですか? まあ、態々最後にし たんですから当然かとは思いますが……

キャラだけでも格好戦えるけど、宝具がアル・アジフなら当然呼べる筈……

アレを運ぶのは次元を超えて存在率を確定する召喚システムだから(爆)

えーっと…それってまさか、あの人 たちだけゴジラ級巨大ロボに乗ると?

しかも、あの必殺技の中には町にクレーターを作る物や、宇宙と等価のエネルギーを持つ武器があるとか聞きましたけど…

ん〜流石に最終兵器は出ないと思うよ……(汗)

でも、最強のサーヴァントのような気もするね(滝汗)



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

くまさん への感想は掲示板で お願いします♪



次の 頁に進む    前 の頁に戻る



戻 る

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.