「ありがとう…ところで私の体だが、どの程度回復している?」

「今の所、まだナノマシン駆除を開始した所ですので、体の方は手付かずです。ただ…」

「ただ?」

「閣下の回復力は常人離れしていますので…徐々にではありますが、体力が回復しているように見受けます」

「おいおい、人を化け物みたいに言わないでくれ…」

「いえ、あながち間違ってはいません。普通ならこの状態の人間は、一ヶ月と持たない筈ですから…

 その状態で一年以上生きておられただけで奇跡でしょう」

「まあ、私も少々鍛えていたからね…それと閣下はやめてくれと言っただろ」

「いえ、命を救っていただいた上、私の為に何度も病をおして伺って頂いた事決して忘れません!

 私にとって閣下とは、神崎閣下を置いて他にはいません!」

「そう言われると、注意できなくなってしまうじゃないか…私はあまり堅苦しいのは好きじゃないのだが…」

「はあ、その辺は我慢して頂くしか…」

「融通の利かない人だね、進一君は。まあ良い…それで、今どんな状態だ?」

「はい、地球に落下させた次元跳躍門の方はあまり活発に活用されていません。

 クリムゾンとの協定で<軍事施設と政治施設だけを攻撃する>と言う事になっている所為ですが、

 現在、それ以外にも大量に出せない理由(ワケ)があります」

「ナデシコか…」

「はい。ほぼ一艦で巡洋艦クラス24、駆逐艦クラス332、虫型2157の被害を受けています」

「侮れんな…だが、都市の能力を考えれば地球に十分な打撃を与えられると思うのだが?」

「それが、オメガが提唱した<ナデシコ殲滅作戦>にかなりの戦力を割く様子です…」

「ふむ…そろそろ潮時か…」

「しかし、何故オメガはあの時カルテを僕に…?」

「さあな…もしかしたら、彼には先が見えていたのかもしれんな」

「まさか…」


二人はそれから一通りの話を終わらせ、

進一がダミーデータ送信機をもって退出した…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第十一話 さらりと出来る『運命の選択』 」その2


ナデシコブリッジでは、今後の方針を決める為の会議が行われている。

現在周囲30kmの範囲においては索敵を終了している…

しかし、それ以上の索敵はこちらの位置を教えかねないので、控える事になっている。

現在地は、オリンポス山(ふもと)のネルガル火星研究所から 約10kmの所だ。

戦闘指揮権を持つフクベが会議の口火を切る…


「我々の火星での目的を遂行する為、上陸班を編成し、上陸艇ヒナギクで地上に降りる」

「しかし、どこに下りますか? 軌道上から見る限り、生き残ったコロニーは無さそうですが…」

「先ずはオリンポス山の研究施設に向かいます…」

「ネルガルの?」

「わが社の研究施設は一種のシェルターでしてね、一番生き残っている確立が高い物ですから…」

「そうかな?」


プロスの説明にアキトが異議をとなえる。

その言葉にプロスは少し機嫌を悪くしたのだろう、語気を強めながら…


「今言った事に何か、問題がありましたかな?」

「ある程度は間違っていないと思うが…あそこはカトンボのグラビティブラストで、半壊状態の筈だが?」

「そうでしたね…テンカワさんはあそこにいたんでしたね…ですが、

 貴方も知らなかったと思いますが、あそこはシェルターの下にはもう一層地下空間がありますから…」

「なるほどな…それなら調べる価値もあるだろう…

 では、俺はユートピアコロニーに向かいたいと思う」

「ユリカとアキトの故郷だもんね…」

「ユートピアコロニーですか? あそこはもう木星トカゲの勢力下です。危険ですよ?」

「あそこのシェルターの数は一番多いからな…一つ位はまだ残っているかも知れん…」

「しかし…ナデシコからあまり戦力を割くわけには…」

「大丈夫です。ヒナギクを出すにはエスカロニアを分離しなければ行けませんから、私が付いて行く事にします」

「ミルヒシュトラーセさんですか…確かに貴女は明日香インダストリーの出向社員ですし、我々に強制力はありませんねぇ」

「ちょっと待ってください! エスカロニアの戦力を割くのは問題じゃないですか?」


メグミが意外にも強行に反対する。

周囲は不思議に思うが、ユリカにとっては渡りに船。一緒になって反対した…


「そうです! エスカロニアはナデシコについていてもらわないと!」

「ユリカさん…ナデシコの艦長は動いてはいけませんよ」

「ルーミィちゃん…エスカロニアが行ったって、誰も乗せられないよ」


二人の乙女はコメカミに血管を浮かび上がらせて対峙した。

その背後に、何故かゴ○ラとキング○ドラが浮かび上がる。

彼女達の乙女心は人を超え、怪獣大決戦の様相を呈していた…

冷汗を流し、アキトはそーっとブリッジから出て行こうとするが…


「「アキト(さん)!!」」


二人同時に振り向かれ、アキトは引きつった笑顔のまま硬直してしまう…

二人の闘気の前で縮み上がってしまったアキトは震える声で、


「…なっ…何かな?」

「アキトさん! 私を連れて行きますよね! 明日香の部下を置いていくつもりですか!?」

「アキト! まさかルーミィちゃんだけ連れて行くなんて事無いよね!

 艦長命令です! 私を連れていきなさ〜い!!」

「ユリカー…(泣)」


ユリカのあまりに無茶な物言いに涙を流すジュン。

進退窮まったアキトは、遠慮がちに一言…


「俺一人で行く事に…」

「「駄目(です)!!」」


その時、シュンという空気の圧搾音と共に一人の男が入ってきた…


「いやー ちょっと遅れたみたいだが、このガイ様が来たからには絶対安心! で? 会議はどうなって…(汗)」

「「…」」


空気を読めない男・ヤマダも、流石にこの状況は分かった。

――ヤマダは思う。これは不味い…直ぐにでもブリッ ジから出なくては…と。

そう考えて行動に移そうとするが…


「あ〜やっぱり急用を思い出したんで…」

「俺、ガイと行く事にする」

「「「え?」」」

「丁度エグザは調整中…エステも使えるのは砲戦フレーム位だろうしな…

 エスカロニアがナデシコから離れるのは戦力ダウンが著しいし、

 ヒナギクの方にパイロットの三人が付くなら、ガイは余る筈だろ。

 砲戦フレームに乗れるのは一人だが、まあもう一人くらいなら乗せられる…

 それに、白兵戦になっても戦える様な人間の方が良いしな…」

「分かりました…正直エスカロニアの戦力は惜しいと思っていた所です。

 ヤマダ「ダイゴウジ・ガイ!!」さんをお貸ししましょう」

「二人とも、これで良いな?」

「「…はい」」


ああは言ったものの、二人とも<戦術のいろは>は知っている。

ここで戦力を分けるのがどれくらい危険か、良く分かっていた。

それだけに、アキトの事が心配でもあった訳だが…












私はエスカロニアのブリッジ(大きさを考えると、コックピットと言った方が良いかも知れませんが)に向かいながら考えます…

何故ああなってしまったんでしょう?

不思議です。確かに私はアキトさんの事を…その……すっ…いえ、まあ、言うまでも無い事ですが…(///)

ですが、あんな風にユリカさんと正面きって張り合う事になるなんて…

“あの人は私の知るユリカさんじゃない”という思いがどこかにあったせいかもしれません…


「ふう…まだまだ未熟ですね、私も…」


普段なら兎も角…私は知っているのに…

直ぐにでも木連やクリムゾン…そして何より、オメガが何か仕掛けてくる事を…

今は優位の確保が先決の筈です。

…その面で“エスカロニアがナデシコから離れる”のがどういう事か、解っていた筈…

それなのに…心理的に余裕の無いアキトさんを、あんな風に追い詰めるような事…

でもあの時、私はああ言う事しか出来ませんでした。

アキトさんには謝るべきでしょうか…?

いえ、多分私がやった間違いそのものを、無かった事のように振舞ってくれるでしょう…

かと言って、明るく慰めるのは苦手ですし…

心配性なんですかね私…でも…


「次は、本格的な戦いになりますね…アキトさん…無茶しなければ良いんですけど…」


私はブリッジに入ると、エスカロニアの起動をヤガネに指示しつつ、アキトさんの姿を追っていました…















クリムゾンの傘下企業の一つ、<ラジカルソリューション社>…

この企業は、ヨーロッパを主体とした情報産業を主に扱っている。

本社をパリに構え、実質的にはビル内でほぼ全ての事業を行っている…企業としても中小のIT企業と変わらない形だ。

それでもビルそのものはそれなりに大きくなりそうだったので、

“パリの景観を保つ為に”と言われて設計をやり直し、結局地下に大きいビルとなってしまった…

その為、社長室ですら地上五階にある…あまり社長室という威厳は無いが…

そんな社長室に、早朝の内からやってきた人影があった。

人影は特に緊張する事も無く、社長室をノックする…


『入りなさい』


中からは誰が来るのか分かっていたのだろう、女性の自信ありげな声が聞こえる。

人影はその言葉を聴くと、自然に部屋に入り込んだ…


「オメガ…どうやら戻ってきたみたいね。そのまま行くのかと思っていたわ…」

「そうしても良かったんだがな…一応世話になったからな…」

「それはそれは。律儀な事ね…」


顔中に包帯をし、マフラーで口元を隠した不気味な男、オメガ…

輝かんばかりの美貌と、きつそうな目に野心を灯した女、シャロン…

二人は無言で見つめあう。

お互いに味方だと思っている訳ではない。利用できる内は利用する…それだけの関係だ。

今まではお互いの利益が一致していたが、いつ敵対してもおかしくなかった…


「でも、死にに行くなんてナンセンスね…」

「別に分かってくれと言うつもりは無い。奴は俺の獲物…それだけだ…」

「ふーん、復讐って訳ね…でも如何するつもり? 機動戦闘でも白兵戦でも、相手の方が上なんでしょう?」

「言う必要は無いな…」

「ふん、それもそうね…で? まさか挨拶しに来ただけ、という訳じゃないでしょう?」

「ああ、作戦上どうしても船が必要だからな…」

「? 木連で借りれば良いでしょう?」

「別に相転移エンジンは必要無い。必要なのは…」

「そういう事…よっぽど自分の手で決めたいみたいね。

 じゃぁ…今までの借りはこれでチャラ、って言う事で良いわね?」

「ああ、俺に取っても後腐れなくて良い…」


そういうオメガの声を聞き、シャロンは少し眉を寄せたものの…結局その後の言葉が出る事はなかった。

オメガは暫くその場に佇んでいたが、何も言わず部屋から出て行った…














俺はそのままユートピアコロニーへと向かうつもりだったが、

ブリッジを出ようとした際、フクベに呼び止められた…

俺はガイを先に行かせ、フクベに促されるままフクベの部屋に招かれた…


「…」

「…」

  ズズズ・・・


ただ茶をすする音が響く…フクベは何も言わない…

俺が話し始めるのを待っているのだろう。


「ナデシコに乗ることがあったら…そう言った事が俺にはある…聞くか?」

「フム。聞いていいものかどうかと思っていたが、どうやら聞くまでも無い事だったかな?」

「喰えないな…俺が“本物”かどうか試した、と言う訳か」

「悪く思わないでくれたまえ。私は彼の死体に会っている」

「そうか…」

「君がジョー君かどうか私には分からない。しかし、その話を聞けば解るのだろう?」

「そうだな。だがこれを聞けば、後戻りは出来ないぞ」

「老い先短い私が、今更後戻りした所で同じ事…」

「そうか…ならば言おう。ただ、奇妙な話だ…

 そう……一人の、どうしようもない男の話…」

「…」

「その前に、ルリ! 聞いているんだろう?」

『『…はい』』


俺が言葉をかけると、コミュニケウインドウが二つ開いた。

半ば予想してはいたが、どう対処していいのか困る…


「やれやれ、ルリちゃんもか…」

『すみません…』

「ルリちゃん…悪いが今回は遠慮してくれないか…?」

『…何故ですか? ミルヒシュトラーセさんが良くて、私は駄目なんですか?

 そんなの、勝手です…』

「ルリ…君からも言ってやってくれないか…」

『いえ、聞かせてあげるべきだと思います。聞いていなければ余計に不信感が募りますから』

「…しかし…いや分かった…じゃあ、二人でこの部屋の会話が漏れないようにしておいてくれ」

『『はい、分かりました』』


示し合わせていたのでは? そうかんぐりたくなる様な呼吸で、二人のルリが返事をする…


「先ず言っておく…俺はこの時を二度生きている」

「それは、ジョー君の事かね?」

「そう思ってくれて構わない。俺は以前もアキトとして木連と戦い、ナデシコは和平を勝ち取った…」

「そうなのかね」

「ああ。だから俺は、お前達の知らない事を知っている…だが、世界は既に<違う歴史>を歩み始めている…」

「しかし、それではあまりに信じるべき要素が少なすぎるな。

 それでは“どうしようもない男”が誰なのかすら分からない…」

「そうだな…順を追って話そう…」


そうして俺はフクベに、ナデシコでの出来事を十分ほどかけて話した…

最初は疑わしく聞いていたフクベも、内容の正確さに少しは信じる気になったらしく、真剣に聞いている。

俺はナデシコ乗組員の事はぼかして話した。そもそも、そういう事を話しているのではないのだから問題無いのだが…


「つまり君は、歴史を変える為に動いている…そういう訳か…」

「そうだ。至極利己的で、自分勝手だと言う事は理解している。

 やり方を変えれば助かる者も出るが、死ななくて良かった人間が死ぬ可能性もある…

 その事は否定しない」

「ふむ。それが解っていてもやる…という事かね…」

「俺には、それしか思いつかない」

「不器用だな…」

「…そうかもな」


フクベは不思議と落ち着いている…バカにされたとも感じていないようだ…

ある程度信じてくれたと見て間違いないだろう。

俺はその事を確かめると、部屋を出た…


『あの…』

「ルリちゃん…」

『もしかして…あの部屋に住んでた人達って』

「ああ、全員ではないが…」

『そう。私は…』

『…そうなんですか…じゃあ、ミルヒシュトラーセさんは……私…』

「だがさっきも言った様に、既に違う歴史を歩み始めている…“同じ人”になる事はもう無いだろう」

『それは、ミルヒシュトラーセさんに私が追い付けない、と言う事でしょうか?』

『違います。望むなら、私を超える事は簡単に出来ます。私にはブランクがありますから…』

『そうですか…』


痛いほどの沈黙が落ちる…やはり、この事を話すのは早かったのではないか…?

そう思ったがしかし、いつまでもここに居る訳にもいかない。

砲戦フレームの準備も出来た頃だろう…


「すまないが…」

『はい、格納庫に向かってください。砲戦フレームの換装が終わった様です』

「ルリちゃん…帰ったらもう一度話そう」

『…はい』


傷ついたルリちゃんをそのままにしておくのは心配だが…多分、ユートピアコロニーの方も時間が無い筈。

今はすぐに救出に向かうしか無い…俺は格納庫へと急いだ…














「地下に作っているとは言え…あまり大きな実験場は問題ではないのか?」

「ふむ、確かに…しかし、私としても早く結果が見たいと思っていますからね…同時に出来る事は多いほうがいい…」


それは、地下500mの場所に作り上げられた巨大な空間…

オメガがクリムゾンとの交渉で手に入れた資金と、特殊な出資先を元に作り出された研究所。

そこには多数の培養層が立ち並び、ぱっと見は水族館に見えなくも無い…

しかし、そこに浮いているものは皆、人の姿をしていた…

オメガと向かい合っている、にやけ笑いが張り付いた白衣の男…ラネリー・フェドルトンの研究成果である。

…だがどれも完成には程遠いらしく、中には人型にすらなっていないものもあった。


「それで? 実際の所、どの程度まで進んでいる?」

「むぅ、そうだねぇ…レベル1ならもう終わっている。

 レベル2の方は今の所3体だけ、最終レベルはまだ模索中といった所」

「そうか…資金は無限と言う訳には行かない。今後は一人でやる事になるからな…」

「まあ、何とか資金が尽きるまでには完成させて見ましょう…しかし、本当にいくんだね?」

「ああ。それで、玩具をいくつか借りるぞ」

「ええ、どれでも持っていってください…重要度の高いのは、まだ不安もありますがね…」

「そこまで言うつもりは無い。正直“足止め”だからな」

「足止めですか…あれで足止めにしかならないなら、そいつは化け物だね」

「そうだ。俺が相手をするのは化け物さ…」


ラネリーはその言葉を聞き、不思議に思う。

今まで聞いてきたその男が、そこまでの力を持つとは思えなかった…

だが、オメガの警戒だけはラネリーの心にも刻まれた…


「<あの方>にそれを届けてやる事が出来れば、かなり変わるかも知れんな…」

「任せてください。約束は守りますよ…」

「そうして貰いたい物だな…」

「ははは、信用無いなぁ…まあ仕方ないがね…

 問題ないですよ。私は“ソレがもたらす効果”そのものには、あまり興味ないから。

 …心の命ずるままに研究さえ出来れば」

「…まあ良い、玩具の説明をしろ」

「そうだね…聞いてくれたまえ」


ラネリーはオメガに、自らが作り出したもの使用法について話し始める…

時間にして半時間ほど講義し、オメガに内容を手早く理解させる事に成功した様だ。

オメガは必要な事を聞くと、直ぐに行動を開始した…













「ん?」


俺が格納庫に行くと、砲戦フレームが整備されていた。

それは良い…どうやら組みあがっている様だし、整備班が離れていく所を見ると直ぐにでも使える筈だ。

しかし、アサルトピットからはガイの気配がしない…いや、代わりによく知っている気配が…

俺は砲戦フレームのアサルトピットによじ登り、中を覗き込む…


「おい」

「あっ…あはは…」


アサルトピットの座席の後ろには、隠れるようにラピスがうずくまっていた。

これは…


「ガイはどうした?」

「うん、貰った<メグミの特製ドリンク>をご馳走したら、感動のあまり気を失ったみたい…

 “最期”に、代わりに行ってくれって言われたから…」

「…」

「…(汗)」


ラピス…いつの間に策略家に…しかもさりげなくメグミちゃんを使ってるし…(汗)

確かに、ラピスはルリちゃんよりとっつきやすい所為か、女性陣におやつなんかをご馳走になる事が多い。

まあ、ルリちゃんは自分で断っているらしいが…兎に角、時折着せ替え人形にされているラピスを見かける事がある。

主犯はミナトさんだから加減は弁えてくれているが、半日着せ替え人形をさせられていた事もあった…

ラピスもそんな中で揉まれた所為で、逞しくなってしまったらしい…


「ゴメン…」

「…はあ」

『連れて行ってやれ! 最近構って貰えないから寂しいんだよ! どうせ危険な任務って訳で も無いんだろ?!』

「え?」


振り向くと、下からセイヤさんがメガホンで怒鳴っていた…

もしかして、作戦を練ったのはセイヤさんか…?

ファンクラブの名は伊達じゃないな…(汗)


「分かった…」

「良いの?」


ラピスがきょとんとした感じで俺に聞く…まさか、連れて行ってくれるとは思わなかったのだろう。

だが俺は知っている。ラピスは連れて行ってくれないとなれば、危険を侵してでもついて行こうとする事を…

そんな事で危険にさらすぐらいなら、最初から連れて行く方がマシだろう…


「ラピス、俺から離れるなよ」

「うん♪」


それだけ言うと、俺は砲戦フレームを起動する…

実は他のフレームが使えたとしても、俺は砲戦フレームで出るしかないのだ。

エグザもエステも、基本的に重力波ビームの供給範囲外では、直ぐに行動不能になってしまう…

供給範囲外で長時間使えるのは、エネルギー消費の小さい陸戦フレームと、バックパックを背負える砲戦フレームだけだ。

尤も、陸戦フレームも単体では二時間程度が限界だが…

そんな訳もあって、砲戦フレームで出るのが一番安全と言う事になる。

俺は砲戦フレームを動かし、カタパルトデッキを通り過ぎようとした…


「待ってくださーい!」

「?」


下を見ると、メグミちゃんが走って追いかけて来ていた。

…何故だ? 前の時は兎も角、今回は殆ど会話すらしていないのに…

まあナデシコ食堂では良く見かけるが…


「あの…ごめんなさい、ヤマダさんの事…まさかあんな事になるなんて…」

「はは…まあ仕方ない。それにこの子が来てくれるらしいし…」

「…」


ラピスが顔を出す…

メグミちゃん…気にしてるのか…まあ、あの栄養ドリンクは無自覚なんだろうけど…


「それで、あの…私が代わりに付いていってもいいですか?」

「…え?」

「見たいな、アキトさんの故郷」


そう言って、俺の上にまたがるメグミちゃん…

あうっ…ラピスの目が鋭い…もっともラピスは俺の膝の上なんだが…

俺…情けなさ過ぎ(泣)

結局、陸戦フレームにメグミちゃんを乗せてユートピアコロニーへと向かう。

アサルトピットのハッチは開けっ放しにしている。三人も乗せていれば当然だが…

メグミちゃんは気持ち良さそうに風を切って走る感じを味わっている様だった…

ラピスも表情が柔らかくなっている…

途中、メグミちゃんが聞いてきた。


「アキトさんの故郷、遠いんですか?」

「いや、それ程じゃない…けどまあ、惑星規模でだから…」

「…はは(汗) そうですね」


メグミちゃんは少し引いたようだ。

それから他愛ない話を三人でしつつ、コロニーまでやってきた…

そして、シェルターの捜索を始める…そんな俺にメグミちゃんが話しかけてきた。


「あの…聞いてもいいですか?」

「ああ」

「艦長の家と、仲良かったんですか?」

「ああ、向こうは派遣軍人だった。家はただの学者だったが…」

「でも、子供なら関係ないですよね、そんなの」

「そうだな…子供の頃はよく遊んだな…

 思えばIFSをつけたのも、ユリカが間違って動かしてしまったユンボ、止められなかったからだったっけ…」

「ふ〜ん…じゃ、コックさんは? なんでコックさんになったんですか?」

「…火星…土壌改良が進んでないからな…野菜不味いんだ…

 でもコックの手にかかれば美味しくなる…憧れちゃってね」

「ふふっ、可愛い♪」

「うん♪」


メグミちゃんの言葉にラピスが相槌を打つ。

…ラピスに可愛いって言われる俺って…


「アキトさんて、人気ありますよね…昔からそうだったんですか?」

「そうだな…俺は…本当は他人が怖いだけなのかもな…」

「え?」

「近くにいる人が笑っていないと、落ち着かないんだ…俺…」

「それって、不幸な人が見過ごせないって言う事ですよね…良い事じゃないんですか?」

「そうとも言えないさ…本来は“適度に無視すべき事”を無視できないと言う事は

 つまり、余計な危険に首を突っ込む事になりかねない」

「…」

「それだけなら良いが、近くにいる人さえ巻き込んでしまうかもしれない。俺は…」

「アキト!」

「ラピス…そうだな。メグミちゃんごめん、つまらない話をしてしまったね」

「ううん…そんな事ないですよ。私嬉しいです♪ アキトさんの本音が聞けて」

「さて、次のシェルターに行くか」

「うん」

「はい」


そうやって俺は五つほどシェルターを回ったが、生存者を発見できなかった…

中には前回イネスのいたシェルターもあったが、生活をしていた後があっただけだ。

…不自然には思う。生活跡は頻繁に見つかるのに、人を見つける事が出来ないのだ。

そして六つ目のシェルターにきたその時、俺は周辺に気配が幾つか潜んでいるのを感じた…


「二人とも、暫くエステから出ないでくれ」

「え? どうしたんです?」

「わかった。誰かいるんだね?」

「そういう事だ…」


流石にラピスは荒事の気配に敏感だ。俺の変化を読んでいるのかも知れないが…

俺はアサルトピットのハッチを閉めつつ、エステから飛び降りる。

そして、気配の方向に向かって歩き始めた…隠れている気配がざわつく…

やはり…気配の消し方、隠れている位置、布陣…どれを見ても一般人だな。

チンピラの可能性もあるが…どっちにしても、救助対象者には違いない。


さて、どうしたものか…あまり刺激したくは無いが、接触しない事には始まらない…

数は五人…少しからかってやるか…俺は無造作に近付いていく…

向こうは気が気ではないのだろう。ちらちらと、岩陰や廃ビルの陰から視線を送っている。

布陣がシェルターの入り口を中心としているから、やはりここのシェルターの関係者の様だが…


「止まれ!」


制止の声が響く。我慢の限界と言う所か……だが、一番近い岩陰からでもまだ30m近い距離がある。

拳銃で威嚇するにはやや遠い距離だ。せめて10m近辺まで近づけなければ、普通の腕では当てられない…

狙撃銃(ライフル)となると話は別だが、高層ビルは根こそぎ倒 れているし…俺自身、狙いを付けさせないように場所を選んで歩いている。


「動くなと言っている!!」


若い男が岩陰から顔を出し、銃を俺に向ける……コルト357、か? 確か、火星警察の標準装備だった筈だな…

俺は両手を挙げて降参のポーズをとり、そのまま近付く。


「心配するな、俺は丸腰だ」

「そんなのが信じられるか! ロボットから降りてきたじゃないか!」

「そうだな。まぁ、いきなり信頼しろといっても無理だろうが…なら、どうしたら信じてくれる?」

「どうしたって信頼できる訳ないだろ! お前、木星トカゲのスパイだ な!」







「…………は?」




こいつは、何を言っているんだ…?




この頃の木星兵器は全て無人だった筈。

言うに事欠いて…スパイ?

……頭は大丈夫だろうか?


「さあ捕まえろ!」

「まぁ、それならそれでいいか…」


兎に角、おとなしく捕まって中に入れてもらおう…と思ったその時、



「待ちなさい!」


恐らく若いであろう、女性の大声が響いた………










なかがき2


いやー最近また連続してメールを下さる貴重なお方が増えて嬉しいです。

そうですね、これも私の魅力のお陰でしょう、やはりあっ てのナデシコですね。

ははは…(汗)

何ですかそ の汗は! 元々貴方の実力で常連の方を繋ぎとめておくのは難しいんです! その証拠に全体の半数以上が一回感 想くれただけだったでしょう?

うう、確かに…良くツッコミメールをくれていた方々も最近メールをくれなくなったし…やっぱり今見てくれているのは四、五人位(グラニットさん含む)なの かな(泣)

流石にそんな事は無いと思いますが…今まで感想をくれた方々だけでも二十人 近いんですし…

まあ確かに一人感想をくれたら傾向からして十人位は見てくれているはずだけど…不安だー!!

はあ、重傷ですね…良いですか! 今時代はアキトさん×私なんです! 実力の無い貴方はひたすら私とア キトさんのらぶらぶな作品を作っていれば読者三倍は確実なんです! それを中途半端なことをす るから読者が引いてしまうんでしょう!

いや、その…時代って…劇場版の後はずっとじゃ…

分かっているじゃないですか! アキト× ルリは永遠不変なんです! さあ書きなさい! 策士なんかのポイント稼いでないで! 私のフラグを立てまくるんです! そしてハッピーブライダルの後、十一人の子供を作ってサッカーチームを作るんです!

男の子ばっかり?

ああ…ア キトさんがいっぱい…(妄想力全開)



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