「ほう、丁度良いな…」

「どうしたんですか?」

「何、セキュリティがある地下十五階よりも下に居ると言う事は、チェック等も通らずに済むだろう」

「この状況ではセキュリティなんて稼動していないでしょう」

「さあな、それもこれもエレベーターを見ればわかる事だ。さて…」


エレベータは明かりが点き、電気が通っている事を示している…

フクベは下のボタンを押し、暫く待つ…

しかし、一向にエレベータが上がってくる様子は無かった。


「やっぱり、エレベータのワイヤーが切れてるんですよ…上の階が無いんだから、当然です」

「いや…」


ジュンの言葉にフクベが答えようとした、まさにその時…


チンッ…


という音と共に、エレベータの扉が開いた…


「このエレベータは重力制御で動いているらしい。そう友人が言っていた…」

「そ…そうですか…」

「私も半信半疑だったがね…

 どうした? 行くぞ、アオイ君」

「はっ…はい!」


一度は引き気味になったジュンだが、フクベが躊躇いもなく歩き出すのを見て覚悟を決めた。

もっとも、心の中では

(このまま帰れなくなったら…ユリカ、心配してくれるかな…?)

などと、女々しい事を考えていたのだが…


ジュンがそんな事を考えている内にも、エレベータは闇の中に飲み込まれるが如く

地下深くに向かって落ちていくのだった…





機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第十一話「さらりと出来る『運命の選択』」その8



俺はナデシコを飛び出し、エグザで敵陣を突っ切る…

途中何事かとリョーコちゃん達に呼び止められたが、無視する事にした。

まだ完全にチャフの影響から脱した訳では無いが、カメラはほぼ有効となりつつある…

虹色にぼやけるものの、視界は確保できる。

敵がナデシコ殲滅を再開するまで5分も無いだろう。エスカロニアの退路確保は上手くいっていると思うが…

そういえば、弓の実戦テストをしていなかったな。

名前は<シュヴァルツ・リースリング>といったか…たしか、ワインの名前から取ったとか。

セイヤさん、その辺はあんまり詳しくなかった筈だけど…

一体誰が吹き込んだんだか(汗)

先ず俺は弓を構え、矢を(つが)えずに引き絞った。


「さて。セイヤさんのお手並み拝見だな、これは…」


引き絞った弓の真ん中辺り…エグザの両手の少し上に、赤黒く歪んだ光を放つ矢が出現する。

その矢は時間が経つほど太くなり…

長さ6m・直径50cmという、巨大な矢になった。


「なるほど…グラビティーウェイブを矢に変えて放つ、と言う訳か。

 確かにフュンフドライブなら連射出来るし、バイパスでエネルギー暴走も起こらない。

 上手い考えだが…さて、どれ位役に立つかな?」


幾つものターゲティングを行い、引き絞った矢を放つ。

矢は幾つもに飛び散り、それぞれがバッタを貫き…

バッタ達が十匹纏めて消えた…


「これは…小型グラビティブラストといった感じだな。しかし…矢を作るエネルギーとは別に、

 周囲に干渉しないで形を維持する為のコーティングで、エネルギーの半分は持っていかれてしまうが…」


それでも、一射3秒でこの威力なら十分だろう。

ただ…あんまり連射すると、ナデシコのパワーダウンに繋がりかねないが…

続けて、今度は背中に背負っている矢筒から矢を一本抜き、番える…


「こっちの方はどうかな?」


そう言いながら、番えた矢を放つ。

放たれた矢は直ぐに“薄く赤い幕”を纏い、敵を引き裂き貫通していく…

そしてそのままカトンボを貫き、地面へと落下していった…


「なるほど。かなりの貫通力だな…やはり、ディストーションアタックが出来るというのが強みか。

 流石、矢一本一本に“重力波アンテナ”を付けただけの事はある…」


多分…後でセイヤさん、使い込みで怒られるんだろうな…

今回の<発明>はかなり役に立ちそうだし、フォローはしてあげないとな。

Xバリスで出来なかった<機動兵器用・携帯グラビティブラスト>…威力は半分以下なうえに、

範囲が10以上分散しないので10までという限定版とはいえ、完成させたんだからな。


そんな事を考えながらチャフの有効範囲を突破…ナデシコの重力波エネルギー供給範囲外に出る。


「流石に、ここからは節約しなきゃな…」


俺は弓を背部にある矢筒のアタッチメントに取り付け、時折ディストーションアタックを仕掛けながら敵第二陣へと向かっていく。

しかし、まさか…オメガの奴、ナデシコの前に直接現れると言うのか…?

今すぐではナデシコの士気に影響する。生死の行方を左右しかねない…せめて、地球に戻ってからならば別だが…


エグザを空中で操れば消耗は激しい…しかし、陸上をちまちま走っている暇は無い。

敵が多い時は、エグザからエネルギー供給をした矢を放ちながら先を急いだ…


「オメガは俺に恨みを持っている。ならば…」


俺が囮になりさえすれば、状況は有利に働くだろう。

その為にも、奴に視認される距離まで行かなくてはな…

邪魔な無人兵器は多いが、動きはそれほど洗練されていない。九割方すり抜けながら進める筈。

俺は戦闘を行いつつ、オメガの乗る船を捜した…














『撤退だ!? 何言ってんだよ! アキトの奴突っ込んでいったじゃねーか!』

「それは…」


ナデシコブリッジでユリカは返答に窮していた…

本当は、一人ででもアキトを助けに行きたい。

そう思っていても、行動できない…艦長と言う“立場”をどう扱って良いのか、ユリカは決めかねていた…

しかし、一度決めてしまった事は今更覆す訳には行かない…それが艦長という職業である。

何故ならその言葉によって、艦の人間の生死を決める事もままあるからだ…


「それは、アキトなら一人でも戻ってくると信じているからです」


彼女にはそう答えるしかなかった。

それが、矛盾する行為だとしても…


『はっ、結構なこった! だがアイツも人間なんだ、いつまでも集中力が続く訳ねえだろ! 俺は助けに行くぜ!』

『はいはい、熱くならないならない。今助けにいったって、どうせ途中でバッテリー切れだよ〜♪』

『4番バッター欠場…バッテリー切れ…ククク

『くそ! わあったよ』


熱くなったリョーコだったが、ヒカルとイズミにさとされ(?)何とか冷静さを取り戻した。

バックパックの換装には少なくとも10分はかかる…

今からだと、ナデシコはエスカロニアとの合流地点に向かっていなくてはいけなかった。

その時からでは間に合わない…

リョーコが諦めかけたその時、


『ちょ〜っと待ったぁ!』

『うお!』

『さっすがヤマダ君、登場タイミング分かってるぅ♪』

『俺はダイゴウジ・ガイだ!』

「ははは…それでヤマダさんは一体何を考えつかれたのですかな?」

『だから、ダイゴウジ・ガイ〜(泣) それは兎も 角だ! アキトを追うなら方法があるぜ!』

『何!? 本当か!?』

『本当も本当! この俺の作戦を聞きゃあ、飛び上がるってもんさぁ!』

『うっわ〜大船と言うより泥舟って感じ?』

『まあ、飛びあえず聞いてげたら? ククク…』

『激しく不安だ…(汗)』

『ったく、信用ねえな〜。

 良いか! 先ずナデシコのミサイルの信管を抜いてエステで飛び乗る!

 後はアキトん所まで一直線って訳だ!』

『うっわ…泥舟というか、泥沼…底なし沼みたいな作戦…』

『死後の世界まで一直線ね…』

『……人間魚雷?』

「ネルガルとしては、その様な作戦には賛同しかねますな〜。

 それでは乗り込むパイロットに死ねといっているも同然です」


プロスは眼鏡を中指で押し上げ、眼鏡を光らせつつ反論をする…

ガイの作戦は、確かにアキトに追いつける可能性を有して“は”いた。

しかし…当たり前の事だが、ミサイルには回避機能は無い。

追尾機能はあるが…プログラム改変で回避機能に回したとしても、大して回避が出来る訳では無い。

そんなミサイルに乗っていけば、途中で撃破される公算が高い…

普通に敵にぶつかっても、そこで敵に囲まれて終わりだ。

何故なら、数が圧倒的に違う。囲まれれば生き残る術はない…

だが、熱血の男ヤマダ・ジロウにとってその程度の事大した事ではなかった。


『なんだなんだなんだお前達! この程度の状況で尻込みするたぁまだまだだな!

 当然、アキト救出には俺が行くさ! アイツはゲキガンガー仲間だしな!』


ナデシコに乗って以来、一緒にゲキガンガーを見たのはアキトだけという状況なので、ヤマダにとってアキトはある意味親友だった。

以前からアキトは、ヤマダの前では何故か和やかに接する傾向があった所為でもあるが…


「へえ〜アキト君って、いろんな所に大人気ねぇ」

「…バカ」

「アキトをそんな変なマンガのお仲間にしないで下さい!」

「アキトさん…アニメとか興味あるんだ…」

「アメジストは喜びそう…」


…女性陣の反応も様々だ。

たまに、アキト本人以外の評価もあるが…


「でも、ゲキガンガーも結構面白いですよ?」

「「「「「…」」」」」

「あは…あはははは…(汗)」


リトリアの発言は大多数(ラピス、ヤマダ、メグミを除く)の冷たい視線にあい、あえなく撃沈された。

最近めっきり聞き役になった所為か、発言に重みの無いリトリアであった…

会議はそのまま流れるかに見えたが…


空気が白けるのを無視してユリカが口を開く…


「ヤマダさん…貴方は生き残ってくれますよね?」

『あったり前だぜ! この俺を誰だと思ってるんだ! このダイゴウジ・ガイ様に不可能はねえ!』

「分かりました。アキトの事、くれぐれもお願いします」

『おう、任せておきな!』

「少しお待ちください艦長。先程も言いましたとおり、我々にはこの後脱出する為にもエステバリスが必要です!

 機体を無駄にするような行為は控えていただきたいんですな」

「無駄にはなりません。だってアキトの救出に行くんですもの。

 それに、私達はエスカロニアと合流します。それを戦力に入れれば、十分戦える筈です」

「しかし、その様な不確定要素に関しては…」


ユリカのあまりに唐突な物言いに半ば呆れながら、プロスが否定の言葉を言おうとすると…意外な所から反論があった。


「ミスター、今回の件は私も艦長に賛成だ」

「ゴートさん…一体どうしたんですか? 明らかに死地に向かおうとしているんですぞ、彼は」

「大丈夫、とまでは言えないが…“提督次第”では彼等にも目があるかも知れないという事です」

「ほう…それはどういった案ですかな?」

「なにぶん提督も秘密主義なので、私に全てを語ってくれた訳ではありませんが…」


ゴートは声をひそめて話し始める…

その内容とは、アルカディアコロニーで研究されていた物の事であった。


「なるほど。確かにそれなら、船よりも効率的に囮を行えるでしょう…問題はタイミングと言う事でしょうか?

 …出来ればそのサンプルでも持ち帰りたいところですが…難しいでしょうね」

「恐らく…」

「それなら、問題ないですよね♪ じゃあヤマダさん、頑張ってください♪」

『だから、ダイゴウジ・ガイ!』

「ヤマダさん。兎に角一度、ミサイル庫まで行って下さい。発射前のミサイルに機体を固定します」

『だから…ダイゴウジ…』

「ヤマダさん急いで下さい。間に合わなくなります」

『はい(泣)』


ユリカに続けてルリの連続攻撃を喰らいヤマダはダウンぎみだ…

兎も角、ヤマダの特殊作戦は採用され、アキト救出に向かう事となった…














ヒッグスブレイクを放った後もエスカロニアは戦い続けていた…

どうにかナデシコ撤退ルートの支援ポイントまで来たものの、現状では敵軍の集まるポイントと化している…


「作戦…いくらか読まれてますね…私の負担が増す程度で済めば良いのですが…」

『戦闘によるエンジンの過負荷が20%を突破…全力稼動を続けますか?』


ヤガネがコミュニケウィンドウを開き通信してくる。

エスカロニアは現在までに、チューリップを3機、バッタ・ジョロ等を600以上、

カトンボ約80、ヤンマ約30という戦績を上げていた…

局地戦なら確実に勝利している規模のものだ。だが…木連は信じられない規模で無人艦隊を展開している。

現在エスカロニア周辺にはチューリップこそ1機しかいないものの、

ヤンマ30、カトンボ50、バッタ300程度の艦隊が展開している…

ヒッグスブレイクで相転移エンジンに負荷を負わせた為、戦闘を継続しながらも

4基の相転移エンジンの内一つづつを休めながら戦っていたのだが…

ガンポッドも弾切れ…ディストーションフィールドも出力が低下し、バッタやジョロなら兎も角、カトンボには殆ど通用しなかった。

その為、先程から相転移エンジンを全力稼動しているのだが…


「不味いですね。このままではジリ貧です…ナデシコは大丈夫でしょうか?」

『まだチャフは切れていない筈です』

「そうですね…後は…アキトさんが突っ込まなければ良いんですが…」

『…』

「…心配しても仕方ありません。それよりも確かに節約…させてくれそうにありませんね…」

『ルリ、敵影21…バッタ20…一機形式不明。形態からジンタイプを推測』

「ジンタイプを推測、ですか…明らかにサイズは違いますが…そんな事、他で言っては駄目ですよ」

『はい。現状ではルリとテンカワ・アキト氏の前以外では言うつもりはありません』

「よろしい。では…戦闘を継続します」


最初は優勢に進めていた戦闘だったが…段々と不利になって来た。

戦力的な均衡を失った事が大きい上に、ジンタイプとソレが連れてきたバッタは動きが違った。

その機体は、形こそジンタイプだが…所々エステバリスの形状が与えられており、動きもほぼエステと同格。

だが、パワーはむしろエステより上だろう…実際これだけでもかなりきついのだが、

バッタが護衛するかのような行動を取る為、上手くこちらの攻撃が当たらない…

一度などはこちらの砲撃を上手く避けた上、ガンポッドのうち一機を中破にまで追い込んでいる。

現在、まともに稼動するガンポッドは5機。他の3機は一機がエスカロニアに帰還し、砲台として使われ…

後の二機は地表に落下している。

ルーミィは相手の行動に怪訝そうな顔をする…

そして暫く考え込んだ後…ふと思いついた様に、ヤゴコロオモイカネに聞く。


「ヤガネ…暫く戦闘を任せても良いですか?」

『反応速度23%減になりますが…』

「構いません」


反応速度23%減というのは、機動戦闘においては死に繋がりかねない数字だ。

それでもルーミィは、戦闘をヤガネに任せた…

そうしておいて自らはウィンドボールから通信を介し、ジンタイプの回線に進入を開始した。

何重にも張り巡らされたトラップをほとんど意に介することなく進入を果たす…しかし回線に入り込んだ途端、相手に感づかれた。

(これは…相手もネットワークに侵入出来る?)

ルーミィは驚きつつも接触を開始する……


ルーミィが電脳世界に入り込んでいる間にも戦闘は続いている…

現在の状況では撃破等を確実に行っている暇はない。

戦闘を継続してはいるものの、牽制を行いながら下がっているのが現状だ。

撤退ルートが確保できなくなっては問題である為、ヤゴコロオモイカネは出来るだけゆっくりと戦線を後退させていた…

だが、ジンタイプの連れてきたバッタ共が動き出してからは不利を否めなくなった。

――動きが全然違う――まるでこちらの動きを読んだかのような機動を行う為、

ガンポッドを出来るだけ寄せてバリア代わりにしながら、下がるしかなくなっていた…


『ルリ…そんなに長くは持ちそうにありません…』


切羽詰ってきたヤゴコロオモイカネは、そうウィンドウを展開するが…

敵機と接触を図っているルーミィには、聞こえる筈もなかった…
















アタシは夢を見る…


夢の中の私は、時を越えてお兄ちゃんにあったけど…


それは幸せだった?


ううん…お兄ちゃんに会ったことは、幸せだったとおもう。


でも、同時におにいちゃんを諦めるしかなかったんだよね…


今のアタシは…できるかな…むずかしいかな……


きっと、そういうことじゃないんだよね…


それでも一緒にいたい…そういう事。影ながらでもいいから…


支えてあげたい…そう、感じているんだよね…


だから…



だから…




【はい、これで私の人生はおしまい。正確にはこれからもあるけど…

 問題なのはここまでの知識…分かるかしら? それとも説明してほしい?】

(説明…大切な言葉だよね…少なくとも私にとっては…)

【そうね…いつのまにか他人に言い聞かせる、理解させるという事が私の生きがいの一つになっていたのかもね…

 でもそこまで分かるという事は、私がアタシに何を言いたいのか分かるわね?】

(アタシは…この知識を直ぐに必要とする…そして、私は…ボソンジャンプでこの時代までたどり着けなかった…)

【お兄ちゃんは…アキト君は、この時代に跳んだ…私は、未来に跳んだ。この違いはなんだったのかしらね…でも、未来には過去に情報を送る為の理論が 存在したわ。私はその技術を開発して実験している…そして、過去の私…つまり<アタシ>に知識を与えようと思っている。でも、この知識はもしかしたらアタ シにはまだ早すぎるかもしれない…脳が追いつかずパンクする可能性も…だけど、記憶する性能は若い方が高い…だから…アタシに聞きたいと思う…アタシに とってこの知識は必要?】

(うん! お兄ちゃん…なんだか気になるの。もう会えないかも知れない…だから…ひつよう…だよ!)

【わかったわ…では、知識のダウンロードを始めるわね…】


アタシは割れるような頭に痛みと共に…


いろいろな事が分かっていくのが感じられた…


アタシは私になるのかな?


でも…



イタイ…頭が…痛いよう…



私…アタシ?



こんな事って…?






ああああああ ああああああああ あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!







闇の中―――




貫くような、刺すような痛みが私を攻め抜き…




頭の中を一度壊されたような衝撃が走った。




そして、徐々に痛みが現実のものでないことに気づく…




白い光と共に…アタシは夢から覚めた…
















「あの…あれで本当に良かったんですか? あれならば、この場を逆転できるかも知れないのに…」


あの後…一応それらしい物は発見したものの、折角の反物質を持ち帰る事も出来ず、二人は小型の輸送船に乗っていた。

流石にジュンは不満そうだ…反物質が実用化されれば、木星トカゲを一網打尽に出来るほどのエネルギー兵器や、

相転移エンジンを超える動力源等が作れるかも知れないのに…

誰もが考える事ではある…しかし、フクベはそれに対し否定的な意見を言う。


「本当にそう思うかね?」

「え…どういうことですか?」

「凄まじい威力の新兵器。もし、それが生産されたとして…我々にも被害をもたらす可能性は考えたかね?」

「それは…しかし、木星トカゲ相手なら…」

「では、救出すべき避難民はどうするのかね?」

「もう、救出は終わった頃だと思いますが…」

「上手く行かない事もある。その場合責任は取れるのかね?」

「それは…」

「私は火星を見捨てて逃げた司令官だ。今更言えた義理では無いが…

 <命の重み>と言うものもある…それに、反物質は持ち運べるような代物でもない」

「そう、ですね。確かに…ボクが迂闊でした」


フクベの言葉に、ジュンは自分が“最悪の可能性”を考慮に入れていなかった事に気付く。

もっとも、フクベは更に最悪の可能性――木連と連合 宇宙軍が双方“反物質兵器で殺しあう可能性”を嫌ったのであるが…

もちろん、その事はおくびにも出さない。


「いや、私と同じ様な過ちを犯して欲しくないだけだ…それに、反物質は使う」

「え…?」

「敵を殲滅は出来ないだろうがね…少しは役に立つだろう」

「もしかして、あの時…」

「まあ、そういう事だ」


ジュンが驚いたように言ったのにあわせ、フクベは髭だらけの口元を僅かに吊り上げた…
















「そうか…エスカロニアの押さえ込みは順調な様だな。倒せれば良し、倒せなくとも時間を稼げればいい…」


オメガの乗り込んでいる戦艦…現在ここには、オメガと四人の子供が集っていた。

戦艦の横には大型の輸送船が浮いており、そこには救出“される筈だった”1000人の避難民がいる…

オメガは、子供達の前で独り言を繰り返しているようなどうでもいい口調で話す…


「…」

「おい、人形ども。準備は出来たか?」

「ハイ、オメガ」

「なら、先ずナデシコに二機向かえ。とりあえず押さえ込むには十分だが…バッタどもを40ほど連れて行け」

「「ハッ」」

「次は上空の艦隊だが、きちんと配置についているか?」

「ハイ、モンダイアリマセン」

「なら次は放送か…」

「ジュンビデキテイマス」


オメガは子供達の報告を聞きつつ、次の作戦を練っている…

事実公表というのは、かなり危険だ。

実を言うと木連の側も“自分達が人間でないという事になっている事実”を利用している…

地球側からの交渉などがあっては、むしろ困るのだ。

<悪の地球人 対 正義の木連>の構図が崩れてしまいかねない…

草壁は地球側の情勢を巧みに利用し、木連軍を<木星トカゲ>として認識させている。

木星の内情を鑑みれば、最初から艦隊ごと移動した方が“占領という(うま)み” を手に入れられるのだから良い…筈なのだ。

それをわざわざ無人兵器のみで戦い続けている所にも、草壁の意図が見え隠れしていた…


「もっとも、俺がそんな事に気を使ってやる必要など無いが…

 今艦隊に引かれれば、全ては水の泡…さて、どうしたものかね…」

「オメガ」


少年の姿をしたそれがオメガにモニターを見るように促した。

オメガは…作戦としては思ったとおりに動いているに過ぎないにもかかわらず、口元がニヤリと歪む…


「そうか……とうとうお出ましか…」


そう、モニターを望遠にして映るのは、エステより流線的なフォルムの機体…

その機体が弓に矢を番えて放つと、カトンボが一撃で貫かれて爆散した。

しかし、矢はカトンボを貫いただけでは飽き足らず…バッタ数機を吹き飛ばし、地面に向かって落ちていった。


「ほう、その弓が新兵器と言う訳か…だが、エネルギー消費が激しそうだな…」

「オメガ、ドウシマスカ?」

「決まっている、出撃するぞ!」

「「ハッ」」


オメガは残る二人の子供を連れて、格納庫へと向かう…

フウジンの調整は子供達に任せてあったので不安な部分もあるが、ラネリーの話ではその辺の事は一通りこなすらしい。

オメガはフウジンに乗り込み、エンジンを起動させた…


「さて、小型相転移エンジン付きのこの機体がどこまでやれるのか…見せてもらおうか」


オメガはフウジンを出撃させる…カタパルトデッキから電磁カタパルトで射出、戦場へと現れた。



続いてリュウジンも二機追いついてくる…



周辺のバッタ達は主の到来を告げるようにその場から引いてゆき…中央に真空地帯を作り上げる…



オメガはその場に静止し、近付いてくるエグザバイトに通信を繋ぐ。




『ようこそ、<Prince O Darkness>パーティは楽しんでくれているかな?』




オメガはニヤリと嗤いながらウィンドウを開く。


テンカワ・アキトと双方でにらみ合う中、


次第に唇がつりあがっていく…




「オメガ……貴様!」





その瞬間…凄まじいまでの殺気が互いの機体から放たれた…!



周囲は、無人兵器である筈のバッタやカトンボですら、凍りついたように動きを止める。



そう…殺気の届くその空間は、何人にも邪魔をする事が許されない<結界>にすら見えた…











なかがき


ようやく、アキトとオメガの戦いが始まる…はっきり言ってこの場を作る為に色々盛り上げたからな〜正直回収が大変そうだ(汗)

それより、今回は文面が荒れてますね…それに、ギャグにも切れが無いですし…

ああ、今回は脇役好きさんが忙しくて手伝っていただけなかったんだよ(汗)

ただ単に、貴方のレベルが低すぎて見捨てられただけでは?

それを言わないで!(泣) 気にしてるんだから!

本当の事を言ったまでです。 それより今回のゲストは誰です?

今回のゲストは熱き男ダイゴウジ・ガイ君だ!

ダイ…ああ、ヤマダさんの事ですか…

違う!  ヤマダ・ジロウは仮の名前! ダイゴウジ・ガイは真実の名前! 魂の名前なのさ!!

ヤマダさん今回は出てましたけど、活躍するのはもう少し後なんじゃないですか?

まあ、そうなんだけどね…でもほらその時は…

ああ! 他の人に主役をさらわれちゃうんですね、いかにもヤマダさんらしい…

さらっ と無視するな! 俺の活躍は何回もあるから今回はちょっと出番を譲るだけだ!! ってそんなネタバレやっても良いのか?

問題ないとは思うけど…

貴方はいつも、悪い意味で期待を裏切りますからね、油断できません。

うっ…

そんな 事はどうでも良いだろ! 俺に聞くことは無いのか!!

そうですね…特に聞きたい事はないですが…いつ死ぬんですか?

俺は死 なん!! 絶対に死なん!! 大体なんで死ななきゃならないんだ!?

だから原作では…

原作!? そんのは知らん!! 俺は俺だ……(滝汗)

まあ、そういうことにしておきましょう、では本日はヤマダ・ジロウさんをゲストに 迎えてお送りしました。

それでは、さようなら。

ちょっ と待て!! 他に質問は無いのか!? 大体話の内容について何にも聞かれて無いぞ!? 本当にそんな終わり方で良いのか!?

私にとっちゃ、いつもの事だな…



押していただけると嬉しいです♪

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.