「通信環境回復です!」

「繋いでください!」

「はい、チャンネルオープンします」

「アキトー!! アキト! アキト!!」


ユリカは、通信回線が開くと同時に話しかける。

アキトの顔はブリッジに大きくウィンドウ展開され、ブリッジクルーは一斉に話しかける。


「また、一人だけで何もかもしようとしていたんですね、アキトさん」

『テメー!! 一人だけで突撃してんじゃねえぞ!』

『一人だけかっこつけちゃってぇ、君は正義のヒーローにでもなりたいの?』

『信号の青の次、そりゃ黄色。きいろー、ヒーロー…ククク

「無茶ばかりしないで下さい! 私だって心配したんですから…」

「アキト、私にくらいは言って欲しかった。助けが欲しいって」



「アキト! 一体どうしたの!? エステバリス隊、発進お願いします! 急いでアキトを回収してください!」

『よっしゃあ!』

『人使い荒いよぉ、もう限界(汗)』

『…待って』

『へ?』


イズミがいきなりシリアスモードに変わった。

周囲は驚くが、彼女は何事も無かったように話を続ける。


『コミュニケ…まだ何か話を拾ってるわ』

「はい?」


その言葉で、ブリッジクルーの目が正面の大型ウィンドウに向く。


「メグちゃん、通信のレベル調整できる?」

「はい、やってみます」


ユリカに促され、回線のボリューム調整とゴミ取りを行うメグミ。

調整されたコミュニケはアキトとオメガの会話を拾っていき…

そして、その内容にブリッジクルーは凍りつく。

アキトの命と、1000人の避難民の命…その二つの危機が同時に迫っているのだ。


そんな中――リトリアが居なくなっていた事に気付いた者 は、いなかった…





機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第十一話「さらりと出来る『運命の選 択』」その12


「メグちゃん! コミュニケ、アキトの所にまわせる?」

「無理です! アキトさんはエグザバイトの外に出てしまいました。コミュニケでは追いきれません」

「他には、何か通信可能な物はない?」

「アキトさん、通信用の端末を持ってないみたいで…」


ユリカは真剣な表情でメグミに聞くが、それを聞いたメグミは力なく返すだけ。

現状は最悪に近かった…

1000人の命と、アキトの命。場合によってはナデシコクルーの命も…

ブリッジは静まり返っている。

天秤に乗せられた二つの重さに皆が緊張し、言葉を失っていた。


そんなブリッジ内で能動的に動いているのは、二人だけ。

ラピスとルーミィである…


『本当に、そう言ったのですか?』

『うん。というか、それ以外に言うと思う?』

『いえ、いつも無茶ばかりしていましたから。十分考えられる事です』

『どうしたらいいかな?』

『何を言ってるんですか、もう既に始めているのでしょう?』

『だって…』

『ええ、私も別方向からアプローチしてみます。

 …でも、多分無理でしょうね…あの人の考える事ですし、この場でそのままとは考えられません』

『うん』

『それでも、私達にできる最善を尽くしましょう』

『そうだね。結局それしかないよね…私達フィジカルの方は駄目だもん…

 だけど…もしアメジストが居れば、何か出来たかな?』

『…そうですね』


ラピスはウィンドウを幾つも同時展開しているし、ルーミィはコンソール上のディスプレイを見ているだけ、

緊張しているブリッジクルーはその事を気にも留めていない。

だが、ブリッジの時は再び動き出す…外部からの声によって…

コミュニケを介してオメガが話しかけてきたのだ…


『はじめまして…ナデシコの…諸君…』

「…あ…貴方が、オメガさんですか!?」


ユリカは思わず声を震わせて、そう返した…

ブリッジのメインスクリーンに投影された彼の姿は死人そのものの紫色の顔で、体中を自らの血で赤く染めたやぶにらみの小男。

とても、ナデシコに敵対できるとは思えないほど消耗しきっている。

だが…風が吹いただけでも死んでしまいそうな、そんな姿でありながら、

その鬼気は緊張感漂うブリッジに冷たい戦慄をもたらしていた…


『なあに…ひとつ、君達に選ばせてやろうと言うのさ…』

「なにをですか?」

『テンカワ・アキトの命と…火星の民1000人の人質…どちらを取るのかをな…』

「…っ!!?」

「ちょっと!! あなた、どうしてそんな事ができるの!?

 なんで木星トカゲの味方なんかやっているのか知らないけど、同じ人間なんでしょう!?」


ユリカに突きつけられた言葉に、思わずミナトが叫ぶ。

しかしオメガは口元をニヤリと歪めて言葉を返す。


『面白い…事を言うな…だが、こうした事は、人間の…歴史を紐解けば…嫌というほどあった筈だが?』

「なんで、木星トカゲの為にそんな事をするのかって、聞いてるのよ!」

『クククク! ハーッハッハッハ! ゲボォ! ゼェゼェハァハァ…お笑い種だな、まさかそんな事を言われるとは思わなかったぞ』


オメガは吐血し口元を紅く染める…それを無造作に腕で拭いながら、オメガはミナトを睨み返す。

ミナトはその威圧的な――ともすれば殺意すら混じる ような――目を前に、体がすくんでしまった…


「なっ、なによ?」

『ふん…お前達が嫌いだからだ、それで十分だろう…理由などはな…』

「…っ!」


口にしたのはそんな言葉に過ぎなかったが、オメガは凍て付く様な鬼気を放ち続けている。

鬼気を正面から受ける形になったミナトは、反論しようにも動く事すら出来なくなった…

ミナトが反論できなくなった事を確かめた後、オメガのその目が、ユリカに向けられる。


『さて…最後通告だ。どちらか選べ…ミスマル・ユリカ。

 助けられるかどうか分からないテンカワ・アキトか、確実に助けられる1000人の命か…

 もっとも、テンカワ・アキトを助ける事は不可能だがな…』

「そんな…ううん、アキトは死なないよ。貴方なんかに殺されない…」

『根拠の無い事を…だが…それなら、貴様の取る選択は決まっているな…』

「…」


ユリカはその言葉を聞き、硬直する。

――そう、今の言葉はアキトを見捨てる事と同じ…

とても、自ら選べる選択ではなかった。


「私は…」

『ククク』

「アキトを置いて行くなんて…」

ズドォォォン!!


その時、オメガの映る画面にノイズが走る…

そして破砕音が連続し、オメガの元へ<何か>が迫っている事を告げる。


『何をやっている!?』


オメガは動揺したように背後を振り返る。

しかし、そこには何もない…

コックピット内には誰もいなかった。

…が、コックピットの近くで何かが引きちぎられる音がする。


『な!? 貴様! まさか!?』

『ジャンプ!』


コミュニケウィンドウからその声が聞こえてきたとほぼ同時に、上空に巨大な穴が出現し、

その穴に徐々に吸い込まれるように、オメガの小型ジンはエグザバイトの残骸を胸に突き刺したまま消えていった。

後にはナデシコと、少し離れた所を飛ぶ人質を乗せた輸送船が、

さしたる速度を出すわけでもなく、ただただそこに浮かんでいた…


「え!? アキト!?」

「レーダーの索敵範囲には反応ありません、通信で呼びかけてみます!

 アキトさん! 返事をしてください! アキトさん!」

「相転移エンジンの暴走って、そういう事なの!?」


ユリカが驚いているうちにも、メグミが呼びかけを始めている…ミナトは少し見当外れな事を考えていたが、

ブリッジクルーも殆ど知識を持っていないものばかりだったので、考える事は似たり寄ったりだ…

もっとも、ルーミィやラピスのような逆行者と、ネルガル社員は少し事情が違ったが。


「…いや、はや…良く分からない事態になりましたね…兎に角、

 一度戦力を立て直しつつ人質の奪還を行った方が良いと思うのですが、艦長はどう思いますかな?」

「え? はい…そうですね……

 エステバリス隊の回収後、輸送船の起爆装置解除班を編成してナデシコを接舷、陸戦要員と共に突入させて下さい。

 作業開始から30分以内に撤収、使用可能なら輸送船をそのまま火星脱出用に仕立てます。

 作業、直ちに開始してください…」


ユリカは一連の命令を下すと、虚脱したようにその場に座り込んだ。


――結局、自分には選択する事が出来なかった。


そう言う考えが、ユリカの頭の中で渦を巻いていた。

どちらが“より重い”のか…それは決まっている。

だが、その本人が決してそれを望まない事に気が付いてしまったから…


「酷いよね、ごめんね、アキト…」


それでも、時間はただ過ぎ去っていく…

生き抜く為には動き続けねばならなかった。

オメガだけが敵と言う訳ではないのだから…



















俺はフウジンに取り付くと、振り落とされないようにしながら呼吸を整える…


「フウゥゥゥゥ…ハアァァァァ…」


空気が壁のように打ち付けてくる中での呼吸調整は困難だったが、ここでやめられるはずも無い。

ラピスが間に合ってくれればいいが…ナデシコが近づきすぎている。

このままでは、ナデシコが相転移に巻き込まれる…

俺は必死で呼吸を整えた。


そして、木連式の肉体操作術<(まとい)>と<(あ らがね)>の二つを同時に発動する…

纏は筋力を一時的に増幅する催眠暗示の様なものだ。筋力のリミッターを外す事により、スピードもあがる。

ただ普段使っていない筋肉も酷使する結果になるので、使用後は激しい衰弱感や、筋肉の痙攣等といった副作用も多い。

それに対して、鉱は硬気功の一種だ。

もっとも、鍛錬で硬くしたのではなく、文字通り<気>でその部位を覆う所が他流派との最大の違いだろう。

これも、長時間使用すると筋肉の硬化で動けなくなる、という副作用がある。

それだけに、制御していられる時間は短い…

ナデシコのみんなの命が、この一撃にかかっているといってもいい。

もっとも、的はでかいのだ。ただ瞬間的に足を踏ん張れればいい。

俺は、体勢を整えると唯ひたすら一点に集中する。


そして、フウジンの腕の付け根にあたる腕部ジョイントに向けて、手刀を叩き込む!


ズドォォォン!!


「グウゥ!!」


くそ! 骨が何本かいったな…

だが、小型ジンの腕部は既にジョイントが半ば壊れていた為、容易に吹き飛んだ…

流石、<木連式秘伝 穿孔牙(せんこうが)>――瞬間的とはい えその硬度と速度で鋼をも穿つ、と言うだけのモノがあるな。

もちろん、フウジンの装甲は硬いが、ジョイント部までそうである訳ではない…という事も、破壊できた一因ではあるが。

ともあれ、纏と鉱を重ねた穿孔牙によって腕がちぎれ飛んだフウジンは、体勢を崩して半回転しようとする。

俺はその軽くなって上を向こうとする“腕の穴”に滑り込んだ…


「くそ! 放熱系もやられているのか…」

『何をやっている!?』


フウジンの中はかなりの熱を持っていた。

…まぁ、やったのは俺だから仕方ないんだが(汗)

コックピットは脱出回路と直結しているのだが、このサイズではそれらが頭部に入っていないのは明白だ。

胸部にコックピットがあるはず…

俺はコックピットの下部――と、思しき場所――にある回路を引きちぎる…

ジンタイプの系統なら、ジャンプユニットがここにあるはず…奴はコックピット部だけ切り離して跳ぶはずだ。

例え死の淵にあっても、俺の死を確認せねば死ねない筈だからな…

だが、用心深いお陰で俺も助かった。

胸部にジャンプユニットを確認した俺は穿孔牙をもう一発叩き込み、ジャンプユニットから核となる大型のCCを引きずり出す。

そして、俺はエグザを喰らいつかせたままのフウジンをジャンプフィールドで包み…


『な!? 貴様! まさか!?』

「ジャンプ!」


跳んだ…


















ナデシコのバーチャルルーム…

現在は外の風景を、ただ映し出している…

ここはオモイカネにとっては現在誰も使用していないはずの部屋である。

しかし…誰も使用していないはずのそこに人影が一つ、ぽつねんと立ち尽くしていた…


「ここまでも…私が介入出来れば良かったけど…ううん、今まではやっぱり無理だった。

 でも、ここで私が出て行ってしまうと、次で打つ手がなくなる…」


人影は何かぶつぶつと呟いていたが、それでもその目には真剣さが伺える光があった…


「まだ、私の“今の立場”は必要だよね…ここで出て行けばネルガルも動き出すし、今までのままではいられなくなる…

 そうなると、次に起こる事の対処が間に合わないよ。元々、私はその為に来たんだから…

 でも、だからって、アキトを見殺しなんて出来る訳無い。やっぱり、行かなくちゃ…

 …?」


人影は懐から何かを取り出そうとする。

しかし、取り出す動作の途中で手を止めた。


「気のせい?

 ううん、これは…

 誰かが…

 …まさか!?

 …

 そう、あの子……

 …さんにお礼言わなくちゃいけないかな?」


そう言ったかと思うと、人影は懐に入れていた手を出した。

しかしその手には、特に何も握られていない…


「私が出ないでいいって言う事は、喜ばしい事なんだけど。ちょっと、やけちゃうね…」


そう呟き、人影はバーチャルルームから出て、廊下をブリッジへと向けて歩き始めようとした。

しかし、背後からいきなり衝突されてバランスを崩し、もんどりうって倒れる。


「いった〜!」

「すいませんですぅ…お怪我はありませんか?」

「全然大丈夫! でも廊下で走ったら危ないよ、一体どうしたの?」

「はい、あっ、そのう…急いでいかなくちゃ! ご主人様の一大事ですぅ!」

「え〜っと、どこに行くの?」

「格納庫ですぅ! これでも私、複葉機の操縦経験があるんです よ!」

「へ〜、そうなんだ…(でも、何故複葉機…)」

「では、急いでますので失礼しますですぅ!」


廊下を駆けていくコーラルの姿を見て、リトリアはふと思った。

彼女は一生懸命なのだ。でも適材適所という言葉もある、彼女の行動は無駄になる公算が高い…

今まで自分の立場では動きが取れないと思っていたが、考えてみればやりようは幾らでもあることに気付いた。

リトリアはそうした事に気付かせてくれたコーラルに感謝しつつ、彼女を呼び止める事にした。


「コーラルさん、待ってください」

「ふぇ? なんですか!? 今急いでるんですぅ!」

「テンカワさんを助けたいなら、今は動き回るより医務室の準備を手伝った方が良いですよ」

「…どういうことですか?」

「テンカワさんは無茶をする人ですから、帰ってくる時は満身創痍になっているんじゃないかと思うんです。

 でもその時、《ベッドの数が足りません》なんて言いたくないですし」

「…そうですぅ、ご主人様は何時もみんなを心配させて、ちょっと問題あるとは思っているですぅ。

 でも…それもみんなのためだから、強く言えないんですぅ」

「まあ、そこはテンカワさんのいい所だから、頑張ってみんなでフォローしてあげなきゃ」

「いい事言うですぅ。そうですね、じゃあ医務室の手伝いにいきますですぅ!」

「私も行くつもりだったし、一緒に行きましょう」

「はい!」


そうして、二人はちょっとずれているような会話を交わしながら、医務室へと歩いて行く……

ややあって二人が医務室につくと、そこには既に長蛇の列を作っている人々がいた。

ナデシコ内は、アキトに深く関わる者達の沈んだ雰囲気に押され沈み気味だが、

それでも脅威が去った事への安堵感が広まりつつあった…

そんな中でも、火星脱出の準備は着々と行われている。

その準備はウリバタケ率いる整備班員主導のものだが、彼等は安堵も、気を抜くことも出来なかった。

彼等の腕には、火星の避難民・ナデシコの乗組員、併せて千数百もの命が掛かっているのだ。


ここで失敗すれば……


そのプレッシャーは半端なものではない。そして、そのプレッシャーを受けた整備班員達が放つ真剣さ気迫…

それらは手伝いをしている非戦闘員達にも<命懸け>という事実を伝え、作業の正確性をアップさせていたのだが…

同時にそのストレスから、休憩時間にカウンセリングを受けようとする者が多くなるのは、自明の理であった。


「はぁ〜みんな大変そうですぅ…でも、ご主人様のためにも、何とか早めに切り上げてくれないと…」

「む〜…そうだ、カウンセリングなら一応私も出来るよ」

「そうなんですか? 凄いですぅ!」


こうして、担当医師と話をつけて、リトリアはカウンセリングを引き受ける事にした。

条件として、宗教勧誘は禁止というものがあったが、リトリアは特に不平を言うわけでもなくカウンセリングを始めた。

部屋を移動したので医務室は一時的に静かになったが、

直ぐに人質にされていた人達の怪我人や病人がどっと押し寄せたので、結局目の回る忙しさとなった。

コーラルも、アルコール消毒や病人食の給仕、(病室の)ベッドメイキング等に飛び回る結果となり、

考える余裕も無く動き回る事となる。

多少ドジをしても問題ないような仕事ではあったが、その量が半端ではなかった。

まだナデシコ内の怪我人すら治療が終わっていなかったのだから、医務室はパンク気味でぎりぎりやっているという状態となっていた…












俺はオメガを連れて、ボソンジャンプをした…

俺達はフェルミオンボソン変換により、一度全ての 構成要素をボース粒子に変換。

そして、変換されたボース粒子に自分の情報を波動としてのせて、演算ユニットが基準点と定めている過去へと先進波で送り込む。

次は遅延波でもう一度徐々に、元の時代の<目標地点>へと移動する…

実際はその速度は光の速さを超えず、波動の状態から粒子の状態へと変化する事によってもとの状態に復帰する。

俺が知るボソンジャンプとはそういったものだ…


そして、俺達はその場所へと出現する。

その場所は、俺が見知った場所。周囲の空間が全てC・Cで覆われている遺跡。

木連やネルガルの最終目的地。

火星極北冠遺跡――イワト。

俺たちが出現したのは、その中央にある演算ユニット直上の縦穴…

出現と同時に俺は素早くフウジンから脱出した。


『ま…さか…』

「そういう事だ…ここならお前が何をしようと、爆発が外部に漏れることは無い」

『だが…それは…貴…様も…同じ事……』


そういいつつ、オメガもコックピットから這い出してきた…

既にフウジンの下部は遺跡のディストーションフィールドと接触、斥力により崩壊を始めている。

それに後一分もしないうちに自爆により、相転移を引き起こすだろう。


「ククク…流石に俺にももう…打つ手は無い…だが、貴様にも無いはずだ…」

「観念するしかない訳か。冥土の土産に一つ教えてくれないか?」

「何をだ…」

「この先に仕掛けた爆弾、歴史の流れを加速するもの…」

「…ハハハ…ヒン…トをやろ…う、お前の…やった…事が…無駄に…なる様に…してやった」

「…!?」

「そろそろ…ジ・エンドだ。仲…良く…地獄に行く…としようか…」

「どんな事を考えていたのかは知らんが、最後の賭けは俺の勝ちだな」

「な、に…!?」


俺は話しながらイメージを固めていた。もうそれほど力は残っていないが、ほんの十メートル程度なら…

気絶しそうなほど痛む体と、思考がまとまらない、ぼやけた頭でどうにか考えた事。


「ジャンプ…」


手元にあったC・Cは消滅しているが、周辺にある遺跡の構成物質は全てC・Cだ、ジャンプに支障は無い。

俺は十メートルほど下、遺跡のディストーションフィールド内までジャンプした…

オメガはそれを見て唖然としている…奴自身は元々ジャンプで逃げるつもりだったろうが、それもジャンプシステムがあっての事。

体中にナノマシンの光が浮き出し、紫色に変色した体をどうにか引きずっているだけの

死を目前にした今の状況では、とてもジャンプなど出来まい。


「なぜだ!? なぜこうなる!? 作戦でも、数でも勝っていた…なのに、貴様は…

「貴様の言う悪運のお陰だろうさ…」

「そうか…貴様の…悪運、地獄から…見ていて…やる。精々…あがくんだな…」

「そうだな…オメガ。勝負はこれからだ…」


ゴゴオオオォォォォォォォォォォォン!!!


奴の言葉が聞こえなくなるのと同時に、耳の機能が失われるほどの巨大な音が鳴り響く。

俺は、咄嗟に耳を塞いでいたが…

奴は、最後に怨嗟の言葉を吐いたのだろうか…それとも満足して逝けたのだろうか…

急速に体中の力が失せて行く…筋肉は硬直し、体の感覚が殆ど無い。

まともに動くどころか、指一本動かせそうに無い…落下中の体はだんだん頭が下になっていく。

地上までは、まだ100m近くある…このままでは死ぬな…

だが、ここで死ぬ訳にはいかない。

俺は生きて帰らなければならない。そう…親しい人達が望む限りは…


「まったく、俺はもう満身創痍だってのに…」


俺は体の中に残っている力をかき集め、左手に集める…

利き腕は右だが、既に骨が折れているので使えない。

今から体勢を変えている暇も無い…

俺は、左腕に<(あらがね)>による硬化をかけて頭の上に突 き出す。

そして、地面と衝突した…


ズウゥゥゥン!!


………

……




世界が俺を拒絶する…


再認識される…奴はきっと、世界の意思。


俺のやったことは間違いだったのだろう…


昔、ルリちゃんが言っていた気がする。



世界をリセットすれば、思い出すら消えてしまう…



おれがやろうとしているのはそういう事…


ルリちゃん…いや、今はルリか…彼女は何も言っていない。


それは、彼女なりの選択だったのかも知れない。


だがルリは、本当はどう思っているのだろう…?


俺のした事は…ただ戦乱を激しくする“きっかけ”になってしまうのだろうか…


間違いは正せばいい…そんな簡単な事ではなかったのだろう。


結局俺は、戦争という炎に油を注いでしまったのだ。


これから地球の人々を襲う災厄は、俺の責任なのだ。だから…ここで死ぬ訳には行かない。


オメガ…お前の所には何れ行こう。


だがそれは、俺とお前の撒いた種を刈り取ってからだ…


それまで、地獄の席を空けて待っていてくれ…


………


……





…ちゃん


(…?)


…兄ちゃん


(声…か?)


「お兄ちゃん!」


…?

その声は…


「お兄ちゃん! しっかりするでちゅ! 今意識を手放したら死んでしまうでちゅ!」


で…でちゅ?

俺の知り合いには、そんなに幼い子はいなかったと思うが…

そう思って、かなり力を入れてまぶたを開く。


「お兄ちゃん! 気がついたでちゅか! ふぅ…よかったでちゅ。

 今出来うる限り応急手当してまちゅから、もう少しの間気をしっかり持っていてくだちゃい!」


ぼんやりと、俺の視界に飛び込んできたのは、少し栗色がかった金色の頭だった…

俺はぼやける視界を何とか調整して、その頭に目を凝らす。

よく見れば、その頭は耳の上辺りで髪を縛ってたらしている。

反対側も同じになっている所を見ると、彼女はツインテールのようだ…

そして、暗いこの場所でも分るほどの白い肌が、彼女が誰なのか伝ええいる。


「…アイちゃん」

「お兄ちゃん、今はまだ話さないでくだちゃい。体力がまだ回復してまちぇんから…でも、これでどうにかなりそうでちゅ…」


アイちゃんは俺のパイロットスーツを既に脱がしており、両腕には添え木(木があるわけではないので代用品)、

更に、パイロットスーツに備えつけられた薬を傷口に塗って、自分の服をちぎった物を包帯代わりに巻いている。


「ふう…取り合えずこれで、応急処置は終了でちゅ」

「ありがとう…でも、どうやってここへ?」

「…お兄ちゃんのペンダントを使わせてもらいまちた。

 …ごめんなちゃい。でもお兄ちゃん、このままじゃ死んじゃうところだったんでちから!」

「そう、だな…でも何故そんな事が…?」

「説明おばちゃんが言ってまちた」

「…イネスさん?」

「フフフ、そうでち。いまのわたちは、おばちゃんの記憶を引き継いているんでちゅ」

「……(汗)」


ちょっと…いや、かなり理解しがたい。どういう理由でそうなったのか聞きたいが…

聞いたらどうなるのか分りきっているので、今回は遠慮しておくことにした。

意識を保っているだけでも限界に近いから…


「出来れば、今の内に演算ユニットを回収しておきたいが…」

「…それなんでちゅけど」

「どうした?」

「無いでちゅ」

「?」

「演算ユニットは既に誰かに持ち出されていまちゅ…」

「何!?」

「多分、それほど時間が経ってはいないと思うでちゅが…」

「…そうか」


これが、オメガの言っていた事の一つか。

本当に…戦いはこれから、という訳だな。


「それよりも、今はお兄ちゃんの命の方が大事でちゅ。

 今は小康状態でちゅが、それも痛覚が麻痺してるだけでちゅから、直ぐに熱が出て意識がまたもーろーとしてくると思いまちゅ」

「…そうだな」

「だから、直ぐにナデシコに向かいまちゅ」

「だが、ボソンジャンプは…」

「そんな事言ってられないでちゅ、第一もう、二人とも地球まで跳ぶ力は残ってないでちゅ」

「…そうだな、頼む…また、意識が朦朧としてきたみたいだ…

「…!!」


その後もアイちゃんは何かを言っていた様だが、俺にはもう聞こえていなかった…

視界もぼやけて、既に周りの状態も把握できない有様となっていたし。

思考も段々鈍ってきた…今後の事で心配は山積みだが、今はもう何も出来ない。

今は唯ひたすら眠かった…もう、目を開けている事も出来ない。

瞼を徐々に下ろしていく。

完全に瞼が閉じた時、俺は既に意識を手放していた…









次回予告

火星で1000人の生き残りを救ったナデシコ

しかし、帰路は平坦な物ではなかった。

負傷して動けないアキト。

ギクシャクとする人間関係、不足する物資。

ナデシコは無事地球へとたどり着く事ができるのか?

次回 機動戦艦ナデシコ〜光と闇に祝福を〜

第十二話 「本当に『必要』なもの」をみんなで見よう!









あとがき

あとがき…なんと嬉しい言葉…(泣) 今回は終わらせられないんじゃないかとすら思ったほどに…

まあ、遅かったですからね、最後の二本は特に…

そりゃあね、クライマックスシーンだし。

嘘をつきなさい、プレッシャーに負けてゲームに逃げてただけの癖に。

はははは…まあ、その辺は置いておいて、11話最後のゲストはオメガ君だ。

どうも〜♪ オメガっで〜す♪

…本物ですか? 唯のそっくりさんじゃ?

いや、かれはあれが正しい(汗)

まあね〜、もともとの性格ってある じゃん? 俺の場合は、可能性だけど、ある条件がそろってたら、サブロウタの友達だったかも?(笑)

条件厳しいけどね(汗)

ほう、そうなんですか、では今までのは全て演技だと?

そんなわけないじゃん、おれアキトに 勝つ為に色々頑張ったんだぜ〜

信用できません。それに、アキトさんを潰そうとするものは、私に消されますので気をつけてくださいね(ニヤリ)

お〜こわ〜、大丈夫だって、もう俺は アキトに手を出したりしないよ。手は打ってあるしね(笑)

その手を吐きなさい! そうすれば、ラクに死なせてあげます! さもない と、地獄の精神攻撃を受けることになりますよ。

地獄の精神攻撃? 一体どんな?

ゲ キガンガー全39話。フルマラソンで10回連続放映、眠れないように色々仕掛けてあげます。

ククク…甘いぜ、木連にいれば嫌でも 見せられるんだ、耐性は出来てるよ。

そうですか、では頑張ってみてください。あ、いい忘れていましたが声は吹替えてあります。



天空ケンはナチュラルライチの声。ナナコさんは、博士の声をサンプリングしておきました。因みに博士は、ランプータンの声で話します。

…それって。(汗)

ああ、心配する事はありませんよ、まだ他にも吹替えパターンは色々あります から。原作を知っている人ほどこれは効きます。頑張ってください。

ちょっと! え? 俺ゲストじゃ!?

気にするな、ここに出てくる男の扱いなんてそんなもんだし。

まあ、物分りのいい……貴方も見ていきますか?

いえ、結構です(汗)



押していただけると嬉しいです♪

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.