「分りました、その方向で一度調査を行ってみます。
クリムゾンの組織力は世界最大ですので、調べきれるという保証はないですが…」
「仕方ないだろう。それにクリムゾンにあると決まったわけでもない…可能性として高いと言うだけの事だ」
「はい、それは承知していますわ。でも全てを同時に行う事は出来ませんもの」
「そうだな」
そう返事をして、俺は紅茶を飲み干した。
問題はこれからどうするかだが…俺は全治3ヶ月クラスのダメージを負っていた。しかも、失血死寸前の状態だったからな…
正直手術無しで助かるとも思えない、昏睡(こんすい)状態に近いはずだ。
意識を失う前に聞いた台詞から考えて、今頃俺(の体)はアイちゃんと共にナデシコの中だろうが…
そこで手術と輸血を受けたとしても、昏睡から醒め、身動きが取れるようになるのは何時になるやら。
…暫くはアメジストの身体に厄介になるしかないのだろうか?(泣)
(アキトは私を嫌いなの?)
いや、そういう訳では無いのだが…
(男女の生理的なもの?)
それもある。
(他には?)
能動的な行動が取れない…それに、船のオペレートは無理だ。
(…ふふふ、だったら私が教えてあげるよ)
頼むから、ヤメテクレ…(汗)
こうして、死に掛けているはずの俺は、数日間しごくのんびり地球で過ごす事となった…(汗)
機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜
第十二話 「本当に『必要』なもの」後編
アキトの手術が山場を越えた頃、コーラルは医務室を駆け回るようにしながら仕事をしていた。
「どいてどいてどいてくださぃ〜!!」
トレイの上に十以上のお粥を乗せ、コーラルはあっちに行ったりこっちに行ったり忙しい。
実際、このナデシコ医務室の全てのベッドは一杯で、点滴をしている人以外はほぼ全員がそれを必要としているのだから仕方ない…
コーラルはこれでも、三度に分けて昼食を運び込んでいる。
コーラルもアキトが危ない状態にあり、手術中であることは良く知っている。
その手術室の前には自失状態のラピスが座り込んでいるものの、現在動きは無い。
彼女をちら、と横目に見るが、しかしコーラルに現場を放棄する事はできなかった。
なぜなら、手術が終わればアキトをベッドで寝かせねばならないのだ…そのためには、少なくとも一つベッドを空けなくてはならない。
誰かの部屋に運び込めばいいのだが、アキトは手術直後なので医療設備の整ったこの部屋でなければいけないだろう。
そうなると、誰かに出て行ってもらわねばならない。
それを見越してかリトリアから近くの部屋を空けてもらう様に申請が出ており、ユリカも事情は察しているので既に許可を出していた。
しかし…現在は医務室が一杯で、しかもそれぞれ病気や重傷の患者のみだ。
少しでも良くなるように手早く必要な事を済ませていかなければ、病室のベッドを空けることなどできない。
幸い22世紀現在、重傷でもその回復はかなり早いので、一時間程度で部屋を移せるほど回復する者もいた。
彼等が医療用ナノマシン(異物)注入に抵抗がない火星人だったからこそ回復が早い、というのもあったのだろう。
ともあれ、コーラルは多少強引ではあったものの、そういった人達にベッドを空けてもらう様に頼み込んでいた。
「ふう、これでひと段落ですぅ。そろそろご主人様が手術を終えられる頃ですから、手早くベッドメイキングをしないといけませんね」
コーラルは無心に働いていた。アキトの事で不安に思う事が無い訳ではない。
だからこそ、彼女は仕事をする事でそういう不安を忘れるようにしている、と言っていい。
ただ、そうしている彼女は普段よりもミスが少ない、というのは皮肉ではあったが…
「アキト…私がアメジストだったら良かったのに…」
手術中のランプがともる手術室の前でラピスはそう呟く。
彼女のリンクは本来はアキトと繋がっているが、現在のような意識が飛んでいる人間とのリンクは出来ない。
しかし、アメジストは違う。アキトの心を囲い込んでしまうのだ。
だから本体に動きが無い状態でも、脳が起きている人間とならリンクできる。
そのリンクの繋がりをラピスは感じていた。
ラピスにとってやはり、リンクというものはアキトとの特別な繋がりを示す物だったから。
それで上を行かれるのは寂しい。
だけど、そういうことではなくでもアキトと話したいと思う。
でも今はそれが出来ない……
アメジストとのリンクの繋がりにアキトが居る事が分っているのだから、無事であることだけは解っていた。
しかし、それでも不安なのだ。
「アキト…早く帰ってきて」
そう呟き、またランプを見る。
アキトの治療をただじっと待つ時間、それはまるで永遠であるかのように思えた。
以前アキトが三ヶ月もの入院をしていた時、どんなに寂しかった事か…
いつも、自分を励まして居なければ心が折れそうだった。
あの時の痛みを再び繰り返すなんて、考えただけでゾッとする。
やっぱり、アキトに危ない事をさせるのはやめようとラピスは思うのだった。
そんな事を考えている内に、ランプが消え――
「あ!」
ラピスは手術室に駆け込もうとするが、出てきた医者に止められた。
「アキト! アキトに会わせて!」
「大丈夫、手術は成功した。
信じられないほど心拍数が安定していてね。これほどの手術の割には、不思議なほどスムーズに済んだよ。
これなら全治一ヶ月程度で済むだろう」
「アキトは大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ。今から病室に搬送する。付き添ってあげたまえ」
「ありがとう!」
ラピスは泣いていた。死ぬ筈がないと分っていても不安だった。
それが解消されたせいで泣いていた…
ストレッチャーで病室に運ばれていくアキトに追いすがりながら、自分はやはりアキトの近くにいないと意を新たにし…
…ラピスは心が軽くなると同時に、こっそり貸しポイントを追加するのだった。
ナガサキシティの山の手にあるマンション――
俺は本来の自分の部屋…の、またどなりになる一室に来ている。
というか、紅玉の部屋なのだが、今の俺はアメジストの体を使っている格好なので仕方がない…
俺が火星に向かう前のように、紅玉にアメジストを預かってもらっているのだ。
で、現在は朝の着替えを紅玉に手伝ってもらっている…というか、紅玉のおもちゃにされている。(汗)
このアメジストに俺が乗り移っている(ような)現象……正確にはリンク状態で俺自身の感覚が失われているので、
彼女の感覚がダイレクトに俺の脳に転送され、更には俺の脳からの電気信号が演算ユニットを介して伝わり、
アメジストの脳の指令と誤認されて肉体を動かしている。という事らしいが…
俺の感覚的にはアメジストの身体をほぼ違和感なく動かす事ができている。
実際、不思議な事もあるものだとは思う。
だからといって、こんな状態をいつまでも続ける訳にも行かないがな。
(あまり気にしない方がいいよ、アキトそういう事を気にしすぎるみたいだし。でも…)
ああ…すまないな。
(ううん、まぁ体を見られるのは仕方ないと思う)
それでも…
(気にしなくていいよ。むしろ着替えやらされるのは面 倒だから、アキトが変わってくれて嬉しいよ)
うぅ…
そう、今俺は紅玉に着せ替え人形にされているのだ…(泣)
「ねぇねぇ、アメルちゃん♪ 次はこれ着てみて、新作よ♪」
「…(汗)」
「ふふふ…アメルちゃんはいつ見ても可愛いんだから♪」
紅玉は新作とか言う奇抜なデザインのロリータ服(ピンク系)を俺に近づけてくる。
男の俺としては絶対遠慮したいデザインと色合いだ。
ただでさえ恥ずかしい上にスカートは下半身がスースするわ、かぼちゃパンツなんぞはく羽目になるわ…(汗)
男性としての尊厳が失われかねないとうのに…(泣) 更に恥をかかせるつもりか!?
(大丈夫だよ、アキト今女の子だし♪)
そんなの理由になるか!!
って…アメジスト、お前も楽しんでないか?
(さあ?)
アメジストの笑いの感情が伝わってくる…コイツは…
四面楚歌か…
アメジストと漫才をやっているうちにも、紅玉は俺に近づいてくる。
何だか俺(アメジスト)を見る目がアブナイ…
紅玉…もしかして、そっちのケがあるんじゃ…
(ううん…それはないと思う…)
何でそんな事が分る!?
(アキト紅玉の事疑ってるんだ?)
まあ疑っていると言うか、人の趣味はそれぞれだからな…とりあえず俺の身に危険が降りかからなければ(汗)
(私だったらいいの?)
いや、そう言っているわけではないんだが…
「アメルちゃんどうしたの? 顔色良くないわよ?」
「…ちょっと気分が、だから今日はその服勘弁して(汗)」
「む〜仕方ないなー。本当は今日試したかったんだけどーまあいいや」
「ありがと(ふう)」
(気にしなくても紅玉は可愛い物好きなだけだから、それ以上をする事は無いよ。
ただ、頬ずりとかのスキンシップはあるかもしれないけど)
それはそれで心臓に悪そうだ…
「熱は無いみたいね…」
紅玉は俺(アメジスト)と額を合わせて熱を測る。
何もこんなやり方をしなくてもとも思うが、まあこれが彼女のやり方なのだろう。
「どうしたの? 最近の新造戦艦の調整とかって、辛い仕事なの? だったら休ませてくれるように言ってくるけど…」
「ううん、そうじゃないけど…今日はもう休ませて」
「分ったわ。でも、もし明日も悪いようだったら言ってね? ちょっと検査してみるから」
「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ」
何か紅玉が驚いたような顔をしていたが、気にせずアメジストの寝室に入る。
元々ここに住んでいたので、アメジスト用のベッドやゲキガングッズがまだ残っている。
俺の部屋に転がり込んできた時も、置ききれないものは紅玉の所においていたのだ。
「ふう……これで、何とかあの服を着る事は回避できたみたいだな」
(もう、意気地なし。こういう時くらい楽しんでも良いのに…)
お前も倫理観が未発達だな(汗) 今度正しい倫理というものをだな。
(それは良いよ。でもねアキト、私の身体を使ってるアキトは私より可愛いんだよ?)
ぶっ!!
(反応が違うもの。驚いたり、怒ったり、悲しんだり、笑ったり…
私は無表情だし、感情があっても表に出したりしないから)
なにを言い出すかと思えば…アメジスト、お前は勘違いをしている。
(どういうこと?)
無表情とか、そんな事は克服できる物だ。ルリがそうだろう?
それに、何故俺の記憶にあるナデシコのルリちゃんは人気があったんだ?
何故お前達のコンサートは成功した?
「そんなの…そんなの分らないよ!」
(あれ? 何で私声が出たんだろ?)
…
(どうしたのアキト?)
いや、一瞬だが意識がとんだ。
(どうして。ううん…もしかして)
多分そうだろうな。俺がお前の身体を使えるのは、
“俺が出す信号”を“おまえ自身の信号”より優先するようになっているからだろうが、本来そういうのはおかしい。
そしてアメジスト、お前は少しずつ自分と言うものが強くなってきているんだろう。
徐々に俺が優先権を取得する事は無くなっていく筈だ。
(そんな…私が感情を強くしたから…)
気にする事じゃない、これは正常な事だ。
これからはリンクを減らしていく方が良いな。
(だったら、私は感情を…)
バカな事を言うな! やっと感情が芽吹いてきたというのに。
(でも、アキトに身体を使ってもらえる方がいい)
何故だ? 何故そんな事にこだわる…
(私はアキトの影…そう、影なんだから…)
俺はそんな事を望んでいない!
アメジスト、お前も一人で立ってほしい。俺など必要としないのが一番なのだから。
(アキトはいつもそう、心の奥まで入り込んでおいて…一人で立てなんて…出来ないよ)
すまない…そうだったな、俺も早まった事を言ったと思う。
だが、少しずつでいい…自分の望みを持ってくれ。俺も応援するから。
(…私の望みはアキトと共にある事だよ)
それは、本当にお前の望みなのか? 俺の記憶がそうさせているだけじゃないのか?
(アキトのバカ、そんな事も分らないの?)
何!?
(アキトの記憶をもっているアキト自身は、アキトの事好き?)
それは…
(そうだよ、アキトの記憶は判断材料にはなるけど、一緒にいたいと思うかは別だよ。それに私は…)
俺の記憶が全てと言う訳ではないんだな? だとすれば俺と共に居る危険性も分る筈だ。
(それは、その通りだとおもう。
でもこれは私が選び取った事。アキトがどんなに迷惑だと思っても、アキトの事を支えていきたい)
……
まったく…頑固者だな。
(父親に似たのかもね?)
そうか。その通りかもな…
(アキトの言うとおり、感情を捨てようなんて考えるのはやめる。でも、リンクは時々してね?)
はぁ…わかった、言うとおりにするよ。
アキトが眠りについた後、私は少し目を開けてみた。
私の記憶、実はアキトにもらったものとその後の記憶が全てと言う訳ではない。
アキトに出会う前の事も覚えている。そう…培養層の中の記憶も。
私たちは…10人の私達は、主たる者を見つけ出すために作り出された存在。
だから、私は選んだ…アキトをマスターとする事を…
それは、まだ誰にもいえない秘密。
だけど、だからこそアキトから離れる訳には行かない。
でも、アキトにとって私は…ううん、私もアキトの事をマスターというより…
「アキトは頑固すぎるよ…頑固親父の称号をあげるべきかも?」
様々なものが頭に渦を巻くけれど…ふと口をついて出たのは、そんな呟き。
私にとって最も近しい存在となりつつあるアキト…
でも、その感情ゆえに段々とリンクがはがれてきている気がする…
ううん、リンク自体はむしろ強くなった。でも身体にアキトを迎え入れる事は難しくなっていくのかも知れない…
私にとって本当に必要なのは、マスターとしてのアキト? ずっと一緒にいてくれるアキト?
…そういうことじゃないとは思う。
でもやっぱり寂しい…
「本当に<必要>なものってなんだろう?」
これから先、ずっとこの疑問を抱えて生きていくのかな……?
そんな事を考えているうちに私も段々眠くなり、ついに眠りに落ちた…
「本当ですか!?」
『はい、まだ予断を許すような状況ではありませんが、手術はほぼ成功しました。後は本人の体力の回復を待つのみです』
「やったやった♪ ルーミィちゃんやったよ〜♪」
「はい」
アキトの手術が終わった事を聞いたユリカは踊りまわってルーミィに抱きつき、彼女もそれを嫌がる訳でもなく受け止めている…
そんな平和な光景のおかげか、ブリッジの空気が先ほどまでより少し和らいでいるのが感じられた。
…が、興奮のためか、ユリカはルーミィに抱きついたまま、一向に放そうとしない……
「嬉しいのは判りますが、そんな事をしているとアキトさんに誤解されますよ?」
「うっ、ルーミィちゃんの意地悪ぅ!」
「まあ、艦長が誤解される分には構いませんが、私を巻き込まないでください」
「うぅ、そんなのないよ。アキトの事心配してたのに…」
「それは同じですし」
「それはでも、ホラ…」
「それに艦長はアキトさんの料理を食べる事しかできませんが、私は手伝えますし」
「…うぅ…ルーミィちゃんのばか〜!!」
心理的に追い詰められたユリカは走ってブリッジを去っていく…
論点がはっきりしていないし、ましてやアキトが言っているわけでもない。
ルーミィは単に言葉遊びをしただけなのだが、ユリカはアキトが関わるとその辺の理屈が消し飛んでしまうらしい。
ユリカ相手に完勝したルーミィに、通信士席から声がかかる。
「ルーミィちゃん、意地悪だね」
「そうでしょうか?」
「意地悪だよ」
「そうでしょうか?」
「うん、意地悪」
「そう…なんでしょうね、やっぱり」
ルーミィはユリカに対して思う所がある。
共に逆行したはずのユリカはどこにいるのか、そして今のユリカはアキトに相応しいのか。
ルーミィには判らなかった……尤も、例えどうあろうとも自分の気持ちを偽るつもりは無いのだが…
暫くしてブリッジに帰ってきたユリカは、少し目が赤かった…多分泣いてきたのだろう。
だがそれはルーミィの所為と言うわけではなく、純粋にアキトの無事を喜ぶ涙だった。
ルーミィは確かにユリカに思う所があるものの、その辺の配慮なしにやったわけではないのだ…
彼女が心を整理する時間を与える意味で一度外に出したともいえる。
戻ってきたユリカの膨れっ面にルーミィは口元を少し緩めて笑い、
そして、会議は再開した…
「以上が私が考える火星宙域脱出プランです。意見や反論はありますか?」
「確かに、彗星の陰に隠れて移動するという案は賛成だ。だが、現在のナデシコでそれが可能か?」
「ナデシコ、エスカロニア共にかなりの損傷が見られます。修復に、出来れば二日は見て頂きたいですな…
整備班の働き次第と言う部分はありますが…」
「何言ってやがる! 俺たちゃ徹夜の連続で気を失うものも出てるんだ! 今すぐはとてもじゃねーが無理だよ!」
「と、言う訳です…艦長、どうしますかな?」
ユリカの脱出案に対する反論は多い…現在は艦も人員も疲弊が激しく、通常航行さえ難しい状況になりつつあった。
補給が期待できる訳ではないし、救出の為の艦隊も来ていない、その上1000人の避難民を抱えての脱出である。
戦闘は不可能だと言っていい状況だが、差し当たり現行のルートでも木星トカゲに遭遇していない為、どうにか切り抜けられている。
しかし……脱出の為に高度を上げるとなると、火星圏を抜ける前に必ず追撃が掛かるだろう。
ユリカとしては出来るだけ脱出経路をカモフラージュしていきたいと考えているが…
ナデシコの状態がそれを許さない事も、ユリカにはよく分っていた。
しかし、このままでいいという訳でもなく、打開策を練る為に作戦会議を開いているのだった。
「その前に…一つだけ寄ってみたいところがあるんですが、構いませんか?」
「寄ってみたい所?」
ブリッジの皆の視線がルーミィに向く。余りにもとっぴと言うか、自殺行為になりかねない意見だからだ。
しかし、彼女はその視線を平然と受け流しながら続きを言う。
「火星の静止衛星軌道に、隕石に偽装されたステーションがあります。
可能性は五分五分ですが、生きている可能性があります」
「何? それは、ステーションヒルコか?」
「そうです」
「はえ? ステーションヒルコってなんです?」
ルーミィの言った言葉に真っ先にゴートが反応する…
だがおかしな事に、かつて火星に住んでいた筈のユリカは知らなかったらしく、不思議そうにしている。
ルーミィはそれを見て少し表情を曇らせる。とはいっても、誰にも分らないほど密かにだが…
「ステーションヒルコ…公式のコロニーではありません。いわゆる軍事コロニーの一種ではありますが、
その目的は“もし火星の住民が反乱を起こした時に核を打ち込む”と言う事の為に存在している、危険極まりないコロニーです」
「そんな…それじゃあ、私たちはいつも狙われていたって言うんですか!?」
「連合宇宙軍も一枚岩ではないと言う事ですよ。
少なくともアジア、中央アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカの五大勢力が存在します。
特にアメリカやヨーロッパは提督クラスの軍人に日系が多い事を良く思ってません。
特に火星は日系企業ネルガルが開発の音頭を取っていましたから…
それを良く思わない所は多かったと思います」
「つまり、ネルガルと敵対する勢力のコロニーっていう事?」
「はい、そうなります」
「う〜ん…危険かもしれないけど、誰か人がいるなら助けなきゃ。一度コロニーに寄ってみましょう!」
「それもそうですが、あそこなら補修用の物資もあるかもしれません。
元々火星が反乱を起こした時、連合宇宙軍の拠点にする予定だったんですから」
「うん、じゃ決まり!」
ユリカは詳細を聞かされて少し迷ったものの、ルーミィの言葉にも助けられ、補給も兼ねてステーションヒルコに立ち寄る事とした。
ナデシコの疲弊は、賭けに出なければならない程、人・物両面に及んでいたのだった…
次回予告
――火星静止衛星軌道上――
そこには火星を全滅させるに十分な核が埋蔵されたステーションが存在する。
その名はステーションヒルコ。
隕石にカモフラージュされたそのコロニーで補給を行うナデシコクルー
だが、平穏無事に終わる筈もなかった。
襲い掛かる木星トカゲを避けナデシコは無事火星を離れる事ができるのか?
次回 機動戦艦ナデシコ〜光と闇に祝福を〜
第十三話 「『時々』聞く言葉」をみんなで見よう!