色々とバタバタした休日が過ぎ、どうにか平常運転に戻りました。
ジャキーニさんたちもきっちりと反省してもらって、また農場で働いてもらっています。
それと、クノンの感情もアキトさんのお陰で落ち着きを見せたようです。
それから数日、特に何事もなく過ぎました、帝国軍の事もありますのであまり安心はできないんですけど。
警戒してばかりもいられません。
特に私は授業がありますから!
「はいそれじゃ、今日の学校はこれでおしまいです。
宿題にしてあった作文、明日集めるから忘れずにもってくること、いいわね?」
「「はーい」」
スバル君とパナシェ君はいいお返事を返してくれます。
2人とも、何か夢があるんでしょうね。
マルルゥはなにやら悩んでいるよう、一体どうしたのかしら?
「マルルゥ、どうしたの?」
「将来のゆめって一つだけです?
マルルゥ、なりたいものが一杯なのですよ〜」
「うーん、じゃあ、順序をつけて書いてみてくれるかな?」
「はい! 一番はお花屋さん、二番はお菓子屋さん、三番は……」
「はいはい、おうちで書いてきてね」
「あっ、ごめんなさいですよ〜」
マルルゥは鉛筆を抱えるように持ちながら書こうとするけど、今公開しちゃったら発表できないですし、
そういう意味では、もうちょっと待ってもらったほうがいいですね。
逆に、ハサハちゃんはなんだか無言で紙を見つめています。
一言声をかけておきましょうか。
「どうしたの?」
「ハサハにんげんになりたいの……」
「ハサハちゃんは妖狐だから頑張れば変化に磨きがかかります。
きっとそこまでたどり着けますよ」
「(こくり)」
ハサハちゃんの願いが厳密に叶えられるかどうかは分からないですが、
完全な変化の術を体得すれば人との間に子を成せるという話しも聞いた事があります。
そう言う意味ではハサハちゃんは成長すれば願いを叶える事が出来ると言う事でしょうね。
そんな事を考えているとベルフラウが立ち上がり、
「だいたい、将来の夢なんて作文にして発表するようなものじゃないですわよ」
「どういう意味?」
「目標なんてものは公言したりせず、胸に秘めて実現を目指すものってこと」
「不言実行ということ?」
「そのとおりですわ」
「たしかに、ベルフラウの言う事も一理あるわね。そういう美徳もあるわ」
「でしょう? でしたら……」
「宿題は宿題です。
きちんとした目標をたてなさいとはいいません。
やってみたいと思っていることを素直に書いてみましょうね?」
「それが簡単に出来たらこんな小細工なんてしませんわよ……」
「それを言ってしまったらお仕舞いな気もしますが……」
なんというか、まあ仕方ない所もあるんですけど……。
だって、ベルフラウの本来の目的である帝国軍学校からはるかに離れたこの場所で、ですから。
元の夢をそのまま書くのもどこか厳しいものがあるでしょうしね。
あっ、そう言えばアキトさんは……。
「逃げましたね……」
「それは逃げるでしょう」
「えぇー、マルルゥは楽しいですよぉ、クロクロさんは楽しくないのですか?」
「まあ、将来の夢っていう年でもないですものね……」
そりゃあ確かに私より年上ですしね……。
皆と一緒に授業を受けるのが恥ずかしいとはいつも言っていますが、今回のはダメージが大きかったでしょうか。
でも、こうしている事でアキトさんが明るさを取り戻しているように思えるので辞めてあげるつもりはありません。
ということで、宿題はお部屋に届けておきましょう。
そんなこんなとがやがやしているうちに、一人減り二人減り、私とベルフラウだけが残りました。
「では、青空学校も解散した事ですし、召喚のほうの授業を再開しましょう。
ぱぱっと終わらせて、宿題もがんばりましょうね!」
「はぁい……」
ベルフラウは明らかにやる気なさげですが、なんだかんだ言っても真面目な子ですし、きっと書いてきてくれるでしょう。
後はアキトさんにどうやって書かせましょうか……。
ちょっとばかり面白い事になったと口元が笑いの形に歪みかけるのをベルフラウの前では隠していました。
あまり褒められた事じゃないですけどね……。
Summon Night 3
the Milky Way
第十章 「迷走する思い」第一節
アティの不穏な空気を察し、俺はさっさと青空学校を逃げ出してきた。
まあ、許してもらいたい。
一応ここ数日は何もないが、周辺警戒の意味もある。
それに実際、もう26になろうかというのに今さら将来の夢と言われてもな。
料理人になって、ミシュランに紹介されるような店を持つとかいう昔の夢をこの世界で等と考えてしまう自分が泣けてくる。
そもそもミシュランなんてこの世界にはないが……。
それ以前の問題もある……料理に対する気持ちの整理はまだ付いているとは言えない。
ただ、それでも、オウキーニに言われた事を思い出す。
「そう言えば、そろそろオウキーニが来る日か。
となると、俺の料理も披露しない訳にはいかないな……」
「おにいちゃん?」
「ん? ハサハか、今から料理を作ろうかと思ってな、手伝ってくれるか?」
「(こくり)」
そう言えばハサハも青空学校に行っているんだったな。
ハサハは学校が終わるまでいたんだろうが、それでも追い付かれたと言う事はよほど考え事に集中していたと言う事か。
俺はハサハの頭をひとなでし、急いで帰る事にした。
そろそろ昼食の時間になる、仕込みは昨日のうちにだいたいやってあるが、オウキーニに先に来られる可能性が高そうだ。
あまり待たせるのも悪いしな。
そんな事を考えながら、いつもの通りカイル一家の海賊船へと向かっていると、
当の海賊船から絹を引き裂くような乙女の悲……いや、麻を引き裂くような漢女の悲鳴が聞こえてきた。
「ダメッ! やっぱりアタシ耐えられなーいッ!」
「今さら泣き言なんて、聞く耳持ちまへんでー!」
「ふふふ……、さあ観念しな」
「ぎャあァァァァァァァ!?! イヤあぁぁーッ!!!」
スカーレルがオウキーニとカイルから逃げ回っている。
2人が手にしているのはお椀と箸、というかカイル……いつの間に箸の使い方を覚えたんだ……。
っと、そんな事はどうでもいい。
この構図はいったいなんなんだ?
「一体どうしたんだ……」
ぼけっと見守っていると、スカーレルが俺を発見、何を思ったか突撃してくる。
いや、違った……滑り込むように俺の背後に隠れる。
目が助けを訴えていた、しかし、正直あまり心に響かない。
「ああ、アキト、助けてよぉ〜っ!
カイルたちったら、嫌がるアタシに無理やり……」
「気色の悪い言い方をするんじゃねえッ!」
「ウチらはただ、これを食べてもらおうとしただけなんですって」
「タコか」
「タコだぜ?」
「ゆでダコですわ」
「そんな、気色悪いもの、絶対アタシ食べないからッ!!」
ふむ、ヨーロッパではデビルフィッシュと呼ばれている地域もあり、食べられない人も多いと聞く。
因みに、デビルフィッシュは一つの種類を指すのではなく嫌だと思う海の生き物全般を指す様子だ。
日本ではタコが食べられない外人が言うのが代表的だと思われがちだが、実はエイのほうがメジャーだったりする。
クトゥルー神話におけるクトゥルーがタコ頭なのは、ラヴクラフトがタコ嫌いだったからだとか。
まあ、一概に西洋=タコ嫌いとも言えないが、日本人に比べればタコ嫌いが多いのは間違いない。
カイルは好きでスカーレルは嫌いと言うだけの事かもしれない。
「何言いますの! 見てくれで判断したらタコに失礼でっせ!」
「そうだぜ、歯ごたえがあってなかなかイケるのに」
オウキーニとカイルが俺を挟んでじりじりとスカーレルにすり寄っていく。
いやまあ、好きなのはわかるし食わず嫌いは良くないが、こんな迫り方をされれば当然逃げ出すだろう。
仲裁なんて俺の柄じゃないが、仕方ない。
「その辺で辞めてやれ」
「アキト、お前もか!?」
「そうでっせ、こんなにおいしいのに!!」
「あ〜んアキト、ありがと!」
何だか凄い構図なので、俺はハサハを一度見て、先に行くように促し、それから3人に向き直る。
それから一人一人に向き合い。
「オウキーニ、料理人っていうのはなんだろうな?」
「えっ、そりゃ美味しい料理を食べて喜んでもらう仕事ですわ」
「なら、押し付けるような真似はやめろ」
「へい……すいません」
「カイル、旨いものを勧めたい気持ちはわかるが、勧め方というものがある。
追いかけられれば逃げたくなるのが心理だろ? 海賊ならわかるよな?」
「まっ、まあな……」
「スカーレル、嫌なのは分かるが、大人げない事を言わずに1切れだけでも食べてみないか?
味のほうは、俺も保証する。オウキーニの腕は知っているだろう?」
「うーん、だけど……」
駄目なようだ、どちらかと言うと見た目が嫌なんだろう。
なるほどな、これは……。
「仕方ありまへんな、今日の所は諦めます。
でも、何れスカーレルはんにも『うまい!』って言わせて見せますさかい覚悟しときなはれ」
「う、うん……その時を楽しみにしてるわ……」
「旨いのに、勿体ないぜ……」
そう言ってスカーレルは去っていく、その姿を見送り、茹でダコを食べながら移動していくカイル。
鍋そのものはここで今も湯気をたてている、まあ、そのうち売れてしまうだろう。
俺も後で頂くが、先に済ませないといけない事もある。
「そう言えばあんさん、前に言った事覚えてますか?」
「ああ、今日は料理を用意しよう、ただまだ、仕込み段階で置いているからな。実際に作るのはこれからだ」
「ほうほう、それは楽しみですなぁ、もちろん料理人として渾身の料理をつくってくれはるんですやろ?」
「そうだな……俺にとってはそうなる」
この料理を再び作ることになるとは、俺は今まで考えた事も無かった。
しかし、オウキーニの勧めもあり、俺は一つの決意をしていた。
それは一度作ってみると言う事。
悪人が救済を行うのが間違っていようとも、助けられるべき人にとっては関係無いように。
悪人が料理を作るのが間違っていようとも、食べる人には関係が無いのかもしれない。
もしも、悪人である事を理由に誰も食べてもらえないなら、それが正しいと言うだけの事。
作る側が、作ってはいけないなんておこがましいのだろう。
オウキーニはそう言っていた。
「それじゃあ少し時間をくれ、作ってくるから」
「はい、期待しておりますで」
「それまで俺の分も取っておいてくれよ」
「分かりました」
海賊船の調理室に戻った俺は昨日から仕込んでおいた鳥ガラスープを取り出す。
今朝までコトコト煮込みながらアク取りに精を出しただけあって味は悪くない。
麺のほうも、製麺所があるわけでもないので配合比を考えながら手作りしたものを取りだす。
「おにいちゃん、ハサハなにする?」
「そうだな……。包丁使えるか?」
「(こくり)」
「ふむ、じゃあこのねぎ(のようなもの)を千切りにして、その後でこっちの肉を薄切りにしてくれるか?」
「わかった」
ハサハはぱたぱたと台をとりに行き、その上に立つ。
台所のテーブルはハサハにはまだ高いようだ。
そして、割と慣れた手つきでねぎを切り始めた。
これなら任せておいても問題ないだろう。
しかし、和服のまま台所に立つのはあまりいただけない。
「エプロン、少し大きいかもしれないが、これをつけてくれ。
汁なんかが飛んで服が汚れるかもしれないからな」
「(こくり)」
和服には割烹着だろうとかセイヤさんがいたら言いそうだが、少なくともこの海賊船にはそんなものはない。
今度ミスミにでも聞いてみるか、いや、メイメイの店なら置いてそうだな。
ハサハが俺の守護獣として一緒にいるならこれからも料理を手伝う事があるだろうしな。
別に和服の上にエプロンでも、明治風の喫茶店とかでいそうだが。
「俺は製麺のほうをやっておくことにする」
昨日から煮込んでいたスープを取り出し再沸騰させながら味を見る、問題はないようだ。
この世界にもなぜかある、小麦粉その他の多種の粉を配合したものを十分に捏ねて寝かせた麺を取り出して伸ばす。
空中で伸ばすような特技はないので、地道に伸ばしていく。
だが、今回はかん水を練りこんでいない。
かん水(アルカリ性塩水>炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、
リン酸類のカリウム塩もしくはナトリウム塩のうち一種もしくは二種以上含むもの)
はラーメンを作り始めた頃中国において塩湖の水等を使われていたそうだ。
理屈の上では、海水でもいいのだが、細かい塩分調整をしないと麺に影響しかねない。
かん水は麺のコシを高め、麺の色が黄色くなり見栄えがよくなるという2点の得点がある。
しかし、かん水の影響が強くなりすぎると、麺を食べた後にかん水独特の臭気と苦味が残る事になる。
それも何週間かかけて調べればなんとかなるが、時間がない。
だから、今回は麺のコシが弱くなるのを承知で、うどんなどと同じように普通の塩水を練りこむ。
取りあえず両方とも問題はないようだ、ハサハに頼んだネギや肉のほうも問題ない様子。
後は、茹で卵を用意、それともやしの代用が出来そうな野菜はあったが、流石にメンマは用意できなかった。
とはいえ、ラーメンを作るための基本的な具は用意できた。
後はもう一度ダシを煮立たせ、人を呼ぶだけでいい。
「ハサハ、そろそろ出来そうだから皆を呼んで来てくれ」
「(こくり)」
ハサハが出て行くのを確認してから、俺はふぅっと一息つく。
久々に作ったラーメンはやはり色々な事を忘れている事に気づく。
だが、一応味に問題ない程度には作れたはずだ。
緊張と、期待がない交ぜになった心理が心を満たし、俺は今さらながらに料理というものが好きである事に気づく。
「そうか……、そうだったんだな……」
不思議と以前ほどには嫌な気持ちは沸いてこなかった……。
ベルフラウの召喚の授業を終えて私は帰途につく事にしました。
ベルフラウは、船が見えてくると、自習をするといって先に戻ってしまいました。
私も入ろうかと思ったところ、
ソノラがスバル君とパナシェ君、それにマルルゥを連れて船上に出ているのを見ました。
ソノラがどこか得意げで、スバル君達は興味津々と言った感じでしょうか?
私はちょっと行ってみることにしました。
「みんなこんなところで何をしているの?」
「ソノラが船を見せてくれるっていうから、遊びにに来たんだよ!」
「こんな大きなお船、僕たち見た事なかったから」
スバル君とパナシェ君は満面の笑みで船を見ています。
考えてみれば、この子達が船上まで来たのは実は初めてかもしれません。
近くまでなら来ていた事もあったと思いますが。
特にマルルゥは、私やアキトさんを呼びに来るのが定番でしたしね。
「海賊の事が知りたいって頼まれてさ、口じゃなんか説明しづらかったから。
へへへっ、こうして、実際見て回ることにしたワケ」
「なるほど」
こうやって色々体験させて学ぶのも、この子達のためになるかもしれません。
特に異文化コミニュケーションというものは、触れてみなければ分からない事も多いですから。
私自身、ここに来てからは驚く事ばかりですし。
「ねぇ、この大きな筒みたいなのはなんなのです?」
「ふふーん、そいつがウワサの大砲よ」
マルルゥが上空から指差したのは大砲、軍船や海賊船に積まれている大型の銃とでも言うべきものです。
巨大な砲弾を飛ばすため、火薬を大量に必要とすると聞いた事があります。
船に大穴を空けるためのものなのですから、威力は下手な召喚術より上です。
上級の召喚獣でないと対抗しづらいくらいに。
だから、海上では召喚合戦なんて悠長なことはせずに、砲弾のぶつけ合いになるらしいです。
「おおー! ソノラが得意だって言ってたアレか!?」
「たしか、ものすごく大きな音がして爆発するんだよね!」
「こわいけど、ちょっと見てみたい気もしますねぇ……」
「そう?
よーし、そういう事なら特別にあたしが……」
ポカッ
「調子に乗りすぎ!」
ソノラの頭にゲンコツを落とします。
正直、危険なものをおもちゃにしたがるのは子供のサガですが、まかり間違えば人が死にます。
でもソノラはテンガロンハットを抑えながら、不満そうに見返して……。
「ぶーぶー……」
まだまだ子供っていうことですね。
その顔を見て、私は思わず笑ってしまいました。
その後拗ねられて大変だったんですけどね!
俺がラーメンの用意をしていると、呼びに行くまでもなくカイルとスカーレルがやってきた。
何だと聞かれたので、俺は早速作って渡し、ラーメンという料理である事をつげる。
カイルが早速それを食べ始めた、最初はおっかなびっくりだったが、ずるずる音を立てながらすすり始める。
「へぇ、これがラーメンか、こりゃうまいな!」
「お箸で食べるってことは、この料理もシルターン料理ってことね?」
「多分、な。何分おれはシルターンそのものは知らないからな。
これは俺の知る、和製中華ということになるか」
「和製中華?」
よく分からないという顔で聞き返すスカーレル。
確かに、この世界の住人にとっては聴きなれない言葉ばかりだろう。
ゲンさんに聞いたところ、俺達のいた世界はこの世界においては”名もなき世界”としか呼ばれていないそうだ。
ただ、それでも過去何度かこの世界に呼び出された事はあるため、
召喚術を修める者の中には地球の事を少しは知る者もいる。
まあカイルやスカーレルは知らなくて当然だろう、もしかしたら召喚師であるヤードなら知っているかもしれないが。
「俺の世界にある国の名だ、中国という国から入ってきたラーメンを日本という国流にアレンジしたものだな」
「へぇ、面白い事してるんだな」
「なるほど、食に歴史ありとか言うものね」
「この世界にもそんな諺があるんだな」
「ええ、貴方の世界にもあるの?」
「ああ」
まったく似ていないものがあると思えば、よく似た部分を見せる。
この世界と俺のいた世界との微妙な差異が時々作為的に思えて仕方ないが、今はそれ以上考えても仕方ない。
それに、ハサハがオウキーニ達を連れてきたようだ。
俺は早速、麺をゆでにかかる。
「ほう、流石の手際やな。やっぱり素人さんやなかったんですな」
「一時期ではあるが屋台を経営していた事があるからな。まあ食ってみてくれ」
「ありがとさんです。ほう、これはちょっと面白い麺ですな」
オウキーニは流石にシルターン自治区の出だけあって、ラーメンについても知っているようだ。
シルターンは日本と中国のちゃんぽんのようなアジアテイストあふれる世界のようなので、
こういう事もあるだろうとは思っていた。
オウキーニはテーブルについて、ラーメンをひとすすり。
「ふむ、シルターンのラーメンとは少し違いますな」
「俺はそっちを食べた事がないからなんともいえないが、かん水のことか?」
「ほう、確かに。この麺かん水がはいっていないようですな?」
「まあ、海水を使っていいものかどうかわからなかったからな」
一発で見抜くとは、流石オウキーニといったところか。
それとも、この世界でも黄色い麺があることに驚くべきか。
どちらにしろ俺はかん水を作るためのナトリウム塩やカリウム塩と硬水がどこにあるかも分からないので仕方ない。
オウキーニは一通り食べてからふぅっと一息つき、感想を述べた。
「美味しいですわ、独特の食感に味、どちらもなかなか味わえるもんやおまへん。
ですが……」
「ああ、流石にあれから数日だから、まだスープも仕上がったとはいえないし、面は即席の感がぬけない」
「ならどうすればいいかはわかりまっしゃろ?」
「そうだな……日々の研究に精を出すさ」
「はいな、ええお答えです」
実際、ラーメンの完成度はルリちゃんに渡したレシピの7割程度しか再現できていない。
腕の問題もあるが、食材の研究が間に合わなかったのが大きい。
やはり、料理は日々精進なのだろう。
そんな事を考えている間にも人が集まってくる。
「あっ、アキトさん今日は料理してるんですね。……これはなんですか?」
「スープにパスタを入れているみたいですわね。
こんな細長いパスタを使っているものはあまり見ませんが……」
「へぇ、いい匂いじゃん、アタシもちょうだい!」
アティ達がやってきた、引き連れているのはベルフラウにソノラ、それとスバルとパナシェとマルルゥか。
マルルゥには小さい器と分量を計算して渡さないとな。
「これはもしやラーメンではありませんか?」
「ヤード、あんたこの料理知ってるの?」
「はい、私も一時期はシルターン料理に凝っていた時期がありましたので」
「シルターン料理ね……」
ヤードの声はどこか嬉しそうで、俺としては期待を裏切らないですめばいいのだが。
スカーレルは初めて食べるわけだから茹でダコのように逃げ出さないでくれればいいが。
どちらにしても、これが気に入ってもらえるかは俺にとってはかなり重要な事だ。
一般の海賊達は先にラーメンを食べ始めていて、気に入ってもらえているようなのでなによりだ。
ほとんどがフォークで絡めて食べているが。
「キュウマが言うゆえ来て見たが、なるほど料理をしておったとはの」
「ミスミッ!?」
「わらわには教えてくれぬのかのう?」
どうやらキュウマが張り付いていたらしい、近くなら俺は気配で察するのだから、
このあたりのどこかに盗聴器のようなものでも仕掛けていたか。
ミスミは俺に向かって拗ねて見せている、わざとだと分かってはいるが、やはり対処するのは難しい。
俺は首を振って一度落ち着き、言葉を返す。
「これはオウキーニとの約束だったからな、いずれ本格的に作るならもちろん呼ぶつもりだ」
「ふむ、これは試作品か。しかし、もちろんわらわにもくれるのであろ?」
「どうぞお客様」
そう言って俺はラーメンを入れたどんぶりと、箸をまとめてミスミに渡す。
ミスミも箸の国の住人には違いないので、うまく箸を使ってラーメンを食べ始める。
もっとも、男や子供達と違ってラーメンを啜っているにも拘らずどこか気品があった。
「ほう、これは面白い味じゃの、そばとも違う、うどんとも違う。
ラーメンというものも聞いた事はあるが他所の国の事だったゆえ、詳しくは知らぬ。
どうやら完成が楽しみな食べ物のようじゃの」
「そう言ってもらえるなら光栄だ」
ミスミの声を聞きながら俺はもう一杯ラーメンを作る。
さっきからウエイトレスをしてくれているハサハにも食べてもらわねば。
それから一時間ほど、ラーメンはもう売り切れていたが、一部の人達はそれで足りなかったらしく、
言われたので俺はチャーシュー丼をしておいた。
これは変え玉戦法とよく似た戦法で、ごはんにチャーシューを乗っけて、
先ほど食べていたラーメンの出汁をかけて完成というお手軽料理である。
まかないから発展した料理の一つで、一部ではまったく違う料理になっているところもある。
ともかくそうして腹いっぱいまで食べた人から順に食堂を出て行った。
更に1時間ほど経ったころにはもう人は残っていなかった。
「ふう、久々にラーメンを作ったせいか、少し疲れたな……」
「おにいちゃん、おてつだいは?」
「後は片付けだけだから、ハサハはもう寝なさい」
「(ふるふる)」
相変わらずのハサハの頑固さに苦笑しながら俺は結局手伝ってもらう事にした。
とはいっても、出汁や麺の後片付けが終わればどんぶりを洗って終了という簡単なものだったが。
どんぶりそのものは、元々あったものだけでは足りなかったため、少し前にメイメイの店で買い叩いている。
その日、俺は罪の意識等忘れてしまったかのように、心地よい疲れと共にぐっすり眠った……。
あとがき
また久々に更新ですw気長にお待ちくださっている方もいるようなので嬉しい限りです。
ただ、完結までどれくらいかかるかは予想がつきません。
実はサモンナイト3は、全部で16章からなっており、今回からの話は第10章になります。
しかし、前半と後半で言えば後半のほうがイベントは圧倒的に多く、
ニコニコ動画などにUPされている比率を見ると、1〜9章までと10〜16章までの話数の比率は
1〜9章が4に対し10〜16章は6となります。
別々の2つの動画で同じ比率だったので多分間違いないでしょう。
となると、計算上、この先は今までの1.5倍のボリュームになるという事でして。
いつ完成するのかちょっと怖い事になりますね(汗)
ともあれ、ゆったりとではありますが続けていく所存ですのでお待ちいただければ幸いです。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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