「ふう、久々にラーメンを作ったせいか、少し疲れたな……」
「おにいちゃん、おてつだいは?」
「後は片付けだけだから、ハサハはもう寝なさい」
「(ふるふる)」
相変わらずのハサハの頑固さに苦笑しながら俺は結局手伝ってもらう事にした。
とはいっても、出汁や麺の後片付けが終わればどんぶりを洗って終了という簡単なものだったが。
どんぶりそのものは、元々あったものだけでは足りなかったため、少し前にメイメイの店で買い叩いている。
その日、俺は罪の意識等忘れてしまったかのように、心地よい疲れと共にぐっすり眠った……。
Summon Night 3
the Milky Way
第十章 「迷走する思い」第二節
昨日のラーメンというものは美味しかったです。
噂には聞いた事があるのですが、スープパスタとはまた違った味わいでした。
その後の、チャーシュー丼もしっかり頂きました。
お陰で、昨日はちょっと食べ過ぎだった気もしますが。
これでもよく動いている方ですし、少しくらいいいですよね……?
元々ふっくらした方だとか言われている気がしますが、気にしません!
ええ!
きっと!
多分!
やっぱりダイエットしようかな……。
と言う訳で、散歩がてら風雷の郷にやってきました。
実は少し気になった事もあったので……、ええ! ダイエットだけが目的ではないのです!
里に入って、挨拶をしながらミスミさまの御屋敷にやってきました。
スバル君はどうしているかな? 多分遊びに出掛けているでしょうか?
なら、ミスミさまは時間開いているでしょう。
お話する時間はあるかな……。
そう考えつつ、声をかけながらて中に入っていくと……。
答える声はなく、不思議に思って少し奥へと行きました。
すると、なんだか情けない雰囲気が漂ってきたので少し襖を開けてみる事にしました。
「ミスミ様、そこのつづり、全部間違っていますよ」
「うっ?」
「最初からやり直してください」
「そんな殺生な……」
ミスミ様は何かの書き取りをしている様子。
監視しているのはヤードさん、おそらく教えているのかな?
でも、ミスミ様に教えるような事って何かあったでしょうか?
「ミスミさま?」
「あぅ、アティか……。すまぬな出迎えもせずに」
「いえ、それは構いませんが。いったいどうしたんです?」
なんか、こうしてへたれているミスミ様も新鮮ですけど、理由も気になります。
そんな感じで不思議に思っていると、背後からほっほっほという感じで笑いながらゲンジさんが現れました。
なんというか、流石にマタギをしていた事があるというだけに気配が読みにくいです。
「奥方が自分から字を勉強したいと言い出したのじゃよ。
子供のやる宿題を見てやれないのは親として情けない、とな」
「なるほど、それでヤードさんに……でも、言ってくれれば私が」
「こっそりと勉強してスバルを驚かせてやりたかったのじゃ、お主に教わっては隠せぬであろ?」
「はあ、確かに難しいかもしれませんね」
こっそり、ってまた可愛らしい考えですね。
ミスミさまこう言う所がやはりいい人だなーと思います、まあ鬼族なので人ではないですけど。
やっぱり男の人もこういう可愛らしい人がいいんだろうなと思います。
それに、元々美人ですし……なんだか勝てる気がしません……(汗
「それに、そなたには既に随分と無理をさせておるからな」
「そんな事は気にしなくてもいいですよ。困った時はお互い様じゃないですか。
食料なんかも分けてもらっていますし、正当な対価というものです」
「そう言ってもらえると心がやすまるのう」
そう言って2人でくすりという感じで笑うとヤードさんがずずいと顔を出してきました。
そしてミスミ様に告げます。
「ほら、ミスミ様、今度はこっちが間違っていますよ」
「いっ……!?」
「外野に気を取られて手がお留守になっているからです。さあ、もう一度」
「うう……、鬼め」
「何か言いました?」
「きっ気のせいじゃ……」
うろたえるミスミ様も可愛いです。
とはいえ、これ以上はお邪魔でしょうし、お勉強が終わった頃にまた訪ねる事を告げて出ていく事にしました。
ミスミ様と2人きりの時でないとこの話は少し聞きづらいですしね……。
「やれやれ、これでは夢は遠いのう……」
ゲンジさんの嘆きが背後から聞こえてきた気がしますが気にしません。
ミスミ様のお時間が出来るまで、少し船の方に戻って明日の授業の準備をしておきましょう。
俺は最近ラトリクスに来ている事が多いかもしれない。
理由は体の故障、まあ人間の体じゃないらしいから仕方ないと言えば仕方ないんだが。
そもそも、この体の事はまだよくわからない事も多い。
ただ、人の体より数段強い力を使えると言う事、人の形がいつ崩れてもおかしくないと言う事。
そして、アティの持つ剣に関りがあるのだろうと言う事。
俺に分かっているのはこの3つだけだ。
あえて付け加えるなら、北辰も同じようにこの世界に召喚されており、同じ様な体になっている事。
そして、この島には俺達を呼びだした謎があるかもしれないと言う事だろう。
どちらも、確定情報とは言えない部分が多いので、微妙な所だが。
まあ、深く考えても仕方ない。
俺はここの所毎日になっている定期健診のためにラトリクスの中央塔にあるメディカルルームに向かう。
俺が来るのは分かっているからだろう、クノンがいつも待っている訳だが。
「いらっしゃいませ。検診にお越しですか?」
「ああ、毎日すまないな」
「いえ……、むしろ申し訳ないのは私のほうです。大変ご迷惑をおかけしました……」
クノンはいつものメイド服だか初期のナース服だか分からない格好で、無表情に俺の診察を開始するが、
その実、かなりこの間の事が気になるのだろう、声にはどこか震えがある。
作った人間が凄いのか、感情というシステムがそうさせるのかは分からないが確かに前とは違うと感じる部分だ。
「いや、構わないさ。あれはお前の産声のようなものだと解釈している」
「産声……ですか、確かにそうだったのかもしれません」
「それにまあ、俺には似た様な知り合いがいるしな」
「私と似ているのですか?」
「どうだろう、性格はまるで違っているが……」
ふと、オモイカネを思い出す。
あれは、言葉を話す事も、表情を持つ事も、人としての行動もなにもない戦艦のAIのはずだが、
やたらと感情表現が豊かで、そして、ルリの事をただひたすら考えていて、そして嫉妬らしき感情すら持っていた。
アルディラの事をずっと思っているクノンとどこか根っこが同じように感じているのはそのためかもしれない。
俺は思わず苦笑する。
「まあ、クノンと比べたら悪いかもしれないな」
「はあ……」
「そういえば、これからはアルディラの護衛もするような事を言っていたが」
「はい、今までは医療関係と、食事くらいしか行っておりませんでした。
しかし、私がアルディラ様に笑っていただけなかったのは、
主従という線引きを理由にして距離をとっていたからかもしれないと」
「ううむ……」
こう言っては何だが、既に十分以上に尽しているはずだ。
この間の花摘みなんかも、自分からやっていたんだろうしな。
まあ、ロボットなんだから疲れる事はないのかもしれないが……。
こうまで献身的だと、逆に笑いかけづらい可能性も、いや……考えたら負けのような気がしてきた。
アルディラのほうに少し注意を促しておこう……。
「必要な時だけ傍にあればいい、それは道具の考え方です。
でも私は道具ではいたくない。
貴方々人間のように、確たる喜怒哀楽を持つことは無理でも。
せめて、傍にいてあの方の気持ちが分かるようになりたいのです
ですから……」
「もっと知りたいと言う事か、アルディラの事を」
「はい、ご迷惑でしょうか?」
「いいや、それをアルディラに言って見る事だ。きっと喜んでくれるだろう」
「そうでしょうか」
感情が芽生えたばかりのクノンにはシュミレートする事がまだできないかもしれないが。
アルディラのほうからもアレだけクノンの事を大事にしているのだ、喜ばない筈はない。
もっと知りたいというのはそれそのものが好意の表れなのだから。
「間違いないさ、俺が保障しよう」
「そうなのですか……、言ってみる事にします」
そうこうしているうちにも検査は終わり、クノンはテキパキと片付け始めた。
俺は、服を直し、少し体を振って調子を確かめた後、歩きだそうとしたが、ふと振り返る。
クノンのポケットから何かが出ていた。
見た感じ、A6サイズくらいの文庫本だろうか?
電子頭脳で考え、ラトリクス内のネットで検索する事で最適な行動を取るクノンが、紙の本を読むのだろうか?
ふと興味を抱いた俺は聞いてみる事にした。
「クノン、その本を読んでいるのか?」
「はい、スカーレル様に頼んで貸していただきました。
感情を学ぶにはこうした本が有効と教わりましたので」
なるほど、スカーレルの入れ知恵か……。
あいつは、変な事を教えようと言う意図はないだろうが、小悪魔的な事は考えている可能性がある。
見た目は小悪魔なんてレベルでは全然ないが、考え方はわりとそっちのケがある。
つまり、大きな意味では正しくても少しずれている事を教える可能性は高い。
「どんな本なんだ?」
「恋する乙女は片手で龍をも殺すという本です」
「ぶっ!?」
少女マンガとかと同じようなタイトルだが、後半が偉い物騒なのだが……。
まあ、基本的な意味は”恋する乙女は強いのよ”的な所なんだろうと思うが、片手で龍を殺せたらいかんだろう。
力技で大抵の事を解決する乙女な主人公……頭が痛くなってきた。
クノンが強引な性格になったらどうするつもりだ。
「細かく感情描写がされていて、とても勉強になります」
「すまん、少し見せてもらってもいいか?」
「はい、どうぞ」
俺は、その本を手に取る、まだこの世界の公用語は読み書きがどうにか出来るようになった所だが……。
ある意味凄く読みやすかった……、擬音、擬態語がやたらと多く、
乙女なセリフと感情表現と力技というありえないコラボで、確かに憧れの人を助けるために龍を片手でブッ飛ばしていた。
「……あのな」
「はい」
「楽しんでいるならいいが、一点だけ言わせてくれ」
「はい」
「現実の人間はこんなに強くないからな」
「そうなのですか、恋とは凄いパワーなのだと思っていたのですが」
「いや、なんというか……誇張表現を極限まで高めた感じだな」
「わかりました、今後はもう少し弱いものと想定したいと思います」
分かった……とは思えないが、それとなくアルディラに注意を喚起しておく事にしよう。
正直、これ以上は手に負えない気がする……。
診察も終わり、一通りクノンと話しをした帰り道。
ふと思い出して道を外れた、確かヴァルゼルドとかいう機械兵士が埋もれていた場所を見つける。
エネルギーを渡してやった訳だから、もういなくなっている可能性は高いが、あのロボットどうにもドジな印象があった。
まさかとは思うが、まだ埋もれていたりしないよな?
そうして、ゴミ山のようになった場所に目を向けると思った通りうもれたままだった。
俺は放置して帰ろうかと思ったが、その瞬間行き成り声があがった。
「……ッ、猫は!! 猫は苦手でありますぅ〜〜!!」
更に近付く気が失せた。
俺は踵を返して歩き始める。
「すみません!! 寝てません!? 何ページからですかっ? 教官殿!?」
なんて盛大な寝言だ……っていうか、寝言なんて高度な無駄がある機会兵士とは……。
ロレイラルの技術とはどれだけ無駄に凄いんだ……。
「あっ、アキト殿!! アキト殿ではありませんか!!」
「……見つかったか」
脳内愚痴をかましていたせいで、動きが止まっていたのが災いした。
このまま帰りたいがどうしたものか。
仕方ないので言葉を返す。
「それで、修理は終わったのか?」
「ばっちりであります! それでは早速2本の足で大地に……」
ズシィィィンッ!!
盛大に地響きを立てて転げ落ちる粗大ゴミ。
恐らくバランサーでもやられてるのか。
俺は少し離れて様子を見守る。
「たた……っ、立てないでありますぅアキト殿ぉ……」
「大丈夫か?」
「そんな遠くから他人事のように聞かないでほしいでありますぅ!!」
そうは言ってもな、機械兵士は2m以上ある巨体の鉄の塊。
当れば今の俺でも無事と言う訳にはいかないだろう。
「気にするな、損傷はないか?」
「はいであります、各パーツの修理は問題なく……やややっ!?」
「バグでもあったか?」
「バグは酷いであります! でも原因が分かったのであります!」
「ほほう」
「制御機能の一部に修復不能な欠損があるであります!!」
「やはりバランサーか?」
「いいえ、バランサーだけではないようであります。
運動機能を司るプログラムに欠損があるであります!!」
「それは……」
むしろそれでよく動いたな。
さてどうしたものか……。
「心配無用であります!! 電子頭脳をまるごと取り替えれば、それで直るであります!!」
「いやまて、電子頭脳を交換したら、お前の基幹プログラムまで入れ替えになるだろ!」
「それこそ問題ないのであります!!
サブの電子頭脳は無く、メインの電子頭脳は壊れていますがこうして動いているのであります!」
「へ……?」
いやいやいや、電子頭脳に人格プログラムが入っていないっていう事か?
それとも、電子頭脳は小脳のようなもので基幹プログラムはボディの方に存在しているのか?
何にしてもかなり無茶な作りをしているようだ。
「恐縮でありますが、そこでアキト殿にまたお願いが……」
「御免被る」
「がびーん!? それは酷いであります! 中途半端に助けるくらいなら放っておいてほしかったであります!」
「まあ待て、ちょっと連絡を入れる」
「連絡でありますか?」
「ああ、元々この手の事態は俺の管轄外な訳だしな」
俺は、バイザーの通信機能でクノンを呼び出してみた。
元々は普通にそれが出来たんだが、今はラトリクスのアンテナ圏内でしかできない。
ラトリクスを一歩でも出たら範囲外なので、使い道はこれくらいしかないともいえる。
「聞こえるか?」
『はい、聞こえておりますアキト様』
「なら少し頼みがあるんだが」
『どのようなご用件でしょうか?』
「俺の現在位置はモニター出来ているか?」
『はい、南第二区域の廃棄物置き場です』
「少し見てもらいたい者がある、来てもらう事は可能か?」
『分かりました、少々お時間を頂けますでしょうか』
「ああ、頼む」
俺は、通信機能をOFFにしヴァルゼルドに向き直る。
看護用のフラーゼン(看護人形)だったか、ロボットの修理が出来るかは分からないが……。
俺よりは詳しいはずだ。
「あのう……、アキト殿はどちらに連絡を取られていたのでありますか?」
「ああ、現在、この街の管理者の下で働いているフラーゼンに連絡した」
「管理者でありますか、この町がまだ機能していたとは驚きであります」
「まあ10年放置されたんだからそう思っても仕方ないだろうな」
実際、上位組織として管理していただろう召喚士達は今はいない。
アルディラがどうにか存続させ続けているようだが、アルディラ以外はなんだかんだ言って被造物である。
ラトリクスが機能しているかと言われると難しい所だろう。
暫くして、クノンがやってきた、アルディラも引き連れて。
「貴方って人は……つくづく厄介事に巻き込まれやすいみたいね?」
「否定はしないが……、この世界に来た事が最大の厄介事だしな」
「もう……、それより、それ? 機会兵士は」
「ああ、ヴァルゼルド。返事は出来るか?」
「当然であります! しかし、このような所で機融人の方にお会い出来るとは思わなかったであります!」
アルディラはヴァルゼルドの様子を見て瞬間的に顔をゆがめた。
理由はなんとなく察しはつく、嫌悪の表情だったからだ、何がしか機械兵士に嫌な思い出があるに違いない。
「それで、ヴァルゼルドといったかしらね。どうしたのかしら?」
「はっ、実は、電子頭脳を取り替えてほしいのであります!
今の電子頭脳はバランサーや、一部の運動機能に障害が出ているようなのであります!」
「メインと、サブの2つあるんだからサブ回路に切り替えたらどう?」
「サブの電子頭脳は残っておりません!」
「サブが駄目でメインも駄目ってことは、記憶回路や蓄積データもリセットされるわよ?」
「しかし、このままでは動く事もままならないのであります!」
「なら、今のデータを一度サブに移して、メインを入れ直すのは?」
「どの道、現状のデータを移動すれば不具合も一緒に付いてくるのであります!」
「……なるほどね」
アルディラは納得したようだ、
恐らくヴァルゼルドは機能を回復するために自分を失ってもいいという考えだと思ったのだろう。
俺も、それについては同意するが……。
クノンがどう思うのか気になる所ではある。
「ヴァルゼルドさま、貴方は記憶データはいらないと考えているのですか?」
「いいえ、そんな事はないであります! ですが、動けるようになる事が第一目標でありますので」
「しかし、記憶データが無くなればそれはもう貴方ではないのではないでしょうか?」
「うっ……、そんな事は考えてなかったのであります! そもそも自分、役に立てないならいらないのであります!」
「それは……」
「仕方ないわね、クノン。持ってきてあげなさい」
「ですが……」
「彼は自分の意思でそれを選択したと言う事でしょう? 私にはそれ以上はできないわ」
「そうですね」
クノンは少し表情を沈めながらも、仕事をする。
彼女にとって、いや今人の感情を持とうとしているクノンにとって自分から記憶を破棄するというのは考えたくないだろう。
俺としても失敗したという思いは否めない、本当は説得出来るんじゃないかと思ったので呼んだからだ。
これではどちらにとってもプラスになっていない。
だが、ヴァルゼルドを止める事はできそうになかった。
放置しておくべきだったかと少し後悔する、だがもうどうしようもない。
データがボディの方に残る事を祈るのみである。
「これでよろしいでしょうか?」
「おお・・・これであります!
ぴたりと合ったであります! 本機はこれより新たな電子頭脳への適応作業へと入ります!」
「はっ、はあ……アルディラ様?」
「ええ、何故話せたのかしら?」
「ボディのほうに人格データが残ってるじゃないのか?」
「そんなはずはないのだけど……」
俺達3人は目の前で起こっている事を首を煮練りながら見ている。
もっとも、クノンの心に傷を残さないで済んだという意味では悪くないのかもしれないな。
しかし、大きな事件がないだけでも今日は悪くはないのか……。
そう言えば、ハサハが夕食を作ってくれるんだったな、どんな料理を作るのか少し楽しみだ。
私が、ハサハちゃん達の料理の状況を見るべく、船に帰る道すがら浜辺を見ていたら。
何か大慌てで駆けてくるオウキーニさんを見かけました。
オウキーニさんは私を見つけると、息を切らしながらも私に呼び掛けてきました。
「あっ、いた! 先生、先生! 助けてください!」
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
「実は……、うちのあんさんがまた……」
ジャキーニさん、また農作業の手伝いが嫌になったんでしょうか?
前みたいに、迷惑を賭ける事をしてなければいいんですけど……。
オウキーニさんが大慌てで私を案内します。
それは、船の位置からそれほど遠くない浜辺、
ジャキーニさんの指揮の下、部下のみなさんが、必死に浜辺を掘り返していました。
一体どうしたというんでしょう?
ともあれある意味一安心ですね、今の所皆さんに迷惑を賭けるような事ではなさそうです。
「お前ら! もっと気合いを入れて掘らんかい!!?
日ごろの土いじりで鍛え上げた技術と根性を見せてみい!!」
「「「「「「「「へい! 船長!!」」」」」」」」
「ワシの画期的推測が確かなら、絶対ここにあるはずじゃ……」
「あるって何がです?」
「うひぃ!?」
私が声をかけると、ジャキーニさんは飛び上がって驚きました。
今時珍しいですねw
まあ、以外と小心な所のあるジャキーニさんです。
あんまり怖い事は考えていないとは思いますが……。
「なんか、大勢で浜辺をやたらと掘り返してるみたいですけど……。
貝を取るんだったら、波打ち際の方がよくないですか?」
「べ、別にワシらは潮干狩りに来た訳じゃないわい!!」
結構焦ってますね、それだけ本気と言う事でしょうか?
しかし、そんなに必死になって一体何を掘っているんでしょう?
「そのとおりや! ある意味もっととんでもない事なんですわ!!」
「オウキーニ……、貴様いい子ぶって先生に言いつけるとはええ度胸じゃのう?」
「言いつけるなんてそんな……ウチはただ、あんさん達が呪いにかからへんように……」
「呪い?」
「フン、ここに書かれておったタワゴトの事じゃい!」
「これは……もしかして宝の地図じゃないですか!?」
宝の地図……、こういうのは私も昔から好きでした。
だから、昔のお話に出てくるような盗賊や、海賊の名前、宝島のお話など大抵知っています。
そして、今私が目にしている地図は、確かに本物めいた迫力のある地図でした。
「がっはっはっは! まごうことなく絶対その通りじゃい!!
鬼姫さんに頼まれて屋敷の倉を掃除しておったら、発見したというわけじゃな」
「そやからあんさん、それはどう考えてもネコババ……」
「じゃかましいわい!! お宝の発見は海賊の本懐なんじゃい!! 小さい事に目くじら立てんなや!!」
「そ、そやけど……」
「出所はともかくとして、これは本物かも……」
これに関しては、正直色々調べたい所です。
だって、こんな本物の宝の地図は、なかなか私も見た事はないですから。
でも一つだけはっきりしているのは、この……。
「なぬ!?」
「ほら、ここの署名、海賊”巻きヒゲ”ってあるでしょ?
これってずっと昔に帝国軍が手を焼いた海賊の印と同じものですよ、うん、間違いない!!」
「がっはっはっは! 俄然やる気が出てきたわい!!
ワシ自らも掘って掘って掘りまくるぞぉ!!」
「「「「「「「「へい! 船長!!」」」」」」」」
うんうん、宝探しってロマンですよね!
私はいい事したなーって言う感じでちょっと胸を張っていたんですが……。
後ろから、目の据わったオーキー二さんに睨まれていました……。
はははは……。
「あかんですやん!? 先生!! 火に油を注ぐやなんて……」
「あははは……でも本当にお宝が見つかったらそれはそれで……」
「見つかったらアカンのやって!!」
「え?」
「ほら! ここ!! 端っこに書かれてる真っ赤な文字……」
「どれどれ……」
かけがえなき我らが宝ここに眠る
我らの命、我らの誇り、これを汚すものに死の呪いあれ……。
まあ、こういうのは宝の地図なんかでは割と普通の事だと思うんですけどね。
身内や、自分が行けるようにするためのメモであって、他人のためではないんですからそれなりにトラップもあります。
しかし、オウキーニさんの顔を見ていると、止めないと先ずそうだなと理解します。
「そやから先生!? あんさんらを早よう止め……」
「でかしたぁ〜っ!!」
「あああっ!?」
どうやら遅かったようでした、後は呪いとやらが発動しない事を祈るのみ……。
多分無駄な事なんでしょうけどね……。
あとがき
いやー盆休み中にあげるつもりでしたが、結構遅くなってしまいました申し訳ないです。
そして、今回は山なしオチなしという感じになっております。
まあ、一応次回の”ハサハお料理する”の伏線ではありますがw
副題の副題ってわけにもいかないので、実際は題名にしませんがねw
ともあれ、今年中にはもう1本頑張ってみますw
他のSSや投稿物と並行作業になりますので、遅いと思いますがよろしければお付き合いください。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
<<前話 目次 次話>>
作家さんへの感想は掲示板のほうへ♪