「そやから先生!? あんさんらを早よう止め……」
「でかしたぁ〜っ!!」
「あああっ!?」
どうやら遅かったようでした、後は呪いとやらが発動しない事を祈るのみ……。
多分無駄な事なんでしょうけどね……。
Summon Night 3
the Milky Way
第十章 「迷走する思い」第三節
宝探しに夢中になるジャキーニさん達を見ていて微笑ましく思った私ですが、
オウキーニさんによると呪いがあるとの事、私が止めようとした時。
既に宝箱は発見されていたようでした。
「わっはっはっは! 宝箱じゃー!! ワシの読みに狂いはなかったわい!!」
「「「へい! 船長!!」」」
得意の絶頂にあるジャキーニさん、今まで鬱憤が溜まっていたのでしょうか。
いえ、いつもあんな感じでしたっけ。
でも、何か起こった訳じゃないので少し安心していると。
隣で作業していた部下の人が叫びます。
「船長こっちにも宝箱です!」
「なんじゃと!?」
「こっちもです! 船長!!」
「がはははははっ! 最高じゃあ……最高の気分じゃあ!」
「片っ端から開けてみるんじゃ!!」
完全に幸運の余韻に浸りきっているジャキーニさんでしたが、
私は不安を覚えました、呪い云々もそうですがこうして上手く行きすぎる時というのは何かあるものです。
オウキーニさんと私は思わず駆け出しました。
「なんや!?」
「あ……」
周囲が一気に暗く!?
やっぱり、何かが……。
「なっなんじゃ……」
オオオォォォォォォ・・・・・
ウオオォォォォォォ・・・・・
「出たーーーー!?」
「船長ォォォォォッ!?」
幽霊、いえ亡霊でしょうか、どちらにしろモンスターの類には違いありません。
それも、人間が死んで転生出来ずに留まっている。
そういえば、この島に来てからあまり不自然に思ってはいませんでしたが、
この島、幽霊とか亡霊とか多すぎる気がします。
我らの命、我らの誇り、これを汚す者に・・・死の呪いあれ!
「あひいぃぃ〜〜っ!」
「……っ!」
「あ、ああ……っ」
「あんさん、早う! こっちへ!」
オウキーニさんが、ジャキーニさん達を逃がすために声をかけます。
ですが、混乱しているジャキーニさん達はかなり鈍い反応のよう。
私は、少しため息をつくと、ジャキーニさん達の前に陣取りました。
亡霊だから私も自信はないですが、でもやっぱり言っておくべきだとおもったから。
「あの、亡霊さんたち。
宝箱は埋め戻しておきますので、この人達を許してあげてくれませんか?」
ウオオォォォォォォ・・・・・
「ッ……!?」
妄執めいた気迫に押され、一瞬目をつぶってしまいました。
亡霊の一人が、その隙をついて私に何かをぶつけてきます。
私は背筋の寒さを覚えました、これは精神攻撃!?
「やはり会話で解決という訳にはいかないみたいですね。
では、申し訳ないですが。もう一度眠って貰います」
「先生!?」
「オウキーニさんは応援を呼んできてください。お願いします」
「分かりましたわ。でも、一人で大丈夫でっか?」
「一人じゃありませんよ。ね?」
「おっ、おう。ぼっ、亡霊と闘うっちゅーのも海賊の仕事の一つじゃ……」
「「「へ、へい! せ、船長!」」」
「あ、アホンダラ!! き、気合いが足りんわ!!」
「「「へい!! 船長!!」」
「ほな、暫く任せます。あんさんもきばってください!」
「任しとかんかい!!」
呪いを怖がっていたものの、オウキーニさんは呪いの正体を見て少しだけ安心したようです。
何故なら、呪いと聞くと、こうしてわざわざ姿を表したりせず、
いつの間にか殺されているようなのを想像しますからね。
戦う事が出来るだけマシと言えるのではないでしょうか。
亡霊たちは、暗くなったこの空間では、揺らめいてはいても消える様子はありません。
数はざっと30くらいはいそうです。
ですが、何とかなる範囲だと私は感じていました。
「ジャキーニさん!」
「おう!」
ジャキーニさんら数人は突っ込んで亡霊の足止めをしてくれます。
その間に、私は召喚術を発動、人数的にも不利ですし少々荒っぽいですが……。
通常の攻撃ではダメージを当てにくい亡霊に対しては、より上位の天使や悪魔の攻撃が有効。
私は、一気に気力を消耗するのであまり使わない強力な召喚を行う事にしました。
「魔天兵ベルエル!」
召喚されたのはきっちり左右で白と黒に塗り分けられた甲冑を纏い、
背中から方翼づつ天使と悪魔の羽を生やした騎士。
魔天の名の如く、両方の属性を持つ存在。
光の弓矢を持って二つの力を持った召喚獣が出現する。
私は、その天使の力を使ってもらう事にした。
「いって! 白光の制裁!!」
『ッ!』
ウォォォァァァ!?!?
光の矢は、亡霊達の密集している地点に着弾。
そこから光が周囲に広がる。
白い光に包まれた亡霊達は掻き消されるように消えていった。
ちょっと可哀そうな気もしますけど……。
きちんと成仏してくださいね。
「うおー、なんじゃまぶしい!?」
「「「まぶしいっす!?!?」」」
「ごめんなさい」
ジャキーニさん達に当てた訳じゃありませんが、位置が近かった事もあり、光が目に入ったようです。
結構動きに統制がとれているらしく、5体ほど巻き込んだだけで終わりました。
それも個々の能力もそれなりに高く、船員の皆さんには少しきついようです。
「大丈夫かッ!?」
「カイル!?」
「おう! 近くまで来てたんだが、派手な召喚がされたからな!」
「あたしもいるよー!」
「うむ! 少しばかり体を動かすのもいいかの!」
「後で続きをやりますよ」
「……うむ」
「今度こそお手伝いしまっせ!」
やってきたのは、カイルとソノラ、ミスミ様とヤードさんの4人、そして呼びに行ったオウキーニさん。
確かにここは風雷の郷から近いですけど、早いですね。
私は視線で互いを確認し、再び亡霊たちと対峙しました。
彼らが悪気もあってやっているという訳ではないかもしれなくて、少しつらいですけど。
私たちの仲間を傷つけさせるわけにはいきません。
「ミスミ様!」
「うむ!」
彼女の持つ風刃は遠距離から敵をなぎ払う事が出来るので陣形崩しに向いています。
相手は霊体なので効きは悪いですけど、普通の打撃に比べれば十分なダメージにもなりますし。
そうやって、相手の陣形を崩しつつ、追撃にソノラの銃、ヤードの召喚獣が続きます。
ヤードが召喚したのは氷魔コバルディア、女性型の悪魔で味方を強化する魔法を使えます。
憑依魔法の支援を受け、私たちは亡霊達に向かいます。
「うん、十分通用する!」
「へっ、殴れるってのはいいもんだぜ!」
「銃も当たるよ!」
憑依系は能力付与の力があるので、通常では攻撃が当らない敵に有効です。
そうして勢いをつけた私達が亡霊達を制圧するまでにはそれほど時間もかかりませんでした。
私達、この島に来てからやたらと戦闘経験が豊富になっている気がします(汗)
亡霊達がいなくなると、空から一枚のタペストリーが降って来ました、いえこの大きさは旗でしょうか。
地面に落ちたその旗は、どす黒く汚れていて、でも、掠れていてもこのマークは見落としません。
そう、骸骨と交差した骨のマーク、そんな旗は海賊旗くらいしか思いつきません。
「亡霊の言っていた”我らの誇り”ってこれのことでしょうか……」
「これは……」
「血染めの……海賊旗……」
そう、どす黒いその色は、こびり付いた血。
それも恐らく、何十年もしくはそれ以上の日が立ち、旗そのものが変色しています。
ですが、彼らが誇りといっていたのだから、宝ではないでしょう。
彼らの精神の支柱、ならばやはりこれである可能性が高いです。
「”巻きヒゲ”達は海軍との最後の戦いで行方知れずになったけれど……。
この島に漂着して、人知れず最後を迎えたんだろうなきっと……」
「そう言えば、良人から聞いた事があるぞ。
郷を作る時に、壊れた小屋と、人のなきがらを見つけて弔ったのじゃと……」
カイルの語る、海賊間の噂話と、ミスミさまの語る話は繋がっているようで繋がってはいません。
でも、その空白は私達には分かりえない話だったのでしょう。
ただ、巻きヒゲ海賊団はここに来て、そしてこの島で最後を迎えた。
私達に分かるのはそれだけです。
「この地図は、その時にリクトさんが遺品として持ち帰ったんだな。
無色の派閥が財宝を狙わないように……」
「……」
「元通りに埋めましょう」
財宝も、旗も、そう言う思いのある品だというなら、持ち出すのは野暮でしょう。
彼らが今も成仏できずにいるなら余計に。
ですが、ジャキーニさんから異論が飛び出しました。
「いや、それはできん」
「あんさん……っ!」
「今の話を聞いてもまだ宝物を!?」
オウキーニさんも、ソノラも思わず身構えるほど驚きました。
私も同じように驚いていたと思います。
しかし、一番そう言う事に敏感そうなカイルやミスミさまは特に驚いてはいない様子。
どういう事なのでしょう?
「そうじゃない!!
わしには……わかるんじゃ……。
この旗には、もう一度海に出たいと願ったあいつらの想いがこめられとる!
陸に埋めておいたままではいかんのじゃ!
きっと……」
「あんさん……」
「……だな」
ジャキーニさんが語った事、海賊ならだれもが思う事なのでしょうか。
カイルさんは元より、オウキーニさんも納得したようです。
私も、そうかもしれないと少し思いました。
「カイル……」
「本当なら、わしが適えてやりたいが、船がなきゃどうにもならん……。
だからカイルよ、代わりに、連れて行ってやってくれい……、頼む……」
「ああ、まかせときな!」
カイルはジャキーニさんから海賊旗を受け取り肩にひっかけます。
この旗は、カイル達の船に掲げられる事になるのでしょうか?
そのためにも、私達もまた、外に出る方法を探さねばなりません。
ベルフラウの試験日にはもう間に合わないでしょうが、せめて編入試験位受けられる間に……(汗)
この世界に来てから、俺の常識は常に更新し続ける羽目に陥っている訳だが、最近は特にひどい。
俺の肉体は元の世界にあり、この体は剣の力により実体化しているエネルギー体だという。
碧の賢帝シャルトス、そもそもアレ自体分からない事だらけだ。
だがそれでも、アルディラ、ミスミ、ファリエル、そしてメイメイ、彼女らが時折こぼす裏事情。
そして、アティと俺の特異な事情とそのつながり。
それらを総合すればある程度の仮説は成り立つ。
先ず最初に、この島がまるまる実験場だった事。
無作為に大量に召喚する事を目的としている召喚施設がある事。
そして、其れを中心にこの島が成り立っている事。
アルディラのマスターにしてファリエルの兄であるこの島の管理者が、無色の派閥に反旗を翻した事。
更に、管理者が勝ち無色の派閥は撤退、しかし管理者も倒れた事。
その後、各世界に似せた環境にしている4つの区域に召喚された者達が住み続けている事。
恐らく、この島の流れはそう言う事なのだろう。
碧の賢帝と紅の暴君の力は確かに凄いが、4つの区域をそれぞれの異世界に似せている力。
ありていに言えば、環境に働きかける力を持っているとは考えにくい。
少なくとも現在の時点でアティはそう言う力を発揮してはいない。
だが、間違いなくこの島にはある。
つまり、召喚する力、力を増幅なりエネルギーを作り出す力、環境を変革し維持する力。
この島と剣には少なくとも3つの力が存在する事になる。
もしくは、この3つを成せる1つの力かもしれないが。
そして、アティに語りかけてきた意思と、エルゴという概念。
それらを統合すると、推論が一つ導き出される。
この実験場が何を求めて作り出されたのかという推論が。
そして、それは成功したのか失敗したのか、俺には分からない。
だが、制御は出来なかった、だからこそ……
キィン!! ゴトッ カァン!!
剣戟の音、少なくとも金属同士が高速でぶつかりあっている音だ。
俺はいつの間にか、島の中央にある召喚施設の近くまで来ていたらしい。
しかし、一体誰だ? 何故戦っている?
俺は気配を辿りその場所を特定する、実験場の外延部の一角、そこで戦いは行われていた。
オオォォォオオォ……
「……」
オオオオォォォォっ!!
「クゥ……っ!
お願い……お願いだから……っ、おとなしくこのまま眠っていて!!」
「ファリエル?」
そう、戦っているのはファリエル、いやこの場合鎧の騎士であるファルゼンと言うべきかもしれない。
巨大な鎧を着て戦う彼女と、相対しているのは亡霊の群れ。
ファリエルは剣一本で彼らと相対している。
戦いそのものはファリエルの優勢に見えるが、亡霊の方は数で押している。
しかし、亡霊と打ちあっている剣が金属音を鳴らすのは彼女もまた亡霊だからか?
だが、俺とファリエルは一瞬見つめ合う格好になった。
俺が呼びとめてしまったからだ。
ウォォォォォッ!!
「きゃぁああぁっ!?」
「ッ!」
「近づかないでっ!」
「なっ!?」
俺が助太刀しようとした瞬間、ファリエルは俺を止める。
それは真剣であり、鬼気迫るものだった。
思わず止まった俺だったが、このままではファリエルもまずい。
どうするつもりなのか?
「貴方のその体は剣の力そのもの、亡霊達は貴方が近づけば荒れ狂ってしまう!」
「どういう……」
オ、オォォォォ……
「気を静めて……もう、貴方達の戦いは終わっているの……。
還りなさい……二度と目を覚まさない深い眠りの中へと……」
ォ、ォォォ……
戦いは続いたが、徐々に亡霊の兵士達の数は減り最終的に亡霊達はいなくなった。
膝をつき、肩で息をしているファリエル、実際に呼吸をしている訳ではないのだろうが……。
鎧姿のままとはいえ、かなり消耗したようだった。
「グ……ッ」
「大丈夫か、ファリエル!?」
「ナゼ……ココニ、キタ……。
近づいたらダメだと、あれほどお願いしたじゃないですか!?」
「それは……」
「うう……っ……」
「すまない……」
俺は崩れ落ちるファリエルを鎧ごと抱え上げ、そのまま走り出す。
サイプレスの世界に近しい”狭間の領域”集落へと急ぐ。
幸い、鎧そのものはそれなりの重さがあるが、霊体であるファリエルは凄まじく軽いため、相対で軽い。
そして、普通の人ではない今の俺にとってこの程度を走り切るのはさほど難しい事じゃなかった。
「フレイズ! いるか!?」
俺は駆けながら、ファリエルの腹心というか自らファンを公言しているフレイズを探す。
正直、霊体の治療なんて俺には分からないし、いくら看護人形だろうとクノンも専門外だろう。
つまり、彼女の事を任せられるのはフレイズしかいないというか俺は知らない。
モノマネ師匠でもいいのかもしれないが。
幸い、それほど駆けずり回るまでもなく、フレイズは見つかった。
「かなり消耗は激しいですが、ここに戻った以上は、もう安心です」
「そうか……」
「その、すいません。ありがとうございます……」
俺は一息つく、幸いにしてファリエルも気を失った訳でもなかったらしい。
鎧を脱いだ彼女は俺に対し恥ずかしそうな顔で礼を述べている。
「それにしても、今回ばかりは、無茶が過ぎますよ!
鎮めの儀式をする時は、必ず私に声をかける約束をしたはずではありませんか!?」
「ごめんね、フレイズ……。
彼らの本格的な目覚めが、こんなにも早く始まってしまうとは思わなくて……」
「予想されていた事だったのか?」
「ッ!?」
「……」
ファリエルがフレイズに対し言い訳めいた事を言っているのを聞く。
フレイズが心配しているのは目に見えて分かる、しかしそうまでして亡霊の兵士達を鎮めた理由。
つまりは、元からアレが出る事が分かっていたと言う事だ。
あそこは、確か召喚のための施設だったはず。
なのに、門そのものが起動して呼び寄せたようには見えなかった。
喚起の門が起動していないにも拘らず、俺が近づけば活性化する事もわかっている。
つまり、関係はしているが召喚ではない。
ならばいったいなんだというのか?
「それは……」
「亡霊ですよ」
「フレイズ!!」
「これ以上、隠そうとしたところで無理です。
それに……。
その一因である彼には真実を知る義務があるはずでしょう?」
「ほう」
俺は少し安心した。
俺が原因だというなら、それは納得出来る話だ。
最もこの場合の俺とは、俺の経験や魂云々ではなく俺の肉体を構成している力の事だろうが。
だが、そんな内心の心の動きとは裏腹にファリエルが咄嗟に口調を強める。
「下がって、フレイズ!」
「しかし!?」
「下がりなさい! これは、誓約に基づく命令です!!」
「……っ!」
「私から、きちんと全部説明するから……だから……っ。
お願いだから……フレイズ……」
「……わかりました」
フレイズは翼を広げ俺達の前から飛び去る。
ファリエルは少しふらつきながらではあるが、
自分の足で立ち上がり自らの住処としている洞窟へと足を向けた。
俺は彼女の口が開くのを待ちながらついていく。
そして、ファリエルは洞窟の入り口にさしかかった頃ようやく話し始めた。
「フレイズが言っていた事は、本当です」
「亡霊ね、定義が広すぎて今一把握できないが」
「そうですね……。ですが彼らの武装は見たでしょう?」
「ああ」
「武装して死ぬような事態なんてこんな小さな島で早々起こる訳じゃありません。
彼らは兵士、無色の派閥の末端だった者達。
もっと正確に言えば私や兄さんに付き従った、また逆に攻めてきた兵士達のなれの果てです……」
「……なるほどな」
ファリエルは亡霊としてしっかりと自我を持ち存在し続けている。
だが、なら他の者達はいなかったのかと言われればそれはありえない。
当戦争等が起こったなら何百、場合によっては千を越える者達がここで屍を晒したと見るべきだ。
「彼らは君のようになれないのか?」
「私のように、とは?」
「一個人としての感情や考えを持つ幽霊に」
「なるほど……そうですね、そう考えるのが普通ですよね」
一瞬ファリエルは呆けたようになり、しかし、納得すると少し暗い顔になる。
それは、自分を責めたのかもしれない。
俺も少し不用意な発言だった。
「無理……とまでは言いません。
ですが、彼らは互いに影響を与えあいすぎました。
もう、自己を個人として認識をする事すら難しいのではないでしょうか……」
「混ざり合っていると?」
「はい、私達の存在はある意味むき出しの魂のようなものです。
あまりに近くに存在していれば記憶が混濁したり、感情が周囲の強い念に引きずられます。
特に、己が死んだという認識を持つ前は脆いので」
「認識をすれば強くなると?」
「ある程度は。心の境界というか、他者と自分を線引きできますから」
「そうか、済まない。妙な事を聞いた」
「いえ、私も彼らをそうして救おうと考えた事すらありませんでしたから……。
長くこの島にいるのに、情けないですね……」
また少し沈黙する。
ファリエルはリビングに相当するだろう部屋にたどり着くと、俺にソファーを勧めた。
遠慮なく座ると、ファリエル自身は、空中で座る姿勢をとる。
彼女は体重なんてないから空気にだって座れるのだろう。
そして先ほどの会話を反芻するように一拍開けてからファリエルは再び話し始める。
「ここで死んだ生き物は、魂になってもけして転生はできません。
島の中に囚われたまま、ああしてさ迷い続けているのです……」
「ふむ……」
「それは、あの遺跡。喚起の門の力によって起こされている現象です」
「なら、碧の賢帝や紅の暴君もまた関係していると言う事だな?」
「そうです。特にアキトさんは碧の賢帝の力と密接にリンクしていると聞きます。
それは取りも直さず、喚起の門が抱える力と繋がっていると言う事です」
「アルディラは俺にあの門を制御させたいようだった」
「いけません!」
「!?」
「たしかに、彼女の言っている事は間違ってはいません。
門を制御する事に成功すれば、結界だって消せるでしょう、だけど……。
貴方たちがこの島を出る事は、絶対にかなわなくなってしまう!」
「ほう」
「あの門に封じられている力は、亡霊達に消える事を許さないほどのもの。
それは、神や竜にも出来るような事ではありません。
その意味がわかりますか?
あれは人の手で制御できるようなものではないんです」
「それがエルゴの力というやつか」
「ッ!?」
今まで激昂していたファリエルが急に黙り込む。
かなり核心に近い所まで切り込む事に成功したようだ。
隠していたいだろうファリエルには申し訳ないが、俺としても無関係でいる事はできない。
何故ならこの肉体はその力の一部、どうあがいても影響を受けるだろう。
「ごめんなさい……、それ以上は……今の私からは言えません……。
ごめんなさい……っ」
だが流石に泣きだしたファリエルにこれ以上の情報を引き出させるのは難しい。
それに、今の話で大よその概要は分かり始めてきた。
後は、何らかの方法で実証が出来れば……。
少し頭の中が物騒になっていた俺は首を振り考えるのを止めると、目の前で泣く少女に近寄る。
そして、その頭を掌でなでた。
「うぅぅっ……ごめんなさ……。えッ!?」
普通ならば触れる事の敵わない幽霊、それに触れた
しかし考えれ見れば、俺を生かしている力と彼女を繋ぎとめている力は同じもの。
なら触れる事が出来ても不思議ではない。
「ファリエル……、お前は甘いな……」
「そう……でしょうか……」
「ああ、本当なら色々な迷惑を受けているお前が俺たちを心配する必要はない」
「でも……私たちのせいだから……」
「俺も最近知ったんだが、そうやって内にこもって責任を取ろうとするのは良くないらしいぞ」
「え?」
俺の方を向いたファリエルに精一杯笑顔を返す。
実の所、俺も似たようなものだ。
俺の場合、不可抗力でもなければ、勢力の意向に逆らえなかった訳でもない。
実際に復讐をし、その際多数の人命を奪っている。
「俺なんか元テロリストだからな、心配される価値もないさ」
「そんな!」
「そう、でも心配してしまうのがここの流儀という事だ。
だから、俺がファリエルを心配するのも構わないだろう?」
「あッ……」
その間もゆっくりとファリエルの頭をなで続けている。
正直、かなりクサイが、この際仕方ないと割り切ってしまおう。
おれ自身、既にたくさんの人に迷惑をかけた、今更罪がどうの、罰がどうの言っても締まらない。
もっとも……北辰だけはこの手で、その執念まで失った訳ではないが……。
あとがき
更新が半年開いてしまいましたorz
大変申し訳ありません、なんつーかやる気というのはなかなかおきないものでして。
テンション維持する方法があればいいのですが……。
そして、もう一つ問題が発生しました。
あんまりゆっくりやってるものだからPSP版のサモン3が発売されてしまいまして。
追加要素が結構あるっぽいのです。
まずサモンナイト4の召喚獣が呼べる、それぞれに必殺技というか得意技というかが存在する。
そして何より”果てしなき蒼(ウィスタリアス)”
シナリオも一部変更が必要になりそうな感じです。
一応、ここから10話の山場に行くので、今年中に10話が終わればいいなーと考えてはおりますが……。
守れなかったらご容赦を……。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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