今銀河を席巻しているエオニア軍(正当トランスバール帝国軍)ではあったが、彼らは深刻な問題を抱えていた。
それは人材不足、エオニア軍には本当にわずかな人間しかいない。
全軍合わせても数千、もうこれは一つの艦に数人配置できるかできないかというレベルだ。
実際、後方支援人員などを差し引くと4艦に一人いるかいないかというレベルまで落ち込んでしまう。
無人艦のおかげである程度問題は緩和されているものの、艦隊指揮官の絶対数不足はさらに深刻だった……。
その中で唯一将軍職を任されているのが、シェリー・ブリストルという女性将校である。
現在のシヴァ王子捕縛作戦も、実質的には彼女が指揮をとっている。
彼女が独断で雇った傭兵ヘルハウンズ隊のほうもうまく機能しており、現状戦闘では失点もない。
だが逆にそれを快く思っていない者もいた。
当然だ、今やエオニア軍において将軍であるという事はこの銀河で一番の軍事力を掌握しているという事であり、
そして更にすぐにでも皇王になるであろうエオニアの近くにいられるということだ。
エオニア軍の中でも上位に位置する階級を持つ者たちは一様に彼女の地位を狙っていた。
しかし、それらとは一線を画する人間もいた、権力でも軍事力でもなくただエオニアのそばにいたいという女性。
彼女の名はルル・ガーデン。
階級は大佐、いつも軍服を纏わず白いワンピースとメガネをし、ストレートな金髪をボブカットにした女性。
年齢は二十代半ばといったところだ、そんな彼女はもともと軍人ではなく、ただ一度だけエオニアに助けられたことがあるというだけの女性だった。
しかし、彼女の家は貴族であり、エオニアが帰還したとの報がもたらされてすぐに帰順、
その後艦隊の一部を借り、周囲の貴族を説得あるいは軍事行動にて制圧してみせた。
その功績を持って大佐の階級を賜ったものの、それはエオニアへの直接的な面会を許される立場ではなかった。
それゆえ、彼女はなんとしても功績をたて提督の席を手に入れたい、シェリーを引きずり降ろしたいと考えていた。
そして、そのためにうってつけであるのがシヴァ王子の確保だ。
第一に、シェリーはシヴァ王子確保に手間取っている、トランスバール本星の攻略では功を上げたようだが、今回の事は明らかにマイナスだろう。
そして同時に彼女の特殊な情報網にシヴァ王子が艦隊を離れ単艦にて行動中という報告が上がってきていた。
これは千載一遇のチャンスなのだ、シェリーをけむに巻いたシヴァ王子達を確保することが出来ればそれは抜きんでた功績となる。
おそらくエオニアに直接仕える存在になるにはこれくらいの功績は必要になるだろうと彼女は踏んでいた……。
ギャラクシーエンジェル
新緑の陽だまり 前編
「補給地点まで後一日というところか……」
「しかしよくあのブラマンシェ商会にわたりが付けられたものだな」
「じゃの道は蛇……と言いたいところだが、ミントのおかげだよ」
「ミント……ミント・ブラマンシェ少尉か……なるほど、確かに一人娘である彼女なら特殊な連絡手段があってもおかしくはないな」
そう、現在俺たちはエオニア軍にどうにか接敵しないまま、工程の3分の1程まで進んでいた。
ここは辺境域も辺境域、銀河図においても隅に位置するような宙域だ。
かなり大回りになっているのは認めるが、そのほうがエオニア軍に遭遇せずに進める。
しかし、最大の欠点は補給できる星が存在しないことだ。
そこで俺はミントに相談した、ブラマンシェ商会に補給を手伝ってもらうことはできないかと。
ミントは少し渋い顔をしたが、それでも了解を得ることができた。
「うまくいけば、これで全行程の3分の2までは接敵せずに済ませられるかもしれん」
「なるほどな、それに出てしまえば、敵軍の支配宙域よりも自軍の支配宙域のほうが近い。ほぼ戦闘なしで行けるわけか」
「そういうことだ、まあ、上手くいけばだがな」
「そうだな……」
俺とレスターはそこで、難しい顔になる、実際この作戦の要はおとりを買って出てくれているルフトがどれくらい持ちこたえられるか、それが最大のネックだ。
一応ルフトはエルシオールに偽装した船を旗艦として使っているはずだが、それとて完璧に偽装というわけにもいかないだろう。
あまり表に出さないようにうまく使っているはずだ。
しかし、それでも波状攻撃などでもかけられて、一瞬でも旗艦を目視されれば、画像解析でばれてしまう可能性が高い。
そうなれば、エオニアは辺境域に捜索の手を伸ばしてくるだろう。
それまでにどこまで進めるか、それが今行っている作戦の肝である。
「ともかく、今は様子を見るしかない。アキト、お前はきちんとエンジェル隊のテンションを管理しておけよ」
「う”っ……俺はそういうのは苦手なんだが……」
「俺だって知るか! なんで軍隊が女のご機嫌取りを……ブツブツ」
「わかった、行ってくるからそういう事は言うな、すごい視線で睨まれてるぞレスター」
「ん? 何がだ?」
知らぬは己ばかりなりと、俺もあまり人の事は言えないが、こいつも大概恋愛事には疎い。
というか、レスターは飛びぬけて二枚目だ。
俺は年齢の割に童顔なので同世代に見られているが、本当は30近い。
ナノマシンの影響もあってあまり年を取らないのかもしれないが、本当は結構いっている。
そういう意味でまだ少し恋愛事に関する事を知ることはできる、それでも鈍いほうだが。
とにかく、レスターの鈍さはかなりのもので、告白されてもそれと気づかないほどだ。
士官学校時代は毎日のように下駄箱にラブレターが入っていたし、その後も告白する人間は後を絶たない。
しかし、この男、仕事が恋人だとか真面目に言ってしまうタイプの人間なのだ。
俺が知るだけでも玉砕していった女性の数は100できかない。
いっそアイドルやってろと言いたくなるのも事実である。
しかし、レスターはまじめ、実直を絵にかいたような男だ、だからこそ信頼に値する。
二律背反というやつかもな……。
俺は操舵席や通信士席を見ないようにしながらそそくさとブリッジを後にした。
エンジェル隊のテンション管理……。
簡単に言うと、彼女らがハイな精神状態にあればあるほど紋章機はスピードもレーザーなどの兵器の出力もあがる。
コンピューターなどの演算能力もあがるらしい。
どういうシステムなのかさっぱりだが、紋章機に使われているハイロゥシステムは精神状態が良ければそれだけで強くなれると言う事だ。
そのために何をすればいいのかといえば、結局のところ鬱にならないように精神ケアを常にしなければならないという事。
まあある程度は一般兵も同じで精神高揚はいろいろな手法で行われる。
しかし、彼女らへの精神高揚法は軍組織の法則で行うものではなく、いわゆるご機嫌取りで行われる。
そして、それは司令官の仕事という事に今はなっているらしい……。
何故なのか説明を要求したいところだが、説明できるルフトは今はるかかなた……正直困っているのが実情だった。
そうして困っていると、廊下を横断していく少女を見かけることになった。
エメラルドグリーンの髪をドリルのように巻きつけながらポニーテールにしている、赤い目をした少女。
そう、ヴァニラだ。
彼女が向かう先はどうやらクジラルーム。
よくよく考えてみれば俺は一度も言った事がない部屋だ。
クジラルームは銀河展望公園と並んでエルシオール内で最も大きな部屋であることは間違いない。
250m四方の大きさを持つ部屋が2つあるのだ、エルシオールの生活環境システムの大半がそこに使われているといっていい。
ヴァニラの事も気になるが、クジラルームのほうも少し見てみる必要があるなと思い、俺はヴァニラを追いかけることにした。
「こんにちは、ヴァニラ」
「アキトさんこんにちは」
「これからクジラルームに行くのか?」
「はい」
「そうか、実は俺も一度行ってみようと思っていたんだが、機会がなくてね。一緒に行ってもいいか?」
「はい」
ヴァニラに断りを入れ、彼女についていくことにする。
クジラルームまで行くのにさほど時間はかからなかった。
いくら大きいとは言ってもエルシオールは全長 846m 全幅 274m 全高 392mに過ぎない。
つまり、全幅一杯の部屋が2つもあるという事だ。
被弾時はやはり一番危険な部屋でもある。
穴でもあいた日には流出する空気を止めるだけでも一苦労だ。
というか、維持費もばかにならない、クジラルームにいる動植物の食事や肥料などだけでも合成可能なものが少ないため弾薬代に近いほどの費用がかかる。
そんな部屋であるのに、俺は一度も足を運んだ事がなかった。
理由はいろいろある、行く理由がないから、今一ある理由がわからないから、そもそも一番いらない部屋じゃないかと思ってすらいる。
まあ、儀礼艦として使っていたころならともかく、今は非常時、無駄な出費は極力抑えたいところでもある。
もちろん、今いる生物を殺したいわけではない、しかし、維持費が痛すぎる。
ヴァニラには悪いが場合によってはクジラルームに関する予算削減なども考えていた。
そんな少し物騒な事を考えている俺には気づかないのだろう、ヴァニラはクジラルームのドアを開く。
そして一瞬俺は息をのんだ……。
部屋の内部に海岸線が広がっている……。
一面の砂浜、正直ここまでとは思っていなかった。
波も人工的に作られているのだろう、ザザーンと緩やかに引いては返している。
そして、その波打ち際近くで水柱があがる、何か人為的な感じのする水柱だが……?
「これはめずらしい、テンカワ司令がこちらにいらっしゃるとは」
「君は?」
「僕はクロミエといいます。ここの管理を任されています」
「そうか……ところで……その肩の上のものは?」
「これは宇宙クジラの子供です」
宇宙クジラ? クロミエの肩の上でピチピチやっている飛行物体が?
まあ、クジラのように見えなくもないが……小さすぎないか?
いやまあ、大きいよりは世話が楽そうではあるが。
「はい、子供は楽ですよ、でも大人もさほど手がかかるわけじゃないんですけど」
「大人?」
「はい、この海の中でいます」
俺があわてて海に見える方向を向くと、そこから巨大な波が立ち上がる。
ザパーンという音とともに、波は俺を飲み込み押し流そうとする。
俺は咄嗟に入口の方向へ向けてダッシュした。
飛ぼうにも砂浜のため、足場が悪いからだ。
幸い飲み込まれはしなかったものの、指揮官用の制服がずぶぬれだ。
隣で水もかぶらずにいるクロミエが立っている。
武術などを身につけているようには見えないが、恐らく予想していたのだろう。
表情はともかく、知っていて俺には言わないのだからかなり意地の悪い奴のようだ。
「あちらが大人の宇宙クジラです」
「大きいな20mくらいありそうだが、あいつも空を飛ぶのか……」
「はい、宇宙クジラは飛ぶんです」
「ふう、まあいいが。知っている事を言わないのは感心しないな」
「何事もわかってしまったら面白くないでしょう?」
「やはり予算を減らすか」
「あなたはそんな事をしませんよ」
「ほう、その理由は?」
そう言われると、クロミエは指差す。
見ると、緑で覆われた一角で、白くて耳が長く目が赤いウサギにに似ているが少し違う動物にヴァニラが餌をやっていた。
「彼女に限らず、エンジェル隊のみなさんのメンタルケアに使われているんです。必要でしょ?」
「なるほどな。ならお前の給料だけカットする事にしよう」
「ふふふっ、ここまで粘った人ははじめてですよ。分かりました今後は気をつける事にします」
「あまり人をからかっても得にはならんと思うがな」
「クジラもぼくも気に入った人しか構いませんよ」
「お前に気に入られたくなくなったよ」
「もうすでに遅いです」
「全く……」
そう言って俺はクロミエを無視してヴァニラがいるほうに向かう。
ヴァニラは餌をやりながらもどこかその動物に触れるのを遠慮しているように見える。
俺は少し不思議に思い聞いてみることにした。
「触れてみないのか?」
「いえ……私は……」
ヴァニラは触れたいのを我慢しているように見える。
なるほど、何かそれをすることをためらう理由があるという事か。
俺としてもなんとかしてやりたいと思うが理由そのものがわからない限り何とも言えないところだな。
しかし、彼女は働きすぎるここは癒しの場だというのに、ここでも動物たちの餌やりや植物の世話をしているらしい。
クロミエの話では割と頻繁にそれを行っているようだ。
ただ、それでも動植物を世話するヴァニラはやはり癒されているようでもあった。
「とりあえず世話も重要だろうが、クロミエの仕事でもある、ヴァニラ、少し休んでみてはどうだ?」
「いいえ、私はまだ……あの人に届いていない……」
「あの人?」
「……」
そうは言ったものの、恐らくシスターバレルの事だろう。
シスターバレルの死は寿命であったと聞いている。
つまりは、ヴァニラには全く非がない、いやそもそも10歳前後の少女が看護していて何かがあったとしても誰も責める事は出来ないだろう。
だが、それは他人の話、自分が自分を責める事、それを辞めさせることは並大抵ではない。
ヴァニラは自分のせいではないと言われても責める事を辞められないだろう。
だが、彼女には十分な休暇が必要だ。
そこで俺は一計を案じてみる事にした。
「そのウサギ……ウサギでいいのか?」
「はい、宇宙ウサギといいます」
「宇宙ウサギ……」
宇宙クジラの次は宇宙ウサギか……。
何でも宇宙つけてるんじゃないだろうな……。
それはともかく。
「クロミエ、宇宙ウサギの子供が沢山いるようだが予算枠で収まるのか?」
追い付いてきたぴったりのタイミングで言ってやる。
正直俺はクロミエの事を少し嫌っているのかもしれない。
差別する気はあまりないのだが。
「そうですね、少しきついのが現状です。出来れば何匹か引き取ってもらいたいのですが」
「そうか、ならヴァニラ一匹飼ってみないか?」
「飼う……私がですか?」
「そうだ」
ヴァニラは困惑している、もちろんわかっている事だがもしこれを飼う事になれば定期的に部屋に戻らなければならなくなる。
休息になるかどうかはまだわからないが、できるだけそうなるように仕向けてあげたいところだ。
「ですが、私は生き物を飼ったことがありません……」
「クロミエ」
「はい、僕が一通りレクチャーしますよ」
「……」
軽々しく引き受けないのは、彼女が命の重みを考えているからだろう。
だが、できればそうしてほしいと俺は考えている。
そして、しばらく考えた後ヴァニラは答えを出した。
「分かりました、レクチャーお願いします」
俺はその言葉に満足し、後をクロミエに任せてその場を去ることにした。
そもそもクジラルームというものはこの海岸線を用意するためのものだったという事は間違いない。
しかし、エンジェル隊のためと言われればあまり強くも言えないのは事実だった。
やはり、やりくりは難しい。
最もたどり着きさえすればその問題は解決するのだが……。
ギャラクシーエンジェルのメンバーにはそれなりに特権がある。
テンションを維持するために公費で買い物、施設の利用などをほとんど無料で行う事が出来る。
私物を買うのは基本的に給料からだが、作戦に関係なくても気分を良くするものなら、ある程度は融通がきく。
たとえば、俺が今いるトレーニングルームの利用などもそのうちに含まれる。
そう、トレーニングルームには先客がいた。
彼女はグローブをした両腕を使ってのボクシングスタイルのパンチ連打から、金色のロングヘアを流れるようにまとい、コマのように回転しつつ、旋風脚でしめた。
ボクシングとカンフーを組み合わせたような動きは独特なものだ。
「何か用?」
「いや、面白い武術だなと思ってな」
「別にいでしょ、故郷の武術よ」
「そうなのか……」
「だいたい、アンタいつもうろうろしてるけど、上手くいってるの?」
「今のところはな、だがいつでも出られるようにしておいて欲しい」
「別にアンタに言われるまでもなくそうするつもりよ……」
多分この前の食事時に見たアレの事でまだ怒っているんだろう。
俺としてはそのまま立ち去るのもいいとは思うのだが、考えてみると俺がやるべき事は彼女らのテンションをあげる事だった。
しかし、世間話をしようにも共通の話題すら分からない。
そうしてうんうん悩んでいると。
「何端っこでぼっとしてんのよ。私の事覗いてんの?」
「いや、できればツンケンするのを辞めてもらいたいがどうすればいいかなとな」
「っ!!」
あ、まずいな。
素直に言いすぎたか、もう少し言い回しがあったかもしれないな。
とはいえ、相手のほうはうまい事頭に血が上ったらしく、俺の事をグローブをかぶせた腕で指すと言葉を紡ぐ。
「いいわ、アタシに勝てたら許してあげる」
「ほう、面白い事を言うな」
「ルールはバーリィトゥードでいいわね?」
「ああ」
うまく乗ってくれたようだ、元々ノリのいいタイプのようだしありがたい限りだ。
俺はそのままトレーニングルームの中央にやってくる。
ランファは俺の正面に立つと構えをとりながら不審そうな顔をする。
「着替えないの?」
「気にするな。俺は気にしない」
「っ! 馬鹿にして!!」
ランファは俺に向かってダッシュすると、ローキックを放ってくる。
初手を足にしてきたのは意表を突くためだろうが、俺はバックステップで回避する。
しかし、ランファはキックした足をそのまま軸にしてもう一歩前進し手を開いた状態でグローブを当てに来る。
俺はその掌底に向けて手を伸ばし、巻き込むように回転する。
ちょうど互いに半回転するような格好になり背中を押しつけ合うような形になった。
しかしそこから、俺とランファはほぼ同時に肘を繰り出していた。
繰り出された肘どうしが衝突し、嫌な音を立てる。
完全にはタイミングが重ならなかったようで大きなけがというわけではないが、感覚のマヒは起こしている。
そのまま互いに飛びずさるように離れた。
「へぇ、結構やるじゃない。艦隊司令なんて運動不足ばっかりだと思ってたけど」
「最近の艦隊司令は暇でね、トレーニングくらいしかやることがない」
「ふんっ、だからって興味出てきたなんて勘違いしないでよ」
「それは残念だ」
言葉がいい終わらないうちにまたランファが仕掛けてきた。
ノってきたのか、手数も増えて技のキレも増してきている。
俺もそれを適度にさばきながら、反撃のすきをうかがう。
そう、この時俺とランファは確かに互いの事しか考えていなかった。
目の前の相手から気をそらせば倒されることが明白だったからだ。
「ったくしぶといわね!」
「その言葉そっくり返す!」
その言葉とともに、互いの最高の一撃を繰り出す。
互いに完全には決まらなかったが、後になってみると結構エグイ技とかも使っていた。
それでも、終わってみれば互いにすっきりした顔になっているだろう。
ランファはどこか楽しげに俺を見ていた。
「全く、タフね。まさかアタシと五分にやりあえるとは思ってなかったわ」
「まあ俺もそれなりに武術の心得があるからな」
「ふーん、デスクワーク専門ってわけでもないのね」
「むしろデスクワークはあまり得意じゃない。俺はどちらかといえば肉体労働派でね」
「嘘おっしゃい、デスクワークが出来なきゃ提督になんてなれないでしょ」
「レスターが優秀だからね」
「ああ、あのイケメンの副官さん……」
なんとなくわかってくれたらしい。
どっちにしろ、彼女はかなりストレスをため込んでいたようなので発散する足しにはなっただろうか?
別れ際ボソリとあんまり気ばっかり使ってると禿げるわよと言われたがそれには答えずブリッジに戻る事にする。
その途中、いや俺が帰ってくるのを待っていたようにブリッジの前にはミントが佇んでいる。
その表情はどこか考え込んでいるようで、何か事情があるのだろうと察する。
兎に角声をかけない事には始まらない。
「デートの待ち合わせをしてたかな?」
「ええ、遅いですわよレディを待たせるなんて紳士のする事じゃないですわ」
俺が芝居がかって言うと、ミントもあわせてくる。
全く余裕がないと言うほどではないようだ、しかし、わざわざ待っていたのだ理由はあるのだろう。
「少し場所を変えません?」
「わかった。では、ささお嬢様」
「ティーラウンジまでお願いしますわ」
そしてミントとティーラウンジで向かい合って座る事になった。
シフォンケーキとオレンジペコを注文するミント、駄菓子を食べたいところだろうが、流石にティーラウンジには置いていない。
俺はとりあえずストレートティを頼む、無難にダージリンにしておいた。
「一つ言っておかないといけない事がありますの」
「言っておく事?」
「はい、私は本来家を飛び出した身であるという事ですわ」
「……」
つまり、連絡を取った補給物資を届けてくれるという商会の船にも、
彼女を連れ戻すための人間が乗っている可能性があるという事か。
「その通りですわ、それに……私たちは商会です。この意味がわかります?」
「利で動くという事か……」
「はい、ですからくれぐれも気を付けてください」
ミントはいつもの微笑みを浮かべていない、やはり自分の身内の事は達観していられないという事だろう。
大きな獣耳も力なく垂れている。
なら俺は補給をしつつ2種類の警戒をする必要が出てくるという事になる。
「お手数かけますけど、私はエンジェル隊でいることに誇りを持っていますの。よろしくお願いしますわ」
「ああ、分かった」
それらの事を考え併せた時、俺は少し面白そうな事を考えついていた。
視線だけでミントに確認をとる。
「うふふっ、アキトさん人が悪いんですのね」
「提督なんていうのは人が悪くてナンボさ」
「では、私も仕込みをしておきますわ、そちらの方よろしくお願いします」
「ああ、お互いにな」
そう言って俺たちは目的地へと向かう、明日は補給の当日だ。
出来れば何事もなく過ぎれば言う事はないのだが、
ひと波乱起こるのはほぼ確実だという事だけはわかっていた……。
あとがき
すんませんorz
記念作品なのに続きものになってしまいました。
余裕があれば後編も一か月以内に何とかUPしますのでご容赦ください。
しかし、シルフェニアも5周年、HPを運営しだした頃の事が昨日のようです。
実際新参者ですしね、今でも大手サイトの仲間としては新参のままです。
今後も出来れば長くご愛顧いただけるサイトでありたいと考えています。
今後ともよろしくお願いしますねw
押していただけると嬉しいです♪
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