異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第八話 【ボロロッカ商会


おっさんことガーラリア・エストレン・モルンカイトによってチンピラから救われた俺達は、
お礼という事で近くの飯屋にやって来ていた、まあ食事もまだだったので丁度いい。
ただ、モルンカイト侯爵はカトナの村がこうして生活にあえぐ事になった原因でもある。
その縁者の可能性が高いおっさんには警戒が必要だろう。

「いやー、最近可愛い子が少なくってねぇ。おっさん嬉しいよ♪」
「ちょ、アルテに触らないでほしいのです!」
「ひゃ!? ちょ、やめて!」

強者度22、今まで見た事も無い強さを持つ彼だが、
女の子の攻撃は回避しない信条でもあるのかしっかり頬にもみじを咲かせている。

「ぐぇ……、いい……パンチ、持ってるね……」

ボディにも重いのをもらったらしく、悶絶している。
まあ、着流しも半分はだけているような格好なので防御力はあってなきがごとし。
急所だって丸見えなので、回避しなけりゃそうもなるだろう。
しかし、反撃したり怒ったりしない所を見ると女性には優しいらしい。
まあ、おさわりをする時点で女性には好かれないだろうが。
ともあれ、見ただけでは確かに強そうには見えない。
だが、強者度22という破格さと、あの白い右腕。
どう考えても只者ではないだろう。

「兎も角、助かりました」
「いやいや、そっちのお姉さんだって戦えば勝てただろうし、
 あんちゃんも何か秘密がありそうだよね?」
「いえ、俺達では無傷で2人を助けられなかったでしょう」
「ふーん、その辺謙虚なのね。
 おっさんとしてはもっと若者らしい突っかかり方を期待してたんだけど」

にんまり笑うおっさん。
武器なんか持ってなくても、彼なら2、30人倒せてしまいそうだ。
そんなの相手につっかかるほど俺は無謀じゃない。
だが、同時にモルンカイト侯爵の縁者だというなら出来れば情報が欲しい。
何せ、カトナ村以外の情報源を持っていなかった俺は、
この世界についてもドランブルグ領内についても知らない事が多すぎる。
そもそも、モルンカイト侯爵という言い方も正しいのか疑問だ。
本来領土名が爵位につくのだから、トランブルグ侯モルンカイトと言うのが正しいだろう。
だが、この世界においての常識はどうだかわからない。
もっとも、俺達の世界と共通する点が多いのも不思議ではあるのだが。

「それで得するならいくらでも青臭い事を言いますがね。
 そう言う事をしても損はするけど得する事はないから」
「ふぅん、今時の若者ってやつかね。
 おっさんが君くらいの頃は周りの全てに反抗してたもんだけど」
「たつにーさんとおっさんを一緒にしてはいけないのです!」
「おお、それは失敬。
 失敬ついでに名前聞いちゃってもいい?」
「タツヤといいます」
「リディよ」
「アルテはアルテなのですよ」
「リフティと呼んでくれ」
「快く教えてくれて感謝するよ。俺は、そうだな。ホワイト・ファングとでも呼んでくれい」
「思いっきり偽名ですね」
「何を言ってるの、ホワイト・ファング! これこそ本当の名前、魂の名前なのさ!」
「単にその白い腕にからめて今思いついただけ感が半端ないです」
「そんな事ないさ! 俺は昔からホワイト・ファングだった。
 あれはそう……10年は前の事だったか……白銀の毛を持つ狼が……」
「はいはい、ワロスワロスなのです」
「ちゃんと最後まで聞いて!? おっさん悲しい!!」

うん、本名知ってるけどね。
というか、アルテはオタク語よく吸収してんな……。
まあ、元ネタはメルカパだろう事は言うまでも無いが……。
しかしこうなると聞きだすのは難しそうだな。
突っ込んで藪蛇になるのも嫌だし、追及は諦めるか。

「しかし、珍しい物持ってるね。
 甘い匂いにつられてきたけど、それキャウルの乳だろ?」
「はい、出来れば定期的に買い取りをしてくれる所を探してます」
「定期的? キャウルは乳搾りのために乱獲されて減ってるって話だけど?」
「ああ、それは……」
「その辺りは企業秘密って言う事でいいかな?」
「へぇ、なるほど。それなりに秘密がある訳か。
 まあ深くは聞かないよ。個人的に少し融通してくれるなら……ね?」

ふむ、どこまで信用できるかは分からないが悪意があるようには見えない。
なら一つ頼んでみるのもいいかもしれないな。
一般の店での買い取り料金も一応聞いてみたが、予想通り4分の1くらいの値段だった。
売値は御猪口一杯13ダール、500mlくらいのカップ一杯で400ダールくらいなのに、
買い取りの値段はカップ一杯80ダールくらい。
どの店も大差ない状況が続いている所を見るとやはり税が高いのだろう。
組合か何かが出来ていて値段を調整している可能性もなくはないが……。
そもそも品薄の品だ、実際に置いている店も5軒回って2軒、調整の必要があるようにも思えない。
これから、大手の商家等を回って見るつもりだったが、領主の親族ならもしかするかもしれない。
危険な気はしなくもないが、そこまで彼が商売人には見えなかったというのが大きい。

「構わないが、ついでと言っては何だけど買い取りをしてくれる商家を紹介してくれないかな?」
「商家ねぇ……。なんでそんな事をおっさんが知ってると思うの?」
「もちろん年の功で」
「へぁ!? ああ! 年の功、なるほど年の功ね……。確かに! おっさん一本取られたわ!」

一瞬鋭い顔になったおっさん、やはり領主の親族である可能性が濃厚になったな。
だが、上手い事紹介してもらえるなら別に何だっていいのだ。
流石に今の村の状況で、領主関係の細かい内情を知った所で役に立つとも思えない。
強請る材料を手に入れたとしても兵を向けられて村ごと壊滅させられるのがオチだ。

「ならそうだな、ボロロッカ商会でも行ってみるか?」
「えっ、ボロロッカ商会の方とお知り合いなんですか!?」

おっさんの言葉にリディが驚く。
考えてみればこの中で元からのカトナ村民はリディ一人だし、
当然大手の商会を知っているのもリディ一人という事になる。
彼女が驚いたと言う事は、当然大手商会なんだろうと当りはつく。

「まあね、あれは15年くらい前の事だったかなー。
 当時薄幸の美少年だったおっさんは……」
「当時から腐っていたのですね、ご愁傷様です」
「違うよ! おっさん腐ってないよ! はっこうって幸薄いほうだよ!!」
「お似合いだと思ったのに残念です……」
「お似合いって、これでもおっさん幼女を助けたよね!?
 なんでそんなにひどい言われようなの!?」
「おっさんだからです」
「ああ納得、なわけねー!?」

アルテ、なんというか凄まじく容赦ないな。
嫌っているのか遊んでいるのか、今一理解出来ないが、おっさんの我慢が限界突破したらやばい。
この辺で何とか御機嫌を取らねば。

「こう見えてもアルテは感謝してるんだよ」
「そうなの!? 全然見えないけど!?」
「この子は、嫌いな人は無視するしね。
 というか、漫才の相方を欲している珍しいタイプだからね」
「何そのハタ迷惑な趣味は!?」
「趣味じゃないのです! 本気で漫才で旗を揚げる気なのですよ!!」
「おおう、凄い熱意だ……。でもおっさんの活力はもう無いわ。もっと若い子と組んでくれ」
「仕方ないのです。時々練習台にするだけにしておくのですよ」
「それもひどっ!?」

御機嫌が治ったのかどうかは分からないが、悪化はしなかったようだ。
そんな感じでがやがやと食事を済ませてから、おっさんが紹介すると言うボロロッカ商会へと向かう。
それと1杯分のキャウルの乳は既に先払いしている。
お礼の意味もあるので失敗したからと渋る訳にも行かないからだ。
多少売上は目減りしてしまうだろうが仕方ない。

そうこうしているうちに、ボロロッカ商会の物と思しき大きな屋敷が目に映る。
これは確かに、アポなしで入れるような代物じゃないな。
リディの話だと、ここはアードックの町最大の商会であるらしい。
当然流通を一手に取り仕切っており、この街においての権威は下手をすると領主にすら匹敵するとか。

「ここがボロロッカ商会だ、ホワイト・ファングの紹介って言えば無碍にはされないだろうよ」
「付いて来ないのです?」
「まあ、いろいろあって顔を合わせるのはちょっとな……」

そう言って踵を返そうとするおっさん、しかし、タイミングが良かったのか悪かったのか。
丁度馬車が1台、館の方に向けて走って来ていた。
かなり豪奢なもので、御者も執事風の紳士がしている事が見て取れる。
そして、それを見たおっさんの顔色が変わった。
急いで逃げ出そうとするおっさんだが、時すでに遅し、相手は気が付いたようだ。

「ぼっちゃま! ぼっちゃまであはありませぬか!!」

そして、大声でおっさんには似つかわしくない呼び名で呼び始めた。
一瞬ひくりとなって動きが止まるおっさん、対して馬車は見事におっさんのよこにつける。
狙ってやったのだとすれば執事風の紳士、侮れない。
思わずステータスを確認する、が、別におっさんと比べられるほどの強者度を持っている訳でもない。
間の取り方が絶妙なんだろう。

「旦那様! ぼっちゃまが来ておられますぞ!!」
「何、それは本当か!?」

そうして、あっとう言う間におっさんごと俺達も客間に案内される事になった。
やはり知り合いというのは本当の事のようだった。
俺達としては願ったりかなったりとなる訳だが。
だが、ぼっちゃまというのは……どういう事なんだろう?

「しかしぼっちゃまがここに来て下さるとは。
 もう、来て下さらないものと考えておりました」
「……来るつもりはなかったんだがねぇ……」
「ふむ、お友達のお陰という事ですな、感謝いたします。
 旦那様ももう直ぐ来られますので、しばしお待ちください」

執事のステファンとかいったか、老紳士は軽く礼をして客間から退出していく。
本来は主人より先に客と話すのは主人の命で客を楽しませる時を除けばしないものらしい。
だが、おっさんとは色々とあるのだろうおっさんも既に逃げる気は無くしているようだ。
それからしばらくして、ステファンを共なった50代と思しき小太りの男がやってくる。
身長も160代後半、少しアラブ系が入っているのか褐色で、口ひげを切りそろえている。
髪は不思議とオレンジに近い明るい色だが、目の鋭さがそれらを補っている。
強者度を見ても4と微妙なものだが、商売に関しては恐らく目はしが効きそうだとそう思える風貌だった。

「待たせてしまったかね?
 私がダール・ボロロッカだ、商用で尋ねて来てくれた事感謝する。
 しかし、少しその前に時間をもらえまいか?」
「はい」

聞くまでも無い、恐らくおっさんと話をするつもりだろう。
もっとも、俺達の前ですると言うあたり、あまり深い話しではないんだろうが。

「エスト、戻ってくるつもりはないのかね?」
「ええ、根なし草になりましたんで」
「ふむ……、私は兄君より君を買っていたのだがね……」
「ありがたいですが、家を分裂でもさせる気ですか?」

なるほどガーラリア・エストレン・モルンカイトだからエストか。
家を分裂、兄君……、意味深だな……兄とやらが今の領主だろうか?
村長が言っていた領主のイメージだと、村長より一回りは下の年齢のようだから、領主像に丁度一致する。
だが、それだけで決めつけるのは早計か。
そもそもモルンカイト性がどれくらいの数存在するのか、それによって変わりそうだ。
ただの遠縁とかだったら目も当てられない。
今は口に出すべきじゃないな。

「ふう、相変わらずだね君は……」
「勘弁して下さいよ旦那。浪人のおっさん、私にはそれが合ってるんです」
「……もしやエスト、お前……あの時の事を今でも……」
「さあ、何のことやら。それよりも今回の商談はかなりいいものだと思いますよ」

その時ようやくボロロッカ商会長は俺達を見た。
その目は俺達を、そして何より樽を値踏みするように見ている。
今までとは違い商談だと言う事を意識させるに十分だった。
これは会長のやさしさかもしれない、むしろ甘い顔して寄って行ったほうが買いたたけるだろうからだ。

「ほほう……。待たせて申し訳ないね。
 私の名は先に明かしたが、君達の名を聞いていなかった、紹介して頂けるかね?」
「カトナ村で御厄介になっています。達也といいます」
「同じくアルテなのです」
「カトナ村の村長の娘リディと申します」
「リフティだ」
「ほう、カトナ村……噂では徴税官の無茶な取り立てをやり過ごしたらしいな。
 その立役者は旅のものだったと聞く、それは君達ではないかね?」
「否定はしません」
「ふむ、面白い取引ができそうだ。
 所でその樽、甘い匂いが漂ってくるが、もしや蜂蜜かね?」
「いえ、キャウルの乳です」
「キャウルの乳……だと?」
「ええ、飲んでみたんですが混じり気なしの本物ですよ」

おっさんが商品について保証してくれる。
確かに、本来野生のキャウルからは何度も取りに行くのが厳しいものだろう。
樽一杯もそれを持ってくるというのは考えられないに違いない。
だが、ボロロッカ商会長は直ぐに冷静さを取り戻すと、

「中身を拝見してもいいだろうか?」
「はい、確認してください。
 あまり大量にとは行きませんが試飲も構いません」
「わかった。柄杓をもってきてくれ、糖蜜用のやつだ」
「はは」

言われて老執事は直ぐに姿を消す。
持ってきたのは、柄こそ長いが、掬う部分が小さい柄杓。
それを口の部分からひと掬いすると匂いを嗅ぐ。
恐らく劣化や混ぜ物を見ているのだろう。
商会長である彼がキャウルの乳の目利きまで出来るのかは知らないが真剣なものだ。
そして、口に含む。
目を見開き俺達を見た。

「素晴らしいな、持ち込んでくる人間は多いが混ぜ物も無くこれだけの量を持ってきたのは初めてだ」
「ありがとうございます。商談に移っても?」
「うむ、しかし現状我々が取引する高級品、嗜好品には高額の税がかけられている」
「繁華街を見てそう感じました」
「これだけの嗜好品ともなれば税に半分近く持っていかれるだろう」
「……やはり」
「それを含めて、一体いくらで売るつもりなのかね?」
「8000ダールにて」
「無理だ、この樽が最終的な売値としては15000ダールを越えると言う事は認めよう。
 しかし、税で7500ダール引かれれば実際の売上は7500ダール、差引500ダールの赤字。
 それではメリットが全くない。
 いいかね、この手の商品は保存と人件費が一番高い、半分はそれに当てねばならない。
 氷室の維持だけでもかなりの費用になるのだ、4000ダール以上は出せんよ」

4000ダール、50で割れば80ダール、ほかの店の買い取り料金とほぼ同じだ。
と言う事は、ほかの店も割と良心的な値段だった事になるな。
そもそも、あまり店に出回る物でもないからかもしれないが。

「我々は一月に3樽この商品を用意できます。それでもですか?」
「供給が増せば逆に単価が下がる、そのくらいの事も分からんのかね?」
「そうでしょうか?」
「何が言いたいのかね?」
「このキャウルの乳というものは普通の乳と違い腐りにくいという事がわかっています」
「それはそうだが、だからといって野ざらしで保管すれば味が落ちる」
「そう言う事ではなく、これはどこに持って行って売る事も持出来る商品だと言う事です」
「どこに持って行っても……まさか?」
「何もドランブルク領の中だけで販売する必要はないかと思いますが?」

ボロロッカ商会長の目が一気に鋭くなる。
それは、ある意味敵を見る目、ただ好奇心も含んでいるようなまたたきが感じられた。
今まで俺はそれほど人付き合いがある訳じゃない、カトナの村で多少鍛えられたとはいえ。
だが、それでも分かる彼は今警戒しながら興味を抱いている。

「……君は何者だね?」
「旅人ですよ、遠方からの」

それに対しての俺の答えはお世辞にもほめられた事じゃないだろう。
しかし、俺としてはそれ以外に答えようがないのも事実。
カトナ村での説明と同じ失敗をする訳に行かなかった。
少し胡散臭くても、誤解を受けない方向で話しておくしかない。
ボロロッカ商会長はそれを聞いて口髭を暫くいじっていたが俺が答えないと分かると話を続けた。

「ふむ……。販売をこの国に限る必要はないという話は頷けるものがある。
 定期的に仕入れる事が出来るなら新規の顧客開拓も意味があるだろう。
 だが、それを受けても、外国だって税が無い訳じゃない、それに新規開拓の費用も見なければならん。
 買い取りは5000ダールが限度だろう」
「そうかもしれない、だがそもそも定期供給されるキャウルの乳というものが他に無いでしょう。
 販路さえつなげば、定期供給が出来るこちらが断然優位になる。
 継続という意味でも、値段の相場も或る程度こちらで構築可能なはずだ。
 8000ダールは動かせません」

ボロロッカ商会長はこちらの譲歩を引き出そうとしているのは明らかだ。
値段はアルテに聞いた最低ラインがカップ1杯150ダールとして50杯、7500ダール。
う1杯はおっさんにあげたし、さっきの試飲で少し減ったとして7000ダール。
それ以下にするのは状況的に仕方ないかもしれない。
しかし、大幅な値下げはしてはいけない、今後ずっと同じ額での取引になるだろうからだ。
これだけの大手商会となれば、解約して別の商会にといっても難しくなるだろう。
手を回して商談を潰されかねない……。
ならば契約時可能な限り高く売るしかない。
何れ値崩れするまでは今の額で売れるように。

「なるほど、市場独占の利益があると見る訳だね?
 しかし、君達が本当に定期的にキャウルの乳を入手できる保証はあるまい?」
「あります。こちらはキャウルを取っているのではなくキャウルを飼っているからです」
「飼う? 一体どうやって?」
「それはお教え出来ません。村の存亡に関る問題ですから」
「……なるほど」

ボロロッカ商会長が視線を鋭くする。
少し迂闊だったろうか?
飼う事が出来るとなれば、その方法を調べて自家生産をしようとするのが商人というものだ。
そうすればその分原価が下がり儲けが多くなる。
だが、それをさせる訳にはいかない。
俺としては、彼らに村までキャウルの乳を買い付けに来てほしいと思っていたが、
そんな事をすると、カウチ草の事を感付かれてしまう可能性が高い。
毎回売りに来る必要がありそうだ。

「我々が買い取りを拒否したらどうするつもりかね?」
「もちろん残念ではありますが、別の商会にお話しを持っていく事にしたいと思います」
「他の商会が我々よりも良心的とは思えんがね」
「それでも安値で売ればこれからの買い取りが全て安くなってしまう。
 それに、その商会が安く売って値崩れが起これば貴方達も困るでしょう?」
「……6000ダール、保証の無い買い取りに随分破格だと思うがいかがかね?」
「8000ダールは譲りません。
 それに、我々のような冒険者でもないものがキャウルを持ちこんでいるのが保証ではいけませんか?」

普通は、モンスターを狩って行ってたまたま見つけたキャウルを捕獲し、乳を搾るらしい。
キャウルは暴れるので、足を縛り付けねばならず一週間もすれば弱って死ぬとか。
それでも1000ダール(約10万円)程度の儲けにはなるし、キャウル自体はさほど強くない。
なので、冒険者達は生活が安定するまでキャウルを狩る者が多く、今では激減しているらしい。
値上がりの危険はあっても、値下がりの可能性は薄いと言うのが現状だった。

「ふむ……しかし、自分で言うのもなんだがここより良心的な商会は恐らくないよ。
 私が撥ねれば、他の商会では更に下の値しかつけんだろう」
「その事については、ホワイト・ファングさんの紹介ですから信用しています。
 ですが、条件については私達を貴方がまだ信用していないからだろうと考えています」
「なるほどな、押しが強い。それでいて抜け目もなさそうだ。
 商人としてはどうかと思うが、それもまた資質かもしれんな。
 いいだろう、7000ダール、これが本当に限界の値段だ」
「ありがとうございます。これからも良い取引が出来ると嬉しいですね」
「うむ、今回は一本取られたよ。ステファン用意してあるか?」
「はい旦那様」

執事な老紳士が持っているのは袋、俺がそれを受け取ると、樽を台車ごと押して行ってしまった。
俺は袋の中身を確認する、確かに100ダール金貨が70枚入っていた。
最初からこの値段を見越していたと言う事だろうか?
それとも、金額次第では執事の懐の中にでも消えていたのだろうか?
ともあれ、一応の目標は達成する事が出来たようだ。
今後も1樽7000ダールで買い取ってもらえるなら、月に4つは保証出来る以上、
平均すれば30000ダール以上の売り上げになるだろう。
その約300万円分を食料に変えれば最低50人、切り詰めれば100人は食べさせていける。
もっともこれは、保存食等を計算に入れていないから多少目減りする可能性もあるが、
砂金の採取も続けているし、あと半年待てば次の作物も取れる。
どうにか村の倉庫の中身と一緒に食いつなげば持つだろう。
俺はほっと一安心していた。
これでアルテとの約束も破らずに済むし、村も安定すると……。

「さて、私も忙しい身でね。先に退出させてもらうよ。
 君達はゆっくりしていくといい、ステファン案内を頼む」
「了解しました旦那様」

そう言ってボロロッカ商会長は客間を出て行った。
しかし、こうしてみるとこの客間、かなり豪華な造りになっている。
ソファーなんてこの世界に来て初めて見るし、彫刻やら絵も複数飾られている。
商談の前はこういったものが目に入らなかった事を考えればいかに緊張していたか分かると言うものだ。

「さて、おっさんはそろそろお暇するかね。
 しかし少年、いいものが見れたよ。旦那を凹ませるなんざそうそういないぜ」
「でもあれは相当手加減してくれていたように思ったけどね」
「はい、確かに手加減していたでしょうな。
 しかしそれは別にしたくてした訳ではありません。
 旦那様が貴方に興味を持ったからでしょう」

ほっほっほと老執事は朗らかに笑う。
おっさんは少し嫌そうな顔をして、しかし、そのまま出て行った。
俺達も、出された紅茶や菓子等に手を付け、半時間ほど居座ってから出て行った。
最近色々な物が不足していたが、当然甘いものも不足気味だったので出された物は全部頂いた。

繁華街に戻り金をリディに預ける事にする。
リディは大金を持つ事をしぶっていたが、
俺が砂金の換金に行くのだと分かると食料買付けを引き受けてくれた。
砂金の換金もまた交渉が必要だろう事は間違いないからだ。
因みに、食料は輸送してもらわないと馬車一台では厳しいかもしれない。
なめられないようにリフティをつける事にしたが、流石に警戒したのか暫くぶーたれていた。
だが、適材適所を説くとしぶしぶ引き受けてくれた、アルテに関しては連れて行くと聞かなかったが。
まあ、タイミングは他にもある、俺達が逃げ出す算段はほぼ整ったといっていいだろう。
その前に砂金の換金をしておかねばならないが。
それ自体は直ぐに終わる。
換金相場なんていうのは、だいたいどこの店も同じで、大きな差が無い。
3軒ほど回って差がない事を確認してから直ぐに売り払う。
それに、やはりというか1000ダール程度の儲けだった。
まだ砂金の仕分けの仕方がなっていない上に、元々あの川にはそれほど多かった訳でもないようだ。
仕方ない所だろう。

「さて、一度合流するか」

俺はその金を持って合流を決めていた食堂に入って待つ。
アルテを伴って村を出ていく事についてはメルカパと村長に話してある。
色々思う所はあるだろうが、それでも俺は自分の目的を失いたくはない。
そうじゃなければ、俺は……。

そろそろ夕方になってきた。
夕食を取りながらゆったり待つのがいいだろうと。
3人には申し訳ないが、幸い資金はそこそこある、先に頂いても文句くらいで済むだろう。
そうして食事を始めていると、合流予定の3人が走り込んできた。
一瞬そんなに食事を先にされたのが腹立たしいのかと思ったが、出てきた言葉を聞いて凍りついた。

「カトナ村が大変な事になってるの!! 急いで戻らないと!!」

いつも快活なはずの少女リディの顔には嘘偽りない焦燥の表情が浮かんでおり……。
結局その日、アルテとの約束を果たす事は出来なくなってしまった……。




あとがき

村を離れる事が結局かなわないという。
よくあるパターンではあるのですがw
とりあえず、そろそろ10話も近づいてきましたので、頑張らねば。
(旗揚げは間に合わない可能性が高いですが)



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