俺の名は天谷佳克(あまやよしかつ)、GXの世界へとやってきた転生者。

ようやくこの生活にも慣れてきた所だ、十代とも仲良くなったし、同室の奴らともそこそこうまくやってる。

そうそう、3年目に初登場となるはずの佐藤先生とも既に合っている。

十代は嫌がっていたが俺は先生にいろいろとデュエル理論を聞いていた。

もちろん敵対したくないからというのもある。

彼は初登場でいきなり死亡する人だしな……。

だけど、コンボに関して俺の知らないこともあったし、デッキ構築に参考に出来そうなことも聞いた。

デュエル脳の世界だけに面白い話ではあった、ただ運も絡んできそうだとは思ったが……。



今目下の問題は、このGXらしき異世界で俺がどう生きていくのかという事か。

一応目標は決めた、プロデュエリストになる事だ。

この世界においてはカリスマでもあるし、デュエル自体面白い。




そう言えば、この間女子寮のイベントがあったようだ。

十代は頑張っていたらしいな……。

俺も参加しなかったのかって?

実は俺はその時、それどころじゃなくてな……。


そう、あれは確か、十代達と授業に出ていた時の事だった……。













「今日〜は、ドロップアウトボーイ達にも分かりやすいよう、

 デュエ〜ルの基礎知識を授業してあげる〜のです!」



胸を張るクロノス教諭、まあ、ブルーの教師長な訳だしそれなりにえらいのだろうけど。

ともあれ、授業は一応分からない人向けの物もしてくれるってことか。



「では、根本的な話しから始めル〜のです!

 デュエルとは一体〜何ナノ〜か? シニョール万丈目!」

「はい、デュエルとは古来の占いに端を発する、勝負を決めるための手法です」

「デハ、どうやって勝敗を決めル〜のです?」

「相手のライフポイントをバトルかカード効果でゼロにするか、デッキを0枚にするか、

 もしくは特別なカードの効果にによる特殊勝利かの3つです」

「はい、パーフェクトデスーノ! 流石シニョール万丈目!」



パチパチと手を叩き、クロノス教諭は万丈目をほめたたえる。

ちょっと過保護な気もするが、自分の教えるオベリスクブルーに自信を持っているという事だろう。



「それでは、カードの種類について大まかに説明するノーネ、シニョーラ天上院」

「はい、デッキを構成するカードの種類は大まかに言って3種類です。

 マジック、トラップ、モンスター、それぞれ役割が違います」



今度は明日香が席を立ち説明を始める。

確かに、明確にゲームが何であるのかを説明する事はそう多くない。

知っていても教えるのは難しいかもしれない。



「先ずはマジック、これは一部の場合を除き、その場で発動する事が出来る効果を持つカードです。

 ただし、即効魔法を除けば相手のターンでは使用できないという欠点も持ちます」



基本的に即効魔法というのは、伏せるカードがトラップかブラフしかない、

という状況がおもしろくなかった誰かが考えた反撃手段だろう。

最近ではそれもいろいろと便利になっているが。



「次はトラップ、これは特殊な場合を除き、手札から直接発動する事はできません。

 大抵の場合は、一度伏せて相手のターンになって初めて使用可能となります。

 ただし、そのほとんどは相手のターンでも使用可能であるため、カウンター狙いには向いています」




自分の手札からトラップカードが使用できるというような特殊なモンスター効果を知っているので、なんとも言えないな。

でも、基礎としては間違っていない。




「そしてモンスター、これは、その攻撃力を持って相手のライフポイントを削り、

 その防御力を持って相手のモンスターから攻撃をそらすのが役目です。

 互いが攻撃表示の場合に攻撃すれば、攻撃力の高いほうが勝ち、

 更に攻撃力の差分だけライフポイントが削られます。

 直、守備表示モンスターへの攻撃は、一部の場合を除きライフポイントの変動はありません」



攻防はきちんと表現するのはかなり難しい、何よりこれは慣れがものを言うのが事実だ。

ただ、やはりモンスターによる攻防をメインとしたいのは制作側も同じなので、ダメージ効率は殴り合いが一番高い。

カードダメージや、デッキ破壊、特殊勝利カード等をメインとしたデッキは博打になりがちだ。



「シニョーラ天上院、お見事デスーノ!

 シニョールヨシカツ、これら以外に特殊なカードが存在スルーノ、

 その事に関しての説明をスルーのね」

「はい、それは融合モンスターと儀式モンスターの事です。融合モンスターは融合デッキに存在するモンスター。

 基本的にデッキを圧迫しないので、詰め込めるだけ詰め込んでもコンボには影響しないのが特徴です。

 融合デッキからモンスターを呼びだすにはは素材モンスター2体以上融合魔法カード1枚が原則ですが、

 最近は、突然変異、簡易融合等色々と特殊な召喚法が確立されてきています。

 また、儀式モンスターは儀式魔法により呼び出されるモンスターの総称です。

 儀式モンスターは基本デッキに入れて使いますので、デッキを圧迫します。

 その上、儀式モンスターと同じレベル分のモンスターを生贄として手札から墓地に送る必要があります。

 両方ともモンスターは強力なものが多く、召喚に時間を必要としない、ですが逆に、手札消費が激しいのが難点です」

「オシリスレッドとは思えないレベルの高い回答ナノーネ、では続きを……」



まあ、元の世界ではエクストラデッキと言った、理由はもう融合モンスターだけが入る訳じゃないからだ。

他にも今はシンクロ、エクシーズモンスターらが存在している。

融合も、融合魔法カードを必要としない融合モンスターや回収できる融合魔法カードが増えて来ている。

まあ、当然と言えば当然だ、初期の融合を成立させる事が出来るのはいい所10試合に1回程度という惨憺たるものだった。

このGXの時代はは融合サポートも多少増えているものの手札消費が激しい事に変わりない。

それらの問題をクリアして、シンクロやエクシーズと渡り合うには普通では難しいだろう。

儀式デッキは元の世界においてエクシーズと併用デッキを組めるようになっている。

レベル4のモンスターが異様に多いデッキなので4が二つ揃えばエクシーズのランク4辺りはかなり呼びやすいだろう。


そんなこんなで、基礎学習をしている今、翔はロッカーからクロノスの偽装ラブレターを見つけている頃だろう。

あれはあれで、十代と明日香の出会いな訳で、あまり関らないほうがいいと俺は決めている。

馬に蹴られる趣味はないからだ。



「さて、ちょっくらアカデミアの散歩としゃれこむか」



デュエルアカデミアは一つの島が丸ごと学園となっている。

もっともアカデミアと言うくらいで大学と同じ扱いになっており、教授もいて特殊な研究をしてもいる。

表向きは学生達の場所だが、社長は実験施設としても使っているという事なのだろう。

デュエルの精霊に関しても色々と研究していたのをアニメで見た覚えがある。

社長としても遊戯の使っていたクリボーやブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール達や、

自分の使っているブルーアイズホワイトドラゴン等、精霊に関する事には興味が尽きないだろう。

ただ、表向きはそんなの信じていないというポーズをしているようだが。


そんな考え事をしながら歩いていたせいだろうか、いつの間にか森の中に入り込んでいた。



「そう言えば、森といえばドローの好きな大山や、逃げ出したサルのデュエリストがいた場所だな。

 あんまり変なのに見つかる前に戻らないと……」



あっ、山の上の方で遠吠えが……大山がターザンしているのだろうか?

あいつのデッキ……OCG化しなかったんだよな……理由は分かり切っている、効率が悪いからだ。

強運のドローを前提にしたデッキ作り、更にそれでも十代と互角くらいにしかならない非効率性。

ヒーローデッキは違う、きちんと組めば運が悪くても十分回るデッキなのだ。

とまあ、ようは多分使えないカードだからOCG化しなかったんだろう単に人気もなかったろうし。

テニスデッキとは逆だな、あっちはむしろ強すぎた、普通に1500のダメージを与えるマジックカード。

現状の1000というダメージの制限を軽く超えている。

普通はその分のデメリットがあるもんなんだが、それがない。

OCG化してたらバーンデッキ必須になってたろう、それくらい強い。



「こうして自然の中にいるのに、考える事はこんなことばっかりか……随分毒されたな俺……。

 ってあれ?」



そう言えば、来る時こんな場所あったっけ?

俺は方向感覚がおかしくなっていないか、アカデミアの建物の配置を確認してみる。

いつの間にか思ったより遠くへ来ていたらしい、アカデミアの中央校舎が遠くに見える。

俺は今まで迷子になった事なんてないんだが……一体どうしたって言うんだ?

それに……森の中に、何かの研究所だろうか、3階建てほどのビルのような建物が見えた。

俺は、まるで吸い寄せられるようにそちらに向かう。

いや、なんというか自分の意思じゃない訳じゃない、興味があったからだ。

そうは思うが、やはり少し気味が悪くもある。



「こんにちはー、誰かいませんか?」



入口の前に立って俺は声をかけてみる。

怖いもの見たさ的な事もないとは言えないが、研究施設なのだろう事は間違いない。

なら、学園に変える近道くらい教えてくれるだろうという目算があった。

しかし、返事はない……そのくせ、扉はなぜか勝手に開いた……。



「ちょ……まさか幽霊ってことは……いや、GXの世界ならありうるんだっけか……。

 どうするかね……?」



まあ、GXの場合、幽霊もカードの精霊の一種って事になる訳だが。

そう考えれば、幽霊はいないともいえる訳で……それに、カードの精霊が見えるとすればそれは凄いかも。

この世界に来てやってみたい事の中にはやはり萌え系の精霊をつける事というのがある。

いや、だってどうせいつも見ているなら可愛い子がいいでしょw

クリボーみたいなのも癒し系でいいけどさ。



「さて……、それじゃ肝試しとしゃれこみますか」



内部に入り込むと、ぼんやりと視界が確保される。

燐光のようなものが通路を照らしているようで、カビ臭さや埃の多さからもう廃棄されている可能性も考えられた。

やはり何かに誘われているのだろうか、俺はなんとなく行くべき道がわかるようだった。

というか、脳みそは分かっていないが、体がこちらに動くほうが楽だよと告げている。

強制力はそれほど強くはない、一度等外に出てみたりもした。

しかし、やはり俺を誘っている者に興味があった。

あ奴られるように歩いて行くと、地下へとつながる階段がある、俺は特に躊躇もせず歩いて行く事にした。

そして……だんだんとその存在が近くにいる事が感じられるようになってきた。

恐らく、その部屋の扉を開ければ中に何かがいるのだろうという事が分かっていた。



「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」



扉はかなり重厚なものだったが、力を込めると不思議なほどスーッと両開きになった。

中はまっ暗闇だったが、俺の周りにあった燐光が前方に吸い寄せられていく。

部屋はデュエルフィールドを含む実験施設のようだった。



「ふうん、デュエルフィールドね……ここで、やっていたのか?」



俺がデュエルフィールドに足を踏み入れた途端、周囲が一気に明るくなる。

そう、まるで俺を待ち構えていましたと言わんばかりに。



「デュエルがしたいってか? 姿を現しな、じゃないとデュエルはできないぜ」



俺の声が聞こえたのかそれとも、単なる一連の動きの一つか、

デュエルフィールドが明るくなると同時に前方の闇から不透明な水が満たされたよく分からない水槽が現れた。



「水槽……? お前がデュエルをするのか?」

『デュエルモード・スタンバイ』

「へぇ、やっぱりそうか……わざわざここまで来たんだ、お前のデュエル付き合ってやるぜ!」

「『デュエル!』」


佳克:LP4000   水槽:LP4000



不透明な水槽は機械的な声を出しながら、デュエルを始めようとする。

俺も応じる事にした、そう言えば5D’sでデュエルロボと遊星のデュエルとかあったな。

そんな事を考えていると、珍しく俺の方に先攻ターンが回ってきているのに気づいた。



「俺の先攻、ドロー!」



俺の手札は……ゲッ、事故ってやがる……。

モンスターは2枚、そして、その2枚は……。

剣聖−ネイキッド・ギア・フリード:効果モンスター/星7/光属性/戦士族/攻2600/守2200

偉大魔獣ガーゼット:効果モンスター/星6/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

上級モンスターしかいねぇ!?

しかも、ネイキッド・ギア・フリードなんか特殊召喚専用だから生贄用意しても召喚できねー(汗

マジックは戦士の生還って墓地に何もないのに使えないっての。

それに、守備封じか……、これでクロス・サクリファイスでもあればガーゼットで押しこめるんだが。

後、トラップカードは一つはまあいいが、

もう一つは強欲な瓶(かめ)、1対1交換が出来る悪くないカードだが、相手が潰そうとしてくれない限りメリットはない。

仕方ないな……。



「俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」

『私の・ターン・ドロー』



割と大き目のデュエルディスクが水槽の前に広げられ、手札はフォークみたいなものに挟まれている。

なんというか、機械そのものだな、精霊とかじゃなかったのか?

しかし、受けてしまった以上全力じゃないとな、闇のデュエルとかだったらシャレにならん。



『私は・モンスター・を・伏せる・そして・カード・を・一枚・伏せて・ターンエンド』



モンスターを伏せる!?

裏守備で出せるのか!?

この世界のルールは裏守備はないはずじゃなかったのか!?



『お前・の・ターン・だ』

「待て、裏守備で出すのはアリなのか?」

『リバース・効果・モンスター・のみ・裏守備・で・出せる』

「ははは……、なるほどな……」



確かに裏守備で出せないならリバース効果モンスターは成立しない。

その代わり欠点として、裏守備=100%リバース効果モンスターだとバレるわけだ。



「いいだろう、俺のターン! ドロー!」



来たカードは増援か、ありがたい、これ以上事故るとかなりまずかった。

俺のマジック、トラップにはまだモンスター破壊の効果があるものはない。

カウンターでなら我が身を盾にがあるが、直接破壊する効果じゃないからな。

だが、リバース効果モンスターなら無害化とはいかなくとも、こちらに被害を出さない方法はある。



「手札からマジックカード発動! 守備封じ! その裏守備モンスターを攻撃表示に!」

裏守備↓

リチュア・エリアル:効果モンスター/星4/水属性/魔法使い族/攻1000/守1800


「なに!? リチュアだと!?」



反転召喚で現れたのは確かにエリア……によく似たその姿。

前髪が妙に長いショートにしたブルーの髪の毛と、黒い帽子やローブ、それにリチュアの儀水鏡とよく似た鏡が付いた杖。

そういえば、こういう萌え系のキャラが出たのは初めてかもしれん。

荒野や、異次元の女戦士(同一人物らしい)は金髪の美女でお姉さん系だしな。

しかし、今はまだシンクロ召喚だってないんだぞ!

エクシーズ召喚に連なるデッキなんて……いや、最初からそうだったわけじゃないか。

最初は高速儀式召喚デッキとして登場したはずだ。

とはいえ、どちらにしろGXの世界にあっていいデッキじゃない。


『リバース・した・事・に・より・リチュア・エリアル・の・効果発動。

 デッキ・から・”リチュア”・と・名・のついた・モンスター・1体・を・手札・に・加える。

 私・が・選択・するのは・イビリチュア・ソウルオーガ』



水槽は俺に一度カードを見せてから手札に加える。

ソウルオーガ……かなりやばいカードだ。

効果は風帝ライザーと同じで、フィールド上のカードをデッキに戻す。

表側表示のカードだけしかできないと言う点と、コストが必要な点で不利だが、毎ターン行えると言う点で優れる。

しかも、リチュアの手札増強効果は鬼だ、一度場に出たソウルオーガを除去に失敗すると逆転出来なくなる可能性もある。

特に、俺はリバース効果モンスターなんて持っていない以上、モンスターは表側でしか出せない。

早々に処理する方法を何とかしなければならないな。



「俺は、手札からマジックカード発動! 増援! デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加える。

 俺が加えるのは、鉄の騎士ギア・フリード! そして鉄の騎士ギア・フリードを召喚!」

鉄の騎士ギア・フリード:効果モンスター/星4/地属性/戦士族/攻1800/守1600


「そしてギア・フリードで攻撃! 鋼鉄の手刀!」

『キャァァァ!?』



エリアルは少し可哀そうに見えるほどの悲鳴を上げて消えた。

そして、そのままギア・フリードは水槽に向けてつっこむ。


「……ッ!?」

水槽:LP4000→LP3200



水槽にはピシリという感じでヒビが入る。

この辺り、ソリッドヴィジョンはリアルだなーと思うよ本当に。

しかし、リチュアを相手に今のデッキではかなりつらい。

なにせ、リチュアの特徴は手札がどんどん補充される事なのだから。

あっとう言う間に大量展開されて逆転という事もありうる。



「俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」



これで伏せカードは二枚、正直今の俺は3枚の上級モンスターのせいで圧迫されていてかなり不利だ。

この状況でフィールドを空にするわけにはいかない。



『私・の・ターン・ドロー』

(へぇ、どれどれ……うわあ、大変ですねー)

「ッ!?」



よく見れば、さっき破壊したはずのエリアルが俺の横に出現していた。

ソリッドヴィジョンにしては半透明な感じで……。

って、ちょっと待てよ。

確か、GXの世界だから……。



『私・は・シャドウ・リチュア・を・手札・から・捨て・効果・発動』

「もしかして、カードの精霊!?」

(はい! ボクはカードの精霊、エリアル)

「エリアの親類?」

(あはは……まあ、そんなとこかな?)

『デッキ・から・リチュア・と・名の・ついた・儀式魔法・カード・を・手札に・加える。

 私・が・選ぶ・のは・リチュアの儀水鏡』

「それで、何の用だ? お前は向こう側だろ?」

(うん、そうなんだけどって、それどころじゃないよ!!)

『リチュアの儀水鏡・の・効果・発動・手札・の・リチュア・チェイン・と・リチュア・ノエリア・を・

 墓地・に・捨て・イビリチュア・ソウルオーガ・を・儀式召喚』

イビリチュア・ソウルオーガ:儀式・効果モンスター/星8/水属性/水族/攻2800/守2800


「出やがったか……」

『手札・を・一枚・捨てて・効果・発動・表側・表示の・モンスターを・デッキに戻す。

 私・が・選ぶのは・鉄の騎士ギア・フリード』

「トラップ発動! 迎撃準備! 表側表示の戦士族か魔法使い族モンスター一体を裏守備にする!

 俺が選択するのは鉄の騎士ギア・フリード!」



迎撃準備は戦士族と魔法使い族専用の月の書のようなものだ。

元の世界では月の書が制限解除されているからあまり関係ないが、GXの世界では割合使い勝手がいい。

元々月の書を持っていないと言う事もあるんだが。



『バトル・イビリチュア・ソウルオーガでギア・フリード・を・攻撃』

「くっ!」



裏守備状態だったギア・フリードを破壊された。

ダメージが無いだけマシではあるが……。

奴の手札は残り2枚、攻め時ではあるんだが……。



『ターンエンド』

(いいですか、そこの人、私の本当の主人はあの中に囚われています。

 力を貸しますので、思い切りいいカードが来るように念じてドローして見て下さい!)

「……わかった。俺のターン!」



何故疑わなかったのか、よくは分からない、ただ、ここまできたら信じてみるかという思いはあった。

俺はいいカードが来るように目をつむって念じた、そう何度も使えるとは思えないから一度で何とかしたいと思った。



「ドロー!! 手札に来たのは、クロス・ソウル!

 そのまま効果発動! 相手フィールドのモンスター一体を生贄にして召喚する事が出来る!

 俺が選択するのは、イビリチュア・ソウルオーガ!」



この場で使うカードは決まっている。

生贄一体で出せるモンスターも一枚しかない。



「イビリチュア・ソウルオーガを生贄に、偉大魔獣ガーゼットを召喚!」

偉大魔獣ガーゼット:効果モンスター/星6/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0


「このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げたモンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる!

 イビリチュア・ソウルオーガの元々の攻撃力は2800、よって攻撃力は5600となる!」

偉大魔獣ガーゼット:攻0→攻5600



召喚は成功した、問題は奴の手札は次回一気に回復するだろうと言う事だ。

攻撃が出来ないのがこれだけ痛いとは……。



「ターンエンド!」

(えっ、攻撃しないんですか?)

「クロス・ソウルを使ったターンは攻撃できないんだよ」

(それってマズいですよ! リチュアデッキは……)

『私のターン・ドロー。

 墓地・の・リチュアの儀水鏡・の・効果・発動・リチュアの儀水鏡・を・デッキ・に・戻す事により・

 墓地・の・リチュア・と・名・の付いた・儀式モンスター・を・手札・に・加える。

 私が・手札に・加えるのは・イビリチュア・ソウルオーガ』



これで4枚、ドローで1枚、墓地から1枚、これだけでも回復が早いといえる。

しかし、これで終わるとは思えない。



『私・は・リチュア・アビス・を・召喚』

リチュア・アビス:効果モンスター/星2/水属性/魚族/攻 800/守 500


『リチュア・アビス・の・効果・発動・このカードが・召喚・反転召喚・特殊召喚・に・成功した時・

 墓地・から・守備力・1000・以下の・リチュア・アビス・以外の・リチュア・と・名・の付いたモンスター

 ・を・手札に・加える・私・が・選択する・のは・シャドウ・リチュア・

 シャドウ・リチュア・の効果・発動・シャドウ・リチュア・を・手札より捨て・デッキから・

 リチュアの儀水鏡を・手札に・加える』



やばい、これは……もう再召喚の準備が整ってやがる。

後は生贄にする8レベル分のモンスターだけじゃないか。

儀式召喚は特殊なモンスターを除いてレベルの合計が同じになるように生贄を用意する必要がある。

イビリチュア・ソウルオーガのレベルは8、

前回はレベル4のリチュア・チェインと同じくレベル4のリチュア・ノエリアを捨てた。

今の手札は4枚、内2枚は召喚するモンスターと儀式魔法カード、後残り2枚が何かが問題だ。



『トラップ・発動・儀水鏡の瞑想術・リチュアの儀水鏡を・相手に見せて・効果発動・墓地の・

 リチュア・と名のついたモンスター・2体・を・手札・に・戻す』



ギャー!?

(だから言ったじゃないですかー!?)



『私・は・手札より・儀式魔法・リチュアの儀水鏡・を・発動』



まずいまずいまずい!

手札は十分、このままでは……。



『手札・の・リチュア・チェイン・と・リチュア・ノエリア・を・墓地・に捨て・

 イビリチュア・ソウルオーガ・を・儀式・召喚』

イビリチュア・ソウルオーガ:儀式・効果モンスター/星8/水属性/水族/攻2800/守2800


『そして・イビリチュア・ソウルオーガ・の効果・発動・イビリチュア・マインドオーガス・を

 ・墓地・に捨て・偉大魔獣ガーゼット・を・デッキに戻す』

「くそっ!」

『バトル・リチュア・アビス・で・ダイレクトアタック』

「ぐっ、おおーー!?」

佳克:LP4000→LP3200



なんだ、この脱力感は……。

やはり、これは闇のゲームだっていうのか!?

プレッシャーも並じゃない、次の攻撃……俺の精神は持つのか!?



『イビリチュア・ソウルオーガ・で・ダイレクトアタック』

「ぎっ、ギャーーー!?!?」

佳克:LP3200→LP400


「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」

(だっ、大丈夫ですか!?)

「どう……にか……な……」

『墓地の・リチュアの儀水鏡の・効果・発動・リチュアの儀水鏡・を・デッキ・に・戻す事により・

 儀式モンスター・イビリチュア・マインドオーガス・を・手札に・加える・ターンエンド』



「俺のターン・ドロー!」

(あの、もういいです。逃げてください!

 このままLPがゼロになったら、貴方死にますよ!)



俺の手札に来たのはマジックカード戦士の生還。

これ一枚でデュエル結果をどうこうできる効果はない……。

しかし……。



「そう……、かもな……、だが……いい手を思いついたんだ……。

 エリアル、もう一度……もう一度だけ、力を貸してくれ……」

(えっ、でも、もうドローフェイズは過ぎてますよ?)

「いいや……もう一度だけ、ドロー出来るんだ」

(それって……)

「トラップ発動! 強欲な瓶! デッキからカードを一枚ドローする!」

(分かりました、全力で協力させてください!)



俺はもう一度集中する、このチャンス、一度だけでいい。

奇跡を起こしてくれ!

俺の命のためにも、エリアルのマスターのためにも!



「俺が引いたカードは! エネミー・コントローラー!」

(えっ、今ソウルオーガを守備表示にしてどうするんですか? てっきり拘束解除かと……)

「いいや、そう言う事じゃない。

 というか、装備魔法がないから今それを引いても関係ない。

 だから! マジックカード、戦士の生還を発動! 鉄の騎士ギア・フリードを手札に加える!」

(えっ、えっと……どういう事です?)

「まあ見てなって、鉄の騎士ギア・フリードを攻撃表示で召喚!」

鉄の騎士ギア・フリード:効果モンスター/星4/地属性/戦士族/攻1800/守1600


(えっ? えっ?)

「バトル! ギア・フリードでリチュア・アビスに攻撃! 鋼鉄の手刀!」

「……!!?」

水槽:LP3200→LP2200



水槽に大きくひびが入る、もう水の色はほとんど見えない、ヒビのせいで真っ白だ。

そう、リチュア・アビスの攻撃力は800しかない、だからギア・フリードで1000のダメージを与えられる。

こいつが攻撃表示でなかったらエリアルの手助けがあっても負けていただろう。


(どっ、どういうことなんですかー!?)

「速効魔法エネミー・コントローラーは2つの効果を持っている。

 一つは相手を守備表示にする効果、もう一つは自分フィールドのモンスターを生贄に、

 選択した相手モンスターを1ターンの間、自分フィールドに特殊召喚する効果だ!

 俺は、ギア・フリードを生贄にイビリチュア・ソウルオーガを特殊召喚!」

イビリチュア・ソウルオーガ:儀式・効果モンスター/星8/水属性/水族/攻2800/守2800 


(ああっ!!)

「そして、速効魔法はバトルフェイズ中に発動出来る効果、つまりバトルフェイズはまだ続いている!

 俺はイビリチュア・ソウルオーガでダイレクトアタック! ソウルアクアウェーブ!」

(やったぁ!!!)

水槽:LP2200→LP0


(でもその攻撃名なんとかなりません?)

「知らん、じゃあ正式な攻撃名教えてくれ」

(あははは……)



そんな事を言っている間に、水槽はどんどんヒビが大きくなり。

とうとうパリーンという音と同時にはじけて水があふれ出した。

そして、その中からは……小さな、そう中学生になるかならないかくらいの女の子が落ちてくる。

不思議とさっきのだるさがなくなっていた俺はその子に走り寄り抱えあげた。

幸いにして裸という訳ではないようだ、まあ、かなりぴったりとしたボディスーツを着ているが。



「って、このビル……揺れてないか……」

(お約束って奴だね……、終わったらビルごと壊れるとか……)

「って、バカやろう! 俺は彼女を背負いながら行かなきゃならないんだぞ!」

(っ、ガンバ!)

「!!!!」



そんなこんなで、

どうにかこうにかアカデミアの保健室のほうまで戻り鮎川先生に見せる頃には俺自身疲れ果てて隣のベッドで眠っていた。

十代と明日香はちょうどそれくらいの時間にデュエルしていたっぽい。


翌日の朝、保健室で目覚めた俺はお約束の知らない天井ネタをかました後。

隣のベッドに人が集まっているのを知る。

隣に来ているのは、鮎川先生と、校長先生と、そして……。

俺の目が間違っていなければペガサス・J・クロフォードじゃないか!?


「オオー、そちらの彼は目が覚めたのデスネー、

 ミーの姪ッ子を救ってくれてありがとうデース!!」

「姪ッ子ですか?」

「ああ、ヨシカツ君、目が覚めたのだね。

 君が森にあった古いビルから救い出した子はペガサス氏の姪にあたるイリーニャ・S・リークリッドさんなんだよ」

「イリーニャさんですか?」



そんなキャラが遊戯王にいたなんて話聞いたことが無い。

これはいったいどういう事なんだ?

俺と同じような異世界人、いや、それならば逆にペガサスの身内というのは考えにくい。

しかし、リチュアデッキの事を考えれば……むう。

そういえば、リチュアのデッキに勝つことが出来たのはエリアルの協力の影響が大きい。

俺一人ではあんなチートドローは出来ないだろう。

しかし、もう俺には精霊を感じる事は出来なかった。

恐らくは、彼女が俺に見えるようにしてくれていたと言う事だろうか?



「ああ、もうイリーニャがいなくなって10年にもなるのデース!」

「えっ、10年!?」

「そう、恐らくは昨日君が言っていたという水槽の中で10年眠っていたと言う事だろう」

「イリーニャは旅行中にいなくなったのデース、

 ワターシは1000年眼を使って探そうとしたのですが、結局みつけられまセーンでした」

「そういえば彼女のデッキは……」

「彼女専用にワターシがデザインしたデッキなのデース」



10年も成長が止まったまま、眠っている……?

異世界人ならその可能性は低いな、やはり、ペガサスにも身内がいたと言う風に考えるべきなのか。

その時、ふと俺の視界に、毛布の中で身じろぎをするペガサスと同じ白銀の髪をした少女が映った。

ピクリと目元が動き、目を開こうと動き始めている。



「あれ、もう少しで目を覚ますんじゃないか?」

「オオー! 我が姪イリーニャ! 目を覚ますのデース!」

「ふむ、どうかね? 鮎川先生」

「ええ、体調はまだ完全とはいかないですが、恐らくは……」



そうして、目を覚ました少女は、眠そうな顔を俺達に向けた。

そこに飛び込んで行くペガサス、俺は、それを見て少しくすぐったい気持になると、部屋を出て行く事にした。

後で校長に聞いた話だが、ペガサスもイリーニャも俺に礼を言いたかったとの事だ。

うれしい話だが、恥ずかしい話でもある。

それに、リチュアのデッキなんて二度と相手をしたくない、

こちらに精霊が味方してくれていたからどうにかなったが、本来チート・ドローも兼ね合わせてるってことになる。

その上、今回はシンクロもエクシーズもオマケについてはいなかったが、もしついていたらと思うとぞっとする。

こちらでもシンクロが発売するのかどうかわからないが、せめて6年後に来てくれ(汗

というか、ペガサスも大概丸くなってるな……。

デュエリストキングダムの頃は千年アイテムのせいも多少あったにしろ結構怖いキャラだった気がするが。

ともあれ、これが、俺が十代達と行動を共にしなかった理由という訳だ。

逆に十代に羨ましがられたのはちょっと閉口したが。





あとがき

オリ主なのでオリヒロインということでネタを一つw

それだけなのですがww


押していただけると嬉しいです♪

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