『ルビンスキー、お前をフェザーン自治領主に任ずる』
「はっ」
フェザーン領主官邸の地下、領主以外誰も入れない事になっているその場所でアドリアン・ルビンスキーは跪く。
相手は、地球教の大主教の一人であるド・ヴィリエ。
フェザーン担当の主教とは違う、実のところ彼の担当は同盟を含むサジタリウス椀全体の統括である。
最も彼は地球にいるため、実際にそれをするのはフェザーンにいる主教と同盟内に最近送り込まれた主教の仕事となる。
ルビンスキーがド・ヴィリエに対し跪いているのは、フェザーン自治領主にとって地球教との繋がりが重要であるからだ。
フェザーンが地球教の国であるのは、ある程度事情通の人間なら知っている事ではあるが、それでも表向きは帝国領であるため複雑である。
何より、前領主はド・ヴィリエの怒りを買った結果今は墓の下にいる。
フェザーンには軍事力がない、同盟軍に対しては帝国軍を要請する事も不可能ではないが。
暗殺等に対しては完全に無力である。
傭兵を雇い入れてはいても、そいつらすら地球教徒が混ざっているのが普通なので、安心して護衛を任せられない。
結果として、ルビンスキーは腹に一物抱えてはいても表向き従順に頭を下げる。
『お前の最初の仕事は前任の不始末を片付ける事だ』
「はっ!」
前任者の不始末は一つではない、複数の不始末があることをルビンスキーは知っている。
だが恐らくは、同盟への地球教の進出が半ば頓挫している現状をどうにかしろという事だろう。
そのためには、拮抗している新興宗教を潰すのが一番である。
だが、それをするのは難しい。
同盟内では宗教の自由が保証されており、表立って攻撃出来ない。
その上、何度か地球教が糸を引いていたテロが明るみに出たため、同盟市民が地球教を警戒し始めている。
そして、地球教に喧嘩を売った上でのし上がってきたジュージ・ナカムラという男がいる限りゴリ押しは不可能である。
つまりは先にジュージを潰さねばならないという所まで来ている。
だが、ジュージはプライベートアーミーを護衛につけて、なかなか近寄らせない。
資金力も大きくなりつつあり、締め付けで一気に潰すためにはフェザーン経済の10%近くをそちらに注力しなければならない。
そこまですれば、当然フェザーンの経済が傾いてしまう、何せフェザーンの経済はほとんどが債権であり、現金化するだけでも大変だ。
それを10%も使うとなれば、当然フェザーン商人達は反発するだろう。
政治的に潰そうにも、今やトリューニヒトが大きくなってきている関係上、そう簡単に政治介入は出来ないだろう。
彼を通せば可能ではあるが、当然ジュージが行った支援以上の支援を先に要求されるのが目に見えている。
同盟内債権の引き渡し等を要求された日にはフェザーンの同盟内における政治力が失われてしまう。
更には軍においても准将まで出世してしまった。
子飼いの軍人も相当数いる様である、総合的には彼一人が国を作っている様なものだった。
結果として手出しがし難くなっている。
「ただ、現状ジュージ・ナカムラの暗殺は難しく、フェザーンの資金力でも一度に潰すのは難しい大きさまで来ています」
『ふむ』
「ですので、先ずは彼を利用出来ないかと考えています」
『ほう、申してみよ』
「はっ!」
ルビンスキーは己の手の内をド・ヴィリエに話す。
実際、現状で打てる手としてはかなりましな部類だろう、大きくなりすぎた同盟内敵勢力を縮小するには。
もちろん、これ一度でなんとかなるという様な策ではない、だが前任のような力技では逆に潰されるのが落ちだ。
フェザーンに軍事力がない以上、使えるのはせいぜい海賊か、帝国軍しかない。
だが、帝国軍を大勝ちさせるわけにも行かない事情がある。
となればもう、相手を利用するしか無いのが現状だ。
ド・ヴィリエもそれは理解出来ている様なので、策の許可はあっさり出た。
ルビンスキーが前任と違う所を見せるために、これは絶対に成功させねばならない。
ルビンスキーは表情を引き締めた。
銀河英雄伝説 十字の紋章
第十九話 十字、子供が増える。
宇宙暦789年ヤンを第八艦隊第四分艦隊参謀として迎え入れてから半年。
俺は楽をしていた。
事務仕事の難しい所はヤンにしてもらい、面倒くさい色々な記帳や報告書の作成に関しては重要なものを除いて副官に丸投げ。
典型的な駄目提督である。
「あの〜、部隊編成とか、私の方に回されても困るんですが」
「いや〜ヤン君が色々やってくれるおかげで助かるよ!」
「はぁ……」
「とはいえ、一応試案はいくつかこちらで作ってある。
それとの比較用だな、見るか?」
「はい。お願いします」
俺とエマーソン中佐と先任艦長達を交え編成試案は作ってある。
ただ、この世界ならヤン以上の編成、運用の巧者はいないのだからそりゃやってもらうに限るというもの。
もちろん一年やってもらえばそれを手柄として中佐にしようと考えている。
とはいえ、どのみち近々作戦行動になるだろうからそちら優先になるだろうが。
何せ今の同盟はエル・ファシルを取られて押し込まれている。
これ以上進軍されれば同盟の内部深く帝国軍が入り込む事になる。
何せ次はドーリア星系だ、ドーリア星系からは4方向に向かう事が出来る。
俺の生家のあるパラスや、シヴァ、バーミリオンそして遠くはあるがバーラト星系への直通ルートもある。
つまりエル・ファシルの敵軍がドーリアに到達する事は絶対に避けないといけない。
そのためにも、帝国軍が増援を呼んで本格的な進軍を開始する前に取り返す必要がある。
だから、確実に1年以内に奪還戦を仕掛ける事になるだろう。
と言うか既に遅くなっている、政治の事情ではあるが……歴史が乖離し始めている影響かもしれない。
恐らく、本来はフェザーンが奪還戦を起こす様に働きかけていたんだろうが、その分を俺がやらないといけないわけだ。
一応、十字教や回帰教、トリューニヒト等を通じて奪還戦のための下地作りをしてもらっているが。
ともあれ、その際に手柄を手に入れるためにも、ヤンには働いてもらわなければならない。
俺も、海賊退治の時に使った兵器開発業者、つまりは軍産複合体と連携し安い秘密兵器を量産する事を考えている。
ヤンがいれば帝国軍に勝てる可能性は高いが、やはり俺が手柄を上げられる様にする必要もある。
まー、ついでにドーソン中将にも手柄を上げてもらうつもりでいるが。
「問題は無いと思いますが、指揮官に欠損が出た場合の指揮権移譲に関しては先任及びそれ以外の艦長の序列も決めるべきですね」
「なるほど」
「後は攻撃、防御、高速、各陣形に対する分隊の位置は一定だけとは限らないかと思いますが」
「だが、パターン数が増えれば訓練期間も伸びる。間に合うか?」
「いえ、ですからここの陣とこの陣の流用で。これを補えば。他の場合でも同じ様にできるかと」
「確かに」
やり始めればとことんのめり込むヤンの思考のおかげで陣形に対する分艦隊の配置パターンを増やす事が出来た。
状況によって組み換えが出来るというのは大きいだろう。
こんな調子でヤン・ウェンリー少佐には働いてもらっている。
トラバース法。
有り体に言えば、戦死者の子供たちを別の軍人の所で育てるという法律だ。
戦争のせいで孤児院も直ぐに溢れ出す事となり社会問題に発展した。
最初は地球教がその受け皿になっていたのだが、今は十字教も加わりかなりの数が宗教に流れた。
しかし、軍や政治家はそれでは不味いと思ったのだろう。
そもそも宗教団体のキャパにも限界はあったし、そうでなくても政治的にも収まりが悪い。
そこで、軍で起こった事は軍で解決すべきという事で法律が出来た。
トラバース氏が提唱した法律なのでトラバース法、まんまである。
この法律において、夫婦となって5年子供のいない家庭は最優先で孤児を引き取る事となっている。
その次は子供がいるが、金銭的、時間的に余裕がある家。
最期に30歳以上の独身で金銭的に余裕がある所が引き受けるとなっている。
とはいえ最近はこれらの条件では少し厳しくなってきたらしく、条件を満たしていない家にも孤児の引取要請が来たりする。
俺は当年とって32歳、エミーリアは31歳、子供は長女リーリアが5歳、長男トウヤが3歳、次女ミアは生まれて3ヶ月である。
まあうちにはバーリさんを筆頭とするメイドが10人以上常時いるから、エミーリアが過労で倒れるとかうつ病になるとかは心配しなくていい。
ともあれ、3人も子供がいるとトラバース法的には対象外になるはずなのだが、金銭的、時間的余裕があると言えばあるため適用されたらしい。
「ゴクウ・プティフィスです! お世話になります」
そう言って頭を下げたのは、11歳の男の子だ。
プティフィスはフランス語で孫。
つまり○悟空ってことか。
11歳ならあれだ、俺のパチもの漫画に影響された親が付けたんだろう、不憫な……。
実は漫画ブームのせいで、同盟にはそういう痛ネームの子供が万単位で存在する。
申し訳ない限りだ……。
見た目は黒髪で、確かにツンツン頭だ。
流石に似てはいないが、なんとなく雰囲気はある。
ともあれ、漫画の犠牲者だ。
出来るだけ手厚く育てる事としよう……。
「まあ、礼儀正しい子ね! ほら、貴方達も挨拶しなさい」
「リーリア、5さい!」
「とうや! にさい!」
「おぎゃー!!!」
「あらあら。ごめんなさいね。この子まだ首が座ったばかりだから。
お乳がほしいのね、よしよし」
「メイド長のバーリといいます。何なりとお申し付け下さいませ。
お部屋の案内は、そこにいるメイド達が行いますね」
エミーリアがミアに母乳を飲ませるために部屋に引っ込んだのを見計らいバーリさんが挨拶をする。
他のメイド達もそれに続いたが、挨拶もそこそこに連れて行こうとしていた。
「少し待ってくれないか。一応これでもこの子の親権者になるんだから。
案内は俺がやるよ、いつもいられるわけじゃない。出来るだけコミニュケーションはしておきたいしな」
「はい、では旦那様。後ほど」
「ああ」
そうして、俺はゴクウを案内する。
流石に緊張しているんだろう、子どば少なでぽつりぽつりとしかしゃべらない。
因みに彼のことは既に薔薇の蕾であらかたの事情を調べてある。
そりゃ、現状俺は同盟でもかなりの資産家だ、当然誘拐や暗殺、他にも色々と警戒する必要がある。
軍にいるほうが幾分安全という意味不明な状態になっているのだから。
「凄い広いですね……」
「まあな、一応部屋数は40ほどある。別棟も合わせてだがね」
「それに庭が広いです」
「元々のご近所に金を払って移転してもらって増やしたからな。今は5000uくらいかな。
縦横が70m前後だと思ってくれればいい」
漫画とかに出てくる何万ヘクタールとかいう馬鹿げた広さではあないがそれなりに広い。
まー日本ほど過密ではないので一般宅も一辺10mで100uに一軒とかそんなに狭くはないが。
だいたいその倍くらいのものだろう、つまり、うちは一般宅の25件分の広さという事になる。
まあ、小中学校とかを想像してもらえれば規模はわかりやすいだろう。
家の大きさも4階建てで相応に周辺から浮いているが。
塀もかなり高い上に塀にそって高めの木を沢山植えてある、それに基本的に窓はかなり厚手の防弾ガラス。
更には3階以上は緊急時以外窓を開かない事になっている、狙撃を警戒しての事だ。
まあ、3階以上は使用人や警備員の寝泊まり用の部屋がほとんどなので、狙撃される可能性は低いが。
「そんなに必要なんですか?」
「まああれだ。金持ちになってしまったからな。高い塀をめぐらし、警備員を多数雇って警戒している。
年に数回は泥棒やマフィア関係者らしき奴がかかるくらいには金持ちだからな。
悪いがゴクウ、お前にも警護をつける事になると思う。
誘拐の標的にされる可能性は十分にあるからな」
「はい、わかりました……」
俺は年収がほぼ100億ディナール(約1兆1千億円)とかいうレベルに達している。
漫画やアニメ、ドラマに映画等の有名所はうちが手がけるくらいに会社が成長しているからだ。
配当金だけでも相当なものだし、コンビニ事業はエミーリアが代表であるものの株を全て渡したわけでもない。
更には移民船開発事業のほうは、一応完成したので軍産複合体に依頼した件を合同でやっている。
どれもこれも今の所問題が見えない。
一番の理由は俺が投資したものは儲かるとトレーダーが判断しているらしく、俺が株を買ったり立ち上げた事業は何倍もの株価になって儲かる。
あまり信頼されても困るのだが、丁度いいので暫くは利用するつもりでいる。
何度かフェザーン資金と思われる仕手戦を挑まれた事があったが、基本的に乗っていない。
それをする意味がないからだ。
普通は仕手戦に応じないと不利益が出る場合が多いが、そもそも売りに出していない株が50%を越えているので、基本負けない。
それでも株価は常に高騰し続けている。
実のところ理由ははっきりしている、同盟の景気悪化に合わせフェザーンが金を引き上げ始めているのが見える。
もちろん、政府中枢に対する貸付け自体は増えているが、同盟企業の株の買い付けが減ったのだ。
すると当然のように全体の景気が悪化する、悪化した時こそ安定して儲かるものを探すのが人情というものだ。
そして、トレーダーどころか一般の株を買う人までが俺が関与した企業の株を買い付ける事となったのだ。
さて、フェザーンが株を売りに出したという事は同盟を見捨てたのかと言われればそうでも無いようだ、
恐らくは俺を含む同盟資本を干上がらせるのが目的かもしれない。
実際、全体としての同盟経済はかなりダメージを受けている。
そして、下がった株を買い占めるつもりなんだろうが。
それが逆に俺に有利に働いているというのが皮肉だな。
俺はこの間に色々と手を伸ばす事にした。
バーリさんや、企業から上がってくる情報、十字教や回帰教からも集めているそれらを総合した結果だ。
今俺が手を伸ばせば、それは有望企業として復活するという事だ。
フェザーン資金の入っていた企業を外してどんどん株を買って手を広げていった。
その結果が今の状態というわけだ。
今の俺の総資産は1000億ディナール(約11兆円)ほどにもなっている同盟長者番付で13位という所まで来ていた。
この資金を背景に、トリューニヒトの方もかなり躍進しているようだ。
まだ国防委員長ではあったが、ロイヤルサンフォードの派閥に迫ると言われるほどに巨大化した。
その関係で、俺は家の防衛態勢を強化するしかなかった。
実際、屋敷やその敷地は学校程度の広さだが、更に周辺も買い取ってある。
それらの土地は軒並み更地にされており、狙撃ポイントが取れない様にしている。
もちろん、警備が外を警戒しやすいという点もある。
今の俺の家族は間違いなく国賓レベルとなってしまっているため、誘拐、テロ、洗脳等ターゲットにされやすい。
ゴクウにはその事を噛んで含める様に教えておいた。
「流石英雄ジュージ准将です! でもご迷惑ざないですか?」
「いや、そのへんは大丈夫だ。人が増えるのは歓迎だしな」
警備のプライベートアーミーは30人近い。
それにメイドも常時10人以上いるが、交代要員も合わせればやはり30人ほど。
どちらも入念なチェックをしている。
まあ絶対という事はありえないが、そこまで気にしていたら何も出来なくなる。
最悪の場合の対処はバーリさんが行う事になっているので、一応安全だろう。
「さて、そろそろ昼食の時間だ、エミーリアの奴張り切って作っていると思うから楽しみにしてくれ」
「はい!」
先を行くゴクウを見ながら、彼が軍に来る必要が無いように出来ればいいが、と思ってはいた。
恐らくは、時期的に軍に入る可能性が高いとはわかっていたが。
それから半月ほど、ようやくエル・ファシル奪還軍の編成が決まった。
クブルスリー中将率いる第七艦隊とそしてドーソン中将の第八艦隊つまりうちだ。
別働隊として第十艦隊と第十二艦隊がエル・ファシルを迂回してアスターテに奇襲をかける。
アスターテの足がかりをなくせば、自動的に補給線が崩れる。
そもそも、エル・ファシルにいた300万人は脱出したので、物資は残っていた分を使い切ればなくなる。
新たに供給されない以上は補給線がなくなれば、撤退するしかないという事なのだ。
全体的に理にかなった戦術と言っていい、まだ同盟の作戦能力は死んでいないようで何よりだ。
アスターテ会戦以後の酷さを考えれば、このままでいてほしいものだ。
「ヤン参謀、このエル・ファシル奪還作戦どう思う?」
「はっ、戦略上は必須の作戦でしょう」
「それで?」
「戦術的には基本的な事を守っていますから、相手が標準的な敵であれば成功するかと」
「相手を上回る数で、という奴か」
「はっ!」
確かに、今エル・ファシルにいる敵は約2万、前回の戦いでかなり数を減らしており、まだ補充が出来たわけじゃないはずだ。
エル・ファシル本星の防衛のために駐留する必要があったはずだからな。
追加の艦隊が帝都から出発下という話は聞いたが、当然こちらまで来るまでにはそれなりの時間がかかる。
その間、こちらがその2万に2万6千で攻撃、ただでさえ同盟領内であるため地理情報に差がある。
もう2万6千が補給線を塞ぐのだ、早々負けはないだろう。
後はタイミング次第となる。
上手く、第十、十二艦隊が敵艦隊を釣り出せればこちらとで挟撃が出来、被害を減らせる。
帝国側で間に合わせる事が出来る艦隊は唯一イゼルローン駐留艦隊2万隻のみ。
もちろん、全部を動かせるわけもない。
となれば、最低限こちらが挟撃を受けることはないだろう。
ただし、問題点があるとすれば。
「そうですね、一つ問題点があるとすれば。
エル・ファシルに駐留している帝国軍が第十、十二艦隊が迂回した事に直ぐに気づいて追撃、イゼルローン駐留艦隊も直ぐ様出てきた場合です。
そうなれば、第十、十二艦隊は挟撃を受け、壊滅的な打撃を受けるでしょう。
その上、遅れてきた第七、八艦隊にエル・ファシル駐留艦隊、イゼルローン駐留艦隊の連合軍おそらく3万5千との戦いになります。
まあ、そこまで思い切った運用が出来る艦隊司令が2人もいるとは思いたくないですが」
「そうだな」
少なくとも、ラインハルトはまだ12歳だ、帝国士官学校に編入されたばかりだろう。
とはいえ、やりうる敵がいないとは言い切れない。
帝国には良将と言える人材が豊富だ、ミュッケンベルガーにメルカッツと言ったのが出てくれば不味い。
それに下っ端だとしても、双璧や食い詰め、オーベルシュタインがいると厄介だ。
「だが、念頭に置いておく必要はあるだろう。対策となるものはあるか?」
「対処されるなら第七、八艦隊の速度を上げ連携を崩してリスクを取るしか無いでしょう」
「なるほど」
確かに、それならば大負けはない、だが大勝ちもないという事だ。
これを天秤にかける際、相手の将が分かっていれば、決めやすい。
幸いまだ出撃命令は来ていない、作戦の詰めを統合作戦本部で練っている所なのだろう。
だがそれも、長くて2日。
その間に情報を出揃わせなければならない。
「そうだな、今から間に合うかはわからないが、敵将を調べるしかないな。
どちらかにミュッケンベルガーかメルカッツでもいたら、それを進言しよう」
「では、こちらからも情報を。少なくともエル・ファシル攻略司令官はそのどちらでもありませんでした」
「それはいい情報だな」
ただ、攻略後。駐留軍司令官が入れ替わった可能性もゼロじゃない。
一応両方調べるべきだろう。
一番確実なのはフェザーンの情報ルートを使う事だが、今の俺には難しい。
となれば、薔薇の蕾が持っている帝国への情報ルートと同盟政府の情報ルートを使うしかない。
あんまりトリューニヒトに借りを作りたくはないが……。
背に腹は代えられないよな(汗
「では、明日にもう一度、分艦隊会議を行う、幹部に通達をしておいてくれ」
「は!」
敬礼をしてヤンは出ていく。
一応、声を上げていたが、外に出る瞬間肩を落としていたのを見た。
彼の真意もわからないな……。
とは言え負けたいわけじゃないだろう。
なら、利用させてもらうしか無い。
数の上では有利なはずだが、絶対とは言えない以上、ヤンがいるのは心強い。
この戦いで、俺は少将になれるだろうか?
今のままでは、恐らく無理だろう。
しかし、手柄と同盟の未来を天秤に賭けたくはない。
ならば……俺だけの武器を使うしか無いだろう。
あとがき
今までヤン・ウェンリーを部下にするSSが無いというのは少し不思議でした。
扱いが面倒くさいというのもありますが、主人公キャラにチートさせなくても勝てるという意味では最強の手段です。
とはいえ、原作のテンプレを壊すとやりにくいという意味では禁じ手なんですよね。
私のSSはかなり原作破壊が進んでいます。
同盟の勝利のためにはこれくらい破壊しないと難しいという点はありますが。
それを主人公の権威に集約したことで、ジュージ帝国のようなものが出来上がりつつあり少し焦っています。
でもフェザーンに対抗しないといけないから、経済も政治も一定以上の力がいるんですよね(汗
政治はまあ、トリューニヒトを上手く使えれば自分でやらなくていいだけまだマシですが……。
この先どうなるか、ちょっと頭が痛い所です(汗
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m