「そうか、ついに来たか」

「はい、予想通りではありますが……」



ラインハルトは今までの経緯から、総力戦しかないと踏んでいた。

今ならラインハルトら帝国軍と、同盟軍はほぼ同等の戦いになる。

ラインハルトが掌握している艦隊は14個艦隊であるが、4個艦隊は門閥に貼り付けている。

更にオーディンに2個艦隊は残していかねばならない。

帝星を丸裸には流石にできないのだ、今敵対していない貴族もオーディンが空になれば攻め寄せてくる可能性がある。


そうでなくても、マーリンドルフにオーディンの政治を乗っ取られかねない。

ラインハルト派閥には若手の政治家はいても、帝星の内情に詳しい老獪な政治家はいない。

原作においては、古い権力体制を破壊しながら数年で帝国を安定させるウルトラCを見せた新進気鋭の政治家ばかりだが、今はそんな時間もない。

正直、2個艦隊だけでは不安なのだが、数で負けるわけにはいかないとラインハルトは考えている。



「出せる艦隊は8個艦隊でギリギリといったところか」

「それ以上出せば帝星に影響力を残せません」

「いっその事迎撃のために全部出してしまって、後からオーディンを再取得するのはどうだ?」

「その場合、我らに大義は無くなるでしょう。曲りなりにも善政を敷くと思われているから臣民も付いてきているのです」

「……確かにな」



オーベルシュタインの言っている事はラインハルトには穏当すぎる気もしたが、事実である。

普段は過激な事を言う人間だが、彼は地に足をつけた考えを持ってもいた。

8個艦隊対8個艦隊、同数で当たる事は艦隊司令官としてのラインハルトには望む所ではあった。

だが、銀河をその手にする事を決めたラインハルトにとってはあってはならない事である。


常に有利に事が運ぶ様に動いてきた彼がようやく五分五分という事は相手がどれだけ強大であるのかがわかる。

ジュージ・ナカムラ大将、実質的に同盟を支配しているのは彼である事をラインハルトは理解している。

帝国内部にまで情報網を持っている彼からすれば、むしろラインハルトこそがあってはならない敵であろう。



「奴だけは、今回で決着をつけなければならない」

「ジュージ・ナカムラ大将ですか」

「そうだ、奴は今まで仕掛けた策も艦隊戦も退けてきた」

「確かに」

「陸戦の新兵器まで持っているとも聞いている。奴を倒す方法があるとすれば奴自身の思考の隙を突くしかない」

「隙ですか……まさか!?」

「そうだ、奴を倒すにはそれしかないだろう」



ラインハルトは今回の戦いにあらゆるものを使い切る事に決めた。

バカバカしいと辞めていた事も含め全てをだ。

それが、ジュージ・ナカムラにとってどういう効果があるのか、それはまだ誰も知らない……。





銀河英雄伝説 十字の紋章


第四十一話 十字、決戦をする。






要塞級の輸送艦は堂々と正面から近づいてくる、おそらくだが要塞砲も搭載している。

ガン○ムのエルメ○のような形を見る限り、下方に2つ存在していてもおかしくない。

つまり、最大限の注意を持って殲滅しなければならない。



「ラップ、奴さんの要塞砲、最大射程はどの程度と見る?」

「……ワープエンジンのサイズ等から考えれば、エネルギーを砲に収束した場合トゥールハンマーと同程度の砲である可能性がありますね」

「全く、短期間でこんな化け物を生産してくるとは、帝国は金も人員も余ってるってことだな。

 ちっ、艦隊も出てきたか……」



恐らくだが、基本の設計図を見る限り、内部はかなりの部分伽藍堂のはずだ。

要塞は、内部で生活したり、農業プラントを組み込んで生産を行ったりもする。

生活基盤をつけているわけだ、しかし、アレはそんな色々な機材は積んでいない。

エンジンと砲と空間のみだ。

物資は直置きでも、輸送艦を積み込んでもどちらでも対処できる。

余った空間に艦隊を放り込むため、その艦艇収容数は3万以上。

帝国式の2個艦隊を護衛につけられるわけだ。



「敵要塞級、エネルギー充填をはじめました!!」

「何!? 相手の速度はどうなってる?」

「加速等は行っておりません、慣性で航行して居るようです!」

「ちぃ! 高速輸送艦対から可能な限りのチャフを展開!

 加速しつつ、徐々に反転! 離脱するぞ!!」

「はっ!」



なんというか、俺の策とも呼べないそれを忠実にこなすラップ。

対策すべきだった、向こうもこちらがトゥールハンマー基準で射程を考えていると予測しているはずだ。

つまりこの要塞級の射程はトゥールハンマーより長い。

チャフの展開と艦隊の反転はギリギリ間に合ったが、200隻の犠牲を出した。



「くそ、してやられた」

「あの状況では仕方ありません。しかし、艦隊がすでにこちらに向かっています」

「対応は?」

「Fが適当かと」

「分かった、全艦隊にチャンネルFの17番作戦を展開するように通達!」

「了解しました!」



予め、かなりの数の作戦を登録してある。

いざという時、艦隊の統率を取るのはかなり厳しいと予想されたからだ。

通達さえ通れば、これらは迅速に展開される。

因みにチャフの妨害を素通り出来るチャンネルを予め確保してある。

そうでなければ、この手の作戦は上手く行かないからな。



「敵要塞級、再充填開始! 敵艦隊は要塞級の周囲に展開しています」

「基本戦術は要塞戦と同じという事か。敵艦隊はわかるか?」

「旗艦の形状からヘルムート・レンネンカンプ上級大将とコルネリアス・ルッツ大将と思われます」

「向こうは階級の大盤振る舞いをしてやがるな! 景気のいい事だ。

 しかし、つまりはラインハルト、ミッターマイヤー、ロイエンタールら一線級じゃないということだ。

 それでもこっちの一線級ではあるんだろうけどな」

「本当に、向こうの艦隊指揮官適正ってどうなっているんでしょうね」



向こうの一線級に対処できるのはヤンかラップくらいのものだ。

もっともヤンと比べればラップは汎用タイプなので、相手の策を読み解く力は劣る。

だからヤンには何か気がついたら必ず報告するように言ってはいる。

ヤンに全ての艦隊を任せたいのが本音ではるが。



「要塞級、第二射! チャフが完全に散らされました」

「被害は?」

「ありません」

「上手く行ったようで何よりだ」



チャンネルFは先程行ったチャフに妨害されないチャンネルである。

そして、17番はチャフを展開しながら拡散、そしてダミーバルーンを残していく作戦である。

密度は見た目変わっていないため、そこを砲撃したくなる。

しかし、それはダミーバルーンであるということだ。

第二射が放たれると同時に全艦隊が突撃し要塞級を包囲する所までが作戦である。



「要塞級の動力は、エンジン部と繋がっている。

 エンジン部に集中攻撃はできるか?」

「はい、ヤン艦隊とビュコック艦隊に敵艦隊を任せその間に砲撃を行います」

「たのむ」



包囲したうち第五艦隊と第十三艦隊を除いて全てで後背部に回り込み、集中攻撃を行う。

作戦自体はさほどの抵抗もなく性交した。

エンジン部が爆発し、内部動力にも損傷が出たのか要塞艦のエネルギーは目に見えて低下し、迎撃も無くなった。

だが、それ自体が敵の作戦であった事を直様思い知らされる事となる。



「敵ワープアウト反応! 左右に要塞級の反応です! そして、正面から艦隊のワープアウト反応! おおよそ5万!」

「この要塞艦そのものが囮か! 流石というべきか……」

「確かに……このままでは不味いですね」

「まだ次があると?」

「恐らく、次の要塞艦には艦隊を乗せていないと思われます」

「つまり、遊撃艦隊がいるということか。なら」

「はい、ミッターマイヤーでしょう」



疾風ウォルフか……速度でついていける艦隊はいない。

何せそれ専用の高速戦艦ばかりの編成なのだ、運用もさることながら普通に追いつくのが難しい。

例えフィッシャーが能力で五部以上だとしても汎用の13艦隊では追いつけないだろう。

厄介な手を使ってくれる。



「しかし、これだけ出してきたという事はここで決戦をするつもりだという事だな」

「絶対とは言えませんが、ここに主力艦隊の大部分を集めているのは間違いないでしょう」

「なら、ラップ。お前の能力に期待するだけだ」

「はぁ……ここでそんな事を言われては……。

 やるしか無いじゃないですか!」



実のところ、こういった場合も考慮に入っている。

要塞級は少なくとも3つはあるだろうと思っていたしな。

まだ全部とも限らない。

帝国脅威の技術力というやつだろう……。



「では、高速輸送艦隊の新しい秘密兵器を使っても?」

「もちろん。派手にやってくれ。但し1回こっきりのネタ武器だけどな」

「はい、それでは。

 通信チャンネルC の31番を開く様に通達を!」

「了解しました!」



チャフが拡散してしまい、妨害としての意味が無くなったと見て通信チャンネルを変えたんだな。

Cは一部秘匿だったか、多少聞かせて混乱させたいということか?

どちらにしろ、時間稼ぎにしかならない。

本命は高速輸送艦隊ではないはずだ、とは言えそれを聞いても俺に出来るわけじゃないからおとなしくしていよう。



「高速輸送艦隊左右前線に展開! バフミサイル発射します!」



通信士が新兵器の展開を確認する。

バフミサイル、初見殺しの兵器である。

サイズは普通のミサイルよりかなり大きい。

1万隻いる高速輸送艦隊がそれぞれ一発づつ発射した。

一応、要塞艦にも通じることは通じるが……。

迎撃されるのは目に見えている。

距離次第では少しは効くかもしれないとはいえ……。



「バフミサイル、要塞砲射程に入ります! 迎撃、ありません!」

「ん?」

「当然ですよ。少し大きいとは言えミサイルに要塞砲を発射するのは無駄だと普通は考えます」

「なるほど……確かにな」



となると、少しはこちらにも目があるか。

何せあのミサイルは、俺の嫌がらせ精神が宿っている。

まあ、アレ一つで勝てるはずもないが。

ラップは次の手も考えているという事だろう。



「バフミサイル郡に対し敵艦隊が主砲による迎撃を開始しました!

 ミサイルも大量に発射されているようです!」

「そうなるよな。次は」



バフミサイルが一発あたり100発程度の小型ミサイルに分離する。

しかも分離した際残ったガワ部分が展開し発射台の代わりになる。

敵が砲台にエネルギーを送り込んでから発射し、ミサイルに到達するまでの時間がおおよそ2秒。

発射してからは0.1秒くらいだろうが、充填にある程度の時間がかかる。

そのエネルギーを感知した瞬間に展開するため、迎撃までに子機が発射台を受けてかなりの高速で向かってくる。


敵艦隊はレーザーによる焼却を行うが、細かい上にランダムな動きをするため殲滅率は高くない。

迎撃ミサイルに切り替えるが、速度が違うミサイルが飛び出して先に迎撃されてしまう。

半数以上が敵艦隊に到達したが、ほとんど無視して、要塞砲の砲塔へと向かう。


○ルメスのような要塞艦の主砲は恐らく生産スピードを重視したせいだろう、ガイエスブルグと同じものだ。

巨大な砲塔を作るのも時間がかかりすぎるだろうし、移動砲台は流体金属が必要だ。

そこまでの手間はかけていないだろうと、設計図から予測したのだが、当たったようだ。

だがまさかそこを弱点として突いてくるとは思わなかったのだろう。

小型のミサイル達が主砲めがけて飛んでいく。


ミサイル達は要塞の迎撃砲台によりかなり数を減らしたが、20%前後が要塞主砲に到達。

空いた穴から突入して、動力炉に到達、そして要塞艦は大爆発を起こす。

バフミサイル、爆発力はそれほど大きなものではないが高速で移動出来るように燃焼剤を多く積んでいる。

そして、前方部分がソケットのようになっており、爆発とともに更に飛び出す仕組みだ。

はっきり言えば、ソケットを飛ばすのが目的なので、ミサイルとは言えないかもしれない。

プログラム誘導式徹甲弾のようなものだった。



「上手く行ったようだな」

「いえ、これはあくまで要塞艦を失った事に対する驚きで動きが止まっているだけです。

 艦隊により包囲状態にあるのは変わらず、ピンチのままです」

「ミッターマイヤーはどこからくる?」

「真後ろから回り込むのが一番効果が高いですが、こうなってはそうも言っていられないでしょう。

 来るなら、艦隊下部からかと」

「迎撃に移る必要があるな。任せる」

「はぁ……。では、艦隊再展開。本隊含む3個艦隊は主砲を下部に向けて待機」

「残る3個艦隊は?」

「私の予測が外れた時や、他の部隊がまだ残っている場合もありますので」

「そうだな、両側の護衛艦隊は1個艦隊づつだった。

 まだ、4個艦隊しか出てきてないという事だ」

「そうです」



それに、バフミサイルは2回めとなれば、優先迎撃目標になってしまうため、同じ成果は難しい。

ラインハルトもこの結果までは予想してない可能性もあるが、要塞艦が無力になったと考えてはいないだろう。

なぜなら、迎撃をワルキューレに任せれば迎撃率は跳ね上がるからだ。

あのミサイルは目標以外に対しては無力であるという点も大きい。



「敵艦隊、ワープアウト反応出ました! 艦隊正面方向に1個艦隊。

 そして、艦隊背面方向から3個艦隊です!」

「なっ!?」

「そう来ましたか……流石はローエングラム侯」



ミッターマイヤー艦隊の出が早くない事に安心した心のスキを突かれた!

恐らく、速度をあわせて包囲殲滅、それが今回の作戦なのだろう。

同数の艦隊による包囲殲滅なのだから、これだけで終わる可能性は低い。

だが今の我々は一つしか方法を持たない。



「我々3個艦隊はこのままミッターマイヤー艦隊の出現に合わせ突撃する!

 他の艦隊は、ヤン及びビュコック艦隊と協力し、レンネカンプ及び、ルッツ艦隊を突破しろ。

 合流地点はアルタイル星系内で予定した合流ポイントとする!」

「はっ! 通達急ぎます!」



正しいの、正しくないのではない、こういうのは速度が必要だ。

俺の言ってる事は分断されるリスクはあるものの、ラップとヤンがそれぞれに残る関係上悪くはない。

ただ、今回の戦いは流石に被害を小さく抑える事は難しいだろう……。



「敵艦隊、ワープアウトしました! これはッ!?

 敵旗艦はトリスタン! オスカー・フォン・ロイエンタールの旗艦です!」

「何ッ!? つまり……」

「後方でワープアウトした3個艦隊のうち1個艦隊が吐出してきます! 旗艦はベイオルフ!」

「やられた!」



通信士の読み上げに対して俺は頭を抱える。

完全に背後を突かれた形になってしまった。

やはり俺には艦隊運用の才能はないという事か……。

しかし、現状反転するわけにはいかない。



「このままでは……」

「いいえ、まだ何とかなりますよ」

「何ッ!?」


俺にはもう思いつかないが、ラップにとってはまだ何とかなる範囲のようだ。


格の違いというやつか、何にしてもラップを登用しておいてよかったと心から思った……。














あとがき


正直、ラインハルトが好む作戦というのは王道というか奇をてらった物は少ない気もしますが。

まあ、割とやりすぎな作戦をいきなりやったりしますし、勘弁してくださいね。

ラインハルトってそういえば、ピンチになった事ってあったっけ?

ヤンに何度か敗退しているものの、ピンチと呼べるのはラグナロック作戦の時にヤンにやられかけた時くらいのような。

もしかしたら、ラインハルトって……なろう系の前身のような存在なのでは……。

いや、深く考えるのはやめましょう。

ともあれ、今回からラインハルトとの艦隊戦に入りました。

奇襲されては、奇策で返すの応酬になるのはどうしても仕方ない所です。

ラインハルトも手を抜いてはくれませんしね。

逆に手を抜かない策を用意して破るとか私頭良くないのに出来るかしらん……orz



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