機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜





第五話 根回し



「さて……」


俺は今、シャングリラにある中央政庁に来ている、中央政庁があるのは現在のサイド1の首都だからだ。

ここ出身であるジュドー・アーシタは今頃5歳だろう、まあいてもいなくても現状では関係ない。

ZZ期には不調の多いコロニーだったが、ジオンの核攻撃で残った部分を復興計画で再生したコロニーだからだろう。

現状はそういった不調もなく、人口が3000万人を超える最大規模のコロニーだ。

因みに一応4000万まで住んでいるコロニーが存在するらしい。


俺は以前から申請していた結果の確認と、協力的な政治家との面会を行うためにここに来る事となった。

まあ、金の事がなければ、基本的に政治は文句を言ってくる事は少ない。手続きさえしっかりしていればだが。

金というのは、直接的な意味もあるが利権的な意味もあり、権益を冒さず金をかけない事は通りやすいという事だな。

そして、俺は八洲グループという巨大な権益に絡んでいるため、おこぼれを欲しがる人間は多い。

事に政治には金がかかる、なのでよい政治家も悪い政治家も同様に金や権益を大事にするのだ。

それがよい事か悪い事かはさておき、おかげで防衛計画の邪魔をする人間が少ないのはありがたい。


俺は政庁ビルを横切り、知り合いの政治家の事務所に向かう。

田舎にある、票集め用の事務所とは別に、政庁の近くに活動拠点としての事務所を構えるのは割とよくある。

というか、サイド1の政治はここで行っているのだから当然だろう、なんならコロニー公社の窓口だってある。

まあ個々のコロニーはそれぞれ別の国に近いので拘束力のある国連の様なものと言ったらいいだろうか。

地球連邦軍の存在があるため、軍事力を使った脅しというのは少ない。

ただそれでも、サイド3のように一つに纏まっている事のほうがまれであろう。



「邪魔するぞ」

「これはこれは少将閣下、今日は何の御用ですかな?」


その政治家はおどけて俺に話す。

50代前後だが、こういう少し露悪的なところのある人間だ。

一応黒人系っぽいが、混血が進んでいてどこの血筋なのかはっきりしない。

ブラックユーモアあふれるおっさんだ。

原作にいない人間だが、やり手なのは気に入っている。

ただ付き合うのはめんどくさい。


「なんだそれは。からかっているなら帰るぞ」

「まーまー待ってくれよヤシマのぼっちゃん。あんたの頼んだ事はしっかりやったんだからさ」

「通ったのか?」

「まあ、根回しにそこそこ金がかかっているからな。追加報酬が欲しい所だが」

「ごり押ししたのかよ……どれくらいだ?」

「こんくらい」

「おまえ……遠慮ないな」

「それはもう」


因みに要求してきたのは現在で言う億円単位の金だ。

報酬の倍額要求をしてきた、足元見られているな。

ただ、今回は緊急だから支払わないわけにはいかないだろう。

他にも頼み事をしなけりゃならないと思うと頭が痛いが。


「分かった、そっちはそれでいいだろう。防衛費の増額のほうは?」

「そっちは難しいな。本当なのか? ジオンがコロニーに対して核攻撃を考えてるってのは」

「少なくとも、そういう兵器は作っている。宇宙なら射程距離は無限だ発射すりゃいい」

「それはそうだが……」


渋い顔をする議員のおっさん、まあわからんでもない。

何せコロニーへの直接攻撃っていうのは絶対的なタブーだからだ。

そんな事をすれば、報復される核攻撃もだが、そうなればサイド3も壊滅する事になると思っているんだろう。

今までの戦争ルールならそうなって当然であはあった、ミノフスキー粒子がなければな。


「タブーか、あいつらの要求断ったんだろ?」

「それはな、あいつら既に地球圏の盟主になるつもりだ、付き合いきれないからな。

 他の議員達も呆れて物も言えないと言った感じだったな」

「なら容赦はしないだろうな。核の場合報復があるのが怖いだけだから、報復出来ないくらい壊滅させるだろうよ」

「へ?」

「あいつら核バズーカを馬鹿みたいに量産してるからな開戦前にはコロニー全滅させられるくらい核を用意してくるだろう」

「……本気で言ってるんだな?」

「ああ」


まだ疑いを捨てられていないようだな。

そりゃそうだろう、ただまあ俺としても説得してもらわねば困るので、核攻撃に関する資料を作成してある。

もちろん、スパイをそれなりに送り込んでいるし、証拠が出なくても推定できるものがあればいいと言ってある。

実際にたどり着けなくとも、核攻撃の可能性を推定出来ればこちらの勝ちだからだ。

後は、ランバ・ラルあたりが持ってきてくれればな〜という様な希望的観測はあるが。

無くても捏造資料は大量に用意した。

少なくとも、ミノフスキー博士にどこに核を置いているかについては絞り込んでもらった。

この資料も間違いというわけじゃないだろう。


「これが本当なら、俺に持ってくるより連邦軍本部にでも持ち込むべきだろう?」

「本当だが、証明できる手段が乏しい」

「それを捏造っていうんだろうが……。断定出来るだけの何があるんだ?」


渋い顔で男は言う、まあ当然の反応だし、仮にも政治家だ、鼻は効くだろう。

その上で単なる捏造ではない可能性を否定出来ていないという事だ。

俺は多少の秘密を開示するのはありかなと思った、こいつはどうせジオンにもパイプがあるだろうしな。


「この間、ジオンはサイド1〜6全てに対し連携の呼びかけをしたよな?」

「ああ、サイド6だけは中立だとか言ってたが他は全て連邦側につく事を決めたな」

「なんで呼びかけたと思う?」

「そりゃ、単独では勝てないからだろ?」

「それならもっと根回しをして、こちら側に利益を約束するだろ?

 例えば彼らが開発している新技術とかを協力するなら提供するとかな」

「一応それっぽい話をにおわせていた気はするが、根回しは無かったなそういえば」


根回しというのは政治的に重要で、基本会議や会談ではパフォーマンス優先で実際は何も決めない。

決めるのは事前に互いのすり合わせをする事前会議の場だ。

それが無い、ぶっつけ本番では誰もついてこない。

ジオンは元からポーズとしてしか協力を求めていないという事だ。

ミノフスキー粒子、モビルスーツ、核バズーカ、コロニー落とし。

これらの新機軸の攻撃にむしろ他のサイドは邪魔なのだろう。

連邦に技術を漏らされる恐れがあるし、裏切りが一番怖い、結局ジオンは自分達以外を信じなかったという事だ。

当然でもある、計画の段階から地球圏の人類の半数を殺すつもりなのだ。

情報が洩れるだけで、彼らの計画は簡単に瓦解しうる。

殺されるべき人々のうち一部でも死ななければジオンの非道は永遠に消えない不名誉として残るだろう。

ナチスドイツなんて比じゃない、彼らが殺した民間人の数はその1000倍を軽く超える。

ソ連も中国も自国民の大量虐殺をやらかしているが、それとも比べ物にならない超大量虐殺だ。

そんなものが永遠に語り継がれれば、その後のジオンはテロを起こすどころかテロの標的になるだろう。

一部の自称リベラルすら庇えば袋叩き、マンハントすら合法化し、民衆もおおいに応援するに違いない。

ジオンが一人残らず死に絶えるまで。

それ故に彼らは味方を必要としない、出来ない。

前代未聞の非道を行う以上、それらを糾弾するものも全て殺さねばならないからだ。


「今の所出せる証拠はこんな所か」

「……クラナダがジオンと繋がってるってことか?」

「ああ、廃棄核兵器のちょろまかしだな。それをベースに核攻撃の準備をしているわけだ」

「それからこっちは……おいおい、なんだよこれは……」


次の資料を見たおっさんは、渋い顔をして俺を見る。

これに関しては、資料はおおよそではあるものの、写真を複数添付している。

ジオン軍がいる場所をおおよそ予測して監視を行った結果だ、もちろんアステロイドベルト全てをは無理だが。

一番可能性の高い月面裏側から目立たずに行ける範囲で、木星へ向けての航路近くのものを片っ端から監視させた。


「連邦の監視網もザルにならざるを得ない、何せ地球圏っていうのは地球の周辺だけだからな。

 アステロイドベルトっていうのは、火星と木星の間全体に広がってる。監視は不可能だ。

 どこから小惑星を引っ張ってくるかなんてわからんよ」

「独自の木星との取引に、アステロイドベルトにある小惑星のコロニー化いや要塞化か。

 ア・バオア・クーに関しては流石に情報もあるが、アクシズ? ペズン? ロードス?

 他にも一体いくつあるんだ……それにこのソロモン軌道的にこっちに向かってないか?」

「ああ、最終的にサイド1にぶつかる軌道だな」

「つまりあれか、サイド1を占領した後の……」

「まだはっきりしないが、サイド1への攻撃の意思は伝わるだろ?

 まあ、提示出来るのはそんな所だ、本当かどうかは自前で確認してくれ」

「……まいった。焦るわけだな」


そういった話を大体まとめ、俺は中央政庁を後にした。


まあ、影響力のある男だし、サイド1の防衛に関しては多少マシにする事が出来るだろう。

とはいえ、あくまでサイド1だけだし、現状で使える金だけではジオンに追いつけないのは間違いない。

連邦軍全体に対して警告を行う必要があるだろう、やはりレビル中将だな、彼を説得しないと話にならない。

今年中に一度行ければいいが、遅くとも来年のはじめには行かないと間に合わないだろう。


「さて、次は……ん?」


俺の軍事用の携帯(傍受防止用の妨害電波つき)に電話がかかってきた。

当然ここにかけてくるのは軍の人間なのだが、一般の軍人がかけてくる事はない。

何故なら普通は報告等は報告書を出すし、重要な事は基本口頭で述べる。

つまり、一般の兵の様に近くにいられない情報将校からの通信となる。


「ヤシマだ」

『情報部所属ローゼンバーグ中尉であります!』

「緊急か?」

『はっ! 監視していた小惑星の一つ、アクシズより超大型艦が出航しようとしています!』

「それはグワジン級ではないのか?」

『緑の船体で横に長く、長方形といいますか……』

「前から順にいくつものブロック状になっているタイプか?」

『ハッ! 間違いなく新型かと』

「だな、わかった。継続して監視してくれ。ジオンの艦隊規模を正確に把握する事は今後の作戦に関わってくる」

『了解しました!』


ローゼンバーグ、彼は一応原作キャラにあたる。

08小隊の宇宙世紀余話において、最初の核攻撃を受けたサイド1の13バンチにいた情報将校だ。

特別有能というわけではないが、普通に情報部の連絡役として重宝している。

少なくとも裏切る心配はないからな。


しかし、ドロス級か……すでに開発が完了しているとは……。

まあ、足の遅い船ではあるので、電撃戦である一週間戦争では使われない可能性は高いが。

それでも普通に脅威である。

MS搭載数182機、連邦側のコロンブスも50機と結構なものだが、軽空母と原子力空母くらい違う。

ようは超大型空母なわけで、護衛必須だが、搭載MS数は一年戦争において他の追随を許さない。

実際に活躍したのは、ア・バオア・クー戦のみでドロスとドロワの2隻が確認されている。

といってもドロワはデラーズの口から轟沈までの内容が語られたのみだが。


因みに、アステロイドベルトの監視は別に近くにいるわけではない。

サイド1からも行っているが、各サイドに情報部を派遣して超遠隔カメラで監視を行っている。

それぞれの方向から監視する事で精度を上げているのだ。

2020年代でも電波望遠鏡を使えば太陽系外すら確認可能だったのだ。

少なくとも数百年未来の宇宙世紀においては更に精度が上がっている。

つまり、監視対象をピンポイントにすれば戦艦クラス等は判別できるという事だ。


「ジオン脅威のメカニズムか……勘弁してくれよ……」


明らかにジオンの軍事力は異常だ、連邦軍の宇宙艦隊全体と比べればせいぜい5分の1程度の規模でしかない。

しかし、グワジンは最初マゼランより小さい設定だったらしいが、今は294mから440mに巨大化している。

実際アニメなどで出てきたのを見るとマゼランより小さいようには見えなかった事が大きい。


理屈はともあれこの世界においては最初から440m級で完成しているようなので、連邦涙目である。

それにチベ級は235mでサラミスより少し大きいくらい、性能差もあまりないがMSが9〜12機も積める。

流石にムサイはサラミスより弱いが、こちらもMSの運用という面で差がある。

結局どの艦も有利に戦えないという事だ。


ミノフスキー粒子とMSという新機軸の戦術は連邦にとって正にクリティカルであると言える。

だが、それも事前に情報が入って来ていれば対処不可能だったわけじゃない。

そして、サイド3に情報部が何もしていなかった訳ではない。

外伝でジオン・ダイクンとザビ家の対立を煽ったり、テロ組織にズムシティを攻撃させたりしている描写がある。

と言っても、情報部そのものが出ていた訳では無くザビ家の人間の発言から類推できるというだけだが。

連邦の情報局もサイド3に入り込んで離間や破壊工作を行っていたという事だ。

なのに、MSに関しては表に出している誤情報を掴まされ、ミノフスキー博士には情報を秘匿された。

そして、小惑星の要塞に関してはまるで監視が行き届かず大量の要塞を作る事を許してしまう。

あんなものを作っている事が知られたら、連邦軍だってジオンの準備が整うまでに壊滅させようとするだろう。


情報部がひたすら間抜けなのか、それとも連邦上層部のシンパが隠したのか。

原作的にはそこまで考えてなかったというオチなのは間違いないが、この世界ではそうもいかない。

俺としては、後者でない事を祈りたい気分だ、とはいえエルランという実例がある以上望み薄か。


今回の事で、サイド1の上層部も少しは警戒心を持つだろうが、同時に情報が洩れている事をジオンに掴まれる。

ジオンが計画を前倒しする可能性が否定できなくなってくる。

バタフライ効果は勘弁してほしいが、仮にもIQ240の天才が率いている以上ほぼ間違いないだろう。

前倒しされる事を前提に考えなくてはならないだろうな……。


「頭の痛い問題が多いな……」

「何か問題でも?」

「連邦が間抜けなのか、ジオンが優秀なのか。情報量の差がな……」

「こちら側のスパイを増やす訳には?」


バスクが俺に聞いてくる、今の彼の立場はカウンタースパイ部隊の隊長兼護衛みたいになっている。

とはいえいつまでも頼むわけにもいかない、いずれは艦長かパイロットとして戦ってもらわねばならないからだ。

いずれはサイド1と2に連邦宇宙軍の半数くらいは持ってきたい所だな。

間に合わないなら手持ちで何とかするしかないが……。


「新しいスパイを送り込むにはサイド3の情勢が悪い、独裁国家に不満を持つ者は一定数いるだろうが……」

「密告ですか?」

「あの国も当然密告を推奨しているだろう。送り込めば大部分は拘束され拷問、公開処刑だろうな」

「厄介な事ですな。しかし、それを前提で送り込むのは?」

「特別に訓練して部隊を送り込むには時間がない。恐らく半年から一年が開戦までのタイムリミットだろう」

「半年ですか……こちら側の準備は整うので?」

「無理にでも間に合わせるしか無いだろう。そのために私が走り回っているんだからな」

「ごもっとも」


今の時点でどれくらいギレンが開戦を早めるかはわからない、俺への警戒次第といった所か。

しかし、既に計画が決まっているものを前倒しするのにも限度はある。

策定されたスケジュールを全てひっくり返す事は出来ないし、ある程度は余裕があるだろう。

とはいえ、今後も色々変えていく予定だから、半年くらいの前倒しは覚悟しなくてはならない。

当然、俺のスケジュールは限界まで詰める必要が出てくるだろうな……。

今から頭の痛い話だ……。







あとがき


一か月くらいで出す予定だったので、とりあえず書いてみたのですが。

大部分が考察で埋まってしまいました……(汗)

まあ、まだ動き出している部分も少ないのでこんな感じで行くのは事実ですが。

それでも、この話でやる予定だった部分の半分しか進めませんでした。

考察部分を減らして実働を増やすべきかな(汗)

今後の課題ですね。



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