サイド3ムンゾその首都ズムシティ。

中央政庁の代わりに巨大な城を構える特殊なコロニーである。

0058年に成立したジオン共和国を僅か11年でジオン公国とした彼らはその後10年で全てを変えた。

そう、デギン・ソド・ザビを公王とする専制君主国家。

その結果として、権力はザビ家に集中し、その支持者達が実質的な貴族となった。

サイド3の住民の大部分は彼らの洗脳とも言える教育により、全ては連邦が悪いのであると理解している。

そして、それはギレンが考える人類の間引きすら肯定する様な倫理観となっていた。


そんな城、いや公王庁の一角、ギレン・ザビの執務室に大きな音と共に突入してくる男がいた。


「アニキ! 兄貴!」

「ドズル……、入る時にはノックくらいしろ」

「アニキ! ランバ・ラルが軍を除隊したというのは本当か!?」

「……」


入ってきたドズルは書類をまき散らしながらギレンの前に両手をたたきつけた。

ギレンの執務机はぐちゃぐちゃになり、整理には時間がかかりそうだ。

注意をしても聞かず自分の言動だけ押し付けてくる所に頭が痛いギレン。


「本当だ」

「何故だ!? あ奴は既に3度の功績を持つ、実戦経験の少ない我が軍では飛び切りのエースだぞ!?」

「そうだな、しかしあ奴はダイクンの子らを攫って逃げたジンバ・ラルの息子だ」

「だが、あやつ自身は軍に寄与し続けてくれたではないか!?」

「それが逆にダイクン派を勢いづける事になりかねんのだ」

「しかし……」


ギレンにもドズルの言いたい事は解っていた、今のジオンに実戦経験のある士官は貴重だった。

実際、100人にも満たない数しかいないだろう。

だが、ジンバ・ラルによってザビ家による支配が完全とは行かなくなったのも間違いない。

下手に出世でもされると、彼の下にダイクン派が終結しかねない。

今は大人しくしているマハラジャ・カーンの様な家が動けば下手をすると公国が割れかねない。

表面上は一党支配であるジオン公国だが、未だにダイクン派の力は侮れないのだ。


「くそ、引き留めてくる!」


既に辞めたランバ・ラルを軍に戻そうというドズルにギレンはため息をつく。

ドズルの軍事的センスは確かに相当なものだが、判断が甘く、直ぐに情に流される所は向いていない。

ギレンは出ていくドズルをそう判断する、前線指揮官以上は難しいのではなかろうかと。


「失礼しますギレン閣下」

「セシリアか……調べてきたのか?」

「はっ、ランバ・ラルと貴下の部隊員達は軍を去る前に不審な行動をとっています」

「ほほう」

「おそらくですが、核の存在に気が付いたのではないかと」

「……」


ギレンは考える、確かにそれならランバ・ラルが除隊した理由もわかる。

あれらは、表面上はどうあれ核攻撃によるコロニーの破壊等認められるものではないはずだ。

もっとも、終わってしまえばどうしようもない、文句を言ってくる事もないだろうが。


「核の存在そのものに気付かれたのは構わん、しかし、その情報が拡散するのはまずいな」

「確信に至るほどの証拠は残っていないはずですが」

「そのはずだが……いや、今議論してもわかる事ではない。

 それよりも、あれが自分で気が付いたとは思えん、恐らく吹き込んだ人間がいるはずだ」

「はっ! 早速調査を開始します!」

「うむ」



機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜





第六話 ブースター計画



0077年も12月に入り、そろそろ情報共有だけでも終わらせておきたい所だ。

そのためにも、一度ジャブローに行っておく必要がある。

だが、そのための準備がまだ終わっていない。

資料だけでも、結構集める必要があるがそちらは大部分が終わった。

後は、核バズーカの現品とは言わないまでも資料でもあればな、ジオン製の。

それは流石に難しいか……。



「バスク・オム中佐であります! 客人をお連れしました」

「入れ」



ロンデニオンのいつもの執務室。

そこに入ってきたのは、バスク・オムとランバ・ラルの2名だった。

どちらも連邦の制服に中佐の階級章をつけている。

多少大盤振る舞いをしたが、忠誠心とは言わないまでも、現時点で味方であればそれで十分だ。

特にランバ・ラルは敵としては強い存在なので、排除できたのは行幸だろう。

ついでにマハラジャ・カーンやその娘たちもこちらに引き込めれば最高なんだが、まあ無理だろうな。

既にアクシズを掘り返し要塞を作り始めている様子だから正直こちらと接触しようとはしないだろう。


「ラル中佐、名をそのままにするのか?」

「親父がこちら側に来ていたので、名前だけ変えようかと考えております」

「ふむ、どのように?」

「そうですな。親父がジンバで私がランバ、関連性は必要だが間違えられるのも困る。

 ハンバ・ラルでどうでしょうかな?」

「確かに一字違いの割にはあまり近いと感じないな。

 つまりは、父が連れて行った兄か弟かという形をとるという事か?」

「これなら連邦士官になっていたとしてもおかしくないでしょう?」

「確かに」


ハンバという名だと半場という日本的な印象になる。

それに、まったく新規の名前というのも、とっさに自分だと意識出来ない人も多い。

キャスバル→シャア→クワトロの人の切り替えが早すぎるだけだろう。

だからまあ、俺としては覚えやすくてありがたいが。


「それで、こちらに来たという事はつまり」

「いえ、核に関する証拠を掴めたわけではありません。

 まあ、ですが面白いデータは手に入れました」

「ッ! これは!」


核バズーカの設計図じゃないか!

ザクバズーカと核バズーカは同じではない。

弾頭のサイズも違えば、強度も違う。

発射法がミサイルと違い後方から火薬の爆発で押す形を取る以上、色々特別製にするしかない。

先ず、ミノフスキー粒子を使った放射能漏れ防止塗装が必要だ。

更に、弾頭が大きくなる関係で、強度を確保するために砲身をごつくする必要がある。

つまり、これを見れば特殊なものを打ち出す秘密兵器である事は丸わかりだって事だ。


「知り合いの工場にあったものを撮った写真の引き伸ばしだがな。おっと、ですがね」

「信じてもらえたようで何よりだ」


これは流石に決定的だろう、ラルが入り込めてこんなものがある工場となるとホシオカ重機あたりか。

あそこなら確かに、ザク関係ならだいたい設計していそうだしな。

例え直接かかわっていなくても修理や調整を引き受ける事も多い。


「これで弾みがつく、本格的に防衛兵器の類を作れそうだ」

「ほう、それは重畳」

「ありがたい。ではラル中佐。来週には地球に向けて出発したいと思う。

 君もコロンブスで護衛に参加してくれるか?」

「ハッ!」

「ならば、準備にかかってくれ。これが君の乗るコロンブスに関する指示書だ」

「了解しました! では、失礼します」


ラル中佐は指示書を持って執務室を出ていく、これで一安心といっていいだろう。

少なくとも、裏切る心配はなくなった。

なんだかんだで原作ではサイド壊滅やコロニー落としを後悔している様な描写がないから心配だったが。

彼にとっては、己の部隊は家族であり、彼らの生活を保障する事が第一であるという点は感じた。

その上で、核バズーカはダメ押しになったのだろう。

大量虐殺をする事が事前にわかっていれば普通の神経をしていれば近づきたくないはずだからだ。


「じゃあ行くか、バスク中佐護衛を頼む」

「了解しました」


とりあえず今日のうちにしなければならないという事はない。

だが、別のスケジュールのために早めにやっておきたい事はある。

そういう訳で、執務室から出てヤシマ重工のラボへと向かう。

こちらも警戒態勢を取って色々やってもらっているからな。

特に、セイバーフィッシュやトリアーエズに変わる戦闘機が重要だ。

モビルスーツにも手を出すつもりではいるが、そちらは許可待ちだし、出遅れが大きい。

下手をすると間に合わないかもな。


「ようやく対ジオン第一計画の成果が見れるのですな?」

「成果とはまだ言えないだろうが、最初のとっかかりは形にはなっただろうな」

「とっかかりですか、まだ先があると。楽しみですな」


バスクは口元をニヤリと歪めた。

やはり、悪人顔だなー、まあ元から高圧的で出世心は強かったんだろうが。

それでも今は頼もしい限りだ。

少なくともジオンと繋がる心配がない護衛だからな。

それに俺についていれば美味しい思いが出来る事は学んだはずだしな。


「いらっしゃいませ、閣下」

「いつも事務関連の代理ご苦労だな。土産を持ってきた暫く忙しいだろうが頼むぞ」

「は!」


以前言っていた、ヤシマからの事務代行メンバーだ。

軍の通常業務に関しては、イーサン・ライヤー准将に半ば丸投げしている。

軍事機密も多く、やはり将官でないと任せられないからだ。

対して、開発やスケジュール管理はヤシマの事務代行メンバーに頼む事が多い。

ほんと、大して頭もよくないのに俺も色々やろうとしたせいで一時は大変だったからな。

やはり餅は餅屋だろう。


「そうだ、資源衛星の件はどうなった?」

「はっ、近場で大型、要塞化も視野に入れるという事で3つほど条件に合致するものがありました」

「ほう。それはありがたい」

「後は、中央政庁の議案が通り次第、サイド1と軍の合同という形で持って来れるはずです」

「どれくらいかかりそうだ?」

「どれも元々開発は進んでいてある程度近傍まで引き寄せてあります。

 議案の通過、政策決定まで早くて3ヵ月、移動そのものは1か月かからない様に仕込みました」

「出来るだけ急いで通過する様に動いてくれ」

「了解しました」


やはり、要塞には要塞で対抗するのが一番だ。

ソロモン到着より前に防衛可能な要塞を用意しておくべきという事で事前に根回しをしている。

例の議員が中心になってやっている事だが、既にソロモンはこちらに向かっているから急がねばならない。

だから、途中で廃棄されたり、サイドまでは持ってきていないようなやりかけの資源衛星を探してもらった。

要塞化も既に手を付け始めていたりする。

まあ今は予算が降りていないため、ヤシマグループに借金してやってるような状態だ。

あんまり借金は増やしたくないが、一年戦争が終わるまでには山の様な借金が出来てそうだ……。

だが、手を緩めたばかりに原作の様な世界になるのは御免だ。


テロリストとそれを弾圧する者が民間人を殺しまくる世界……お話としては派手でいいのかもしれんが。

絶対に現実にしたくない。


そもそもギレンは人類が増えすぎたと言う様な言葉を放っている。

独裁者(ギレン)に管理しやすい人類だけ残して後は死ねという事なのだろう。

Zガンダム以後はジオンの悪行を誰も覚えていない形になっていたので、正にその通りになったと言える。

つまり、サイドの壊滅がターニングポイント。

決して許してはならない所であるという事だ。


俺は事務代行メンバーのいる部署を抜け、最重要機密である新兵器研究部に向かう。

そこには、現在いろいろな粒子の傾向等をまとめてくれているミノフスキー博士もいる。


「ご苦労様です」

「フンッ、この件が済んだらもう二度と関わらないでもらおう」


彼は隠していた技術を提供はしてくれているが、俺のやり方には色々文句もある様だった。

個人的に時間がないのでなりふり構っていられないっていうのが本音だ。

だから嫌われようと、やる事やってくれれば文句はない。


「もちろんです。ジオンがサイド壊滅作戦を諦める様に出来さえすればそれでいいので」

「……奴は、ギレンはやるだろうな。人を数としてしか見ていない男だ」

「ええ、私もそう思っています。だからこそ急ぐ必要がある」

「私にできるのは、ミノフスキー粒子の使い方を教える事だけだ」

「よろしくお願いします」


既に、この半月ほどの間にミノフスキー・イヨネスコ核融合炉の試作は終わっている。

とはいえ、まだ小型化の課題は残っているため、MSに積めるサイズとまではいかないが。

そこまでは流石に成功例があろうと1ヶ月以上かかるだろう。

だが、そちらはそちらとしてもその間兵器開発を待つ事も出来ない。


「主任、ブースター計画のほうはどうか?」

「はっ、互換性のほうは問題ありませんがパイロットへの負担はどうしても残ります」


ブースター計画、とりあえずザクに対抗するために考えた試案の一つだ。

簡単に言えばコアブースターの様なものを作る計画と考えてくれればいい。

ただ、コアファイターはまだ計画すらされていないのでベースはセイバーフィッシュやトリアーエズとなる。

ようはブースター部分を作ってもともとある戦闘機にくっつけるという事だ。

もちろん、パージも可能にして置く予定だが、メガ粒子砲を撃てる様にするために核融合炉も必要だ。

戦闘機につけるには大改造が必要なのでそれもブースターに乗せる予定である。


「エースでなければ扱いきれないと?」

「現状でいえば、そうなります」

「ブースター出力を絞ればどうか?」

「取り付ける意味は薄くなりますが、可能ではありますね」

「うむ……」


エースは予定通りにして一般兵にはリミッター付きでやってもらうか?

速度が落ちても、メガ粒子砲で火力が上がるしパージして逃げる事も可能だ。

何より、現状ではザクに対するキルレシオが5対1以下という悲惨なものになる。

機体よりも乗り手が重要であるのは間違いないが、数も揃えなければ勝てない。


出来れば一般のパイロットでも乗りこなしてほしいところではあるんだが。

何せエース専用機はまた別に開発予定だからだ。


やはり学習型コンピュータが必要になるな。

一応、サポートコンピューターはあるにはあるが、ガンダムのそれが優秀過ぎた。

あれを開発するためには、やはり上層部と話し合いが必要になるだろう。

ついでにファントムシステムにも投資しておくべきだな。

ライアント重工業だったか、もう残っていないかもしれないな。

ワルハマー・T・カインズ博士だったか、連邦軍に入っている可能性が高そうだ。

軍に入っているなら投資するよりも散り散りになった開発メンバーを探したほうがいいだろう。

そちらは軍の情報部に依頼しておくか。


「最後にボール改修計画のほうはどうだ?」

「一応、試案はできましたが……かなり大きくなりそうです」

「当然だろう。戦闘可能にするためだ」

「とりあえず設計図の試案はこのようになっております」

「ふむ」


モビルポッドであるボールを戦闘可能にするという計画なのだが、原作と同じにするつもりはない。

装甲を十分に厚くし、バーニアを増設する事でスピードも倍加させる。

更に、砲門とアームだけではなく、近距離用の60mmガトリングもつける事にした。

またアームも元の貧弱なものからクローアームに改修、ザクの装甲を貫けるようにしてみた。

イメージとしては小型のビグロといったところか。

量産性と戦闘力をバランスよく持つ事が出来ていると思う。


「細かい点はともかく、この方向性で仕上げてくれ」

「了解しました」


現時点で出来る開発計画はこんなところだろう。

いずれはMSにも手を出したい所ではあるが、一週間戦争に間に合わせられるとは思えない。

なので優先順位を取った結果がこういうものだ。

コアブースターは宇宙においてザクに十分対抗出来ると考えた結果のブースター計画。

量産性の高いボールを強化する事で戦線を維持するボール計画。

パイロットの増員も不可欠だが、これらが軌道に乗れば原作の様に速攻でやられる事はないはずだ。

互角にやりあえるかという点においてはまだ心もとないが。

明日以後も忙しくなる、今はこれくらいが限界だろう。


俺は今後のスケジュールを確認しながら帰途につく事となった……。








あとがき


一応今月も続ける事ができました。

沢山感想を頂いたのでテンションが上がっていますw

感謝感激ですね!


さて、実は今回も予定していたところまではいけませんでした。

本当は次回で地球に向けて出発する予定だったのですが、もう一つだけやっておきたい事があります。

そのため、次回は序盤でそのことを片付けてから出発となりそうです。


ガンダムは外伝作品が多いので手を付けられる範囲が多く、楽しいですがポカもありそうで困ります(汗)

思いつく限りのフォローはしていきたいと思っていますが、漏れがあったらまた教えていただけると嬉しいです。



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