機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜
第七話 道行
ジャブロー行きの日程が決まり、一通りの代行の指示を出し終えたので。
一度思考の整理を行っておこう。
先ず、こちらにとって最善、次善とランク付けしながら目標について決めておく。
最善は不可能ではあるが、ジオンが動く前に終わらせる事。
これが可能な時期はミノフスキー博士が連邦にやってきた直後辺り。
この頃なら少なくとも核戦力は小さいだろうし、艦隊戦力は増強途中。
ザクUは試作段階といったところだろう。
旧ザクも十分脅威であるし、ミノフスキー粒子の散布により苦戦を強いられるだろうが、数で押し切れる範囲だ。
やるならこの時期しかなかったと言える。
今やるとなると、連邦宇宙軍の大部分をクラナダに集結する必要がある。
その上で、勝率は半分を切ると見ている。何故なら今は既に核バズーカ量産体制が整っているからだ。
次善はクラナダの防衛。
これも先ほど言ったが、ほぼ不可能だ。
クラナダに連邦軍の大部分を集める時点で見つかって各個撃破の憂き目にあう可能性が高い。
しかし、クラナダは非常に惜しい拠点でもある。
あそこを抑えれば、サイド3は目と鼻の先、これほど監視しやすい所もないだろう。
もっとも、結局クラナダの人間は篭絡された上層部により情報は駄々洩れのようだ。
その証拠というわけではないが1年戦争開始時に真っ先に全滅し、以後はジオンの拠点となっている。
サイド1はジオンの拠点になっていない、ソロモンがその代替ではあるが。
何が言いたいのかと言えば、僅か1日で落とされて以後キシリアの拠点と化しているという事。
つまり核汚染を受けていないのだ。
戦後はクラナダ基地はアナハイムの生産工場になったがジオン残党に最新兵器を流し連邦に被害を与えてから、
後追いで連邦向けの最新型を買わせるという儲け方をUC110年くらいまで続けている。
普通に考えればそんな企業は外患誘致や国家反逆罪になり解体されるはずだが……。
メラニー・ヒュー・カーバインが政治力を駆使し連邦政治家を金と権益で抑え、
サイアム・ビストがそう言ったものでなびかない相手をラプラスの箱によって黙らせていたようだ。
ガンダムUCを見ているとビスト財団がそんなに悪くは見えないが、実際死の商人そのものである。
そして、三番目、サイド1とサイド2で被害を食い止める。
現状俺がやっている対策がこれにあたる。
サイド1及びサイド2の防衛力を上げて、敵艦隊の足止めを行い、宇宙艦隊による援護を待つ。
もとより強化したところでジオンの一年戦争が終わるまでに8000機作られたというザクには敵わない。
だからこそ改修を急いでいるのだが。
それでも、ブースター計画もボール改修計画も結局はザク対策だ。
サイド3及びクラナダ防衛を引いてサイド1と2に半々としても2000以上来る可能性がある。
サイド1のトリアーエズの総数ですら今のところ1000前後でしかない。
他の計画を前倒しするためにも、ジャブローを通じて量産計画に落とし込む必要がある。
相手の数と核バズーカの脅威を思えばセイバーブースターを1000機以上ボール改は3000機ほしい。
申し訳ない話ではあるが、クラナダ基地まで防衛する余力はない。
ジオンから丸見えであるから、兵器の更新や艦隊の増派などをすればジオンの強化につながりかねないからだ。
それに上層部の何人かも抱き込まれているとなれば、あそこが半日で陥落したのもうなづける話ではある。
中策として脱出案というものもある。
サイド1の住民を暫く別のコロニーなりフォンブラウン市に移住していてもらうという手だ。
これもクラナダに対して行うのは厳しい、サイド3から監視が十分可能であるからだ。
まあサイド1住民8億人もどこが引き受けるのかという話ではあるが。
つまり、今一番マシな案はサイド1とサイド2で被害を食い止めながら時間を稼ぎ、連邦宇宙軍と合流し撃滅だ。
そのための手回しがどれくらいできるかが、ある意味俺の腕の見せ所っていう事だろう。
「次の予定は……」
まあ、考えてばかりいても仕方ないので、少しでも手を打つ事にする。
各サイドの情報部遠距離監視チームに、アステロイドの監視以外に追加でサイド3の監視も頼んだ。
電波望遠鏡なので、ミノフスキー粒子を散布されると監視出来ないが、常に散布しっぱなし何てことはないはずだ。
これが上手くいけば、例え戦争が前倒しされても攻めてくる日程は正確に予測できるだろう。
出立前日の事、俺は集めたマスコミおおよそ1000人に対して話かけていた。
基本的に、中立のメディアを中心に集めている。
まあ正確には中立メディアなんて存在しないが、左翼や右翼に走りすぎている奴らでは意味が薄い。
極論をあまり使わないメディアを300社ほどサイド1、2それに各サイドから来てもらった。
「君たちには事前に通達してあると思うが、2か月かけて地球を回るツアーを体験してほしい」
「それは、我々に地球の実情を見ろという事ですか?」
サクラと言う訳ではないが仕込みではあった、付き合いのあるメディアだったので、この質問を頼んでいた。
他に大量に手を上げるより前だったため、早速こたえられる。
「その通りだ、良い所も、悪い所も見たまま記事に書いてほしい」
「それは……」
「まあ、楽しんできてくれ」
そんな感じで話した後、一局1問で問いに答えてから、一度解散とした。
今回もかなり金がかかっているが、これは必要な事だ。
アースノイドとスペースノイドの対立の構図は戦後に成立したものだ。
ただ、アースノイド側はコロニー落としの恨みが中心であるため、対処を誤らなければ対立を薄められる。
対しスペースノイドは、過去の棄民制作の犠牲になったという長年の澱みがある。
だが、地上には棄民されたはずの自分たちより酷い生活をしている者が多い。
その事実を地上に行った事のないスペースノイドは知らない。
それが余計に軋轢になっているのは間違いないだろう。
確かに地球連邦は地球を優先している。
しかし、よくよく考えてみれば最新技術は常に宇宙で必要としている。
一週間戦争の間の事はよくわからないが、その後の事はわかる。
コロニー公社は連邦の公社でありながら、ジオン公国からも攻撃されなかった。
これはつまり、コロニーを攻撃するよりもジオンの統治に影響があるという事だ。
コロニー公社がコロニー管理費を取っている事やコロニー独自税として空気税があるのは事実だ。
だが、それは人工の大地を維持するためには必要な措置だし、利権が絡み高額になるのは地元の問題だ。
連邦の圧政そのものとそれらは=ではないと言える。
連邦の内情にコロニー側が関与出来ない点や、地上の議員に管理されている事に不満があるのはわかる。
これを変える手段が投票権のない宇宙市民にはない事が最大の問題なのだろう。
どうしても、地球より高い税に差別を感じるのは仕方ない事ではある。
だが上記の様に、例え連邦を排除してもコロニーの管理費用も空気税も無くならない事だけは確かだ。
その時、コロニーの人類は納得できるのか?
出来なければコロニー戦国時代が来る事になるだろう……。
フランス革命の例を見ても、革命は結局国民の利益になる事は少ない。
派手な被害ばかり出て、収支がマイナスになる上に、大抵は前政権の埋蔵金を当てにしているから金がない。
結果的に以前より酷い税制になるなんてのはお定まりの事だ。
ジオンがしている事はまさにそれで、戦後間違いなく大増税が必要になる。
それを地球側に擦り付ける事でコロニー側の不満を抑えるつもりかもしれないが。
最終目標である人類を全て宇宙にを達成した場合、結局税金が増加する事になる。
正直個人的には全ての人類を宇宙にやるのは反対だ、一つの環境に皆いれば戦争がなくなる?そんなはずはない。
それよりも、多様な環境に人類を置き、それぞれ違う文化を築いた方が一度の災害で全滅するリスクが減る。
ガンダム世界においては人類が1万年周期で宇宙戦争を繰り返す。
このリスクを減らすためには、地球圏外縁部、可能なら別星系まで人類を移民させるべきだろう。
そうやってリスクを分散させることで文化を残していきたいものだ。
地球へ向けての出立の日。
今回は、マゼラン1サラミス3、コロンブス2に民間の大型客船をつけて向かう事になった。
俺の乗っているのは当然マゼランである。
ラル中佐は自前のコロンブスで参加している、MSは持ち出せなかった以上乗るのは連邦機となる。
コロンブスは武装こそないがかなりの大型で50機くらいは十分に乗る仕様だ。
うちセイバーフィッシュ10、トリアーエズ20、試作ボール改修型10といったところ。
もっとも予備パーツとして試作品のブースターを5機ほどつけている。
これをセイバーフィッシュに増設する事でセイバーブースターとして使える。
因みにもう一隻のコロンブスも同様にしている。
つまり試作品のブースターの数は10機小規模なMS戦ならこれでなんとかなるはずだ。
これは万一のために用意したものだ、最悪俺やラル中佐は暗殺対象になっている可能性がある。
何せ、サイド1の議会で防衛費増大と資源コロニーの移動が成立したからだ。
これにより、サイド1内においての新機体の開発計画のいくつかにGOを出せる事となっている。
こういう情報はいくら軍事機密にしたところで、議員が関わっている以上漏れる。
何せ、サイド1の議会は500人以上の議員がいる。
当然ハニートラップに引っかかった人間は多い。
中にはジオン公国に賛同するような議員すらいる。
一週間戦争において、サイド1,2,4,5は壊滅したが、全てのコロニーが破壊されたわけではない。
幾つかのコロニーは拠点とするために残されたり、中枢のみ破壊されたがコロニーとしては残ったものもある。
シャングリラ等がその典型だろう。
それが作戦の穴なのか、やさしさなのか、核バズーカの弾数の問題なのかはわからないが。
案外、ジオンに恭順した勢力だけは助けたのかもしれない。
「どうだ、この艦の調子は?」
「はい、手動でやる部分が増えているのは少し面倒ですが、例の対策上仕方ないのでしょう。
しかし、パワーが跳ね上がっているのは素晴らしい!」
艦長に就任したのはバスクだ。
今までの仕事のうち、スパイ対策や護衛の仕事は別の人間に任せる事にした。
バスクは艦長として有能であるし、まだ残虐性はさほど見当たらないため問題ないと踏んでいる。
いずれは対大型艦や対要塞戦等もやる可能性があるので、今のうちから慣れておくべきだろう。
「照準は通常とは別に、熱源と赤外線と可視光線による誘導が可能になっている。
ミサイルも電波が遮断された段階で切り替えが可能にしておいた。
どれが一番有効か、あるいは複合すべきかはまだ試作段階なのではっきりしないがな」
「それなら、海賊等を討伐するのはいかがですかな?」
「そうだな……状況によっては帰り道でならやってもいい」
「楽しみですな」
バスクは口元をニヤリと歪めながら言う。
髪はふさふさだし、例のゴーグルはしていないものの、やはり悪人面ではあるな。
だが、海賊か……確かにちょうどいいかもしれないな。
ジオンが非公式な軍事行動としてやっている可能性もあるだろうからな。
いや、バスクはおそらく掴んでいて言っているだろう。
だが、MSを使ってくるかは疑問符がつく。
何せMSは今バレる訳にはいかない、使うならこちらを確定で全滅させる必要がある。
持っている可能性はあっても、出してくる可能性は低いな。
だが……もう一つ可能性がある場があった。
「後一番困るのが、地球降下時だな。こちらは何もできなくなる。
指揮はバスク、お前に任せる。ラル中佐にもその場では従うように言ってある。
まあ、ルナ2からサイド7に行く予定だから、あくまでその間だけはだが」
「なるほど……了解しました」
そんなこんなで、何事もなく地球圏までやってきていた。
俺や、護衛をしているバスクの部下、そしてサンプルとしてのブースターを積んだ大型シャトルが降下を始める。
また、1000人を乗せた大型旅客船も大気圏に突入を開始していた。
その時……遠方からのビーム射撃が向かってきていた。
幸いにしてこちらには来なかったが、サラミス一隻が中破レベルの被害を受けたようだ。
「バスク中佐、頼んだぞ!」
『お任せを! 各員戦闘は……ザザッ……せん……システム……ザザッ』
「通信、不通になりました!」
「そうか……」
ミノフスキー粒子の散布が行われたか。
なら間違いなくこれはジオンの仕業という事になる。
バスクとラルが上手くやってくれると信じるしかないな。
視界には光が瞬いている程度にしかわからない。
こちらは、耐熱板が過熱して赤く光っているため、見辛くなっている。
ルナ2への応援要請は間に合ったろうか?
だんだんと、遠のいていく戦闘をぼんやり眺めるしかできない。
もっとも、パイロット訓練もしていない俺では、参加した所で火球が増えるだけの事だろうが……。
やるべき事は多いとはいえ、事務屋でしかない俺は、戦闘では役立たずでしか無い事を痛感する。
だからせめて、被害は少なく済んでほしいと心の中で祈った。
あとがき
移動そのものはサクっと終わらせました。
いやま、イベントをいくつか挟もうかとも思ったんですが、先が長いので(汗)
今回ようやく地球降下という事に相成りました。
実際ジャブローでないと進まない事も多いので。
今後は、サイド2との連携なんかも考えないといけないですし、本格的な戦争前に小競り合いも何度か起こると思います。
ギレンがいくつも手を打ってくるでしょうからね……(汗)
正に君は生き残る事が出来るか?といった感じになると思います。
量もさることながら質も低い現状では、まだまだ勝ち目が薄いですからね。
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