機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜






第九話



ジャブロー到着から二週間、必死こいて根回しに走り回る事になった。

ゴップ派も、ゴップ大将本人だけに胡麻をするわけにもいかないので、他の重鎮にもあっておいた。

そして、レビル派、コリニー派、ワイアット派のそれぞれにゴマすりを行っておいた。

とはいっても、レビル中将本人やナンバー2を争うティアンム少将とコーウェン少将らは袖の下の類は使えない。

レビル派はリベラルな軍人が多いのだ。


もっとも例外もいる、エルラン少将だ。

彼はジオンの内部事情を集める情報部の重鎮だ。

原作で、ジュダックを通じてマ・クベと繋がりオデッサ作戦の情報を流し、ジオンに寝返る予定だった男。

逃げる事に関しては、彼が特別悪いとは俺は思わない、勝ち目があるとは思えなかったからだろう。

もっとも、守るべき民衆を売り払って逃げるのだから、下衆である事は間違い無いが。


だが、今回の根回しで彼を使うのはリスクが大きい。

どのみちジャブローで話すことはジオンには筒抜けだと思った方がいいのだが、それだけでもない。

というか、連邦の情報部とジオンの情報部の性能差って、ギレンのIQ240のせいもあるだろうけども。

もしかして彼のせいもあったのかもしれん。

そう考えると、彼はもうスパイ活動している可能性が出てくる。


考えをまとめよう、エルランは戦争に負けそうだから裏切ったんだと思っていた。

しかし、それにしてはタイミングがおかしい。

そう、一週間戦争でレビルが捕まったのが1月前半、レビルの帰還は4月前半である。

その間に、宇宙の大部分はジオンのものとなった。

ルナ2とその後ろにあるサイド7以外は壊滅したか中立表明したかの違いはあっても敗北したのは事実だ。

このタイミングが一番勝ち目がない時期だ、この時点で逃げなかった理由はなんだ?


まあ確かにこの時はマ・クベも地上にいないので単純に裏切っていないだけなのかもしれない。

ただ、マ・クベではなくキシリアとのつながりが指摘される事があるのも事実だ。

とはいえ、寝返るには手土産が無いという点もあるだろう、おかしくはない。


では、レビルが帰ってきてからオデッサ作戦に至るまでの間はどうか?

マ・クベが指令となったのは、第一次降下作戦の後の事だろう。

遅くとも5月にはマ・クベがオデッサの司令官になっているはずである。

その間、情報を抜く機会は何度でもあったはずだし、それを手土産に亡命も可能だったろう。


10月のオデッサ作戦まで裏切らなかったのはアニメ的には放映時に裏切らないと面白味がないというだけだ。

だが現実として存在する今なら話は変わる。

それらの整合性を取るなら、彼がオデッサ作戦で亡命しようとしたのは、既にスパイがバレそうになっていたから。

情報漏洩をして利益を得ていたなんてのは流石に軍としては許されざる罪だ銃殺刑は確定だろう。

ただ、そうなると昨日今日裏切ったわけではないという事になる。

少なくとも5月時点では裏切っていたんだろう。


しかし、逆にいつ裏切ったかを特定するとなると一番可能性が高いのは戦前からとなる。

何故なら、地上に降りてきたマ・クベとジュダックが接触するリスクを考えればわかる。

普通に接触する前に殺し合いになるのが落ちだ。

同様に通信にしても戦争中なんだから、まともに取り合ってもらうのは難しい。

そう、戦前からつながりがなければ容易に接触なんかできないのだ。


そして、そう考えるならエルランが何をしてきたのかもわかるというもの。

ザクの件、ミノフスキー粒子の件、隕石コロニー要塞化の件、核バズーカの件等重要過ぎる情報が来ていない。

これらの情報は連邦の情報部が雑魚だろうと送り込まれる数だってバックアップ含め相当数のはず。

情報部という大本以外にも、各派閥や関係各所が情報機関を抱えているので何十もの情報組織が動いていたはず。

何せ情報が出てこないのだ、追加で工作員を送り込むのは当然と言えるだろう。


そうなると、これらの情報一切を持ち帰らないという事は考えにくい。

ザクは欺瞞情報に引っかかったにしても、ザクは開発から5年あったにも関わらずまともな情報がない。

因みにMS開発は0073年、ザクが開発されたのは0074年2月である。

ミノフスキー博士はこの時既に亡命している。


ザクの情報をいくら隠蔽したにしろ戦争開始までの5年間の間ずっと隠しおおせるというのはおかしすぎる。

ア・バオア・クーやソロモン等の要塞もやっつけで作れるものじゃない。

それどころか、大きさを考えれば隠蔽も出来ない、近づいて来る段階でバレバレだろう。

情報を得られなかったと考えるより、途中で握りつぶしていたと考えた方が自然だろう。

そして、それをするのに丁度いい立場の人間がエルランだと仮定すれば辻褄は合う。


もちろん、この仮定が合っている保証はないが、警戒をしておいて損はないだろう。


また、ゴップ大将もジオン内部にパイプを持っているのは間違いない。

しかし、既にあらかた話してあるが、彼は致命的な情報は漏らさないという安心感はある。

何故なら彼は連邦という組織に寄生しているという自覚があるからだ。

彼の持ついろいろな利権は地球連邦あってこそのものであると理解している。

例え艦隊を作れるような大金を積まれても、連邦が崩壊するような情報は出さないだろう。


この点が、そこらの政治屋や軍政屋と違うところだ。

連邦が細れば自分の利益も減る、連邦が倒れれば亡命したとしても利権はほぼ消滅する。

それを理解し、それを防ぐ行動をとってくれるだろう事が彼の安心感である。

まあ、逆に言えば連邦そのものに影響のない範囲なら、情報漏洩等がありうるのは否定できない。


「結局ジャブローが魔窟だってだけだろうが……」


本当に頭の痛い話である。

だが、とりあえず議題を出す準備は整った。

後は、ゴップ大将の紹介を受けたパイロット等の面接だな。



面接会場は、丁度オーストラリアからブースターとボール改の試作機が届いた関係で、格納庫でする事になった。

まあ、第二十三格納庫らしいんだが、その規模は地下空洞の規模もあってバカでかい空間だ。

その隅っこのほうで、置かれているセイバーブースターとボール改をシミュレーター登録する作業が行われている。

その近くで、パイロット候補として選抜されてきたらしい30人ほどの若者達がいる。


「セイバーブースターはセイバーフィッシュの2倍近い最高速度とビームによる大火力が売りか」

「ボール改は宇宙空間専用みたいだが、スピードは思ったよりも出るようだな」

「しかし、回避が全てサブスラスター任せというのは……」

「パイロットの腕をあまり必要としないが、トリアーエズよりはマシレベルだな」

「しかし、セイバーブースターはセイバーフィッシュよりも操作性のシビアさがな」

「結局どっちも安定した強化と言えるのかは微妙だな」


散々な言われようだが否定もできない。

とはいえ、時間もないのによくやったと言えるレベルではあるんだが。

セイバーブースターを扱いやすくするためには、教育型コンピュータが必須。

そちらも今手配しているものの、今のところはまだ完成してないからな。



「諸君、よく集まってくれた」

「少将閣下に敬礼!」


今まで食っちゃべっていた30人が一様に黙り、6列5人の編成できっちり並んでみせた。

戦闘で俺を見つめているのは、尉官階級か。


「諸君らはジオンに対しての防衛戦を行うため、宇宙に上がってもらう予定だ。

 急な事であるし、色々問題もあるだろう、だが本日のシミュレーターを使ってみた結果次第でもある。

 無論、来てもらう事になれば準備金と、一階級の特進を約束する」


シミュレーター訓練を開始してもらうため、6つのシミュレーターを同時に起動する。

敵はラル中佐やその部下たち、ノフスキー博士がいた頃に開発中だった事からその話を総合して作ったもの。

何度かシミュレーターでデータを提供してもらい、ラル中佐から太鼓判をもらった。

ほぼ旧ザクとしては完成された動きができるだろう。

最初なのでイージーモードをやってもらう事にした。

イージーは正面からザクと1対1でやりあうもの、ノーマルはミノ粉展開中、ハードはラルのデータを使ってやれる。


ん? 真ん中にいる彼ってもしかして……パオロ・カシアス中佐?

動こうとしないのはパイロットではないからだろう。

戦艦の艦長がなぜ……いや、ゴップ大将から根回しがあったんだろう。

帰りに連れて行っていいという事かな?


X作戦の前段であるRX計画に予算をつける代わりに俺に融通しろという話でもあったのだろう。

原作においては78年3月から動き出す予定だが、予算がつけば早く動く事が出来る。

レビル中将は既にそちらの方に舵を切っているようだが、RX計画にも少し口を出せればありがたいな。

現状のままだと、RX計画がまともに成果を出せるのは一年戦争開始後となり、V作戦まで使い物にならない。


最初に設計するRTX−44は巨大戦車を作るもので、鉄塊と言われるほど使い物にならない。

いやそれ以前に、宇宙で運用できないという致命的欠点がある。

ジオンと宇宙戦争しようっていうのに何を考えていたんだか……。


続けて計画されたRX−76はスペースポッドSP−W03をベースとした計画だ。

最終的には量産性を高めたボールとなる予定だ。

こちらがやっているボール改修計画はまだボールという兵器が無いため少しおかしなことになっている。


しかし、この設計自体ボールより先に設計したことで強力な兵器とする事ができる。

前面を装甲で覆い、有視界戦闘をやめカメラをつけた事でザクマシンガン一斉射程度なら沈まなくなった。

スピードはバーニアの数で上回るため、こちらの方が上だし、主砲は同じだが、選択肢が他にもある。


そう、原作においてバランスを取る以外の用途が全くなかったボールの腕。

そこに腕の代わりに100mmマシンガンを取り付けている。

もともとヤシマ重工が開発中(陸ガンにとりつけられた)のものなので楽だった。


なぜこんな事が可能かと言えば、単純に時間と人的資源の問題だ。

一年戦争によって連邦は人員を半分以上焼き払われているため、時間も金もカツカツだという事だ。

今はまだ戦前であるので時間もあるし、金にしても量産スピードを1か月で数千とか言わなくて済む。

その分の割り増しがないだけ安いのと、調整に時間を使えるという点も大きい。


ただ、セイバーフィッシュと同等の速度で動けるわけでもないため、トリアーエズよりはマシ程度である。

装甲の分、一般パイロットならセイバーフィッシュより使い勝手はいいかもしれない。



「パイロット達はどうですかな?」


パオロ中佐が俺の近くに来てシミュレーターの内容を聞いて来る。

ザクに倒されるパイロットが多い中、動きのいいパイロットを見つけた。

そして、俺は驚くと同時に納得もした。


「まだ半分しか終わっていませんが。

 ユウ・カジマとエミリー・バウアー・マイスターは相当な腕ですね。

 セイバーフィッシュでザクを簡単に捻ってしまった」

「確かに、彼らはトップエースとなる素質があるようだ」


ユウ・カジマはオールドタイプではあるが、覚醒前アムロなら倒せるほどの腕前だ、当然とも言える。

エミリー・バウアー・マイスターは漫画版THE BLUE DESTINYでユウの同僚をしていたパイロット。

ドムを撃墜しているので彼女も相当の腕だ。


よく見ればマスター・P・レイヤーやレオン・リーフェイもいる。

マクシミリアン・バーガーはまだ軍楽隊だろうからいないんだろう。

オーストラリアからの派遣かな、機体の護衛をしてくれてそのままといったところか。

マスターはそれでいいがレオンは情報部だ、俺に対する監視だろうか?

ありえなくはないな……。


そして、最後の目玉というか、正直よくわからないというか。

結果を見てみなければ何ともわからないが、一年戦争のカルト的な存在。

撃墜数一位のテネス・A・ユングがいる……。

アムロを超える戦績というのがあり得るのかは論議によくなっていた。


俺の意見としては、ありえないとも言えない、だ。

理由はアムロが撃墜数を稼ぎ始めたのは9月半ば、対してテネスは1月からだ。

2か月半とまるまる1年、例えテネスが少々撃墜数で上回ろうが、その期間で割ると4.8倍となる。

流石にセイバーフィッシュによる撃墜数はMSに乗ってからと比べれば少ないペースではあるだろうが。

むしろアムロがほぼ5分の1の期間で同数近く稼ぎ2位という事のほうが化け物といっていいだろう。


「腕のいいパイロットを多く選出してくれたのはありがたい」

「報酬はそちらの上司からもっらっているそうです」

「このテスト機の方も進呈しますよ」

「こちらの上司も喜ぶでしょう、いえ、これからは少将閣下が上司でしたな」


これはけん制かな? 

俺を指揮官として認めてはいないという意味?

まーどちらでも構わない、人員さえそろっているなら。

パオロ中佐もいざという時に指揮系統を混乱させるような事はしないだろう。


「ならば今回の議題はしっかり通さないといけない。

 ジオンの暴走を防ぐためにも、いざ戦争になった時に対処するためにも」

「……近いのですか?」

「ああ、遅くとも1年以内に暴発するのではないかと見ている」

「……」


まあ、今すぐ納得してもらおうとは思ってない。

どちらにしろ、現地でなければ分からない危機感もあるだろう。

向こうについてからもたっぷり時間はあるのだ。


といっても、ぎりぎりだろうけどな……。











あとがき



今回も考察でほとんど潰れてしまいました。

大変申し訳ない……。

ただ、しっかり考察していかないと、ややこしい部分も出てきそうなので。

エルランに関しては実際、ジオンとの付き合いはかなり前から出ないとおかしいと思います。

戦争中にスパイを引き受けるとか、一度捕まったりしてない限りそうありませんしね。


しかし、調べれば調べるほどジオンの情報秘匿や情報操作が頭おかしいレベルだとわかります。

なんでそうなるの? って聞きたい……。

連邦だって何もしてないわけじゃないのに……。



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