「なんなのだ、この戦いは……」


連邦の動きの鈍さはよく知っているはずだった。

実際、戦争が開始されるほんの半月前まではキシリアが連邦の情報操作をうまく行っていた。

だからこそ、連邦に与するのではなくジオンに入り込む事で目的を果たそうと考えたのだから。


「中尉! シャア中尉!」

「どうかしたのか? ドレン小尉」

「は、MS隊に出撃要請が出ています」


思索を一度辞めて周囲を見る、どうやらドズルは反撃を考えているらしい。

最も、MSの方にも2割程度の被害は出ている、正直核攻撃での反撃は思ったほど被害を出せなかった。

正直に言えばありえない、連邦はそんなに柔軟な組織ではない。

もしそうであれば、ザビ家によるサイド3掌握は失敗していただろう。


「そうか、ならばアポリー、ロベルト出撃するぞ」

「やりますか」

「奴らに一撃食らわせてやらねば!」


適度に肩の力が抜けているアポリーに対しロベルトは気負っているようだ。

彼らは今回の作戦で私につけられた部下、両名共にかなり優秀なMS乗りだ。

ドズルは随分私の事を買ってくれている様だな。


しかし、軍の戦況はあまり良いものとは言えなかった。

奇襲のはずが、攻撃タイミングが漏れていたとしか思えない適格な反撃。

ミノフスキー粒子による電波妨害を逆用されての超遠距離からの隕石攻撃等誰が想像するものか。

おかげで艦隊の半数近い被害が出ている。

当然用意していた宇宙要塞の方はほとんど使い物にならなくされていた。


ここまでの事でわかるのは、ジオンは負けるという事だ。

連邦とジオンを比較して見た時、連邦の国力は30倍、人口は60倍にもなる。

ジオンは確かに月の裏側にあるという点を最大限利用し、連邦に気づかれない状態でアステロイド採掘を進めてきた。

その結果として、1億5千万人程度としてはあり得ないほど充実した戦力を持っている。

それでも、人口比から考えて普通では勝ち目がない。


その差を覆すために考えられたのが、核武装のMSによる奇襲攻撃。

コロニーに対して核を打ち込む事で、敵側の国民そのものを削ってしまおうという悪魔の様な作戦だ。

更には、残ったコロニーを弾頭に改造し、地球に落とすという事まで考えている。

勝つために完全になりふり構わないやり方を取るつもりでいるようだ。


「敵艦隊への核による奇襲作戦か」

『我々はそのために正面に出ての囮ですね』

『核攻撃部隊に参加するよりマシだと思いますよ』

「今は考えるな、生き残る事が第一だろう?」

『最もです』

『すいません』


実際私は赤の他人の命をどれだけ犠牲にしても、ザビ家を皆殺しにすると誓った。

父を死に追いやった者たち、そして宇宙市民を虐げる者たちを許すつもりもない。

だが、このままでは復讐を行う前にこの艦隊と共に宇宙の藻屑になりかねない。

最悪の場合、軍からの逃亡も考えなくてはいけなくなってきている。


何故なら本来、各サイドの攻略は一日程度を目算としているからだ。

サイド1と2の攻略を合わせてである、4の攻略は分隊に任せ本隊はコロニー落としを実行する事になる。

ジャブローにコロニーを落とす事で連邦軍上層部を壊滅させ、迷走する軍をたたきつ潰す。

そうしてジオンが世界の覇権を握る所までがザビ家の計画だ。


今の世界には地球連邦以外の国が無い、そうである以上中途半端をしたら逆襲で壊滅する事になるのは自分達だ。

それが嫌なら結局、地球連邦以上の国家になるしかない。

そうである以上、ザビ家の戦略は正しい。

選民思想を植え付けたのも、怖気づく人間を極力減らすためだろう。


だがそれも、一度の攻撃で連続して連邦軍を壊滅させ反撃能力を低下させてこそ。

既に今回、ジオンの主力艦隊の3割が戦闘不能になった。

要塞は壊滅、そして頼みの綱のMS部隊とてマグロにいい様にやられている。

例えこの戦いで勝利を収めても、連邦の被害はごく一部なのに対しジオンの主力は半減している。

現時点で既にジオンは詰みつつある。


『奇襲部隊、ポイントに一番近い隕石の破片まで到達しつつあるようです』

「そうか、後は攻撃タイミングを合わせるだけだな」

『待ってください! 前方! 大型の戦闘機。マグロ共よりでかい!』

「っ! 連邦のエースか!!」


マグロと我々が読んでいるセイバーフィッシュの後ろにブースターを取り付けた機体。

あれはビーム兵器を持っており、それだけでもザクよりも戦力的に上だ。

しかし、さらなる大型。腕を生やしているこれはもう戦闘機と言うよりMAだ。

連邦はいつの間にこんな機体を……。

完全に情報統制をしてきているという事、つまりジオンが情報戦でも負けている事を指す。


「ッ! 全力後退しろッ!」

『ッ!』

『八ッ!』


戦場の感というべきものに従い散開しつつ逃げ出す。

その後をマグロより太くなったビームが抜けていく、どうにか間に合ったと思った次の瞬間。

後続であるミサイルが爆発した。

このミサイルの爆発によって、周辺のザクはバーニアがいかれてしまったらしい。


『バーニアがいかれた?』

「曳航し、撤退する。明らかに敵の方が準備が上だ。

 それにここは、背部のバーニアを破壊する何かを持っている」

 
バーニア完全に停止しているロベルト機を曳航しつつ戦場から下がる事に成功した。

ムサイまでたどり着き、点検整備及び修理の合間休憩することにする。


「何という兵器なのか知らんが。アレは……」

『あのミサイルの影響範囲にいたものは、皆バーニアが停止し、例の大型に蹂躙されていました』

『恐らく、あのMAは影響を受けないんだろう。アレはまずいな』

「新型の性能で上回ってくる上に、特殊な連携も存在する。現状手の出しようが無いではないか」


私は頭を抱える羽目になった。

明らかに連邦が有利に立っている。

そして、今連邦に対して不利であるという事はつまり、ジオンでは勝てないという事だ。

後続が今の10倍はいる、質的にサイド1防衛部隊が一番だとしても後続は戦闘データを引き継ぐ。

そしてこちらの戦力は今あるのが出撃させられる戦力の大半である。

防衛部隊まですべて引っこ抜けば今の部隊に近しい数を揃えられるだろうが……。


絶対数の違いもさることながら、パイロットの数。兵器の開発スピードもまるで違う。

例えどうにか10倍の敵を退けてもすぐさま回復して攻めて来るだろうな。

つまり、現時点においてジオンは詰んでいるという事だ。

もっとザビ家に近づいてからと思っていたが、



機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜





第二十三話 進軍



艦隊が半壊状態に陥っている現在、立て直しが急務である。

幸いにしてセイバーブースターが間に合ったため、ザクとの戦いは任せる事が出来ている。

それに無事な艦艇は支援射撃等を行い確実に敵部隊を減らしていた。

核ミサイルさえ無ければ、MSと言えどもキルレシオはザク2対セイバーブースター1だ。

何故なら、こちらの攻撃はメガ粒子砲であり発射から着弾までは音速の千倍以上。

光速を出せるレーザーと同じ訳にはいかないが、それでも実態弾と比べれば百倍速い。

小回りという意味ではザクの方がAMBACに優れる分有利だがこちらは近づかなくても当てられるのだ。

2対1と言うのは乱戦想定であり、距離を開けた撃ちあいならその差はもっと開く。

更には編成しなおしたボール改も砲撃を開始している。

殲滅までそれほど時間はかからないだろう。


「何とかなりそうだな」

「艦隊の再編も終了しつつあります。次はどうしますか?」


バスクが聞いてきたのは、次の作戦だ。

いくつかの方法を考えていたのは間違いない、ただしここまで打撃を食らうのは想定外だ。

ただ、核バズーカを撃って来た奇襲隊は相応に精鋭だったようだが、指揮官としては凡庸だった様で助かった。

一発逆転狙いである以上、何としても旗艦を潰しておきたかったのだろうが。

そのおかげで、現状300機を壊滅させる事が可能になっている。

核攻撃のヒット・アンド・ウェイなんぞ悪夢でしかないしな。


「少し待ってくれ」


俺は、隕石の反応を望遠レンズを使って拡大したものを光学観測で確認する。

スクリーンに映るそれは、チェックポイントの状況だ、これを見る限りまだ半数以上が使える。

これを使わない手はないだろう。


「今スクリーンに表示したものは、隕石を誘導する際に使った核パルスエンジンだ。

 まだ、使用可能なものが半数ほどある」

「つまり、スイッチを入れて再点火すると?」

「目標に関してはエンジンが記録している。再点火時は補助ブースターと連携し敵艦隊に向かう様になっている」

「再点火の方法は?」

「光信号を採用している。ミノフスキー粒子下では電波が使えないからな」

「では、全艦隊鶴翼の陣形を取りつつ前進せよ」


バスクは何が言いたいのか理解したようだ。

つまり、艦隊から光信号を出しながら進軍する事でいきなり動き出す隕石の破片に混乱する敵を狙い撃てるという事だ。

実際、最初ほどの混乱は起こせないだろうが、向こう側もかなりの損耗が出ているはずなので小細工は有効だろう。

こちらもギリギリの作戦になるがコロニーに攻撃されるよりはマシか。

ビームシールドの防御回数も実際の所よくわかっていないしな。


「敵MS群撤退を開始。残り50前後」

「相変わらず敢闘精神旺盛な事だ……。普通形勢不利になったら逃げるだろうに」

「撤退戦の訓練等やった事も無いでしょうな。

 彼らが戦ってきたのは反動勢力や情報を受けた上での奇襲が主体。

 ミノフスキー粒子とMSという相手を強制的に旧時代の戦争レベルまで叩き落す兵器が彼らの切り札。

 我らがそのまま対応していれば確かにそんな心配すらいらなかったでしょう」

「確かに、我々は誘導兵器に頼り切っていたからね」


ロボットを活躍させるための設定として作り出されたミノフスキー粒子というトンデモ粒子。

これは、ミサイル主体の戦争を完全否定するための物である。

後々ミサイルは出て来るものの、数撃てば当たる的な低誘導な代物ばかりになっている。

ズサなんてもしイージス艦並の誘導能力があれば一機で敵部隊を壊滅させられる性能になるだろう。

その代わり、ミサイルの値段はバカ高くなるんだが。


それはさて置き、そうしたミサイルに頼り切りな敵に対してはザクは非常に強力な手段となる。

だから俺は可能な限り改革を推し進めてきた。

たかだか3ヶ月弱でしかないが、それなりの成果を得られたと思う。

原作ではわずかな期間でガンダムを開発し、ジムや派生機を大量に作り出している連邦だ、おかしな事ではない。


「閣下が奇行を始めたという話を聞いていましたが、私にはいい上司ですよ。

 昇進させてくれましたし、艦長にもなれた。

 次は提督になりたいですが、流石にそこまでの力は閣下にはないでしょう」

「まあそうだな。私が出世したら君もエスカレーター式で出世できるだろうがね」

「それは頑張らねばなりませんな」


彼は綺麗なバスクというほど白くはないが、それでも外道に落ちてもいないため有難い存在だ。

この世界ではガンダムが生まれるかはわからないが、MSは既にある以上艦隊戦の様式は変化する。

だからこそ、今のうちにMSを兵器の一種にまで貶めてしまうほうが後々楽ができる。


人型兵器にはロマンがある、だが、オカルトもついてくる事になる。

ニュータイプはその最たるものだ、サイコミュ、バイオセンサー、サイコフレームとだんだんと酷い事が出来る様になってくる。

リアルロボットとは何だったのかと言いたくなる有様だ。

それが必要とされる事態をなくすことこそが今の急務であると俺は考える。

この世界の極端な考え方こそが敵だ。


「さあ、システムは送ったバスク艦長頼む」

「は、可視光レーザー照射!」

「可視光レーザー照射!」


ようはあれだ、普通に光を送るだけではなく、モールス信号的な点滅で暗号を送るのだ。

それにより、止まっていた核パルスエンジンが再稼働する。

いわゆるスリープ兵器というやつだ。


「軌道計算はどうなっている?」

「問題ない。玉突きでこちら側サイド1方面に向かわない様に加速している」

「玉突き連鎖20連まで計算済みです」

「よし、そのまま継続だ」


玉突き連鎖、当然今までぶつかっていたものが急に加速するんだから起こりうる。

それが少なくともサイド1方面に向かわないというのは大きい。

ついでに一応月に落下しない様にとも付け加えておく。

あくまでついでだが。


「損害規模はどうなっている?」

「敵艦隊の大型空母を含む150隻程度を巻き込む事に成功。敵MSも100機前後は巻き込んでいます」

「上手くいったようだな」


この作戦は規模は大きいものの最初にぶつけた時と違い皆警戒している以上、それほどの損害を出せないだろうと思われた。

実際、全体の1割強を削るのがやっとのようだが、再稼働する事実を突きつけた以上今後も警戒し続けねばならない。

気が休まらなくなるので、疲労等の回復は難しいだろう。

対してこちらに向かってくるための障害物はほぼ取り除かれたので、先ほどの様な奇襲はもうできない。

2つの意味でこの作戦の意義は大きい。

 
「敵艦隊に主砲のシャワーをお見舞いしてやれ」

「了解、全艦隊オールウェポンズフリー! 主砲斉射開始!!」

「各艦へ通達! オールウェポンズフリー!」


各艦に自由裁量で敵艦隊へ攻撃せよという指示が出た。

これにより、全艦隊は個々にいろいろな手段で攻撃する。

もちろん、大部分は艦砲斉射を行っている。


そしていやがらせとしてミサイルも大量に発射されていた。

無誘導だから早々当たらないだろうが、こちらも爆発が目的というわけでもない。

これは敵艦のうち目立つグワジン型に集中して攻撃しており、チベに対しても多少はやっているが主体はグワジンだ。

ドロスがいたらそっちが中心だったが、幸い隕石の玉突き事故で潰れた様なので、ターゲットから外した。


ミサイルといっても、実際の所爆発物ではない。

もとよりグワジンやドロスの厚い装甲に対しミサイルが大きな成果を上げるとは考えていない。

中に詰められた熱せられた特殊なセメントをまき散らすだけの代物だ。

1発2発くっついでも大したことはないが、ありったけ放ったので1000発くらいは発射しただろう。


命中弾はいい所3割ほどだろうが100発も当たれば固まっていろいろな所に支障が出る。

宇宙空間なので、そんなものがくっついただけでも、進行方向が微妙にずれるのだ。

場所によってはMSの離発着や砲撃が出来なくなる。

チベやムサイには当てにくいがデカい艦なのでいい的でもあった。


「さあ、仕上げに移るぞ」


と言っても、別段変わったことをするわけじゃない。

シールド艦(ビームシールド展開用マゼラン)を先行させある程度攻撃を防いでから一斉射撃に移るだけだ。

敵要塞はもう役立たずだし、ドロスは沈んだ、グワジン級は無効化まではできていないが射撃密度は低下している。

後は重巡洋艦(240m級)のチベと仮装巡洋艦のムサイが中心。

チベはサラミスより火力があるが数はそう多くない、ムサイは正面に限ればサラミスと渡り合えるといったところ。

さらに言えばマゼランの火力は正面に限ればグワジン級を圧倒できるほどである。


今、サイド1艦隊はサラミスが減っており総合火力は低下しているが、それは相手も同じ。

主力であるグワジン級は元より5隻でしかない、嫌がらせにより火力も落ち、現状では敵主力はムサイ級250隻程。

先ほどの先制攻撃で削ってようやく数の上では五分になった。

まあ、ムサイ級は兎に角脆いので、砲撃戦ではこちらに分がある。


残るはMSだが、補給中の物も多かっただろうから、再展開中ではあるが残り700前後と言ったところか。

こちらはGフォートレスが27機、3機やられたが流石トップエースだけあって撃墜数も1対20近い戦果となっている。

セイバーブースター部隊230、ボール改部隊640程度が現状の戦力だ。

ボール改は正直戦力としては遠距離支援でしか使えない。

正面からぶつかれば艦載機戦は恐らく勝てるだろう、だが敵エースの事も考えれば壊滅に近い打撃を受ける事になる。

そうなれば、艦隊戦の被害も甚大になる事は間違いない。

何よりまだジオン側には核バズーカが残っているはずだ、一発逆転される可能性は十分にある。


まだ、決戦という訳にはいかないか。

最低でもあと一つ、こちらの思惑を通す必要があるな。

戦場で出来る手はもう多くない、苦し紛れになる可能性が高い。

従軍カメラマン等を送り出して情報を拡散させる手は既に打ったが、コロニーへの核攻撃が無いからインパクトが足りない。

ならやはり、精神的な揺さぶりを……。


「敵艦隊の動きに混乱が見られます!」

「混乱だと?」


確かに、ムサイ部隊の一部の動きがおかしい。

いきなり反転しようとしたり、明後日の方向に戦線離脱しようとしている艦も見える。

これは……。


「統制が崩れた?」


原因は不明だが、チャンスである事だけは間違いなさそうだった。











あとがき


大変申し訳ありません感想で被害が大きすぎると言われた事まさに大正解でした。

比率は兎も角、サラミスの被害数が当初の艦隊のサラミスの倍以上となってしました。

いつの間にか大艦隊による戦いのような気分で書いていたのが失策です。

大変申し訳ありませんでしたorz


数に関しては修正後、元のサラミスの数から逆算した被害に減らしてあります。

ご迷惑おかけしました。


ともあれ、艦隊戦が後半になっていまいりました。

知恵をひねってやってみましたが、盛り上がらずに終わる可能性もありますのでご容赦を。

一応やれるだけの事はやりたいと思っていますが。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.