「一体どういう事だ!?」
『どうもこうもない、起爆しろ』
ハーディ・シュタイナーは今までにない程激昂していた。
通信の相手に怒鳴り返す程にだ。
相手はギレンとキシリアの両方をうまく渡り歩くキリング中佐。
下手な応答は密告されて粛清対象になるのが分かっているはずなのにだ。
「我々の脱出のための時間もあるせめて2時間でいい時間をくれ!」
「今すぐと言ったぞ」
「なぜそうまで急ぐ?」
「ぐっ、聞かなければ国家反逆罪を適用する事になる」
「……ッ」
ハーディ・シュタイナーにとってそれは非常に厄介な言葉でもあった。
彼だけなら逃げだすという手もある。
しかし、メンバー全員に家族がいないわけではない。
そして、ジオン公国における国家反逆罪の量刑は家族にも及ぶ。
特殊部隊の性質を持つとはいえ、サイクロプス隊は12名からなる小隊である。
家族がジオン本国にいる隊員は多い。
彼らに家族を見捨てて逃げるとは言えないのが彼の辛い所だ。
半数がMS運用可能ではあったが4機の組み立て式のザクでは全員逃げる事は無理だ。
なのでランチ等を用意しているものの、それも配置が終わっていない。
現状で起爆すれば、半数以上を見捨てる事になりかねない。
「……艦隊戦で敗北したか」
『敗北はしていない! 現在も戦闘は継続中だ』
「だが、甚大な被害を受けたんだな? 計画が崩れるほどの」
『貴様……』
「可能な限り早く起爆する。しかし隊員を犠牲にはできない。
それがこちらの言える限界だ」
『軍法会議にかけるぞ!』
「何とでも言うがいい」
投げやりな言葉になるのも当然だった。
キリングの言う事が事実なら、ほぼ敗北が確定したという事なのだから。
コロニー壊滅作戦という無茶な作戦は、ジオン軍に存在する艦艇及びMSの半数以上を投入している。
そして、作戦上では敵艦隊の殲滅にかける時間は半日程度、それはクラナダからの移動時間も含めて計算されている。
今現在戦闘が継続中である事自体が作戦にとっては問題であり、戦力が削られたとなれば今後の作戦に影響を及ぼす。
だがそれでも、今すぐ起爆と言う事にはならないだろう。
だとすればアサクラの受けた命令は簡単に想像がつく。
艦隊戦の形勢不利を覆すために、シャングリラを爆破し指揮系統を混乱させるのが狙い。
いや、恐らくはここだけではない。
いくつかのコロニーで同様の仕掛けをしているはず。
敵艦隊が撤退、もしくは救助のために艦隊を分散すれば儲けものと言ったところだろう。
「だが意味はない」
そう、意味はないのだ。
ジオンの敵はサイド1だけではないのだから。
苦戦して勝利しても、他のサイドにも同様に勝てる保障はない。
しかもそうして時間をかけてしまえば、連邦軍艦艇の一部が改装して出撃してくる。
全体の改装が終わるまで2カ月以上かかるはずだが、そのうち30隻程度でも出てくれば時間を稼がれてしまう。
相手は逐次投入をせねばならないだろうが、それでもジオンは削られるだろう。
そうなれば、コロニー落としもおぼつかない。
戦争に勝つ目が殆どなくなってしまったという事だ。
しかし、ハーディは首を振って考えを止める。
「どちらにしろ、戦犯は免れんか。せめて部下たちまで被害が及ばない様にしなくては」
考えがまとまったシュタイナーは部下たちに撤収命令を下す。
核の起爆スイッチは自分が持ったままランチを出航させるべく動き出す。
機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜
第二十伍話 流されて
セイラやブレックスを含む連邦宇宙軍陸戦隊はジャック・アーシタの進言を受け宇宙港のある区画へと戻ってきた。
ジャックが言うには、ここ数年シャングリラの中にジオンの工作員が紛れ込み、シンパを増やしていたらしい。
確かに、連邦政府はいずれ地球上の人間が全員宇宙に上がる約束をした。
守らないのは連邦政府が悪いという点がある。
それにコロニーの維持費、空気税、そしてコロニー建設費の分担金等もあり税が高いのは否定できない。
ジオンがシンパを増やすのはそういった理由が根底にある。
ただ、地球に残っている人々が一様にエリートで金持ちかと言われればそうではない。
そして、地球で生活するのがいいかと言われれば場所によると言うだろう。
アフリカ等の砂漠で生活する人を見て、シベリア等の極寒の地で生活する人を見てうらやましいという人はいない。
コロニーの中ならそういう自然の猛威を受ける事はないからだ。
人が住んでいるから環境が汚染され続けるのだ人が全て宇宙に上がれば問題は解決するという人がいる。
それも実は違う、人がいるからこそ人の住みやすい環境にしなければと人が頑張って維持しているが正解だ。
何故なら、地球にとっては人類の生活しやすい時期は一瞬だからだ。
地球にとって自分の上に存在する生物の生き死に等関係が無い。
氷河期あるいは氷河時代と呼ばれる大枠の中で間氷期と氷期を繰り返しているのが現在の状況。
間氷期をだいたい10万年月続けた後はまた氷期となる。
そう、放っておいてもいずれ人が住めなくなる地なのだ。
こう言った事に関して、メタ的な事になるが原作の事を語ろう。
初代のアニメから40年以上たち、アニメのライブ感が失われた今では冷静に内容を見る人も多い。
なぜ主要な人物が宇宙に上がろうとしているのか逆に疑問な人も多いのではなかろうか?
富野監督がガンダムを作った時期は丁度自然回帰論のブームが来た頃だった。
1970年代と言えば工場廃液等による環境汚染が社会問題となっており、公害病等もまだ解決したとは言えない時期だった。
自然回帰が叫ばれ、操業停止になった工場や廃液等を綺麗にする取り組みが始まっていた。
便利な家電を手放すのは惜しいが同時にこのままでは不味いと誰もが思っていた。
その頃であれば、支持された正義であったのだ。
しかし今は違う。自然は人類が維持しなければ失われてしまうという事を知る人が多くなった。
何故なら一般的な人の言う自然というものは人類が生活しやすい環境の事だからだ。
言葉面通りなら自然は人類が住めない状況だろうが、ヘドロで覆われた惑星になろうが自然なのだ。
言葉上は環境の移り変わりに身を任せるのが自然だが、現実的には人類が生きていける環境を整える事が自然となる。
人類もまた自然の一部であるというのは極論そういう意味なのだ、そう考えなければ現在の自然論と一致しない。
この認識をきっちり持たないとその差が分からず戸惑う事になる。
連邦政府は地上の回復策等も並行して行っていた。
そういう話は外伝等で見かける、結局人類は地上で生きられるならそうしたいのだ。
コロニー生活者も地球の資源を必要としていることが初代のアニメで示されている。
経済等が逆転したというような事が後々語られているが、コロニーと地球の復興にリソースを費やしたのだから当然と言える。
そんな状況下で全ての人類が宇宙に上がる等というのは絵空事でしかなかったろう。
だからこそ、人類全てを宇宙にという宇宙世紀の正義そのものが疑問なのだ。
マスコミの言っていることとネットの言っている事がまるで違う様に、物事の一面でしかない。
宇宙世紀の正義なんてその程度のものだという事を理解しないと判断を誤る。
初代連邦大統領がいずれ全ての人類が宇宙に上がると言った事。
それを実行しようとしない連邦政府は悪と断じるのは楽だ。
何故なら、苦しいのは全て連邦のせいだと決めつけられるから。
またジオン・ダイクンの言った宇宙にいる人類こそ新人類であるというニュータイプ論も相まって非常にわかりやすい。
善と悪の二元論が完成する。
そうなればその後の考えは簡単で、連邦が悪い連邦になびく現政権が悪いとなる。
今やそういった善悪二元論は各コロニーのそこかしこでささやかれる様になりつつある。
ギレンが仕掛けた情報戦は非常に凶悪な代物だった。
「そうですか、連邦政府に責任があるという考えが広まっているのですね」
「ええ、一面において正しいだけに厄介な事です」
ジャック・アーシタと話すセイラはメタ視点は別にしておおよその事を理解した。
ビスト財団の件もそうした背景があった上でなら恐ろしさがよくわかる。
地球の人間が全て宇宙に上がってこないのは連邦の怠慢、確かにそういう部分はあるのだろう。
しかし苦しいのは連邦政府のせい、この戦争も連邦政府のせい、だからジオンが正義である。
と言う考えは短絡的に過ぎる。
結局彼らは自分達の不満のはけ口として連邦政府を批判する事が目的なのだろう。
だがその心理を利用し、既に複数のコロニーを機能不全に陥れている。
セイラはギレンの事を心底恐ろしいと思った。
「それで、あなた方は軍に何を求めるのですか?」
「安全を、ジオンの工作部隊が情報工作だけやっているならまだマシだったのでしょうが。
ここはサイド1の中央政庁が存在しているせいで破壊工作員まで入って来ている様です。
そしてもう一つ、これはオリバー……いえ、港地区の区長に聞いて頂きたいのです」
「そうなのですか」
安全は解らなくもないが、セイラが考えるに政庁を取り戻した方が速い気もする。
恐らくそれはメインの頼み事ではないのだろう。
となると、もう一つの頼み事の方が重要なのだろうという事はわかる。
「さて、そろそろ到着したようです。ついてきてください」
「分かっていると思うが、護衛もつく事になる」
「当然かと」
車両を出ると、ラル中佐率いるセイラ・マスの護衛達とブレックスの護衛達で小隊が取り巻く形となる。
大げさに過ぎるとセイラには思えるが、彼らが信用できるかはわからない。
初対面のジャックやまだ面識のない区長に警戒を持つのは当然だろう。
そうやって人に囲まれたまま移動し、ブレックスとセイラはビルの上層にある部屋へと通される。
そこは、全体としてはオフィスとしてたくさんの人が勤務する部屋だった。
そこで一部だけ仕切りがあり、区長の部屋と書かれている。
一般職員たちは明らかに軍人全とした人たちに驚き、道を譲った。
ジャックはその人たちを縫って区長の部屋へと向かう。
「ジャック!? おお、連れてきてくれたのか!
あっ、いや申し訳ない。
港地区の区長をさせてもらっているオリバー・オーレグという」
茶髪の少し恰幅のいい男が席を立ち腕を差し出す。
それに対し、ブレックスが手を取る。
「ブレックス・フォーラー。連邦議員をしている、よろしく」
「ブレックス議員が直々に来てくれたのか。
ありがたい、貴方は宇宙市民の事を考えてくれる議員だから助かっているよ」
「そう言ってもらえると嬉しいが、少しばかり最近は反省すべき事もあった」
「反省すべき?」
「スポンサーが少しね」
「……ああ、そういう事か。
電撃的だったから私も驚いたよ、ビスト財団がジオンと繋がっていたとはね」
「信頼していたのだが、私も見る目が無かったようだ」
「我々も似たようなものだから、あまり大きなことは言えないよ」
オリバー・オーレグと言う男は随分と人懐っこい様子だった。
中央政庁付近やベッドタウン、アーケード街等と並ぶ人の多い区画の長だから当然かもしれないが。
そして、仕事場では手狭であるという理由で、少しお高めと思しきレストランの個室に連れ込まれる事となった。
部屋の前では護衛が立ち、物々しい状況であったがオリバーは気にした様子もなく話を続ける。
「さて、早速で申し訳ないが話をさせてもらう」
「構わない」
「っと、その前にお嬢さんは何者です?」
「セイラ・マスと言います。今の所議員秘書見習いと言う所でしょうか?」
「確かに、そういうことになるね」
議員秘書と言うのは後々立候補する可能性があるから間違ってはいない。
大抵議員に同行したり議員の仕事を割り振られながら仕事を覚えていくものだ。
見習いというのは、本来議員秘書をするにも年齢が足りないからだろう。
「議員秘書見習い……ね、何か隠し玉があるんだろうが今はいいや。
こちらがお願いしたいのは、現在係留されている船舶についてが一つ。
もう一つは政庁についてだな」
「係留されている船舶というと、ジオンの軍艦でも入り込んだか?」
「いいや、ランチが一つ係留されているだけだが、乗組員は明らかに訓練された兵士のそれだ。
さらに言えば、例のマークの付いた積み荷を運んできたのもそれだ」
「……そこには今も核関連の積荷が?」
「分からんが。大部分は既に荷下ろしされているだろうな」
「不味いな……しかし、確かに重要な情報だ。軍に通達を入れよう」
ブレックスが指示を出すと、大隊300名が編成されATもどき部隊を先頭に宇港に向かう。
通信状態は現状は良好だ、ミノフスキー粒子による通信妨害はジオン軍の所属だと明か様なものなので迂闊に使えないだろう。
制圧するまでの時間はそれほどかからなかった。
「さて、彼らに仕事は任せるとしてもう一つの政庁についてだな」
「まあそっちも話はつながっている。わかるだろ核マークの付いた積み荷が向かった先が政庁と言う事だよ」
「……つまり、ジオンはコロニーに核で穴をあけるつもりだという事か」
「さあ、俺はその辺の背後関係はわからんがね。ただ間違いなく起爆されれば穴は塞がらない。
撃たれたなら恐らく死者は600万人を超える事になるだろう、逃げだせる距離ならこっちに殺到する事だろうね」
「……」
横で聞いているセイラは少し呆然とした、核爆弾の爆発があればコロニーに大穴が開く事になる。
そうなれば、自動閉鎖するシャッター程度ではどうにもならない。
少なくとも、ミラーを閉鎖しその上で応急処置をする事になる。
だがミラーの閉鎖には1時間以上はかかるだろう。
その間の空気流出を思えば、宇宙服にすぐに着替えてその上でシェルターに籠るか、宇宙公から船で脱出するしかない。
皆それなりの訓練を積んでいたとしても現状2000万人を超えるシャングリラの住民の何割かは失われる事になる。
事前にわかっていてこれなのだから、不意打ちで核バズーカ等を受けたら大部分が失われるだろう。
それほど致命的である故に、コロニーにとって核とは禁忌である。
「公国はどこまで堕ちる気なのでしょう……」
セイラは思わず座り込んでしまう、なりふり構わない虐殺。
それで例え世界を手に入れたとしても、恨みは千年消えないのではないかとすら思った。
そして、その恨みを連邦に押し付ける等と言う事をすれば恐ろしい事になる事も理解し震えが止まらなかった。
そんな時であった。
「少しいいだろうか?」
「ラル君か、どうかしたかね?」
ラル中佐が戻ってきている。
恐らく工作員のランチを押収したのだろう。
「ああ、工作員のリーダーを捕まえてね。
核の起爆スイッチを持っている様だ。
話し合いをしたいと言っているが、どうするね?」
「ッ!?」
「……それで、相手の要求は?」
「亡命らしい。戦後には家族も呼びたいとの事だ」
ブレックスはそれを聞いて唸る事となる。
本来ならこの場で決めていい事ではないからだ。
しかし、核のボタンを持っていて恐らく政庁に仕掛けてあるであろうと分かっているなら。
「いいだろう、亡命については私の裁量で許可する。
ただし、核のスイッチだけではない。核爆弾そのものの確保が終わってからだ」
「了解した」
ラル中佐はそれを聞いて、踵を返し捕虜に取った工作員のもとへ向かう。
セイラは深く息を吐く事で少しだけ落ち着きを取り戻した。
あとがき
とりあえずどうにか今月分も投降できました。
いやー少しばかりリアルの方でバタバタするアクシデントがありまして。
具体的には事務所が燃えました(汗)
まあ、収入が低下するとかいう事もなく、保険も降りたので事務所の放棄だけで済んでよかったのですが。
手続きが山の様に……。
なのでこの話は2日で突貫で仕上げましたw
内容が薄めなのはご容赦くださいorz
ですがようやくシャングリラ内部の話は終わりました。
後は艦隊戦の決着までもっていければいいなと思っております。
それと、地の文でメタ視点なんぞやって申し訳なかったです。
でも実際少しばかり知っておいてもらいたかったというのもあります。
ジオン好きの人たちの言い分には当時の時代背景も含まれるため、どうにも虐殺を肯定する人たちがいたりします。
特にシャアは未来の人のため全ての人類は宇宙に上がらねばならないと強く思い込んでいます。
そのためなら、アクシズ落としで地球環境を核の冬にしてもいいとすら思っている。
その根幹にあるのは何なのかと言う点なんですよ。
1970年ごろから自然がラスボスとでもいうか自然回帰がテーマになったアニメやゲーム等は多数存在しました。
今もたまにありますが、あまりに多かったため飽きた人が多かったのか数は減っています。
Gガンもそうでしたし、KOFのオロチ編なんかもそうでした、
ゲゲゲの鬼太郎も時々そういう話を挟んでいましたね。
ゲッターロボは生存競争的なものでしたが、ハチュウ人はそういう事を口にしていました。
そういう時代背景の中でスペースノイドとアースノイドの対立構図なのでアースノイド=悪な側面が出来てしまったと言えます。
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