「栄えある最終攻撃のリーダーとして選んでいただき感謝しております!」
「感謝か……俺はお前に死んで来いと言っているんだぞ?」
「ジオンの勝利のためであれば当然の事かと」
ドズルは特攻作戦に従事するメンバーを呼び寄せて会議を行う予定であった。
しかし、極まり切った特攻隊のメンバーに逆に不安を覚えている。
彼らは敗北が近い今この時ですらジオンの勝利を疑っておらず。
そして死ぬ事を恐れてすらいない。
特に今リーダーに任命したアナベル・ガトーという男はむしろ死を誉とすら思っている様だ。
「……貴様らの献身感謝する。遺族へは厚く報いる事を約束しよう」
「ジーク・ジオン!!」
「ジーク・ジオン!!」
「ジーク・ジオン!!」
「ジーク・ジオン!!」
「「「「「「「「「「ジーク・ジオンッ!!」」」」」」」」」」
だが現実には、この作戦が上手くいこうともジオンに勝利の目はない。
ドズルはそれを知るが故、あまり威勢のいいセリフを吐く事はできない。
何故なら、サイド1に対する攻撃は現時点におけるジオンの軍事力の半分以上を投入した作戦だったからだ。
戦力を回復する速度は連邦の方が速い、それも圧倒的に。
つまり時間はジオンの敵であった。
そんな状態でこの作戦を進めるのには理由がある。
この作戦がはまって敵艦隊を殲滅できた場合は、コロニーを一基奪ってそのままジャブローに落とす。
これならば、当初の目的は一応果たせる。
それが上手くいかなくても、敵艦隊の司令官だけは潰しておくべきだろう。
今のジオンの苦境は彼の功績による所が大きい。
連邦軍情報部にキシリアが手を回していたという話をドズルが知ったのはスパイをあぶり出された後であるが。
情報部を手玉に取っていたキシリアは流石である、しかしそれもヤシマ少将により阻まれた。
ザクの性能偽装も、ミノフスキー粒子の利用法も、看破してみせたのはヤシマ少将だ。
更には、ジオンが計画していた月面両側に資源衛星の要塞を置いていく作戦は同じアステロイドから運んだと思われる隕石により頓挫。
核バズーカ装備のザク達を向かわせたが防ぎきられた。
こうしてみると、まるで未来が見えている様な動きをしてくる。
ジオンが再起を図るにはかなり無理をしてでもヤシマ少将を殺しておく必要がある。
それがドズルの判断であった。
「ならば行け! ドロスをぶつけて敵艦隊を壊滅させるのだ!」
「了解しました!」
この作戦のために少佐に昇進させたアナベル・ガトーをリーダーとする一団は意気揚々と会議室を出て行った。
エースと言う事で彼をリーダーに選んだが、正解であるのかはドズルにはわからなかった。
機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜
第二十七話 死線
現在正面からは敵艦隊による射撃を受けているがシールド艦によりダメージをほぼ受けていない。
下方から現れた約300機のMS奇襲部隊はボール改部隊約600の支援射撃とセイバーブースター50機による攪乱で防いでいる。
それに、セイバーブースター本隊やガン・フォートレス部隊が接近して来ている殲滅されるのは時間の問題だろう。
だから上方から接近してくるドロスが今一番厄介だ。
原作アニメにおいても、ドロスやドロワの防御力は他の艦とは別格扱いされていた。
正直このまま艦隊を防衛させていても勝ち目は薄い。
特に内部に敵艦隊の持っていた残存核兵器全てを詰め込んでいるとするなら目も当てられない結果になるだろう。
「艦隊を後退させながら、引き撃ちに徹するのが一番だろうな」
「少将とは思えない消極的な作戦ですな」
「バスク・オム中佐。戦術の天才と称される君なら何か方法が思いつくかね?」
「戦術の天才……よく知っていますな。士官学校で言われていた綽名なんか」
あーそうだったのか、恐らくシミュレーションで相手をボコボコにしていたんだろう。
士官学校の上位が現実に功績をあげられれば世話はない。
もっともバスクはZガンダムでも大佐だった事から相応に有能だったはずだが。
カミーユの両親を殺したのが失策だったな、どちらも技術者として功績がある人だったのに。
富野氏はいつまでも両親ネタを長引かせたくなかったんだろうとは思うが。
「教えてはくれないのかね?」
「ふっ、今まで閣下がやってきた事以上の事はできませんよ」
「私がやってきた事……」
私がやってきた事ね、メテオストライクとミノフスキーミサイルか。
それとも各種の戦闘メカか、ダミーバルーンか、あるいは……。
「そうか、そうだな」
「何か思いつきましたか?」
「まあ一応はね。ただし効くかどうかはわからない。
引き撃ちは継続してくれ。出来るだけ距離は必要だ」
「了解しました」
「その間に交代でノーマルスーツの着用もしておいてくれ」
バスクの敬礼を受けて新たな作戦を動かす事にした。
これまでは、自重してきたものも含め、出し切ってやろう。
上手くいく保証があるわけではない、しかし、やるなら今だろう。
ノーマルスーツに着替え終わった俺は、他のブリッジクルーが着替え終わるのを待ち指示を出す。
「先ずは、ミサイルをすべて発射してくれ。もちろん目標はドロスの残骸だ」
「しかし誘導が……、いや、あれだけの大きさなら……」
「そういうことだ、あれそのものには推進力はない。核パルスエンジンに回避等に使うような細かい制御はできない」
「なるほど、全ミサイルラッチ解放! 各艦ミサイル全弾発射!!」
実の所この指示、そのまま届いているわけではない。
可視光線を周辺の艦に送っているのだ、送信機と受信機で双方向にやっている。
そうやってこちらから送った情報は送られた艦から更に可視光の光線となって送られる。
可視光なので光の線は多少漏れるが、ほぼ全ての艦が光でつながっている関係上旗艦が漏れにくいという特典もある。
そういった経緯で一瞬で命令が全艦に届きマゼランやサラミスらに積んでいる全てのミサイルを発射した。
実際ミノフスキー粒子下では意味がないとして使わなかった武装だ。
回避が出来ないなら全てまっすぐぶつければいい。
100機のザク達がそれぞれ潰しても飽和攻撃にどこまで対処できるかね?
「各艦全ミサイル発射!」
マゼランの艦首ミサイルは左右に6つづつの発射口があり直上に向けて発射できるようになっている。
配備数は8回分つまり96発である。サラミスは半分の48発。
更にどちらも左右に6連装ミサイルランチャーを抱えている。
ミサイルランチャーの方は装弾数が少ないため48発つまりマゼランは144発、サラミスは96発のミサイルを持っている。
現状マゼラン30隻とサラミス40隻そして駆逐艦120隻が戦闘可能であるため発射するミサイルは1万に届く。
100機のザクが1機辺り100発防ぐ必要があるがエースレベルでも20〜30が限度。
スーパーエースがいても数人で覆されるレベルの数ではない。
見当はずれの方向に飛ぶミサイルもそれなりにあるが、ザクを全て刈り取ってドロスにもダメージが入る程度の火力はある。
可能ならこれでドロスの核を爆発させてしまいたいが……。
「敵天頂方向MS部隊ミサイルを削っていきますが飽和攻撃により被弾し数を減じていきます。
残り20機前後なっ!? 10機程がミサイルに突っ込んでいきます!
これは……核爆発!?」
「自爆したか!?」
確かにその方法が一番被害が少ないだろう。
ザクの核融合炉を暴走なりさせて爆発すれば、広範囲のミサイルを誘爆させる事が出来る。
しかし、躊躇が無さすぎる……あいつら最初から死ぬ気だったな……。
決死隊と言うわけか、となると残り10機も……。
「10機のザクが接近してきます!」
「ありったけの機銃をお見舞いろ!」
「了解!」
幸いというか、ミノフスキー粒子下で戦うにあたりMSに近接される可能性を考え機銃はハリネズミの様に配置されている。
その数マゼラン40基、サラミス20基それらが一斉に火を噴く。
命中精度は低い、レーザーサイトも誘導も無く高速で動き回るザク相手に早々狙って命中弾を出せるものじゃない。
だが、170隻による飽和攻撃なら話は別だ。
そもそも宇宙において弾丸は重力に捕まらない限り減速しない。
まあ地球や月の重力の綱引きがあるため多少影響は出るがそれでも地球上と比べれば減速は無いに等しいだろう。
つまり、数を撃てばそれだけ相手はリスクを負う事になる。
いくら腕前が良くても回避するスペースもない程面制圧が出来れば当たる事になる以上この弾幕を簡単に潜り抜ける事はできない。
そうやって徹底的に飽和攻撃で対応していたが、それでも抜けて来るMSがあった。
「MSが2機弾幕の中を抜けてきます!!」
「最後の仕事だ! ヤザン隊出撃!」
『待たせやがって! だが旨そうな敵じゃねぇか!!』
俺は最終手段としてGフォートレスを3機残していた。
まあ、単純に陽動に出す時にまだ修理が終わっていなかっただけだが。
ヤザンはシャアとやり合った時にバーニアの一部を損傷していたので取り換えが必要だったのだ。
他の2人もそれぞれ弾を受けていた様だ、シャアは強すぎだな……。
因みにラムサスとダンケルは士官学校卒業して直ぐの所をヤザンに押し付けた。
上手くやれている様で何よりだ。
「状況知らせ!」
「はっ! 正面艦隊との砲撃戦は我らが有利です! やはりシールド艦の影響は大きいかと」
「当然だな」
シールド艦はビームシールドを連続1時間程度なら張り続ける事が出来る。
その代わり主砲はない。
他の所にエネルギーを回すと出力や時間に影響が出るからだ。
マゼラン級3隻の火力は大きいが、それ以上の効果と言っていい。
「天低方向からのMSは帰還したセイバーブースター隊及びGフォートレス隊により数を減らしております」
「そうか、後は」
「はっ天頂方向はザク達はヤザン隊により拘束状態。ドロスはそのまま向かってきています」
「ドロスの撃沈が最優先か」
とはいえだせる武器は出し尽くしたと言っていいい。
ドロスもかなりの損傷を負っているはずだから上に向けられる主砲を全て撃てばどうにかなる可能性は高い。
しかし、そうするとドズル艦隊が突っ込んでくる隙が出来る可能性もあった。
つまり、この状態はどの方向も必ずサイド1防衛艦隊を潰すという意思の元で動いている。
だが、それでもドロスのリスクが一番高いのは事実。
「上方向に撃てる主砲は全てドロスに向け斉射開始!」
「はっ! ドロスに向け全砲門発射!」
オペレーターが各艦に通信を回し上方に対する射撃を開始する。
その間、正面に対する攻撃は薄くならざるを得ないのが難点だが、核を放置する事は出来ない。
「どうだ!?」
「まだです! ドロス健在!」
「爆発するまで続けろ!!」
「はっ!」
機銃も全て撃つべきなんだろうが、ヤザンの邪魔になる。
砲撃を続ける事で砲身が過熱してくるが、どうにか間に合った様で核爆発が発生した。
「ヘルメットをかぶってシートを!」
「うわぁぁぁぁぁ!?!?」
艦隊に破片が飛び込んできて、何隻かの艦が小中破クラスのダメージを受けた。
この艦も小破レベルではあるものの、衝撃で流されてしまう。
「ダメージチェックを優先! 艦隊を維持するんだ!」
「了解! 全艦ダメージチェックを!」
「終わったらッ!?」
艦隊の立て直しを進めようとした瞬間、ブリッジにザクが大写しになる。
ヒートホークを振り上げた状態でこちらを見ていた。
『多くの英霊が無駄死にで無かった事の証の為に!』
「退避ッ!!!」
多分マゼランに足をついていたのだろう、お肌の接触回線でそのまま話が入ってきた。
こいつ、アナベル・ガトーか!?
俺達は、ブリッジから下る方向に逃げだした。
この時点で安全な場所等無いが、ブリッジから爆発する可能性は低い、となれば中に逃げ込むくらいしかない。
だが、間に合う気もしなかった、向こうがヒートホークを振り下ろす速度の方が速い。
『くそっ!』
『つれないな! もっと遊んでいけや!』
『貴様ッ!!』
Gフォートレスが飛び込んできてMSと比べて大きな腕でザクをつかんで離れていく。
ヤザンか! 助かった……。
ブリッジはシャッターが下りていてカメラが
「通信回復急げ! 艦内掌握もだ!」
「りょ、了解……」
ふぃービビった……。
流石に死ぬかと思った、というかヤザンが来なければ死んでいた。
手の震えが止まらない……、俺はどうにか取り繕えているだろうか?
出来て無くても、俺は指揮を止める事は出来ない。
逃げ出しても碌な結果にならない事は知っているんだからな……。
「グワランを中心に敵艦隊が突っ込んできます!」
「やはり来たか、後退しつつオールウェポンズフリーだ! 前方の艦隊を殲滅しろ!」
「はっ! オールウェポンズフリー! あらゆる手段で前方艦隊を殲滅してください!」
こちらの艦隊の被害はそれほど大きくない、普通の艦隊戦ならそのまま勝利しただろう。
だが問題は、ドズルがこちらに衝突する気でいる事だ。
ドロスと比べればグワジン級はだいぶん小さいものの、それでもマゼランの1.5倍の全長を誇る。
質量で言えば3倍くらいある事になる。
当然その質量差を撃沈するまでには相当に時間がかかるが、相手は死ぬ事を前提にした作戦できている。
こちらの全火力を集中しても倒しきれるかはわからない。
「相手に攻撃可能な武装は全て叩きこめ!
機銃も、ロケットランチャーも全てだ!」
「はっ!」
一応下部にはロケットランチャーも装備されているが火力が低いので中距離でのけん制が主だ。
しかし、今回はそんな事を言っている暇はない。
このまま近接されると、またピンチに陥ってしまうからだ。
既にブリッジは破棄して、艦内のサブブリッジに移動して指揮を執っているが、体当たりまでは防いでくれない。
相手の方が大きいとなればぶつかり合いで勝てる事はないだろう。
流石にまずいかと冷や汗をかき始めた頃、唐突に敵艦隊が崩れた。
よく見るとグワランのブリッジと思しき場所に穴が開いている。
これはもしかしなくても……。
やってくれたなシャア!
「一斉射撃継続だ!!」
「はっ! 一斉射撃は継続、継続してください!」
かなりの距離からの射撃だったんだろう、ドズルの旗艦のブリッジに穴が開き、シャッターが全て閉じられた。
それだけではなく、敵艦隊が混乱した所から、恐らくシャアによる狙撃でドズルが死んだという事だろう。
シャアに突撃させて藪蛇にならないでよかった。
「敵艦隊掃討開始! 降伏信号が入った機体だけは残すのでそのつもりで!」
「了解! 降伏信号が入ってこない艦は殲滅せよ!」
艦隊が砲撃を再開する、そろそろ緊張の糸が切れそうだな。
だが、まだリスクが無いとは言い切れない。
ドズルが死んだかどうか確認しないといけない、ガトーの方もだ。
俺はヤザンとガトーの戦いがどうなったのか確認する。
どうやらまだ戦っている様だが、流石に3対1なので押し込んでいるように見える。
「このまま終わらせるぞ! 全艦前進! 敵艦隊を殲滅せよ!」
「はっ! 全巻前進! 敵艦隊を殲滅せよ!」
もう艦隊の戦力比は倍以上になりつつある。
このまま押し込めば……。
「ミノフスキー粒子濃度低下していきます!」
「何?」
確かに、敵艦隊で散布できる艦が減ってきているがあいつらがミノフスキー粒子を切らしたりするだろうか?
もしかして……グワラン以外の艦隊は人員がほぼ空だったんじゃ……。
「ちぃ!」
「レーダー及び通常通信回復します! 敵艦隊はほぼ壊滅! 残存艦隊の掃討開始しますか?」
「待て! レーダーでミノフスキー粒子が散布されて感知出来ないエリアは無いか!?」
「……ッ! あります! しかしこれは、サイド1の外苑エリア!」
「やはりか!」
ドズル艦隊の人員が少なかったのは恐らく後送したからだろう。
そうなれば、ここでの現状がサイド3にも伝わる。
伝わったのなら、ギレンは最終手段に打って出るかもしれない……。
「サイド1のコロニーを落とすつもりか!!」
残存部隊をかき集め、地球に、ジャブローにコロニーを落とす。
それだけで勝利はできないが、そうする事で地球の生産力と指揮系統を半減させられる。
失敗しても己を切り捨てればいい。
合理的と言えなくもない作戦だ、人死にによる恨み等を気にしないのならば……。
ガンダムにおける矛盾、連邦の恨みの源泉であるはずのコロニー落としを強行しようとしているとしか思えなかった。
あとがき
さて、ようやく一週間戦争も最終章に移ります。
ヤシマ君ピンチに陥りすぎと言う気もしますが、これくらいはやらないと。
何せ虐殺の史実を覆そうって言うんですしね。
ジオンのエースパイロットもまだまだいますし……ホント多すぎ……。
ジークアックスの映画が公開されましたね。
ジーンが暴走しなかった世界線ではシャアが大活躍してジオンが勝利した。
うーん、確かアムロがいなくても時間はかかるが連邦が勝つと富野氏が言っていた気がしたんですが。
まあ、深く気にしてはいけなさそう(汗
それにあの世界のガンダムはエヴァっぽいし、MSに乗せられるサイズのサイコミュとか普通にできてる。
6機あるビットもエネルギー再充填できんのか?とか疑問は尽きないですが。
まあ、気にしたら負けかなと。
そういう所に突っ込みを入れるのは後にして、マチュちゃんを愛でていましょうw
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