『同じ宇宙市民を虐殺する国を成立させるわけにはいきません!』
「クッ!」
ギレンは苦虫を噛み潰した様な苦い顔になった。
これは、ジオン公国にとって致命傷になりかねない演説だった。
可能な限り国民の耳に届かない様にミノフスキー粒子をサイド3からサイド1の間に広範囲で展開させたが無駄だった。
恐らく全方位で電波を飛ばし、受信したコロニーからサイド3に向けても送られている。
それだけではない、月や隕石コロニー、アステロイドベルト側からも電波が発信されている。
つまり、全方位にミノフスキー粒子を散布しない事には妨害出来ないという事だ。
それは可能ではあるが、一気に粒子残量が減ってしまう。
そうすると次は防げない。
敵の狙いはわかり切っていた。
「各コロニーの通信設備を切れ! 電波集積装置にウィルスが撒かれた! 急げ!」
「ハハッ!」
手は打っているものの、ギレンとしても隠しきれるとは思っていない。
それでも、少しでも時間を稼ぐ必要があった。
「父上」
「ギレンよ……」
「その先は言わないでいただきたい。貴方は公王、国を背負う必要があります」
「……うむ」
ギレンはデギンに対し死に場所はここではないと言ったのだ。
現時点で逆転の目はほぼ無い、そうなればジオンが敗戦した時に責任を取る人間が必要だ。
それはデギンかギレンでなければならない。
もちろんそれだけで済むわけではないが、少なくともガルマ、あわよくばキシリアも生き残れるかもしれない。
世界の半分の人間を殺して見せれば、敵側にも余裕等なくなるため負けても強くは責められない可能性はあるが、現状では無理だ。
現状では、せいぜい地球連邦からすればかすり傷程度でしかない。
少なくとも、一度弱体化させる必要があった。
幸いと言えるのは、コロニーでのテロが功を奏し2つばかり運びやすい位置にあるという点だろう。
「被害を抑えるためにも戦果が必要ですな」
「そんな手があるのか? サイド1駐留軍相手に敗北する程度の戦力しかないのだぞ?」
「一つ、考えがあります」
「……まさか」
デギンはその時気が付いた。
元々計画していた中に連邦に対し多大な出血を強いる方法があると。
「それ以外無いでしょう。私が率います。全てを私の責任にしてください」
「待て、それは……」
「私は元よりそのつもりでした、それに父上は責任を取らねばなりません。
そうする事でガルマや上手くすればキシリアも生き残る事が出来るやも」
ギレンは元より自分が死ぬ事を前提として考えていた。
事ここに至っては、ザビ家を残す事が優先であると考えての事だ。
「……それでいいのか?」
「選択できる状況ではないでしょう」
「分かった。私も直ぐに追おう」
「不甲斐ない息子で申し訳ありませんでした」
ギレンザビは覚悟を決めて、連邦に対し最後の戦いを挑む事にした。
それは、自殺とそう変わらない。
だが実際、過去日本はそうした悪あがきによって、終戦後の扱いを多少なりともマシにした経緯がある。
人は反撃されると思うと攻撃を自重する、相手にひどい目にあわされないためには、強い事を証明するのが一番である。
そしてジオン軍が強い事を証明する方法はただ一つ。
地球に質量をぶつける事だ。
機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜
第二十八話 布石
ジオンの艦隊、及びMS部隊はほぼ壊滅した、我々の勝利だ。
しかし、撤退した者もいるだろうし、潜伏している者もいる可能性はある。
さらに言えば先ほどの報告の事もある、恐らくコロニー落としなりをして連邦の継戦能力を奪い停戦に持ち込みたいのだろう。
ただその場合の地球の被害がどれ程になるのか考えると吐き気がした。
直通で追いかけたい所だが現在の艦隊では無理だ。
一度ロンデ二オンに戻って態勢を立て直す必要がある。
「敵艦隊はほぼ壊滅した、損傷の少ないマゼランを3隻、サラミスを6隻、コロンブスを1隻、駆逐以下を20隻つける。
セイバーブースターとボール改も20機づつ残す。司令官は現時刻を持って大佐に昇進したバスク・オムを充てる」
「はっ! 光栄であります!」
「本隊はロンデ二オンに帰還後、怪我人の搬送、中破以上の艦や機体のドック入りを行う。
そして、戦闘可能な艦と人員はそのまま敵艦隊を追う事となる。
以上だ、行動に移せ!」
「はっ!」
正直追いかける艦隊は全体の半分以下になるだろう。
それに、このままでは追いつけるか微妙なラインだ。
幸いと言っていいのかわからないが、サイド1の破壊されたコロニーを率いているため移動速度はそこまで早くはない。
後は、連絡だな。
「私は艦長室に入る、何かあれば連絡してくれ」
「はっ!」
俺は、船体にある艦長室へと向かう。
幸いにして、これの艦長室は上部デッキではなかったので被害はない。
正確には、俺が下の方の部屋に変更したんだが。
なんで、艦長室を天辺に作ろうとするかねぇ。
リスクしかないだろうに。
部屋に入るとロックをかけてから秘匿回線を開く。
ゴップ大将をいい様に使ってるのは正直申し訳ないし、後から何をやらされるか怖い所ではあるが。
「こちら、サイド1のヤシマ少将であります」
『ほう、無事だったかね』
「何度か冷や汗はかきましたが、今回はどうにかなったようです」
『それで、今回はやはり』
「ええ、申し訳ありません。
こちらが艦隊戦をしている間に、サイド1のコロニーが2つ破壊されそれを使ってコロニー落としをするつもりの様です」
『コロニー落とし……地球へ、かね?』
「一つは間違いなくジャブローに落ちるでしょう。もう一つは連邦政府のあるダカールの可能性が高いかと」
それを聞いたゴップ大将は流石に顔をしかめる。
実はもう一つ可能性があるんだが、俺もそこまでしてくるのかはわからない。
だがどちらにしろ、大量の防衛部隊、可能な限りの核兵器が必要になるだろう。
『なるほどね。それでそっちはどの程度動ける?』
「3分の1程度が限度です。艦隊に対して勝利はしたものの、こちらの被害も相応のものになりしました」
『対策をした上でか』
「そもそも勝ち目が無い所から巻き返しただけ褒めていただきたいくらいですよ」
『いや、すまんね』
「兎に角、地球に防衛部隊を張り付ける必要があります。
私も残存艦隊を率いて追いかけますが、追いつけるかどうかは微妙な所ですので」
『艦隊で対処できるかね?』
「核兵器による破壊が必須でしょうね。あの規模の質量は艦隊の一斉砲撃でも壊しきれない」
『そうなるか……分かった、迎撃は任せたまえ。
君達は負傷もある、それに今から追撃をしても効果的ではないだろう?』
それはその通りだ、今俺が追いかけても恐らくルナUの連邦艦隊が迎撃する方が速い。
ジャブローからの打ち上げも始まっているだろうから、ジオンのコロニー落とし艦隊ではどうしようもないように思える。
規模はそれなりにあるんだろうが、コロニーを抱えている以上そのスピードは遅い。
最終的な加速は相当なものではあるだろうが、迎撃艦隊は加速前に間に合うだろう。
そして、核攻撃さえ使えるなら十分排除可能だと言える。
「しかし、あのギレンがそうまで簡単な手で来るでしょうか?」
『というと?』
「もちろん、コロニー落としが成功すればそれでいいのでしょうが、ダメだった場合のフォローもしてくるでしょう」
『フム、どういう手だと思うね?』
「……天才の考えを読み切れるわけではないので何とも。ただ別ルートで何か仕掛けて来る可能性はあると思います」
『なるほど。ならば別動隊を用意しておく必要があるか』
「お手数かけます」
『いやなに、今回の件は我々の不手際が続いた結果だ君のフォローは助かっているよ』
ゴップ大将がこういう事を言うとは、何かを期待している?
彼はいずれ政界に進出する、その時に自分の後を継ぐ人間が必要なはずだ。
しかし、外伝作品等から彼の奥さんや子供がいたという様な話がない。
ジョニーライデンの帰還において養子となったイングリッド0がいただけだ。
それを考えると、俺を次の次くらいの軍政派のトップにとか考えている可能性があるのか。
「特段の事情が無い限りは休んでおく事にします」
『まだ何か不安でもあるのかね?』
「自分より頭のいい人間と戦わなければならないというのはプレッシャーですよ。
今回の件は実の所、事前にある程度事情をつかむ事が出来ていたためどうにかなったと言えます。
それでも、サイド1駐留艦隊の3分の1近くを落とされました。
私の思いつかない行動をしてくる相手なんていくらでもいるでしょうが、
それでも事前情報で相手をある程度理解したつもりになっていたのは失態でした」
『ははは、なるほど。君は自分の才能を信じられないんだね?』
「そうですね。残念な事ではありますが」
実際、ガンダムの知識があった事が有利に働いたのは間違いない。
そして、現在はもうガンダムの歴史とは違う流れに乗ってしまった。
俺が分かるのはギレンの天才性は凶悪な兵器となって襲い掛かる事が多いという事だ。
「今までは対策が当たっていました、しかしこれからは彼も私の考えを理解した上で策を実行してくるでしょう」
『まだ、起死回生の策があると?』
「彼が動いた以上、少なくとも連邦軍を行動不能にする何かはある可能性があります」
特に問題は、連邦政府や連邦軍にギレンに対抗できる頭脳がいない事だろう。
提督としてならレビルやティアンムがいるが、どちらも原作で死んでいる所からも優位が取れると考えるのは甘い。
ましてや作戦立案関しては突拍子の無さこそが相手の裏をかける。
ただ突拍子のないだけでは無理だが、相手の行動を予測した上でなら優位を取るのは難しくないだろう。
今までの俺の戦略がそうだっただけに、逆に使われるのはきついな。
『兎も角、君に今死なれるのは困る、何か起こった時のためにも休んでおく事を進めるよ』
「ありがとうございます。では今日は休養を取りたいと思います」
焦っているのは否定できない、だが確かに闇雲に追いかけても何もできないだろう。
ならばゆっくり考えながら、いくつか仕込みをしておくか。
「それでは失礼します」
『うむ』
ゴップ大将との回線を閉じ、一息つく。
コーヒーを入れて、ギレンの行動を予測する事にしようかと思ったが、どちらにしろやっておく事があるな。
別の回線に対して連絡を入れる、先ずは各コロニー等に配置した電子望遠鏡部隊の司令官を呼び出す。
「大佐ジオン側の動きは無いか?」
『あ、つながりましたな。今までは繋がらなかったのであきらめておりましたが』
「ふむ、何かあったのか?」
『はい、サイド3から新たに出撃した艦隊はサイド1でコロニーの残骸かな?それを引き連れながら地球に向かっていますな。
それから、ア・バオア・クーがサイド2から地球に向かっておりますな』
「何!? それをゴップ大将にも伝えておいてくれ!」
『了解です。他の方角も一通り監視はしていますが範囲が広いため確定的とは言えませんが今の所何もないようです』
「うむ、ご苦労」
サイド1方向からとサイド2方向から両方の攻撃がメインでありサブと言ったところか。
ギレンなら取りそうな手ではあるな、コロニーレーザーがあればぶっ放してるだろうが、開発してないのは助かった。
だがこれだけなのかについては、もう一手くらいは打っている可能性を否定できない。
だが、わからない事を放置しているだけと言うわけにもいかない。
「恐らくまだあるだろう、なら少しでも悪あがきしておかないとな」
俺は更に次の通信をつなげる。
今度は、隕石を牽引してきた部隊に対してだ。
『ヤシマ少将! ジオンが地球に艦隊を動かしています』
「それは、撤退したドズル艦隊の方か?」
『はい、ア・バオ・アクーを牽引して地球方向に向かっている様に見えます』
「なるほど。ならばもう一仕事頼みたい」
『許可頂けるので?』
「盛大にやってくれ、責任は私が取る」
『はっ! お任せください!』
「頼んだ」
これで、少なくともア・バオ・アクーとコロニー落としを同時に対処する必要はなくなるだろう。
流石に計画を頓挫させる事が出来るかは微妙な所だが。
しかし、そうなるともう一つや二つ仕掛けてきていそうだな。
「全く、俺はそこまど頭は良くないってのに」
俺の前世にやったIQテストの結果は97だったと思う。
まあ、正式なものではなくネットの物を興味本位でやっただけだが。
対してギレンは240もあるのだ、同じ常識に立脚した人間ならまず勝ち目はなかっただろう。
俺にあったのは、ガンダムに対するそれなりの法則知識、歴史の流れ、重要人物の知識、21世紀の思考様式だ。
もう一つあるとすれば、ゲーム感覚が抜けない事による俯瞰した視野だろう。
これらによるアドバンテージがギレンの動きをある程度とはいえ読めていた理由だ。
だが今回は、ギレンがしてくる行動を完全には読めない。
分かっているのは、連邦に対し大きな傷を負わせる事が目的だという事だ。
復興に時間をかければその間ジオンに対する監視が緩む、それにジオンに対する厳格な処分がしづらいという点もある。
原作の連邦がジオンに対して不自然なほど温情豊な措置を取ったのは、連邦も連続して戦争したくないというのが本音だったからだ。
実際国の人口が半減し、軍の主要人物も死に、兵士もベテランはほとんどいなくなる程の被害が出ている。
完全な復旧が終わるまでジオンとの再戦はしたくないというのが本音だったろう。
0083で再度のコロニー落としが起こってティターンズが出てくるまではそういう方針だった。
つまり、大きな傷を負わせるほどジオン本国は安全になるというのがギレンの考えなのかもしれない。
だからこそ、俺が簡単に思いつくような事は答えではないだろう。
だが同時に、そういった小細工も織り交ぜながら本命を隠して近づけるつもりだとすれば辻褄はあう。
「ならこちらの残る一手は……」
セイラがザビ家の逃げ道をふさぎ、軍のボイコットが起こる前にどうにかしようとする以上短期決戦なのは変わらない。
となれば、流石にできる事はある程度絞り込めるというもの。
そうこう考えているうちに、ロンデ二オンまで戻ってきていた。
とりあえず、凱旋を行いながら各部署に指示を出していく。
修理の必要な艦はドック入りの順番待ちをさせておく。
軍医だけでは足りないだろうから町医者も含め傷病兵の入院手続き。
動かせる艦は補給及び動作チェックや細かい修繕をさせる事にした。
基地内に入ってからは最初に各庁への成果や被害の報告及びコロニー被害の算定。
死者への追悼の準備と2階級特進及び遺族年金の配布手続き。
戻ってきての数時間は指示出しを行うだけで終わってしまった。
一応俺自身もそこそこ怪我があるため軍医に診てもらっている。
そんな時だった、こちらに駆けて来る人間の足音がしたのは。
走ってくるのは一人だけなので軍ではないだろう、となると。
「ヤシマ少将帰って来たのですね!」
「入室にはノックをして欲しいものだが」
「……申し訳ありません。ですが旗艦も被弾したと聞いたものですから」
「まあ、無傷とはいきませんが。大した怪我はありませんよ。お疲れ様ですセイラ嬢」
「ええ。お疲れ様ですヤシマ少将」
散々利用しておいてなんだが、美人の子に心配してもらえるというのは嬉しいね。
俺の采配で死んだ人たちには申し訳ないし、コロニーのテロに関しては甘く考えていた。
幸いロンデ二オンはイーサン・ライヤー准将の采配で事無きを得た様だが、結局2つのコロニーが核で破壊された。
恐らく今回の戦争で5千万人は亡くなっただろう、一週間戦争よりはマシな被害とはいえまだ終わってもいない。
このままでは、地球が人の住めない星になってもおかしくはないのだから。
もちろんゴップ大将をはじめとした連邦の将官だって全力で対応してくれるだろう。
何せ、彼らだって地球に人が住めなくなるのは困るのだから。
「まだ、終わらないのですか?」
「軍事機密なんだがね……恐らく次が最後だろう」
「そうですか……その、私も」
「君の仕事は戦争が終わった後だ。
人類の性として争いが、戦争が無くなる事は恐らくないだろう。
しかし民間人を巻き込まない様にはできるはずだ」
「っ!」
「君には期待している。少しでも長い平和と民間人が巻き込まれない戦争のために」
「本当に……もう」
セイラ嬢は笑っていいのか怒っていいのか分からないといった表情で俺を睨む。
気が強く、しかし心優しい彼女に無理をさせているとは思うが、原作での度胸も買っているのだ。
きっと上手くやってくれると信じている。
丸投げは……まあ無理だろうけど……。
あとがき
現状における敵味方の状況を大雑把にお届けしました。
ギレンが頭がいいのは間違い無いんですが、私が頭がよくないので表現しきれないのが痛いですね。
でもどうにか、ギレンの策謀らしきものを練り上げて最終局面にもっていくつもりです。
にしてもガンダムってどっちを向いても業が深い話がごろごろ出て来るから困る。
いや特にギレン関係の整合性を取っていくとマジで天才にしなければいけないと感じますね。
正直政治的方針の段階で間違ってるので、一部天才と言うべきなのかもしれませんが。
兎に角いろんな仕込みをしていた事にしないと辻褄合わせが大変で……。
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