護りたい夢

あの後、モニターに映った男の話によってサタン…蝗が気を失い倒れてしまったために決勝戦は中止となり、実質的に今回のコロシアム自体無効となった。
だが、その時現場にいた者達は蝗に対してこんな疑念を抱くようになった。

彼は裏で悪行を働いていたんじゃないか?

マスコミもこれに関して食いつかないわけがなく、連日のようにテレビで特番が組まれた。

この状況に廻が零した一言はこうだった。

「表面しか見ようとしないアホ共が…」

そして、蝗は何の為に裏世界と繋がっていたのか?
孤児施設にいる子供たちを守れるのか?

それはこの先を読んだ者にしかわからない。





世界の救済者、ディロード。九つの世界を巡り、その心は何を映す?





現在、此処は孤児施設。
今のところ蝗はここの自室で常に暗い空気を出して閉じこもっている。子供たちもそれにえらく心配している。
尚、廻一行もライダー救済という使命故にこの場に居た。

「蝗兄ちゃん、出てきてよ?!」
「お願い!」

子供たちが呼びかけても一向に返事返ってこない。

「廻…」
「俺達じゃ駄目だから一応あいつらにやらせたが…」
「…結果は同じか…」

流姫、廻、信彦はそれぞれ参ったと言う表情でいる。

「こうなったら……あいつの内側に…ガツンとくる言葉をぶつけるか」
「そんなのあるの?」
「俺にはある仮説がある。蝗が裏の世界と繋がっていたことに関する…」
「はい…?」

流姫と話した廻は蝗の部屋の前に立った。

「蝗、この話を聞くかどうかはお前の自由だ」

まず最初にそう言った。

「お前は、あの男とある取引をしていたんじゃないか?この孤児施設に関して…」

その時、扉の向こうの雰囲気が僅かに変化があったのを感じた。

「…お前はコロシアムの賞金だけで十分にこの施設を運営させられたはず。でも、あんな野郎とつるんでいると言うことは、この土地は誰かの手中に落ちようとしている。そこでお前は裏世界で権力を誇る者と接触してなんとかしていた。どんな取引をしていたかは聞かないがな」

「………」

一括りの話をすると、蝗は部屋から静かに出てきた。

「……君には驚かされるね」
「伊達に何年も旅をしていないもんでね」

どうやら廻の予想は…。

「でも、まだ埋まってない部分がある」
「何だ?」
「奴が俺を見捨てたその訳だよ」

低いトーン声で言った蝗。

「………」
「流石にここまではわからないか」

予想通りといった顔で言った蝗は自分からこう言いだしていく。

「その訳は、俺に宿るオルフェノクの力が衰え…人間に成り下がろうとしているからだ」
「オルフェノクの力が…!?」

信じられないと感じた廻。

「暗黒のベルト…サタンギアは…。強力極まりないオルフェノクしか受け付けない代物だったんだよ。そんな中偶然ベルトは俺を選んだ。……だが、ベルトを使って戦うたびに俺に宿っていたオルフェノクが減っていった。俺は何時か戦えなくなると分かりながらも戦い、抗い続けた。結果はこの様だ。あと一回か二回しか俺は変身できないだろう…。奴は利用価値が俺から無くなったとわかってあんな伝え方をした…」

全てを聞いた廻は仮面のしたで歯ぎしりをした。

「そういうことかよ」



***

翌日の早々朝、蝗はターボライガーに跨って孤児施設前に居た。

「けじめ…つけなきゃな…」

意を決した顔で言うと、エンジンに火をつける。

「アタシも行くわ」

そこへやって来たのは流姫だった。

「なんでだ?」
「あんた、もう一回か二回しか変身できないんでしょ。だったら、誰かの助けがいる」
「余計な御世話だ」

蝗は無視して発信しようとするが、流姫は彼の腕を掴んでこう言った。

「余計な御世話?随分と偉そうな台詞吐くはね。廻に論されるまで引きこもっていた癖して」

眼を鋭くして発する言葉。

「言っておくけど、これはあんただけの問題じゃない。コロシアムの選手たる私の問題もある。勝手に乱入されてコロシアム中止にされたけじめがね」
「君は…」
「ただの旅人よ…。といってもこの世界じゃ闘技選手だけどね」

その後、その場所にはバイク二台分のエンジン音がしていた。



***

早朝に目が覚めた信彦は二人のバイクが無くなっていることに気づいた。
そのことを廻には知らせたが、子供たちには伝えなかった。無駄な混乱を避けるがためらしいが…。

「全く…相手の手も知らずに突っ込んでいこうとは…」
「どうするきだい?廻」
「行くしかないだろ、これは」
「いや、だからどうやって?」

確かに二人がどこへどうやって行ったのかは皆目見当がつかない。

「心配はない」
「どうして?」
「マシンディガイザーに発信機を付けといた」
「………」

廻の余りに用意周到な手腕に言葉を失う信彦。

「信彦、お前はここの連中を頼む」
「…わかった。廻、戻ってこいよ」

真剣な表情で会話する二人。

「誰に向かって言っている?俺が雑魚に負けるわけ無いだろ!」

自信満々に答えた廻はマシンディローダーに跨り、エンジンを作動させる。

――ブウゥオォォォオォォォン!!――

猛々しい音があたり一面に澄み渡った。



***

方やその頃。

「ホントに此処なの?」
「間違い無い。確かに此処の筈なんだ」

ディガイドはサタンの案内で明らかに一件普通の事務所ビルに入った。

「気をつけろ、中には結構な数のオルフェノクが居る筈だ」

警告を出し、用心しながら先に奴らが居ると思われる部屋のドアに手を掛けた。

――ギイィィィ…!――

音を立ててドアを開けると………。

「何これ?…誰もいない…」

部屋は蛻(もぬけ)の殻だった。

「…まさか!?」

サタンは何かに気づいたようだが、時既に遅し。

――バゴッ!――

二人の立っていた床が消えた。と言うか、抜けた。

「「落とし穴ァァァ!!?」」

気持ちいいくらいにあっさりと引っかかってしまった二人は、地下深くへと落ちてしまった。
幸いにも変身しているので着地の際大したダメージは無かったが。

『無駄とわかってて来るとはね』
「あの声は!?」
「……」

それは蝗を捨てた男の声だった。

『まあ良い、役立たずを片付ける良い機会だな』

スピーカーから等ではなく、直接聞こえてくる声。
それが終わると、あの男が現れた。オルフェノクの姿で。

「だったら、あんたを逆に倒す…!」

と言った矢先にエネルギー弾がサタンに降り注ぎ、変身を強制解除させる。

『己の分際をわきまえたらどうだ?』

あの男の怪人態…大海蛇を思わせる”シーサーペントオルフェノク”は偉そうな態度を尚取り続ける。

「己の分際をわきまえるのはそっちだろ!」

――ブウゥオオオオオオオオオオン!!――

バイクのエンジン音、そしてディガイドには随分と聞きなれた声。

「……廻ッ!」

マシンディローダーに乗って現れた廻にディガイドは声を張り上げる。

「ったく、いつも俺に無茶すんなと言ってる奴が無茶やってたら世話ないぜ」
「………ゴメン」

ハッキリと言われてディガイドは謝った。

『…何人来ようと関係はない、殺して全てを闇に葬る。サタンよ、お前とも永遠にさよならだな』
「悪いが死ぬ気はない」
『…これほどの男が、何故あんなガキ共のために戦うのやら…」
「お前みたいな外道野郎には一生かかってもわからないんだよ!」

そこへ廻は言葉をぶつける。

『………』
「こいつは子供達をただ守りたかったんじゃない。子供達の…未来…夢を護ろうとしたんだ!どれだけ自分が傷を負い、力を失ってでも!」
「…砕谷…」

廻の真直ぐな言葉は蝗の心に染みわたる。

『お前は何者だ?』

シーサーペントの問いに廻は変身の下準備を完了してこう言う。

「最強最悪の仮面ライダーだ。くたばっても覚えてろ!変身ッ!!」

≪KAMEN RIDE…DERAOD≫

ディロードへと変身する。

「流姫、お前は下がっていろ。俺と蝗でやる…!」

ディロードの真剣さに満ちた声にディガイドは頷き、後方に回った。
そして蝗もサタンギアを再装着。

ピッピッピッ (666)
≪STANDING BY≫
「変身…!」
≪COMPLETE≫

血の如く赤黒い複雑なフォトンストリーム、悪魔を思わせるアーマーと眼光。
仮面ライダーサタン。

『無駄なあがきが好きらしいな』
「勝手にほざいていろ。蝗、行くぞ…!」

だがサタンは言葉に答えること無く、膝をついてしまう。

『やはり、力に耐えかねているようだな』

サタンの限界が近いことを確信するシーサーペント。

「どうかな?俺はこいつが確かなモノを抱いて戦うのなら力を貸してやる」

ディロードは力と絵柄が失われていたカードのうち一枚を取り出す。

≪FINAL FORMRIDE…SA・SA・SA・SATAN≫

「堪えろ」

というと、ディロードはサタンのアーマーを触った。
すると、サタンの身体はイナゴのような灰色の異形となり、ライダーというよりオルフェノクの姿となった。

『これって…俺の力…』

そう、その姿…”ロードオルフェノク”こそが蝗の元あったオルフェノクとしての姿なのだ。

『何!?』

流石にこの事態にシーサーペントも驚く他無い。

「さってと、蝗。俺達の力を見せやろうじゃないか!」
『そうさせて貰おう!』

するとロードとディロードは一切の迷いなく敵へと駆けていく。

シーサーペントもそれに応戦し様として、エネルギー弾を発射するが、

『させるか!』

ロードも同じようにエネルギー弾を掌から発して相殺させる。

『おのれ…!!』

怒りをあらわにするシーサーペントは先程のものとはケタ違いの威力を秘めたエネルギー弾を連射する。

「俺を忘れてないか?」
『!!?』

ロードに攻撃が命中する少し前にディロードが二体の間に入って、

≪ATTACK RIDE…SHIELD≫

ディロードの周囲に半透明な障壁…”ディロードシールド”が出現して攻撃を漏らさずに防いだ。

「最後行くぜ!」

≪FINAL ATTACKRIDE…SA・SA・SA・SATAN≫

『あぁ、これで決める…!』

ロードは両手にオルフェノクエネルギーを集中させると、それをディロードに向けて一気に放射する。エネルギーを受け取ったディロードはその力をライドブッカ?・ソードに集束させて巨大なエネルギーブレードを形成。シーサーペント目掛けて振り下ろした。

「ゼアァァァアァァァ!!」

必殺の”ディロードデッド”はシーサーペントに直撃した。

『こ、これで終わると…思うな…』

そう言い残して、彼は爆炎に散った。



***

戦いを終えて、孤児施設へと戻って来た。

「あ!蝗兄ちゃんだ!!」
「帰って来たんだ!」
「おかえりなさい!!」

子供達は大いに喜んで蝗を迎えた。

「……ただいま!」

この上ない幸せな笑顔で答える蝗。
それを見ていた廻達三人は、

「これでいい」
「そうだね…」
「この先も彼なら護っていける…!」

上から廻、信彦、流姫がそう喋った。
そして、家に帰るまでの間廻は一枚の写真を眺めていた。それに写っていたのは…。
戦うサタンを背景に、蝗と子供たちが戯れる様子だった。



***

「行くぜ、新たなる世界へとな」

次元の壁は三人の家を包んだ。
次の世界は如何なるものか?そして、廻の成すべき使命は…。




次回、仮面ライダーディロード

「あいつは、滅多に他の鬼と組もうとしない…」
「夏の魔化魍は面倒だな」
「音撃打!!音撃射!!音撃斬!!」
「間違いなく強いな。途轍もなく」

”輝く鬼”

全てを救い、全てを砕け!

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