Dが見ていた/透【とうめい】
失われし都・アルハザード。
「遂に完成した。”聖王”に宿りし新たな力…」
大魔導師プレシア・テスタロッサは、自身が造り出したガイアメモリと専用のメモリドライバーを手に取る。
「これで、新しい仮面ライダーが…誕生する」
そう言うとプレシアは魔法陣を展開してその場から消え去り、アルハザードは再び暗闇に閉ざされた。
*****
風都のとあるレストラン。
そこの席に鳴海探偵事務所の面々と照井。
さらにはゼロとリインフォースが一緒に座っていた。
「乾杯!」
六人はグラスを軽口打ちつけ合って乾杯する。
「なにかね翔太郎君?その非協力的態度は」
「…なんで照井までここにいるんだ?」
不機嫌な翔太郎に亜樹子が聞くと、
どうやら照井が同席していることがお気に召さない様だ。
「良いじゃない。貰ったタダ券四人分なんだし。いつも力貸してくれるし、タダで」
「…今度から金を取ろうか?所長」
照井はちょっと意地悪を言った。
「そ、それにしても二人とも、何で態々私達に付き合ってくれたの?」
亜樹子は話を逸らそうとゼロに聞いた。
「タダの気紛れだ。それに今日くらいは、相棒の顔見ながらゆっくり食事と言うのも、乙なものだろ?」
「ぜ、ゼロ///」
さらりとキザな台詞を吐くゼロに顔を赤らめるリインフォース。
「…つーか、フィリップ。飯の最中にまで何やってるんだ?」
「シュラウドから送られてきた新ガジェットの二号機さ。ワクワクするね♪」
フィリップは設計図を見せながらそう言った。
しかも楽しんでいる。
そこへ、
「レディース、アーンド、ジェントルメーン!フランク白金の、マジカルステージにようこそ!」
フランク白金と名乗る老人マジシャンはステッキをマジックで出して、客を盛り上がらせる。
「お、フランク白金。まだ現役だったのか」
でも翔太郎は彼のことをしっていたようだ。
「私の後継ぎ。孫娘、リリィ白金!」
紹介されて登場してきたリリィ白金。
でも、披露するマジックになんだかキレがないように思えてくる。
「なにやってんだか…」
ゼロは少し呆れた。
「さーて、皆さん。私が人生を捧げたマジック。”消える大魔術”。密閉空間からの危険な脱出に、孫娘が初挑戦します」
リリィはガラスケースの中に入り、二人のガールがそれに布を被せる。
「それでは…1・2・3!」
フランク白金がカウントダウンを終えると同時に布をとると、リリィの姿はガラスケースの中からは完全に見えない。
それを見た客達は拍手喝采だった。
ゼロ、リインフォース、フィリップ、照井を除いて。
おまけにフランク白金は浮かない表情である。
「何かあったようだね」
「彼女は。マジシャンと呼ぶにはまだ早いな」
「確かに、何かあるのは間違いないですね」
「………」
*****
翌日のこと。
【DENDEN】
フィリップとリインフォースは特殊ゴーグルと橙色のギジメモリを挿入すると、特殊スコープはカタツムツリ型ライブモードに変形してテーブルで這ったりする。
「わぁー可愛い♪ね、名前なんて言うの?」
「デンデンセンサーさ」
亜樹子に尋ねられると、作った当人が答える。
「なにができんだ?このカタツムリ」
「見張りや敵の探索だ」
フィリップがデンデンセンサーのスイッチを押すと、口の部分から赤外線が照射される。
「あらゆる光の波長、変動をキャッチできるから、もし誰か通り掛かると…」
デンデンセンサーは周囲を見渡すかのような動きをした。
「…こう反応する。…あれ?」
「誰もいねえじゃん」
デンデンセンサーが赤外線を照射した方向には誰の姿も見えない。
翔太郎がドアの近くにまでいくと、
「キャアッ!」
翔太郎が誰かとぶつかったかと思うと、若い女性の短い悲鳴。
そして、透明状態から姿をあらわしたのは…。
「あ…ごめんさい」
「あ、昨日の美人マジシャン!」
リリィ白金だった。
偶然にもリリィが馬乗り状態になっているのか、それともフランク白金の後継ぎがこんな間近にいることにたいする喜びなのかは知らないが、翔太郎はだらしない笑顔になる。
「なにデレデレしてんの!早く立って!!」
そこへ亜樹子がスリッパで翔太郎を叩いた。
「それにしても流石マジシャン。…今のマジック、どうやったんだい?」
翔太郎が半ばカッコつけて聞くと、
「違うんです。あの、マジックじゃなくて…」
リリィはそういうと上着を脱ぎ始め、翔太郎が少し目線を釘付けにしていると、亜樹子にスリッパでたたかれたりしたが…。
「その…私…本当に消えるんです」
リリィは二の腕の裏に刻まれた生体コネクタを見せた。
「「「ドーパントッ!?」」」
探偵事務所の面々が叫ぶ中、ゼロは静かにリリィの生体コネクタをみつめていた。
それで、リリィ白金の話をよく聞いてみると
「私、どうしても、脱出マジックが上手くできなくて…。そんな時、透明になれるメモリを手に入れて、これだっ!って思ったんです」
リリィの使用しているのはインビジブルメモリのようだ。
「でも…消えたり出たりが自分の意思じゃできなくなってきて。…メモリも、抜けなくなっちゃたんです」
「メモリが身体から出ない?」
翔太郎がそういうと、リリィは少し辛そうな表情を垣間見せる。
「…それで、この事務所の噂を聞いて」
「はぁー、すっかりうちもガイアメモリ駆け込み寺ね」
亜樹子がそういった瞬間、リリィはいきなり透明になる。
「消えましたね」
リインフォースがそういうと、フィリップはデンデンセンサーのギジメモリを抜きとってガジェットモードの特殊ゴーグルにした。
そしてそれを通して透明になったリリィの姿を視認する。
「おかしいな。本来なら挿した瞬間に超人形態に変身する筈だ。姿を消す能力を発揮するのはその後だよ」
「今まで色々なメモリを見てきたが、こんな奇妙な故障を抱えたガイアメモリは初めてだ」
ガイアメモリというのはプログラムに異常をきたした場合、メモリのイニシャルが浮かび上がったモニタ・ガイアディスプレイがブラックアウトするものである。だが話を聞く限り、インビジブルメモリにはそのようなことは起こっていないようだ。
「そんな!御願いします!私を元に戻してください!…早く…早く元に戻らないと」
「メモリの製造過程を突き止めないと…やっぱり黒服を着た組織の売人から買ったのかい?」
フィリップがそう問うと、リリィは首を横にふる。
「いいえ。貰ったんです」
また透明になった。
「ん〜、物腰の、柔らかい感じの人でした。悩んでる私のところに現れて…」
「売人じゃない。…謎の紳士…」
「その男を探し出すしか、手は無さそうだな」
すると翔太郎は立ち上がり、
「ま、安心しな。俺は困ってる街の人間を、見捨てたりしない」
するとリリィは翔太郎のいる方向とは真逆の位置で一旦元に戻る。
「ありがとうございます!」
「…ってそっちかよ!!」
「カッコつかないな…半人前よ」
*****
園咲家。
なんだか凄まじくイライラしている若菜をよそに、
「それでは行って参りますわ。お父さま」
「あぁ」
冴子は御洒落をした格好で出掛けていくと、若菜は舌打ちをした。
フィリップと出会ってから傲慢な態度と共に成りを潜めていた舌打ちも、井坂にされたことが一因してより酷い状態であらわれている。
「また井坂医院?…あんな男のどこがイイのよ?」
――バリーーーン!!――
すると若菜はティーカップを素の握力で割ってしまった。
「大丈夫か?」
「…最近、力が抑えられなくて…」
琉兵衛が心配すると、若菜は自分のあり余ってくる力のことを説明する。
「まるで…メモリの暴走症状だね。…ドライバーを使っている限り、安全な筈だが」
「…そういえば、一度井坂先生にドライバーを預けたことが…」
「それは、聞き捨てならんな」
*****
ゼロ達はリリィ白金にメモリを渡した男の詳細を追った。
年齢四十代前後の紳士で、ステッキのような細長い傘を持ち歩いていたらしい。
「あー、その人なら見たことありますよ。得意先のレストランでいつもピアノ弾いてる人だ」
「ピアノ?」
上手いこと情報を持っている人物から有力なネタを手に入れたゼロ達。
その聞き込みのようすを照井が偶然みかけていた。
そんでもって、そのレストランにむかっていると
「会えますよね?今日中に、会えますよね?あの人に」
透明状態でリリィがそう尋ねてくる。
亜樹子はデンデンセンサーで彼女の姿をとらえながら、
「リリィさん。どうしてそんなに焦ってるんですか?」
「…兎に角ッ!急いで欲しいんです!」
するとリリィは亜樹子の腕を引っ張って行く、すると照井とぶつかってしまう。
「ドジめ」
ちゃっかりゼロはそう呟く。
「…昨日の見習いマジシャン。…重い。退け!」
「失礼ね。ちゃんと体重は絞ってます」
なんだか初っ端から険悪な雰囲気。
「口は軽いのか。最悪な女だな」
「ムッカ!」
二人は起き上がり、
「こいつは何だ!?/この人何ですか!?」
とハモッタ。
ゼロと翔太郎は「あちゃー」とでも言いたげな表情である。
「えっとこっちは竜君。風都署の刑事さん。で、こっちがリリィさん。リリィさんは依頼人で、透明人間で、ドーパント…」
説明を聞いた照井は手錠を取り出す。
「正気か君達?甘いにも限度がある!」
「あー!ちょっと待ってやってくれ照井!まず彼女にメモリを渡した男のことを突き止めないと拙いんだ」
逮捕しようとする照井に翔太郎が割ってはいる。
「べー!」
リリィは照井に対してアッカンベーをしていたけど…。
*****
とある高級レストラン。
その優雅な空間で一人ピアノを弾く紳士。
「あの男か?」
翔太郎が尋ねると、リリィは頷く。
「警察だ。ガイアメモリ流通の件で聞きたいことがある」
照井はいきなり身分を明かして任意同行しようとする。
「落ち着け照井」
「照井…」
翔太郎の言葉に井坂が反応する。
「そうか。…照井雄治の息子ですね君は」
「なぜ…父の名前を知っている?」
「会いましたから。…去年の八月に」
井坂は銀色のガイアメモリをとりだし起動させる。
【WEATHER】
「Wのメモリ…。まさか!?」
そして井坂はコメカミ部分にメモリを挿入。
亜樹子は変身まえの井坂の姿バットショットで撮る。
井坂は竜巻や雷などに囲まれたなかで、”気象の記憶”を宿したウェザー・ドーパントに変貌した。
ウェザー・ドーパントは身体から絶対零度の冷気を噴出させてレストラン内部を凍り付かせる。
「「変身ッ!!」」
【CYCLONE/JOKER】
【MAGICAL/LEADER】
ゼロと翔太郎はWとイーヴィルに変身するさいに起こる瘴気と旋風を利用して冷気をやり切るが、ウェザー本体が屋外にでていってしまう。
「待ちやがれ!」
「逃さんぞ。折角の食糧を」
*****
屋外にでてきた二人。
「どこいった?」
「…後ろだ!」
イーヴィルの言葉に反応して振り向くと、そこにウェザーがいた。
ウェザーの先制をイーヴィルが防ぐと、そのまま二人は互角の勝負となる。
『ほお、やはり貴方ただ者ではない。メモリ三本を同時に制御するだけのことはある』
「ふっ、貴様ら下等な人間と一緒にするな」
【HEAT/METAL】
そこへWがヒートメタルにハーフチェンジした。
「オラァ!」
メタルシャフトを手にして荒々しくウェザーに突貫するWだが、
『フン!』
ウェザーは事も無げにWを回し蹴り一発で吹っ飛ばす。
「馬鹿者め。不用意に突っ込むな」
『フフ…手を貸すつもりが逆に足を引っ張るとは、皮肉なものですね」
イーヴィルが注意するとウェザーはWの戦闘力に対して低い評価をする。
「言ってくれるじゃねえか」
【METAL・MAXIMUM DRIVE】
「『メタルブランディング!!』」
Wはメタルシャフトから噴出される超高温火炎をウェザーにぶつけるも、ウェザーは冷気をぶつけて相殺させる。
「こいつ…必殺技が効かねぇ。こうなったら、もう一本マキシマムだ」
ボディサイドの腕がヒートメモリを取り出そうとすると、
『無茶は止せ翔太郎!ツインマキシマムは危険だッ!』
フィリップがそれを制す。
ツインマキシマムとはメタル系・トリガー系のフォームで使用できるマキシマムドライブで、ボディメモリとソウルメモリの双方を同時にマキシマムスロットに挿入することで強大極まる力を発揮できる。
イーヴィルも普段からイーヴィルメモリとウェポンメモリとでこのツインマキシマムを行い、必殺技を発動する。だがそれはゼロが魔人だからできる芸当であって人間である翔太郎の身体でそれを使えば、その肉体には想像を絶するキックバックを受けることとなり、最悪の場合には生命を奈落の底に転落させかねない、危険極まる手法なのだ。
「じゃあどうすんだよ?このまま無限(イーヴィル)一人にやらせろっていうのか?」
其の時、
【JET】
赤き衝撃波がウェザーに襲い掛かるも、ウェザーはそれをジャンプしてかわす。
しかし、その瞬間にイーヴィルがウェザーに羽織り締めを掛けた。
遅れて登場してきたアクセルは、イーヴィルがこちらに向かって頷くと、エンジンブレードに強く握る。
【ENGINE・MAXIMUM DRIVE】
「振り切るぜッ!!」
アクセルはそのままウェザーに斬りかかろうとする。
「止めて!!」
だがそこでリリィが姿を現わしてアクセルをとめた。
「ふざけるな!!退けッ!!」
「小娘。自分がなにを言ってるのかがわからんのか?」
アクセルとイーヴィルはそういうも、
「お願いです。私のメモリがおかしくなっちゃたんです。ちゃんと使えるように直してください」
ウェザーに体内のガイアメモリ修理を頼んできたのだ。
「なに言ってんの!?元に戻りたいんじゃなかったの!?」
「使えなきゃ困るんです!」
そういうとリリィはウェザーに羽織締めしているイーヴィルのトリプルドライブギアを外して変身を強制解除させる。
「小娘!貴様ッ!?」
ゼロも流石にリリィがこんな命知らずなことはすまいとおもっていただけにかなり驚く。
『わかりました。身体を診せてもらいます』
ウェザーは修理(しんさつ)を請け負うと、そのまま赤い雷を大量発生させて全員の眼を暗まし、リリィを連れて逃げ去ってしまう。
「うぇああああああああ!!!!」
アクセルは怒りのままにエンジンブレードを地面に叩きつけた。
*****
探偵事務所・地下ガレージ。
「かつて風都を震撼させた連続凍結事件…。照井家惨殺の真犯人…。Wのメモリの正体は、ウェザーだ」
とうとう照井は自分の家族を殺した力を突き止めた。
「ウェザーは、気象を自在に操る。その一つが冷気と考えれば説明がつく。…他にも当時、感電死や溺死など、周期的に連続殺人が発生していた」
フィリップが淡々と井坂が一年前から重ねてきた犯行を説明する。
「それ…全部あの男の仕業だってのか…」
「外道な…」
翔太郎とリインフォースはそう言った。
「…御苦労。それだけわかれば十分だ」
照井は井坂の写真を懐にいれて出て行こうとする。
「竜君!あいつにつれていかれたリリィさんを助けなくちゃ!」
「ふざけるなよ…!望んで悪党についていった奴を何で助けなければならん!」
照井の心は復讐で一杯だ。
「まってください!一人で行っても返り討ちに遭うだけです!」
「貴様、早死したいのか?」
「なんだと?」
ゼロとリインフォースの意見に照井は足をとめる。
「単独のマキシマムでは勝てない。共闘が必要です」
「殺される?上等じゃないか。…家族の仇を討てるなら俺はどうなってもイイ。…死んでも構わんッ!!」
照井の復讐への執着は相当のものだった。
「死んでも構わんだと?…そう思ってんのはお前だけだ!少しは周りを見ろ。心配してる奴らがいるだろ…」
「黙れ…!君らと和んでる暇など無いッ!!」
照井はそう怒鳴ると、有無を言わさずにでていく。
「…出会った頃の竜君に戻っちゃった」
亜樹子は残念そうな表情である。
「やっと仇を見つけたんだ。…ま、無理もねえか」
「我々も行くか」
「待ちたまえ翔太郎!」
「ゼロ。貴方もですよ」
フィリップとリインフォースは敵のもとに赴こうとしている相棒を制する。
「念のため忠告しておくが、照井竜がああなった今こそ、君に慎重さが必要だ」
「いくら魔人といえども、もし魔力を大量消費するようなことになれば…」
二人はそう言うも、
「うるせえなー。お前等は俺の御袋か?」
「貴様が私に指図するなど一万年早い」
「「………」」
そういわれると二人は黙ってしまう。
「…わかってる。無茶はしねえよ…相棒」
「誇り高き魔界の魔人の力は、貴様が一番良く知っているはずだ」
二人はそういって拳を前に突き出すと、
フィリップとリインフォースは、自分の拳を相棒に拳にぶつけた。
*****
超常犯罪捜査課。
「内科開業医、井坂深紅郎、42歳。こいつか…!」
照井は真倉に命令して取り寄せた資料を読むと、席を経って内科医院に向かおうとすると、大量の資料を抱えた刃野にぶつかってしまい。資料は床に散乱する。
「マジシャン一家の調査書か…」
「それが…結構かわいそうな境遇でしてね。
フランク白金は、後継ぎにと考えていた息子夫婦が事故死。孫娘のリリィに、彼のマジックの全てを託して、必死に鍛えてきたらしいんです。そりゃもう、血の滲むような特訓の日々に、彼女は子供のころから耐え続けて…」
すると刃野は心なしか泣き始める。
「…あんな街の屑、もうどうでもいい」
照井は刑事としてあるまじき発言をした。
*****
一方、
「んーこの顔どっかでみたことあるんだよねー!」
亜樹子がそういっていると、
「メリークリスマース!」
「おーサンタちゃん。あれ、足どうしたんだ?」
サンタは右足にギプスをつけて松葉杖を使ってでてきた。
「窓ふきのバイトしてたらさ、キュキュキュキュワアァーーーバタン」
分かりやすい表現だ。
そんでもって病院代がかさんで大変といった瞬間。
「病院………あぁぁぁぁ!!」
「心当たりがあるのか?」
いきなり叫んだ亜樹子にゼロが聞くと、
「この人!前にゆきほさんを診察した御医者さんだよ!」
「アァー!!」
それを聞いて翔太郎も叫んだ。
*****
そのころ、井坂は病院で透明になったリリィの身体を触診しながらメモリの修理をしている。
だがそれを傍で冴子がキツイ眼差しで井坂を見る。
「怖い眼だな。これは治療ですよ冴子君。急ぐようがあるなら申し訳ないが、暫く待ってください」
「そんな出来損ないのドーパントが…私より大事なの?」
「…今はね」
井坂がそう答えると、冴子は机においてあるペン入れの中身を机の上にぶちまけると、空になったペン入れをリリィに投げつける。
「あッ痛ったぁ!」
冴子はそのまま嫉妬に満ちた眼つきで診察室からでていってしまう。
でも井坂はそのことにさして気にもせず、
「…さ、もう大丈夫ですよ。メモリの不調は治まりました。姿を現してごらんなさい」
「ホントですか?…えい!」
――パチン――
指を鳴らすと同時に、リリィは透明状態から脱する。
それをみると、さらに何度も指を鳴らして透明・不透明化を繰り返す。
「やったぁ!自由に出たり消えたり出来ます!」
「メモリは体内にあるままですが、まあ支障はありません」
個人的にいわせてもらえば、十分に問題があると思える。
――ガラン――
そこへ照井が診察室に入ってきた。
(こいつ…アクセル…)
冴子は入ってきた照井の姿を垣間見る。
「刑事さん…。私を、捕まえにきたのね?」
「邪魔だ女。とっとと失せろ」
そう冷たくいわれると、彼女はハンガーラックから自分の服を取って透明になり、部屋をでていった。
「…みつけたぞ。俺の全てを奪ったWのメモリの男。井坂…深紅郎!!」
「やれやれ、出来ればイーヴィルに来て貰いたかったんですが。…この病院ともお別れですかね、名残惜しい…。流石刑事の息子ですよ。…照井 竜君」
井坂は照井の下の名前をピタリと言いあてた。
「俺の名前まで…」
「あの日、死の瞬間…照井雄治が呼び続けてましたから」
*****
【WEATHER】
恐怖する照井家に構わず、メモリを起動させてドーパントとなる井坂。
――せめて、妻と娘だけでも!――
――まあ…ついでです――
冷酷な言葉と共に、極寒の冷気を照井家に浴びせるウェザー。
――竜!竜ぅー!!――
*****
「照井雄治は、警察関係者のなかでも、ガイアメモリの存在を嗅ぎ付けてる人間ではありましたが…正直あのころは誰でも良かった。私の能力の実験ができれば」
外道そのものである。
「覚悟しろ…井坂。俺はもう自分を抑えられない」
【ACCEL】
「変…身ッ!!」
【ACCEL】
照井は怒りのままに変身する。
「自分を抑えられない…。いいですねぇ、私もです」
【WEATHER】
*****
同時刻。
「ヴィヴィオちゃん。貴女宛てに郵便ですよ」
「え、私に?誰だろう…?」
ヴィヴィオと御霊は自宅の部屋でくつろいでいると、前振り無しに届いた白い封筒。
それの中身を出してみると、
「「ッ!!?」」
二人は驚いた。
なぜならおくられてきたのは…。
「ガイアメモリと…ドライバー…」
差し出し人不明で送られてきた蒼いガイアメモリと専用のメモリドライバーだった。
*****
屋外にて闘い始めて数分。
戦況は圧倒的にアクセルの劣勢である。
そこへゼロと翔太郎が到着する。
「フィリップ!変身だ!」
『あぁ、照井竜と共闘だ』
(リインフォース。準備はできてるな?)
(言うまでもありません)
【CYCLONE】
【JOKER】
【MAGICAL】
【LEADER】
「『「『変身ッ!!』」』」
【CYCLONE/JOKER】
【MAGICAL/LEADER】
二組は仮面ライダーに変身して戦いに突入する。
「邪魔だ、退け!!」
アクセルはそれが気に喰わないのか、Wとイーヴィルをエンジンブレードで斬り裂く。
「何しやがる!?」
「礼というものを知らんのか?」
「手出しをするな!俺が倒すんだ!」
『力を合わせなければ、適う相手じゃない』
内輪もめをしていると、
「後ろ!!」
亜樹子がそれを知らせたとき、ウェザーはWとアクセルの身体を持ち上げて身に纏った高熱で焼いていく。
「ライダーは三人だぞ」
そこへイーヴィルがパンチを放った。
それによってウェザーからWとアクセルが解放される。
『待っていましたよイーヴィル。そこにいる雑魚だけでは物足りませんからね』
ウェザーはイーヴィルと対峙することを寧ろ喜んでいる。
『その減らず口、今すぐ叩けなくしてあげます』
「行くぞ…!」
イーヴィルが走ると、ウェザーは冷気・雷・竜巻といった気象攻撃を立て続けに繰り出す。
『あれ程多く能力を同時に発揮できるとは…!』
フィリップはその惨状を見て驚く。
「効くかッ!」
【KNIGHT】
【MAGICAL/KNIGHT】
イーヴィルはメモリチェンジによってマジカルナイトにハーフチェンジ。
ナイトグレイブ片手にウェザーに攻撃していく。
「俺達も行くぜ!」
【HEAT】
【HEAT/JOKER】
Wはヒートジョーカーにハーフチェンジ。
高熱パンチをイーヴィルに勢いに便乗してウェザーに喰らわせる。
【ENGINE】
【STEAM】
アクセルもエンジンメモリで高温蒸気を発しながらウェザーに斬りかかる。
だが、ウェザーはWとアクセルの攻撃を物ともせずに弾く。
唯一イーヴィルだけがウェザーと対等に渡りあえているのだ。
『…人とメモリは惹かれ合う。一つの能力では満足できない私は、多彩なパワーのウェザーに出逢いました。だがまだ足りないッ!!』
ウェザーは戦いに最中に語り出す。
『研究の末、私は様々なメモリの力を吸収して進化できるようになりました。もうすぐ透明にもなれるようになる』
『まさか、リリィ白金は?』
『そう。実験動物です。あのインビジブルメモリは、体内でロックされるように、私が調整しておいたのです。彼女はこのまま命の全てを消費して死ぬ。そして私が使える仕様となったメモリが残る。私は、それが欲しいだけなんです』
ウェザーの目的は人命を踏み台にしたパワーアップだった。
「ふざけんな!そんなまね、絶対させねえ!」
『無理ですよ。メモリブレイクしても死にますし』
アクセルはウェザーの話が一段落すると、エンジンブレードを投げ捨て、アクセルドライバーを手に取る。
「無茶だよ竜君!」
『単身で突っ込んでも意味がありません!』
亜樹子とリインフォースの言葉も聞かず、アクセルはバイクフォームに変形してウェザーに突貫するが、ウェザーは難無くそれを受け止めて殴り飛ばした。
その衝撃でアクセルメモリが弾けとび、変身が解除される。
『綺麗なガイアメモリですね。こんな純正化されたメモリやドライバーをつかっているような者が、私に勝てる筈がない。…あ、イーヴィルは例外ですよ』
そして、
『家族と同じ死に方をプレゼントしましょう』
手に極寒の冷気を纏わせるウェザー。
「…奴が…奴が目の前にいるのにッ!アァーーーッ!!」
照井は己の無力さを呪い、悔し涙を一粒流した。
「照井…」
Wは起き上がると、トリガーメモリを起動させる。
【HEAT/TRIGGER】
そしてトリガーメモリをトリガーマグナムのマキシマムスロットに挿入。
【TRIGGER・MAXIMUM DRIVE】
『無駄な抵抗です。この攻撃は防げない』
ウェザーにそういわれると、W・ボディサイドはヒートメモリをライトスロットから抜いた。
『なにをするんだ!?やめろ翔太郎!ツインマキシマムは不可能だ!ここはイーヴィルに任せるんだ、翔太郎!!』
しかし、ツインマキシマムによる超負担を恐れて、ソウルサイドがボディサイドのメモリ挿入を阻む。
「仲間の涙を見せられて…ジッとしてやれるかぁ!!」
『やめろ…!止めてくれぇー!!』
フィリップの声も虚しく、翔太郎は制止を振り払ってヒートメモリをベルトのマキシマムスロットに挿入した。
【HEAT・MAXIMUM DRIVE】
遂に発動したツインマキシマム。
【MAXIMUM DRIVE】
【MAXIMUM DRIVE】
【MAXIMUM DRIVE】
【MAXIMUM DRIVE】
翔太郎の感情に呼応するかの如く、怒り狂ったかのようにマキシマムドライブの音声が繰り返して鳴らされ、Wの身体は赤い超高熱火炎に燃え盛る。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!ウオォォォーーーーーー!!!!」
灼熱の熱き業火を身に纏い、Wは魂の叫びを響き渡らせていた。
次回、仮面ライダーイーヴィル
聖王の力Hよ/双【ツインマキシマム】
「この『欲望』はもう、私の手中にある…」
これで決まりだ!
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