聖王の力Hよ/双【ツインマキシマム】
フィリップの制止を振り払い、遂に翔太郎は最大の禁忌としていたツインマキシマムを発動させてしまう。
「うおおおおおおお!!ウオォォォーーーーー!!!!」
ヒートトリガーという9フォームの内最も攻撃性・危険性の高い組み合わせに変身している上に、二つのメモリの力を同時に限界まで引き出す。それによってWの身体は赤い超高熱火炎を纏いながら、トリガーマグナムの銃口をウェザーに向ける。
『ゼロ!』
「ッ!」
イーヴィルはWの命を賭けた一撃の巻き添えを喰らわぬよう、素早くウェザーから離れる。
そして、Wはその引き金を引いた。
書き表せられないような凄まじい轟音と共に発射された超々高熱火炎弾。
それはヒートトリガーのマキシマム・トリガーエクスプロージョンのそれを遥かに上をいく威力であるのは文字通り、火を見るより明らか。
ツインマキシマムはウェザーに進んでいき、 途方もない煙が起こった。
「やったか?」
命懸けのツインマキシマムを発射したことで、Wは身体中から機械の回路が断線したかのようなスパークを走らせ、変身が解かれると同時にボロボロとなって倒れてしまう。
「Wが!翔太郎君!!」
しかし其の時、誰もがWのツインマキシマムが通ったと思った。
でも……。
現実とは残酷なものだ。
「倒されてないじゃん!私聞いてないッ!!」
ウェザーはメモリブレイクはおろか、大したダメージを負った様子もなかった。
そのウェザーの圧倒的な力を陰で見ていた冴子は、
「凄いわ先生…!あのWとアクセルすら丸で寄せ付けない…!!」
と、ウェザーに称賛を贈る。
【BLASTER】
【TRICK】
【TRICK/BLASTER】
イーヴィルはトリックブラスターにハーフチェンジ。
そのまま無言のままでスロットからメモリを取り出す。
【EVIL/BLASTER・MAXIMUM DRIVE】
『フフフ♪イーヴィル、貴方の力の程、みせてもらいますよ』
ウェザーは次なるツインマキシマムをあえて受ける気だ。
「『ブラスターガンショット…!!』」
両手でブラスターキャノンを構えるイーヴィルは引き金を引いて最大の砲撃を発射した。
無論ウェザーも持てる気象能力の全てを注ぎ込んでその砲撃と相殺させようとする。
『む…!うぅ…!!』
しかし、トリックブラスターの必殺技が余りに強力なせいか、ウェザーは相殺させるのに時間をかけてしまったが…。
『ハッッ!!』
全身全霊を持って、ウェザーはブラスターガンショットを打ち破ったのだ。
「…化物が!」
照井はウェザーの床知れぬ力に地面を叩いて悪態をつく。
『ハア、ハァ…。す、素晴らしい。これ程までに私の体力を削り取るとは…!だがもう貴方は万策つきたようですね』
かなりの体力を消耗しながらもウェザーは勝利に対する確信の念を揺るがすことはない。
「…フッ…」
其の時、イーヴィルは死角をつくかのように笑った。
「今のはカモフラージュだ。本命は、そっちだ!」
『なんだと!?』
ウェザーが後ろを振り向くと、そこには…。
「魔帝7ッ兵器…深海の蒸発!!」
古代魚の姿を模した、魔界の帝王が誇る大砲型兵器。
――ズドオォォォーーーーーン!!!!――
『うあああぁぁぁぁぁぁ!!!!』
幾らウェザーが超人や化物であろうとも、本物の魔人(ばけもの)の王様の護身兵器が放つ攻撃をまともに喰らえば無事なわけない。
変身こそは辛うじてギリギリの瀬戸際でたもっているが、いつメモリが井坂(ユーザー)の肉体に限界を感じて自動排出されても可笑しくはなかった。
其の時だった。
ドス黒いヘドロのような物が大量に発生する。
「この感じ…あの時の根源…!?」
フィリップはドライバーを通して嘗て一度味わったあの恐怖を再び感じとる。
そして、高笑いと共にテラー・ドーパントが現れる。
「お父様…!」
冴子はテラー・ドーパントの予想だにしない登場に焦りの声を漏らす。
『…なんの、御用で、しょうか…?』
イビルアクアによるダメージのせいで、ウェザーも流石に言葉が途切れ途切れだ。
『見てわからんかね?御茶の誘いだよ井坂君』
『…それは光栄です。…御供しましょう…』
ウェザーは今のダメージでイーヴィルとやり合うのは危険すぎると踏んで、テラーの誘いを受けて姿を消した。
冴子もそれを見て立ち去った。
『あのドーパントは一体…?』
リインフォースは今までのドーパントとは比較にならない恐怖感を覚え込ませたテラーに、背筋が凍る思いをした。
「翔太郎君!なんでこんな無茶したのよ!?」
亜樹子は翔太郎に駆け寄る。
照井はふら付きながらも翔太郎に歩み寄り、イーヴィルも変身を解除する。
「照井の泣き顔見てたら…身体が勝手に動いちまってさ。…こいつも今じゃ、俺達の仲間だしよ…」
「自業自得だ…!手出しをするなと言ったのに余計な真似を…。無限もいたと言うのに」
照井のキツイ言葉にも、翔太郎は薄っすらと笑い…。
「後は頼んだぜ、照井、無限…。リリィのこと…助けてやんなきゃな…。俺達は…この街の………仮面ライダーなんだからさ」
翔太郎はそういいながら帽子を被る。
そして、その身体は意識と力を失った。
「ドーパント女の心配まで…。バカが…!」
その照井の言葉をドライバーを通して聞いたフィリップは、
「なんだって?…照井竜!!」
*****
ガレージに重傷を負った翔太郎を連れ帰ったものの、
フィリップは照井の肩を掴んで今にも喧嘩が勃発しようとする雰囲気である。
「ちょっと!そんなことより翔太郎君の手当が先でしょ!?」
「ガイアメモリを酷使して発生したダメージは通常の治療では効き目が極めて薄い。本来なら使用者本人の生命力を頼りにするしかないんだが…。リインフォース、回復魔法を」
「今やってます」
ガイアメモリの酷使で瀕死の重傷を負った翔太郎に、ゼロの指示でリインフォースは回復魔法をかける。
「じゃあ、なんでフィリップ君と竜君がケンカしてんのよ?」
亜樹子は険悪にもほどのあるこの空気に堪えられず、そう聞いた。
「さっき検索を完了した。井坂が仕掛けたメモリの罠かな?リリィ白銀を救う方法が一つだけある。それを実行できるのはアクセルだけだ。だが、彼はそれを断った!」
「そんなことより、井坂の居場所を検策しろ」
「誰のせいで翔太郎が倒れた思っている!この街にいる仮面ライダーはイーヴィルと君しかいないんだぞ!!」
フィリップは普段ださない感情を思い切り爆発させている。
「俺の復讐が先だ」
「なら…君とって仮面ライダーとはなんなんだ!?」
フィリップが聞くと、照井はいきなり彼を殴った。
「俺に、質問するな」
照井はそういってガレージからでていってしまう。
「刑事失格だな」
ゼロは復讐に囚われた照井に向かって静かに呟いた。
*****
「過剰適合者。そう私は呼んでいます。時たま現れるんですよ。メモリとの相性が異常なまでに高い体質の人間が。あのリリィ白銀と、インビジブルが正にそれです」
井坂はフォークとナイフを皿に置いて食事を終える。
「いやー失礼。御茶だけでなく、食事まで」
井坂のスペースには何重にも積み重なった皿の山。
普通に考えれば常人の胃袋の許容範囲をこえているのは明白だ。
「異常なまでのカロリー消費だな。さっきまで酷く手負いの状態だったというのに。…もしかしたら、大食い大会であの名探偵と張り合えるんじゃないか?」
琉兵衛は井坂の食事量に感心するようなあきれるような心情である。
「複数のメモリの力を吸収する君の貪欲さそのものだ」
「薄気味悪い方ですこと」
若菜も若菜で悪態をつくと、冴子は釘を刺す。
「中々肝の据わった男だ。こんな状況のなかで飯が喉を通るとはな。冴子となにを企んでいるのかね井坂君?」
核心に迫るような問いに冴子の表情は変化し出す。
「若菜も困惑していてね。我が家族を乱す者はこの地上には存在を許さない」
冴子は何時でも変身できるよう、タブーメモリをスタンバイする。
すると井坂はネクタイを行き成り外したかと思えば、そのままYシャツのボタンを外した。
そして、自分の胸に刻まれた無数の生体コネクタ痕をみせたのだ。
(コネクタがあんなに沢山…!?)
若菜はそれを見て驚き、冴子はなにやら微笑をうかべている。
「私ほど熱心なミュージアムの支持者はいませんよ、園咲さん。ガイアメモリの真実を極めたいという気持ちは…貴方も私も、冴子さんも同じです。…全ては貴方のため。宜しかったら私を実験台に」
それを聞くと、琉兵衛は笑った。
「大した男だな君は。…もう、病院には戻れんだろう。暫くここで、ゆっくりしたまえ」
そういうと、琉兵衛は若菜と飼い猫のミックと一諸にその場から出た。
(切り抜けた…お父様を…)
冴子は自身に満ち溢れる井坂を見ながら感服していた。
「それから園咲さん」
「…なにかね?」
井坂は琉兵衛を呼びとめた。
「最近現れた仮面ライダーイーヴィルの力は私の想像を遥か上を行くものでした。もしかしたら彼は人間ではないのかもしれない。……近い将来、ミュージアムにとって最大の障害になるやもしれません」
「…覚えておくとしよう」
*****
『ファーストキーワード・過剰適合者。セカンドキーワード・ガイアメモリ。サードキーワード・摘出』
次元書庫でリリィ白銀を救うために検策をするも、最後に残った本の題名は…。
『DEAD…か』
最悪な結果を示すものだった。
『ファイナルキーワード・アクセル』
最後のキーワード入力で導き出された答えは…ALIVE。
「やはり、リインフォースの次元書庫で検策しても解答は同じか…」
「ねえフィリップ君。もういちど竜君に頼もうよ」
「それが最善だと思うんだが…」
「…僕は嫌だ。彼のせいで翔太郎は…」
フィリップにそう二人は言うも、刊人のフィリップは意地をはってしまっている。
「でも、リリィさんの命がかかってるんだよ!」
「………」
「…ならば、我々が行きます」
そういってゼロ、リインフォース、亜樹子はでていってしまう。
なお、照井の居場所は真倉から聞きだした。
無論それはゼロを最も恐怖する真倉の本能が、刑事としてのプライドを上回った結果である。
*****
白銀家前。
「いたわね、竜君」
「帰れ」
亜樹子が呼び掛けようとも、照井は一蹴してしまう。
でも…。
「なにを偉ぶっている?この役立たずめが」
「イダダダダ!!」
いきなりゼロが四の字固めをしてきた。
「照井よ。復讐に生きることを固執すれば貴様は何れ惨めな最期を遂げることになるぞ」
「うるさい、お前に俺のなにがわかる!?」
「わかりたくもないな、下等生物の考えなど。私は貴様のように家族をドーパントに皆殺しにされ、仮面ライダーとなって復讐に燃え上がった男をしっている」
ゼロは唐突に仮面ライダーネイル=ディアンのことを話し始めた。
そして彼がドーパント達を惨殺し、一時は人の道からはなれていたことも話した。
「だがな照井。あいつが人の道に戻ってこれたのは仲間との絆を得たからだ。…貴様は人の道を歩むために必要なものを自分から手離そうとしている」
「そんな奴と俺を一諸にするな!それはそいつが甘ちゃんだからだ!今の俺にそんなものは――パァン!!――……!!」
乾いた音。
それはリインフォースが照井の頬を叩いた音だった。
それと同時にゼロによって四の字固めから間接技をかけられていた照井は解放される。
「絆が要らない?フザケルナ…!お前も…いや人間全ては絆が無ければ生きていけない。それを捨てるということは生きることを放棄するようなものだぞ。ディアンは決して甘ちゃん等ではない、寧ろ冷たい位だ。でも彼と私達が仲間でいられるのは、絆で繋がっているからこそ。…それを否定するなら、お前は仮面ライダー失格だ」
何時もとは違う威圧感、口調。
亜樹子と照井はリインフォースの豹変ぶりに驚いた。
そこへ…。
「兄ちゃん兄ちゃん。そんなとこで待ってないで、中に入ったらどうだ?」
フランク白銀がでてきた。
*****
白銀邸。
「物凄い形相だな。さっきよりは幾分かマシになったが」
フランクはゼロ達にお茶をだす。
そして照井の握り拳を触ってそのまま手を離すと、照井の拳からは紐で繋がった大量の国旗がでてきた。
さらに左手からはオートバイのフィギュアを出した。
「あんたオートバイ好きだろ?これやるよ」
亜樹子は驚き、リインフォースは興味深げな表情をしている。
「その顔だ。驚いたり笑ったり、御客さんが楽しむ顔を見るために、裏で七転八倒する。それがワシらマジシャンなのさ。リリィも、ちゃんとそんなマジシャンの端くれだ。それが嬉しい、無性に嬉しい」
フランクは本当に嬉しそうな顔をしている。
「…例え、あのこが、不正を犯していたとしても…」
「あんた知ってたのか?…彼女がなにをやっていたのか」
「なにかは解らんが、薄々な。自分が考えた仕掛けで、消える大魔術をやらせて欲しいだなんて。普通なら、リリィに言えるはずない。ただ…」
「ただ?」
「なんですか?」
「……孫としては心配だ」
その時照井は無表情ながらも、その内の心にはなにかがおこっていた。
その時、リリィが帰ってきた。
「警察!」
しかし照井を見るやいなや、買い物袋を置いてすぐさま家から飛び出してしまう。
「待て!」
「…はあ、仕方ない」
後をおった照井とゼロは一回はリリィを捕まえるも、リリィはマジシャンとしてのパフォーマンスの特訓で培った身軽さで二人を振り抜け、透明になった。
「そんなに透明になりたいなら手伝ってやる。
魔界777ッ能力…毒入り消毒液」
ゼロは魔人態となって口を開くと同時に消視液をリリィ目掛けて浴びせる。
「ちょ!なによこの汚いドロドロ!?」
「そこか」
声で居場所がバレた。
ゼロは手になにやら少し汚れた雑巾をもっている。
――ガシッ!――
「放して!放してよ!」
「………」
幾らいってもゼロが聞くわけない。
そのまま雑巾でリリィの身体に浴びせた液体を拭き取る。
「な、なにこの雑巾?なんか臭うんだけど…」
「当たり前だ。零した牛乳をふき取って乾かした雑巾だからな。あ、それとゴキブ「いぃやぁぁぁぁぁ!!放してよぉーーー!!」…却下♪」
その時、ゼロはとっても清々しい素敵な笑顔だったという(ドS成分を含む)。
そんな光景を見ていた照井の頭に浮かんだ言葉は…。
――ドS魔人――
これしかないと思う。
五分後、漸く液体をふきおえる。
そして、インビジブルメモリを今の状態で使い続けて透明になれば命の灯火が消えることも話すと。
「…お祖父ちゃんの晴れ舞台なの。だから私は消える大魔術をやってみせて……安心して、引退させてあげなきゃいけないの」
リリィは照井の腕を掴んで、
「お願い見逃して。このステージだけはやらせて」
「諦めろ。死にたいのか?」
懇願に対しても照井は冷徹に答える。
「それがなによ!?私はどうなってもいい、死んだって構わない!」
「そう思ってるのはお前だけだ!少しは周りを見ろ。心配してる家族がいるだろ!」
だがその時照井は気付く、このやり取りは正に前回における自分と翔太郎そのものだということに。
(俺が左と同じ言葉をいうとは…)
「お前等、案外似た者同士なんだな」
ゼロは翔太郎と照井の根底にあるものがよく似ていることに気付く。
*****
再び白銀家。
三人が戻ってくると、
「これで、お終いかな」
フランク白銀は悟ったかのようにそう言った。
照井はリリィに自分と顔を向き合わせてこう言った。
「最後のステージだ、悔いの無いようにやれ」
「刑事さん…」
「ただし…ラストステージが終わったら、必ず俺の処置を受けるんだ。……俺の、俺の仲間が見つけた…君を救うための処置を」
*****
園咲家。
「お部屋はどうですか?」
「ガウンのサイズが合わないこと以外は、全て快適ですね」
部屋でガウンに着替えた井坂は冴子にそういった。
「…ごめんなさい。前の主人の物しかなくて…」
それを聞いてガウンに”KIRIHIKO”と書いてあることに気付く。
園咲霧彦
旧姓は須藤。元々はミュージアムの傘下会社・ディガルコーポレーションでガイアメモリのセールスマンを生業としていたが、過去最高の売上を記録したことで冴子に気に入られて婿養子となり、ガイアドライバーとナスカメモリの受け取ってミュージアムの幹部となった。しかし、琉兵衛にとって風都はガイアメモリの真価を見出すための実験場に過ぎないことや、未来を担う子供達にまでメモリを与えていることを知って風都を幼少の頃から愛し続けた者として園咲家に反目し、バードメモリの力に精神を囚われた少女を助けるべくWに協力した後、進化したナスカメモリのパワーに肉体が限界に到達した挙句、最愛の妻である冴子から”用済み”として殺されてしまった悲運の男である。
「さて頃合いだ。ちょっと遊びにでかけてきますよ」
そんなこともお構い無しに井坂は軽い口調であった。
*****
ステージ会場。
四人がベンチに座っていると、そこへフィリップとヴィヴィオがきた。
「フィリップ…頼む。俺に…――バキッ!!――」
フィリップは照井を全力で殴った。
「これは翔太郎から教わった。殴られた後の、仲直りの儀式さ」
そういって照井に手を差しのべる。
「左も粋なことをしっているな」
手を取って立ち上がる照井を見て、ゼロは「うんうん」といって頷いている。
「ねえママ。あれって…」
「…多分、男の人にしかわからないモノなんでしょうね」
今一男の友情が理解できない二人だった。
「話はアキちゃんから聞いた。メモリの摘出方法を教えよう」
そうしてマジックショーが始まる。
「レディース、アーンド、ジェントルマーン!フランク白銀のマジカルステージをようこそ」
そして主役のリリィが見事な連続バク転でステージに登場する。
「今回はキメたな、リリィ」
ちゃっかりと感想をいっている照井。
そこへ…。
「おやおや、これは奇遇ですね」
「井坂…」
「この際ついでです。ここで片づけておきましょう」
井坂はメモリを手に持ち、
【WEATHER】
『憐れな家族の、生き残りくん』
ウェザーに復讐心を掻き立てられるで台詞を耳にしても、
「お前などの相手をしている暇はない」
『なに…?』
「俺はリリィを救いにいく」
因みにこんな状況になっても、客達はステージに注意がむいているため、ウェザーの存在に気付く者はいない。
『あの女は間もなく死にます。無駄なことを何故?』
「彼女もマジシャンの端くれ。…そして俺も、仮面ライダーの端くれだからな」
『ハハハハハ…。これだから青臭いドライバー使いは!!』
ウェザーは灼熱弾を発射するも、照井はメモリガジェット・ビートルフォンを操作してガンナーAを呼び出して防いだ。
そしてビートルフォンのスイッチを押すとガンナーAは一直線にウェザーへ突進する。
だがウェザーの能力によって氷漬けにされていく。
「急ぐぞ」
照井達は場所を移動しようとするが、
ヴィヴィオは皆とは反してウェザーの前に立つ。
「パパ、ママ!私が戦う!」
「バカを言うな。貴様には荷が重すぎる」
「大丈夫だよ。私も、パパ達と同じ力を手に入れたから!」
ヴィヴィオは変身ベルト・ホーリードライバーを腰に装着。
「ヴィヴィオ…貴女…」
リインフォースの声にも厭い無く、ヴィヴィオはガイアメモリを起動させる。
【HOPPER】
「変身…ッ!」
ホッパーメモリをスロットに挿し込むと、開かれたバックル両サイドのハンドルを閉じた。
【HOPPER】
二度目のガイアウィスパーが唸ると、ヴィヴィオの身体は蒼白い風を纏って、その姿を大きく変えた。
白い複眼を光らせたバッタの如きダークブルーの仮面、ダークブルーのスーツやグローブにブーツ。首に巻いた赤いマフラー。
仮面ライダーホッパー。
新たなる戦士が今此処に降誕した。
「さあ!…決めるよ」
*****
ステージではリリィの透明化能力で一時的に客の眼を欺き、箱を開けた瞬間にリリィが外に出て姿をあらわすことで観客たちを大いに盛り上がらせた。
しかし、舞台が成功した直後にインビジブルメモリの副作用で命が尽きようとしたことを察したリリィは、急いで舞台裏に駆け込んだ。
最早限界が近いことはよくみなくてもわかる。
リリィの肉体は桜色の粒子となってみるみる消えていく。
そこへ照井たちが駆けつける。
「…ありがとう。最後までやらせてくれて。…さようなら。ちょっと怖いけど…カッコイイ、刑事さん…」
そういってリリィの姿は完全に消えた。
「君は俺が守る」
【ACCEL】
「変…身!」
【ACCEL】
「フィリップ」
「あぁ」
【DENDEN】
アクセルはフィリップに呼び掛け、
フィリップはデンデンセンサーの探知波で透明になったリリィの居場所を特定する。
【ENGINE】
【ELECTRIC】
エンジンブレードにエンジンメモリを挿入すると同時にグリップのスイッチを押して電気エネルギーを纏わせる。
「なにをするんだ!?」
「死んでもらう」
フランク白銀の問いにアクセルは冷静に返答した直後、
リリィの身体に電撃一閃した!
それと同時にメモリは身体から排出され、リリィも透明化が解けた。
そしてアクセルはリリィの身体に刀身を押しあてると、
――ビリビリ!!――
電気ショックを行われたリリィは眼を覚ました。
「リリィ!!」
フランク白銀は孫娘の生還を喜んで彼女を抱き起こす。
「私、生きてる…?」
当人はなぜ自分が助かったのかが理解できていないようだが。
――ドガッ!!――
そこへ鈍い音と共にウェザーが吹っ飛ばされてくる。
『イタタ…。!?なにをしたんです!?死なない限り排出されないメモリが!』
「彼女は一度死んでいる」
驚くウェザーにフィリップが当然のように説明する。
「逆転の発想さ。殺さずにメモリを抜く方法がないなら、死ぬのを前提に考えればいい。一度心臓を止め、メモリに彼女は死んだ、と認識させて体外に排出させた」
『まさか!?』
「そして最後は、電気ショックで心臓を動かす」
「ちょっとした大魔術だろ?井坂…!」
説明が終わると、アクセルはインビジブルメモリが握力で粉々にする。
『持ち主を殺すほどの力を宿したメモリ。それを我が身に挿す実験が私の楽しみだったのに…!許せん…!!』
ウェザーは激怒する。
「許せないのはこっちだよッ!」
そこへホッパーが跳び蹴りを御見舞いする。
『うあぁー!…小娘如きがぁ!!』
ウェザーはさらに怒りのボンテージを上昇させる。
そして遂にウェザーとの本格戦闘が始まりホッパーとアクセルは一般人観客のいるステージ上に姿を見せ、観客達が逃げ惑うなかでも構うことなくウェザーと戦いを繰り広げる。
幸いにも互いにスペックの高いアクセルとホッパーが二人がかりで戦っているので、ウェザーとも対等にわたりあえている。
しかしウェザーは二人と一旦距離をとって、後ろ腰にマウントされている万能チェーン武器・ウェザーマインをてにとる。
『最早凍らせて砕くなど生温い!塵となれ!』
ウェザーは鞭のように伸縮するウェザーマインを振り回してダメージを与えようとするが、咄嗟にホッパーが魔力障壁を展開して防ぐ。
『またしても…!!」』
ウェザーが忌々しげにホッパーを睨む。
そのタイミングで、
――グォォォ!!――
ファングメモリとダークネスメモリがウェザーの攻撃を阻み、主人の手に収まってメモリモードに変形する。
【FANG】
【DARKNESS】
(行くよ、相棒!)
(ああ、フィリップ)
【JOKER】
「「変身!」」
【FANG/JOKER】
「行きましょう、我が主よ」
「応…相棒」
【LEADER】
「「変身ッ!」」
【DARKNESS/LEADER】
二組は其々、ファングジョーカーとダークネスリーダーに変身する。
「左、眼が覚めたのか」
『そういう事だ、照井』
「僕も驚いたよ。大丈夫なんだろうね翔太郎?」
『俺の身を案じるなら、とっと片付けてをつけて休ませろ』
「ハハ♪了解した!」
――ガシャン!――
【ARM FANG】
ファングジョーカーはタクティカルホーンを弾いて右腕にアームセイバーを生やす。
――ガシャン!ガシャン!――
【ARROW DARKNESS】
ダークネスロードもアローブラッカーを手に持つ。
集結したライダー四人は一斉にウェザーに攻撃する。
流石のウェザーも強力なメモリを使用したライダー四人を同時に相手するのはキツイのか、圧倒的な劣勢となる。
さらに四人が同時に蹴りと武器による突きでウェザーをステージから引き摺り下ろすと、ウェザーは雷を伴った竜巻を発生させる。
『またヤバそうなのが来るぜ』
「皆、マキシマムでいこう。いけるよね?」
【ACCEL・MAXIMUM DRIVE】
『そうこなくっちゃ』
「張り合いが無くなってしまうからな」
――ガシャン!ガシャン!ガシャン!――
【FANG・MAXIMUM DRIVE】
【DARKNESS・MAXIMUM DRIVE】
Wは右足にマキシマムセイバー、イーヴィルも右足にマキシマムブラッカーを結集させる。
【HOPPER・MAXIMUM DRIVE】
ホッパーもベルトの両サイドバックルに付けられたレバーを下してマキシマムドライブを発動。
倍増したメモリのパワーと聖王の魔力が右足に集まっていく。
『いいか?全員タイミング合わせて、ライダークワトロマキシマムだ!』
翔太郎の声に皆は黙って頷き、
「今こそ呪われた過去を、振り切るぜ!!!!」
四人は必殺キックの構えをとり、高らかに跳躍する。
「『「『「「ライダー!クワトロマキシマム!!」」』」』」
放たれた四人の合体攻撃。
竜巻は其々の攻撃を受けたことで四つに分断し、ウェザー本人にお返しされる。
『なに!?うおぉあああぁぁぁぁぁ!!!!』
*****
戦いが終わり、一同は変身を解いたが…。
「井坂もウェザーメモリも見当たらない。…逃げたか」
「だが、リリィ白銀は救えたね。君のお蔭だよ、照井竜。あの危険なメモリ摘出方法を躊躇なく、しかも正確に行うとは…。凄い男だよ、君は」
一方、
「んだよ寝てる間に…。また、妙に仲良くなりやがって」
と、翔太郎はそういってまた横になった。
「…フフフ♪」
「なにかあったんですか?」
「パパ、なにも無いところで笑わないで。ちょっと不気味なんだけど…」
唐突に微笑み始めるゼロに身内二人がそういうと、
「今回ウェザーは逃したが、代わりにもう一匹上等な『欲望』を抱えた者があらわれたようだ。…先の楽しみ増えたな」
そうして皆が帰る際に、
「強くなってきた。いいわ、竜。…来人」
照井にアクセルの力を授けた謎の女・シュラウドは陰ながら称賛の言葉を送った。そして何故かフィリップの本名と思われる名前までもを口にした。
*****
園咲家。
「井坂先生…随分遅いわ…」
冴子は部屋で井坂が戻ってくるのをまっていた。
其の時、風が音を立てて来ると、井坂は満身創痍・疲労困憊の状態でもどってきた。
「先生…!」
「…危なかった。…もう少しでメモリをブレイクされるところだった。…厄介なのはイーヴィルだけと思っていたが、他のライダー達も中々侮れないな…。”彼の助け”が無かったら、今頃どうなっていたことか…?」
すると冴子は井坂に抱きついた。
「良かった…無事で。もう一人で無茶しないで」
しかし、冴子ほどの美女にこれほどまでに尽くしてもらっているにも関わらず井坂は、
(それにしても、腹が減ったな…)
食欲魔人だった。
そんな光景をミックと一諸に開きかけのドアからこっそりと見るものが居た。
「院長…貴方も隅に置けませんね」
其の手にはウェザーメモリと同格の銀色のガイアメモリが握られていた。
【ELEMENTAL】
*****
事件は終わり、リリィ白銀は救われた。
まだあの危険な男は見つかっていないが、照井のなかで何かが一歩進んだ気がする。
それが俺達の一番の収穫だ。
だが、一番気になるのはヴィヴィオが変身した仮面ライダーホッパーだ。
無限によると、あれはとある罪人が作りあげた償いの内の一つなのかもしれないと言った。
「こら!ベッドでタイプなんか打つな!」
亜樹子は翔太郎からタイプライターを取り上げる。
文句を言う翔太郎。
そして静かに時を過ごす、他のメンバー。
戯れ合うガジェット達。穏やかな時間。
そんな時、
「こんにちわ!」
リリィが訪ねてきたのだ。
「あ、居た。お礼に来ました」
敬礼の真似をしながらリリィはそういった。
「おーリリィ。…俺なら、大丈夫だぜ。何しろ、鋼の名探偵…ハードボイルド・左翔太郎だからな」
怪我人状態でカッコつける翔太郎だが、リリィはあっさりとそれを避けた。
「竜さん!」
「…そっちかよ!」
リリィは照井に抱きついた。
「貴方は命の恩人です」
――チュッ――
リリィは照井の頬にキスした。
「ヒュー!」
「大胆///」
(羨ましい…私も思い切ってゼロに///)
女性陣はそれ相応の反応だった。
ついでにリインフォースも着実に恋心を育んでいた。
「素敵な刑事さん♪私の心が、逮捕されちゃいました♪」
「…軽い。やはり軽過ぎる」
呆然とする照井に、打ちひしがれた翔太郎。
そんな様子をしっかりゼロはバットショットを使って撮ってた。
(フハハハ…。いつか左と照井をイビるネタに出来そうだ)
腹黒笑顔だった。
「興味深いな。今のはどういう…?」
フィリップが質問すると、
「俺に………俺に質問するなぁーーーーー!!!!」
風都で吹く風の音は、まるで照井の必死な叫びを乗せているかのように聞こえた。
次回、仮面ライダーイーヴィル
WとAの来訪/都【ミッドチルダ】
これで決まりだ!
仮面ライダーホッパー
ヴィヴィオがホッパーメモリとホーリードライバーで変身した仮面ライダー。
格闘能力を徹底して強化する仕様となっているため武装こそは皆無だが、その代わりにファングジョーカー以上の身体能力を誇る。さらにはヴィヴィオの魔力をも増大させるため、戦闘力はより跳ね上がる。決め台詞は「さあ!…決めるよ」。
必殺技はベルト両サイドバックルのマキシマムライドレバーを作動させることで、倍増したメモリのパワーと魔力を右足に集中させて放つ”ホッパーライダーキック”。
外見は”THE FIRSTの1号”と酷似している。
身体能力
身長・185cm
体重・70kg
キック力・15トン
パンチ力・10トン
ジャンプ力・90メートル
走力・100mを2秒
ホッパーライダーキック・40トン
ホッパーメモリ
「バッタの記憶」が刻み込まれた蒼いガイアメモリ。
ホーリードライバーを組み合わせて使うことでヴィヴィオの肉体をホッパーに変身させる。
ホーリードライバー
ホッパーの変身ベルト。聖王の遺伝子を秘めるヴィヴィオのみ使えるようプロテクトが施されている。メモリスロットにホッパーメモリを挿入したのち、開かれたバックルのサイドハンドルを閉じることで変身する。開発兼製作者はプレシア・テスタロッサ。
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