それでは、本編どうぞ

風が呼ぶB/獣【やじゅう】


ナイトメア・ドーパントの事件から数日後。
風都のとある刑務所から、一人の男が刑期を終えて出所してきた。

「…十年ぶりのシャバの風か…」

男が歩く最中、偶然にも一枚の新聞紙が足元にとんできた。
男はそれを捨てようとするも、新聞紙にかかれていた記事の一面をみた途端、眼付を鋭くした。

――バサ!――

男は新聞紙を金繰り捨てた。





*****

――左翔太郎…貴方にとって不吉な存在。一緒にいてはいけない。あの男とは別れなさい――

――あの魔人(ゼロ)こそ、貴女に秘められた力の全てを…引き出すことのできる唯一の存在――

探偵事務所で、フィリップとリインフォースはその言葉を思い返していた。

(何故…シュラウドはあんなことを?)
魔人(ゼロ)でしか引き出せない、私の力とは…?)

二人が思い悩んでいると、

「どうした二人とも?」
「なにを考え込んでいる?」

ゼロと翔太郎が尋ねるも、二人はボーっとしている。

「どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません」
「だったら早速検策を頼みたいんだが」

照井はフィリップとリインフォースに新聞を差し出すも、ゼロが取り上げて照井のみていた記事を読む。

「野獣人間、再び現れる!?…ドーパント絡みか」
「野獣人間つったら、十年くらいまえに都市伝説になってたな」

照井の真意を理解した直後、事務所のドアをノックする音がすると、先述の男がはいってきた。

「ゲッ!強面おじさん!」
「亜樹子ちゃん。幾らなんでも初対面の人に向かって…」

明らかに失礼な発現をする亜樹子にヴィヴィオが注意する。
ゼロは強面の男に近寄り、若干見下ろしながら

「誰だ貴様…依頼人か?」

と聞いた。
男はテーブルに荷物を置きながら、

「鳴海壮吉の旦那はいるか?…俺は尾藤勇。旦那に世話になってたもんだ。十年間ムショにはいってたが、出てきたら会いに来るよう言われていた」

尾藤と名乗った男は用件を口にする。
しかしそれは最早叶うことはない。

「…おやっさんは…」
「父は…父は、死にました」

壮吉の死んだビギンズナイトのこともあり、話すことを躊躇う翔太郎に代わって、亜樹子が話す。

「亡くなったのか?…鳴海の旦那が…」
「不慮の事故で…」

それを聞くと、尾藤は椅子に座りこんでしまう。

「い、今は娘の私と、この弟子の翔太郎君が探偵やってます!なにか父に依頼でも?」
「いや…調べモノをしてくれていると面会の時にいっていた。それが俺への出所祝いだと…」

尾藤の話を聞き、亜樹子は戸棚からファイルを引っ張り出してみるも、尾藤に関わる捜査記録は明記されていなかった。

尾藤は事務所からでていこうとするも、翔太郎は壮吉の弟子として役に立ちたいと申し出る。
だけど…。

「半人前に用はねぇよ」

――バチッ!――

「ガーーーン…会ったばっかりなのにー!」

デコピンされてショックな翔太郎。

「取り合えず追うか。…あの男、『欲望』への道標になるやもしれん」

ゼロが尾藤を追って事務所からでると、

「お、追い!待ってくれよ!」

翔太郎も急いで後を追った。

(シュラウドは、翔太郎のどこが不吉だと言うんだ…?)
(私に秘められた…強大なる力…)

ベッドとソファーに腰かけたフィリップとリインフォースはやはり思い悩んでいた。





*****

尾藤勇。四十一歳。
何処かおやっさんの時代の匂いのするこの人をみていると、胸のなにかが騒ぐ…。

「俺の人生のなにかが、大きく変わる予感…」

カッコつける翔太郎に、

――バチ!バチッ!――

尾藤とゼロが額と後頭部にデコピンする。

「えェー…。つーかなんで無限まで?」
「さっきから地の文のつもりでブツクサ呟いてたのが気に喰わなかった」
「俺も同意見だ」

ゼロ達がそういうと、尾藤はタイヤキ屋に話し掛ける。

「俺、以前このあたりの出店仕切ってた尾藤ってもんだけど…子分のマル…いや。有馬丸男に会いてーんだけど」

「え?…いや知らないっすね」

有馬丸男(ありま まるお)
その名を聞いたタイヤキ屋はバツの悪そうな表情。

「翔ちゃ〜ん♪」
「おー、ウォッチャマンじゃねーか。どうした?あ、またグルメブームの写真か?」
「まあね」

思わぬところでウォッチャマンと遭遇。

「今ちょっと聞こえちゃったんだけど、その有馬って人なら、この辺り一帯を牛耳る土建会社の社長だよ」

「社長?…マルが?」





*****

「鳴海壮吉…。かつて組織と戦った男か…」

照井は壮吉の写真をみて、亜樹子に返す。

「僕も命を救われ、生き方を教わった」
「凄い男だったようだな。…会ってみたかった」
「お父さん、あの人になにを残したんだろう?…ねえ二人とも、検策!できる?」

亜樹子の問いに、二人はYESと答えた。





*****

風都の超高級マンション。

ウォッチャマンから聞いた部屋番号をたずねると、部屋からは和服を着た四十歳前後の女性がでてきた。

「……サム!」
「ベル…久し振りだな」

二人は旧い馴染みなのか、ニックネームで呼び合う。

「一件複雑そうに見えて、安直なネーミングだな」
「え?どういうこと?」
「昔の渾名だよ。勇のサムに、鈴子だからベル。もう一人が俺の弟分、有馬丸男、そいつがマルだ」

中々粋なわかりやすい渾名のつけかたである。

「やだ…なんだか恥ずかしいわ。さ、上がって」

鈴子(ベル)は上機嫌に三人を迎え入れる。

部屋のなかは正しくゴージャス感の溢れるモノであるが、その一角には畳が敷かれている上に将棋盤が置いてあった。

「相変わらず将棋か」
「上手く負けるための練習よ。あの人の御機嫌とり♪」
「マルは…亭主は、元気か?」

尾藤が聞くと、鈴子は少し返答に戸惑う。

「元気だよ。尾藤さん」

奥の部屋からは有馬丸男がでてきた。
社長という権力と財を手にしたからなのか、かなり偉そうな態度である。

「御出所、おめでとうございます」
「…マル…」

皮肉を口にする有馬に尾藤はかつての呼び名を使う。

「困るんですよね〜。マルだのベルだの昔のままでいられちゃ。…今の俺達夫婦には立場ってものがあるわけなんですよね」
「あなた、折角来て頂いたのにそんな言い方―――」
「鈴子、お前は黙ってろ」

有馬は鈴子を無理矢理退かした。

「マル、テメー…!」
「帰って貰えませんかね?あんたみたいな人に来られると、変な噂になりますから」
「俺も変な噂を耳にしたぞ。…野獣のな。いいか?いまでもベルを泣かしてるようなら、俺にも考えがあるぞ…!」

尾藤の覚悟を決めた台詞に、

「ハーッハハハハハハ!!また、あの探偵の旦那に泣きつくんですか?…死んだって聞いてますけど」

有馬はふてぶてしい態度である。

「なんだと?」
「それともなにか形見でもあるんですかね?」

傍から見れば終わる気配のない不毛な議論。

「あー、あるとも。”アレ”だろ?”アレ”」
「誰だお前?」

翔太郎が割ってはいる。

「俺は探偵。鳴海壮吉の一番弟子だ。”アレ”のことならちゃんと聞いてるぜ」
「…ほう、では案内してもらおうか左。行くぞ、尾藤」

ゼロまで話に乗り始めた。
三人が部屋からでると、部屋にはなんとも言えない雰囲気。





*****

『最後のキーワードは、尾藤勇。……絞れた』

一方こちらではフィリップが地球の本棚で検策中。

「十年前、風都ダム付近で現金輸送車襲撃事件が起きた。事件直後、尾藤勇は自首をし、懲役十年の実刑判決をうけた」

フィリップが虎視眈々と説明する。

「それを何故追跡調査していた?鳴海壮吉は…」
「どうも不透明な部分が多い事件なんだ。輸送車と現金三十億はダム湖に落ち、未だに見つかっていない。襲撃現場にも、人間離れした破壊の跡があったらしい」

「ちょっとまて。十年前の事件だろ?」
「それって野獣人間の仕業?」
「つまり、それって…」
「「………」」

照井と亜樹子とヴィヴィオが話していると、フィリップとリインフォースはなぜか沈黙していた。




*****

「話は見えたぜ、尾藤さん。おやっさんが調べてたのは、あいつがなにか悪さをしていたっていう証拠だろ?」

港付近を歩く三人。

「坊主。お前その在り処知ってるのか?」

尾藤が聞くと、翔太郎の話は有馬を誘き寄せるためのでっち上げた嘘であることを話すと。

――バチ!――

再度デコピン。

「イッテ!」
「アホ!!…どうなっても知らんぞ。マルはな…あの男は…」

そこへ、

『ウゥアアアアア!!』

正しく、”野獣の記憶”を宿した”ビースト・ドーパント”が現れる。

「ウザい」

――バギッ!――

『ハゲっ!!』

そこへゼロが多少力の籠ったパンチでビーストを仰け反らせる。

『く、熊は何処だ!?』
「熊?」

ビーストは立ち上がりながら翔太郎に聞いた。

『熊を寄越せと言ってるんだ!』
「熊…?」

デマカセを喋っていた翔太郎にそんなことを聞いてもマトモな返答が返ってくるわけがない。

『痛い目に遭いたいようだな…!!』
「それは私の台詞だ。行くぞ、左」
「あぁ!」

二人はドライバーを装着してメモリを起動させる。

【JOKER】
【LEADER】

――ビリビリ…!――

(なんだ?リーダーメモリが…)

起動直後に電流にも似たエネルギーが…。
しかし今は悩んでいる場合ではない。

「「変身」」

【CYCLONE】
【MAGICAL】

「「変身」」

だが異変があったのはロードメモリだけじゃない。
転送されたサイクロンメモリとマジカルメモリにも同様の現象がおきていた。

「なんだこのメモリ?…ま、迷ってる場合じゃないか」

そして、

【CYCLONE/JOKER】
【MAGICAL/LEADER】

Wとイーヴィルに変身。

「あいつら…」

尾藤は二人の変身に少なからず驚く。

変身した二人は一気にビーストに格闘戦を挑む。
しかし、ビーストの特性の一つである怪力と頑丈さも相まって勝負の流れは今一決まらない。

『強敵だ、行くよ翔太郎!』
『ゼロ、私達も!』

フィリップとリインフォースの闘争心の高揚に呼応してかは知らないが、Wのサイクロンサイドとマジカルサイドから奇妙な光が漏れ出す。ただし、Wの場合ジョーカーサイドに変化はないが、イーヴィルの場合リーダーサイドからも光がでていた。

光が治まった直後、ビーストに再び拳と蹴りをくらわせていると、
Wはサイクロンのエネルギーが迸る度に動きが悪くなり、イーヴィルは両サイド同時にエネルギーは迸っているせいか動きが逆によくなっている。

「か、身体が上手く、動かねえ…」
「そうか?こっちは逆に調子いいぞ」

翔太郎とゼロとでは全く持って状況が正反対だ。

『ジョーカーの力が弱い。別のメモリに…』
『(このメモリの力…気になる)ゼロ、私達もメモリチェンジです』

フィリップとリインフォースに促され、Wとイーヴィルはメモリを外して、

【CYCLONE/METAL】
【TRICK/BLASTER】

パワーに秀でたメタルメモリでサイクロンメタルと、銃撃戦に特化したトリックブラスターにハーフチェンジ。

Wがメタルシャフトによる近接戦、それをイーヴィルが後方支援を行う形で続闘。

――バンバンバン!!――

『うおぉあああぁぁ!!』
『(やはり何時もより、攻撃力があがっている…)』

イーヴィルはこれでもかというくらいに絶好調だ。
しかしWは、

『違う…僕のメモリが、強すぎるのか…?』

メモリを換装したというのに、未だに絶不調だ。

ビーストは空かさず狙いをWに集中して攻撃開始。
このままWがやられるかとおもったとき、

――ガギン!――

「だらしないぞ、左!」
「照井…」

アクセルがエンジンブレードを使って戦いに割り込む。

『誰だ…?』
「こいつが噂の野獣人間か…!」

【ENGINE・MAXIMUM DRIVE】

アクセルはA字型のエネルギーの斬撃波を射出する”エースラッシャー”を発動。
攻撃が直撃し、メモリブレイクかと思われたが…。


ビーストは傷ついた身体を僅かな時間で元通りにした。


「バカな!とんでもない再生能力だ」
「ならば、新技といくか」

【VANITY】

「ハチ」

【BEE】

イーヴィルはバニティーボックスを蜂型のビーモードに変形させてバーストキャノンと合体。

【EVIL/BLASTER・MAXIMUM DRIVE】

――バンバンバンバン!!――

四発の銃撃。

『フン!何処をねらっている?』
「案ずるな。すぐに分かる」

その言葉通り、撃ちだされた四発のエネルギー弾は球状となって、ビーストの四方をかこんでいた。
そして銃口をビーストの腹部に目掛けて真っ直ぐみすえると、イーヴィルは静かにこういった。

「『ブラスタービーレーザー』」

引き金がひかれると、

――ズドン!――

銃口からは勿論、球状になっていたエネルギーからも、ビーストの腹部・右腕・左腕・右脚・左脚に高密度のレーザー光線を照射する。

『ギャアァァァ!!』
「フッ、身の程弁えろ。三下雑魚めが」

昆虫でもみるかのような冷たい視線をもってビーストから眼を離さないイーヴィル。

『て、テメー!!』

ビーストは激痛に耐えながらも自己再生する。
そして再びライダー達に攻撃しようとするも、

「やめろーーー!…そいつはなにも知らねえ。ハッタリだ」

尾藤の声を聞くと、腕からメモリをとりだして有馬に戻る。

「マル…やっぱオメーか。お前まだ野獣人間に!!」
「尾藤さん!!時代は変わってるんです。この街で俺に逆らうと…ズドーン!…ズドーン!」

有馬のいっていることを漸くすると、”俺の邪魔をする者は潰す”ということだ。

「貴様…!」

アクセルは有馬に駆け寄るも、

【BEAST】

有馬はビーストとなり、機敏な動きで其の場をさっていった。

それを見て変身を解く一行。





*****

『……地球の本棚?…何故だ?変身が解けたのに、なぜ身体に精神が戻らない?』

疑問の渦に巻かれるフィリップ。
そこへ現れたのは…。

『W…?あの姿はなんだ!?』


シルエットから現れたのは紛れも無くWと言い切れた。
しかし、そのWにはXの文字を彷彿とさせる装飾があり、肩にはW字型の装飾があるうえ、仮面のデザインの何時ものWとはちがっていた。さらに一番眼を弾いたのが緑の右半身と黒の左半身との間にクリアシルバーのラインが大きく取り入れられた…言わば三色の状態となっている。


それを見た直後、フィリップの精神は身体に戻った。

「…大丈夫?」
「……ああ」

亜樹子が聞くと、フィリップは静かに答える。

「驚いたよ。何時もと違ってうなされ出すんだもん」
「僕は、どうしたんだ…?」
「こっちが聞きたいよもぉー」

その時、フィリップの右手にサイクロンのそれと同じ、緑色のエネルギーが迸った。

(エクストリームと、出会ったせい…か?)





*****

『やはり妙だ。変身の時といい、今の状況といい…』

リインフォースもまた精神を次元書庫にとばされている。
そして此処にも…。

『ッ!!?……あれは、イーヴィル…なのか?』


眩い光と共に現れたのは、紛れも無くイーヴィルだ。
だがそのアンクレットとブレスレットにはX字型、肩部のアーマーにはE字型の装飾が施され、仮面のデザインも変化がおきている。そして、右半身が黒・左半身が白・そして中央がクリアブロンズのラインで彩られていた。


『新しいメモリの力』

イーヴィルのベルトのバックルに合体装着しているモノを見て、リインフォースは確信した。



そうして、ゆっくりと眼を開けた。

「あ、やっと起きた」
「ヴィヴィオ…」

眼をあけるとソファで横になる母を心配そうに見るヴィヴィオの顔があった。

「さっきから起こしたのに、全然起きてくれなかったけど…。なにかあったの?」
「(私は一体?)…いえ、大丈夫。気にしないで」

リインフォースは自身が保有する三つのアビリティメモリとライブモードのダークネスメモリを手に置くと、右手から超高出力かつ超高純度な魔力が刹那の瞬間に漏れた。

(プレシアのいっていた私の力…、それが芽を出そうとしているのか?)





*****

有馬宅。

「主人はまだ、帰っておりません」
「ガイアメモリを使っていたことは知っていたんですか?」

警察が捜査にきたことに驚きながらも対応する鈴子に真倉は容赦なく問いただす。

「いいえ!主人に限って、そんなことある筈が…」
「悪いが、俺はこの眼で見た」
「奥さん!本当に知らないんですか?…本当――バチッ!――イテッ!」

真倉にデコピンして登場した尾藤。

「…ベル…」
「サム!」

鈴子は尾藤に駆け寄る。

「俺がいても、力にはなれないだろう…」
「ううん。ありがとう」





*****

探偵事務所。

「十年前の事件の真犯人は、メモリを使った有馬だったのね」
「その証拠のヒントが壮吉さんの遺した、熊に関連するものなんだよね?」

亜樹子とヴィヴィオが白日のもとに晒されつつある事件に概要をまとめていく。
翔太郎はフロッグポッドを持ち、

「その通りだな…」

【FROG】

「ク…マ♪」

ギジメモリを挿入。

『ク…マ♪』

フロッグポッドは何故か御霊の声で翔太郎の台詞を繰り返す。

「熊?熊って、こんな、鮭を銜えた奴?」

一同は春の河で魚獲りをする木彫りの熊を想像する。

「ハハ、木彫りの熊か。そんなわけ……いや待て。それどっかでみたような…。確かおやっさん絡みで………あァァァァァ!!!!」

いきなり翔太郎が跳びっきりにデカイ声を出す。

「なんだ?有力な情報があるのか?」
「あったあった!思い出した、あそこだ。行こう、明日朝一で」
「待ちたまえ翔太郎。今のWには問題がある。行動を起こすに、注意が必要だ」

Wに起こっている異常を最も理解しているフィリップは難色を示す。

「ああ、そういえばさっきバランス悪かったな。…だがパワーが妙に強過ぎたのはサイクロンの方だ。お前が合わせりゃ、済む話だろ」
「なにより、問題が起きようとも私達(イーヴィル)がいるしな」





*****

どこぞの高級バー。

そこで有馬は酒を飲んでいた。

「警察め嗅ぎまわりやがって…!一暴れしてやるか!?」
「おちついて。警察にも仮面ライダーがいるのよ」

怒りで興奮する有馬に冴子が宥める。
隣では若菜がパフェをたべている。

「組織の女共か。なんだ、獣に興味でもあんのか?」
「無いわよそんなもの。…ったく、碌な男に会わないわこの仕事」

不機嫌にそう言う若菜に有馬は憤慨する。

「貴方に興味があるのは…彼らよ」

冴子の視線の先にはピアノ弾く井坂と、その音楽に聴き入る堺。

「誰だテメーら?」
「貴方の身体の真の力が見たい」
「我々が代行致しましょうか?」
「「熊狩りを…!」」

声を揃えて言った直後に井坂は舌舐めずりし、堺は口を三日月の形にして不気味に笑った。





*****

「ここ風吹山に、おやっさんがわけありの依頼人匿ってた別荘があってさ。前にも一度来たことがあって…木彫りの熊もここで見た」

翔太郎に案内され、皆は別荘を目指す。





*****

地下ガレージ。

「感じる…。やはり、新しい力が宿っている…」

フィリップとが呟いていると、ライブモードのデンデンセンサーが何者かの侵入を察知した。

すると、リボルギャリーの発進口で幾層にも造られたハッチが開いた。

「シュラウド!」

はいってきた人物に驚く。

「どうしてここが?」
「貴方より、ずっと以前からここを知っているもの」

フィリップの質問にシュラウドとは冷静に答える。

「来人、貴方はもうすぐ進化する、エクストリームメモリを使って。でも、そこに到達できる真のパートナーは…左翔太郎ではない」
「翔太郎ではもう…僕のパワーについてこれない…?」

シュラウドに翔太郎と別れるようにと言われた訳を理解したフィリップは、半ば絶望感をあじあわされた。





*****

一方こちらはゼロ達の住むマンションの地下駐車場。
ゼロに頼まれてイビルホイーラーの点検をしていたリインフォース。

「ッ!……誰だ?」

気配をかんじると、魔方陣が出現。
そこからプレシア・テスタロッサが現れた。

「プレシア・テスタロッサ…、教えてください。私の身体は一体、どうなっているのかを」

「貴女達は進化するのよ、エクセリオンの力でね。しかし、イーヴィルの強大過ぎる力…それをも越えた領域に立つことができるのは、人間界(ちじょう)において無限ゼロを置いて他にいないわ」

プレシアは無表情に答えた。

(精神世界でみた、あの新しいイーヴィルに…私とゼロが変身するというのか…)

しかし、リインフォースは他にも疑問を感じた。

「ちょっと待って下さい。…エクセリオンとは?」
「貴女達に”絶対なる完全勝利を齎す力”…とでも言うべきかしら?」

そう断言したプレシアの背後から、銀色のボディをした恐竜ガジェット型のメモリが現れる。





*****

別荘。

「ほう、ここが鳴海壮吉のアジトか」
「人聞き悪い言い回しするな!」

ゼロに空かさずツッコム翔太郎。

「あ、翔太郎君。熊、何処でみたの?」
「ああ、確か屋根裏の奥だ」

それを聴いて、亜樹子は早速屋根裏部屋へ。

尾藤は壁のボードに貼ってある写真を手に持つ。
写真には十年前の尾藤、鈴子、有馬がうつっていた。

そして写真の裏には”愛すべき街の問題児サム”としるされていた。

「旦那…あんたの言った通りだったよ。…マルは足を洗っちゃいなかった。いまでもベルを泣かしてる」

かなしげに尾藤は呟いた。

「何見てんだよ?」

そこへ翔太郎が写真を取り上げて見た。

「は〜……尾藤さん。いまでもベルさんのこと好きなんだろ?」
「…心底薄っぺらいなお前は。ホントに旦那の弟子か?」
「煮え切らない半熟。正しく貴様そのもの」

露骨な言い方をする翔太郎に尾藤とゼロは辛口評価を下す。

「なんだと?…どういう意味だよ?」
「……十年前…」


そして尾藤は語る。
十年前、有馬がガイアメモリの力で犯罪に手を染めたと知った時は、それを激しく責め立てたが、鈴子の流した涙に免じて有馬を許した末……。


「まさかあんた…それで有馬の罪を被ったのか?惚れた女の為に…」
「…だからそういうことを言葉にすんじゃねーよ坊主」
「貴様は解説役(ナレーター)か?」

辛口評価パート2

「旦那はな、ずーっと黙っていてくれたぞ。俺が出頭するって打ち明けた時も、なんも言わなかった…。本当のことも、俺の青臭せぇ気持ちも御見通しだったはずなのにさ」

鳴海壮吉。
正しく、ハードボイルドを体現した男である。

「あの人は分厚い男だった…」
「ハードボイルドの語源は固茹で卵。…黄身(じょう)白身(から)に閉じ込め、冷徹ながらも己が信念を貫き通す鋼の精神(こころ)……か」

「坊主、薄っぺらい男の人生は痛ぇ。…今にデカイもん失うぞ」
「冗談じゃねーよ!」

否定するも、自分が言いつけを守らなかったせいで壮吉はフィリップ救出の為に命を落とした”ビギンズナイト”の記憶が、翔太郎の脳裏に過る。





*****

「おやっさん!おやっさん!!」

凶弾に倒れた壮吉を翔太郎が心配する。

「翔太郎………この依頼……お前が引き継いでくれ」

激痛に耐えつつ、壮吉は床に落ちた帽子を拾う。

「あの子を……あの子を頼んだぜ…!」

銃弾の直撃によって薄れ行く意識のなか、壮吉は翔太郎にフィリップのことを託して自分の帽子を被せる。

「なにしてんだよ?…俺に帽子は早い……まだ早ェよ!!」
「……似合う男になれ……」

それが風都を愛する鋼の名探偵、仮面ライダースカル・鳴海壮吉の遺した最期の言葉だった。

「おやっさぁーーーーーん!!!!」





*****

(おやっさんよりデカイ失くしものなんかが…他にあるかよ)

「……」

ゼロもまた、イーヴィルが誕生したあの夜…”ビギンズナイト”を思い返す。



――……マフラーの似合う男になれよ、ゼロ……――
――兄上ェェェーーーーー!!!!――

――MULTI/WARRIOR――



(…仮面ライダーデュアル…)

「熊みっけ!」

そこへ亜樹子が熊を発見。

「これか、旦那の置き土産は…」
「それにしてもなんだろうねこの熊?どっからどうみても只の置物だけど」

熊の木彫りは長期間放置されていたせいで誇り塗れだが、御目当ての物に間違い無いようだ。

--ビューーー!!--

その時、強烈な冷気が尾藤を遅い、重度の凍傷にされた彼は熊を落としてしまう。
そして落ちた熊を拾ったのは、

『これですか』
『想像してたのより、案外普通ですね』
「井坂深紅郎!」
「エレメンタル・ドーパント!」

『ん〜、その呼び方も嫌いじゃありませんが…僕の名前は境蒼助(さかい そうすけ)と申します。以後お見知り置きを』

エレメンタルはちゃっかりと自己紹介する。

ゼロと翔太郎はメモリドライバーを装着。
しかし、

「フィリップ!フィリップ!おいフィリップどうした!?」

ダブルドライバーを装着したというのに、相棒からの応答がない。
ゼロのほうも同じ状況だ。

『なにやってんのかは知りませんが、僕たちはこれで』

もたついてる間に二人のドーパントは帰ろうとする。

「亜樹子!尾藤さんを頼む!」

翔太郎は別荘の柵を飛び越え、

「待てコラァー!!」

ドーパントに生身で立ち向かう。
傍から見れば、無謀な行動である。

【VANITY】

「飛竜」

【WYVERN】

それを見かねたゼロもバニティーボックスをワイバーンモードにして援護させる。





*****

一方、フィリップはスタッグフォンを操作してリボルギャリーの発進準備を進める。

「来人、無駄な事はやめなさい」
「…退いてくれ…」

シュラウドの言葉に低い声で答えたフィリップは、リボルギャリーを出動させた。





*****

「それが、エクセリオン……」

リインフォースはドライバーの具現化に気づくことなく、エクセリオンメモリに魅入っている。

「…早く行ったほうが良いんじゃないの?」

プレシアはイーヴィルドライバーを指差しながらそう言った。
漸く気づいたリインフォースは、急いでイビルホイーラーに跨り、相棒のもとに向かった。

「………」

それを無言で眺めると、プレシアは魔方陣を展開して去って行った。





*****

再びゼロ達は変身せずせずに、ウェザー達を足止めしている。
まあ、バニティーボックスとゼロの御蔭なのだが。

『院長。このままやり合っていても埒が明きません』
『…そうですね。一気に決めましょう』

ウェザーとエレメンタルはゼロと翔太郎を挟み撃ちにする立ち位置となって、火炎弾を大量発射する。
バニティーボックスですら裁き切れないその量。
ゼロは翔太郎を無理矢理地面に突っ伏させると…。

「魔界777ッ能力…醜い姿見(イビルリフレクター)

ゼロの周囲に無数の鏡が出現する。
頭上には女性の顔があり、左右にある鏡には、女性の老化した姿と白骨化した姿が映っている。

「来たモノを、来た方向へ、来たスピードでそのまま返す。…それだけの能力なのだが」

説明通り、全ての鏡は火炎弾を反射して…。

『『うわあああああああ!!!』』
「この能力は複数の敵が同時に攻撃して来た場合などで、特に効果を発揮する。簡単に言えば敵を自滅させる能力だ」

そこへさらに、

【MAGICAL・MAXIMUM DRIVE】

イビルホイーラーに乗ったリインフォースがマジカルメモリをスロットに挿入し、車体に膨大な魔力を纏わせてエレメンタルに突進。

ウェザーにはリボルギャリーが体当たりで吹っ飛ばした。

そしてイビルホイーラーとリボルギャリーから降りるフィリップとリインフォース。

「おいフィリップ、何やってた「選択肢はファングジョーカーしかない!僕の身体をベースに変身するしか…」

問い詰める翔太郎の言葉を遮ってフィリップが答える。

「まあいいや。早くしろよ」

【JOKER】
【FANG】

「「変身!」」

【FANG/JOKER】

フィリップはファングジョーカーに変身。

「リインフォース、なにをしていた?」
「確かめたいことがあるんです」

リインフォースがダークネスメモリを手に持ちながら答える。

「……まあ良い。私も試したいことがあったからな」

ゼロはバニティーボックスを手にとって、メモリを抜き取った。

【VANTY】
【DARKNESS】

ゼロがバニティーメモリをスロットに挿入すると、リインフォースはゼロの身体へ自動的にユニゾンする。
シルバーロングヘアーに紅い瞳といった変化を遂げたゼロの手にはダークネスメモリ。

「変身」

【DARKNESS/VANITY】

姿を現したイーヴィルは、右半身が黒で左半身が白の”ダークネスバニティー”。

「新しいタイプのイーヴィル。…それにさっきの現象は…」

Wはダークネスバニティーを見て興味深気に呟く。
しかし、そんなことを言ってる場合ではない。

ファングジョーカーとダークネスバニティーは戦闘を開始する。

――ガシャン!ガシャン!――

【ARROW DARKNESS】

イーヴィルはアローブラッカーを出現させる。

――バギュン!バギュン!――

武器を構え、エネルギーで構築された矢”ブラックダート”は真っ直ぐエレメンタルに向かって

『フン…こんな攻撃、簡単に避けゴアアァ!!』

いかなかった。
命中する直前、ブラックダートは複雑な軌道を描いてエレメンタルの背中に直撃した。

「悪いが、ロードの代わりにバニティーを使った御蔭で、イーヴィルの武器に理想的な特性を追加させることができる。さっきは”絶対命中の理想”を思い描いた」

イーヴィルは淡々と自身の能力を説明する。

『ホント、出鱈目な強さですよ』

エレメンタルは半ば呆れたかのようにそう言った。

でも、W・ファングジョーカーは…。

――ビリビリ!――

『なんだよこのパワー!?』

ファングサイドから流れ出る凄まじい力に、ジョーカーサイドに宿る翔太郎の意思も困惑する。

「駄目だ…僕の身体を使っても…ファングでは、翔太郎がついてこれない」

サイクロンジョーカー=翔太郎。
ファングジョーカー=フィリップ。

どちらに変身しても、どちらの肉体であろうとも、最早二人は今までのWを維持しきれずにいる。

『不調ですね。診察しましょうか?』

ウェザーはWの不調を逆に好機とし、”日照”による高熱を身に纏いながらWを掴んだ。
そして掌から強力な衝撃波を放って吹っ飛ばす。

『フィリップ、マキシマムで反撃だ!』
「左右のバランスが悪すぎる。きっと衝撃に耐えられない!」

口論してる間に、ウェザーは落雷攻撃を行う。

『やられちまったら元も子もねーぞ!』
「……わかった」

――ガシャン!ガシャン!ガシャン!――

【FANG・MAXIMUM DRIVE】

「ハアアアァ・・!」

Wは思い切りジャンプして、

「『ファングストライザー!!』」

激しく空中回転しながらウェザーに接近し、後少しで必殺技の射程距離に入る直前に、

――バシューーー!!――

ファングサイドから溢れ出ていたエネルギーは頂点に達し、皮肉にもWの必殺技の発動を妨げた上、変身まで強制解除させてしまう。

「そんな・・Wでいられなくなった。…翔太郎!!」

フィリップの呼びかけに、翔太郎の身体は意識を取り戻す。

「何故だ?この俺が・・――ビリビリ!――…!?」

不審に思って再び変身しようとするも、ドライバーに触れた瞬間、ライトスロットからも先ほどと同じようにエネルギーのスパークが起こる。

フィリップはそれを見て顔を横に振った。





*****

――ダンッ!――

「終わりよ、左翔太郎」

探偵事務所では、シュラウドがダーツを興じている。

「お前には………Wは無理」

シュラウドは最後の一本を翔太郎の椅子に投げた。





*****

(Wに、なれねェ…)

フィリップが秘めた余りに大きな力。
それを制御することすら叶わなくなった翔太郎。

そして、イーヴィルを更なる高見へと導く”エクセリオン”とは…?

次回、仮面ライダーイーヴィル

二重なるX/輝【かがやき】

「この『欲望』はもう、私の手中にある…」

これで決まりだ!


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