仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事!
一つ!欲望の塊、森光蘭が動き出す!
二つ!新生火影メンバーが裏麗に襲われ、そこに刃介と七実が助けに入る!
三つ!刃介はシルフィードと、メダルの契約を交わした!
魔導具と紅麗と戦いの理由
火影隠れ屋敷。
そこには文字通り、火影忍軍縁の人物達が集まっていた。
「だからさぁ、あんたらを助けた二人は、何者だったんだい!?」
新生火影忍軍の紅一点であり、上級魔導具の風神の使い手、霧沢風子はそう問い正す。
「そう言われても、俺様は名前しか知らないしよぉ」
「俺と姫も、名前と変身ヒーローであることしかわかんねぇよ」
風子の質問に土門と烈火はそういった。
「全く役に立たない男共だよ。誰か教えてくれないかな?あの二人について」
『勿論今すぐお教えしますよ』
((この声!))
烈火と土門はこの女声に聞き覚えがあった。
――チャリン、チャリン――
「ん、メダル・・・かな?」
柳は何時の間にか足元に落ちていた銀色のメダルを拾うも、そのメダルは何時の間にか烈火の背後に集っていたメダルの大群に吸い込まれていた。
九枚のコアを中心にセルが結合し、一体の血錆色の異形が現出する。
「「「「「「「「っっっ!!?」」」」」」」」
異形の怪人の出現にその場にいた全員が警戒心をあらわにする。
『そういきり立たないで下さい。今日は刃介さんの代理として来たんです』
「その声やっぱり・・・」
『また御会いしましたね。花菱君に石島君』
そうして血錆色の異形は、鑢七実へと戻っていく。
「あぁ、それからこのご老人はお返し致しますね」
七実は片手に持っていた、ニット帽にグラサンをかけた隻眼の老人を投げてよこす。
「虚空のジジィ!あんた何やったんだ!?」
「この屋敷に近づいたら、この人が行き成り現れて私の胸やお尻を触ろうとしたので、お仕置きしてあげたまでですよ」
因みに虚空という老人は火竜の一匹なのだが、特殊能力によって生前の姿で烈火の体外に自由に外出できたりする。
しかし、いまの蛸殴りされた状態では威厳もくそもないが。
そして虚空のセクハラ未遂を聞いたメンバーは、
「「「「「「「「じゃあ、仕方ないな」」」」」」」」
と、あっさり退いた。
「さて、私と刃介さんについて・・・・・・このご老人が起きる前にお話しますね」
そうして七実は語った。
自分がグリードであることを、オーメダルのことを。
刃介との出逢いを、ブライのことを。
大体程度だが、話した。
「なんだか、信じ難い話ね」
烈火の実母であり、烈火を戦火から逃すべく、時空流離の術を使った代償に不老不死となって四百年以上を生きた火影くの一・陽炎といえども、八百年前に封印されたグリードのことなど知る由もない。
「ですが、真実です」
「確かに、あの虫野郎との戦い・・・・・・あれは覆しようのない事実だ」
烈火は改めて刃介が踏み込んでいる領域の凄まじさを知った。
「・・・・・・・・・ん、ふぁぁ」
「おや御老人。予想より早いお目覚めで」
そこへ虚空が起きて欠伸をした。
「ぬお!?さっきのお嬢ちゃん!!」
虚空は自分を一瞬で気絶させた七実の顔を寝起き一番に見てビックリする。
――ポンポン――
そこへ虚空の肩を叩く二つの手。
「おいこらアホジジィ」
「ここまで堕ちるとは思いませんでしたよ」
額に青筋を作っている風子と陽炎だった。
実はこの二人、そのうら若き肉体と抜群のボディスタイルゆえに虚空から幾度と無くセクハラを受けているので、虚空の節操なしな行動に苛立った様子である。
「大丈夫ですよ、お二方」
そこへ七実が声を出す。
「またやったら・・・・・・そうですね、御自慢の炎で諸悪の元凶である場所を焼き尽くせば良いのですから」
「ヒヒェェェェエエ!!!!このお嬢ちゃん超怖いんですけど!!」
七実の顔色一つ変えずに、男の象徴焼却案に虚空は股間をおさえて涙目になる。
「閑話休題。・・・そんなことより御老人、昨晩の人たちが言っていた・・・「天堂地獄」とはなんですか?」
「――――ッッッ」
自分で蒔いた種を自分で刈り取り、七実は新しい話題を持ち出す。
もっとも、その禁忌的なをきいた陽炎は固まったが。
「て・・・天丼地獄!!」
「一人で食ってろよ」
一人だけ、聞き違いをした土門はほっといて、説明が虚空の口から行われる。
「天堂地獄。それは――最強にして最凶最悪の魔導具!!」
元々、身体能力や拳法・剣法にも特別優れているわけではなかった火影忍軍が、どうして歴史の影で隆盛を誇れたか。
それは彼らが創り上げた魔導具にあった。
風子の使う風神は気流=風を自由に操り、水鏡凍季也の使う閻水は水分を刃として自由に操る。
現代科学でも到底つくりえない物を、戦国時代に彼らがつくりあげていたロストテクノロジー。
「昔・・・・・・」
そして虚空は語りだす。
火影がまだ若い忍者集団だった頃、里に二人の天才武器職人がいた。
彼らの創造せし武器、それこそが・・・火影魔導具!!
彼らは同じ目的へ競い合う。
「我こそ最強の魔導具造り」と・・・
だが二人には決定的な違いがあった。
一人は――――
「殺す為ではなく人を生かす為の、守る為の武器を造る」と論じ・・・
一人は――――
「殺戮だ」
「綺麗事を言うな。武器とは人を殺す為の物!私は人を殺す為に武器を造る!!」と論じた・・・
一人が式紙を造ると一人は式髪を造り
一人が鉄丸を造ると一人は石冑を造り対抗した。
同じ時代に共に生れ落ちたのもまた、運命か・・・
二人が競って「強い魔導具」を造ってゆく度―――
当然互いの魔導具の力は洗練され、強力になっていった。
「成る程!ライバル心が互いを高めていったんだな」
「だからケッコー似た魔導具があるのか。閻水と氷魔閻なんかモロだよね」
「うむ」
土門と風子の意見に虚空が頷く。
「特徴として例にすると―――閻水のように割と毒気の無い導具は前者の造りし物で・・・氷魔閻のような殺傷能力の高い、禍々しい物が後者の作品ぢゃ」
(四季崎以上の武器職人がいるとは・・・・・・驚きですね)
七実はかつて自分が胸に刺し込み使った悪刀『鐚』の作り手である伝説の刀鍛冶・四季崎記紀以上の職人がいることに驚いた。
もっとも、四季崎には火影の誰もが持ち得ない能力があったりするのだが。
話を戻そう。
「そして・・・「殺す為に造りし」者の最後の作品こそ・・・天堂地獄・・・」
「そして代々、火影の民によって護られてきた魔導具の中で―――天堂地獄だけは危険視された。この国の何処かにへ、誰もふれられぬ場に封印されたと聞く」
陽炎は捕捉した。
「御老人」
そこへ七実は、正座を一切崩さずに喋りだす。
「刃介さんの話と、会話に混ざる前から盗み聞きした話によると、そこの佐古下柳さんが昨晩集中して襲われなかったのは、刃介さんの助けだけでなく、もっと別の要素があったんじゃないですか?例えば、その危険物の在り処を敵が判明させて、目下回収に乗り出しているとか?」
七実は本来水鏡がいうべきところを全て、憶測で言い当ててしまった。
この勘のよさは相変わらずのようだ。
虚空は顔からたっぷりと冷や汗を流し始める。
「あそこは・・・あそこだけは行ってはならん!危険すぎる・・・!教えるわけにはいかん!!」
「そんな我侭を言っていても仕方ありませんよ。現実逃避しようと、目の前にあるモノは立ち去ってはくれません」
「その通りやな。森さんが天堂手にいれたら、それこそ危険て事もあるやろ」
障子の向こう側から聞こえる男の声。
「誰!!?」
「今の関西弁・・・・・・まさか・・・」
そうそのまさかだ。
障子を開けて出てきたのは、
「自分が、教えたります」
帽子を被り、長い棒状の物体を布で包んで持った青年だった。
「何方ですか?」
「ん?なんや新しいのがおるな。まぁ折角やし、改めて自己紹介や」
帽子の青年は一息いれて名を名乗る。
「ワシは麗十神衆が一人、ジョーカーや!」
「ジョ・・・っ、ジョーカーっ!?」
烈火は果てしなくギャグ的顔で叫んだ。
「あ!疑いのカオしとるっ!信じとらんな!?ちょっと待っとれ!」
ジョーカーは少し障子の向こうでドタバタとして、
「どやっ!」
裏武闘殺陣のさいに身に着けていた被り物をして、烈火達も納得する。
「ところでジョーカーさん。先ほどの言葉から察するに、貴方はその危険物のある場所を御存知なのですね」
「そういうこっちゃ」
ジョーカーは素直に答えた。
「一体どうやってです?」
「森さんが変な動き見せたんでな。軽〜くスパイしてみたんや。なんや見たことない女の子と、全身に鎖巻いた忍び装束着込んだくの一と一緒に、とある場所に入っとくのを見たっちゅーわけや!」
「鎖を巻いた忍び装束・・・・・・」
七実はそれに関しては心当たりがあった。
「多分そこが魔導具の隠し「信じられねぇ!」
ジョーカーの言葉を烈火が遮る。
「花菱君。その人の言ったことには信憑性があります」
「なんでだよ!?」
「嘘だとしたら、わざわざ鎖を巻いた忍び装束の・・・・・・真庭忍者のことを言う必要はないじゃないですか」
七実の発言のなかにある単語に、
「真庭忍者?」
陽炎は知識にないものがあったのだ。
当然だ。彼ら真庭忍軍は本来の歴史では存在しない、異端の歴史の中でだけ存在するのだから。
「卑怯卑劣を売りにしている暗殺専門の忍者集団です。以前、虫組三人衆という方々が私を拉致しようと襲ってきたことがありました。勿論返り討ちにしましたけどね」
七実はお茶を飲みながら語る。
「それも、君の元々いた世界での話か」
「えぇ、そうです」
水鏡の質問に七実は平然と答える。
「なに言うとるかわからんけど、嬢ちゃんはワシの言う事、信じてくれるんやな」
「えぇ、一応は」
「ぬ・・・ぬぅ・・・」
烈火は七実がジョーカーを信じるという意見に難色を示すも、
「ジョーカー!!」
「!」
ジョーカーの肩をつつくものがいた。
「オレは、信じるよ!」
新生火影忍軍斬り込み隊長の小金井薫(こがねい かおる)。
「小金井くん・・・・・・」
「ジョーカーは麗のメンバーだったけど、そんなに悪い奴とは思ってないよ。戦ってみてなんとなく沿う思ったんだ」
小金井はついでに、
「その代わり、ウソだったら六之型お見舞いね♪」
「あ、あれもっかいはゴメンや・・・(汗)」
鋼金暗器をだしてそういった。
ジョーカーも体中に刃を突き立てられたことがあるので、流石にキツいようだ。
烈火はその様子をみて覚悟を決めたらしい。
「ジジイ!オレは天堂地獄のある場所に行くぜ。いつも調子モンのお前が、大マジなツラして引き止める。よっぽど危ねえトコなんだろう・・・心配してくれてる事もわかる。けどよ―――」
烈火は実に真剣な表情だ。
「あのイカレ野郎が天堂地獄を手に入れちまったら、姫や・・・オレ達にもっとでけぇ危機が迫る筈だ!」
「森よか先に最強魔導具見つけて・・・」
「壊す!!争奪戦だな、こりゃ!」
「・・・・・・・・・・」
烈火、風子、土門の言葉に虚空は黙ってしまう。
「勝手にせい!!ワシャもう知らん!!」
怒鳴った虚空。
「たまーにマジになるとこれぢゃ!フン!!」
などといいながら陽炎のお尻を撫で回そうとした瞬間、
――ゴキッ!ボキッ!――
「御老人。やんちゃは程々に」
「あんぎゃああああああああ!!!!」
七実によって、腕があらぬ方向に曲がっていた。
そして、数分ほどのたうちまわり、
「心して向えよ!」
(((((((((回復早いな・・・・・・))))))))
そして烈火の中へと戻っていく。
(あそこには火影の民も近寄せようとはせんかった!裏麗だけが、敵ではないぞ!)
烈火の心にそう言い残してだ。
「・・・決まりですな。ほな、その地に向いますか」
「その前にジョーカー、知ってたら教えて欲しいことがある」
烈火が知りたいことは、
「紅麗は・・・・・・死んだのか?」
鬼凛から告げられたことの確認であった。
ジョーカーは帽子を深く被り直し、
「今・・・紅麗さんを中心とした「麗」という舞台は・・・無うなったといってええ」
現状を語りだす。
「裏武闘にて戒、幻獣郎、磁生、呪・・・・・・四人の十神衆が死亡。雷覇さんは決勝戦の途中で姿を消し―――音遠さんは紅麗さんを助けるため、自分も海に落ちたそうや」
状況は芳しくないようすだ。
「木蓮を中心とした兵達達も、殆ど裏麗に寝返った。そして最悪なのは、姿を見せなかった十神衆の二人のうち一人が・・・裏麗の首領として君臨した!」
男の名は――――螺閃!!
(あいつ・・・十神衆の一人だったのか!?)
烈火は内心驚く。
「螺閃についてはワシもよう知らん謎の男や。紅麗は麗を失ってしもうた・・・けどな・・・」
ジョーカーは絶対の自信を持って、
「命は失っとらんで!!あの人が死んでたまるかい!!」
叫びに叫んだ。
そして我に返った。
「じ、自分としたことが、な〜〜にムキになっとんのやろ・・・。ん〜〜ま、いずれ生死もハッキリしますやろ」
頭をかきながら言った。
(だよな・・・・・・あのバカ、体だけは頑丈だしな)
烈火よ、それはお前も一緒だ。
「ねっ♪なーーんかウズウズしてこない?なんかね?私らこーゆーの好きになったのかな?」
「平穏な日常生活ってヤツも、オレらにゃしばらく無縁なんだな」
「オレも鉛筆にひってるより、コッチのほうが好きだよ」
風子・土門、小金井はワクワクしながらノリ気になる。
「みーちゃんも来るのよ!」
「だ、誰も行かないなんて言ってない・・・」
さりげに水鏡がそんなことを言われていた。
(ま、まただ・・・まただよぉ・・・・・・また風子を待つ長い一人の時間が来るんだ・・・)
さっきから空気化していて、居てもいなくても同じだったチビっ子、森川願子がそう思っていた。
「では決まりですね、皆さん」
七実がそういうと、烈火はニカっと笑い、
「いくぜ、火影!!あと+α」
「酷くないですか・・・?」
火影忍軍と欲望の者、再度戦いの地へと赴く。
目的は・・・・・・天堂地獄破壊!!
*****
トライブ財閥。
会長室階層。
「・・・・・・・・・あ」
「あら、起きたの?」
刃介が眼を覚ましたのは、妙に大きいキングサイズのベッド。
その直ぐ近くにはシルフィードが自分の寝顔を覗き込んでいた。
「えっと・・・・・・なにこの状況?」
ハッキリ言わせてもらうと、ベッドの上にいる男女二人。
しかも男は上半身裸で、女も着流し一枚で上半身裸。
もし第三者が目撃すれば間違いなく誤解するだろう。
「貴方気を失っちゃったから、会長室と繋がってる私の寝室に運びこんだの。ここって私のオフィス兼自宅だから」
「あ、そう」
刃介は無愛想に受け流す。
「それよりもお前、吸血鬼って・・・・・・」
「私がこの肉体的若さで会長っていうのにも、説明がつくでしょ?」
確かに、肉体年齢二十代半ばのシルフィードが大企業の会長というのは多少不自然だ。
しかし、吸血鬼という人智を超えた存在ならば、人間以上には生きていられるだろうし、特殊能力をもっていようと不思議ではない。
「テメー歳幾つだ?」
「ん〜?どのくらいかな〜?・・・・・・大体800歳、かな?私はそこらにいる連中より遥かに高位だから、寿命も能力の程度もずば抜けてるの」
自慢話をするかのように語ってくれた。
「・・・・・・・・・・・・」
「なに?ジロジロ私のこと見て」
「いや、お前の体ってケッコー綺麗なんだな」
「にゃあ!?//////」
刃介の言葉にシルフィードは顔を赤くした。
「さっきからそのデカ乳にしか眼がいかなかったが、こうして改めて見ると、中々良いな。くびれた腰といい良く実った尻といい」
「そ、そう?///」
どうやらシルフィードはここまで直球的に容姿を褒められたことはないらしい。
というか、ある種の主人公がよく立てそうな旗的なものが・・・・・・。
「じゃ、じゃあ・・・こっちも見る?//////」
そう言いながら着流しの紐を解き、着流しを脱いで自分の全てを刃介に見せようとする。
だがしかしだ、
――チャリン、チャリン!――
「ヤミー」
「え・・・?」
セルメダルの音と、ヤミーの気配。
「悪いが帰る」
「ちょ、ちょっと待って!」
着流しを着なおして出て行こうとする刃介をシルフィードが止める。
「なんだよ?」
「これ、持ってきなさい」
シルフィードはベッドの横にあった小さな棚においてあった箱を刃介に渡した。
「カンドロイドの詰め合わせよ」
「ほう、ありがたく貰って行こう。じゃあな」
「えぇ、またね」
そうして刃介はエレベーターへと向った。
そしてシルフィードはというと
(フフフ♪やっぱり長生きはするものね。・・・七実ちゃん、貴女と刃介君と私の三人でするっていうのも良いかも♪//////)
長い間冬だった吸血女のなにかが、急速解凍されていた。
*****
烈火達「火影」と七実は天堂地獄を破壊する為、新たなる戦地へと出発した・・・・・・そして一方・・・。
紅麗・・・
紅麗・・・
麗・・・
イ・・・チャン・・・
ニイ・・・チャン・・・
オニイチャン・・・
思い浮かばれるは、彼が最も愛する女性と、それを模して造られた者。
貴様の全てを・・・私が奪う!!
仮初めの父の欲望にまみれた言葉。
そして・・・。
散散威張り散らしてたチミが今やイモ蟲だぜ
煉華
お前の分身だ
紅の細胞を混ぜて造ったクローン
天堂地獄
肉の塊と化す仮初めの母
オニイチャン
オニイチャン
紅麗暗殺ニアッタノダヨ
「わああぁあぁああ!!!!」
元麗首領・紅麗は悲鳴ともいえぬ叫びを起こし、目覚めた。
収まりきらぬ動揺。
それを鎮めて見せたのは、
「・・・紅麗さま・・・・・・っ・・・」
一人の美しきの女の声。
それは今尚紅麗を慕う麗の生き残り。
「音遠・・・?」
十神衆の音遠。
「よかった・・・よかった・・・もう目を・・・あけてくださらないかもと・・・」
音遠は紅麗に抱きつき、涙する、
「・・・・・・ここは・・・・・・?」
「ここは、人気の無い場所にある、人住まぬ建物です」
確かに、紅麗が暫定的に眠っていたこの部屋の内装もかなりボロボロで、廃屋としかいいようがない有様だ。
「あれから・・・私達は見知らぬ岸に流れ着きました。十日も、貴女は眠っていたのです」
それでも、森の追っ手から逃げられたのは幸運だろう。
「病院に連れて行って差し上げたい・・・でも森の手が回る事が恐ろしかった。このような場で、まともな治療もできないことを、お許しください」
音遠は紅麗の体に包帯を巻き終える。
紅麗は生気の無い表情できいた。
「音遠・・・痩せたのではないか?顔色も悪い・・・」
それを聞いた音遠は
「お優しい言葉、もったいのうございます・・・私は・・・あなたの為になれることが嬉しいのです」
心から嬉しそうな表情で涙を流していた。
まるで長年の夢が叶ったかのように。
*****
――ブゥゥゥウゥゥゥウウウゥゥゥゥン!!――
都会から大きく外れた森の中。
そこをシェードフォーゼのエンジン音が鳴り響く。
(ヤミー・・・それも随分育ってやがる。・・・・・・それになんだ?この・・・烈火と似た気配は?)
この時、刃介はまだ知る由もなかった。
もう一人の炎術士・・・・・・死を司る炎の堕天使との邂逅に。
*****
「お水と、食べ物です」
音遠はコップ一杯分の水とパンと、少量で簡素なシチューをだした。
「要らん・・・お前が食べろ。お前こそ何も食べていないだろう」
「平気です!ダイエットになるし、好き嫌いはいけませんよ!」
音遠はそういいながらクスクスと笑い出す。
「どうした?」
「今・・・少し昔のことを懐かしく思いました。私は紅麗様に仕えるメイドで、お世話を承り、とても幸せな毎日を送っていました」
それも今や昔のこと。
失われた、戻らない日々。
「あの時も、紅麗様はワガママで私を困らせていたものです」
「そ・・・そうだったか?」
紅麗は音遠にスプーンで食べ物を運んでもらう。
「お前には迷惑ばかり・・・・・・」
――ドクン・・・っ――
その時に、紅麗の脳裏によぎったのは、
無色な偽りの娘、強欲な偽りの父、優しき偽りの母、
そして・・・そして・・・・・・
「がほっ・・・!!」
「紅麗様!!」
紅麗は一気に口を抑え、音遠は卒倒する。
「やめろ・・・っ、やめろ!!ぐあああああ!!」
「紅麗様!!」
混乱に混乱を重ねる紅麗に、音遠は彼を抱きしめて落ち着かせようとする。
「大丈夫・・・大丈夫です・・・。怖くない・・・ここには怖い事などありません・・・」
音遠は優しく語り掛ける。
「いやだ・・・もう戦いたくない・・・・・・・・・みんな消えてく・・・みんな失ってく・・・・・・・!!」
恐怖にかられ、戦いを拒む今の紅麗を烈火がみても、彼を紅麗と認識できるかどうかは凄まじく妖しい。それほどまでに、今までの紅麗が心に纏ってきた憎悪と殺意の仮面は大きく分厚かった。
「もう戦うことはやめましょう。あなたはたくさん・・・たくさん傷ついた。戦いの中であまりにも辛い想いをしてきた。もう充分でしょう。これからは平穏に生きてください。誰もそれを責める事はありません」
音遠は紅麗を抱きしめ、語りかけ、そしてもう一度紅麗の顔を真っ直ぐ見据える。
「私でよければ最後まで共に居ます。二人で誰も知らぬ地へ逃げましょう」
「みんな・・・消える・・・消える・・・」
あらいきをつき、恐怖に怯える紅麗の目。
そして彼はその恐怖から逃れるため、目の前に今居る、自分のことを慕う女を抱くことで。
音遠は紅麗が自分を寝台に押し倒したことに驚きこそはすれ、抵抗の意志は一切無く、それどころか紅麗の為になにかでき、彼の支えになれるという喜びがあった。
二人はゆっくりとその唇を重ね合わせ、心と体も重ね合わせた。
ワタシハ・・・・キエマセン・・・
いつまでのあなたの傍に――――紅麗様・・・・・・・・・
*****
何時間後だろうか。
音遠との情事を終えた紅麗は、夕涼みがてらに屋外にでていた。
これからどう生きていくかも含めて。
そして、音遠が言ってくれた言葉を思い出す。
(それも・・・・・・一興か・・・)
自分にはもう戦うべき理由が無い。
生きていく理由もなくした自分に唯一手を差し伸べてくれた女。
彼女を愛し、生涯を影に潜ませて生きていくのも悪くないと思った。
「!!」
が、それを選択するには、彼は罪を重ねすぎたのかもしれない。
「フヒャヒャっ」
不気味な男の気配に気づく。
その男は見るからに不健康そうな肥満体質で、両手の十本指には鉤爪を装備していた。
そして、”首や腕に包帯のような物が這っていた”。
「クヒャヒャヒャヒャ!!」
この男の名は裏麗の鉞。
原典においては幼稚な口調が特徴であったが、今のこいつは笑い声しか出さなかった。
――ズガっ!――
鉞は紅麗を殴りつけた。
「裏麗・・・森の手の者か・・・?」
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
鉞は一切答えず笑うだけ。
表情から察するに、完璧に正気を失っている。
――ガドン!!――
鉞は紅麗を踏みつけた。
全快時なら余裕でかわし、反撃するだろうが、今の心身共に疲労した状態で”今の鉞”に勝つのは厳しい。
「ヒャーッハハハハハハハ!!」
――ゲシっ!ゲシっ!ゲシッ!!ゲシッ!!――
容赦なく紅麗を足蹴にする鉞。
「紅麗様!!」
「! 来るな!音遠!!」
騒ぎに気がついた音遠がこちらに駆けてくる。
「ん〜〜?」
鉞は音遠に気づき、
――ブンッ!!――
彼女を全力で殴り、気絶させた。
「ッッッ」
その瞬間に、紅麗の脳裏には、憎き養父の顔と言葉。
――貴様の全てを、私が奪う!!――
そんな我欲に満ちた言葉。
「ふ・・・ざ・・・けるな・・・」
紅麗は身震いし始める。
「フヒャヒャヒャヒャヒャ!」
鉞は音遠を踏みつけた。実に愉快そうな表情でだ。
「汚い足をどけろ、豚。言葉の通じる”人間”でさえなさそうだがな」
「!?」
鉞は紅麗のほうに顔を向けた。
紅麗は腹違いの弟の言葉を思い出した。
――オレは守る為に戦う!!――
「不愉快極まりないが・・・あいつの言葉が今、少し理解できる」
紅麗は先ほどまでの穏やかな表情を捨て去り、
「やはり私には、平穏は許されないらしい」
狂気と殺意の表情をはりつけ、腕輪がされた左手からは炎をだす。
そして、鉞が不愉快な声を出す直前に、
彼の左腕と左足を焼ききった。
「ふひ・・・ぷぎゃあああああ!!ぎゃああん!あぎゃはああーーーっ!!」
果てしない苦痛にもだえ苦しむ鉞。
(焼き殺す)
それを見る紅麗の表情は実に冷たかった。
自分の精神をここまで持ち直させてくれた女を、人を愛する喜びを与えてくれたもう一人の女を傷つけた塵芥を、汚物を見るかのようにだ。
だが、その瞬間から彼もまた「欲望」とはちあわせするのだ。
「んあっ!?う、う、いぎゃあああああああ!!!」
鉞の体は突然幾百ものメダルに包まれた。
「なに!?」
紅麗もこれには驚くしかない。
鉞の代わりに自分の眼前に立っているのは、
山猫の頭。ジャガーの腕、スミロドンの脚をした怪人。
同種混合型の一体、ヤジャガドンヤミー。
『ミギャァァ!』
明らかにこちらに対して敵意むきだしなヤジャガドンヤミー。
紅麗もこれには前人未到の死闘を覚悟した。
が、しかし
――ブゥゥゥウウゥゥゥゥゥウウウン!!――
天は以外にも、この男を寄越してきた。
紅麗がもっとも忌み嫌う男とは、別種の我欲に満ちた男を。
『ミギャ!!』
バイクでヤジャガドンヤミーを跳ね飛ばした男は、ヘルメットをとって周りを見渡す。
「おいおい、ヤミーの気配がしたかと思えば、なんなんだこの状況は?」
我刀流二十代目当主・鋼刃介。
「誰だ貴様?」
「ん?オレか?あの化け猫にようのある、ただの雑貨屋だ」
といいながら、刃介はブライドライバーを装着。
「七実からメダルくすねといて良かったぜ」
といいながら、黄色いメダルを三枚だした。
そう、コンボだ。
「んじゃ、いくかな」
メダルをバックルにはめ込み、スキャナーで読み込む。
「変身!」
≪YAMANEKO・JAGUAR・SMILODON≫
≪YAJA・YAJA!YAJAGUADON!≫
黄色い閃光に包まれ、摩訶不思議な歌を奏で、彼は変身した。
青い猫目が光る山猫の黄色い頭。
獰猛な爪が鈍めに黄色く光るジャガーの腕。
走り出せば誰も視界に留めることもかなわないであろうスミロドンの脚。
ブライ・ヤジャガドンコンボ!
「オオオオオォォォォオオオオォォォォォ!!!!」
あらん限りの咆哮を天にあげ、彼の変身した戦士は体中の光を放っていた。
野太く眩い光線・・・・・・・ビームを。
『ミミ、ミギャ、ミギャアアアアア!!』
その野太い光線を浴びるためのように、ブライ真正面にたっていたヤジャガドンヤミーは光線を浴びて数十枚のセルメダルが飛び散る。
幸い紅麗と音遠はブライの背後にいたので光線をあびずに済んだ。
(なんだあれは?あんな魔導具、私はしらないぞ!?)
紅麗は時空流離で現代に流されてしまった頃には、きちんと物心があり、火影にどんな魔道具があるかは、火影忍軍六代目頭首の嫡子として知っていた。
だが刃介の使うブライは火影以上に歴史の古い存在だ。
紅麗が知っているはずがない。
「よーし、逃げられないうちに一気に決めるか!」
≪SCANNING CHRGE≫
ブライはメダルをスキャンし、前方に展開されたメダル状の巨大なリング。
「虚刀七の構え『杜若』」
クラウチングスタート時の構えをとるブライは、両腕にある猫刀『鉤』を地面に軽く突き刺し、
「よーい、どんっ!」
一気に駆け出すと同時に、ジャンプした。
リングを潜り抜ける為なので、両腕を前にだして身を伸ばし、さらには体にドリル回転を加えて、ヤジャガドンヤミーに突っ込んだ。
(悪く思うな。ゲスデブ・・・)
そう思いながら、ブライは一気にリングを潜り抜け、
「チェストォォォォオオ!!」
ヤジャガドンヤミーを貫いた。
――ドガァァァァアアアァァァァアアン!!――
ヤジャガドンヤミーは爆発した。
当然爆炎からは大量のセルメダルがあふれ出した。
なかには”血塗れたメダル”もあった。
こうしてブライは勝利した。
――カチャ――
変身解除した刃介は、右腕をグリード化させてセルメダルを吸収し始める。
「ん・・・・・・っ」
時折、片腕をおさえて痛みに耐えるような仕草をしていた。
「貴様、何者だ?」
紅麗は手から炎をだしながら聞いた。
刃介の行動には感謝しているが、肝心の刃介が敵か味方かが判明していない。
「我刀流二十代目当主・鋼刃介。お前の名は?」
「・・・・・・紅麗だ」
とりあえず名は名乗りあった。
自己紹介している間に、刃介は全てのセルを回収したようだが。
「紅麗。さっきから気になってたが、その美人はどうするんだ?」
刃介は音遠を指差す。
「・・・・・・彼女は充分尽くしてくれた。もう、私の傍にいるには惜しい女だ」
「そしてお前は、再び戦場か・・・」
紅麗は自分でも不思議に思った。
何故会って間もない男にここまで心開いて話せるのかと。
「泣くぜ、その女」
「構わんさ。それで音遠を守れるなら」
「男だねぇ」
「私はただの臆病者だ。愛する者を失うことを恐れ、戦うことしかできない、ただ臆病者だ」
紅麗はそう喋り続ける。
「あ、そう。それがお前の決めた道なら、誰も文句は言わねぇよ。だがな紅麗、一つ訊かせてくれ」
「なんだ?」
「お前は何の為に戦う?」
「何の為に?」
「俺は自分自身の為に戦う。お前は、何を為す為に戦う?・・・・・・勿論返事は先延ばしでいいがな」
「・・・・・・・・・考えさせろ」
紅麗は穏やかな表情で言った。
「何時か答えを訊けるのを楽しみにしてるぜ」
そうして、刃介はシェードフォーゼに乗って発進した。
七実の、明らかに意図的にだだもれにしているコアの妖気を追って。
「・・・・・・・・・」
紅麗はその様子を見届けると、未だに気絶している音遠を抱きかかえる。
「紅麗・・・紅麗様・・・」
寝言を呟くところからみると、大丈夫そうだ。
(・・・・・・許せよ・・・音遠・・・おまえのことは生涯忘れん――――然らばだ・・・・・・)
それは、紅麗の中にある一番の愛情だったのかもしれない。
*****
それからどれだけの時間が経ったのか、音遠はとある場所で目覚めた。
「・・・ここは?」
「おお!目覚めたか、おじょーさん。大丈夫、もう心配はいらん」
そこには白衣を着た眼鏡の老人がいた。
「ここは小さな町の診察所だよ。いつもはジーサンバーサン相手にやっとるから・・・あんたみたいな若いコは嬉しいよ」
「紅麗様・・・紅麗様は!?」
「顔に火傷のある男かい?もう行っちまったよ」
医師は意外そうにいった。
「やさしい・・・綺麗な顔をしとったなあ・・・・・・あんたを心配そうに何度も見とった・・・「伝えて欲しい」と、メッセージもあずかっとる」
そして老医師は、口調から声量まで、そのまま音遠に伝える。
「お前だけでも、幸せになってくれ」
それから数十分間から小一時間ほど、音遠が大きな声で泣いた。
ただただ、愛しくて仕方ない想い人のことを想って。
*****
その頃の紅麗は・・・・・・月乃宮にいた。
「非常事態!!全ての兵を門前に向わせろ!!」
「紅麗だ!!」
紅麗の優しき養母の住む館は、要塞化していた。
そこに現れた紅麗は以前のような黒衣を纏い、顔には眼光の鋭い片目の仮面をしていた。
湧き上がった感情を再び殺すかのように。
「やはり・・・生きていたか!!」
「森様の仰った通りだ!!」
「生きていたなら育ての母を求め、まずここに来る!!」
黒服たちは慌てだす。
「オイ・・・月乃様は・・・」
「言うな!構うことねーよ!俺たちには強い味方がいる!」
その強い味方とは、
「やあ、紅麗」
眼鏡をかけ、片手に弓のような魔導具をもった優男だった。
「バラ肉になっちゃった君のママならまだ残ってるよ。見る?」
皮肉たっぷりの物言い。
「初めまして。裏麗の魔樹也だ。そんなボロボロの躰ここに来るなんて脳みそないのかな?ボクがいるって知ってたら良かったのにね」
「・・・・・・・・・」
「ボクの魔導具の力、見せてあげるよ」
そして、
「森光蘭は、何処だ?」
魔樹也は灰塵となって消えた。
紅麗の言葉は実に温度というものがなかった。
「一撃!?」
「魔樹也さんが一撃で・・・!!」
「うわああー!逃げろ!!」
月乃宮に存在した全ての人間の命は狩り取られる。
残された「人間」の心を一人の女の元に置き去り・・・男は再び「鬼」と化した。
死を司る堕天使・紅麗復活
「鋼刃介・・・・・・貴様の問い、何時か必ず」
次回、仮面ライダーブライ
突入と呪いとジャンケン
ヤジャガドンコンボ
キック力:14トン パンチ力:7トン ジャンプ力:100m
走力:100mを0.111秒 固有能力:高速移動と光線照射 属性:風
必殺技:ビーストスパイラルとワイルディーザー カラー:黄色
ヤマネコヘッド
複眼の色は青。どんな暗闇でも見渡せるヤマネコアイと、遥か遠くの物音さえ聞き分けられるヤマネコイヤーを備える。強烈な閃光・ワイルドフラッシャーを放てる。
ジャガーアーム
前腕部に鉤爪状の武器・猫刀『鉤』が装備される。
スミロドンレッグ
視認不可能な超走行力とそれに見合う脚力を得られる。
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