仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事は!
一つ!ルナイトの不調を回復させるため、刃介がデートに借り出される!
二つ!植物系ヤミーが誕生!
そして三つ!八枚ある紫のコアメダルのうち、四枚が刃介の体内に入り込んでしまった!
恐竜と対極の器と荒ぶるコンボ
刃介が病院に赴いた頃、植物ヤミーとは別の脅威が今や遅しと力を滾らせていた。
街のとある高層ビル―――その屋上には不気味な二つの人影がある。
いや、それを人影と表現するには語弊があるだろう。
一言で述べてしまえば、そこには翼竜のような怪人が二体居た。
『渦巻いている』
男風な怪人は呟いた。
『渦巻いているな、欲望が』
『人の命の、源が・・・・・・』
すると横に居たもう一体の女風な怪人が漏らすように呟く。
よく見れば遥か超古代に絶滅したプテラノドンを擬人化したような二体の怪人は街を見下ろす。
『では、全てを無に・・・・・・』
『無に、還す』
両腕と一体化した翼を広げ、二体のヤミーは空気を切り裂きながら、宙を舞って行く。
*****
ルナイトの勧めによってとある病院で検査をすることになった刃介。
基本的な検査項目の殆どは勿論、レントゲンにコアメダルの影が映るかどうかも試した。
しかしながら結果は予想に外れず全て異常なし、というものだった。
だが刃介はこの結果を当然だと思って疑わなかったし、寧ろ幸運とも感じた。
もし仮に万が一メダルがレントゲンに映る代物だったら、体内に隠しているほかのコアやブライドライバーも見つかって問い質される恐れもあったからだ。
「これで粗方の検査は終了か?」
「えぇ。これと言った異常は見受けられませんでした」
「それは良かったわ」
医者の診断にルナイトは胸を撫で下ろした。
因みに今のルナイトは巫女装束などという目立ちまくりなコスプレではなく、スリット入りロングスカートにセーターという普通な格好をしている。もっとも下着などないので爆乳が布を押し上げているのだが。
「それにしても、奇妙なものですね」
「なにがだ?」
「実はちょっと前に気絶した患者さんが運び込まれて血液検査やレントゲン撮影込みで検査を頼んできたんですよ。体の中に何かが入ったかもしれないってね」
若い医師はそう語る。
すると刃介は立ち上がった。
「そいつは今どこにいる?」
「え、病室で寝てる筈ですけど」
「わかった。ルナイト、来い」
「え、ちょっと、待ってよ!」
聞くや否や足早に診察室を出る刃介とそれについていくルナイト。
廊下を無遠慮に歩く二人は格好や容姿も相まって実に浮いている。
刃介は闇雲に探す気が無いのか、近くに居た他の医者に聞いてみることにする。
「あの、すまないが『火野映司』という男は今この病院にいるか?」
「いますよ。この病室でお休み中です」
と、医師はすぐ後ろを指差す。そこには病室のドアがあった。
「彼のお知り合いですか?」
「まあ知り合いと言えば知り合いだな」
刃介は適当な言葉で誤魔化す。
だがしかし、内心では何だか実際に顔を会わすのに抵抗があるのだが。
「さて、どう切り出すかな?」
刃介が顎に手を当てて考えていると、
「だったら勢いある私に任せなさいっ♪」
等と言ってルナイトが戦陣を切って病室に入っていったのだ。
刃介は少し驚きつつも、ここはルナイトの小さな勇気に感心しつつ、後に続くようにして病室に入った。
病室の中にはベッドで休んでいる一人の青年を囲うように三人の男女がいて、少し奥にあるテーブルと椅子を一人で悠々と占拠する者を含めて五人居る。
突然の来訪者に皆が戸惑うなか、ルナイトは奥にあるテーブルと椅子を占拠して居る一人―――金色で右より髪型をした青年に向ってこう言った。
「800年ぶりね、アンク?」
アンクと呼ばれた金髪の青年は椅子から立ち上がり、驚愕の表情を示す。
「テメッ――何故此処にいるんだ!?」
「ご挨拶ねぇ。生みの親に対してソレはないんじゃないの〜?」
アンクの怒鳴り声にも構わず、ルナイトは何時もの妖艶な態度で返答している。
ルナイトは困惑しているほかの面々の為、自己紹介しておくことにした。
「皆さん初めまして。私の名はルナイト・ブラッドレイン・シルフィード。トライブ財閥の会長を勤めてる者よ」
「え・・・!?貴方がシルフィード会長!?」
ルナイトの名乗りに生真面目そうな青年が反応する。
「えっと、貴方は・・・?」
「鴻上ファウンデーションの後藤慎太郎です」
後藤は丁寧に頭を下げて名乗った。
すると隣に居る屈強な男が大きなタンクを傍らに名乗る。
「俺は伊達明。知ってるかもしれないが、仮面ライダーバースだ。宜しく!」
「セルメダル集めで一億狙ってるそうね。今後とも宜しく」
「おい、そろそろ俺もいいか?」
そこへ刃介が割って入ってきた。
「貴方は誰ですか?」
そこへ黒い長髪をした大学生くらいの女性が尋ねる。
「俺は我刀流二十代目当主、鋼刃介。そこのお人好しと似た境遇にあるゴロツキだよ」
「い、泉比奈です。――あの、映司くんと同じって・・・・・・?」
「まさか、お前がこの時代の・・・・・・」
アンクは赤い右腕を現しながら聞いた。
刃介は隠すことも無くベルトとコアを取り出して見せた。
「あぁ。俺が今代の仮面ライダーブライだ!」
すると最後の一人、ベッドで休んでいる青年――火野映司が驚きを禁じ得ずにいる。
「えっと、俺はこの場合・・・・・・どういえばいいのかな・・・・・・?」
しかしながら、刃介に投げかけるべき言葉が見つからなかった。
*****
重要資料室。
「何故コアメダルが独りでに?」
「もしや、貴方の意思ですか?」
バットと吹雪は七実にそう問い質す。
「恐らく、刃介さんの強大な欲望に引き寄せられたのでしょう。多数のコアの力を一手に掌握する程の深遠な欲望に」
七実はこれといって動揺することなく、真顔で答えた。
「そもそもコアメダルは欲望という思念の力で出来上がっているようですし、より強い力を求める大きな欲望に惹かれるのも自然の通りではないでしょうか?」
バットと吹雪はその説明で納得するしかないと結論付けた。
なにしろあの紫のコアは元を正せば七実は秘めてこそ真価を発揮するのだから。
いや、コアの力を装着者に余す所無く宿すブライもまた同じと言えるだろう。
「では私も行くと致します。刃介さんのいる場所へ」
そう述べると、七実は立ち上がって部屋を出て行った。
*****
病室から出た際、伊達と後藤は用事があって一旦別行動を取る事になった。――が、その代わりというべきか?
病室の近くにスタンバっていた男が一人。
男の名前は坂田―――簡単で高額なバイトをやっていたつもりが、昆虫王ウヴァに利用されてセルメダル徴収を行っていたことが判明し、何よりセルメダルの報酬で得た金銭を恩師の家族に寄付していたら、その家の母親が寄付金に甘えてダメ人間になってしまったという、まさに骨折り損な人間である。
因みにウヴァが行っていたセルメダル収集方法とは、とある金融会社の人間全てに屑ヤミーを寄生させることで一人一日一枚ずつのペースでセルメダルを増殖させ、それを時間通りに徴収しに来た坂田に渡すというもので、時間こそはかかるが、屑ヤミーの隠密性や使う人数によっては大きく稼げる遣り方に刃介は感心して―――
(今度、ルナイトに頼んで社員どもに・・・・・・)
などという腹黒いことを目論んでたりしたが、一応気にしないでおくことにする。
さらについでに書き加えておくと、刃介は坂田を有無を言わさず強制撤去させた。
少し可哀相にも思ったが、これから話すことはメダルと何の関わりも無い、ただ単にヤミー生成者になってしまっただけの一般人を交えてする話題ではないからだ。
刃介の必死な説得により、坂田は渋々帰って行った。
「・・・・・・ふぅ」
刃介は病院の直ぐ近くにあるベンチに腰かけ、溜息を吐き出す。
「今日は正に運命大激動だな」
「そうね。デートしてたらヤミーが来るわ、コアメダルが体内侵入するわ、おまけに病院でオーズと出くわしちゃうんですものね?」
隣にルナイトが座って相槌を打ってくれた。
「あの、それで俺たちと話したいことってなんなんですか?坂田さんを追い返してまで・・・・・・」
「いや、ブライの判断は正しい。下手に只の人間に聞かせていいような事柄じゃねぇ」
と、映司の疑問とは裏腹にアンクは珍しく他人を評価した。
「それにしても、まさか貴様が当時の姿のまま800年間を生き永らえていたとはな」
「うふふ。貴方達グリードは死んだのではなく封印されただけだったのよ?ならば、後世を見守る為にも簡単には死ねないでしょ?」
「ふっ。その為に態々人を捨て、吸血鬼と成り果てるとは・・・・・・」
アンクはルナイトに対して呆れたようにしている。
だがルナイトは何時もの妖艶な態度で受け流している。
「でもねアンク?これはコアを生み出したと同時にグリードを生み出してしまった私の義務でもあるのよ。禁呪を使って吸血鬼化して、もう二度と人間には戻れないけど、決して後悔だけはしていないわ」
「ちょ、ちょっと待ってください!言ってることの意味がわかりませんよ!」
映司は知らないところで進んでいく話の流れに歯止めをかけようとする。
「言ってる意味なんてそのまんまじゃない。私はね、800年前のオーメダル開発に携った一人なのよ」
「そして、800年前のグリード誕生から封印の生き証人ってわけだ」
トドメを刺さんとする勢いで刃介が述べると、
「「ええええええええええっっ!!?」」
映司と比奈が大声をあげて驚いた。
すると、
「声がデケェんだよ!」
――バゴンっ!――
刃介が右腕で二人の頭を殴った。
しかも、刀を連想させる異形となった両腕で。
「イッタ!――って、鋼さん、その腕・・・・・・!?」
比奈は痛がりながらも驚く。それは勿論、映司とて同じだ。
ただし、アンクは冷静な態度だ。
「随分派手に暴れてきたようだな」
「まぁな。両腕だけでなく、最早全身に侵食が進んでいるわけだが」
「あ、アンク!どういうことだよコレ!?」
映司は刃介の体についてアンクに尋ねた。
「簡単なことだ。ブライになった者はオーズを凌ぐ力を振るえる代償に、肉体がグリード化するってことだ」
「その通り。そしてコンボを使うたびに、侵食が進み、体内のコアメダルが増殖していく」
「「―――――っっ」」
ここまできっぱりという刃介に、映司も比奈もただただ絶句するしかなかった。
だがしかし、
「鋼さん・・・・・・どうして、そんな体になってまで?」
「どうして、だと?ハッ――死ぬ覚悟も無い癖に戦ってる奴に訊かれたくねぇな」
刃介はよーく知っている。
『彼方の火野映司』にしろ、『此方の火野映司』にしろ、根本的には自己より他者の意思と生命を優先してしまい、常に死と隣り合せであるにも関わらず、己という貴重な戦力を犠牲にしてでも”誰かに手を伸ばす”男だということを。
「火野。本来戦場に出るべきは目的を成し遂げる為に死ぬ覚悟をしてる奴だけだ。――いや、死ぬ覚悟をしてるからこそ、己の命の重みを知ってる奴になって初めて、戦いに出る資格があるんじゃないか?」
「死ぬ覚悟と戦う資格・・・・・・」
「自分一人が怪我すりゃ良い、なんて半端な覚悟で、理想に向っていくのは構わないが・・・・・・その遣り方では何れお前は理想を抱いたまま溺死するぞ」
そんな悟った表情で語る刃介に、映司は何も言い返せないで居る。
アンクは逆に興味深そうな表情をしていて、ルナイトと比奈は複雑そうな表情だ。
(まあ、人殺しの俺と御人好しのオメェとじゃ意見は合わないだろうがな)
「でも、鋼さん」
すると、映司は刃介が思考してる間にこう言った。
「俺はあくまで自分の手の届く範囲で、やろうと思ったことをやるだけですよ」
映司は両腕を左右に伸びし切り、
「例え甘いとか詭弁だとか言われても、俺は俺の腕と手が直接届く範囲で、何とかやっていくだけです」
「・・・・・・好きにしろ」
刃介は半ば呆れるように体重を一気にベンチへと預けた。
「だがその前に、ヤミー退治が先決だ」
「ああ。さっきから気配が漂ってきてるぞ」
「っ!行こう!」
刃介とアンクの直感がヤミーの存在を気取り、戦いの場へと駆けて行く。
*****
ヤミーの気配を察知し、伊達と後藤と合流した一行は、比奈を安全な場所で待機させた後、気配を追ってビル街へとやってきていた。
「ここか?」
「間違いない」
伊達の質問に刃介が肯定する。
「見ろっ!」
すると後藤が上空を指差す。
そこにはビルの上層が怪しい黒い煙で包まれていた。
伊達は逃げ惑う人々のうちの一人を呼び止める。
「何かあったのか?」
「黒い変な煙が!触れた人が消えちゃって!」
それだけ言うと他の人達に紛れて逃げて行ってしまう。
だが次の瞬間、大きな翼を羽ばたかせながら、一体の異形が上方から舞い降りる。
『フフフフフ・・・・・・』
もう一体はプテラノドンを擬人化させた男性的なヤミー。
「恐竜のヤミー・・・・・・拙いわね」
「あの翼竜の何処が拙いんだ?」
刃介が些か焦りを見せるルナイトに尋ねようとすると、
『我々は、消し去る者』
「我々?」
プテラ♂の言葉に刃介が首を傾げると、
『ハッ!』
プテラ♂が光弾を発射してきたのだ。
一同はそれを素早くかわし、戦闘準備に入る。
「アンク、メダル!」
「受け取れ!」
映司はアンクから三枚のコアを受け取り、オーズドライバーを装着。
伊達もメダルタンクを降ろしてバースドライバーを装着し、刃介もまた然り。
――チャリーン!――
伊達が右手でセルメダルを弾いて左手でキャッチし、それをバースロットに投入してグラップアクセラレーターをキリキリと回す。
映司と刃介はバックルにメダルをセットし、オースキャナーとローグスキャナーを手に取り、コンダクターを滑走路にしてコアをスキャン。
「「「変身!」」」
――パカン!――
≪TAKA・TORA・TAKO≫
≪RYU・HOUOU・TENBA≫
血錆色の龍の頭、紅き鳳凰の腕、血錆色の天馬の足をした仮面ライダーブライ・リュウオウテン。
赤い鷹の頭、黄色い虎の腕、水色の蛸の脚をした仮面ライダーオーズ・タカトラタ。
そして銀色のアーマーと黒いボディスーツ、U字型のバイザーを一瞬赤く光らせる仮面ライダーバース。
三人の仮面ライダーが集まったのだ。
「後藤ちゃん!逃げ遅れた人達の避難宜しく!」
「了解!」
バースは後藤に状況が円滑に進むよう指示を出し、三人でプテラ♂とクロユリヤミーに挑んでいく。
だがそこへ、
――ビュルルルルルル・・・・・・!!――
異様な物音を立てながら、何処からとも無く蜘蛛の巣のように張り巡らされていく植物の蔦や蔓。
それを辿って現れたのは、
『ハハハ・・・・・・』
「またお前か」
クロユリヤミーの出現にブライは呆れたように言葉を漏らす。
『我等は欲を吸い取りし者。欲望は命を喰らって輝く』
大仰な様子で語るクロユリヤミーとは真逆に、
『メダルは欲望―――無に還れ!』
プテラ♂が飛行しながらこちらに攻撃をしかけてくる。
「オーズ、そっちは任せた!」
「は、はい!」
オーズはブライの言葉を聞きいれ、垂直なビルのガラスの壁をタコレッグの吸着力で不自然ながらも、地面のようにして立っている。しかしプテラ♂の機動力のほうが上な為に苦戦させられている。
――パンパンパンパン!!――
ブライも銃口から炎の弾丸を発射する。
普通なら植物の大敵は火炎や冷気と考えるだろうが、
『甘い』
クロユリヤミーは何重もの蔓と蔦の壁を作り上げ、攻撃を阻止したのだ。
防御壁こそはメラメラと燃え尽きたが、クロユリヤミー自体は無傷だ。
そして、
『『フアッッ!!』』
「「「うわあぁ!?」」」
クロユリヤミーとプテラ♂が発した奇妙な衝撃波によって吹っ飛ばされてしまう三人のライダー。
バースと離れ離れになるようにオーズとブライは階段を直ぐ後ろにした場所にまで吹っ飛ばされた。
追い討ちをかけるように二体のヤミーは、
『大いなる欲望、コアメダル――我が糧とならん』
『コアメダルは欲望。我等の前で欲望は無効』
プテラ♂とクロユリヤミーは対極の言葉を吐き、全身から紫の光がオーズを包み、数多もの蔓と蔦を伸ばしてブライドライバーに絡みついた。
「うあ・・・・・・ッ」
「ま、まさか・・・!」
気付いた時にはもう遅い。
二人の変身は強制的に解けてしまった。
「えっ!?」
「チッ――コアの無効化と、エネルギーの吸収による変身の強制解除か」
「あ・・・・・・」
映司は脱力して階段を転げ回っていくが、刃介は気力で踏み止まる。
(ルナイトが言ってたのはこの事かよ・・・・・・!)
刃介は深く考えなかった浅慮な自分が歯痒い者に思えてきた。
そこへ唯一セルで変身するバースが、
「おォォォオ!!」
勢い任せに突っ込んでいったのだ。
だがそんな計画性の無い攻撃が知能あるヤミーに通ずるわけもなく、
『邪魔だ』
――バギッ!――
「ぐあぁ!」
クロユリヤミーの一撃で吹っ飛ばされ、変身まで解除させられてしまう。
「伊達さん!」
映司は疲れの溜まった体に鞭を打つように伊達に駆け寄ろうとする。
だが決して状況は好転しない。寧ろ悪くなっていく。
――バサッ、バサッ!――
――シュルルルルル!!――
上空からはプテラ♀、地中からはシラユリヤミーが現れたのだ。
『『フフフフフ・・・・・・』』
「そんな・・・!」
「メンドくさくなってきたな」
絶体絶命とは正にこのことだろう。
「火野!ハリガネ!」
「鋼だボケナスッ!」
さりげに自分の名前を間違えた伊達に怒号する刃介。
だが伊達が居る場所、階段の下にある隙間に三人揃って逃げる事は怠らない。
「もう一匹ずついたとはな。・・・・・・それにしても誰の?」
「花の方は解らないけど、恐竜のは多分真木達の仕業でしょうね」
「つまり奴らが、映司に入り込んだ紫のコアを・・・・・・」
アンクとルナイトは一線はなれた場所で戦況を見守る。
一方で伊達らは、
「こりゃ一旦逃げるが勝ちだな」
「大賛成だな。一度戦況を立て直すぞ」
刃介はオーズとブライにとって相性最悪なヤミーに対し、準備も無く挑もうなどという愚かしいことは考えず、確実に勝てる機会と状況を望むが、
「「「「「「「「「「キャアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」」」」」」」
逃げ遅れた人達がビルの中に隠れながらもヤミーたちに怯えて悲鳴を上げている。
やはり後藤一人でビル内全員の人間を避難させるのは無理があったのだろう。
「助けないと!」
映司は即座に避難箇所から駆け出していくが、
「って、おい!」
伊達の制止も聞かずに走った結果、
『フン!』
――ドゥガン!――
「うわッ!」
危うくプテラ♂の光弾の餌食になりそうになる始末。
「アホかお前は!?」
「死にてぇのか!!」
そんな命知らずな行動に刃介と伊達は怒鳴り散らした。
「ほっとけませんよ!!二人だってそうでしょ!?」
「生憎俺は医者でな。医者の仕事はまず自分が死なない事だ。でなきゃ誰も助けられない」
「第一、俺等が死んだら誰が戦うって言うんだ?」
映司は真剣に語る二人の”自分の命”の重みを聞いても、
「だとしても見殺しにはできません。俺に医者は無理そうですから」
――バッ!――
「ひ、火野!」
「あのバカ!」
結果としてなお他者を助けようとする映司。
ヤミーらはそこを狙って、
『『フッ!』』
『『ハッ!』』
双方揃って強力な波動を放ち、映司の直上にあるビルの一部を破壊したのだ。
ドガーンという盛大な爆音と爆炎を背景に、
『『フハハハハハ!』』
『『フッフッフッフ!!』』
二組のヤミーは悠然と去っていってしまった。
*****
その日の夜、映司とアンクの居候先であり、比奈のアルバイト場所でもある多国籍料理店・クスクシエにて。
「よくその程度の怪我で済んだな」
後藤は伊達に包帯を巻いてもらっている映司の傷だらけな身体を見て呟く。
ルナイトが野暮用で一度財閥に戻り、新たにもう一人加わっているので、この場には六人が居る。
因みにアンクは上の階だ。
「すいません」
「前から危なっかしいとは思っていたが、原因はこれだ。他人を助けようとするクセに、自分の命は無視してる」
「そんな・・・俺は死ぬつもりじゃ「それが軽いんだよ!」
打ちのめすように伊達は強く言った。
「全くだ。間一髪のところで七実が来てくれたからいいものを」
そう、映司の怪我がこの程度で済んだのは遅れて到着した七実が忍法疾風迅で映司の身を救出したからこそなのだ。
当初は七実の外観とグリードであることのギャップに驚く映司たちだったが、そんなことを議論している時間もも無く、とっとと映司をクスクシエに運びこんだわけだが。
そして、七実は映司にこう言った。
「火野さん。何が転機になって己の価値を軽んじているのですか?例え遊び半分であろうと、戦いには『死』が付き物です。なのに貴方の覚悟は常に中途半端です」
「・・・・・・・・・・・・」
黙る映司に刃介が続けて様に言った。
「こう言っては悪いが、死ぬ覚悟をキチンとしてるなら、俺達は何も言わない。だが覚悟も無く賭ける事さえせず、のうのうと戦場に出られたんじゃ・・・・・・ハッキリ言って不愉快だ」
刃介の言葉と声音はまさに一本の日本刀のように鋭く冷たい。
「それに思い出したよ。―――火野、映司」
伊達は治療を終えてカウンターに向って過去を振り返る。
火野映司が欲望を失った理由を。
*****
上の居候部屋。
部屋に入って映司が最初に見たのは、高い位置に置かれて赤い布が敷かれたソファで寝転がるアンク。
「・・・・・・大丈夫なのか?」
アンクは珍しく心配する言葉を吐いた。
「ああ・・・・・・」
*****
再び下の階。
「伊達さん、映司くんと会ってたんですか?」
「アフリカで働いてたときにチラっとね」
こう見えても伊達は医者のチームを組んで世界中の貧しい国の人々を治療していた経緯を持つ。
映司もかつては様々な国を自由奔放に歩き回っていたことがあるのだ。
「内戦に巻き込まれた政治家の息子が村を救おうとしたって大騒ぎになってさ」
「そういえば1・2年前にそんなニュースが・・・・・・あの政治家の息子が、火野?」
「え・・・・・・でも私が聞いたのは、女の子を助けられなかったって・・・・・・」
比奈と後藤の意見に、伊達は神妙な顔つきだ。
「―――美談は作られる。命をかけて村を救おうとしたのは事実だけど、途中で親が払った身代金で、火野だけが助けられたんだ。・・・・・・んで、村を救おうとしたってトコだけ大きく取り上げて・・・・・・」
「要するに、見栄っ張りな政治家の親兄弟によって、人気取りの材料扱いってわけか」
刃介は伊達の話を聞いて大体の大筋を読んだ。
「火野の意思は無視、ですか、キツいですね。俺ならきっと・・・・・・」
「怒る奴もいるだろうし、ジメジメ腐る奴も居る。――で、偶に妙に乾いちまう奴も居る。火野はそれだ。乾いちまって、自分に対する欲が無い」
*****
居候部屋。
アンクはソファからおり、椅子に座ってボケーっとしている映司に近寄り、
「お前の方がよっぽど”欲望の渦”にいたとはなぁ」
「まぁね・・・・・・でも、もう忘れた。何時までも拘ることじゃないでしょ?」
映司は椅子から立ち上がり、ベッドに腰かける。
*****
一階の営業場。
「そんな・・・どうして・・・」
比奈は虚しそうな声を出す。
「いいのいいの、理解しなくて。あいつなりの立ち直り方なんだろうし。でも、会長が言ってるでしょ?」
伊達は両手を挙げるポーズをとり、
「”欲望こそ生きるエネルギー!素晴らしい!”――ってね」
「我欲の無い人間など、進むことも退がることも無い、退屈な存在になるだけだ」
そこへ、店の扉を開く音が。
「その通り!!」
「・・・・・・お前が鴻上光生か」
行き成りの登場に刃介は驚きもせず冷静に現状を受け止める。
「初めまして、鋼刃介くん!伊達くん共々いい指摘だよ。流石はブライとして幾つ物コアを使いこなし、果てにはグリード化した男だ!君は実に素晴らしい!!我々の出会いにHappy birthday!!」
鴻上は持ち前のハイテンションさを発揮する。
「んで、用件は?」
「ふふふ。君が”無限の欲望”でコアを支配する器なら、火野映司くんは”欲望の空白”でメダルを受け止める器ということさ」
「ほぉ」
その意見に刃介は興味が沸いてきた。
「人の身でありながらメダルをあれだけ使って暴走せずに済んでいるのもそこだ!」
七実が先を読むように、
「しかし、状況は一変した、と?」
そう呟いたのだ。
「ああ。その重要なことを報せる為に、今日は態々来たんだ」
鴻上が合図すると、同伴していた秘書・里中が持っていた箱の蓋を開ける。
「Happy birthday!!紫のメダルのグリード!!そしてそのヤミー!」
箱の中にはケーキが入っており、ケーキには恐竜を描いた紫のデコレーションが施されている。
「絶滅した今となっては想像上でしかない生物を使ったメダル!その欲望は・・・・・・無だ。なっいぃぃぃ!」
鴻上の喋りに刃介は苦手意識を感じるが、一応我慢しておく。
「それがオーズに惹かれて映司くんの欲望の隙間に入った!欲望の空白が埋まれば・・・・・・暴走の危険性は高くなる!!」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
「映司くん・・・・・・」
*****
上の居候部屋。
「お前わかってんだろ?自分の中にコアが入ったってこと」
「まあ、何となく。でも遣る事は変わらないし、兎に角今は、目の前の人を助けるだけ・・・かな?」
映司はベッドに寝転がりながら答えた。
「フッ、お前がバカでよかった」
「褒めてるつもり?」
「さぁな」
そうしてアンクもソファに戻り、二人揃って休眠の世界へとダイブしていく。
*****
三度戻って一階。
「おい、ルナイト」
刃介がドアに向って声を出す。
「あらバレてたの?」
そこにはジャリジャリと音を立てる大型のキャスター付きのスーツケースを持参したルナイト。
恐らくケースの中には報酬のセルメダル二千枚が入っているのだろう。
「俺の体内にある、二種類の紫はなんなんだ?」
「それなら私が説明したほうが?」
「いいえ。この件は私の口から説明するわ」
ルナイトはケースを七実に手渡して語りだす。
「最初に言っとくけど、あのコアたちとリュウのメダルで変身するコンボを使う際は大いに気をつけたほうがいいわよ」
「あ?」
「400年前にあの八枚のコアを手に入れたとき、私は直ぐにそのコアを解析したわ。その結果、龍神系コンボになったブライは、”闘争本能という欲望”が最大増幅されて限界を越え、そして正気を失い暴走する」
「なるほど。”荒ぶるコンボ”ってことか」
刃介は納得したよう首肯する。
「そう。恐竜は地球上最強の生物だけど、龍種は幻想上最強の怪物。それによって発現するコンボの力は正に未知数。どんな結末を辿るかさえ判別不可能」
「構わんさ。大きな欲望ほど、叶える為の手順を踏む必要性があるってもんだ」
刃介は当然のように受け答えを行う。
それを見た鴻上は実に喜ばしそうに、
「素晴らしい!全くもって君の言うとおりだよ!欲望は大きくなれば成る程、叶える為の手順も増えるが、それらを越えた先にある歓喜は表現の仕様が無い!」
「そいつはどうも」
「しかし私には一つ疑問がある」
鴻上は視線を刃介から逸らし、その横に居る人物に向ける。
「鑢七実くん。この場には自身のコアが全てあるというのに、何故君は完全復活しようとしない?」
「私はただ、一本の刀として、刃介さんの御傍に居たいだけです」
七実は研ぎ澄まされたような雰囲気でそう答えるが、次の瞬間には刃介の腕に抱きついてこう宣言?してみせた。
「それに、誰かを”愛する”という欲望を抑えることほど暗愚なことはありません」
「実に!実に素晴らしい答えだよ!!」
鴻上は歓喜しすぎて今にも昇天しそうなほどに喜びまくっている。
もはや狂喜乱舞の一歩手前だろう。
「人類の歴史は”愛する”という欲望なくしては此処まで繁栄してこなかった。あらゆる偉人も天才たちも、突き詰めればその”愛の結晶”だからね。――今日は本当に面白い日だよ!此処まで満足した気分になったのは何時振りかな?」
鴻上光生。
己が欲望を妨害する欲望以外は全て受け入れる。正に欲望の求道者ともいえる男である。
*****
翌日の真昼、とある遊園地。
そこでは子供は勿論、大人達も笑顔で満ちていた。
家族や友人、恋人と一緒に幸福な時間を過ごしたいという欲望を叶えている真っ最中。
だが其処へ消去者達が上空より現れる。
『渦巻いているな、欲望が』
『人の命の、源が・・・・・・』
それはプテラ♂とプテラ♀に他ならない。
彼等は繁華街で撒き散らしてあの黒い霧を、
『『フアアァァァ!!』』
口から大量極まって吐き出していき、遊園地全体を短時間で包んでしまったのだ。
黒い霧に包まれた人々は子供も大人も男も女も関係なく、みな等しく、気付かずに消えた者もいれば苦しみながら消えた者もいる。
『『フフフフフ・・・・・・』』
そんな光景に満足したかのように、二体の恐竜は地に降り立った。
*****
その頃、当然ヤミー達の気配を察知した刃介と七実は、
「「ヤミー」」
一発でその居場所を突き止める。
刃介はスマートフォンを使って早速戦力を呼び寄せることにした。
「おい、金女。俺だ」
『おや、兄さんですか』
「ヤミーがでたぞ。距離と方角からして、多分遊園地あたりだろう」
『不断――ならば早速いきます』
「頼んだぞ」
連絡を終え、スマートフォンでの通話を終了する。
「よし、いくぞ七実」
「委細承知」
二人はシェードフォーゼに乗って、現場へと急いだ。
*****
遊園地。
――ビュルルルル!――
――シュルルルル!――
『『ハァア!』』
クロユリヤミーとシラユリヤミーが揃って現れ、プテラ達と顔を合わせる形となる。
だがそこへ、
――ブゥオオォォォン!!――
バイクのエンジンが喧しいほどに鳴り響き、そこを見てみると、シェードフォーゼに乗った刃介と七実、ライドベンダーに乗った金女の姿がある。
「二組揃ってのお出ましとは丁度いいぜ」
刃介がそういって愛機から降りると、七実と金女も地に足をつける。
そこへ、
「鋼さん!」
映司とアンクが走ってやってきた。
「火野か。今度はしくじらないようにしようぜ」
「はい!」
「それはいいが、あいつらの攻撃は絶対に避けろよ。変身が解ける」
アンクは映司にコアメダルを渡した。
二人はベルトを装着し、メダルをセットしてスキャナーを滑らせる。
「「変身!」」
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
血錆色の龍の頭、鬼の腕、天馬の脚―――ブライの基本形態、リオテコンボだ。
赤い鷹の頭、黄色い虎の腕、緑色な飛蝗の脚―――オーズの基本形態、タトバコンボ。
「いくぜ!」
「えぇ!」
ブライは魔刀『釖』、オーズは虎の爪を展開して四体のヤミーに挑んでいく。
しかし、ただでさえ実力の高いヤミーが四体いるというのに、こちらは二人。分が悪いとしか言いようがない。
「まだですかね・・・・・・って、漸く来ましたね」
金女の視線の向こうには走ってくる伊達と後藤がいた。
「あれ?なんで忍者がここにいるの?」
「初めまして。私は鋼金女と申します」
「え、まさかハリガネの?」
「ハリガネ?・・・まあキチンとした自己紹介は後にして、今は戦いに専念しましょう」
「おうよ!」
二人はベルトを装着し、セルメダルを手にする。
「「変身」」
――チャリン――
――キリッ、キリッ――
――パカン!――
伊達は仮面ライダーバース、金女は仮面ライダーチェリオに変身する。
「あれが、チェリオシステム・・・・・・」
後藤はチェリオのことを僅かながらも知っていたのか、ぼやくように呟いた。
二人のライダーの介入によって、戦況は漸く五分五分になってきた。
しかしそこへ、比奈が映司達の後を追って来たのだ。
「映司くん・・・・・・」
これも一重に映司のことを心配してのことだろう。
当初は比奈も注意深く戦えばオーズ達にも勝機があると希望をもっていたが、それはあまりにもお約束な展開によって打ち砕かれてしまう。
「うぇぇん・・・!怖いよ〜〜!」
あの黒い煙からどうにか難を逃れていた一人の子供だった。
親兄弟が消されてしまったのか、行き場もなく判断もできず、物陰に隠れて泣いている。
「ッ!」
それを見たオーズは真っ先に子供へ駆け寄ろうとする。
だがそこへプテラ♂が光弾で攻撃しようとする。
「火野!」
――ズバッ!――
ブライはそこへ割って入り、プテラ♂の攻撃を切り裂いた。
「早くしろ!火野の遣り方は気に入らないがな、無関係なガキに死なれたら胸糞が悪くなる」
「あ、ありがとうございます!――ほら、こっちへ!」
ブライに感謝しながら、オーズは子供に手を伸ばす。
それを見た比奈は、今までの映司の行動を思い起こす。
(映司くん、何時も誰かの為に手を伸ばして・・・・・・お兄ちゃんにも、私にも。じゃあ、映司くんには、一体誰が・・・?)
それが火野映司に関わった者なら一度は思いそうな疑問。
「早くあっちへ逃げて!」
「う、うん!」
オーズは子供を安全な方向へ逃がすと、再びヤミー達に顔を向ける。
だが時既に遅し。
『フッ!』
「うあぁぁ!」
プテラ♀の波動によってオーズの変身が強制解除させられてしまったのだ。
『その力、頂くぞ』
「ぐぉ・・・・・・ッ」
ブライもまた、シラユリヤミーによってエネルギーを奪われ、変身が解けてしまった。
「ひ、火野・・・ッ」
「兄さん・・・・・・!」
バースとチェリオは必死になってプテラ♂とクロユリヤミーの相手をしながら仲間と肉親を呼ぶ。
「映司くん・・・・・・!」
比奈は無意識に映司のいる場所に足が動こうとしている。
「比奈ちゃん・・・危ない!」
しかし後藤によって止められ、何時ものようにただ見守ることしかできない。
生身の状態。しかもエネルギーを奪われて脱力しかけた刃介の様子をみた七実は、
「見られますね」
とだけ呟いた。
『『ハァ・・・・・・フアッ!』』
そして、プテラ♀とシラユリヤミーの攻撃が二人の身体に届こうとした瞬間―――!
「うお・・・ッ!?」
「コレは・・・・・・!?」
二人の体から、紫のコアが飛び出してきたのだ。
映司からは三枚のコアが飛び出し、オーズドライバーのバックルに嵌り、自動的にオーレイターが傾く。
刃介からは二枚だが、先ほどセットしていたリュウのメダルが紫に変色して他のコアと共に自立的にローグレイターに嵌ったのだ。
「「――――――ッッ」」
突然無表情になった二人は、顔を上げて、紫色に輝く眼光を垣間見せる。
そして、スキャナーが一人でに動き出し、コアメダルをスキャンしてホルスターに戻った。
≪PTERA・TRICERA・TYRANNO≫
≪RYU・WYVERN・DRAGON≫
紫のメダル達が二人の周囲を舞い、上・中・下の三つが合わさって一つの円形を生み出す。
≪PU・TO・TYRANNO SAURUS!≫
≪RYU・WA・DRAGON KNIGHT!≫
太古より続く力、幻想より出でる力。
それらは激しい旋律と歌声を奏でて現代に顕現した。
変身が完了すると同時に、二人を中心として、オーズからは氷河期を連想させる凄まじい冷気が大地を凍りつかせ、ブライからは神話を連想させる火炎・疾風・吹雪・雷電が吹き荒れる。
そして・・・・・・!
「「ゥオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」
二人の竜人の咆哮が、全てを打ち砕いた!
「何だありゃ!?」
「新たなコンボ・・・・・・!?」
バースとチェリオは勿論のこと、
「なに・・・・・・ッ!?」
アンクも驚きを禁じ得ない。
「なるほど、アレが荒ぶるコンボ」
だが七実だけは冷静さを保っている。
「「ヴォォオオオオオオオオオオ!!!!」」
天上へとあらん限りの咆哮を叫び続ける者。
紫色に染まり果てた三つの部位と黒から白に変色したボディスーツ。
オーズはプテラノドンの頭、トリケラトプスの腕、ティラノザウルスの脚。
ブライは進化した龍の頭、飛竜の腕、悪竜の脚。
「「ォォォアアアアア!!」」
太古の暴君竜、仮面ライダーオーズ・プトティラコンボ。
幻想の最強種、仮面ライダーブライ・リュワドラコンボ。
今此処に、双対の無敵が現出した。
クロユリヤミーとシラユリヤミーはリュワドラコンボのそれを見て、
『この波動は・・・!』
『極限に昂る神代の欲望』
『ならば、それもまた我等の根に!』
そしてプテラの二体はプトティラの姿を見て、
『この力は・・・・・・!?』
『この力は同類・・・・・・』
『同類にして、敵っ!』
四体のヤミーは一斉に襲い掛かろうとするが、
――バサッッ!!――
オーズの背面に伸びた羽状の部位こと”エクスターナルフィン”と、ブライの両肩と背中から生えた”アルティメットフライズ”という大翼の羽ばたきにだけで、四体のヤミーが吹っ飛ばされたのだ。
しかもブライのアルティメットフライズからは、羽ばたきの際に火・氷・風・雷さえ伴っているのだから殺傷能力抜群である。
『『く・・・フッ!』』
プテラ達は翼を広げて空へ舞うが、オーズのエクスターナルフィンもまた大きく羽ばたいて宙を自由自在に飛び回り、その頑強な翼でプテラ♂もプテラ♀も体当たりを喰らってしまう。
其処から更にラングサークルの下位であるティラノのレリーフが輝くと、大腿部を保護する強化骨格こと”テイルディバイダー”が幾重にも折り重なって一本の野太い尻尾となった。
「フゥゥン!!」
――ブンッ!ブンッ!――
オーズは力任せに体と尻尾を振り、二体のプテラに尻尾の一撃を与えて地上に引き摺り下ろしたのだ。
そしてオーズ本人は実に緩やかなスピードで地上に降りる。
一方、ブライは―――
「ドゥアッ!!」
ラングサークル上位にあるリュウのレリーフが輝くと、顔面にまで光が伝わって口部分に集中していく。
そして大声を出しながら、龍之息吹が進化を果たした龍神気焔という名の強大な光弾が発射されたのだ。
『『うおあああ!!?』』
まさに龍神の御技といって差し支えの無い威力の前に、クロユリヤミーとシラユリヤミーも避けるだけで手一杯だ。
しかしブライは手を抜く事など一切なく、寧ろ勢いを増長させていく。
「グルルルル・・・!」
野獣のように唸るブライ。
ラングサークルの下位にあるドラゴンのレリーフは光を放ち、両足からは凶悪で巨大な悪竜の爪が伸長していく。
「グルァァアア!!」
『ぬあッ!』
『ぐおッ!』
ブライはドラゴンネイルが大きく伸びた両脚を振り回し、二体のヤミーに大きなダメージを与えて吹っ飛ばしていく。
そして、二組のヤミーが同じ場所に固まると、オーズとブライもまた然り。
≪≪SCANNING CHARGE≫≫
二人はスキャナーで三枚のコアメダルを読み取り、力を解放する。
「フンッ!」
まずはオーズが肩のワインドスティンガーを一気に伸ばしてプテラ♀の翼を串刺しにした。
そこへ緑色のプテラアイと黄色い嘴状のアンバーオークォーツが淡く光ると、再びエクスターナルフィンを展開し、大きく羽ばたかせて絶対零度の冷気をワインドスティンガーに沿って一直線に飛ばした。
勿論の事、ワインドスティンガーで自由を奪われているプテラ♀は氷付けにされる。
ワインドスティンガーが元の長大に戻ると、オーズは唸りながら腰を低く落とし、身体を大きく振ってテイルディバイダーでプテラ♀をブチ殴った!
――バギィィィン!!――
必殺のブラスティングフリーザの一撃で、プテラ♀はただの氷の破片と成り果て、出てきたのはたった一枚のセルメダル。
オーズは素早く大翼と尻尾を仕舞い、セルを手の中に掴んだ。
片やブライは、ラングサークルの上・中・下の全てから淡い光が止め処も無くあふれ出していき、それはラインドライブを通して頭と腕と脚に伝達されていく。
エネルギーが伝達された部位は今にも別の何かへと昇華しそうな程に力を蓄えていっている。
『(何も無い・・・?今が好機ッ!)』
と、突っ込んできたシラユリヤミー。
だがそれは飛んで火に入る夏の虫というやつだろう。
彼女は自ら、ブライの射程――それも一番防ぎにくい位置に立ち入ってしまったのだ。
ブライは全身に行き渡ったエネルギーの全てを各部位で昂りに昂らせて一気に頭へと送り込んだ。
そして!
「ヴォォォアアアアアアアアアア!!!!」
それは正に、御伽噺や童話、神話や絵画でしかお眼にかかれない光景だ。
一言で表してしまえば、それは龍神の息吹。
極太の紫色の光線が周囲を巻き込みながらシラユリヤミーを包み込む。
『――――――』
結果として、シラユリヤミーは悲鳴や断末魔もあげること暇さえなく、ジャリーンという音と共に大量のセルメダルを残して完全消滅した。
リュワドラコンボの必殺技であるドラゴニュートシャウトの一撃を防げるものは、恐らく完全復活したグリードくらいのものかもしれない。
オーズとブライは一枚のセルを手に、オーズは地面、ブライは空中に拳を叩きつけた。
すると、地面が罅割れて暴君竜の頭を模した剛健な戦斧・メダガブリューがオーズの手中に納まる。
さらに、空間を拳でぶち破ってブライが掴み取ったのは、龍をイメージさせる大剣・メダグラム。
オーズは超高硬度クリスタル・ディノグラスで構成された暴君竜の刃にある硬貨投入口に一枚のセルメダルを入れると、それは硬貨抽出器へ。その直後に、普段は下がっている砲撃用握柄を上げることでティラノの頭を模した硬貨圧力部がメダルを飲み込んだ。
ブライは紫色のドラグラスで構成された龍神の凶刃にある硬貨投入口にセルメダルを入れて硬貨抽出器に装填し、龍の頭を模した鍔たる硬貨圧力部を手動で閉じてメダルを飲み込ませる。
≪≪GOKKUN!≫≫
その音声と共に、セルメダルはメダガブリューでいうところの砲身――メダグラムでいうところの柄にあたる硬貨解放器に送り込まれたのだ。
そしてオーズはメダガブリューの持ち方を変える為、砲撃用握柄を右手で、ステラグラップエンドを90度曲げて左手で持つことで、斧型のアックスモードから砲型のバズーカモードに変型する。
だがブライのメダグラムは意外とシンプルで、硬貨圧力部を上下にスライドさせた瞬間に、
≪PU・TO・TYRANNO HISSATSU!≫
≪RYU・WA・DRAGON HISSATSU!≫
歌声が流れてくると同時に、圧縮と解放で通常の三倍の力を発揮するセルメダルによって、砲口と刀身には渦巻くような紫の光が満ちていく。
そして、オーズは引き金をひき、ブライが一太刀を振るった。
――ズバァァァァァン!!――
『『ぐあああァァァァ!!!』』
オーズのストレインドゥームと、ブライのギガキリングスレイヤーの一撃により、遠距離も中距離も関係なく、プテラ♂とクロユリヤミーは砲撃と光刃に飲まれて爆発した。
チャリーンという音と一緒にプテラ♂からはセルメダルが一枚、クロユリヤミーからは何十枚ものセルメダルが出てきたが、二人はそれに食いつくことなく、黙っている。
と、思いきや―――
「「ッッ!!」」
――ガギン!ガギン!ガギン!――
オーズはメダガブリューをアックスモードに直し、ブライのメダグラムとで切り結びだしたのだ。
「ウォォウ!」
「ガルァァ!」
猛獣にも等しい雄叫びを上げながら斬り合いを続ける二人の狂戦士。
「おい!止めろお前等!」
「兄さん止してください!」
後藤とチェリオが叫んでも二人は止まらない。
今この場に残った者の内、最も強い者との戦いを止めようとしない。
「チッ・・・まさか、暴走か」
「確かにこれは、拙いことになりましたね」
アンクも七実も歯切れが悪そうにしている。
「「ヴォアアア!!」」
――グァギンッ!グァギンッ!――
紫色の結晶の刃同士がぶつかり合う度に散る火花。
このまま放っておけば命尽きるまで戦うとしか思えない。
「何やってんだお前ら!」
バースもそう叫んだ。
だがその直後、
「「―――ッ!」」
「ひ、比奈ちゃん!」
「金女ちゃん!」
チェリオと比奈がオーズとブライに向って走っていったのだ。
しかもチェリオは走りながらブランクケージからセルメダルを抜いて変身まで解く始末。
戦況はオーズとブライが一旦距離を置いているところだが、二人は再び絶叫と共に刃を交えようとする。そこへ!
「映司くんダメ!!」
「兄さん止まって!!」
――ピタッ――
比奈と金女が飛び込んできた瞬間、メダガブリューとメダグラムがピタリと止まった。
「映司くん。私、映司くんの気持ちが解るだなんて言えないけど、でも手を伸ばす事はできると思う!!映司くんが辛いときは、私が映司くんの手を掴む!!」
「不抑切――兄さん。その余りにも強大な力・・・・・・制御し切れないことは誰も責めません。ですけど、一番大事なのは、それをどう活かし、己の物にするかです。私は貴方の妹――唯一の肉親として、兄さんの欲望を信じます!!」
「「――――――」」
二人の精一杯の言葉に、オーズとブライの動きが完全に止まった。
比奈はオーズに、金女はブライに抱きつき、必死になって訴える。
「お願い!元に戻って!映司くん、お願い!!」
「兄さん!借り物ではなく、自身の欲望を取り戻してください!!」
「「ァ・・・・・・ア・・・あ、あ」」
すると、二人の手からは力が抜けて得物が音を立てて地面に落ちた。
オーズもブライも、頭を抱えながら後ずさり、そのまま変身が解除されたのだ。
「比奈ちゃん・・・・・・ありが、と―――」
「金女・・・・・・感謝す、る、ぜ・・・・・・」
そういうと、映司は倒れこみ、刃介は其の場に座り込んでしまった。
「映司くん!」
「兄さん!」
*****
鶴川通りのとある洋館。
そこは元鴻上生体研究所所長の真木清人の生家。
その中でも一番拓けた場所で椅子に座り、テーブルの上で不気味な人形の服などを調整していた真木に、黄色い服を着た銀髪の青年が尋ねた。
実はこの青年の正体はネコ系グリード・カザリの人間態なのだ。
「どう気分は?」
「問題ありません。上々です」
カザリの質問に真木は平然と答えた。
「じゃあ、最後の一枚」
カザリは紫のコアメダルを投げ、投入口が現れた真木へと投げ入れる。
手元にあった紫のコア五枚全ての投入が終わり、真木の瞳が紫に変色した。
「――――――」
それを感じ取って興味を示したのは、サッカーボールを手に持ち、赤い服を着込んだ幼い少年だった。しかし、見かけに反してその正体は、アンクの肉体部分であるロストなのだ。
「人がグリードになれるなんて、面白いよね」
カザリがそういって階段で座ると、真木は懐から一枚のセルメダルを取り出し、メダルの投入口が現れた蝋燭の燭台に入れた。
――チャリン――
すると、燭台からは怪しい光が一気に放たれ、それは一体の怪物を生み出した。
*****
その頃、誰も知らない古びた武家屋敷。
そこでは二人の男性が無断で住み着いていた。
「どうでござるか四季崎?」
「ああ。中々良い感じみたいだぞ、白兵」
四季崎記紀。
「刀語の世界」の戦国時代で活躍した天才刀鍛冶にして変体刀千本の製作者でもある。
錆白兵。
「刀語の世界」の尾張幕府時代で生まれた剣聖や日本最強の称号をもっていた堕剣士。
「んで、どうだ?久々に差した愛刀の心地はよ」
「まあ、悪くないでござるよ」
白兵の腰には一本の刀が帯刀されていた。
「いやいや。こっそりと盗み出すのには苦労したぜ、その薄刀『針』」
「お主も、自分の使う刀は出来上がったのでござるか?」
「いや、まだ仕上げが残ってる」
四季崎は白兵に対してややオーバーリアクション気味に返した。
「では、此間買って来たこれで、もう一度連中でからかって見るでござる」
――チャリン――
と、白兵はセルメダルを取り出し、庭の棚においてあった植物の内の一つに投入して見せた。
本当の戦いはまだ、開幕したばかりだ。
次回、仮面ライダーブライ!
高校時代と思惑と連れ去り
リュワドラコンボ
キック力:30トン パンチ力:20トン ジャンプ力:250m 走力:100mを2.0秒
身長:210cm 体重:100kg カラー:紫 固有能力:超高エネルギー支配
必殺技:ドラゴニュートシャウトとギガキリングスレイヤー
リュウヘッド・ブレイブ
複眼の色は翠緑。龍の爪型デザインの追加や額から生えている刃型の角の複雑化が見受けられる。口から龍之息吹が進化した龍神気焔という高威力の光弾を吐き出せる。
ワイバーンアーム
両肩と背中から合計四枚の大翼・アルティメットフライズによる飛行や羽撃きが可能となる。羽撃く際には多属性のエネルギーの飛散やそれを利用して攻撃もできる。
ドラゴンレッグ
足の甲や臑から巨大な爪・ドラゴンネイルを生やして伸ばしたり、蹴りの要領で飛ばすこともできる。
メダグラム
異次元空間から生成召喚されるブライ専用の大剣型武器。召喚する際はブライが拳で空間の一部を叩き割り、空間の裂け目に腕を突っ込んで取り出す。
全体的に龍を連想させる形状で、柄の部分であるバドセルストリームは龍の首、鍔の部分であるクランチガルバイダーは龍の頭、刀身であるドラグラスは龍の息吹をモデルとしている。全長は約120cm。
ギガキリングスレイヤーの発動に必要な武器であり、セルメダルのエネルギーを圧縮・解放することで通常の三倍近くの出力を引き出せる。最大でセルメダルを5枚まで入れられる。
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