虚無王とプロトバースと水棲女王
グリード達の根城たる洋館。
カザリが欠いた今、グリード達は変わらず此処にいる。
そのくつろぎ振りからして、カザリの行く末など大して気にも留めていないようだ。
一階ではウヴァ・ガメル・メズール・四季崎・白兵辺りがくつろいでいて、
二階の小部屋ではアンクが赤いソファーでスマートフォンを弄りながら赤いソファーで寝転び、七実は血錆色の布が敷かれた椅子に座りつつ紅茶を飲んでいる。
そんな時に、ジャリンという音が、アンクと七実の近くにあるテーブルでなった。
黒衣の男が無造作に置いた、コアメダルの音だ。
「これはカザリの・・・・・・」
「あの時の状況と、ここにある枚数を考えると・・・・・・」
アンクと七実がメダルに興味と推測をもつと、
「お察しの通り、カザリ君自身であるコアメダルが破壊されたんです」
トドメをさした張本人である真木が悠々と答えた。
「「死んだのか?」」
声をハモらせる二人。
「ほう。随分人間に馴染んで来たようですね」
「―――なに?」
「メダルの塊であるグリードに、命などありません。死んだのではなく、ただ消えた―――それだけです」
「そうだったなぁ・・・・・・」
「―――――」
真木の言い分はある意味正しい。
アンクはぶっきらぼうに返事し、七実は少し不愉快そうに眉をしかめながら部屋を出て、一階にいる同族たちを見る。
「ただのメダル――物でしかない」
「哀しい運命ですね」
二人は無表情で呟く。
「そこにある陽射しも、美しい花も、熟れた果実の味も感じられないただの物。――四季崎氏を始めとする例外も居ますがね」
「確かに、そうですね」
「ああ、今はな」
グリードは欲望のメダルの集合体。
故に物体であり生命ではない―――よって、そこには感情も感覚も無く、バカの一つ覚えのような欲望だけしかない。
「そう、君は進化する。その為にもオーズと、彼の持つ紫のメダルを―――」
真木はそう言い残して立ち去り、別の部屋へと移動していく。
「「―――――――」」
アンクと七実は無言でもと居た部屋に戻った。
アンクは『右腕』を現すと、テーブルに置かれた十数枚のコアメダルに荒々しく手を伸ばす。
七実はその様子を――アンクがコアを得ていく様子をまじまじと見ていた。
そこへ、
「どうだアンク?調子のほうは」
「すくなくとも、虚刀『鑢』の表情は、あまり芳しく無い様でござるが」
四季崎と白兵が、階段を上がってきた。
「お前らには関係ないことだ」
「全くです」
「そうつんけんすんなよ。折角良い物を持ってきてやったんだ」
四季崎はそう言って懐に手を伸ばし、ある物を三枚取り出した。
「おぬしらにとって、これはかなり有り難い物になる筈でござる」
白兵がその三枚・・・・・・フォース・コアを強調する台詞を口にする。
「ほほう、面白い。貰ってやろうじゃねぇか」
「私にも下さるのですか?」
「勿論だな。アンクには一枚、虚刀には二枚だ」
そうして、四季崎は荒っぽそうでいて、しかし正確無比な狙いをつけた投擲で、アンクの『右腕』と七実の体目掛けてフォース・コアを贈った。
*****
今から数時間前。
鴻上生体研究所の所長室。
そこではライダー達による今後の方針が話されていた。
「現状はハッキリ言って、俺達が押され気味だ」
「ええ。使えるコンボが、一つ減っちゃいましたからね」
映司は刃介の言葉に頷き、メダルホルダーを開いて残りのコアメダルを確認する。
だがそれでも、予期しなかった昆虫コアの入手や爬虫類コアの登場もあって、現在オーズの使えるコンボは五種類と結構まだ多めなのだ。
しかし、だからといって安心はできないし、何時何枚奪われても可笑しくないのも事実。
「バースの修理はまだ手間かかんのか、後藤」
刃介がそう訊くと、ノートパソコンでバースシステムのチェックをしている後藤は振り向く。
「ああ。――確かに状況は思わしくないな」
カザリの鉤爪で胸部装甲に深く大きい損傷を与えられた所為だけでなく、真木という最高の技術者が敵側という二つの要素も相まって、大掛かりなバースの修理にはこれまで以上の時間を要するようになってしまった。
「だから攻めませんか」
映司は唐突に裏をかく提案をする。
「ふむ。攻撃は最大の防御という意味か、火野よ」
「っつーことは、真木の家に行くってことか?」
竜王が受諾するように頷いていると、隣に居た烈火が訊ねる。
「真木博士の屋敷・・・・・・伊達さんが情報を残してくれたから、場所はわかっているんだが・・・・・・」
「まあ仕方ないだろ。今となってはグリード達の巣くう魔窟だしよぉ」
「でも、今回みたいに、いつか揃って攻撃してくるわけだし」
後藤と刃介の言葉に、映司はなおも攻め込む姿勢で行く。
「状況が膠着しきる前に、攻めて・・・・・・」
「こっちにペースで始めるのも有りか」
後藤も映司の意見に賛同の意を示しだす。
コンコン、というノックの音。
「後藤さん。研究所に例のもの、残ってましたよ」
「そうか―――!」
里中は部屋に入ってくると、机の上に黒いケースに置いた。
黒いケースの中には、バースドライバーと同型のベルトがあった。
「バースの試作品です。性能はほぼ正規品と同じですが、装着できる武器はクレーンアームとブレストキャノンだけです」
「それでも無いよりはマシだ」
後藤は試作品のベルトを手に取る。
「あ、ちょっといいっすか?」
そこへ一人の青年の体育会系な口調が聞こえてくる。
首から下をライダースーツで包んだ180cmという長身の青年。
「凍空吹雪か。何の用件で来た?」
竜王がクールに訊くと、吹雪はすぐに冷静な表情で答える。
「実はっすね、バースの最終メンテを財閥のほうでやることになったんすよ。うちんとこの会長の発案で」
「あのパツキン姉ちゃんがか?」
烈火は身を乗り出しながら少しだけ驚く。
チェリオシステムならいざ知らず、態々自分たちの管轄ではないバースシステムの修復を手がけようというのだから。
「なんでそんなことを?」
と、映司の治療の為に居合わせた比奈も質問する。
「なんでも、バースの強化改修をするとか言ってたっすよ。多分チェリオがブレイズチェリオになったように、特定のメダルを使う仕様になる筈っす」
それを聞いて後藤は内心で歓喜した。
今の状態では、バースは間違いなく味方面子の中において低スペックといえる。
だが、次に戻ってきたときの正規品はより強化されているとなれば、より良い戦況が出来上がるのだから。
「じゃあ、こっちのベルトは持って行くっすよ」
「ああ、頼むぞ」
後藤はそう言って、吹雪を逸早くベルトを渡して財閥に帰らせた。
「火野、やるか?」
喜びを表情に出すことなく、最終確認をとるように、後藤は訊ねる。
「はい!」
「でも・・・・・・」
「大丈夫。信吾さん必ず取り戻すから」
「・・・・・・映司くん・・・・・・自分のことも、ちゃんと守ってね」
比奈は不安げにそういった。
さっきの映司の発言には、信吾を助けるというものがあっても、映司自身を如何にかするという項目が無かったが故だ。
「・・・・・・・・・・・・うん」
暫しの沈黙をおいて、映司は頷いた。
*****
時と場所は再び洋館へ。
静かに椅子に座るアンクと七実。
その手には四季崎から与えられたフォース・コア。
――メダルの塊であるグリードに、命などありません――
思い起こすのは、真木の言っていた言葉。
「なんだか昔とは違うわねアンク。その身体の所為かしら?」
階段を昇ってきたメズールは、800年前と現在を比較する。
「ねえ、人間の身体で味わう欲望ってどう?――食べて見て聞いたんでしょう?どうだった?」
「ふっ――お前らグリードにはわからない味だ」
「お前らグリード、ね。まるで自分は違うみたい」
その時、表情にこそ出はしないが、確実に場の雰囲気が変わった。
「ああ。俺は人間が気に喰わないが、グリードはもっと気に喰わない」
「―――人の身体では大したものは味わえなかったようね。物足りないって顔してるわよアンク。どうしてかしら?」
言いながらメズールは階段をさらに昇って上の階に言った。
「・・・・・・おい、鑢」
「なんですか?」
同席していたにも関わらず、さきほどから一切口を開いていなかった七実に、アンクが話しかけてくる。
「お前のベースは人間だったらしいな」
「厳密には、既存の人間を完全複製した人形です」
「そんなことはどうでもいい。肝心な部分は、人間だった頃の―――原典のお前が味わった世界はどうだったんだ?」
「そうですね・・・・・・」
七実は顎に手を添えて考えると、
「正直なところ、多少広くなった程度で、世界の感じ方は今も昔も変わりません。ですけど・・・・・・」
「なんだ?」
「変わったところといえば、刃介さんに出会えたことと、目的があるということだけです」
「・・・・・・・・・・・・」
七実の答えに、アンクは黙りふけた。
*****
――バギンッ!――
一階の広間で、ウヴァはゴルフクラブ片手に、花瓶や壺を割って憂さを晴らしていたが、
「妙な気配がする・・・・・・」
理由は憂さだけではなかった。
そして、その予感は見事的中する。
――バリィン!!――
窓ガラスをぶち破って、ジュース缶のような物体が広間に放り込まれた。
そしてそれの正体はというと、
――ビカァァァアアアッ!!――
――プシュウゥゥゥウウウウウ!!――
凄絶な閃光と煙幕で、部屋を満たしまくったのだ。
そう、閃光煙幕弾だ。
「まッ、眩しい〜〜!!」
「くッ、外だ!!」
慌てふためくガメルと、焦るように屋外へと走るウヴァ。
「考えたでござるな・・・・・・」
「此処も潮時だな」
片や冷静に対応しながら外に出る白兵と四季崎。
「―――何時かは来ると思ってましたが」
そしてハンカチで口と鼻を覆いつつ避難する真木。
尚その際、金庫の中に入れておいた人形の回収も忘れない。
当然、これだけの騒ぎになればアンクと七実も廊下に出てくる。
そのタイミングを見計らって、
――バッ!――
――ドン!――
映司と刃介がバルコニーから窓を開け、そのまま勢いに乗って体当たりをお見舞いしたのだ。
それによって、アンクはタカ・コアとライオン・コアを落としてしまい、それを映司が素早く手中に収めた。
一方で刃介はコアを奪うことは無かったが、代わりに七実を全力で押し倒して身の自由を奪っていた。
「返せ」
「悪いけど、こっちもメダルを盗られてるんだ」
アンクの要求に頑として拒否する映司。
「あら、押し倒す趣味があったのですか?」
「その冗談、こんな場所じゃ寒過ぎだろ?」
一方で七実の悪意の篭った洒落を、刃介はトゲのある言葉で返した。
双方は何時までも至近距離で居るのはまずいと悟り、距離をとった。
「お前もグリードらしくなってきたな」
「かもね」
「七実、今度こそ話を聞かせてもらう」
「いいいでしょう。しかし、触りだけですよ」
双方は3Mほど距離をとり、互いに気を張った。
*****
『目が痛い〜、ゲフゲフッ』
怪人態となり玄関に出てきたガメル。
弱点の視覚を疲れた上、煙まで吸い込まされたこともあってかなり参っていた。
急いで階段を下りて庭に出ようとすると、シュルシュルという音が小さくなり、
階段に仕込まれた縄がピンと張ってガメルの脚に引っ掛かった。
『うッ!?』
それに引っ掛かったガメルは勢いよく転んでしまい、体よく都合のいい場所に落ちてくれた。
『あれぇ?―――あ、お菓子だぁ!わーい!』
自分が転んだ先に駄菓子がある。
余りにも不自然な状況だが、オツムのレベルが完全に子供なガメルには通用した。
嬉々として駄菓子の箱を手に持ったガメルだが、それによって隠されていた物に漸く気付く。
『って、ん?――爆弾!?』
正確に言うとダイナマイトである。
茂みの中からピッという音がした。
無論その直後。
――ドカァァアアアァァン!!――
駄菓子によって隠されていた全てのダイナマイトが爆発した。
『ガメル!!』
『お菓子が爆発したッ。ん〜〜!』
そこへウヴァが現れ、直感的に茂みに隠れている迷彩服を着た里中の存在を気取る。
姿を見られるや否や、里中はもうスピードでダッシュする。
『待てコラーーッ!!』
怒り心頭な様子で里中を追走するウヴァ。
里中は林の中に入っていくと、頃合を見計らったようなタイミングと場所で、
「べぇぇぇ!」
あかんべをしたのだ。
そして、
――ズボッ・・・・・・!!――
『ぬぉわ!?』
落とし穴である。
しかも見事な嵌りっぷりだ。
「あ・げ・る!」
そこへ里中はさらに何かを穴の中に投入。
『おのれ―――ってぉおッ!!?』
それに気付いたウヴァは急いで身をよじって穴を抜け出ようとするも、
――ドカァァアアァァン!!――
投げ込まれた手榴弾は見事役目を果たし、
『う・・・・・・ッ』
ウヴァを黒焦げにし、白い煙まで吐き出させた。
里中は「よしッ」とガッツポーズをとる。
だがそこへ、
『ハッ!』
メズールが襲い掛かってきた。
だが、
「おぉぉ!」
クレーンアームの先端で木の枝を掴み、ターザンのように宙を舞うプロトバース――ー身体にデータ収集用の赤いマーカーのついたバース・プロトタイプによってメズールは蹴り飛ばされた。
そして予定通りの位置にメズールを蹴り飛ばしたプロトバースは、右腕を下に引き、それに連動して―――
『あッ、いや!?』
緑色のネットに包まれ、メズールは宙に吊るされてしまった。
――ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン!!――
『ちょ、ちょっ、ちょっと?!』
そこへバースバスターによる連射。
『大丈夫でござるか?』
そこへゼントウが助けに入ろうとしたその矢先に、木の上から導火線の音が聞こえたかと思えば、
――ボガァァアアァァン!!――
『ん、あ・・・・・・ッ』
行き成り落ちて来た大型の花火玉がゼントウの頭上で爆発した。
しかも爆発に混じって、小型の手裏剣が三十本ほど雨霰の様に降り注ぐ。
所謂クラスター爆弾の一種だ。
その証拠に、ゼントウの身体と足元に突き刺さった複数の手裏剣には強力な小型爆弾が埋め込まれており、先ほどの爆発から連鎖して、
――パンッパンッパンッパンッパンッ!!――
大型花火のような音を立てて次々と爆発する。
『あ、ん・・・・・・ッ』
この二段攻撃によってゼントウは膝を突いてしまう。
「おっしゃー!」
「ふむふむ」
それを見て出てきたのはクエス・カミキツネコンボと、実家が花火屋のブレイズチェリオ。
『かっかっか。甘いなお前ら』
そこへ聞こえてきたのはデシレの声。
しかし声の主の姿は見えない。
――が、いざ周りを見渡すと、まだ誰も引っ掛かってない筈のもう一つの落とし穴・・・・・・そこから確実に声が聞こえていた。
『だってアレだろ?お前ら攻められるのが怖いから自分から攻めに来たんだろ?きっとそうだ。ポジティブだ、ポジティブになれデシレ!少しでもネガティブになればあの酒瓶の二の前だデシレ!』
「「なんか在り得ないのが引っ掛かってたァァッ!!?」」
こともあろうに、ウヴァやガメルが引っ掛かりそうなトラップに、こともあろうにデシレが引っ掛かっていた。
しかもこの落とし穴は刃介が掘ったもので―――深さは約7Mで地の底には日本刀・両刃剣・戦斧・長槍・大鎌・チェーンソーといった凶器で満ち満ちているし、壁部分には油だがローションだか良くわかんない液体で妙にヌルヌルして超滑りやすいし、何よりデシレは両前腕部が不完全で爪を立てられなかったりと、三重苦の悪意的なトンデモ罠と化していた。
*****
そして、もう一方では。
――カシャ、カシャ――
刃介と映司はベルトを装着し、リオテとタトバの三枚をバックルに入れていた。
それからスキャンーを手に取った段階で、
「アンク、もう一度聞いておくけど・・・・・・信吾さんを比奈ちゃんに返す気はないんだよな?」
「七実。さっき言ったとおり、触り程度だろうが構わん―――話してもらうぞ」
屋敷の直ぐ近くながらも、日の当たる屋外に出た二組。
アンクと七実は、その手にフォース・コアを手にして、
――チャリン、チャリン――
アンクは『右腕』に一枚、七実は身体にニ枚投入する。
七実のメダル投入はそれで終わったが、アンクのそれはこの程度ではすまない。
今度はネコ系メダルを二枚持って、
――ユゥン、ユゥン――
奇妙な音を立てながら、二枚のコアは左腕に入り込んだ。
そう、アンク自身ではなく、依代たる信吾へとコアメダルを投入したのだ。
その影響でピリピリとエネルギーが音を立て、瞳の色が少しばかりの間だけ黄色に変わっていた。
「アンク止めろ!!」
映司は流石にこんな常軌を逸したやり方に声を荒立てる。
「依代を使う意味、わかったろ?足りないコアメダル三枚分は、この身体で補う。――俺は、依代ごと、メダルの器になるんだよ」
アンクの言葉は本物だった。
「グリードなんかより、もっと強い存在にな・・・・・・!!」
そうしてアンクは背中から一対の大翼を現した。
その欲望の深さと大きさを顕わとするように。
「刃介さん。私が貴方から離れた理由のことですが」
「嘘偽りは無しだぞ」
「わかっております。―――私には目的が出来たんですよ。それを遣り遂げる為に、四季崎記紀の力を借りている」
七実はどこまでも真剣な顔で語る。
「目的ってのは何だ?」
「貴方の悪いようにはなりません。寧ろ貴方の望んだ通りの事となるでしょう」
「ぁん?」
*****
再びグリード勢はというと、
『油断したな!』
『完全に先制されたわね!』
『皆して古典的な罠に引っ掛かったしな』
『『そうだけど、お前にだけは言われたくない』』
デシレに対してツッコむウヴァとメズール。
そこへ追撃とばかりに、
≪BREAST CANNON≫
≪GEKITOU・KUROGANE≫
プロトバースはブレストキャノン、ブレイズチェリオは撃刀『鉄』を転送装備。
里中もバースバスター、クエスもキョウケンソードを構える。
≪CELL BURST≫
≪CORE BURST≫
≪SCANNING CHARGE≫
――ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンッッ!!――
ブレストキャノンシュート、砲撃刀火、ハウンドリムーブ、セルメダル超連射撃。
――ドガァァアアァァン!!――
この同時攻撃により、ウヴァたちは纏めて吹っ飛ばされた。
そして、あの二組もこの林にまで移動してきた。
変身すらせず、ただ攻撃し、攻撃をかわすだけでの展開だが、
「七実よせ!」
「問答無用です。――虚刀流、雛罌粟から沈丁花まで、打撃技混成接続」
振るわれる神速の攻撃の波。
272種類という壮絶な嵐に曝される刃介。
「くっ、グァ・・・・・・!」
両腕をグリード化させ、高速で防ぐも、それでも神速には一歩及ばず、136種類の攻撃が入ってしまった。
それによって刃介の身体は吹っ飛ばされてしまい、コアメダルは守れたものの、セルメダルだけは272枚削られてしまった。
一方で映司も
――ブンッ!――
「うわッ!!」
アンクに殴られ、その拍子にメダルホルダーを落としてしまう。
その後にも続く、脇役は優勢で、主役は劣勢という奇妙な光景の中、
スタスタ・・・・・・と歩み寄り、メダルホルダーを拾い上げる男が一人。
「アンクくん私に。――鑢くんは鋼くんを抑えてください」
「―――チッ」
「はい」
真木の言葉に舌打ちしながらも映司から離れるアンク。
それとは正反対に素直に従って刃介に抱きつく形で動きを封じる七実。
「今日こそ貰いますよ君の中のメダル」
その言葉の後、真木の瞳が紫と成る。
「うッ!かぁっ・・・うゥッ・・・!――ゥアウ!!」
映司が苦痛に苛まれながらも、決して己の意志を手放すことなく、逆に紫のオーラを放出して真木を仰け反らせた。
映司は立ち上がり、こうも宣言する。
「俺も大分慣れてきましたよ、メダルの扱い。でなきゃ乗り込みません」
「成るほど。私も急がなければならないということですね」
真木は平然とした口調でそう言い放つと、右腕をグリード化させて禍々しいオーラを発現させる。
そして禍々しいオーラは真木の全身を包み込み、メダルを音と共に彼の姿を完全に変えきった。
かの異形を彩るのは先ほどのオーラと同じ禍々しい紫色。
頭部はティラノサウルス、胸部にはトリケラの顔と角があり、首周りにはトリケラの頭骨後部を模したフリル、両肩にはプテラの頭、背中にはプテラの翼の如きマントが広がっている。
己が使命たる世界の終末を齎すべく、人間を裏切り欲望となった恐竜の王。
此の世の森羅万象全てを消滅・還元する”虚無王ギル”―――!
「え―――!?」
「真木博士・・・・・・!?」
「マジ、かよ?」
映司、プロトバース、ブレイズチェリオは驚愕を顕わにし、
『『『―――ッ!?』』』
ウヴァ、ガメル、メズールも未だ見たことの無かったギルの姿に驚きを禁じ得ない。
『―――ォォォァァァァァ・・・・・・!』
ギルは静かに唸ると、全身から紫の波動を無秩序に放出する。
『『『『『「「―――――ッッ」」』』』』』
「「「「「「――――――ッッ」」」」」」
敵側はおろか、味方のグリードさえも、一歩間違えば巻き込みかねないほどの勢いだ。
さらにその威力は凄まじく、周囲の木々は当然のこと、地面の雑草や芝生も綺麗に消滅してしまい、あとには雑草一本さえ生える気配がない。
『・・・・・・ゥゥゥァァァァァ――――』
ギルは今の波動で、ライダー達がすぐさま撤退したのを確認すると、そのまま唸り声を止めて、洋館へと戻っていった。
*****
夕方となり、里中は車の中で鴻上に報告をしていた。
といってもノートパソコン越しのライブ中継のようなもので、第一里中はそんな大事な話の最中であろうと化粧を怠っていなかった。
『つまりDr.真木は止められなかったというわけか』
「はい。思いっきりグリードでした」
『しかもメダルも、90%近くが彼等の手にか』
「グリードのうち、一体か二体は完全復活するかと」
まるで他人事のように、化粧しながら報告する里中。
『些か・・・・・・いやかなり、いや非常に拙いよ里中君!!』
「何か対策があれば、今日は残業しますが」
化粧を終えた里中は、化粧箱を置きながら、意外にレアな台詞を口にする。
『もはやオーズとブライとクエス・・・・・・バース・プロトタイプとブレイズチェリオに戦ってもらうしかない』
「では、このまま直帰で。失礼しまー『待ちたまえッ!』
ノートパソコンの電源を切ろうとする里中に待ったをかける鴻上。
しかしこの”直帰”という単語と状況からして、鴻上の返事によっては車で即刻帰宅しようとしたのが丸分かりである。
『戦いの助けになるものはある』
*****
鴻上生体研究所の所長室。
部屋の中の空気は実に陰鬱としていた。
なお、烈火には町の警護と見回りを頼んでいるので、この場にはいない。
「まさか・・・・・・真木博士があそこまでとはな」
「はい・・・・・・それにメダルもこれだけに」
残ったメダルはライオン・トラ・バッタの三枚。
「いや、まだある」
後藤はポケットから一枚のチーター・コアを取り出す。
「さっきの戦いでこれだけ手に入った」
といって映司に投げ渡した。
「火野。一応これ返しておくぞ」
唐突ながら、今度は刃介は懐からブラカワニの三枚を渡してきた。
「念には念をと思って、予めこの三枚だけホルダーから抜き取っておいたんだ」
「ッ!よかった!コンボが出来ればかなり・・・・・・!」
これで使えるコンボはラトラーターとブラカワニの二種類。
「早く信吾さんを助けないと!」
「・・・・・・しかし、あの刑事とアンクが・・・・・・800年前では考えられない展開だな」
意気込む映司とは裏腹に、竜王は首を捻っている。
「メダルの器、となれば何れ・・・・・・グリード化」
「そんなことさせませんっ――絶対に止めます!」
「ったく、この欠陥者は・・・・・・」
信吾の迎える最悪の結末、それに対し気概を見せる映司、そんな映司を見て呆れる刃介。
「どうして自分のこともそう思えない?」
「・・・・・・え?」
「火野、お前のほうがグリード化が進んでるんだぞ。比奈ちゃんの言ったとおり、どうして自分を守ろうとしない?」
以前にも刃介と竜王は映司のことをこう言い表した。
後天的ながらも人間として故障していると。
「そんなことないです!俺だってなりたくないですし!」
「だったら火野よォ――ルナイトが言ってたテメー自身の願いを思い出せ、さっさとな」
「っはい!でもそう急には!」
刃介が追撃にかかり、映司は思わず何時もと違う勢いで言葉を発してしまう。
「・・・・・・すみません」
そしてそれに気付くと、意気消沈とした様子で謝った。
「ふぅ・・・・・・今はまだ致し方ないという訳か」
そんな状況に、竜王は溜息混じりだった。
*****
その頃、夜空に月が浮かび、白く儚い光を地上に齎している。
とあるビルにおいて、真木とアンク、四季崎と白兵と七実は集っていた。
「これで君は、コアメダルの半分以上を持つことになります」
真木はオーズのメダルホルダーをアンクに手渡した。
「君の望む進化には、まだ足りないと思いますが」
「お前の望む暴走にもなぁ―――する気もないが」
アンクは明らかな嫌味を込めて言い放つ。
だが次の瞬間、
「邪魔ですね」
七実は掌から妖気の刃を放ち、ある物を遮断する。
アンクの手からホルダーを奪おうとした、水の鞭を。
『これは、どういうことかしら?』
水の鞭の主であるメズールは、冷ややかな怒りを込めて質問してくる。
『勝手にメダルの山分けとはな』
『俺も欲しい!』
その横と後ろにはウヴァとガメルもいた。
「メダルにだけは目敏い方々ですね。流石は純正のグリード」
七実は珍しく嫌味を口にする。
『アンク、キョトウ。私たちのメダルまだあるでしょ?――だして』
メズールは何時にも増して積極的にメダルの分け前に口を出す。
まあ当然だろう。自分のコアが漸く揃う機会に恵まれたのだから。
「どうしますアンクさん?私はどちらでも構いませんが」
「・・・・・・フっ―――」
アンクは無愛想にそっぽを向いた。
『ふぅ・・・・・・ねぇドクターの坊や。折角手を組んだんじゃない、独り占めなんて悪いことよ。アンクに渡すよう言って頂戴。――いい子だから、ね?』
メズールは真木の頬に手を添えようとするも、
「ごっこ遊びも好い加減にしたらどうです?」
真木はそれを回避した。
「四季崎氏の手掛けた者達と違い、君は純正のグリード。――味わえもしない愛情を幾ら真似たところで、グリードの君では見っとも無いだけです。本物を味わうには、人を喰らうしかない・・・・・・それがグリードですよ」
『―――――――』
それを聞かされると、メズールは人間形態となって、
「・・・・・・だったら、余計にメダルが欲しいわ」
メズールの言葉を皮切りに、
『そうだ!』
ウヴァとガメルまでもが乗ってくる。
『俺達に完全復活させない気か?出せっ』
『俺のメダル出せぇ!』
勢いづく三人のグリード。
「おいおい、判ってるのかお前ら?数も質も、俺らが有利なのを」
「目先の欲望に塗れて、状況や後先が視えていない様でござるな」
だが、それを牽制するべく、四季崎は背中の呪刀、白兵は帯びた薄刀の柄に手をかける。
なまじ二人の実力を知っているだけに、三人のグリードは無意識に身構えだす。
「くっふふふハハハハ・・・・・・!」
アンクはその様子を見て嘲笑いだした。
「メダルメダルメダル・・・・・・お前らほかに何か無いのか?」
『何が悪い?お前も同じだろうが!』
とウヴァが反論すると、
「・・・・・・ああ、そうだよ。――最悪だ・・・・・・!お前ら正当なグリードと居ると、イヤでも思い知る」
アンクは不機嫌さを露骨に表して立ち上がると、
「コレ持ってとっとと消えろっ!」
――ジャリン!――
ほぼヤケクソ気味に、コアメダルを地面に投げつけるアンク。
『俺のコア!』
『メダルだぁ!』
青、灰、緑・・・・・・それぞれのコアメダルに三人のグリードが群がった。
「(はぁ・・・・・・哀れです)」
人間の浅はかさと醜さを、そのまま具現化したような光景に、七実は三人のグリードを見下しながら思った。
「アンクくん、同族嫌悪もけっこうですが君も気が短い」
「そう言うなよギル。楽しみが先延ばしになっただけだ」
「完全復活したグリードをぶつければ、向こう側への圧力になるでござろう」
「・・・・・・まあ良いでしょう。メダルは何れ取り戻せますしね」
そのような会話をかわして、真木・四季崎・白兵は其の場から歩み去っていった。
そして、
「これで九枚。――やっと完全な・・・・・・」
メズールは取り戻したコアメダルを胸に押し当てると、全身がメダルに包まれると同時に、水の弾ける音を鳴らしながら怪人態となる。
鯱の頭、ウナギの鰭型マント、女性らしい滑らかさと色香を纏った上半身、タコの吸盤がついた流麗なる細い両脚。
腰のベルトは銀、バックルは金という本来の色を取り戻した完全体。
『ぁぁぁぁぁ・・・・・・!!』
メズールは800年ぶりに得た本来の力に感動と快感を覚えたのか、喘ぎ声に近い声音を出しながら己が身を液体化させて何処かへと飛び去ってしまう。
『あ、メズール、待って!俺も九枚揃った!』
ガメルはメズールの後を追って必死に走り出す。
『チッ――俺の後1枚はオーズか』
ウヴァはクワガタとカマキリの二枚を見つつ、少し忌々しそうに呟いた。
そうして、バッタの跳躍力でどこかへと飛び去り、あとに残ったのはアンクと七実だけ。
「「・・・・・・・・・・・・」」
二人は静かに歩みだし、何処かへ行こうとする。
「あ、そういえば」
と思ったら、七実が何かを思い出したかのようニ立ち止まり、
「アンクさん、これどうします?」
これ、とはメダルホルダーのことだ。
「捨てて置け」
即答したアンク。
「そうですか」
七実も即答し、ホルダーをその辺に置き捨てると、そのまま二人は今一度脚を動かし、闇の中へと消えていった。
*****
「メズール〜〜!」
ガメルは自身のコアが九枚そろいつつも、メズールを探す都合上で人間態となっていた。
そんでいざ見つけると、
「メズール!メズール〜!何処行くの?」
と、メズールの肩を掴みながら、
「俺も一緒に行く!」
何時ものように甘えだす。
しかし、
『ガメル。ごめんなさい。もうお飯事は終わり』
「えぇっ?」
メズールはガメルを優しく拒絶した。
『ドクターの坊やが言ってたでしょ?ごっこ遊びじゃなくて、本物を味わうの』
「じゃあ俺も!俺も行くメズール!」
『ダメよ!もうダメ!』
ここでメズールは、自分に縋りついてきたガメルを突き放す。
『私はね、ガメル。正直な話、あのブライとキョトウが羨ましいのよ。私たちと同じグリードなのに、人間と同じように食べて見て聞いて・・・・・・そして、愛し合えるあの二人が』
メズールはとっくの前から気付いていた。
七実は本当の意味で刃介を裏切ったわけではないことを。
その行動の裏には、メズールでは感じられない「愛情」が潜んでいることにも。
『貴方じゃ私は満たされない・・・・・・さようなら、ガメル』
所詮メズールにとって、ガメルは気に入った存在であっても、愛しい存在ではなかった。
彼女はせめてもの別れの言葉を口にして、姿を眩ました。
「メズール〜〜〜!!」
そしてガメルは、今までになかったメズールの激変振りに、ただただ名前を叫んで呼ぶことしかできなかった。
*****
翌日の爽やかな朝。
柔らかな日差し、青々とした空、芝の生い茂る地面。
様々な人々が憩いの場として訪れる自然公園だ。
公園には池もあり、一部の鳥が水面下で泳いでいた。
「あの鳥ってなに?」
「あれはね、カモよ」
などと母娘が平穏な休日を享受していると、
――バシャーーーン!!――
『頂戴!!』
「「キャアアアッ!!」」
池の中から液体化したメズールが現れ、母娘を液体で包み込んで吸収すると、さらに流動的で三次元的な動きをしつつ、その進行ルート上にいる母娘を片っ端から吸収していく。
そんな様子を見て、懐から一輪のバラを取り出す一人の堕剣士がいた。
「中々のものでござるな。しかし、ライダー達を相手取るにあたって、彼女一人では無理でござるよ」
かの剣聖はそういって、一枚のセルメダルをバラにチャリンと投入し、花を地面に放り捨てる。
するとバラは急激過ぎるスピードで成長し、突然変異を起こすことで”バラヤミー”と化した。
「おぬしの遣る事については、言わずとも判るでござろうな?」
『御意』
バラヤミーはそれだけいうと、メズールの後をついて行った。
しかし、これだけの騒ぎを起きた上、ヤミーまで出現した。
となれば必然的に彼等がやってくる。
「急げ!この気配、間違いなくメズールのものだ!」
「あいつらとうとう・・・・・・!」
竜王を先頭にして、ライダー一同は現場へと駆けつける。
そして母娘だけが液体によって吸収されていくのを目撃する。
「なんだあれは?」
「追いましょう!」
「合点承知!」
五人はより脚を速く動かして行った。
*****
どこぞの貯水槽の施設内。
メズールはそこに奪ってきた蓄えをしこたま置いていた。
まるでヤミーの卵のように無造作かつ無数に置かれたソレら。
メズールはその一つ一つを吟味し、愛しそうに撫でる。
『感じるわぁ。これが愛おしいってこと・・・・・・愛情の快感』
卵の中には全て、攫ってきた母娘が入れられていた。
まるで、卵の中からメズールへと愛情という欲望を吸収されているかのようだ。
彼女のつくる水棲系ヤミーとは完全に逆パターンである。
『ああ・・・・・・!全部私のもの・・・・・・!うっふふ、うっふふふ!』
何百個という卵に囲まれ、快楽の声をだすメズール。
『でも足りない!もっと・・・・・・もっと・・・・・・!!』
しかし、永遠に欠けたままのグリードが満たされることは決してない。
*****
「ここです!」
映司たちはメズールの後を追って、どうにかこの貯水施設に辿り着いた。
中に入ってみると、そこには例の卵がごまんと広がっていた。
「なんだこれは?」
「この卵って?」
首を捻る後藤と烈火とは裏腹に、逸早く気付いた映司と刃介は驚愕をあらわにし、前々からこれを知っていた竜王は苦々しい表情になる。
「みんな見てよ。これ中に人が!」
「やはり800年前と同じ手口か」
竜王は卵に閉じ込められた母娘をみて、確信に到った。
「先に言って置くが、下手に触るなよ。今の状態で無理に出せば・・・・・・」
竜王はそう注意を促すも、
『みんなお揃いのようだけど―――私の欲望の邪魔をしないで』
上のデッキからメズールが話しかけてきた。
「やはり完全復活・・・・・・!」
「こいつが欲望を貪るって事なのかよ」
「メズール・・・・・・この人達を元に戻せ!」
などと言ってみるが、
『冗談でしょ?まだ味わい始めたばっかりよ。美味しくなくなったらあげるわ。うふふ、その時には命は無いかもしれないけど』
メズールは頑として聞こうとしない。
「これがグリードの欲望・・・・・・」
「兎に角、この場所では戦えんし、メズールに有利過ぎる」
*****
そうして一同は一旦この部屋を後にして、外へ簡単に出入りが出来、なおかつ広くて戦いやすい場所に移動する。
だがその場所には―――。
『待っていたぞ』
「植物のヤミーか」
バラヤミーが待ち受けていた。
『あら、ゼントウの下僕が何の用かしら?』
『用も何も、貴女に助太刀しろと言われた』
『ああ、そう』
と短い会話をかわして、メズールとバラヤミーは肩を並べる。
一方で五人の戦士たちもベルトを装着し、
「「「「「変身―――!」」」」」
――パカッ――
≪LION・TORA・CHEETHA≫
≪LATA・LATA!LATORARTAR!≫
≪KABUTO・HACHI・INAGO≫
≪KABU・KABUKABUHACHINA!KABUHACHINA!≫
≪BARA・SARRACENIA・RAFFLESIA≫
≪BA・SA・RA!BASARA!BA・SA・RA!≫
プロトバース、ブレイズチェリオ。
オーズ・ラトラーターコンボ、ブライ・カブハチナコンボ、クエス・バサラコンボ。
クエスとブレイズチェリオはバラヤミーを、オーズとブライとプロトバースへと向っていく。
「メズールなら、このコンボが効くはずだ!」
オーズはそういって、
「ウオオオオオオオオオオ!!」
ライオディアスで液体化しているメズールを干上がらせようとしたが、
――バシャ!!――
「うおッ!?」
熱線は一切効かず、逆に体当たりをかまされる始末だ。
メズールはそのまま飛行するようにバシャバシャとプロトバースとブライに体当たりをして一旦液状化を解くと、
『もう子供だましは効かないのよ』
完全体としての余裕と底力を見せ付けた。
「くっ、竜王!悪いが、俺のバイク持ってきてくれ!」
「こんな時にか?」
「こんな時だからこそだ!」
「―――仕方の無いやつだ」
クエスはブライの目に宿る何かを悟り、そのまま施設の近くにとめてあるはずのシェードフォーゼを取りに走った。
なお、結果としてブレイズチェリオ対バラヤミーの戦いはというと、
≪SETTOU・ROU≫
≪CHINTOU・OMORI≫
切刀『鏤』と沈刀『錘』を装備し、一気にバラヤミーへと接近すると、
「オゥリャアアアアア!!」
『ングァァ・・・・・・!!』
壮絶に削られていくセルメダル。
時と共にバラヤミーの力はどんどん奪われていく。
だがそこで何もしないバラヤミーではない。
『――――っっ!』
バラヤミーは身体中から蔓や蔦を伸ばし、メキメキとブレイズチェリオの四肢に絡ませていく。
「こいつ・・・・・・!」
『喰らえ』
バラヤミーはどこまでも冷徹な声で告げると、頭の見事に開花した薔薇から花弁の手裏剣を次々と飛ばしていき、ブレイズチェリオを苦しめる。
「こんなクソッ・・・!やられてたまるか!」
ザシュンザシュン、という具合にブレイズチェリオは『鏤』と『錘』で蔦や蔓を切り裂いていくと、装備していたその二つを解除した。
≪CORE BURST≫
「いくぜ!」
そして、軸と成る左足にじっくりと体重をかけると、
「オーバーヒートブレイズ!!」
身体をハンマー投げのように振って、赤々としたエネルギーで滾る右足で、回し蹴りを決め込んだのだ。
『キ、ぎっ――がぁぁアアアアア!!』
植物がもっとも苦手とする炎熱属性の必殺技をくらって、バラヤミーは猛火に包まれて爆発四散した。
大量のセルメダルを撒き散らしながら。
一方、ブライたちは。
「やはり試作品じゃ限界か・・・・・・」
「後藤さん!」
「―――火野、鋼。俺に構うな!」
「あたぼうよ!」
プロトバースが半ばリタイヤ寸前の状態となっていた。
そんな時、
「刃介、持って来たぞ!」
クエスがシェードフォーゼを届けてきてくれたのだ。
「よし、これで・・・・・・火野、トライドベンダーだ!」
「え、どうして?」
「いいから早く!自販機はあそこにある!」
ブライはベンダーモードにライドベンダーを指差す。
「じゃあ!」
≪TORA-CAN≫
オーズはトラカンドロイドを投げ、トライドベンダーと合体させることで完成するモンスターマシン・トライドベンダーに雄叫びをあげさせた。
オーズがその鞍に跨ると同時に、ブライも愛機に追加要素を加える。
≪KABUTO-CAN≫
新しいカブトカンドロイドを起動させ、シェードフォーゼを合体させた。
色は緑に変わり、カウル部分にカブトカンから伸びたカブトムシ特有の巨大な雄々しい角、タイヤも平な形に変形して飛行補助を担う。
これこそが”シェードビートル”だ!
『ウゥゥアアアアア!!』
液体となり、三次元的な移動をしながら攻撃してくるメズールに、オーズは地上、ブライは空中から反撃する―――その手に、メダガブリューとメダグラムを召喚して。
――ガシッ!バシッ!ビシッ!――
何度もぶつかり合う音。
「「ハァァアアッ!!」」
だが遂に、オーズとブライは同時に攻撃することでメズールを吹っ飛ばす。
吹っ飛ばされたメズールは液体化が地面を転がり、再び液体化しようと立ち上がった途端に、漸く今頃になって気付いた。
『ッッ!?』
自分の足が分厚い氷によって、足止めされていることに。
そこを狙って、オーズとブライは三枚のセルメダルを武器に投入した。
≪≪GOKKUNN!≫≫
≪LATORARTAR!≫
≪KABUHACHINA!≫
♪〜〜♪〜〜
流れるコンボメロディ。
それとは裏腹に、オーズは前方に出現する三つの黄色いリングを愛機と共に猛スピードで潜り抜けて行き、ブライは宙を飛ぶシェードビートル共々多重分身して急降下する形でメズールに接近し、
「セイヤァァアアアアア!!!」
「チェストォォオオオオ!!!」
紫の刃が、水棲女王の力の源に、取り返しのつかない損傷を与えた。
『ィアアアアアアアアアアーーーッッ!!!!』
メズールは許容しきれぬダメージに体表面が爆発した。
オーズとブライは愛機から飛び降り、その様子を見ていると、仲間たちがやってくる。
「火野、大丈夫か?」
「はい」
「やったな鋼!」
「派手な演出だったな」
「まぁな」
五人は確定した勝利に喜びを分かち合う。
だがそれでも、
『そんな・・・・・・!まだ、全然足りない!』
コアに重大な傷をいれられ、身体中からセルがこぼれていくメズール。
『もっとぉ・・・・・・もっとよぉ!』
必死になってどことも知れぬ場所へ手を伸ばすメズール。
誰もがメズールの無様な最期を予想したとき、
「―――メズール・・・・・・メズール、メズール!メズール!!」
昨晩からメズールを探し続けていたガメルが、遅すぎるタイミングで現れたのだ。
ガメルは、弱りきったメズールを抱き起こし、彼女の言動に耳を傾ける。
『ダメなの・・・・・・全然足りないの!』
「なんで、なんで・・・・・・!?」
『グリード、だから・・・・・・――――』
文字通り、それが水棲女王メズールの末期の台詞となる。
メズールの身体は完全に力尽き、
「ッ、メズール!?――メズール〜!」
身体はセルメダルの山となり、その中からシャチ・ウナギ・タコのメダルが一枚ずつ出て来た直後、小気味良い音を立てて砕け散り、消滅してしまった。
まるで、彼女が求め欲してきた、愛の儚さを物語るように―――。
ガメルは無傷のコアメダルを手にして握ると、
「ウァァアアアアアアアアアアア!!!!」
凄まじい慟哭を上げ、その姿を完全なものとして現す。
サイの角、ゾウの鼻と牙、ゴリラのように堅牢で屈強極まる上半身、ゾウの如くずっしりとした両脚。
重量王ガメルの完全復活の瞬間だ。
しかし、
『アアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』
だがガメル本人は、完全復活できた喜びよりも、メズールを失ったという悲しみと喪失感のほうが遥かに大きかった。
「おわぁッ!?」
「うああっ!?」
「「「ぅアアァ!?」」」
ガメルの慟哭によって発生した激しい重力波によって、五人のライダーは総じて、近くの河へと落とされてしまったのだ。
しかし今のガメルにはそんなことは些事にさえならない。
『メズールぅぅぅぅぅううううううう!!!!』
純粋であり純真無垢であり・・・・・・それ故にどこまでも我欲に忠実なグリードの嘆きの慟哭は、この辺り一帯だけでなく、天上にまで届かんとするのではと思うほどだ。
もう一度だけ言わせて貰おう―――純粋すぎる純真無垢な心は時として、此の世の誰の力を以ってしても御しきれぬ物へと変貌しかねないということを。
次回、仮面ライダ−ブライ!
映司グリードと重量王と七実の願い
シェードビートル
カブトカンドロイドとシェードフォーゼを合体させることで完成させるブライ専用のスーパーマシン。カラーは緑。最高時速は700km。
カウル部分にカブトカンが合体し、緑色の雄々しい一本角が現れると、前輪と後輪が横倒し状に変形して凄絶な強風を巻き起こし車体を浮遊させる役目を担い、エンジン部分は高速飛行の為のジェットを役割を果たす。
また一本角の素材はメダジャリバーやの刀身やメダマガンの銃身と同じ金属で出来ており、例え巨大なダイヤモンドであろうと一撃で粉砕する。さらに強烈な電気エネルギーを付与することでヤミーやグリードにも重大なダメージを負わせられる威力を備える。
だがしかし、その特性上、このマシンを十全に機能させるには多大な電力が必要となり、結果としてカブハチナコンボでのみ運用可能という難癖付き。
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