初陣を終えたセグラント達三人は司令であるローディーに報告するため、
作戦本部へと歩を進めていた。
個々に違いはあるが、三人とも疲れていたが、それを表に出す事はしない。
例え、新兵といえど此処でいかにも疲れました、といった態度をすればこれから先の
戦闘で使って貰えるか分からなくなるためだ。
ここは戦場であり、使えない者に与える軍備など存在しないのだ。
セグラントは扉をノックし、声を掛ける。
「セグラント・ヴァルトシュタイン、モニカ・クルシェフスキー、エディ・マクシミリアン。
今回の戦闘に関する報告に来ました」
「うむ、入れ」
中からローディーの許可が下りた為、三人は中に入っていく。
作戦本部には司令であるローディーの他に、副官のコーラッド、そして一人の女性がいた。
女性はローディーに二言三言何かを言うと、部屋から出ていった。
ローディーはセグラント達の方を向いた。
「初の戦闘ご苦労だった。既に被害報告やその他の報告は受け取っているが、
諸君等の報告も聞こう。様々な立場から報告を受ければそれだけ見える物があるからな」
ローディーはそう言い、セグラント達の報告を聞く。
セグラント達は戦闘で起きた事象を可能な限り全て報告した。
それを聞いたローディーは一度大きく息を吐き、天井を見上げる。
視線をセグラント達に戻し、言った。
「ふむ。私の方に先に上がってきている報告と大差はない、か。
それにしても君達を除く全てのナイトメアが大破か……。手痛いな。
コーラッド、一応こちらに新たなナイトメアを回してもらうよう上申しておいてくれ」
「了解しました」
「さて、次に君達の事だが……。初陣で生き残ったという事はある程度は使えるということだろう。
そして、所属する部隊が壊滅してしまった事を含めて、君達には異動してもらう。
詳しい事はこの紙に書かれている……以上だ。退出して構わない」
セグラント達が部屋を出ると、先程部屋を出た女性が立っていた。
「よ、お疲れ様。聞いたよ、初陣だったそうじゃないか。それであれだけ戦えてたんだ、
これから期待させてもらうよ」
目の前で口早に話す女性こそ、先の初陣で援軍として来た人物であり、
皇帝直属騎士ナイトオブラウンズのナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムだった。
「エニアグラム卿、先程は援軍ありがとうございました」
エディが礼を述べ頭を下げるのに追従し、セグラント達も頭を下げる。
「なに、あの場所は戦場の命綱でもある補給線だからな。援軍に行くのは当然だ」
取り敢えず頭を上げろ、と言いノネットは話を続ける。
「余り見ていなかったがお前達は中々に連携が取れているな。それに個々の力量も高い。
……そういえば名前を聞いてなかった。名前は?」
ノネットに名前を聞かれ一瞬三人は面食らうが、名前を名乗った。
「自分はエディ・マクシミリアンです。階級は少尉です」
「私はモニカ・クルシェフスキーです。階級は同じく少尉です」
「セグラント・ヴァルトシュタインだ……です。階級は二人と同じ少尉……です」
三人の名を聞いた後、ノネットはセグラントの方を向いた
「お前がビスマルク卿の息子か! いやぁ、それにしてもデカイな!」
「……」
「うん、それに何処か獅子を彷彿とさせるな」
ノネットの話す内容にモニカとエディも吹きだす。
「そうですよね、そう思いますよね」
「俺も最初コイツと同室になった時は焦ったものです」
「お前ら……」
セグラントの米神に青筋が浮かぶ。
「ふふ。お前達、面白いな。まぁ、これからはよく会うだろう。
最初に言っておくが、これから厳しくなるぞ。ついてこいよ?」
ノネットは不敵に笑った。
「あの、どういうことですか?」
「聞いてないのか? お前達の異動先は私と同じ最前線だ」
サラリと言われた内容にモニカやエディの顔が蒼白になる。セグラントは一人好戦的な笑み浮かべていた。
「まぁなんだ。そっちの紙にも書かれているだろうけど最前線程武勲を立てられる場所はないぞ。
それとこれはアドバイスだが、自分の機体を自分の性に合うようにカスタムしてもらえ。
整備兵に頼めばやってもらえるだろうから」
それじゃあな、と言いノネットは手を振りながら去っていった。
残された三人はしばしその場にとどまっていた。
「取り敢えず、格納庫に行くか」
どのようなカスタムをして貰おうかと話しながら三人は格納庫にある自分のKMFの前まで行った。
しかし、そこには二機のサザーランドしかなかった。
無くなっているのはセグラントのサザーランドだった。
「セグラント、貴方のサザーランドは?」
「見事に何もないな」
「俺のサザーランドが……」
セグラントは横を通ろうとしていた整備兵を捕まえ、尋ねた。
「俺のサザーランドがないのだが……」
「あ。あのサザーランドのパイロットでしたか。貴方のKMFは先程、その……」
整備兵は言いづらそうに顔を逸らす。
追及しようとした時だった。
「お前さんのKMFならこっちだ」
初老の男性がセグラント達の方にやってきた。
初老の男性は身の丈は180程で、年は50代後半ぐらいだろう。くたびれた白衣を着ていた。
「あんたは?」
「俺の名前はクラウン。クラウン・アーキテクトだ。ここでは博士で通ってる。
まぁ、俺の事なんてどうでもいい。今はお前さんの機体の事だ」
ついてこい、と告げクラウンは歩き始めた。
セグラント達は顔を見合わせ、取り敢えずついて行こうと思いクラウンを追った。
クラウンは格納庫の奥にある扉に入っていった。
三人が続いて入ると、そこは様々な機器が置かれた広い部屋だった。
奥にはKMFを置く為のハンガーが一個あるが、それには現在黒い布が掛けられており、
KMFの姿を見る事が出来ない。だが、布の膨らみ具合からKMFが置かれているのは間違いなかった。
「おい、俺のサザーランドは?」
「来たな。それではお披露目といこう!」
「駄目だコイツ! 人の話を聞きやがらねぇ!」
クラウンはセグラントの叫びを無視し、ハンガーに掛けられていた布を思い切り引っ張った。
布が外れ、ハンガーの中が露わになる。
そこには予想通り一機のサザーランドが鎮座していた。
「なんだ、アレ」
「サザーランド、よね?」
「俺のサザーランド……」
だが、鎮座していたサザーランドは初陣で使った時とはその様相を大きく変えていた。
全体に追加装甲を取り付けられており、全体的に大きくなっていた。
だが、それよりも目を引くのが腕であった。
腕は装甲を追加したというレベルでは無く別物となっていた。
通常のサザーランドの腕と比べ逞しくなっていた。
何よりも目を引くのが手だろう。
手は従来よりもかなり大きく造られており、爪は獣のソレに似ていた。
「これは……」
「俺は常々思っていた。KMF戦で何故手が使われないのか、と」
「それは銃火器を手に取った方が早く敵を倒す事が出来ますし、なによりKMFの手は脆いですから」
「そう! 銃火器の方が威力は高いし、脆い。しかし銃火器は弾が切れれば撤退して補給に
行かなければならない。それはいい。
だが、孤立している場合はどうなる? 当然補給になど行けはしない。
そこでジ・エンドだ。そこで俺は考えた。武器が無くとも戦えるように出来ないものか、と。
このままでは拳の強度と攻撃力に問題がある。ならば、と思い造り上げたのがこの腕、
『試作型ビーストアーム』だ!」
「ビーストアーム。まんまだな」
「というかこんなに大きな手じゃ通常の銃火器が持てないんじゃないかしら」
エディとモニカが思った事を口にすると、クラウンはチッチと指を振りながら言った。
「ビーストアームには手甲部分にアサルトラフルを取り付ける事が可能だ。本来ならば専用の銃器を装備させたいが
サザーランドの積載量では無理があるのでな。
さて、このビーストアームだが、一番の見どころは敵を『握り潰せる』所にある。
ただ殴って破壊するくらいなら通常のKMFでも可能だからな」
「それで」
「なんだ?」
「何故、俺のサザーランドなんだ?」
セグラントの問いにクラウンは簡単な事だと言い、説明を始めた。
「お前のサザーランドを見た時に気づいたのだ。コイツのサザーランドは拳で敵KMFを殴った、とな。
サザーランドの手は脆い。なのに拳はそこまで損傷していなかった。
つまり、KMFで殴る事を多用し、慣れていると思ったのだ。
その後はお前のサザーランドを此処まで運び、腕をビーストアームに換えたという事だ」
「あぁ、確かにコイツはよくKMFで殴るからなぁ」
「軍学校の模擬戦でも結構やってたわね」
「やはりそうか!」
「くそ、事実だから何も言えん」
「さて、セグラント君。このビーストアーム使ってくれないか?
君が使うのが一番合っている気がするし、私はデータを取り、更にこれを進化させたい。どうだろうか?」
クラウンの言葉にセグラントは苦笑しながらいった。
「答えるまでもねぇ。使わせて貰うさ。コンセプトを聞いてる限り俺の性に合ってるからな。
というかもう取りつけてる癖に聞くんじゃねぇよ」
「それもそうか。それでは見事ビーストアームを使いこなして見せてくれ。それにしてもコレを
本当に使おうとする馬鹿が現れるとは……」
「馬鹿は余計だと思うんだが?」
「いや、否定できないでしょ」
「そうね。こんな腕使うなんて馬鹿と言われても仕方ないわ」
「……ちっ」
「セグラント君」
クラウンはセグラントの名を呼び手を出す。
「何だよ?」
「握手だよ。私と言う馬鹿と君という馬鹿が出会った事に」
「ふん」
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