IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫
第十五話
「ドイツの黒い兎」
シャルルが女だという事がキラとラクスにバレて、改めてシャルロットとして二人と友人になった日の翌日、各生徒の練習時間を利用してキラのお馴染みメンバーに鈴音とシャルロットを加えた7人は他の生徒が打鉄で素振りをしている所から少し離れて一夏の訓練に時間を割いていた。
「一夏の白式は高機動近接攻撃特化型だから、一番有効な戦法はヒットアンドアウェイになるんだ。通常、その方法としては瞬時加速を多様しながら撹乱加速を併用したものが理想的なんだけど」
「一夏さんの場合、これは当て嵌まりませんわ。エネルギー消費率が高いので、瞬時加速の多用は一撃必殺として使う零落白夜の使用を不可能にしてしまう可能性が出てきます」
「ふんふん」
基本的に、教師役は白式の事を熟知しているキラとラクスが行い、それを一夏が聞く。他のメンバーは一夏と同じように聞きながら、訓練の際の対戦相手として一夏の戦い易い方法や戦い難い方法を使って戦える様にしていく。
「なので、一夏は基本的に一試合で使える瞬時加速の数は3回が限界、それも被弾無しの時に限るけど、被弾したら数は減るし、あまり酷いと一試合に一度も使えなくなる」
「撹乱加速は一試合に一度か二度が限界ですわね。余り使いすぎると相手に見抜かれてしまいます」
「成る程な、便利だからこそ使いすぎに注意って事か」
瞬時加速と撹乱加速の使用制限をした状態でのヒットアンドアウェイ、それを行うには如何するのか、簡単な話だが、実際にやってみると難しい方法でもある。
「一夏にはこれからも瞬時状況把握能力を高めてもらうよ、それと飛行速度の上昇や三次元機動の習得、戦闘視野の拡大、分割思考を最低でも一度に3つは出来る様になってもらわないといけない」
「うわぁ・・・多すぎる。キラ達も出来るのか? これ」
「僕は出来るよ。分割思考も調子の良い時で最高10以上くらいかな?」
キラは元の世界でもMSを操縦して戦闘をしながらOSの書き換えをしたり状況判断をしたりドラグーン操作など、一つの思考では絶対に不可能な事をしてきたのだ。だからこそ分割思考は多いし、他の事もスーパーコーディネイターである以上、習得は簡単だった。
「私も凡そは出来ますし、分割思考は最高でも4つですわね!」
セシリアも流石はエリート、これくらいは出来て当たり前だろう。鈴音もセシリアとほぼ同じで、シャルロットは分割思考が5つ、箒は2つが限界だった。
「分割思考は鍛えればいくらでも増やせるから、頑張ってね」
「まじかよぉー!!」
一夏の悲痛な叫びが響く中、突然クラスメート達が騒がしくなった。
その視線の先を見てみると、ビットの出口であるカタパルトの上に立つ一機の黒いIS、ドイツ第三世代ISシュヴァルツェア・レーゲンがそこにいたのだ。
「あ、あれは!?」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」
「何! あいつなの!? 一夏を引っ叩いたっていうドイツの代表候補生って」
ラウラはアリーナにいるクラスメート達を一通り眺めると、キラ達と共にいる一夏の姿を発見して、挑発的な笑みを浮かべる。
「織斑一夏、貴様も専用機持ちだそうだな、ならば話が早い。私と戦え!」
「いやだ、理由がねぇよ」
「貴様には無くても、私にはある」
「今でなくても良いだろ? もうすぐクラスリーグマッチなんだから、その時で」
「・・・ならば」
何の警告も無しに右肩のレールカノン砲を一夏に向けて発射してきた。
だが、一夏の隣でストライクフリーダムを展開していたキラが前に出て、ビームシールドを展開すると砲弾を弾いて落とす事で防ぐ事が出来た。
「随分な挨拶だよね、ドイツではこういうのが流行ってるの?」
「キラ・ヤマト・・・貴様は教官から世界最強とまで評価されているらしいな、男の分際で偉大なるブリュンヒルデである教官と同等など、身の程を思い知れ!」
もう一発レールカノン砲を放ってきたが、キラは音速で飛んでくる砲弾をビームライフルで打ち落とし、ビームライフルを撃った瞬間には既にドラグーンをパージしてシュヴァルツェア・レーゲンを包囲していた。
「っ! 馬鹿な・・・、この私が一瞬で包囲されただと?」
「これが一斉射をしたら、君のISの特殊武装でも防ぐのは不可能・・・チェックメイトだよ」
ラウラとしてはキラがレールカノン砲を防ぐなり避けるなりして、その隙を狙おうと思っていたのだろうが、まさか音速を超えるスピードで飛来する砲弾をビームライフルで打ち落とすどとは思いもしなかった。
それ故に生じた隙は、キラ相手には致命的で、あっと言う間にドラグーンに包囲されるのを許してしまうのだ。
「相手と自分の力量差を測れないなら、君はまだまだ2流、ひよっこだよ。もう少し自分の腕を磨いて出直してくる事だね」
ドラグーンを戻してストライクフリーダムを解除した時、丁度騒ぎを聞きつけた教員の放送が入った。
『そこの生徒! 何をやっている!!』
「・・・っ、ふん、今日の所は引いてやる」
興が削がれたのか、それともキラにあっさりと敗北した事を屈辱に思ったのか、ISを解除したラウラはビットの中に戻って行った。
それを見送るクラスメート達とキラ達は暫く呆然としていたが、そろそろ終わりの時間が近づいてきたので、後片付けをしてアリーナを出る。
「流石はキラさんですわ! 音速を超える砲弾を撃ち落とすなんて!」
「うん、凄いよキラ! 僕でも音速を超える砲弾は防御するので精一杯なのに、撃ち落としちゃうんだもん」
セシリアとシャルロットに挟まれながら賞賛を受けるキラは何処か引きつった笑みを浮かべ、その後ろで箒の隣を歩くラクスは、あらあらと珍しいキラの様子に愉快そうな笑みを浮かべる。
「ねえキラ、アンタのIS、ストライクフリーダムだっけ? それって篠ノ之博士が作ったのよね?」
「うん、そうなるね」
鈴音の質問に一応は肯定しておいた。
「でもさ、ストライクフリーダムって第三世代って感じしないのよねぇ、ずっと高性能じゃない」
「そういえば、そうだ。姉さんが作ったからってだけでは説明が・・・」
「簡単ですわよ。ストライクフリーダムは第五世代型のISですわ」
『第五世代!?』
皆、一様に驚く。未だに世界中では第三世代の実験が始まり、試作機の試験運用が始まったばかりだというのに、一つ飛び越えて第五世代なんてものが出来ていたなんて思わなかったのだろう。
「因みに、第四世代もあるよ。一夏の白式、それは第四世代のISだから」
「白式が!?」
「白式の持つ雪片弐型は第四世代の装備である展開装甲の技術を使って作られた展開装甲の試作型武装、白式は第三世代の機体に第四世代の武装を持たせたISなんだ」
一夏は改めて腕に巻きつけているガントレットを眺めた。まさか自分の使っているISがそんな凄い物だったとは思わなかったのだ。
「し、しかし何故キラがそんな事を知っているのだ?」
「だって、白式も束さんが作ったんだよ? 開発には僕も携わっていたし」
「うそ・・・キラさん、ISの開発も出来るんですの?」
「凄すぎるよ・・・」
考えてみれば、このメンバーはある忌み凄いと言える。
第五世代のストライクフリーダムに乗るキラ、第四世代の白式に乗る一夏、第三世代のブルーティアーズと甲龍にはセシリアと鈴音、第二世代ラファール・リヴァイヴ・カスタムUのシャルロット、更には専用機を持っていないがISランクAを出したラクスに篠ノ之 束の妹である箒、本当に凄いメンバーだ。
「何かさ、あたし達全員で世界落とせそうよね」
「っていうかキラ一人で出来そうな気がするぜ」
「いや、無理だよ。個人では国には勝てないから」
とりあえず失礼な事を言った一夏には明日の訓練を5倍にするとして、それぞれシャワーなり何なりで分かれる事にした。
ただ、キラとラクスは自分達の部屋でシャワーを浴びるので、シャルロットと一緒に先に帰る事にした。シャルロットはキラとラクスに女性だとバレた日からシャワーを浴びる時はキラ達の部屋で浴びる様にしているのだ。
「じゃあ、僕、先にシャワー借りるね?」
「あら、折角ですしご一緒しませんか?」
「え、ラクスと? うん、良いよ」
「じゃあ、僕はちょっと調べ物があるから、上がったら教えてね」
部屋に着いて、シャルロットはラクスと一緒にシャワー室に入った。
キラはそれを見届けてからパソコンの前に座り、いつものハッキングを始めた。調べる内容は束と共に協力しながらやっている某国企業の調査だ。
「第二回モンドグロッソの時の一夏誘拐事件、犯人は亡国企業だって話だった…、だけど何故一夏を誘拐したんだろう? その当時はまだ一夏にIS適正があるなんて判らなかったのに、織斑先生の二連覇阻止にしてはちょっと理由が薄いし」
過去の亡国企業がやったと思われている事件を調べても、その犯行動機は曖昧で、決定的な目的に繋がっていない。
「手遅れになる前に、少しでも情報が欲しいけど」
本当に手遅れになる前に、何とかしなければならない。
その時、キラの携帯に電話が掛かってきた。開いてみると相手は束だったので、急いで通話ボタンを押す。
『はろはろ〜、キー君! 皆のアイドル、束さんだよ〜!』
「こんな時間に如何したんですか?」
『ちょ〜っとキー君の耳に入れて欲しい情報があったんだよねぇ』
「情報?」
『イギリスの事なんだけど〜』
イギリス、セシリアの出身国だが、そこで何かあったのだろうか。
『イギリスで開発している第三世代型のIS、キー君も知ってるでしょ?』
「セシリアの使っているブルーティアーズですね。確か2号機があるみたいですけど」
『そうそう! その2号機、サイレント・ゼフィルスなんだけどね? 盗まれたみたいなんだよねぇ』
「盗まれた!?」
更に、アメリカの第二世代型のISアラクネも盗まれていたらしい。
『犯人は亡国企業の人間みたいなんだけど、イギリスの方でサイレント・ゼフィルスを盗んだと思われる人間が問題でねぇ』
「問題、とは・・・?」
『監視カメラに映像が残ってたんだけど、イギリスでは解析出来なかったみたいで、ちょこっとハッキングしてその画像を入手してみました〜!』
「・・・それで、解析したんですよね?」
『まぁね、それで解析して犯人の顔まで判明したんだけど、流石に束さんも驚いたよぉ』
今からキー君のパソコンに送るね〜、と言われたので、メール受信画面を開くと丁度、束からのメールを受信した所だった。
「・・・これはっ!?」
『やっぱりキー君も気付くよね、そこに映ってる顔』
「織斑、先生・・・? でも年齢が」
『今のいっくんより年下かなぁ? でも確かに顔はちーちゃんなんだよ〜』
その画像に映っていたのは、一夏より年下であろう少女の姿だ。しかし、その顔は間違いなく千冬の顔で、今の千冬より若干だが幼くした様な感じだった。
『可能性としては・・・』
「クローン、ですね」
『まさか束さんもクローンを出してくるとは思わなかったなぁ。やってくれるよ、ちーちゃんの顔で犯罪を犯させるなんて』
実に忌々しいという口調で吐き捨てた束だが、その気持ちはキラにも理解できた。キラから見ても許せるものではない。
「もし、学園を襲撃してきたら」
『生け捕りかなぁ? その辺はキー君に任せるよ!』
「はい」
また何か判ったら電話すると言って束は電話を切ったので、携帯を机の上に置くと送られて来た画像をもう一度確認してみる事にした。
犯人の少女の顔を拡大して修正すると、間違いなくそこには千冬の顔が映っているのだ。
「クローン、か・・・」
クローンという言葉で思い出すのは二人の男、キラ自身の手で殺した仮面の悪鬼ことラウ・ル・クルーゼと、悲しい運命の果てに確かな幸せを得て死んだレイ・ザ・バレルの姿だ。
「この少女も、彼等みたいな悲しい運命を背負っているのだろうか」
キラの呟きは、誰にも聞かれる事なく、部屋の空気に溶け込んで、静かに消えていくのだった。
あとがき
遅くなりました。ラウラの台詞がにじファンの時と少しだけ違うんですが、気づきました?
※2012年6月26日:修正しました。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m