IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第六十八話
「桜と椿」



 一夏の恋人となった箒だったが、彼の姉である千冬に認めてもらう為に模擬戦をする事になってしまった。
 正直な話、箒に勝ち目は万に一つも無い。今尚、最強の代名詞とも言われるブリュンヒルデ、織斑千冬を相手に、まだまだ学生で、ISを動かす様になって数ヶ月の箒がでは年季も経験も、技術も、何もかもが違いすぎるのだから。

「それで、僕の所に?」
「ああ、放課後まで時間が無い。だから千冬さんより強いキラなら何か良いアイデアが無いかと思ったのだが・・・」

 そこで、箒はキラに何かアドバイスを貰えればと思い、キラの所に来た。
 現在は朝のHR前で、放課後までまだそれなりに時間がある。だからこそ、放課後までに何かキラに教えてもらえればと思ったのだ。

「確か、千冬さんと箒は同じ剣を使うよね?」
「うむ、篠ノ之流剣術だ」
「なら、千冬さんが使う技は当然だけど箒もよく知っている筈。それはつまり、対処法も知っているという事になる」
「それは・・・まぁ」

 千冬と箒、一夏の三人の剣は共通して篠ノ之流だ。だから三人とも剣筋は同じだし、使える技も篠ノ之流のモノ。
 特に箒は小学校からずっと剣道をしてきたので、当然だが実家が教えている篠ノ之流を鍛えてきたはずだ。
 実力こそ千冬には劣るものの、技という点では篠ノ之流の跡取りである箒ほど熟知している者はいない。

「今回の場合、経験や技術といった面では完全に千冬さんが上。だから箒はその他のもので勝負するしかないかな」
「その他のもの・・・?」
「そう、付け焼刃になるとは思うけど、篠ノ之流の知識、これが勝敗を分けるポイントになる」

 機体の性能差はほぼ互角、技術と経験では千冬が上なのだから、残るは技の知識のみ。勿論、千冬とて篠ノ之流の技の知識はある。
 しかし、篠ノ之家が引っ越してからは殆ど独学で学んだ筈なので、箒の方が知識の面では上回っているのだ。

「千冬さんが使う技、その全てに対処出来るだけの知識が、箒にはある。それを生かして戦う事が一番大事だよ」
「なるほど・・・」

 しかし、一番のネックは暮桜・真打の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)と紅椿の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)の相性の悪さだろう。
 絢爛・零落白夜はエネルギーを完全回復した上でのバリアー無効化攻撃なのに対して、絢爛舞踏はエネルギー完全回復のみ、紅椿の方が不利なのだ。

「まぁ、でも勝ち目という点では紅椿にもある」
「本当か!?」
「暮桜・真打は白式や紅椿よりも燃費が悪いから。絢爛・零落白夜も一度使えば次に使うまで少し時間が掛かる。そこを狙えば良い」

 元々、暮桜・真打は白式と紅椿のプロトタイプだ。当然だが燃費の悪さは二機以上、それを補うのが絢爛・零落白夜でもある。

「まぁ、如何に戦うか、それが一番大事だよ」
「そうだな・・・何とか、やってみる。一夏の恋人なったんだ、下手な戦いは絶対にしない」

 此処最近、急激に強くなっていく一夏に置いていかれない為にも、一夏のパートナーとして相応しい女になる為にも、此処で無様な戦いは出来ない。
 千冬に勝てるとは言わない。だけど、勝てないまでも千冬に認められる戦いをする為に、箒は放課後までの時間、全てを費やして戦略を練り続けるだった。


 遂に放課後になってしまった。
 現在、キラとラクス、それから一夏はピットで紅椿の最終調整をしている箒の所に来ていて、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪、楯無はアリーナの観客席に居る。
 箒の対戦相手である千冬は、反対側のピットで束に暮桜・真打の調整をしてもらっている所だ。

「箒・・・大丈夫か?」
「う、うむ・・・大丈夫、だと・・・いいなぁ」

 模擬戦を目前にして、箒は緊張がピークにまで達していた。まだピット内に居るというのに、何故だか千冬の殺気が感じられる気がして、身体の震えが止まらない。

「箒、対策は大丈夫?」
「ああ、凡そはな」

 同じ篠ノ之流剣術同士、一刀流と二刀流の違いはあれど、幼い頃から習ってきた流派の技を、箒が対策出来ない筈が無い。勿論、それは千冬にとっても同じなのだが、流派の知識という点では間違いなく箒が上、それが如何に勝敗を左右するのか。

「よし、調整完了・・・」

 調整が終わり、ラクスが管制室に向ったので、紅椿を纏った箒はカタパルトに接続する。

「箒!」
「一夏・・・」
「頑張れ」
「・・・ああ!」

 一夏の声援を受けて、箒の身体から緊張が抜け落ちた。リラックスした表情で少しだけ瞑想をすると、目を開いて真っ直ぐアリーナへ続く道を見つめる。

『カタパルトオンライン、進路クリアー、紅椿、発進どうぞ!』

 ラクスの声がピット内に響いた。同時にカタパルトに電力が流され、後は発進するのみ。

「篠ノ之箒、紅椿! 行くぞ!!」

 カタパルトが発進して、紅椿はアリーナに飛び出した。
 既に千冬が駆る暮桜・真打はアリーナ中央の空中で制止しており、箒を待っていた。腕を組んで目を閉じ、神経を集中して、箒がアリーナに出てきた所で全ての神経を箒に向けている。

「・・・千冬さん」
「・・・・・・来たか、小娘」

 箒が声を掛けると、千冬も目を開き、一瞬で展開した雪片壱型を構えながら殺気を放つ。

「逃げずに来た事は、褒めてやろう。だが、それだけでは一夏との関係を、認める訳にはいかん」
「・・・はい」
「この試合で、見せて貰うぞ。篠ノ之箒という一人の女が、私・・・織斑千冬という織斑一夏の姉から弟を奪えるだけの女なのかという事を」
「・・・はい!」

 雨月と空裂を構えた箒は、雪片壱型を構える千冬を見据えて、試合開始の合図を待つ。

【試合、開始】

 開始の合図と共に、千冬と箒はスラスターを全開にしながら一気に近づいて剣を交えた。
 雪片壱型と空裂がぶつかり、火花を散らすが、雨月が横から迫るのを確認した千冬は雪片壱型を軸に側転をする要領で回転して避けると、その勢いのまま回し蹴りを叩き込んだ。

「グッ…! はぁ!!」

 回し蹴り自体はそんなにダメージとしては大きくないので、気にするまでも無い。なので空裂で回し蹴りに使った足を狙って切りつけるのだが、その程度のダメージなど気にしないと言わんばかりに千冬が足で空裂を弾いてきた。
 だが、それで怯むほど箒は軟ではない、雨月による連撃へと繋いで千冬の胴体を横薙ぎに切り裂くと、暮桜・真打のシールドエネルギーが大きく削られる。

「ほう? やるな小娘・・・だが、まだまだ甘い!!」

 一瞬、千冬の姿が消えた。だが次の瞬間、千冬の姿が四つに増えて四方から切りかかってくる。

撹乱加速(テンペストブースト)…! グッ!?」

 千冬の分身、二つまでなら二刀流の箒でも対処出来た。だが、残る二つの分身…一方は本物なのだが、は流石に対処し切れず、斬撃を受けてしまった。

「なら!」

 少し距離を取って空裂のレーザー斬撃を放つのだが、避けられる。
 しかし、それは想定済みで、雨月からのレーザーを続けて放つと、千冬も避けるだけではなく雪片壱型の展開装甲をオープンして展開されたレーザーの刃で弾くなどの行動もしていた。

「今だ!」

 紅椿の展開装甲の一部を切り離してビットとして射出した。二つのビットがレーザーの刃を纏って暮桜・真打に迫る。

「ふん!」

 箒の狙いはビットで少しでも千冬の意識が逸れる事だったのだが、甘かった。
 千冬はビットなど無視して真っ直ぐ箒に向って瞬時加速(イグニッションブースト)で接近して、雪片壱型を構えると、いつかの一夏とラウラの戦いで一夏が使った技と同じ構えに入った。

「見せてやろう。私が一夏に教えた技だ・・・あの馬鹿はまだまだ未熟だが、私のこれを同じと思うな!!」

 低い体勢で下段から抜刀の要領で一気に振り上げる技、これこそ篠ノ之流剣術の一つ、霜月。
 別名は下月、下段から刀を振り上げ三日月の様な軌道を描きながら切り裂く斬撃特化、相手を切り裂く事にのみ特化した技だ。

「なら!」

 千冬が霜月を使うというのなら、箒はその対処法を取るまで。霜月に対抗出切る技は一つ、霜月の対の技として教えられている上段からの斬撃特化技だ。
 雨月を一度消して、空裂を上段に構えると、全力でもって振り下ろす。ただそれだけのものなのだが、篠ノ之流ではこれも一つの技として扱っているのだ。
 シンプルであるが故に必殺、その一撃こそ霜月と対を成す上段からの斬撃、卯月。

「「はぁああああ!!!」」

 霜月と卯月、雪片・壱型と空裂がぶつかって、激しい衝撃破と火花を放つ。
 千冬と箒という同門同士の戦いは、今始まったと言えるだろう。弟を、恋人を賭けた女と女の意地のぶつかり合いは、激しさを増していく。




あとがき
お待たせしました!



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