IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第七十話
「日本とフランス」



 一夏のパートナーが箒に決まり、それに伴って鈴音はセシリアと、ラウラは本音と組む事になり、いよいよタッグマッチに向けた準備が本格的に始まった。
 キラや一夏達も準備に追われる中、今度のタッグマッチではキラとラクスペアを除けば優勝候補とも言われている二人、シャルロットと簪のペアは整備室のワンフロアを貸しきって自分達の専用機のチェックを行ってた。

「簪さん、これは如何かな?」
「えと・・・もう少し、メインスラスターの出力を上げた方が」
「う〜ん、瞬時加速(イグニッションブースト)もあるから、これくらいが丁度良いと思うけど」
「でも、私の山嵐の中を飛ぶなら、もう少し速度があった方が……流石に、高速機動とまでは言わないけど」

 二人が立てている戦術に沿って調整しているのだが、中々難航しているらしい。
 今、一番の問題としているのはエクレール・リヴァイヴのスピードに関する事で、打鉄・弐式が山嵐を放った時、そのミサイルの嵐の中を掻い潜る様にエクレール・リヴァイヴが飛ぶ事を前提として調整をしているのだが、その際の速度に関する問題だ。

「速過ぎても駄目、遅すぎても駄目、丁度良い速度にするならスラスター出力の調整が一番だけど、実際問題、エクレール・リヴァイヴは第三世代の中では一番速度が出せる機体だからねぇ」
「キラさんが造ったISだから・・・調整も、如何しても難しくなる」

 エクレール・リヴァイヴは第三世代でありながら、その技術力は第四世代に匹敵すると言っても過言ではない。だからこそ、調整や整備も第二世代や第三世代のISよりも難しく、大変なのだ。

「それにしても、凄いね・・・キラさんって」
「そうだよねぇ。お兄ちゃんが凄いっていうのは理解していたつもりだったんだけど、エクレール・リヴァイヴを見ると、更に凄いとか思っちゃうもん」
「もしかして、キラさんってコアを造れたり……」

 まさかぁ、と二人で笑い合っていたのだが、何故か二人の後頭部には一筋の汗が流れていた。キラなら造りかねないと、心の底では思っていたりするのだ。
 最も、キラはコアの作り方は教えてもらっていないので造れないが、製作者である束本人は教えれば間違いなく造れるだろうと予想していたりする。

「ねぇ簪さん、ちょっと休憩しようよ」
「うん……」

 展開していたエクレール・リヴァイヴと打鉄・弐式を待機状態に戻して、二人揃ってシャワー室に向う。
 シャワーを浴びる為に着ていたISスーツを脱いだのだが、簪はシャルロットの胸を見て、次いで自分の胸を見下ろして、凹んだ。

「か、簪さん?」
「ずるい・・・シャルロットさん、胸・・・大きい。同い年なのに」
「え、え〜・・・」

 シャルロットと箒、セシリア、楯無の四人はキラと一夏を中心としたグループで胸が平均より大きい。逆に、ラウラと鈴音、簪、ラクスは胸が平均より少し小さいので、どうしても羨んでしまう。

「如何したら大きくなるの・・・?」
「う、う〜ん・・・僕は別に、特別何かをしたって訳じゃないんだけど・・・えと、フランス人だから?」

 理由になっていない。ならドイツ人であるラウラは如何なのかと問いたい。ヨーロッパの人間は皆、胸が大きいなんて言い訳は通用しないのだ。

「で、でもほら! 日本人は慎ましやかなのが良いって前に本で読んだよ?」
「それ、和服の場合・・・。でも、男の人はやっぱり、胸が大きい方が良いって聞く」
「か、簪さん、気になる人、いるの?」
「・・・・・・キラさん」
「・・・っ!? だ、駄目!! お兄ちゃんは駄目だよ!? お兄ちゃんにはお姉ちゃんがいるから絶対に駄目!!」
「・・・冗談」

 強ち嘘でもないのだが、キラにラクスが居るのは理解しているし、キラとラクスがお似合いなのは重々承知だ。
 だから簪もラクスからキラを奪おうなんて考えていないし、寧ろ二人には幸せになって欲しいとも思っている。
 まぁ、少しはキラに女の子として見て欲しいなぁ、という願望が無いとは言わないが、精々その程度だ。

「でも、シャルロットさんもキラさんの事・・・好き、なの?」
「え!? い、いやぁあの・・・お、お兄ちゃんだし・・・それ以外に無い、とは言わないけど、でもぉ・・・」

 服をぬぎを脱ぎ終わったシャルロットは、問いには答えず、顔を真っ赤にしながらシャワー室に駆け込んだ。
 簪も服を脱ぎ終えたので、シャルロットの後を追ってシャワー室に入ると、シャルロットが入ったブースの隣のブースに入ってシャワーの栓を捻り、お湯を出す。

「あの、シャルロットさん」
「な、何かな?」
「もし、タッグマッチでキラさんとラクスさんのペアに当たったら、如何戦うの?」
「・・・・・・難しいね。正直、僕と簪さんが二人揃って挑んでも、お兄ちゃんには勝てない。じゃあラクスさんを狙うのかと言われれば、先ず間違いなく狙う前にお兄ちゃんに落とされるだろうし」

 ラクスに近づくのは実質的に不可能だろう。キラという鉄壁の壁を越えなければ近づく事は夢のまた夢、キラを相手に勝てる人間は、IS学園の生徒に存在しない。

「多分、学園はお兄ちゃんの足枷にする為にお姉ちゃんを組ませたんだろうけど・・・」
「正直、逆効果……。キラさんは、守る人が後ろに居るとき、その時が一番強いから」

 足枷どころかドーピングに等しいだろう。キラの後ろに守る者を与えるなど、ドーピング以外の何物でもない。

「そう言えば、織斑先生がこんな事を呟いてたなぁ」
「……?」
「この学園の上層部は、人の想いの強さというものを軽視している、って」
「軽視…?」
「うん。ほら、前に簪さんが会長と戦った時も、勝てなかったけど、でも後一歩の所まで追い詰めたでしょ?」

 そう、あの模擬戦では確かに簪は楯無に後一歩という所まで追い詰める事が出来た。だが、それ以降の模擬戦で、そこまで楯無を追い詰めた事は無い。

「あれって、あの模擬戦では簪さんの会長に対する想いの強さが生み出した結果だと思うんだ。昨日の箒と織斑先生の模擬戦も同じように」
「・・・あ、なるほど」
「人って、想いの強さでいくらでも強くなれる。お兄ちゃんが言ってた事なんだけどね? その想いが何であれ、強ければ強いほど、戦いの結末は左右されるんだって」

 それが憎しみであろうと、愛情であろうと、その想いの強さが、戦いに大きな影響を与えるという事を、キラは知っているし、シャルロット達も実際に体験したり、見たりしている。
 だが、学園やIS委員会の上層部は想いの強さを軽視して、寧ろ想いの強さなんかで人の戦局を左右するなどナンセンスだと言い切っているのだ。

「僕はお兄ちゃんと戦う事になったら、エクレール・リヴァイヴを造ってくれた事への感謝と、エクレール・リヴァイヴを使いこなした所を存分に見てもらいたい。その想いを強く持って戦おうと思うんだ」
「・・・それなら、私も同じ。打鉄・弐式の完成を手伝ってくれた事への感謝と、お姉ちゃんへのコンプレックスを拭い去った今の私の力を、見てもらいたい」
「うん、頑張ろう!」
「はい!」

 そして、学園に、世界中に見せ付けてやるんだ。人の想いの力を、その力が人を無限に強くしてくれるのだという事を。
 人は、想いの大きさでいくらでも強くなれる。キラから教わった事を、見せ付けて、認めてもらうんだ。
 キラに、自分たちが強くなった事を、キラ達がいる最強の座には程遠いかもしれないけど、それでも・・・誇れるくらい強くなったのだという事を、知ってもらいたいから。



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